せん妄の特効薬?

私の知人から面白い症例報告があったので、ぜひみなさんに紹介したいと思います。

以下、知人から来たメールを引用します(一部編集)。

もともと軽度認知症がある94歳の超高齢者の男性、他の病院でも入院した時に大暴れして、強制退院させられたことがあるほどの患者さんです。

今回は肺炎になって、CRP(炎症反応性蛋白)20mg/dl超の重症で入院。入院中はひどく弱っていて暴れる元気もなかったのですが、点滴して元気になったら、大暴れしてしまいました。夜間の当直Drがハロペリドール(セレネース🄬)を注射してもまったく効果なし、病棟のベテランナースには「もう強制退院させたら?」と言われましたが、CRP30mg/dl超でとても退院させられる数値ではなく、病棟は大変だったとは思いますが、とりあえず翌日まで経過観察としました。

その翌日、回診するとその患者さん「昨日はすみませんでした。」と謝られるほど落ち着かれ、何があったのか?と思いました。実は看護学生が実習対応されてから、ウソのように落ち着かれたようです。

今回のケースに関しては、認知症治療薬(ガランタミン、メマンチンなど)や抗精神病薬(ハロペリドールやリスペリドンなど)よりも、看護学生の対応が勝ったということです。

認知症の高齢男性に対しては、薬にムダなカネを使う(認知症治療薬+抗精神病薬)くらいなら、週に2~3回、若い女性と触れ合える場所に行ってもらったほうがいいのではないかと思いました。

(引用終了)
今回のメールの文章を読んだ感想

今回の患者さんと看護学生は人間としての相性が非常に良かったのではないでしょうか?高齢者の男性患者さんすべてが若い女性がいいというわけではないですし、若い女性であれば誰でもいいというわけではないと思います。いつも今回のように上手くいくとは限らないと思います。

ひとかどの仕事をしていたプライドの高そうな男性が高齢化して認知症になった場合、そのプライドの高さゆえ、しばしば家族や介護者を辟易させるほどのひどい行動心理症状を起こすケースがあります。

困った家族や介護者は、安易に鎮静剤による薬剤拘束を医者に請求しがちですが、この症例のように、大変なリスクを冒して、94歳の人にハロペリドールの注射をしたとしても何の役にもたたない場合も多いです。

ハロペリドールという薬は、大昔に病院で勤務していた時に、よく入院夜間せん妄の鎮静目的で使われていたのですが、心停止をきたす危険な心室性の不整脈を引き起こしたり、悪性症候群(高熱が出て、全身の筋肉がガチガチになり、瀕死状態になる)を引き起こしたりという症例を数多く診てきた私にとっては、危険でしかないです。

それはクロルプロマジン(コントミン🄬)の注射薬でもリスペリドンの内服液でも似たようなもんでしょう。抗精神病薬というのは非常にリスクの高いギャンブルでしかないというのが私の見解です。

高齢者が急病による入院/入所など環境変化による過活動性せん妄で暴れるというのはよくある事ですが、それが今回の看護学生のように人間的対応で解決するのであれば、これほど安全な方法はないでしょう。
逆によくあるのが、看護師や介護士の対応の問題か、患者さんとの相性が悪いのか、わかりませんが、かえって暴れるケースもよくあります。

看護師や介護士といった資格のある専門職にかぎらず、プライドの高い高齢者に対して上手に対応できる才覚のある女性というのはいると世の中にたくさんいると思います。資格のあるなしにかかわらず、そういうのが得意な人に病院や施設で仕事をしてもらうのがいいのではないかと思いました。

我々にできることはただ一つ。「その患者さんが暴れるような薬は2度と使わない」ということです。暴れるような薬は他の人にとっては合う薬かもしれないが、その患者さんにとっては毒でしかないのです。


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# by shinyokohama-fc | 2019-01-18 10:50 | 治療

コリンエステラーゼ阻害薬+抗コリン作用薬の悪影響

前々回の「クロルプロマジン」のテーマでもいろいろ書きましたが、抗精神病薬というのは本来「統合失調症」の治療薬です。

しかし、日本の臨床現場では認知症の行動心理症状に使うことが当たり前であり、日常茶飯事になっているようです。

いちばん最悪なパターンが認知症治療薬であるコリンエステラーゼ阻害薬によって興奮させられた患者への抗精神病薬の追加投与です。

かつては抗精神病薬は、精神科専門医だけが処方が許された薬だったはずです。しかし、昨今は認知症で興奮する患者が増えたから、精神科専門でない、たとえば最近では施設の嘱託医師などが抗精神病薬を処方しているケースが多いようです。

