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PDDでは大脳皮質に広汎なコリン作動神経障害

放射線医学研究所で開発されたMP4A(methyl-4-piperidyl acetate)というPETトレーサーを用いることで、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)による水酸化・加水分解速度定数を直接絶対値で評価することで、脳局所のAChE活性を測定することが可能になったようです。この研究チームはこのMP4Aを用いたPET検査を、パーキンソン病(PD)、認知症を伴うパーキンソン病(PDD)/レビー小体型認知症(DLB)の臨床像を呈する患者に実施して、データをまとめ評価した結果を、2009年のNeurology(米国の神経学会雑誌)で発表しています。
MMSE(認知機能)が低下するほど大脳皮質のAChE活性が低く、コリン作動性神経障害がPDの認知機能に強く関連しているとの結果を得ています。PETの利点は脳内のどの部位でAChE活性が低下しているかを見える化(可視化)できることです。AChE活性は未治療PD、治療後3年以上のPDでは後頭葉の一部限局した範囲にしかAChE活性低下がみられず、PDD/DLBでは前頭葉~側頭葉を含めた大脳皮質の広範囲でAChE活性低下がみられました。マイネルト基底核からのコリン神経経路には帯状回・後頭葉に投射する内側系と前頭葉・側頭葉など広範囲に投射する外側系がありますが、PDD/DLBでは内側系+外側系が障害されている可能性が示唆されました。
千葉大学の神経内科では神経変性疾患における大脳皮質コリン神経系減少率を検討しているようです。PDでは-10%、PDD/DLBでは-20%以上と大きな差があるようです。一方でPSP,MSAでは-10%以下、SCA3/6ではー2%以下だったようです。
米国のBohnenらのグループは、PD,PDDの大脳皮質におけるAChE活性は罹病期間や運動症状の重症度とは相関せず、注意力・遂行機能障害と関連することを示しています。また彼らはPDの転倒イベントと視床のコリン神経系活性の相関性を検討しました。その結果として転倒歴のあるPDでは大きなACh活性低下がみられたという事です。
視床のコリン神経系は姿勢保持・転倒防止に関連し、大脳皮質のコリン神経系は注意力・遂行機能に関連するようです。PDD/DLBでは両方ともコリン神経系の神経障害が進行性のようです。
以前のブログでも取り上げていますが、放射線医学研究所が2012年に発表している、アミロイド沈着を伴うPDD/DLBというのが存在するというものであり、PDD/DLBは病理的に①アルツハイマー+レビーと②レビーという2つのタイプが存在し、①はコリンエステラーゼ阻害薬が無効、②は有効との報告でした。
数か月単位でラッシュな進行性がみられるPDD/DLBという症例がいくつか確認できますが、現存の治療薬などまったく通用しないことがわかります。ドパミン神経だけではなく、コリン作動性神経細胞がどんどん変性・脱落していくような症例にコリンエステラーゼ阻害薬を使ってもまったく通用しないことが、症例を通じてよく理解できます。効果がないばかりか、少量のリバスチグミンやドネぺジル、ドパミンアゴニストでも姿勢異常(首下がり、腰曲がり)が誘発されたり、動作歩行障害が悪化したりするようです。
その一方でPDが発症して15~20年経過している緩徐進行性の症例にはこのような臨床像はみられません。発症22年経過した72歳の女性PD症例に関して、初診時にみられた薬剤性せん妄の要素を解除して実施したMMSEは28点でした。つまりPDという病型では発症後20年以上経過しても認知症はみられなかったわけです。これに似た症例を2~3人診ていますが、やはり転倒歴はほとんどなく、注意力・遂行機能は維持されています。これらの症例ではおそらくMP4A/PET検査ではコリン作動系神経障害はかなり限定的なのだろうと思います。
