行動障害型前頭側頭型認知症(bv-FTD)について

前頭側頭葉変性症(FTLD)は人格変化や行動障害、言語障害を主徴とし、大脳の前方部(前頭葉・前部側頭葉)に主病変を有する変性疾患の症候群です。3つの臨床病型が代表的で①前頭側頭型認知症(FTD)/行動障害型前頭側頭型認知症(bv-FTD) ②進行性非流暢性失語(PNFA) ③意味性認知症(SD)です。従来の病理診断的な呼称であるFTLDという呼称は臨床現場では用いられなくなりつつあります。欧米と違いアジアでは家族性は極めて少ないと言われていますが、何らかの遺伝的因子が関与している症候群も少なからず存在するようです。画像診断としては前頭葉と側頭葉前方部に限局した萎縮所見がみられ、国際コンセンサス基準によるとbv-FTDにはいかの臨床的特徴があるようです。
1) 早期からの脱抑制行動
2) 無関心・無気力・無感動(アパシー)
3) 同情または共感する能力の欠如
4) 保続的・常同的・儀式的な行動
5) 食行動の異常・口唇傾向
6) 実行機能の障害
bv-FTDは前頭葉機能低下そのもので起こる陰性症状(2)と前頭葉機能低下によりより後方(後方連合野・大脳辺縁系・大脳基底核)の機能がコントロールを失い暴走する陽性症状(1)があるようです。
陰性症状としてのアパシー・自発性の低下は初期の精神症状として9割でみられるが、陽性症状にかき消されて、気がつかれずにわかりにくい症例も多いようです。心的障害として他者の心的状態、思考・感情を推察したり、自分の思考・行動を振り返る意識が早期から障害されていまうことにより、家庭や社会における人間関係が破綻することが多いようです。また危険な運転行動や万引きなどの反社会的行為が目立つようです。
陽性症状としては抑制される部位により、以下のように分類されます。
1) 被影響性の亢進・環境依存症候 (模倣行為・反響言語など); 後方連合野への抑制障害
2) 脱抑制・我が道を行く行動(going my way) (立ち去り行動・考え無精など); 大脳辺縁系への抑制障害
3) 常同行動 (常用的周遊・食行動パターン化・時刻表的生活・反復行為) ; 大脳基底核への抑制障害
bv-FTDの食行動異常の9割以上が過食で、嗜好変化や偏食も目立つようです。極端に甘いものばかり大量に摂取するため糖尿病のリスクも高くなるようです。
環境依存傾向の強いbv-FTDのケアとしては環境設定が最も大事だと言われています。環境変化に適応できずに、脱抑制が悪化して粗暴化したり、逆にアパシーが悪化して動けなくなったりする事例はよく聞かれます。
bv-FTDの症例では特に40~60歳前後の比較的若年発症例では薬物療法が困難を極め、効果があっても短期間で、しかも様々な副作用が出やすく治療に難渋するケースが多く、その多くは抗認知症治療薬や抗精神薬の使用によって病状が悪化するようです。次節では症例から経験した薬物不応例・副作用例について報告したいと思います。
参考文献) 老年期認知症研究会誌 vol.17 2010 p97-100 ; 前頭側頭型認知症の臨床症候学 池田学教授(熊本大)


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# by shinyokohama-fc | 2015-05-02 14:16 | 医療

