PSP症候群/Psudo-DLB

新年おめでとうございます。今年もベッドサイドの臨床神経学をより深める1年にしたいと思います。
昨年のトピックスとしては、DLB(レビー小体病)の中核症状を有しているのだが、DLBの治療薬として有効とされている薬剤が全く通用しない症例がいくつかみられたという事実です。
DLBの治療薬として一般的に有効とされているのは、①コリンエステラーゼ阻害薬(CHE-I;ドネぺジル、リバスチグミンなど)②抑肝散 ③レボドパ/カルビドパ配合剤 ですが、そのどれもがまったく通用しなかったのです。
本来DLBという疾患は薬剤過敏性ですが、言い方を換えると薬剤有効性が高いはずです。それゆえ典型的なDLBであればCHE-IもL/C配合剤も少量で反応し効果を示さないとおかしいわけです。しかしDLBの診断基準として中核症状と支持的特徴に合致していても、いざ投薬してみると①②③が全然通用しないという症例が少なからず存在する事がわかってきました。これらの症例を改めて神経学的診察と画像診断をし直してみると、実はPSP(進行性核上性麻痺)の診断基準に合致している事がわかりました。これらをPSP-psudoDLBとでも呼称することにします。
当初はPSPとPDまたはDLBの混合型かと思いましたが、③が無効・奇異反応(嗜眠やせん妄誘発など)である点からPDやDLBは治療的診断としては否定的だと言わざるをえないというのが私の見解です。
PSPは古典的には50~60歳で発症するRichardson-Syndrome(PSP-RS)と認識されてきましたが、近年の外来診療ではPSP症候群とも言えるさまざまなタイプのPSP病型症例を多数確認しました。先のブログで記載したようにPSP症候群を示す疾患は多くのバリエーションがあります。主として脳幹優位型(PSP-P, PSP-PAGF)と大脳皮質優位型(PSP-CBS,PSP-PNFA,PSP-FTD)に分類されると言われてますが、脳幹と大脳皮質が同時に障害されるタイプもありえると推定されます。要はどの部位が優先的に障害されるかで臨床症候に差が出るだけだと思われます。脳幹と大脳皮質が同時に障害される疾患として代表的なものがDLBです。つまりPSPがDLBと症状が似てしまう(psudo-DLB)というのは障害される部位が類似しているため、十分起こりうる可能性があると考えられます。PSP症候群でもPSP以外にCBD(大脳皮質基底核症候群)や脳血管障害(CVD)が存在します。PSPでもタウ病変が脳幹・前頭葉に広汎分布するPSP-RSやPSP-C、黒質・淡蒼球に限局するPSP-PAGF、大脳皮質に分布するCBSがあると言われています。つまり臨床診断と病理診断を合致させるのはほとんど不可能だというのが現実です。PSP症候群というのはさまざまな疾患の集団ですのでCBSと同じくPSPSと呼ぶのが適切ではないかと考えられます。最も特徴的な症候(中核症状)としては主に3つ挙げられます。①早期からの強い姿勢反射障害(同じ場所に立ち続けるのが困難で椅子にドスンと尻餅をつくように座る)②易転倒性(多くは頭部顔面を打撲する)③すくみ現象(歩き出すまでが苦労するが、歩き出すと比較的安定する傾向) 支持的特徴としては①垂直方向(上下)の眼球運動麻痺②物事を考えるのに時間がかかる(思考遅延)③嚥下障害④非流暢性失語、画像的特徴としては中脳萎縮・前頭葉側頭葉萎縮がありますが、これらは病型により程度がさまざまであり必ずしも症状を反映させるものではないようです。特に最近多くみられる高齢発症のPSP症候群では病気の進行が比較的遅いため、画像よりも早期に出現する臨床症候が優先されるべきだと考えます。
一方のDLBの診断基準を再確認しますと、A)中核症状としては①注意・覚醒レベルの顕著な変動を伴う動揺性の認知障害 ②具体的内容の再現性のある幻視 ③特発性パーキンソニズム(振戦、動作・歩行障害、姿勢反射障害) 、B)示唆性特徴としては①レム睡眠行動障害 ②抗精神薬による過敏性 C)支持的特徴としては①転倒・失神 ②一過性意識障害 ③重度の自律神経症状 ④系統化された妄想 ⑤うつ症状です。
以下に当院で経験したpsudoDLB/PSPSの症例を2例示します。
