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パーキンソニズムとは何か?

神経学的な精緻診察なき乱雑な外来診療では「高齢者の歩行障害=パーキンソン病、パーキンソニズム」という安易な評価・診断がされがちです。患者が多く十分な診察時間がとれない状態では致し方ない場合もあります。
まず高齢者では脊椎疾患による脊髄障害による歩行障害を除外しなければなりません。特に女性の場合は骨そしょう症による脊椎変形や圧迫骨折が少なくないので要注意です。長期の脊髄圧迫は下肢運動障害の原因になりえます。
また高齢者では加齢に伴いドパミンが低下傾向になるので、動作が遅くなり、震えやすくなる傾向にあります。
まず注意すべきなのはドパミン阻害剤です。嘔気止めのドンぺリドンやメトクロプラミド、抗精神薬のスルピリドやチアプリドはたとえ少量でも高齢者女性では薬剤性パーキンソニズムをきたします。
パーキンソニズムを語る場合、まず本家の「パーキンソン病(PD)」を知る必要があります。PDの最大の特徴は左右差と初期の片側性です。初期~中期は必ず右か左かのいずれかにしか症状はありません。ベッドに横たわった状態、安静時の片手のリズミックな振戦(ふるえ)、丸薬手位という独特の手の姿勢があります。有名な歯車様筋固縮も同側にみられます。手関節と肘関節で一様な歯車的抵抗を確認できます。それに対して反対側にはそれらの所見はほとんどありません。次に姿勢は前傾姿勢、姿勢反射障害は前後に軽く押して踏ん張りにくい状態です。ただし姿勢反射障害の診察で明らかに自ら率先して倒れようとする場合があり、この場合は演技性・心因性という判定になります。発症年齢にもよりますが、発症して2~3年経つと動作が緩慢(遅く)になり、思考も緩慢で遅くなる傾向があります。PDの多くは神経質で慎重なので、中期まではほとんど転倒して大怪我することは稀です。高齢発症のPDの場合は動作歩行障害の進行が速く、発症後数年で幻視・妄想・認知機能低下が出現するタイプもあります。いわゆるPDDです。PDの一部がPDDに移行するようですが、高齢発症でもPDDに移行しないタイプもあるようです。
次に最近話題の「レビー小体型認知症(DLB)」ですが、一般的には上記のPDでみられるパーキンソニズムの軽度レベルのものが多く、やはり歯車様固縮ですが左右差はPDほど顕著ではないようです。DLBの中には前頭葉~側頭葉障害が強いタイプ、いわゆるフロンタルDLBがあります。この場合はフロンタルパーキンソニズムやアタキシアが混在してくるので、PSPSやMSAとの臨床的な区別が難しくなります。その一方で40~60歳と比較的若年発症に多い、妄想型DLBというのが存在します。統合失調症との鑑別が問題になるため、DATスキャンが診断に有用です。パーキンソニズムがほとんどみられないグループのためほとんどが精神科を受診しますので、神経内科の外来で診ることはまずありません。
パーキンソン関連疾患と呼ばれている疾患群ですが、見た目がPDと似ているだけで本質はまるで違います。
大脳皮質基底核症候群(CBS)は顕著な左右差が特徴的です。初期は一側の上肢のみ鉛管様固縮がみられます。やがて同側の運動拙劣が顕著となってきて、不使用という症状になります。しばしば運動麻痺と誤解されています。典型的なCBSは軽度のフロンタルアタキシアの開脚性失調歩行は存在するものの歩行は中期までは比較的安定しています。ただし視空間失認が顕著なため、一見安定しているように見えるわりには怪我が多いようです。
進行性核上性麻痺症候群(PSPS)は様々な病型があります。古典型のRichardson Syndromeは1~2年で急速に進行して歩行不可能になるタイプで、中脳被蓋が顕著に非薄化します。脳幹障害も非常に強いために、高度の嚥下障害に伴い喀痰貯留・呼吸障害などをきたしやすく、早々に胃瘻や気管切開を余儀なくされることが多いようです。
最近外来でよく見るPSPSはRSタイプに比べて進行の遅いタイプばかりです。しかし初期から姿勢反射障害が強く転倒するのが特徴です。またすくみ現象とフロンタルアタキシアの開脚性失調歩行が必ず全例にみられます。
PSP-Pというパーキンソン病にきわめて類似したタイプがあります。初期の臨床像はPDと似ていると言われますが、最大の違いは上肢に筋固縮が軽度~正常で左右差がないことです。頸部~体幹~下肢は筋固縮が目立ちます。
PSP-PAGF、純粋無動症(PA)タイプは前回ブログに記載したとおりで、四肢の筋固縮はほとんどなくむしろ筋トーヌスが低下しているためにしばしばMSAと誤認されます。体が固くないのにすくみや突進現象がみられます。PSPSの最大の特徴は前頭葉~後方連合野への抑制障害による被影響性の亢進と環境依存により動作歩行状態が大きく変化することです。ここが中脳黒質に限局性のPDとの違いです。
MSA(多系統萎縮症)の代表的なものはMSA-C(OPCA)です。上肢は小脳運動失調の影響で筋トーヌスが低下しますが、下肢は固縮ではなく痙縮となり、伸展位から屈曲するときのみ強い抵抗があります。Babinski反射や足のクローヌス(間代)という所見もみられます。MSA-P(SND)の場合は早期から四肢・体幹ともに高度の筋固縮があり、2~3年で全身がガチガチになります。あらゆる薬剤に抵抗性で、動作歩行レベルが著しく阻害されます。
NPH(正常圧水頭症)ではフロンタルアタキシアとパーキンソニズムが軽度~中等度みられます。初期はPSPSと非常に類似しているので、画像診断による確認が必須になります。画像診断でNPHでなければ多くはPSPSです。
このように代表的な疾患において「パーキンソニズム」を検証していくと一筋縄ではいかないというのがお分かりだと思います。やはりカギは「フロンタル・パーキンソニズム」と「フロンタル・アタキシア」の評価になります。
詳細は以前のブログをもう一度参照してください。


