<   2019年 01月 ( 3 )   > この月の画像一覧


パーキンソン無動型、DBS(脳深部刺激術)>>薬物治療の1例

パーキンソン病になって25年経過している、81歳の女性の方です。
75歳時に脳深部刺激療法 (DBS)を受けています。

そのおかげで、今も介助なしで歩行できています。やや足元を引きずって歩くので不安定に見えますが、不思議なことにまったく転倒しない状態でした。四肢の巧緻運動動作は右側がやや拙劣で左右差がありますが、ふるえはなく、無動型だったようです。

運動症状は、DBSのおかげですこぶる良好で、オフ現象もまったくみられず、前医処方薬は大幅に減薬してレボドパ・カルビドパ配合剤150mg(50mg×3回)だけですが、この薬も必要ないのではと思うほどでした。

その一方で、この数年で認知機能低下が進行していて、椅子に正しい位置に座れない、線二等分テストでは左側ができない、時計描画では右半分しか描けない、図形模写はできないという、構成障害と視空間認知が顕著という状況でした。
さらに起立性低血圧が20~30mmHg程度ありました。前医で処方されていた、降圧剤はすぐにやめさせました。

神経内科医によるパーキンソン病の外来診察というのは、認知機能(とくに視空間認知、構成能力など)とか起立性低血圧の評価をするという事がほとんどないようです。立位の血圧が100切っているのに、アムロジピン5~10mg処方しているとかよくありますからね。本来ありえないのですが。

運動症状はずっとそれなりに安定していたのですが、2か月前から姿勢の安定性が悪化して、2回後ろ向きに転倒したということでした。
それでレボドパ・カルビドパを250mgまで一時的に増やしたのですが、
1回量100mgで服用すると眠気が強くなり、かえって転倒のリスクが増えたようです。それで慌てて150mgに戻したそうです。

DBS電池の消耗が速い傾向にあったそうです。それでDBS手術を行った病院で電池交換をしていただいたところ、元のレベルに戻ったようです。

パーキンソン病は長くわずらうと、高齢になると、全員ではないが、DLBのような認知機能低下に至るケースも多い(PDD)ようです。
認知機能低下は大脳皮質に病理変化が拡散したことによるものです。とくに大脳皮質の後半部分が起源である、頭頂葉の障害である視空間認知障害は、薬がまったく通用しない症状です。

こういう症例ではコリンエステラーゼ阻害薬は副作用が出るだけでほぼ役立たずです。私も多くの症例に試してきましたが、すべてダメでした。
むしろ副作用で身体が曲がる、傾くという厄介な姿勢異常が高い確率で出てしまいますので、ほぼ有害です。

パーキンソン病を長年わずらって、認知症が出てきたので、コリンエステラーゼ阻害薬を追加服用というのはほぼ間違いだというのが経験的に理解できます。アセチルコリンを放出するニューロンが大幅に減っている状況でコリンエステラーゼ阻害しても全然ダメなわけです。

レボドパ配合剤も同じで、ドパミンを放出するニューロンが大幅に減ってるので、レボドパとか様々な薬を入れても、ただ眠くなったり、幻覚がでたりするだけで、全然役に立たない人が多いです。

その一方でDBSは病気がここまで進行しても、運動症状には有効であるというのは驚くべきことです。認知機能低下した進行期パーキンソン病では多くはドパミン作動薬は副作用のために不耐性になっているからです。
無動型のパーキンソン病の患者はできるだけ早期にDBSを検討したほうがいいでしょう。
どう見ても無動がひどいパーキンソン病でDBSの適応ケースであるにもかかわらず、薬物治療に固執し、レボドパ配合剤を大量に服用したあげく多剤併用して何年も経過した症例の予後はおおよそ不良です。

それは、多くのケースで薬の入れすぎを何年も続けた影響で神経伝達経路が混線して修復不可能になってしまうからだと思われます。そこにコリンエステラーゼ阻害薬を投入すればさらに混線するだけです。

薬物治療というのは、病気の経過が長くなり、薬の量と種類が増えれば増えるほどカオスに陥りやすいのは間違いないようです。



新横浜フォレストクリニック
内科・漢方内科・老年内科・神経内科

JR・新幹線・横浜市営地下鉄 
新横浜駅 篠原口より徒歩1分







by shinyokohama-fc | 2019-01-22 12:16 | 治療

せん妄の特効薬?

私の知人から面白い症例報告があったので、ぜひみなさんに紹介したいと思います。

以下、知人から来たメールを引用します(一部編集)。

もともと軽度認知症がある94歳の超高齢者の男性、他の病院でも入院した時に大暴れして、強制退院させられたことがあるほどの患者さんです。

今回は肺炎になって、CRP(炎症反応性蛋白)20mg/dl超の重症で入院。入院中はひどく弱っていて暴れる元気もなかったのですが、点滴して元気になったら、大暴れしてしまいました。夜間の当直Drがハロペリドール(セレネース🄬)を注射してもまったく効果なし、病棟のベテランナースには「もう強制退院させたら?」と言われましたが、CRP30mg/dl超でとても退院させられる数値ではなく、病棟は大変だったとは思いますが、とりあえず翌日まで経過観察としました。

その翌日、回診するとその患者さん「昨日はすみませんでした。」と謝られるほど落ち着かれ、何があったのか?と思いました。実は看護学生が実習対応されてから、ウソのように落ち着かれたようです。

今回のケースに関しては、認知症治療薬(ガランタミン、メマンチンなど)や抗精神病薬(ハロペリドールやリスペリドンなど)よりも、看護学生の対応が勝ったということです。

認知症の高齢男性に対しては、薬にムダなカネを使う(認知症治療薬+抗精神病薬)くらいなら、週に2~3回、若い女性と触れ合える場所に行ってもらったほうがいいのではないかと思いました。