1)84歳男性
3年前から動作・歩行が困難、特にすくみ足が高度であるのが特徴。さまざまな神経系薬剤が試された。
まずレボドパ/カルビドパで嗜眠・低活動性せん妄が増悪、ドパミンアゴニストはさらに悪化、CHE-Iもせん妄を悪化させ、抑肝散は5gでも嗜眠・過鎮静となる。CDP-コリン注射も一時は効果あったが減弱。という臨床経過で
昨年7月に初診。問診では認知の日内変動、一過性意識障害、易転倒、嗜眠、幻視、薬剤過敏性、姿勢反射障害があり、前医ではDLBと診断されていました。しかし神経学的診察では、安静時振戦はみられず、姿勢反射障害とすくみ現象は非常に強く、四肢の歯車筋固縮は正常~ごく軽度、一方で頸部の筋固縮は強い、垂直性眼球運動麻痺が上下ともあり、思考遅延、嚥下障害、非流暢性の失語(失構音、喚語困難含む)がみられました。臨床的PSPと確信し、画像検査専門クリニックへMRIを依頼したところ、やはり中脳被蓋と前頭葉~側頭葉萎縮が確認され、難病申請をするように伝えました。やはり問診だけではなく、神経学的診察が重要だと改めて思い知らされた症例でした。ちなみにDLB支持的特徴③の重度の自律神経障害は起立性低血圧含めてまったくみられませんでした。PSP症候群には現在まで有効な薬剤治療は確認されていません。私のPSPS経験症例においてはL/C配合剤とCHE-Iは有効性が感じられないので、ほとんどは中止していています。薬剤を中止して症状が悪化する事は全くないようです(ここがPDやDLBとの大きな違い)。代替治療が顕著な効果が確認されたので、現在はそれを続けています。
2)77歳男性
5年前から動作・歩行が困難、すくみ足があるが、やはり変動が大きいとの事。2年前から幻視症状(具体的な小動物、人など)が出現し始め、次第に頻度が増加。それ以外には系統化された妄想、レム睡眠行動障害の既往(現在はなし)、認知の変動、易転倒性、嗜眠があり、やはり前医でDLBと診断されてCHE-IとL/C配合剤が処方されていましたが、ほとんど効果がなかったようです。神経学的診察では四肢の筋固縮は軽度で頸部・体幹の姿勢異常、動作緩慢、姿勢反射異常(前後方突進現象)があり、時計描画テスト(CDT)で時間がかかり(思考遅延)、右半側空間失認がみられました。当初はやや非典型的な点もあるがDLBだろうと診断しました。一番の問題症状は幻視で警察を呼ぶ状況だったので、抑肝散を処方してある程度頻度は減少しました。CHE-Iはドネぺジル3mgからリバスチグミン4.5mgに変更しました。しかし1か月後に9mgへ増量するとまず異常行動が出現し動作歩行レベルも極端に悪化しました。すぐに4.5mgへ減量したものの改善しませんでした。脳梗塞を除外するため、病院へMRI画像診断を依頼したところ、拡散強調画像で異常はみられませんでしたが、中脳被蓋の高度萎縮と前頭葉~側頭葉の内側・外側の高度萎縮(左右差あり)を確認しました。側脳室周辺変化はほとんどなくNPH(正常圧水頭症)は否定されました。画像所見を見た上で改めて神経学的診察をしてみるとやはり上方向の眼球運動麻痺が確認されました。DLBに有効とされるL/C配合剤は動作歩行に効果はなく、CHE-Iも規定通りの増量で奇異反応を示したようで、治療的診断としてもDLBは否定的と判断しました。約半年間で15~20例程度のPSP症候群を診察していますが、今回紹介したpsudoDLBタイプ以外についてもPSPSに共通する治療的診断特徴としては、L/C配合剤とCHE-Iがほぼ無効であるという事だと思います。この点はCBSとほとんど同じで、特にCHE-Iについては増量すると例外なく病状が悪化するので要注意です。この方も薬剤治療が困難と判断したので、代替治療を検討中です。
CHE-Iについてはアルツハイマー型など一部の認知症にしか適応が認められておらず、特にPSPSやCBSにおいては増量すると病状を悪化させるケースが圧倒的に多いので、原則的に使用は控えたほうがいいと考えます。この症候群においては効果が明確ではない不必要な神経系薬剤は投与を続ける意味はなく、むしろ神経系のバランスを崩すだけだというのが現実です。教科書にはどこにも書いていませんが、数々の症例がそう教えてくれました。


