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認知症に対する抗精神薬使用問題

今週8月7日、NHKニュースの中で、認知症への抗精神薬の危険性について取り上げられていました。認知症学会や老年医学会などでは「基本的に使用しない方針」とのことです。しかし、実際は県下の認知症医療センターに指定された医療機関・精神科で軽度認知障害や軽度うつ状態と考えられるケースに対して複数の抗精神薬がが投与されて動けなくなったという事例をこの1年、当院で数多く拝見しました。入院中なのでご家族だけが相談に訪れた事例もいくつもありました。一方で抗認知症薬を開始してから明らかに易怒・興奮性が悪化したという相談事例も数多くありました。私はこういう事例の相談に応じる事を繰り返すたびに、「適正に使用できないのであれば薬物治療など一切やめるべきだ」と強く感じます。薬害被害に遭われたご家族は「安易な考えで医療機関を受診し、最初から薬物療法などやらなかった方がよかった。」と後悔の念だと思います。私も1年前までは一部の行動心理症状がひどい方々に抗精神薬を処方していた時期がありましたが、最近はほとんどなくなりました。いくつかの抗認知症薬により行動心理症状を軽減できることがわかってきたからです。以下に示す私がこれまで見聞した主な抗精神薬の副作用です。
副作用出現症例は、高用量、長期処方、薬剤過敏性(DLBなど)のいずれかのようですが、力価の高い薬剤は低用量でも以下の副作用を起こしますので要注意です。
1)フェノチアジン系(クロルプロマジン、レボメプロマジン、プロぺリシアジンなど)
発熱(悪性症候群)、肝機能障害、血球減少症 、遅発性ジストニア、遅発性ジスキネジア
※動作歩行障害(錐体外路障害)は比較的少ない
2)ブチロフェノン系(ハロペリドールなど)
発熱(悪性症候群)、血球減少症、イレウス(腸管麻痺)、遅発性ジスキネジア
3)ベンザミド系(スルピリド、チアプリドなど)
過鎮静、錐体外路症状(動作歩行障害・嚥下障害)
4)セロトニン・ドパミン遮断薬(リスペリドン・パリペリドン、ペロスピロンなど)
過鎮静、錐体外路症状(動作歩行障害・嚥下障害)
5)多元受容体作用薬(MARTA;オランザピン、クエチアピン)
過鎮静、体重増加、血糖上昇
※動作歩行障害(錐体外路症状)は比較的すくない
6)ドパミン受容体部分作動薬(アリピプラゾール)
1)~5)の副作用は比較的少ない
もし安全面を最優先に考慮して使うのであれば、3)ベンザミド系ではないかと思いますが、用量に注意が必要です。副作用を起こさず使用するためには、上記のごとく副作用の特徴をDrと薬剤師が熟知し、低用量、短期間で患者側にリスクを十分に説明したうえで処方するべきだと思います。特に高齢者は心臓が悪い人が多く、抗精神薬によって心室性不整脈を誘発して場合によっては心停止・突然死を起こしうると報告されています。一方で悪性症候群も非常に危険な副作用です。20年前に救急指定病院で勤務していた時期は、1)や2)の薬剤によって悪性症候群が誘発されて瀕死状態で救急病棟に入院した患者を数多く担当しました。「なぜ薬を処方したDrが治療に当たらないのか?と怒りがこみ上げてきた事もありました。」私は誰よりも悪性症候群の恐ろしさを体験しています。例えばクロルプロマジンなどが原因で発熱している、家族も薬が原因だろう疑っているのに、処方しているDrがその副作用のことを全く知らないらしく「不明熱の原因精査が必要だと言われた」という事例がありました。このケースでは家族の判断でクロルプロマジンを中止して事なきを得たようですが、処方しているDrが薬の副作用の知識がないというのは非常に恐ろしい事だと思います。
抗精神薬に限らず、抗認知症薬・パーキンソン治療薬など神経系に作用する薬剤はすべて重篤な副作用を起こしうるリスクの高い薬です。処方するDrとそれをチェックする薬剤師は副作用の事を知っているのでしょうか?患者側に正しい副作用情報を提供しているのでしょうか?現状をみるかぎりは私からみてとてもそうとは思えません。一方で明らかに周辺のケア対応や環境設定に問題があって、それが誘因になって行動心理症状が誘発されているにもかかわらず、それを修正しようとせず、薬に頼ろうとする施設のスタッフやご家族にも問題があります。外来で短時間しか診療しないDrにはその方が普段どんな環境にあって行動心理症状が起こっているか見えないからです。「自分の処方する薬で極力副作用を出さないようにしたい」私はそういう意識で日々薬を処方しています。それでも薬剤過敏性の高齢者は多数いて、わずか少量の神経系薬剤でも副作用は出てしまいます。医療側から薬の危険性についての十分な情報提供が求められます。明らかに家族が副作用に気がついて中止を求めているのに、残念ながらその声に耳を傾けないDrが少なくないようです。