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by shinyokohama-fc | 2015-04-07 19:23 | 医療

中脳障害をきたす疾患(PSP症候群とDLB症候群)

中脳というのはあらゆる場所とつながり、複数の路線が乗り入れているバスターミナルのようなものかもしれません。中脳~脳幹を主座とするPSP症候群やDLB症候群において多彩な症状をきたす理由はここにあるのでしょう。
中脳連絡系に関連する症候を以下にまとめてみます。
1)中脳ーマイネルト核 ⇒意識障害、嗜眠、記憶障害 ;アセチルコリン欠乏
2)黒質ー線条体系⇒パーキンソ二ズム(動作緩慢、歩行拙劣など) ; ドパミン欠乏
3)中脳ー大脳辺縁系⇒幻覚・妄想・興奮 ; ドパミン亢進
4)中脳ー大脳皮質系⇒せん妄・症状の動揺性
例えば、3)の症状によくリスぺリドンという薬剤が使用されます。一方で制吐剤としてドンぺリドンもそれに類似した薬剤でやはり中脳に作用します。どちらの薬剤も効果が非常に高いため臨床現場で頻用される傾向にある反面、誤って作用してしまうと1)2)のような症状をきたしてしまうリスクがあります。事実としてリスぺリドンを高齢者に使用したり、ドンぺリドンを小児に使用したりすることによって、ドパミンが阻害されるだけではなく、脳幹網様体が誤作動して意識障害に陥ったりするケースが時々報告されています。フランスでは座薬の販売中止が勧告されているほどです。
中脳障害により神経伝達のバランスが崩れている、PSP症候群とDLB症候群ではアセチルコリンとドパミンの拮抗バランスも微妙に崩れていると推定されます。PSP症候群の中には上記1)~4)の症候すべてが出現・消退をくりかえす症例が存在するという事を最近知りました。この症例にはレボドパ、ドパミンアゴニスト、コリンエステラーゼ阻害剤、漢方薬(抑肝散、真武湯)など様々な薬剤が試されましたが、いずれも一時的に効果があっても持続しなかったり副作用で忍容できなかったりでした。中でもレボドパ少量で強烈な嗜眠をきたす状況でした。保険医療ではもはや限界と判断したケースです。PSPSとDLBSは程度の差はあれど1)~4)の症候をきたしうるようです。実に様々な症状が現れるため、あらゆる神経系薬剤が使用されがちですが、それらの薬剤によってさらにバランスを崩してしまうケースが後を絶たないようです。それだけ中脳障害系の疾患のコントロールは一筋縄ではいかず、まさに難関と言えるでしょう。
PSPSで特徴的な中脳被蓋の高度萎縮所見は進行の速いPSP-RS(Richardson syudrome)では確実にみられますが、比較的高齢で発症するPSP-PやPSP-PAGF,PSP-CBDなどでは顕著ではありません。また眼球運動障害も発症して数年以後に顕性化してくる症例がほとんどのようです。中脳萎縮が画像的に軽度だからといって、中脳障害が存在しないわけではなくて、程度の差こそあれ、1)~4)の症候は存在すると考えたほうがいいでしょう。
PSPSとDLBSの最大の違いは自律神経障害と言われます。自律神経障害に著効する薬剤は残念ながら存在しないようです。PSPSでは頻尿や便秘などの仙骨部~腰部にある副交感神経関連の症状に限定されますが、DLBSではしばしば高度の心血管系自律神経障害による30mmHg以上の高度の起立性低血圧や徐脈、体温調節や発汗障害などをきたします。起立性低血圧の有無の確認は両者の鑑別の参考になるでしょう。
最近保険適用となったDATスキャンによるドパミントランスポーターイメージング検査では両者の鑑別は困難ですがMIBG心筋シンチグラムでは鑑別が可能と言われます。ただしこの検査とて糖尿病や心筋疾患による他の要素を除外できるものではなく、検査というのはあくまで参考程度にしたほうがいいようです。
参照ブログ) 「老年科医の独り言」http://ameblo.jp/lewybody/


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by shinyokohama-fc | 2015-04-06 19:17 | 医療