しかしその危険性・有害性については特に検証されることなく、行動心理症状さえ抑えればいいのだという大義名分で正当化されている気がします。

抗精神病薬の危険性・有害性については、このブログで何度も書いてきました。元祖・抗精神病薬であるクロルプロマジンの少量処方ですら長期継続では深刻な問題をおこすこともブログに書いたわけです。

抗精神病薬の問題はまず第一にドパミン阻害作用による薬剤性錐体外路症状(EPS)ですが、実は抗コリン作用(アセチルコリン抑制作用)も短期的・長期的に問題になりえます。
わかりやすく言うと、ずっと服用し続けると動けなくなって、ぼけてしまう
薬です。

韓国で、認知症患者群においてコリンエステラーゼ阻害薬開始後の抗コリン作用性負荷と治療変容の関連を評価した研究が行われ、それが発表されたようです。
韓国の嶺南大学のYoumg-Mi Ah氏らが実施した臨床調査では、2003~2011年にコリンエステラーゼ阻害薬を開始した高齢者2万5000人を後ろ向きに分析し、抗コリン作用性高負荷がどれほど影響するかを検討されました。

抗コリン作用性負荷は6.0%に認められ、治療変容、せん妄、死亡はいずれも対照群よりも有意に増加していたという結果でした。
すでにコリンエステラーゼ阻害薬を服用している認知症患者に抗コリン作用性の薬剤を追加するのは良くないという事が証明されたと思います。


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# by shinyokohama-fc | 2018-12-28 12:39 | 治療

ある認知症専門医の雑感

認知症専門科?認知症専門外来?っていったい何のためにあるのか?認知症治療薬はいったい誰のために必要なのか?そういう事を考えさせられる事例を最近診る機会がありました。

総合病院には「認知症専門の診療科」が最近あるようです。国をあげて「認知症を早期発見・早期治療しろ」と煽っているからなのでしょうか?まさに「認知症」というのは現代医療のトレンド?のようです。

60歳代後半の男性、2年前に奥様が「物忘れ」が気になり「認知症専門の医療機関」を受診し「アルツハイマー型」と診断されましたが、ここでは処方はされていませんでした。

この男性は勤務先の近くの総合病院の「内分泌代謝科」で「糖尿病」で通院中でしたが、そこから同じ病院の「認知症科」にコンサルトされて、1年半前から定期診療を受けていたようです。診療情報提供書によると通院開始当初(初診時)は、一人で公共交通機関の利用、スケジュール管理などが可能だったようです。「服薬も本人が管理できている」と記載してありました。

キツネハトテストができず、遅延再生が悪く、MMSE26/30点、FAB17/18点、時計描画テスト15/15点、その他さまざまな高次脳機能評価がされていました。
髄液検査でアミロイドベータが基準値の2倍以上検出されました。
MRI 検査で側頭葉の萎縮はあるが、海馬萎縮は目立たない一方で、両側側脳室周辺、放線冠に結節状の高信号域が散在し、高度の虚血変化があったようです。
脳血流シンチでは皮質全域の血流低下がある一方で、皮質下の血流は低下していなかったようです。
DATスキャンでは両側線条体への集積が軽度低下 (SBR 右3.8 左3.3)

結局、アルツハイマー型とレビー小体型の合併と診断されたようです。
そして初診時からドネぺジル5mgが処方されたようです。

その後、1年で認知機能は悪化して勤務できなくなり、易怒・暴力がひどくなり、奥様は一緒に住めなくなり、実家に滞在することになったようです。
事実上、一人暮らしとなり、飲酒量が際限なく増えてしまい、結果的に元々服用していた糖尿病の薬も、ドネぺジルも服用できなくなりました。

1か月前に当院を受診されて、診察する事になったのですが、時計描画は顕著なクロージング現象で、数字が枠から大きくはみ出ていました。図形模写もできません。少なくとも1年前は完全に描けたそうです。その一方で、動作の緩慢さはなく、診察時の礼節は維持されていました。

ドネぺジル5mgの服薬を契機にした認知機能の悪化と推定されました。

この症例がここまで悪化した理由はいくつか推測されます。
1) 飲酒量が多すぎて、アルコール依存症レベルだった
神経系に作用する劇薬とアルコールの併用は禁忌です。

2) アルツハイマーとレビーと脳血管性の合併例であった
併発する症例においては、アセチルコリンが枯渇状態である事が推定されますので、強力なコリンエステラーゼ阻害薬により悪化する可能性が高い。
脳血管性認知症にドネぺジルを使用すると死亡率は9倍になるという報告もあり、海外では脳血管性認知症にドネぺジルの使用は推奨されておらず、代わりにガランタミンが使用されています。