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# by shinyokohama-fc | 2015-01-06 18:49 | 治療

本当に怖いのは低血糖による心臓死

最近は高齢者の糖尿病が増加しました。ここ20~30年の医療の進歩に伴い、感染症や血管障害、喘息などによる死亡者が激減して長寿になりました。戦後の食生活の急速な欧米化に伴い、糖質や脂質の摂取が多くなり、日本人の体質に合わない食事が糖尿病患者の増加を招いているとよく言われます。
糖尿病患者の多くは糖質依存・糖質中毒とも呼ばれる状態になっていて、食事療法や運動療法が守れないケースが少なくありません。また年齢に反比例して代謝能力が低下する傾向にあり、長年にわたって経口血糖降下剤を何種類も内服しているケースが多いようです。これらの薬剤の副作用としては低血糖が問題になります。特に昔からあるスルホニルウレア(SU)剤は遷延性低血糖を引き起こすためしばしば問題になります。私も20年前、病院勤務時代に遷延性低血糖で意識障害で搬送されてきた患者を数名救急~入院対応した経験がありますが、いくら糖液を静脈注射しても全く血糖が上がってこないし、一時的に上がってもすぐに下がってしまうという、きわめて恐ろしい体験でした。
遷延性低血糖患者のうち数名は意識が戻らず、準植物状態で数か月入院しましたが、最期は感染症で死亡しました。
原因薬剤として最も多かったのが、SU剤第2世代グリベンクラミドという薬でした。さすがに近年はこの薬が使われている薬手帳はほとんど見なくなりました。専門医の間でもSU剤は高用量は危険だという認識のようです。
低血糖を起こすとブドウ糖をエネルギーとしている脳の働きに支障をきたし、意識を失って倒れて事故につながるリスクが高まります。無自覚性の低血糖を繰り返すことによって認知症リスクが3割増加するというデータもあるようです。さらに低血糖になると心臓に栄養を送っている動脈(冠動脈)が収縮して心筋梗塞や致死性の不整脈を引き起こす事も近年報告されています。糖尿病患者の死因としては「QT延長症候群」という心室性不整脈による心室細動による突然死が多いようです。米国で行われた臨床試験(アコード試験)によると、HbA1cを6.0%以下と厳格にコントロールしすぎた集団は7.0~7.9%でコントロールした集団よりもわずか3年余の間に22%も死亡率が増加したとの事です。特に65歳以上の高齢者で経口血糖降下剤を複数内服している方々に関しては食事時間のズレや、食事量の変化、運動量の変化に伴って無自覚の低血糖を繰り返している可能性が高いようです。それに伴って上記の冠動脈攣縮や心室性不整脈のリスクも高まると言えるでしょう。それゆえ高齢者では死につながる低血糖を極力起こさない事を最優先すべきだと言えるでしょう。
以前のブログで書いたように認知症の治療薬として定着しているコリンエステラーゼ阻害薬(CHE-I)や認知症の周辺症状(行動心理症状)を抑制する目的で使用する抗精神薬なども同じように冠動脈攣縮や心室性不整脈による心臓突然死のリスクを高めると言われていますので、やむをえずこのような薬剤を処方するケースでは、HbA1cを8.0%前後でコントロールすべきではないかと考えます。
この事実だけでも薬が多剤併用されると非常に危険だという事がよくわかってもらえると思います。


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# by shinyokohama-fc | 2014-12-18 18:22 | 医療