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# by shinyokohama-fc | 2015-08-08 08:51 | 治療

認知症の誤診問題とCDTの重要性

昨日のNHKニュースで、医者による認知症の誤診の問題についてかなり取り上げられていました。認知症専門医から見て誤診が多いという内容だったようですが、実際は多忙な認知症専門医が誤診しているケースも少なくないようです。私は神経内科専門で動作歩行障害の症状が主体のパーキンソン病や神経難病を診察するのがメインの仕事でしたので、いわゆる認知症(アルツハイマー型(ATD)、レビー小体型(DLB)、前頭葉側頭葉型(FTD))の臨床経験は認知症専門医に比べてそれほど多くありません。しかし1年前にクリニックを開業してからは認知症の症例を診る機会が増えました。認知症ではないか?と言われて受診された患者のうち、上記3つのタイプで間違いないと思える方は実際はそれほど多くありません。約半数が正常または軽度認知障害(MCI)で残りのうち、ATD1割、DLB1割、FTD1割、その他CBS/PSPSが2割程度でしょうか?認知症ではないかと受診されても典型的なATDやDLBというのは意外と少ないものです。比較的多いのは高齢女性の抑うつ状態ではないかと思います。抑うつ状態でも当人が物忘れを主訴にして受診することが多いですが、一方で高齢になってからの抑うつ状態はDLBの前駆症状であることが多いようです。前者は抗うつ剤が奏功し、後者は抗うつ剤が全く効果がないようです。一般的に認知症の方はDLB以外は自分自身で困っているという意識が乏しく、特にFTDでは病識は全くゼロなので、医療を受ける事の意味が理解できないので激しく拒否する傾向が強いようです。
私からみて、動作歩行障害の症状が主体の神経変性疾患(PD,PSPS,CBS,MSAなど)の診断基準と比較して、一次的認知症疾患(ATD,DLB,FTD)の診断基準というのはかなり粗いのではないかという印象が強いです。以前のブログでその事は何度か取り上げています。具体的に申しますと、DLB以外の疾患でも幻視・幻聴やパーキンソニズムの症状は非常に多くみられます。最も多い原因としては薬剤性です。高齢者ではパーキンソン治療薬で幻視・幻聴が容易に誘発されやすいのは事実であり、精神症状を抑えるために頻用されがちな抗精神薬は高率にパーキンソニズムを誘発しひどい場合は悪性症候群をも起こします。高齢者に神経系薬剤を処方するということが新たな病気を作る可能性を生みます。特に神経系薬剤が多剤併用されて病状がひどく悪化してしまった症例の場合は深刻です。
私の見解では既存の認知症の診断基準で認知症非専門医が正確な診断をするのは困難だと言わざるをえないですし、認知症専門医だからといって、必ずしも正確な診断ができているとは限らないという印象です。MRIや核医学などの検査は多くの場合診断の決定打にはなりえず、あくまで支持所見にすぎません。今年の神経学会の認知症をテーマとした講演会やシンポジウムでは高齢者における混合病理・混合疾患の問題が大きいとの指摘があり、現在の認知症治療ガイドラインというのはこの混合疾患や最近後期高齢者に急増している「行動障害型老年認知症」の問題に全く対応できていないように思えます。生前に生検病理や検査値で正確な診断が可能な他の分野とは違って認知症を含む神経変性疾患においては正確な診断が不可能で、仮に正確な診断ができたとしても現在の医療レベルでは有効な治療手段に結びつかないという無力感があります。認知症において対症療法的薬物療法が初期の1~3年はうまくいく場合もありますが、4~5年経つと多くの場合は病気が進行してしまうのでその薬物療法も通用しなくなる事が多いようです。パーキンソン病において初期のハネムーン期と呼ばれる4~5年が過ぎると対症療法的薬物治療がさまざまな副作用や薬効減退などで困難になるのとほぼ同じではないかと思います。
現実的には認知症の診断は診察した医者の価値観に左右されてしまうのが現実です。それは精神疾患と全く同じですので、正確な診断に限界がある上に、過剰診断(over-diagnosis)による過剰投薬が問題になっているというのが現実のようです。やや過剰気味の認知症キャンペーン活動も過剰診断・過剰投薬の誘因と言えるかもしれません。ニュースで取り上げられた誤診(過剰診断?)による迷走的薬物治療が行われる原因としては、①家族・本人からの問診が不十分 ②簡易知能スケール(MMSE、HDS-R)の点数だけでカットオフしてしまう ③物忘れ外来を受診する患者はすべて認知症だという思い込みなどがあると思います。誤診として比較的多い抑うつやせん妄は高齢者では非常によく起こりうる事象であり、内科的には代謝異常、特に低血糖、低ナトリウム血症、高カルシウム血症などは比較的多いのではないかと思います。画像診断を実施する以前にまずはこれらの血液検査によるスクリーニングが必要です。
時計描画テスト(Clock Drawing Test;CDT)さえ実施すれば簡易的にスクリーニング検出できるということが最近わかってきました。CDTこそ実地医家が初診でスクリーニングするのに最適な方法だと考えます。
①ATD ;きわめて拙劣で、数字が正確に描けない、針が描けないなど何らかの描記異常がみられる。
②DLB /PDD; 思考遅延のためきわめて描くのが遅いのですが、最終的にはおおよそ正確に描ける。
③FTD ; 指示に従わずまったく別のものを描く、あるいは猛烈な速さで粗雑に描く。
④MCIなど非認知症;まったく問題なくほぼ完璧に描ける
簡易知能スケール(MMSE,HDS-R)は①の重症度を測るのには適していますが、現実的に外来に受診される患者の9割が①以外です。②の方はプライドの高いインテリの方も多く、③の方は長時間のテストに耐えられない。十分な協力性が得られない場合が多く、テスト点数の信憑性が乏しいというケースが少なくないようです。比較的多いのは行動心理症状が顕著であるのに、スケールの点数が良い(25~30点)ケースです。スケールだけで認知症診断をするDrがあまりにも多いようです。その一方でCDTは著しく軽視されていて、付添家族に確認したかぎりでは認知症専門医前医でCDTが実施されていたケースはほぼ皆無でした。20年前に著書でCDTの重要性を強調されていた認知症専門医ですら最近は多忙のためかまったく実施されていないようです。
正確な診断が困難な認知症を簡易的にスクリーニングするのに最適なのはCDTであると私は確信します。おそらく家族や介護スタッフでもできるきわめて簡単なテストですので、ぜひ医者以外の人々にも実施してほしいものです。
簡易知能スケールをすると不快感を示す事は多いですが、CDTではそのような事はほとんどないようです。