残薬山積みの高齢者宅

高齢者宅から薬が大量に見つかる事例が目立っているそうです。「残薬」と呼ばれ、多種類を処方された場合など適切に服用できず、症状の悪化でさらに薬が増える悪循環もあるそうです。年400億円を超えるとの推計もあり、薬剤師が薬を整理し、医師に処方薬を減らすように求める試みが広がっているようです。
4月15日放送のTBS・Nスタの特集で、残薬と多剤処方の問題が取り上げられていていました。この番組では白衣を着ない在宅訪問医師が高齢者宅などを訪問したりして、他の医師が処方した多剤処方の問題を指摘するという内容でしたが、私が思うに、こういう仕事は医師がするべきではなくて中立的な立場の訪問薬剤師がするべきではないかと思いました。薬剤師は副作用や相互作用の知識を確立した上で、医療者として医師の処方に対して適切かどうか正しい意見が言えるような立場になってほしいと思います。ある医師が他の医師の処方薬にクレームをつけるという行為は医師間の不毛な軋轢を新たに生んだり、患者と主治医との信頼性を破壊するというリスクもはらんでいるので慎重にするべきです。ただ実際は多剤併用処方というのは相互作用の危険、特に代謝能力の低下した高齢者には副作用の危険が高まるという報告がありますので、患者にはデメリットをもたらす可能性が高いと思われます(以前のブログを参照ください)。実際には複数の医療機関や診療科各医師からそれぞれ薬が5~6種類処方されて、合計20種類・1日30錠を超えてしまう事例も少なくないようです。それだけの薬を毎日正確に内服するのは高齢者でなくても至難の業だと思います。我々にできることは少しでも副作用のリスクを減らし、残薬(医療費のムダ)を減らすために、できるだけ少ない種類と数の処方薬にとどめるように努めることではないかと考えています。


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# by shinyokohama-fc | 2015-04-19 12:08 | 治療

市販薬で死亡15例・風邪薬8例・解熱鎮痛剤3例

市販薬(OTC)、特に風邪薬や解熱鎮痛剤というよく頻用される薬剤で死亡した例が過去に15例あったとの事です。
これは薬に関する事なので本来は厚労省が扱う事ではないかと思いますし、死亡・重篤例の原因薬剤名やメーカーも明かされないために、かえって一般市民に疑心暗鬼を植え付けるだけの悪影響しかないのではないかと思います。
そもそも市販薬だけでなく「医療機関で処方される総合感冒薬や消炎鎮痛薬ではどうなのか?」という事になる。
当院では風邪薬の処方に関しては以下のように説明しています。
「一般的に誰もがかかる感染症として急性上気道炎・急性胃腸炎などいわゆる「風邪」があります。その大半はウイルスが原因で特効薬がないため、その症状の不快さを抑えるだけの対症療法的な薬の使い方になります。そのため当院では主として自然治癒を促す目的で漢方薬を処方しています。抗生物質は細菌感染による扁桃腺の膿瘍や肺炎など明らかに細菌感染が原因と推定した場合にのみ使用しております。西洋薬の消炎鎮痛剤、抗生物質、抗ヒスタミン剤などに関しては時に副作用が出現する場合があるためご注意ください。お薬に関しては慎重に処方するように努めておりますが、もし副作用がでたり自己中止した場合はお手数ですが報告願います。」
総合感冒薬や消炎鎮痛剤で重篤な副作用が出るのは昔から有名な話で、何をいまさらという気もします。医療機関で昔から最もよく使われてきた総合感冒薬にも2種類の解熱鎮痛剤(NSAIDs)が含有されているのですが、最近でもTVCMで頻繁に宣伝されているNSAIDsは常用すると食欲低下したり消化管粘膜障害を起こします。同じく含有されている抗ヒスタミン剤に関しては脳・中枢神経を抑制する作用があるため、眠気、めまい、倦怠感、活動性低下などを引き起こします。特に高齢者が感冒を患っている状態でこのような副作用が起こればかなりマズイ事になるだろうというのは容易に想像できると思います。それゆえ高齢者、特に脳機能低下した疾患の方には安全に処方できる風邪薬は漢方薬しかないという事になります。若年者でも総合感冒薬を連用してから食事が食べれなくなったり、眠気やめまいで仕事ができなくなったという話は日常的によく聞きます。ただそれ以上に重篤な副作用が新聞記事にもある①~③です。①Steevens-Johnson症候群(全身の皮膚粘膜症候群)②肝機能障害 ③腎機能障害です。
私が風邪に漢方薬を処方するのはこれが主な理由です。漢方薬も長期に内服する場合は肝機能障害や間質性肺炎、横紋筋融解症などの副作用がありますので注意は必要ですが、短期間であればそのような副作用は起こりにくいです。薬と名のつくものに絶対に安全なものは存在しないので、年間に莫大な人に使用されている市販の風邪薬や消炎鎮痛剤による重篤副作用例がこの人数であれば、むしろ稀少だという評価が一般的でしょう。ただしいくら稀だからといっても、風邪薬を飲んだ人が①~③の副作用で死に至ったり、後遺症が残るほどの重篤な副作用の被害に遭ったとしたら本人とその家族はやりきれないのではないでしょうか?
医療機関で処方される薬でも市販で購入する薬でも同じで、医療機関の処方薬だから安全だという事はないです。薬で副作用が出てしまうのは体質・相性の問題であるので、ある意味防ぎようのない事ではありますが、「必ず薬には副作用がある」という認識を持ちながら、常に副作用に注意して慎重に服薬するという姿勢が大事だと思います。