レビー小体病の抑うつ治療薬における問題

レビー小体型認知症、レビー小体病については最近新聞やTVなどマスコミでよく報道されるようになりました。しかし生前は確実な診断法がないというのは他の変性疾患と同じであり、MIBG心筋シンチグラムというアイソトープを使用した高価で人体に侵襲的な検査ですら、糖尿病や心疾患など他のファクターによる偽陽性が含まれたり、病理診断例のうちの2割が偽陰性であったという報告されているようです。また高齢者の場合はアルツハイマーや嗜銀性顆粒球症など他の疾患との混合も少なくないようなので、実際の臨床診断としては「大脳皮質基底核変性症候群(CBS)」と同じように「レビー小体症候群(LBS)」としたほうがいいのかもしれません。
LBSに関してはレム睡眠行動障害(RBS)や抑うつ状態が何年も前から先行することが多いと言われています。55歳を超えてからの抑うつ状態であれば、LBSを疑えという意見も老年精神医学ではよく言われていることです。ただしLBSの抑うつが通常の抑うつとは違うのは、SSRIなどの各種抗うつ剤や抗精神薬が効果がみられない事がほとんどだという事実です。同じαシヌクレインの疾患であるパーキンソン病(PD)の抑うつ状態の治療薬にも同じ事が言われます。PDの抑うつ状態の治療薬としては一般的にドーパミンアゴニストが推奨されていますが、この薬剤は用量依存性に幻覚や嗜眠を誘発しやすいのが最大の欠点です。それゆえもともと幻覚・嗜眠が出現しやすいLBSには使用しにくい薬剤です。現在頻用されている非麦角系のドーパミンアゴニストはプラミペキソール、ロピニロール、ロチゴチンの3剤ですが、前2者はD2受容体親和性が強い影響で幻覚・嗜眠が悪化しやすい傾向にあります。それゆえロチゴチンを使う事になるのですが、薬剤等価換算表によるとかなり少ない用量で使用しないとやはり用量オーバーで幻覚・嗜眠が悪化するようです。私の経験では4.5mgでも悪化した事例が2~3ありました。他にはレボドパ配合剤の用量を少なくするというのも幻覚・嗜眠を悪化させないための有効な方法です。一般的にはパーキンソン病の通常量である300mgの半分の150mgくらいがいいのではないかと考えます。50mg錠剤を使用して細かく用量調節ができるような工夫が必要でしょう。私も20~25例程度のLBSの患者に投薬して経過をみていますが、実際は薬剤調整がなかなか難しいケースが多いというのが実情です。


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# by shinyokohama-fc | 2014-12-04 19:09 | 治療

古いクスリだから安全とは限らない

「古い薬は臨床現場で長年残っているのだからきっと安全だろう」私はそう信じていました。
しかし私も含めて内科医・神経内科医によく使われているあの薬が、まさか...という事実が続出しています。
すでに今年の2~3月にある雑誌で発表されたドンペリドンに関する心臓不整脈と突然死のリスクです。
QT延長症候群と心臓不整脈を1.6~3.7倍も起こりやすいと報告されています。欧州ではドンペリドンによる心臓突然死がいくつも報告があり、20mg錠剤・10mg/60mg坐剤は今後使用禁止・販売禁止を検討すべきと欧州医薬品庁PRACは勧告しています。なお代替薬剤としてはメトクロプラミド、プロトンポンプ阻害剤が推奨されています。
内科であれば悪心・嘔吐などにきわめてよく処方する薬で、一般的に向精神薬だという認識が乏しいようです。
神経内科の分野でもわが国ではでは片頭痛随伴症状の抑制目的やパーキンソン治療薬の副作用制御目的で学会ガイドラインで奨励されている薬剤です。名前がリスぺリドン(統合失調症のみに限定的に使用される非定型第2世代向精神薬)に類似している同類の薬剤であり、心臓不整脈・突然死に関してはリスぺリドンと同様のリスクがあるという事です。
その他にも主としててんかんの予防薬として長年使用されてきた薬にも重篤なリスクがある事が判明しています。
てんかん予防薬として長年使われてきた、フェニトイン、フェノバルビタール、カルバマゼピンです。
これらの薬剤が肝臓での酵素誘導作用が非常に強力であるため、他の各種薬剤の代謝を促進するというのは古くから知られてきたことですが、同様に生体内の酵素の代謝も強力に促進するために、骨粗しょう症、動脈硬化性疾患(冠動脈疾患、脳血管疾患など)の発症が8倍以上にもなると報告されています。てんかん予防薬というのは何年にもわたって長期内服するために与える有害性が大きいのでしょう。わかりやすく言えば、てんかん予防薬を飲み続けることによって血管や骨などの老化が人一倍進行するということです。
カルバマゼピンに関しては重症薬疹や重篤な血小板減少症などを経験した事があり、非常にリスクの高い薬だという認識でしたが、長期内服により小脳変性症も起こすと言われています。実際に50~100mgの少量でも平衡失調の副作用が出ます。てんかん以外にも三叉神経痛などにも広く使用されてきましたが、どうしてもこの薬でないと効かないという方以外にはもはや第一選択で使うべき薬とは言えないでしょう。やはり新規てんかん予防薬である、ラモトリギンとレベチラセタムの使用が推奨されていますが、わが国では前者がようやく先月に単独使用可能になったばかりで、この2種類の薬剤は長年にわたって単独使用が認められていませんでした。
パーキンソン治療薬のドーパミンアゴニストの古いタイプ、麦角系も10年前までは臨床現場でよく使用していましたが、心臓弁膜症、肺線維症のハイリスクが報告されてからは、非麦角系に代用されるようになりました。
またこの麦角系ドーパミンアゴニストは新たに悪性腫瘍発症リスクも報じられていて、おそらく今後は衰退していく流れにあると思われます。
わが国の薬の情報は非常に遅れているなという印象です。
現在まで頻用されているCHE-I(コリンエステラーゼ阻害剤)に関しても、心臓不整脈やてんかん発作など数々の重篤な副作用が報告されているため、かなり厳重に注意して使うべき薬だと思います(以前のブログを参照ください)。