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# by shinyokohama-fc | 2015-08-06 12:27 | 医療

神経変性疾患の病名と雑感

神経変性疾患の現在の病名に関しては正直どうなのかと思う事があります。病理診断名だったり画像診断だったり部位診断だったりと統一性が全くありません。病理診断名を臨床診断名にしているのには抵抗感があります。それは胃がんや白血病などの病気と違って、生検などによる生前の病理診断が難しいからです。神経変性疾患は病理組織所見が病名になっているものもあります。主な神経変性疾患についてそれぞれ検証してみたいと思います。
アルツハイマー型認知症(ATD)
発見者の人名が使われています。一般的に「認知症」といえばこの病気を指すようです。記憶障害・見当識障害・注意障害があります。診断には時計描画テスト(CDT-R)が最も感度が高い検査だと思われます。MMSEやHDS-Rといった簡易知能スケールはATDの重症度を評価する指標になります。主に画像検査などで海馬容積の萎縮があれば診断はほぼ確定とされています。発症は60~70歳がほとんどです。軽度認知障害(MCI)との線引きがしばしば問題になりますが、日常生活動作が自立できないものを認知症としています。MCIからATDに移行するのは30%程度と言われます。行動心理や情動は初期からさほど顕著ではなく比較的保たれる症例が多いので、周囲を困らせないので中等度レベル(MMSE 10~15)まで受診しないケースも少なくないようです。病理診断としてはアミロイドが蓄積するので「大脳アミロイドーシス」の一種という事になるようですが、臨床的には「記憶障害型・認知症」です。
嗜銀性顆粒性認知症(AGD)
病理診断名がそのまま使われています。初発症状としては行動心理症状(不機嫌、易怒・易刺激性、焦燥など)や情動障害が先行しますが、日常生活動作は介助を必要とせず自立しています。ATDで実施するCDT-R、MMSE、HDS-Rなどの簡易検査は初期の2~3年はほぼ正常レべルですので、認知症と診断されない場合もあります。画像検査では前頭葉~側頭葉の左右差のある萎縮が特徴的と言われていますが、初期には目立たないようです。ほとんどが75歳以上の高齢者であり、初期から受診・相談が最も多いタイプです。常同行動や脱抑制が目立つため、以下のFTDと臨床像は類似していますので、「老年性・行動障害型認知症」とでも呼ぶべきでしょうか?
前頭側頭型変性症(FTLD)
病理診断名がそのまま使われていて、かつてはPick病(病理診断名・人名)と呼ばれていたようですが、現在は病理診断名はFTD-FUS/-tau/TDP/FUS/niと分類されています。一方で臨床診断名としては以下の3つの病名になっています。これらの病名は臨床症状を反映した病名であるのできわめて適切だと思います。65歳以下で発症することになっていますが、実際は変性疾患に関しては発症年齢の特定は困難と思われます。
①行動障害型・前頭側頭型認知症(bv-FTD) 脱抑制や常同行動に伴う異常行動が主体 ②意味性認知症(SD)語義失語や失認が主体 ③原発性非流暢性失語症(PNFA)重度の失語が主体
大脳皮質基底核変性症(CBD)
名前のとおり、大脳皮質の一部と大脳基底核に限定した部位から始まる疾患ですが、経過が長くなると大脳全般に障害が及ぶようです。基底核障害による片手の軽度鉛管様筋固縮と不使用(運動麻痺ではない)と頭頂葉障害による半側空間無視・視空間失認が特徴的で障害側のほとんどは左側のようです。脳幹障害は通常はほとんど目立ちませんが、中には姿勢反射障害・すくみ足が高度なPSP的な臨床像をきたす症例もあり、病理診断はCBDが50%、PSPが30%、その他ATD・FTD・Prionなどと言われています。臨床と病理の合致が不可能な疾患群なので、やはりCBS(大脳皮質基底核症候群)と呼ぶのが適切だと思います。
進行性核上性麻痺(PSP)