こう考えていくと、アミロイド沈着を伴うPDD/DLBは、非常に悪性度の高い疾患群であり、原則的に経過が非常に緩徐・良性で非進行性のPDやDLBとは同じスペクトラムにあるとは言い難いです。臨床的には以下のように分類されるのではないかと思います。
(1)パーキンソン病・純粋型(PD);ダットスキャン軽度~中等度異常、 アミロイドPET正常~軽度異常
経過は非常に緩徐で良性、15~20年長期に経過しても中等度以上の認知症、重度の精神症状はきたさず、薬物処方過剰などの外的要因を除外すれば、日常生活動作に関する遂行能力と注意力は維持される。転倒は少ない。
パーキンソン治療薬の調整によって運動機能も比較的維持される、長期経過してもレボドパは有効である。
(2)レビー小体型認知症(DLB);ダットスキャン高度異常、 アミロイドPET正常~軽度異常
経過は非常に緩徐で良性、薬物選択を慎重に選べば、良好にコントロールでき、日常生活動作能力も維持される
(3)アミロイド沈着型・パーキンソン型認知症(PDD/DLB) ;ダットスキャン高度異常、アミロイドPET高度異常
高度の姿勢異常や転倒が多く、遂行能力・注意力は著しく阻害され、幻覚や妄想などの精神症状も強い場合がある。様々な薬物処方に対して少量でも有害事象が出現するが、レボドパ含むパーキンソン治療薬、ChEIなどは効果は全くないかあっても一時的で月単位で進行速く、多くは歩行不可となり、介護困難で入院や入所の対象になりやすい
パーキンソニズム(運動障害)、認知機能低下、精神症状がいずれも著しく、薬物コントロールがほとんど不可能なのが、(3)だと思われます。臨床経過と病状の重症度からPSP-RSに類似しています。ドパミン作動神経とコリン作動性神経の障害が重度であるため、ほとんど既存の薬物治療が通用しないようです。パーキンソニズム(運動症状)で発症するか、認知機能障害で発症するか、精神症状で発症するかの違いはあれども、最終的にはどれも重症になります。それに比べて(2)はパーキンソニズムがあったとしても薬剤性の要因を除外すればかなり軽度で、パーキンソン治療薬を全く必要としないケースも少なくないです。よく診察しないとわかりにくいようなレベルです。(1)はレボドパなどでパーキンソニズムはかなり軽減できます。臨床的には(1)(2)と(3)は全く別の疾患だと考えたほうがよいのではないかと個人的には思います。一般的にPDDと診断される疾患群は(3)であることがほとんどのようです。
一般的に(2)を臨床医が診断するのは相当難しいと思われます。動作歩行障害が目立たないので多くはうつ病など精神疾患とされています。幻覚(幻視・幻聴)や妄想を訴える場合もありますが、これらは(2)に特異的な症状ではなく、非定型ATD,FTD/SD,CBSなどでも高頻度にみられます。幻覚・妄想の発症部位は単一ではないからですし、高齢者の場合は様々な薬剤によっても幻覚(幻視)は容易に誘発されます。個人的には幻覚(幻視)というあまりにもありふれた症状をDLBの診断基準から除外すべきだと考えています。幻覚・妄想よりもむしろアパシー、アンへドニア、抑うつなどがDLBらしさなのではないかと考えます。パーキンソン治療薬が一切入っていない状況で診察すると、わずかに左右差のあるパーキンソニズムが確認できます。多くはドパミン阻害剤(抗精神病薬かChEIなど)によってパーキンソニズムが顕性化しますが、原因薬剤を減量・中止など修正すれば容易に軽減します。
私自身も(2)正確に診断する自信はありません。パーキンソニズムもアパシーもない幻覚症例を何人かダットスキャン検査を依頼しましたが、予想通り正常でした。近年はDLBの過剰診断が拡大生産されている状況のようです。
その一方で、PDに対するドパミン作動性薬剤の過剰投与によってPDD/DLBが拡大生産されています。多くの場合はドパミン作動性薬剤を一切整理することなく、ChEIが追加されます。こういうケースはPDD/DLBでもなんでもなくて、ただの薬剤カスケードにすぎないので、一時的にはChEIは有効かもしれませんが、またすぐに別の問題が出てきます。終わりなき有害事象悪循環の罠(袋小路)に迷入してしまうのです。