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# by shinyokohama-fc | 2014-11-27 19:02 | 治療

大脳皮質基底核変性症候群(CBS)について

大脳皮質基底核変性症(CBD)はパーキンソン類似症候群として1968年に最初に報告されています。病理学的には4リピートタウの蓄積を示す、タウオパチーの1種とされています。タウオパチーにはアルツハイマー病(AD)、レビー小体病(DLB)、進行性核上性麻痺(PSP)、CBDがありますが、前2者がアミロイドβやシヌクレインが蓄積してからタウが蓄積するのに比べて、後2者はタウのみが蓄積するようです。ただCBDというのは病理的診断であって、その臨床診断としては典型的なCBSの他に進行性非流暢性失語(PNFA)、前頭葉側頭葉型変性症(FTD)、AD,Richardson Syndrome(PSP-RS)などさまざまな形態をとるようです。
臨床的診断名として大脳皮質基底核変性症候群(CBS)とされています。臨床的CBSの死後病理解剖による病理診断としてはCBDの他にPSP,FTD,AD,Prion病なども含まれていて、臨床診断と病理診断を合致させる事は困難です。
特にPSPとは類似したピックコンプレックスとしてカテゴライズされていてしばしばオーバーラップしています。
CBSの中核症状としては左右非対称の鉛管様筋強剛・無動、ミオクローヌス(細かい震え)、他人の手徴候の他に把握反応、皮質性感覚障害、ジストニア肢位(特に上肢が顕著)で早期から歩行障害、体幹姿勢異常(左右の傾き)、構音・嚥下障害、認知症、注意障害、失語症、異常行動、尿失禁などが早期から目立つ事もあります。
臨床神経学的には左右差・非対称性が最大の特徴であり、脳画像検査(MRI/CT/SPECT)でも一側優位性障害が確認される事もあります。上記症状に対してはレボドパなどパーキンソン病薬剤の反応は不良・無効です。
当院で診療したCBSと思われる症例を以下に紹介します。
1) 78歳男性 CBS-FTD
注意障害で初発。前医にてアルツハイマーとの診断でドネぺジル処方されて危険行動・常同行動・易怒が悪化、タムスロシン処方で嗜眠、幻覚、歩行困難などが悪化した。両手の把握反応が顕著で、歩行は開脚性で頸垂れ状態であったが、両薬剤を中止後は劇的に改善したが、体幹傾斜が残る。
考察) 開脚性歩行と把握反応必ずなど前頭葉症状を確認した場合は抗コリン剤とドネぺジルを処方してはいけない。
2) 84歳女性 CBS-PSP
数年前から記憶障害、開脚性の歩行障害感染症による発熱の後に右手の巧緻運動障害(不使用)となり、前医で正常圧水頭症との診断でシャント手術を受けたが悪化傾向、体幹の捻転性ジストニアが顕著で立位保持が不可能となった。
意識は清明だが、デスクの上の物を勝手にさわるなど使用行動がみられ、両手の把握反応も顕著。
考察)上肢の左右差、肢節・体幹ジストニアはCBS特有。運動障害の進行が速いためPSPタイプと推定される。
3) 83歳男性 CBS?
3か月前から自転車運転が危なくなり、平地でもバランス悪くふらつきを自覚するようになった。
開脚性歩行と軽度の体幹傾斜がある。パーキンソニズムなし、認知症なし、行動心理症状なし、小脳失調なし
画像検査;前頭葉~側頭葉外側の萎縮、海馬の萎縮はない。
考察) ごく初期の症状であるが、他の疾患を支持する所見がない、今後の経過観察が重要。
4) 76歳女性 CBS-PA
2年前から右半身の運動障害が顕著。体幹アンバランスで歩行障害、右半身と左半身が常に乖離した様子。記憶・注意障害や思考遅延がみられたが、リバスチグミンが少量で著効。前医でパーキンソン病との診断で抗コリン剤が処方されて意識朦朧状態で動けなくなった。立ち上がる時につかまる必要があるが、平地は何とか歩ける状態。片側性の安静時振戦がみられたが、レボドパが著効して振戦は消失、動作も改善したが、左右アンバランスは不変。
考察)例外的にレボドパ反応性の錐体外路系運動障害が主体のタイプがある。進行は遅く、PDと殆ど変わらない。
5) 71歳男性 CBS-PSP