純粋無動症(Pure Akinesia)という概念

前回に続いて、「KEY WORD 1998-99 神経変性疾患 先端医学社」の42~43ページから引用です。
レボドパ無効の純粋無動症~すくみのみを呈する症例~ 中村利生・今井壽正
無動症はパーキンソン病に特徴的な臨床症状であるが、レボドパの出現によりパーキンソン病の理解が画期的な進展をみてほどなく、1974年に今井と楢林は、歩行・所持・会話など反復運動の加速とすくみ(無動症の一種)を主徴とし、筋固縮や振戦が全くなく、レボドパが無効な2例を純粋無動症(Pure Akinesia)として報告した。
その臨床的特徴を列挙してみると、
①PAは歩行・書字・会話など反復運動の加速とすくみを主徴とする。
②加速とはこれらの運動が次第に速まり(一定の速さになり)かつ運動の振幅が小さくなることである。小字症(micrographia)は一般に加速書字と並行して出現する
③すくみとはこれらの運動遂行時に止まってしまうことで、運動の一過性の破綻現象である。加速歩行の極限としてすくみ足に至ることもあるが、突然にすくむことも歩行の開始時にすくむこともある。
④加速ーすくみと表裏一体となるkinesie paradoxaleの出現
⑤すくみ足が明らかになると立位で防御反応の低下に伴う後方突進現象(retropulsion)が必発する
⑥四肢に筋固縮や振戦がなく、筋緊張はむしろ低下気味である
⑦痴呆がない
⑧レボドパが無効である
今井はそのうち4例で測定した髄液中のHVAがいずれも正常範囲であったので、この加速ーすくみの主要責任病巣は黒質線条体ドパミン系とは異なる症候群として上記命名(PA)した。今井の自験例では20年間で34例に達した。男性19例、女性15例で、すべて孤発例である。発症年齢は32~73歳、平均61.5歳で、経過観察しえた最長罹病期間は18年である。経過観察しえたPAがその経過中にすくみ以外にどのような症状を随伴してくるかに関心をもった。それはすなわち、1964年にSteeleらが核上性眼球運動麻痺、仮性球麻痺、構音障害、頸部ジストニア、痴呆などを主症状として発表したPSPの臨床症状の複合である。当初PAと診断され、後にPSPと診断され、病理学的にPSPと確認された例もある。臨床的にPAと診断された経過2年の剖検例では、病理学的にPSPと診断されたが、中脳被蓋の所見が乏しいことも判明した。これはPSPの症例のなかにはPAを初発症状とするものがあることを意味する。
<純粋無動症の後発する随伴症状>
①眼球運動障害31 ②開眼失行10 ③頸部ジストニア10 ④嚥下障害8 ⑤軽度痴呆7 ⑥びっくり眼4 ⑦palilalia2
PA/PSP症候群
臨床的にPAとPSPを分離して論じることに不合理な症例を経験した。経過1年で症状は加速ーすくみと側方注視眼振と垂直方向注視麻痺であり、いずれも軽微だが確実である。眼球運動障害を有意にとればすでにPAではない。しかしPSPの臨床診断の必要条件からはほど遠い状態にある。ここにPA/PSP症候群を想定・提唱し、その早期診断のために必須の症状と存在すれば診断を支持・補強する症状を分けて提示してみたい。
<必須症状>
①姿勢反射障害;これはすくみ足とは等価ではないが、すくみが明瞭になれば立位での防御反応の低下に伴い後方突進現象が必発する
②筋固縮;PAでは四肢の筋固縮はないのが普通であるが、頸部の筋固縮の判定はしばしば微妙かつ困難である。頸部のpassiveな前屈で軽い固縮が認められることがある。
③寡動症(動作緩慢);これも加速ーすくみと等価ではないが、PAが明瞭となれば結果的に同様症状に陥る。またこの両者が合併して出現することもある
④レボドパが無効;PAでも一過性にレボドパが有効なことがあるが、著効することはない。
⑤眼球運動障害;眼球運動の神経学に精通していれば、病初期から異常を指摘することができる
以上より、PSPの初期相が常にPAではないが、PAはPSPの初期における一特殊型であり、その頻度はPSPの半数に達すると著者らは推測している
以上が引用です。
2007年にWilliamsらにより、PSPの第3臨床病型としてPSP-PAGF(pure akinesia with gait freezing)と命名され、その臨床診断基準案として以下のように示されています。
①発症が緩徐で、早期に歩行または発語のすくみ現象がある
②持続的なL-ドパの効果がない
③振戦がない
④画像で多発ラクナ梗塞やビンスワンガー病を示唆する所見がない
⑤発症5年以内に四肢の筋固縮、認知症、核上性注視麻痺、血管障害による急性のイベントがない
PSP-PAGFは通常のPSPより罹病期間が平均13年と長く、平均9年目に眼球運動異常が出現していた。PSP-RSと比較して、大脳皮質、線条体、小脳、橋核のタウタンパク蓄積が軽度であったと報告されています。
以前勤務していた職場で、私がカルテの評価欄に「純粋無動症(pure akinesia)」と記したら、専門医にそんな古い言い方は今はしないのではないかと諭されたことがありました。しかし早期からはPSPの診断基準を満たさず、「Pure Akinesia」と評価するしかない症例が実際は少なからず見られます。当院では現在まで23例のPSP症候群と思われる症例を診察しましたが、少なくとも4~5例はそういう症例がありました。その中には前医で「脊髄小脳変性症」と診断されて難病申請までされていたケースもあり、当院の初診時は発症後3年ほど経過していました。小脳性運動失調の評価を四肢でしてみましたが、指鼻・膝踵試験や回内回外運動などにおいて左右は同調しており、小脳失調を示唆する所見は全くみられません。近年の画像診断でも小脳萎縮は確認できませんでした。歩行は開脚性で失調性でした。おそらく前医は失調性開脚歩行=小脳失調だと判断したのでしょうが、前頭葉性失調(Frontal Ataxia)という概念を知らなかったのかもしれません。歩行は他のPSP症候群と同様の典型的な前頭葉性失調歩行であり、上記に列記してあるPure AkinesiaとPSP-PAGFの特徴にほぼ合致していました。特に四肢に筋固縮がみられず、むしろ筋緊張は低下ぎみにみえる事があるので、神経内科の専門医でも小脳変性症と非常に間違われやすいようです。私個人としては「Pure Akinesia(純粋無動症)」という臨床像を表現する用語として大事にしてほしいです。専門医が患者の体に触ったり観察したりする時間を十分とらずに、画像診断偏重になりつつある昨今こそ古くからの臨床神経学をもう一度思い起こしてほしいと思います。今回取り上げた内容はそういう意味で価値があると考えています。


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by shinyokohama-fc | 2015-03-27 19:06 | 医療