3) 服薬が正確に行われる環境ではなかった
アルコールとドネぺジルの併用によって行動心理症状(易怒・興奮)が悪化してもなお、服薬が本人管理のままだった。
添付文書上、認知症治療薬は本人管理してはいけないことになっています。逆に言えば、本人管理できる患者は、認知症治療薬を服用する対象ではない
と言えるでしょう。

ドネぺジル(先発品)の添付文書、臨床的に意味のある効果判定方法である、全般的臨床症状評価 (CIBIC-plus)を用いて実施した287例の解析結果

ドネぺジル5mg使用96例
著改善0、改善4、軽度改善27、不変26、軽度悪化30、悪化9、著悪化0
ドネぺジル10mg使用90例
著改善0、改善7、軽度改善35、不変20、軽度悪化19、悪化9、著悪化0
プラセボ101例
著悪化0、改善6、軽度改善18、不変30、軽度悪化34、悪化11、著悪化1

ドネぺジルを服用すれば「32~47%前後の症例では改善する」一方で、「30~40%程度の症例では悪化する」という結果になっています。改善と悪化はほぼ同数で「どちらに転ぶかわからない」が現実でしょう。それは患者の体質は一様ではなく、薬の感受性も個人差が大きいからです。

他の認知症治療薬はまだ歴史が浅く、このような臨床試験は行われていないようですので、実態は不明です。ドネぺジルとはコリンエステラーゼ阻害作用の強度がかなり違うので、別の結果になると推定されます。

このような現実を踏まえて、フランスでは認知症治療薬を保険適用から外したのだと思います。認知機能の改善という点でいえば費用対効果がよくない
という事に尽きるのだと思います。

欧州ではインフルエンザ治療薬も初期から使用しない方針だそうです。健常人のインフルエンザ感染者が重症化する確率が少なく、治療薬を使わなくても大多数の感染者が自然治癒するというのがその理由です。
それよりも感染が拡大させないために「自宅で安静に」と指示して、医療費を極力使わせないという方針が徹底されているようです。
日本だけがインフルエンザ治療薬を使いすぎている現状には批判的な意見もあるようです。それは認知症治療薬も同じことかもしれません。

余談ですが、日本と欧州では医療費に対する考え方が大きく違うということを申し上げたかったのです。
つまり、日本は国民皆保険に基ついた過剰医療であるため、恩恵を受けるケースも多いが、薬害を受けるケースも多くなるのは当たり前なわけです

このケースはその典型例だと思われますが、そもそもアルコール多飲との併用や本人管理を許容した状態で、ある認知症専門医が外来でステレオタイプ的に診断して判で押したように認知症治療薬を処方しているという現状には呆れるばかりです。もはや論外ではないでしょうか。

このケースにまず必要なのは、「アルコール依存症の治療」であったことは言うまでもありません。

小生は「神経内科専門医」ですが「認知症専門医」ではありませんので、あえて批判的に書きました。それくらい許しがたい事例でした。
小生は認知症治療薬の存在を否定しているのではなく、適切に使用できるケースを厳密に選択する必要があると申し上げているのです。

このケースのような認知症治療薬の不適切使用が横行しているのが、日本の現状ではないかと推定されます。
現状のような認知症治療薬の乱発乱用が臨床現場を混乱させているのは言うまでもありません。
このような状況が続くのであれば、いっそのことフランスと同じようにしてしまえという意見が大きくなってくるのも仕方ないのではないでしょうか?


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# by shinyokohama-fc | 2018-12-20 14:38 | 治療

クリスマスソング

クリスマスが近くなりました。
小生は自分の誕生日がクリスマスと1週間しか離れていないので、クリスマスに対する特別な思いというのはなく、ましてキリスト教徒でもないです。

しかし、音楽を聴くのは昔から非常に好きで、特にリズム&ブルース、ソウル、ジャズ音楽への趣向が強い傾向があります。ちなみにクラシック音楽のことはさっぱりわからず、楽譜も読めず、楽器も弾けないです。

仕事が終わってから、月に1~2回ほど、歌が聴けるバーに行きます。
この時期なので、クリスマスソングを歌っていました。
小生が好んで聴くクリスマスソングを2曲、リクエストしました。