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# by shinyokohama-fc | 2015-04-14 13:03 | 治療

日本人のための糖尿病食事療法

先日、日本内科学会総会・講演会に行ってきました。時間の都合で午前中の糖尿病の講演しか聞けませんでした。
4月の京都は観光客も含めて駅周辺から地下鉄なども多くの人でごったかえしていました。京都は毎年行く度に国内外の観光客が増えて人が多くなっている気がします。少年時代(30~40年前)に家族で何度も観光で訪れましたが、その頃とは人の多さが全然違う気がします。京都は元々大阪や名古屋に比べて地下鉄やトラムなどが充実しておらずアクセスが良くないので、今のままでいいのか?と今後が心配です。
教育講演で「日本人のための糖尿病食事療法」という講演がありました。わずか30分の講演でしたが、糖質制限療法についても言及されていました。
すべての栄養素がバランスよく配合された、昔ながらの和食が日本人には最も体に合っていると思われますし、最近は魚や豆腐、雑穀米や玄米による食事が見直されているように思います。人間の体はすべて個々に体質が大きく違いますので、すぐに太りやすいメタボリック体質の人と、いくら食べても太らない体質の人で、同じような食事・薬物療法はありえないわけです。極端な糖質制限が体質に合う人もいれば合わない人もいるでしょう。問題は個別対応の仕方だと思います。しかし欧米の食文化が流入して飽食的な環境にある現代社会では糖質を過剰摂取しがちな環境にあることは事実です。まずは糖尿病・メタボリック患者の糖質過剰制限をやめさせる事が大事だと思います。昨今は多剤併用の薬物治療で糖尿病患者のHbA1Cの数値だけを低下させても死亡率は変わらないというデータも示されていて、現状の糖尿病薬物治療の意義に疑問の声が投げかけられているようです。HbA1cの基準値も高齢化に伴う低血糖の脳・心臓へのリスクが問題視されていて、スルホニルウレア(SU)剤などによる低血糖が高齢者には特に危険だと言われています。やはり適切な食事療法・運動療法が第一であるべきだと思いますが、年齢や体重やライフスタイルによって状況が変わります。当たり前のことですが、同じ糖尿病患者でも40歳の体重90kgの男性と85歳の体重40kgの女性では食事・運動・薬物療法とも全く違う対応が求められます。


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# by shinyokohama-fc | 2015-04-13 12:33 | 治療