「核上性麻痺」という脳幹のきわめて限定した部位だけの疾患のように誤解されそうな名前ですが、実際はタウ蛋白が前頭葉~側頭葉、脳幹全体に広汎かつ高度に蓄積して、多彩な症状をきたしうる疾患群です。PDやDLBに比べて脳幹障害が重度のため、高度の姿勢反射障害による頻回の転倒が早期からみられることが多く(全例ではないが)、また嚥下障害が高度になるため、誤嚥性肺炎を最も起こしやすい疾患と言えます。病理診断はPSPが50%でCBDが20%、その他はFTDや稀ながらCVDという症例も存在するようです。病理的にPSPの症例でも臨床的CBS・広汎型・限局型の3つに分かれるといいます。また、若年発症に多いRSタイプと老年発症に多いPAタイプでは病状の進行スピードや重症度に大きな差があるようです。臨床と病理の合致がほぼ不可能であり、臨床診断名としてはCBSと同じくPSPSと呼ぶのが相応しいと思います。
多系統萎縮症(MSA)
錐体路・錐体外路・脊髄小脳路・自律神経という4つの神経ルートが障害されるという特徴がある疾患群です。下肢に強い痙縮、パーキンソニズム(動作緩慢・筋固縮・姿勢反射障害)、小脳性運動失調(構音障害、失調性歩行)、高度の起立性低血圧(多くは失神で倒れる)と高度の排尿障害(多くは尿閉に至る)が特徴的です。パーキンソニズムが強いMSA-Pは線条体黒質変性症(SND)と呼ばれ、小脳性運動失調が強いMSA-Cはオリーブ橋小脳萎縮症(OPCA)と呼ばれていました。いずれも部位的診断名です。
パーキンソン病(PD)
発見者の人名が使われています。「錐体外路症状=パーキンソニズム」と呼ばれているくらい定着していますが、パーキンソニズム=パーキンソン病ではない点が臨床現場で混乱を生んでいるようです。実際は特に高齢者ではパーキンソン病ではないパーキンソニズムのほうが多いという印象があります。片側性(左右差)のある上肢安静時振戦と筋固縮が特徴的な典型例は診断が容易ですが、さまざまな非典型例があるため「ドパミン欠乏性・錐体外路症候群」と呼んだほうがいいのではと思います。
レビー小体型認知症(DLB)/レビー小体病
レビー小体という病理所見の人名が使われています。レビー小体の蓄積する部位(大脳・脳幹・脊髄・自律神経)や進展の仕方によってさまざまなサブタイプがあるようです。「認知症」という呼び名が不適切ではないかという意見があるようです。主要症状は幻覚(幻視)・認知の変動・パーキンソニズムとされていますが、過剰診断により別の疾患や病態までもDLBと診断して、薬物療法が迷走して病状が悪化してしまうケースがあまりに多いようです。パーキンソニズムを欠き、幻覚+認知の変動のみ場合はDLBよりも側頭葉てんかん(TEA)を考えるべきかと思います。典型例は左右差の乏しい軽度~中等度のパーキンソニズム(動作緩慢・思考遅延・軽度の筋固縮)と自律神経症状(起立性低血圧・排尿障害・排便障害・体温調節/発汗障害)に幻視・抑うつ症状を伴うものだと思います。パーキンソニズムが長年進行した上で、幻視などの行動心理症状が後発するのは臨床的にPDDと呼ばれていましたが、ここに至るまでにパーキンソン治療薬を長期・複数内服しているケースが多く、行動心理症状は長年の薬物治療の副産物とも言えます。パーキンソニズム・自律神経障害を欠く非典型的例の場合は、可能であればTEAを除外するためにEEG検査を、DLBを支持するためにDTS検査が実施されたほうがよいと考えます。その理由はTEAにChEIや抗精神薬を処方しても効果がないばかりかむしろ症状を悪化させるからです。MCIやATDがあってTEAを起こす症例も多いようです。「ドパミン欠乏性・大脳・脳幹・自律神経症候群」とでも呼ぶのが適当でしょうか。
個人的に気になるのが、幻覚と認知の変動があればDLBだというのは操作的・短絡的な診断手法だと感じます。精神科における新型うつ病とか双極性障害2型の診断手法に近いものがあります。精神科と神経内科の問題というのは他の診療科と違って、診察医の個人的な価値観によってブレが大きすぎる所にあります。現状の各変性疾患の診断基準というのはその問題を解決できていないように思います。それを解決すべく核医学検査の研究が進められていますが、学会のシンポジウムではやはり混合病理の問題に対応できないという結論でした。75歳以上の変性疾患では混合病理が大半だという事を考えると、やはりFTLDとFTDのように臨床診断名と病理診断名を区別するしかないのではないかと感じます。