1曲目は「Grown-Up Chirstmas List」
作曲はDavid Fosterでいかにもという感じのFoster節です。
1990年にDavid FosterのChristmas Albumに最初に収録され、Natalie Coleが歌いました。その後、1992年にAmy GrantのChristmas Albumで、また
2003年にAmerican IdolでKelly Clarksonが歌っています。
David Fosterの隠れた名曲です。歌詞はLinda Thompson-Jennerで他にもFosterと組んでヒット曲がいくつかあるようです。
歌詞の内容は「大人になった私からの世界中に届けてほしい願い事リスト」
「人々がもっと寄り添えるよう、戦争が始まらないよう、時間がすべてを癒すよう、皆が友達に巡り合えるよう、正義が勝てるよう、愛が永遠に続くよう」というものです。

2曲目は「This Chirstmas」
Donny Hathwayの2nd Album,DonnyとNadine McKinnorとの共作クレジットになっています。
歌詞の内容は「恋人(妻)と二人で一緒に過ごす楽しいクリスマスの風景」といった内容です。

この日のプレイヤー(歌手とピアニスト)で入念に打ち合わせして、歌と演奏を聴きました。初めてにしては上出来だと小生は感じましたが、意外と難解な曲のようで苦労されていました。

クリスマスソングなので、小生は「また来年のクリスマスまでに仕上げてください」とエールを送ったのですが、

ピアニストの方は「もう一度、来月リベンジさせてください」ということでした。来年、1月としては異例のクリスマスソングを演奏してもらうことになりそうです。


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# by shinyokohama-fc | 2018-12-18 17:04 | 健康

ドクター長尾の死の授業 2

このブログでも何度も取り上げる長尾和宏先生が、新宿ロフトプラスワンで「ドクター長尾のオトナのための死の授業 2」というイベントを開催されているので、1回目も2回目も参加してきました。住職をゲストに迎える次回(3回目)も参加しようと思っています。

このイベントの何が凄いかというと、毎回来られるゲストの話術と頭の回転の速さが尋常ではないこと。それを引き出す長尾先生も凄いです。
ゲストの方はテレビでよく拝見する方なのですが、おそらくテレビでは1/100くらいにセーブして話しているのがよくわかりました。

テレビではその凄さは少なくとも小生には伝わりませんでした。
テレビがなぜつまらないのかも逆によくわかった気がします。

今回のイベントはわずか1時間半程度でしたが、まるで48時間くらい講演を聴いたのに等しいくらいの価値がありました。
タブーなし忖度なしで真の意味で頭のいい人の話を聴ける最高の時間でした。
こういうイベントを企画して、このような凄いゲストを引っ張ってくる、長尾先生とはいったい何者なのかと。底知れぬスケールの大きさを感じます。

今回のイベントに参加した後の小生の感想は長尾先生がブログに書かれているのとほぼ同じです。

特に実感するのが「医療が資本主義に振り回されている」という事です。
生物学的に多様で個体差があるのは当たり前の真理のはずですが、資本主義のご都合によって、医療においてもその真理が無視されてしまっています。
つまり生物学の原理を無視した医療が行われた結果として、その代償を我々は払わされているのだと思います。

「資本主義」というのは果てしない利益と欲望の追求、様々なエゴイズム。
医療側にも患者側にも様々な形のエゴイズムが目に余る昨今の傾向に辟易しているのは私だけではないでしょう。いつからこうなってしまったのか?
10月21日の横浜の講演で小生もそれについて語ったと記憶しています。

小生は資本主義やエゴイズムが悪いと言っているのではなく、限度を知らない人が多いのではないかと、つまり「ほどほど」というのを知らない。

1月27日(日曜日)、長尾先生が理事を務める、「一般社団法人 抗認知症薬の適量処方を実現する会」の特別セミナー講演会の演者を頼まれています。

スライド原稿はすでに8割方完成させていたのですが、このイベントに参加して、生物学者の池田先生の話を聴いて、小生の頭の中では大きなパラダイムシフトが起こったので、講演内容を大幅に修正しようと思います。
興味のある方は聴きに来てください。

小生は幼少時から、生物にすごく興味がありました。もっと生物学を勉強したら良かったなと後悔しています。
当たり前の話ですが、医学の前に生物学を知らないと全然ダメだというのを今回思い知らされました。


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# by shinyokohama-fc | 2018-12-15 11:40 | 健康
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