すくみ足と歩行失行

久しぶりに実家の本棚を探してみると、15年以上前に学会認定医試験勉強の目的で購入した古医学書を見つけました。あまり読まないであろう古医学書はほとんど捨てたのですが、先端医学社の「KEY WORD1998-99 神経変性疾患」というのがまだありました。100人以上もの神経内科の専門家の共著でしたが、何年かぶりに読んでみると、近年の医学書にはみられない結構有意義な事がいろいろ書かれていて、久しぶりに読んでいて感銘を受けました。画像診断が進歩してない時代のほうが、臨床症候の評価を精密に考察しているので、実地医科としては参考になります。
今回はその中から48ページの「すくみ足と歩行失行」を取り上げます。(以下引用)
すくみ足(frozen gait)とは、歩行を開始する際にまたはその途中において、足が床から離れず、前に進むことができない状態を意味する。視覚的または聴覚的刺激で改善する(paradoxical kinesia)ことがある。(中略) 床反力計ですくみ足を調べ、多発性脳梗塞では歩隔(左右の足の幅)がパーキンソン病に比べ有意に広かった。少歩の連続線上にあると考えられ、パーキンソン病と多発性脳梗塞とのすくみ足の発症機序は神経学的に異質なものと推定した。いまだに十分解明されていないが、リズム構成障害に関連するとされ、責任病巣は黒質ー大脳基底核ー前頭葉が関与していると考えられる。
歩行失行(apraxia of gait)とは、下肢の運動麻痺や感覚障害がないにもかかわらず、歩行に際して正しく下肢を動かす能力の低下または欠如と定義されている。もともと歩行失行は前頭葉失調(1892年、Brunsら)からGerstmannとSchilderが分離して独立した概念としたもので、長らく議論の対象になった。現在までに報告された症例を表にまとめた。歩行失行と考えた症例の歩行の特徴は歩き出そうとしてもなかなか第一歩が出ず、ようやく歩き出してもすぐに止まってしまい、再び同じ事を繰り返した。paradoxical kinesiaはみられなかった。歩行失行の責任病巣は過去の報告例からも前頭葉と考えられるが、補足運動野の関与も推定される。
歩行失行のおもな報告例の原疾患;脳腫瘍(前頭葉)、脳梗塞(前頭葉)、前大脳動脈動脈硬化、神経梅毒、ピック病
当クリニックでは10か月で約20例ほどの進行性核上性麻痺とその亜型と思われる症例群を診察してきましたが、パーキンソン病のすくみ足とは違って、歩隔が広い開脚性歩行であり、症例によっては体幹を揺らしながら、左右に足をぎこちなく運んで歩く症例が目立ちました。歩行開始時に床から足が離れないという感じであり、歩行が拙劣という表現が適切だと思います。病巣は両側前頭葉の内側と推定されていて、正常圧水頭症でも同様の歩行がみられます。今後は進行性核上性麻痺症候群(PSPS)のすくみ足と歩行失行の特徴について分析して考察してみたいと考えています。


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by shinyokohama-fc | 2015-03-23 18:30 | 医療

てんかんと認知症の行動心理症状との鑑別診断の難しさ

ここ数か月で診た方々の中でも、てんかん性健忘に該当する方が数名いて、提携医療機関に脳波検査を依頼しています。しかし脳波検査では発作間欠期だと検出されない事も多く、また側頭葉てんかんでは興奮性などの精神症状を伴いやすいために、事実脳波検査をするとなると暴れている拒否する場合もあります。その多くは診察室では発作間欠期のため、意識清明で礼節や態度も問題なく、一見普通の人にしか見えません。簡易知能スケールにも協力的で25点前後です。つまりピック系の前頭葉タイプの認知症とは全く違っていてむしろアルツハイマー的です。そういう人が普段が著しく精神不安定で時に発作性に易怒興奮が激しいとなれば、側頭葉てんかんの可能性はかなり疑わしいものになります。そういう方々の多くはすでに精神科で抗精神薬などが2~3種使用済みであり、まったく効果がないかむしろ悪化する事が多いようです。脳波検査が無理なケースでも少量の抗てんかん薬を試す価値はあります。私が実際使用するのはラモトリギン(LTG)が一般的です。本来は側頭葉てんかんの第一選択はカルバマゼピン(CAZ)でしたが、高齢者の場合は忍容性に大いに問題があり、少量でもふらつきやめまいなどの小脳性運動失調の副作用が出現しやすく、また長期使用により小脳変性させるという報告もあり、てんかんが収まってもQOLが著しく低下してしまうので、神経内科医としては非常に使いにくい薬剤です。そこで現実的にはLTGという事になります。もう一つの新規抗てんかん薬のレベチラセタム(LVE)も単独使用が可能になりましたが、興奮性の副作用があるため、興奮性の症例にはやはり使いにくいのです。LTGで注意すべきなのは皮膚症状だけですが、少量で慎重に漸増すれば問題ないことが多いです。私の経験では少量のLTGを数例使用してすべて精神症状は治まりました。
実際、精神科で抗精神薬が数種類処方されても、精神症状がまったく治まらないというケースは少なくないようで、てんかんと認知症の行動心理症状との鑑別というのは専門でも難しいというのが実感です。


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by shinyokohama-fc | 2015-03-13 18:39 | 医療