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by shinyokohama-fc | 2016-12-02 12:33 | 医療

アルツハイマー型認知症とメマンチンの再評価

「アルツハイマー型認知症」とはどういう臨床像なのでしょうか?私は認知症ばかり診るような「認知症専門医」ではありませんが、最近になってようやく純度の高い「アルツハイマー型認知症」の臨床像というものが理解できるようになりました。基本は除外診断に尽きるということです。
「アルツハイマー型認知症」では記憶・見当識・実行機能・注意障害などが3~4年単位で進行するため、ほとんどが仕事ができなくなります。日常生活動作も家族の援助がないと難しくなり、援助が得られない環境にいるケースでは早々にグループホームなどの世話になるしかない事になります。
「行動心理症状も精神症状も動作歩行障害もない、一見普通の人にしか見えないけど、日常生活動作が自立困難な認知症」それこそが典型的な「アルツハイマー型認知症」であり、発症年齢は55~75歳あるいは60~70歳が大半だと思います。そもそも発症年齢を同定するのはほぼ困難ですが、周囲が異変に気が付いた年齢というべきでしょう。そのため感度に大きな誤差が出ます。70歳を超えると純度が減少します。いわゆるレビー病理やピック病理が混在することによって、パーキンソン、グレイン、脳血管性などの要素が混在してくるので、アルツハイマーの純度は減少しておそらく50%くらいになると思います。75歳を超えると、グレイン(AGD)やPART(SD-NFT)のようなアミロイド無関係のタウオパチーの比率が増えてくるので、アルツハイマーそのものが減少してきます。たとえアルツハイマー病理が死後に確認されても、実際は本来のアルツハイマーとは大きくかけ離れた臨床像の症例ばかりになってしまいます。80歳以上ではやく半数を占めるのが、グレイン(AGD)と言われています。これはFTLDに似た臨床像で行動心理症状が前面に出ます。その一方でほとんどは日常生活動作は自立しています。
成書によると、病理的に「アルツハイマー」でも、臨床的には視空間失認や失行が強い、大脳皮質基底核変性症候群(CBS)をきたすタイプや、幻覚・妄想などのBPSDが強く出現するタイプ、前頭葉に病変が強く脱抑制が目立つタイプが存在するようで、私の外来においても非典型例がいくらか存在します。その多くは50~70歳と比較的若年者ですが、やはりこのような非典型タイプにおいては、コリンエステラーゼ阻害薬+メマンチンの標準的薬物処方は通用しないようで、たびたび奇異反応や副作用を起こすのではないかと思われます。
脱抑制、精神症状のない典型タイプでは、発症後7~8年経過して、簡易テストがほとんどできなくなった、FAST6レベルでも、メマンチンは10mgで有効でした。ガランタミンのみで2年継続してきましたが、病状が進行してアパシーで不活発になっていたケースではこの薬のおかげで活気を取り戻せたようです。
認知症を数多く診ている医者の中で、コリンエステラーゼ阻害薬ばかりを評価して、このメマンチンをまったく評価していない方々がいるようです。確かに高齢者に使うと軒並み眠ってしまったり、せん妄になったりするケースも多いので、「頭が悪くなる薬だ」と決めつけている医者も多いようですが、私はそうは思いません。たぶん多くの認知症専門を自称する医者は、コリンエステラーゼ阻害薬・ファーストの価値観が抜け切れていないのではないかと思います。以前から言っているように、この薬は単独で使用してこそ効果を発揮する薬剤だと思っています。コリンエステラーゼ阻害薬のフルドース(ドネぺジル10mg、リバスチグミン18mg、ガランタミン24mg)と併用するように指導している指南がこの薬の価値を貶めているのです。
純粋型のアルツハイマーの中等症~重症にとっては大変貴重な薬剤だと考えます。またコリンエステラーゼ阻害薬の副作用の多さ、リスクの高さを考えると、使いにくい症例が非常に多いのが現実です。コリンエステラーゼ阻害薬が使えない、発症して5年以上経過した症例にはメマンチンが有用ではないかと思います。


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by shinyokohama-fc | 2016-11-22 18:56 | 医療