(引用終了)
今回のメールの文章を読んだ感想

今回の患者さんと看護学生は人間としての相性が非常に良かったのではないでしょうか?高齢者の男性患者さんすべてが若い女性がいいというわけではないですし、若い女性であれば誰でもいいというわけではないと思います。いつも今回のように上手くいくとは限らないと思います。

ひとかどの仕事をしていたプライドの高そうな男性が高齢化して認知症になった場合、そのプライドの高さゆえ、しばしば家族や介護者を辟易させるほどのひどい行動心理症状を起こすケースがあります。

困った家族や介護者は、安易に鎮静剤による薬剤拘束を医者に請求しがちですが、この症例のように、大変なリスクを冒して、94歳の人にハロペリドールの注射をしたとしても何の役にもたたない場合も多いです。

ハロペリドールという薬は、大昔に病院で勤務していた時に、よく入院夜間せん妄の鎮静目的で使われていたのですが、心停止をきたす危険な心室性の不整脈を引き起こしたり、悪性症候群(高熱が出て、全身の筋肉がガチガチになり、瀕死状態になる)を引き起こしたりという症例を数多く診てきた私にとっては、危険でしかないです。

それはクロルプロマジン(コントミン🄬)の注射薬でもリスペリドンの内服液でも似たようなもんでしょう。抗精神病薬というのは非常にリスクの高いギャンブルでしかないというのが私の見解です。

高齢者が急病による入院/入所など環境変化による過活動性せん妄で暴れるというのはよくある事ですが、それが今回の看護学生のように人間的対応で解決するのであれば、これほど安全な方法はないでしょう。
逆によくあるのが、看護師や介護士の対応の問題か、患者さんとの相性が悪いのか、わかりませんが、かえって暴れるケースもよくあります。

看護師や介護士といった資格のある専門職にかぎらず、プライドの高い高齢者に対して上手に対応できる才覚のある女性というのはいると世の中にたくさんいると思います。資格のあるなしにかかわらず、そういうのが得意な人に病院や施設で仕事をしてもらうのがいいのではないかと思いました。

我々にできることはただ一つ。「その患者さんが暴れるような薬は2度と使わない」ということです。暴れるような薬は他の人にとっては合う薬かもしれないが、その患者さんにとっては毒でしかないのです。


新横浜フォレストクリニック
内科・漢方内科・老年内科・神経内科

JR・新幹線・横浜市営地下鉄 
新横浜駅 篠原口より徒歩1分







by shinyokohama-fc | 2019-01-18 10:50 | 治療

大脳皮質基底核変性症/CBD(1)症状

新年おめでとうございます。
昨年はこのブログでもパーキンソン病の話題を多く書きましたが、ネタがつきてきたので、今年は「パーキンソン病に間違われやすい神経変性疾患」を取り上げていきたいと思います。

ここ最近、大脳皮質基底核変性症/CBDとして典型的な症例をいくつか診る機会がありましたので、CBDの症状や投薬について書いていきたいと思います。
開業して4年半で100例近いCBS(CBDの臨床診断基準をみたす症例)を診てきました。中には明らかにPSPの症状が混在している複雑な症例も診てきました。

CBDという病気は、専門であるはずの神経内科医や認知症専門医でも、正しく診断できない、理解されていないであろうというのが、この5年間でさまざまなCBDを診てきた実感です。

パーキンソン病やアルツハイマー病とはまったく違うカテゴリーの病気であるという事が専門医にすら今一つ理解されていないようです。

典型的なCBD(純粋型)というのは、60歳代の女性に多いようです。同じ世代の男性症例は1例も診たことがありません。
診断は主に症状、つまり症候学的診断です。
症例を2例示しながら、その症状について書いていきたいと思います。

症例1) 68歳女性

(これまでの経過)
8年前より字が書きにくく、乗用車運転が不注意で乱暴になった。

当初、近隣の脳神経外科を受診。簡易認知機能検査、頭部CT検査を実施。
軽度の前頭葉萎縮、頭頂葉の左右差のある萎縮 (6年後に専門医が評価)。

7年前には字を書くことが不可能
認知症専門医を受診。アルツハイマー病だと診断された。
ドネぺジル5mgが処方されたが、精神的に興奮したため、ガランタミン16mgに変更されて、継続されていた。

6年前には整理整頓ができず、カギがかけられなくなった。

5年前には左手が使えなくなり、料理を作る作業もできなくなった。
衣服の着方がわからず、正しく着れなくなる

4年前には食事のとき箸、スプーンが使えず、トイレの水が流せなくなる。
次第に落ち着きのない情動発作がみられ、言葉が出ず、会話が困難に。

3年前には言葉が全く出ず、会話不能。意思疎通が困難となる。
時に不穏状態になる。

2年前に、神経内科専門医の外来を受診。
失語症(運動性)、左右失認、肢節運動失行、四肢の筋強剛・巧緻運動障害、
が確認されていた。

1年前から、両側の下肢がつる、痛いという訴えが増える。
日常的に介護拒否や暴力的な脱抑制行動がある状態に至っている。

(当院受診時)
待合室で不穏が強く落ち着きがなく、座っていられず。
こちらの質問した言葉をそのまま繰り返す、オウム返し(反響言語)
左右から視覚刺激





























新横浜フォレストクリニック
内科・漢方内科・老年内科・神経内科

JR・新幹線・横浜市営地下鉄 
新横浜駅 篠原口より徒歩1分







by shinyokohama-fc | 2019-01-05 12:43 | 医療
line

新横浜フォレストクリニック(横浜市港北区・新横浜駅)の院長が日々綴る様々な情報を発信するブログです


by shinyokohama-fc
line