推薦図書・第2弾

個人的推薦図書、第2弾です。
今回は紹介するのは医学書ではなく、一般書で、書店では家庭医学と文庫本コーナーにあります。

1)「家族よ、ボケと闘うな!~誤診・誤処方だらけの認知症医療」著者 長尾和宏×近藤誠 2014.12.22
この書には、私自身が日常的に内科医として認知症診療していて感じられる事象がほとんど書かれているといっても過言ではないです。読んでいて私ときわめて価値観が近いと感じました。前回の対談形式に続いて、往復書簡というきわめて斬新な形式をとっています。印象的なテーマをざっと取り上げてみると「早期発見、早期治療に意味があるの?」「4つの薬が有効とされているけれど...」「なぜ医者は薬の処方を間違えるのか?」「認知症をうつ病を誤診する医者」「エビデンス主義は誰を幸せにするの?」「医者を信じるな?薬を信じるな?」などなど。認知症に関わる家族・介護者・医療者にすべて考えてほしいテーマですね。私的にはエビデンス...のところで、EBM(Evidence Based Medicine)に対して、NBM(Narrative Based Medicine)という物語(ストーリー)に基つく医療の重要性を強調されていて、認知症においては家族の生の声(NBM)の方がレベルが高いかもしれないという事に共感できました。認知症医療の混乱をもたらしているのは患者側の個性・個別性というものを度外視して、すべてEBMに無理矢理あてはめようとしている事だという指摘には同意できます。NBMについてはまた後日に自分なりにブログで意見を書いてみたいと思います。

2)「沈みゆく大国アメリカ」著者 堤未果 2014.11.19
内容はアメリカの医療、特に保険医療に翻弄されて、この国の保険制度のために真っ当な医療が受けられない一般市民や真っ当な医療が実践できない医者の実態などが書かれている。医療の恩恵を受けているのは笑いが止まらない保険会社(民間)と製薬会社とウォール街、資本主義・合理主義を徹底したらこうなってしまうのかと痛感しました。医療のファストフード化を勧める事で、医療者から仕事のプライドを奪い、家庭医やかかりつけ医がどこにもいなくなるという事態にまで至っているという事実は衝撃的です。医療の米国追従は是か非か?今の日本の保険制度を守るべきなのか?この書を読めばそれがわかるはずです。前のブログでもその一例を書きましたが、米国流のEBM一辺倒主義に日本の医療が追従するというのはきわめて危険です。病気を全体化するというのは個々の諸問題を無視したり矮小化したりする可能性があるからです。医療は全体化したファストフードではなく、個別の人間の物語に沿ってオーダーメイドに実践されるべきものだと思います。


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by shinyokohama-fc | 2015-02-15 12:09 | 医療

CBSはなぜPD,DLB,ATDと誤認されるのか?

CBS(大脳皮質基底核症候群)という名前が一般化した背景としては、臨床診断と病理診断が合致しないからです。
臨床的CBSの病理診断はCBDが50%でPSPが30%残りはAD,FTD-Pick,Prion病などと言われています。CBDとPSPで事実上80%です。一般的にCBDとPSPというのは兄弟のような疾患と認識されます。この2つに共通している最大のポイントは既存の薬物治療が非常に困難であるという点です。
CBS-PSPのほうがCBS-CBDよりも姿勢が不安定で体幹保持障害と動作歩行障害が強いという印象です。CBS-ADは早期から認知症、注意障害、失語が目立ち、CBS-FTDは早期から異常行動が目立つようです。
<<CBSと他の疾患群の臨床症状の比較>>
<初期>
1)片手が使いにくい(片側巧緻運動障害)→運動麻痺ではなく「上手く使えない」という症状です。
2)物を触ってもわかりにくい(立体的感覚障害)
3)片方にある物を見落とす(半側空間無視)
4)道具の使い方がわからない(観念運動失行)
5)細かい筋肉の震え(反射性ミオクローヌス)
1)~5)はCBS-CBDにきわめて特徴的と言われている症状で、CBSの50%では初期からみられるはずです。しかし言い方を変えれば残りの50%では1)~5)ははっきりしないという事です。
注意しなければならないのは5)の症状であり、感覚的刺激(触覚・視覚・聴覚など)により反射性に誘発される局所(特に上肢に多い)の震えです。上肢が震えると言えば、パーキンソン病が有名なので、片手の震え=パーキンソンという単純公式による誤認がされやすいようです。事実私も含めた神経内科医もほとんど誤認しているようです。
PDの安静時振戦というのは何も刺激しなくても震えますが、反射性ミオクローヌスの場合は反応性に震えます。
6)物事を考えるのに時間がかかる(思考遅延)→PSPの記述を参照、皮質下性認知症全般の特徴
7)記憶障害・注意障害→初発症状がこれだとほぼADと誤認されます。2年以内に何らかの神経動作障害がみられるので、そこで臨床診断を修正する必要があります。
※ADと誤認されるので、漫然とCHE-Iが処方されますが、ADと違い認知症が短期的に進行するのが特徴で、CHE-Iの副作用によりむしろ常同行動などの前頭葉症状が増強されやすい傾向にあります。
8)異常行動→初発症状がこれだとFTDと認識されます。2年以内に何らかの神経動作障害がみられるので、そこで臨床診断を修正する必要があります。
※異常行動に対して抗精神薬(主としてリスぺリドン)が処方されますが、多くは過鎮静になりやすいようです。
<中期>
1)片手が無目的に動く(他人の手徴候)
2)手で触れたものを反射的につかむ(把握反応)
3)言葉が出にくい、自発的会話が少ない(失語)
4)体の左右がアンバランス・捻転(体幹傾斜・体幹ジストニア)
5)左右いずれかの上下肢に不自然に力が入る(四肢ジストニア)
1)5)はCBSに特有の症状と言われていますが、実際の評価が難しいようです。
2)~4)はPSP症候群でも共通してみられる症状ですが、4)に関してはかなり特徴的なので注意が必要です。
2)~4)はPD・DLBでは一般的にみられない事が多いと思いますので、必ず確認する必要があります。
<後期・終末期>
1)完全失語 2)嚥下困難~不可 3)体幹ジストニア~姿勢保持不能 4)起立歩行不可
特に体幹ジストニアはCBS-PSPで顕著にでやすいという印象です。CBS-CBDでは失行・失認・失語などの高次脳機能障害が主として進行しますが、動作歩行能力に関しては比較的保たれる傾向があるようです。早期から姿勢保持やジストニアが悪化して動作歩行能力が困難になるのはCBS-PSPだと推定されます。
前回のブログで記載した、PSPの行動心理症状・皮質下認知症はCBSでも同様にみられます。ただし症例によって差異が大きいようです。
実際の対症療法としてはミオクローヌスに対して抗てんかん剤を、四肢・体幹ジストニアには抗コリン剤を、四肢・体幹のつっぱり感に対しては抗痙縮剤を処方しますが、やはり副作用が出現しやすい傾向にあります。レボドパやCHE-Iも同様であり、薬を足せば足すほど病状が複雑化してわかり辛くなります。つまりどこまでが原疾患の症状で、どこからが薬剤の副作用なのかがわからなくなるという事です。