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# by shinyokohama-fc | 2015-07-10 12:33 | 医療

「物忘れ」ではなく「覚える気がない」人たち

認知症の診療を希望して来られる方の多くは80~90歳女性が多いようです。同居あるいは介護している家族は「すぐに物事を忘れる」と訴えますが、簡易知能スケールを実施すると27~29点もあります。5つの物品再生などはほぼ正答であり、時計描画テストも正確に描けるようです。ただし描くスピードが異常に早く雑に描く傾向にあります。
これらの方々の多くは日常生活動作はほぼ自立しており、介護者の手を煩わせる事はないようです。これらの症例に共通しているのは本来記憶力が保持されているにもかかわらず、普段の生活では記憶することを放棄していると推定されます。つまり「考え無精」ならぬ「覚え無精」ではないかと思います。
一般的に典型的な認知症の方は時計描画テストで苦労します。アルツハイマー型(ATD)の方は数字がまともに入れられない事が多く、レビー小体型(DLB)の方は思考遅延傾向のため、数字や針を描くのに異常に時間がかかります。つまり時計描画テストをすれば、きわめて特徴的でほとんど典型的な認知症に関しては抽出できると思われます。簡易知能スケール(MMSEなど)の点数というのはATDの方々の重症度をある程度評価できると思いますが、DLBや前頭側頭型認知症(FTD)タイプの認知症については、診察時は初期~中期までは高得点である事が多い半面、家庭における行動心理症状が顕著な症例が多いようです。例えば「用もないのに肉親に何度も電話をする」とか「自室が片つけられず捨てられない物が溢れている」とか様々です。ATDの尺度でいうと27~29点で認知症という判定にはならず
比較的顕著な行動心理症状出現するというのは説明できません。80歳以上の高齢者に多いと言われている「嗜銀顆粒性認知症(AGD・グレイン)」が最近の学会でもよくクローズアップされるようになりました。これはアミロイドが蓄積せずにタウ蛋白が脳細胞内に蓄積する病気の一つです。一般的には75歳以上で発症するが、記憶・見当識などいわゆる中核症状と呼ばれる症状に関しては緩徐進行性のため、日常生活動作の自立期間も長期間になります。その一方で情動障害に伴う行動心理症状が出現しやすく、焦燥、不機嫌、易怒、易刺激性などで現れてしばしば家族を困らせるようです。AGDの場合多くは中核症状が顕著になってくるのは進行して数年後になると言われます。一般的に60~70歳で発症するATDが中核症状の進行が非常に速く、日常生活動作において1対1介護を必要とするのとは対称的です。AGDは左右差のある前頭葉~側頭葉外側の萎縮が画像診断的には特徴ですが、初期にはそういう所見はみられません。またATDと違って海馬の萎縮もみられない事が多いようです。またDLBと混合症状をきたす場合も少なくないようです。80~90歳の女性人口が非常に多い事を考えるとAGDに対する薬物治療の確立が求められています。
私の印象では少量のガランタミンが比較的相性がいいようです。それはこの薬剤の特性によるものだと思われます。
しかし高齢者の場合は心不全・心臓弁膜症・不整脈などが潜在している事もあり、高用量には耐えられない症例が多いと考えられます。詳しくは以前のブログ(ガランタミンvsリスぺリドン)を参照してください。