半年前から歩行障害を自覚したが、前医でパーキンソン治療薬(レボドパやドパミンアゴニスト)を試されたが無効
歩行は開脚性ですくみがみられた。右上肢の巧緻運動障害がみられたが、2~3か月で体幹の傾斜が顕著となり、
独居のため病院へ紹介とした。
考察) 左右差や体幹アンバランスが進行性、運動障害の進行が速いためPSPタイプと推定される。
6) 73歳女性 CBS-PNFA/CBD
数年前から言葉が出にくくなり、自転車で転倒して乗れなくなる。2年前から動作歩行が緩慢となり思考遅延や注意障害も顕著となった。前医でCBSと診断。レボドパを2年処方されているが効果は不明。1年前から動作歩行が悪化して短文も話せない。最近は後方に転倒しやすくなった。表情は明るいが、ほとんど話せず、左半側空間失認が顕著で、半身態勢で体を横にして歩行してしまう。右上肢のみ鉛管状筋強剛、体幹は大きく右へ傾斜。動作は緩慢。
転倒による頭部打撲により脳室内出血に至ったが、奇跡的に回復されてからも平地は介助なしで歩行。
考察) 運動障害の進行が遅く、失語症と視空間失認など大脳皮質症状が顕著なCBDらしいタイプ
7) 62歳女性 CBS-FTD-Pick or Prion?
4年前から記憶障害、遂行機能障害、3年前から左上肢のミオクローヌス、転倒しやすい。アルツハイマー?との診断でドネぺジル10mgが処方された後から興奮性となり、メマンチンを追加されて嗜眠状態となり幻覚などが現れてせん妄状態となり、歩行が不安定でさらに転倒しやすくなる。某病院で免疫系疾患と診断されてステロイド点滴・治療をされてから、さらに歩行が困難、体幹の傾斜が強く食事に時間がかかる、1年前に高熱のため入院。ドネぺジル10mgで続行されていた。鎮静剤を同時投与されて急速に悪化しほとんど無動無言状態に至った。最終的に薬剤は整理されて、ミオクローヌスに対する薬剤としてクロナゼパム、バルプロ酸、ニトラゼパムなどが投与されたが、まだ嗜眠状態が強かったため、家族判断で薬剤を減量して嗜眠状態は軽快した。左側空間無視が顕著、左上肢の屈曲にてミオクローヌスが誘発。左右とも把握反応著明、重度失語状態で話せず、強制泣き・笑いがみられる。
考察) 運動障害・精神障害ともに進行が速いが、ドネぺジルとステロイドが病状をさらに悪化させたと推定された。
8) 83歳男性 CBS-AD
数年前から記憶・見当識・注意障害があり、認知症専門医を受診したが、神経内科受診を勧められた。
左半側空間失認 、ベッドに斜めに寝る(再現性あり)、動作緩慢、思考遅延、非流暢性失語、鉛管様筋強剛左右差、
軽度の体幹傾斜、時計描画不可能、図形模写が困難、不正確。表情は明るく朗らか。
考察) 認知症から発症し、行動心理症状なしのタイプ、CBSの高次脳機能症状は遅発性であるのが特徴的
以上のように各症例はそれぞれ経過も進行度もさまざまですが、CBSとしての特徴的所見の存在は共通しています。いずれに前頭葉障害と高次脳機能障害を神経心理学的に正しく評価することが必要です。
上記症例を見てもわかるようにCBSは初期に高次脳機能障害を正しく評価しないと診断できません。医者が評価できないのであれば、言語聴覚士や臨床心理士などを活用して評価できる体制にしたほうがいいでしょう。安易に認知症中核症状=アルツハイマーとしてしまうのは危険です。CBSには抗認知症薬剤、特にドネぺジルとメマンチンには相性が最悪のようなので使用禁忌とすべきでしょう。安易に抗認知症薬を投与する前に、きちんとした神経所見の評価が必要だと感じられました。現存する神経系の薬剤はほとんど効果がないばかりか、むしろ病状を悪化させる可能性が高いと思われますので、できるだけ使用しないほうがよいと考えます。タウオパチーの根治治療として期待できる「タウ凝集阻害薬」の登場が待たれます。


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# by shinyokohama-fc | 2014-10-31 18:47 | 医療
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