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by shinyokohama-fc | 2015-02-07 17:50 | 医療

PSPはなぜPDやDLBと誤認されてしまうのか

PSP症候群(進行性核上性麻痺)がなぜPD(パーキンソン病),DLB(レビー小体病),ATD(アルツハイマー病)と誤認されてしまうのか?実は私自身でも初診時はよく誤認してしまうので、自分なりにその理由を分析しています。「誤診」という言葉は使いたくないので、「誤認」と呼ぶのが適切だと思っています。
<<PSP症候群とPD・DLBの比較>>
<PSPの神経症状>
A初期)
1)よく転んで怪我をする→PD・DLBは慎重で病識が高いので、初期からは転倒しにくい
2)歩きにくい→PD・DLBは初期では継ぎ足歩行が可能で、開脚歩行(ワイドベース)にはならない
3)同じ場所に立っていられない→椅子にドスンと座ってしまうというのはPD・DLBではみられない
4)足が出にくい→強いすくみ現象はPD・DLBでは初期からはみられない
5)体の方向を変えにくい→PD・DLBでは初期からはみられない
6)頸部・体幹が固い(体軸性固縮)→PD・DLBでは上肢・下肢が歯車様に固いが、PSPは特に上肢は固くない
7)環境や状況によって動作レベルが大きく違う(環境依存)→PD・DLBではそれほど環境に影響されない
8)レボドパの効果が不明確→PD・DLBでは薬効によるオン・オフで動作レベルが明確に違う。
9)表情→PD・DLBは暗く笑顔が乏しいが、PSPは明るく笑顔がみられる(笑顔のままというケースも多い)
B中期)
1)言葉がでにくい、口数が少ない(失語)→PD・DLBでは失語はほとんどなく、単調性の構音障害のみ
2)目が動かしにくい(眼球運動麻痺)→PD・DLBではみられない
3)飲み込みにくい(嚥下障害)→PD・DLBではそれほど顕著ではなく、程度も軽い
4)介助なしで歩けない→PD・DLBでは薬剤効果があるので中期でも自立で歩行できる
5)体幹の左右がアンバランス・捻転・傾斜(ジストニア)→PD・DLBでは体幹の左右差はなく、四肢のみ
6)手を触れると磁石のように追随する、つかんで離さない(把握反応・強制把握)→PD・DLBではみられない
7)テーブルの上の物を勝手にさわる(視覚性探索反応)→PD・DLBではみられない
8)指示されないのに目の前の動作を真似る(模倣行動)→PD・DLBではみられない
C後期)
1)後方に倒れる、頸が後屈する→PD・DLBでは起こりえない
中期症状2)~5)がさらに進行した状態、眼球固定・嚥下不可能・発語不可能・起立歩行不可
※PSPは数か月単位で目に見えて神経症状が進行するが、PD・DLBでは年単位でごくわずかな進行しかない
※PSPはB-6)~8)のような前頭葉徴候による身体所見が高頻度に出現する
<PSPの行動心理・精神症状>
・幻覚・妄想
経過中にしばしば現れて、中には初発症状の場合もある。人格水準が著しく低下するので、被害妄想や嫉妬妄想に伴う異常行動、動作障害のため幻覚・妄想に派手さはなく、抗精神薬を必要とするほどではない(ほとんどは抑肝散で十分である)、時に動揺性の意識障害(せん妄状態)と混在する状態に至る
・挿間性の昏迷状態
動作障害が進行した時期(中期)にみられる。突如として外部刺激に反応せず、質問に対して反応が乏しくなり(或いは全く反応しない)、視線が定まらずという状態が数時間持続する。病期が進行すると無動・無言状態に至る
・人格変化(人格退行)
初期)何か人が変わってきた印象、物事に対する視野が狭くなり、人の言う事を聞き入れようとせず、自己中心的な行動をする。興奮しやすく怒りっぽくなる、或いは子供っぽくなり、意味不明の上機嫌さがある
中期)意欲が低下し、周囲に対して無関心となり、物事に対する興味を失って無感動でぼんやりした印象になる
・認知症(皮質下性)
簡易知能スケールにおいて初期~中期ですでに10~20点の中等度レベル(PD・DLBでは25~30点レベル)
<PSPの認知症>高次脳機能は比較的保持されているが、それを活用する能力に問題がある
1)すでに得られている知識を状況に応じて操作しうまく活用する能力の障害
2)思考過程、情報処理過程の緩慢化
3)ある種の記憶障害(記憶の喪失ではなく、素早く思い出す事ができない「失念」タイプ
4)注意力の障害→PD・DLBよりも転倒・怪我が非常に多い
5)意欲の低下、自発性の減退、無関心・無気力(アパシー)
原因は視床やルイ体と脳幹網様体賦活系の結合が断たれるためと推測されている