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# by shinyokohama-fc | 2015-07-07 18:55 | 医療

側頭葉てんかん(TEA)の症例の雑感

80代前半の方で、2年前から幻視・幻聴があり、認知の変動がある、情緒不安定で、突然人格が変わる、思い通りにならないと易怒性、言葉や物の名前が出てこないという症状の方がおられました。前医で1年前と2か月前にMRI検査を施行されてますが、側脳室周辺に軽度の虚血性変化があるのみで、大脳・脳幹・小脳ともに病的萎縮はみられませんでした。脳波では側頭葉棘波がみられ再現性があるようです。診察してみても、動作歩行の緩慢さや思考遅延、振戦はまったくみられず、歯車現象・筋固縮はなくむしろ筋トーヌス低下していました。血圧の起立性変動も測定しましたが、起立性低血圧は全くみられませんでした。神経内科医としてはパーキンソニズムもなく、起立性低血圧もない症例をレビー小体型認知症(DLB)とは考えられません。前医(精神科)の診断も「側頭葉てんかん(TEA)」でした。問診だけの操作的診断でDLBとTEAを鑑別するのは不可能だと思いました。特にパーキンソニズムや起立性低血圧がみられない症例に関してはMIBG心筋シンチ・ドパミントランスポーターイメージング(ダットスキャン)などの検査によりDLBを除外診断したい所ですが、これらの検査は高額で拘束時間が長く、患者側の忍容性問題がありますので代謝能力の低下した80歳以上の高齢者に実施するのはやや酷な気がします。それより簡便に実施できる脳波検査でてんかん波がみられれば、TEAと診断するのは当然だと思います。前医ではカルバマゼピン(CAZ)を100~200mgで1年経過をみられていましたが、有効用量に届かなかったのか、残念ながら明確な効果は得られなかったようです。CAZは長期投与により小脳変性をおこすという事は成書に記載されています。この症例も軽度~中等度の小脳性運動失調症が確認されたため、CAZを中止せざるをえないと判断しました。画像診断で明らかな小脳萎縮は確認できないため、薬剤性(CAZ)が疑われます。高齢者の場合は微量のCAZでも忍容性に問題を起こします。やはり高齢者のTEAに対しては新規抗てんかん薬のラモトリギン(LTG)かレべチラセタム(LVE)を使用するしかないのではと考えますが、LVEに関しては「易刺激性・攻撃性・精神症状の変化に注意」とありますので、やはり現実的にはTEAには使いつらく、結局LTGを選択するしかないと思われます。LTGは双極性障害にも適応のある薬剤ですので、本例のような情緒不安定な症例には奏功するのではないかと期待したい所です。この薬は神経系の副作用がほとんどみられないので、皮膚粘膜眼症候群・重症薬疹の副作用さえなければと思います。

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# by shinyokohama-fc | 2015-06-30 19:17 | 医療
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