スタチンによる糖尿病リスク

~スタチンによる糖尿病リスク・従来報告を上回る46%の上昇 ~
フィンランドUniversity of Eastern Finland のHenna Cederberg氏らは、同国の地域住民コホート研究METSIMの結果から、スタチン療法を受けていた人が受けていなかった人に比べて2型糖尿病を発症するリスクが46%上昇することが分かったとDiabetologia(2015.3.4オンライン版)で報告した。またこのようなスタチン療法による2型糖尿病リスクの上昇には、インスリン感受性・分泌の低下が影響していることも示された。
スタチンと糖尿病リスクの関連は、これまでにも数多くの研究で検討されてきた。2001年に報告されたWOSCOPSサブ解析では、ブラバスタチンに伴う2型糖尿病リスクのわずかな上昇を示す報告が相次いでいた。以前の研究で報告されたスタチンによる糖尿病リスク上昇度は9%~22%まで幅があるが、①対象が心血管疾患(CVD)の高リスク者で、一般人口とは糖尿病リスクが異なる可能性がある ②糖尿病の有無を自己申告や空腹時血糖値に基つき判定しており、糖尿病発症率が過小評価されている可能性があるなどの限界があった。(中略)こうしたことを踏まえ、Cederberg氏らは今回の住民ベース研究でスタチンと糖尿病リスクの関連について検討。またインスリン抵抗性とインスリン分泌の評価を行い、スタチン療法が糖尿病リスクを上昇させる機序についても検討した。
対象は2005~10年にMETSIMに登録された同国クオピオの糖尿病のない男性8,749例、平均年齢は57±7歳(45~73歳)、BMIは平均26.8±3.8だった。2型糖尿病の診断は、①空腹時血糖値126mg/dl以上、経口糖負荷試験(OGTT)②時間値200mg/dl以上またはHbA1c6.5%以上 ②血糖降下剤の使用 ③医療記録における2型糖尿病診断または①のデータありのいずれかの基準をみたした場合とした。ベースライン時にスタチンを使用していたのは2,142例(24.5%)で、スタチン使用者の65.9%がシンバスタチン、18.1%がアトルバスタチン、8.6%がロスバスタチン、3.8%がフルバスタチンを使用していた。5.9年の追跡期間中に625例が2型糖尿病を発症。非スタチン使用者に比べてスタチン使用者で発症率が高く(5.8%vs.11.2%,P<0.001)、調整後の2型糖尿病リスクが46%上昇していた(ハザード非(HR)1.46, 95%CI 1.22~1.74)
スタチンの種類別の解析では、シンバスタチンとアトルバスタチンの使用は2型糖尿病リスク上昇と有意に相関していた(調整後のHRはそれぞれP=0.001,P=0.037) 一方スタチン使用者では非使用者に比べてインスリン感受性が24%、インスリン分泌が12%低下していた(それぞれP<0.001 P<0.01)。Cederberg氏らは「スタチン療法による2型糖尿病リスクは、交絡因子で調整後も46%上昇しており、これまでに報告されていたよりも高いことがスタチン使用に伴う2型糖尿病リスクの上昇に直接影響している可能性が高い。」と考察した上で、今回の結果について研究規模の大きさから「信頼性は高い」とする一方で、対象者が白人男性のみであるために、女性や他の人種にも一般化できるわけではないと述べている。
内科・神経内科で診療を20年以上行ってきた経験でいうと、病院勤務時にスタチンによる重症横紋筋融解症により、全身の筋肉が一気に壊れて急性腎不全に至った症例を数例ほど入院患者として診療した経験があります。特に中高年の男性に多いようです。ここ数年の外来診療ではスタチンを内服している中高年女性で下半身の筋肉痛によってしゃがみ立ちが困難になったり、肩~上腕の筋肉痛で上肢が上がらなくなったりで日常生活動作が著しく阻害された症例を10例前後みたことがあります。また末梢神経障害により両足末端のひどいしびれに悩まされた方も数例いました。それ以後はスタチンの使用には慎重にならざるをえなくなっています。筋肉や神経の副作用の症状が出ると、神経内科に回ってくるので、循環器科医や糖尿病内科医はおそらく私のようにスタチンの深刻な副作用の症例を診た経験がほとんどなくて副作用の実態を知らないDrが多いのではないか?と思われます。
今回の報告、スタチン使用によりインスリン分泌やインスリン感受性が低下したという大規模臨床調査結果は人種・性が限定されたとはいえ、きわめて重大で深刻な結果だと受け止めるべきだと考えます。日本を含めて全世界で女性も含めて同じような臨床調査をただちに行うべきでしょう。近年は生活習慣病、メタボリック症候群、糖尿病などのリスクファクターのない体質性の高コレステロール血症(特に女性に多い)に対しては、家族性を除いてコレステロール低下薬や食事療法などの治療に意味がないという意見が専門医からも聞かれるようになりました。本来スタチンというのは家族性しか適応がないと断言する医師もいます。
スタチンに限らず、効果の高い薬剤ほど副作用のリスクが高いという事実を患者側に伝えるべきでしょう。
薬剤に伴う不都合な真実に目を背けていては、患者側を向いて医療をしていないと批判されても仕方ないことです。


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# by shinyokohama-fc | 2015-04-09 19:03 | 治療
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