幻視・嗜眠・認知の変動・動作歩行障害⇒DLBという「誤認」、動作歩行障害⇒PDという「誤認」、認知症=ADという「誤認」は上記のように丁寧に神経・行動心理・認知症の臨床評価をしなければ、常に起こりえます。
当然ですがPSP症候群にはDLB,PD,ADの標準的薬物治療は通用しませんのでご注意ください。私自身もDLBと誤認して誤処方をしてかえって動作障害・行動心理症状を悪化させてしまったケースが数例ほどありました。昨今の傾向としてDLBが第2の認知症としてマスメディアなどで大きくクローズアップされて、医者も患者もそのブームに引っ張られてすぎているように感じられます。患者さんを診て診断基準の項目をチェックするだけになってしまった事が多くなったように思います。診断基準の重要性を否定するわけではないのですが、このような操作的診断のみが病気の診断だと思い込むことによって、臨床医には病気の本質が見えにくくなってしまってるのではないでしょうか?
一番の問題は誤処方により病状が明らかに悪化してしまい、それが修正されずにいるケースが多くみられる事です。
次回はCBS(大脳皮質基底核変性症候群)とPD・DLB・ADの誤認について書きたいと思います。

参考文献)
Albert ML et al;The subcortical dementia of progressive supranuclear palsy. J Neurol Neurosurg Psychiarty 37 : 121-130, 1974
天野直二 ;進行性核上性麻痺にみる精神症状 ;臨床精神医学 20 :1185-1194, 1991


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by shinyokohama-fc | 2015-02-05 19:20 | 医療

レビー症候群の診断的治療ステップ

レビー小体病(DLB)の診断基準の中核症状3つを併せ持つ症候群の治療的診断の私案を以下にまとめました。
大脳皮質基底核変性症(CBD)が正確な診断が不可能だという事で、CBSという呼ばれたように、PSPもDLBもMSAも神経変性疾患すべてにおいて疾患名ではなく症候群という名称が適切だと思います。なぜそれが必要かというと、本来死後の病理診断でしか診断できないはずの疾患を問診・診察・検査など総合臨床診断で正確に診断しよう(病理診断で正解になろう)というのは到底不可能だという事実を日常的に見ている実際の症例を通して嫌というほど思い知らされてきたからです。そういうわけで実地臨床ではすべて症候群で分類するべきだというのが以下の私案です。
<DLBの中核症状①~③の評価の問題点>
①認知の変動 ②具体的で詳細な再現性のある幻視 ③特発性パーキンソニズムについて
①認知(意識状態)は変動するので、簡易スケールによる評価も正確に病状を示すものではない。何らかの原因(感染症や薬物など)によるせん妄状態やてんかん(複雑部分発作など)との鑑別も実は容易ではない。
※てんかんの鑑別には可能であれば脳波検査が望ましいが、必ずしも異常波を検出できるとは限らず、安静が守れず検査自体が困難な症例も少なくない。
②幻視は患者自身の主観的な訴えなので、当然訴えない場合もありうる。患者が異常行動を起こさないかぎり周囲からわかりにくく客観的な評価が難しい。
※レビー小体病以外でも幻視が出現する事が少なくない。最近最も多くみられるのはPSP症候群である。
③特発性パーキンソニズム(振戦、筋固縮、姿勢反射障害、動作緩慢)
特発性であると特定するのがまず難しい。多くの症例ではすでに神経系の投薬が多剤併用されていて病態が修飾されているので、現実的には薬剤を除外して確認するのがまず困難である。MRIで多発性脳梗塞、正常圧水頭症の特徴が示されても、それだけで特発性でないとは断定できない。
この3つのうち1つあればPossible,2つあればProbableということで、広い範囲の認知症・パーキンソン関連疾患がDLBという事になってしまい、すべてCHE-Iを規定通り使うべき???いやそんな簡単なら誰も苦労しないです。①~③のうち2つ以上を有する症例には以下の診断的治療を一応一通り施して様子をみるのが一般的だと考えます。
①~③の薬剤を一度にではなく順次処方して症状の変化をみます。
①CHE-I;ドネぺジル少量(3mg)又はリバスチグミン少量(4.5mg)
症状が顕著に改善⇒DLB-2
症状が不変/徐脈など自律神経の副作用出現⇒DLB-1
症状が悪化(興奮・不穏など)⇒PSP/CBD
②レボドパ/カルビドパ(L/C)50mg×3
症状が顕著に改善⇒DLB-2
症状が不変⇒DLB-1またはPSP/CBD
症状が悪化(嗜眠・幻覚悪化など)⇒PSP/CBD
③ドパミンアゴニスト(DA)
;ロピニロールCR少量2mg又はロチゴチン少量(2.25~4.5mg)
症状が改善⇒DLB-2
症状が悪化(嗜眠、幻覚悪化など)⇒DLB-1又はPSP/CBD
私はPSP/CBDの症候群を20~30例ほど継続して診ていますが、①~③のどれもが薬剤投与により症状を何らかの形で悪化させてしまう、あるいは効果が全く感じられない症例がほとんどのようです。同じような症例を50例程度診てくると、診察室に入った瞬間に「この方にはCHE-IもL/Cもたぶん通用しないな」というくらいはわかるはずです。すでに初診までにあらゆる薬剤が試されていてダメだったという、もはや薬剤治療では打つ手なしという症例少なくないです。DLB-1とPSPの鑑別はおそらく専門医でも難しいです。両者に共通している特徴として以下の3つが挙げられますが、たぶん精神科診療と同じように、診る医者によって差異が大きく出るのは間違いないでしょう。
①初期からの姿勢反射障害(PSPの方がより顕著である)
②初期からの認知機能障害(簡易知能評価スケールで中等度レベル)
③初期からの核上性麻痺(DLB-1では必須ではないが時々みられる)
最も確実な鑑別項目としては自律神経障害の有無になります。おそらくDLB-1にはみられ、PSPにはみられません。
MIBG心筋シンチは両者の鑑別にある程度有効ではあるものの、10~20%で偽陰性がみられます。成書には「FTDにおいても時にパーキンソニズムがみられる」と書いてましたが、これがフロンタルパーキンソニズム(既出)を指すのか、PSPをFTDと解釈されているのかは不明ですが、まさに鑑別診断としてはジャングル状態です。
昨年のタウ・アミロイドβPETによる脳内異常タウ蛋白の神経障害への関与を証明した画期的な学会発表においては
DLBには2つのタイプがあり、アミロイドβ陽性でPSPと同程度に前頭葉~側頭葉にタウの高度蓄積が確認されたDLB-1は、前頭葉~側頭葉の脳萎縮があり、CHE-Iの効果が乏しい事が臨床的に確認されたそうです。一方でアミロイドβ陰性でタウ蓄積もみられないDLB-2は、前頭葉~側頭葉の脳萎縮もなく、CHE-Iが効果を示すようです。つまりDLBの中核症状を3つとも有しているのに本来有効とされている薬剤(CHE-IやL/Cなど)が全く通用しないという症例が数多く存在するというのもこの学説により十分納得できますし、PSPと同様に早期から前頭葉~側頭葉が高度に障害されてくるので投薬により精神症状が悪化したりという奇異反応がみられたり、前頭葉機能障害による諸症状(常同行動、脱抑制、被影響性の亢進・環境依存、自発性低下など)が目立つというのも納得できます。経験的に言うと前頭葉機能障害が強ければ強いほど、CHE-I,L/C,DAなどの薬剤により奇異反応を起こす確率が高いようです。
前頭葉機能障害の重症度を診察室で確認する方法は主に3つです(詳細は以前のブログを参照ください)
①把握反応・強制把握 ②前頭葉性失調・歩行障害(開脚性歩行) ③抵抗症(gegenhalten)
つまりDLBの診断基準における中核症状を有する症例を診た場合は、上記3種類の薬剤を順次試す前にすべき事があるとすれば、前頭葉機能障害を①~③で臨床的に重症度判定する事と、CT/MRI検査で前頭葉~側頭葉の脳萎縮を評価する事です。治療反応性が良いというのはDLB-2の事で、DLB-1とPSPは薬剤治療が難しいというのが結論です。
それゆえ、この2つには特に新たな治療法(タウ阻害剤など)が待望されると思います。


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by shinyokohama-fc | 2015-01-09 19:10 | 医療

本当に怖いのは低血糖による心臓死

最近は高齢者の糖尿病が増加しました。ここ20~30年の医療の進歩に伴い、感染症や血管障害、喘息などによる死亡者が激減して長寿になりました。戦後の食生活の急速な欧米化に伴い、糖質や脂質の摂取が多くなり、日本人の体質に合わない食事が糖尿病患者の増加を招いているとよく言われます。
糖尿病患者の多くは糖質依存・糖質中毒とも呼ばれる状態になっていて、食事療法や運動療法が守れないケースが少なくありません。また年齢に反比例して代謝能力が低下する傾向にあり、長年にわたって経口血糖降下剤を何種類も内服しているケースが多いようです。これらの薬剤の副作用としては低血糖が問題になります。特に昔からあるスルホニルウレア(SU)剤は遷延性低血糖を引き起こすためしばしば問題になります。私も20年前、病院勤務時代に遷延性低血糖で意識障害で搬送されてきた患者を数名救急~入院対応した経験がありますが、いくら糖液を静脈注射しても全く血糖が上がってこないし、一時的に上がってもすぐに下がってしまうという、きわめて恐ろしい体験でした。
遷延性低血糖患者のうち数名は意識が戻らず、準植物状態で数か月入院しましたが、最期は感染症で死亡しました。
原因薬剤として最も多かったのが、SU剤第2世代グリベンクラミドという薬でした。さすがに近年はこの薬が使われている薬手帳はほとんど見なくなりました。専門医の間でもSU剤は高用量は危険だという認識のようです。
低血糖を起こすとブドウ糖をエネルギーとしている脳の働きに支障をきたし、意識を失って倒れて事故につながるリスクが高まります。無自覚性の低血糖を繰り返すことによって認知症リスクが3割増加するというデータもあるようです。さらに低血糖になると心臓に栄養を送っている動脈(冠動脈)が収縮して心筋梗塞や致死性の不整脈を引き起こす事も近年報告されています。糖尿病患者の死因としては「QT延長症候群」という心室性不整脈による心室細動による突然死が多いようです。米国で行われた臨床試験(アコード試験)によると、HbA1cを6.0%以下と厳格にコントロールしすぎた集団は7.0~7.9%でコントロールした集団よりもわずか3年余の間に22%も死亡率が増加したとの事です。特に65歳以上の高齢者で経口血糖降下剤を複数内服している方々に関しては食事時間のズレや、食事量の変化、運動量の変化に伴って無自覚の低血糖を繰り返している可能性が高いようです。それに伴って上記の冠動脈攣縮や心室性不整脈のリスクも高まると言えるでしょう。それゆえ高齢者では死につながる低血糖を極力起こさない事を最優先すべきだと言えるでしょう。
以前のブログで書いたように認知症の治療薬として定着しているコリンエステラーゼ阻害薬(CHE-I)や認知症の周辺症状(行動心理症状)を抑制する目的で使用する抗精神薬なども同じように冠動脈攣縮や心室性不整脈による心臓突然死のリスクを高めると言われていますので、やむをえずこのような薬剤を処方するケースでは、HbA1cを8.0%前後でコントロールすべきではないかと考えます。
この事実だけでも薬が多剤併用されると非常に危険だという事がよくわかってもらえると思います。


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by shinyokohama-fc | 2014-12-18 18:22 | 医療
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