小脳失調が主体のPSP-C

進行性核上性麻痺(PSP)のサブタイプで小脳失調が強く、筋トーヌスが低下(筋弛緩)している、PSP-Cというタイプがあります。当院でもこの2年で10名の臨床的にPSP-Cと推定される症例を診察しました。今月に入ってからも2名PSP-Cの症例を診ました。今年5月に神戸で行われた日本神経学会でPSPに関するシンポジウムを聴講しましたが、欧米ではPSP-Cという概念はなく、多くがMSAと診断されているのではないか?という意見がありました。PSP-Cについて最初に論文発表したのは、新潟大学神経内科です。PSPの原因であるリン酸化タウタンパクは大脳・脳幹だけではなく、小脳にも蓄積します。小脳にタウ蛋白が蓄積すると、やはり小脳失調が主症状となり、本来のPSPの姿勢反射障害・前頭葉性失調(フロンタルアタキシア)にプラスして小脳性の平衡運動失調も加わるため、より転倒性が増すことになります。
小脳症状の主なものは以下のとおりです。
1)よろよろする歩行(歩行失調) 2)スムーズに話せない(断綴性言語) 3)ペンをうまくつかめない(測定障害) 4)目がスムーズに動かない(滑動性眼球運動障害)
1)~4)が揃うのは一般的に脊髄小脳変性症(SCD)かオリーブ橋小脳萎縮症(OPCA/MSA-C)などの慢性進行性の小脳変性疾患ですが、PSP-Cの症状は一般的に1)のみの事がほとんどのようです。歩くときに左右に体幹がよろける酩酊歩行で、左右の足の開きはフロンタルアタキシアのみのPSP-RSに比べてもかなり大きくなります。方向転換時のよろけが最も大きく、継ぎ足歩行や片足立ちが困難になります。筋緊張(トーヌス)はむしろ正常より低下しており、PSPで通常筋強剛になる頸部や体幹ですら筋トーヌスは低下傾向です。当院に受診したPSP-Cと思われる症例を検証すると、前医で処方された少量のレボドパでも病状は悪化したといいます。レボドパはむしろドーパミン補充により筋緊張を低下させるので、PSP-Cの筋緊張低下をさらに悪化させる事になります。逆にコリンエステラーゼ阻害薬(ChEI)はアセチルコリンを賦活させて筋緊張を亢進させるので、筋トーヌスを正常化させ、この病態には合う可能性があります。PSP-RSやPSP-Pに対しては頸部~体幹および四肢の筋緊張が亢進しており、症例によっては頸部がガチガチに固まって前後にほとんど動かないケースも少なくないですので、ChEIはむしろ用量に比例して病状を悪化させ、場合によっては嚥下障害を悪化させる可能性があります。ただしChEIは筋緊張を亢進させるだけで、小脳性運動失調を改善させるわけではありません。MSAやSCDにはTRH治療が保険適応となっていますが、実際にはそれほど効果があるわけではないようです。
PSP-Cは古典型PSPのRSに比べて進行スピードはかなり遅いですが、それでも発症して6~7年経過すると失調が強くなり、ごくわずかな距離の歩行移動も困難になります。失調が強いケースだと、体幹が左右に大きく動揺します。
PSP-RSやPSP-P、PAGFなどではこういう所見はみられないため、PSPサブタイプの中でもかなり異質なタイプだといえるでしょう。


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by shinyokohama-fc | 2016-07-12 16:54 | 医療

開眼失行と眼瞼痙攣はジストニアの一種

先日、あるCBS-CBD(大脳皮質基底核変性症)と思われる症例の動画をみせてもらいました。開眼しない時間が多いとのことでしたが、なんと開眼しない状態で食事を普通に嚥下していました。前医では意識障害(せん妄)ではないかと言われていたようですが、意識障害下で食事を普通に嚥下するのは不可能です。意識障害の改善に使用されているシチコリン注射を実施されたが全く改善しなかったという事でした。これは眼の周辺筋のジストニアの一種で、開眼失行または眼瞼痙攣ではないかと思われます。この病態は全くと言っていいほど周知されていない症状のようですが、大脳基底核障害によるジストニアの一種です。特にPSPSやCBSではかなり高率にみられる症状です。進行性核上性麻痺機能尺度日本語版(PSPRS-J)には「眼瞼機能不全」という項目があり、そのスコアは1)瞬目の減少 2)開瞼閉瞼困難または眼瞼攣縮 3)瞼が開けつらく、眼瞼攣縮のため部分的視覚障害 4)瞼が意思に反して閉じるために目が見えない状態 と4段階で評価となっています。開眼失行と眼瞼攣縮の定義を以下に列記します。
開眼失行(apraxia of lid opening) ; 閉眼後の随意的な開眼において、上眼瞼挙筋の収縮開始遅延のため、開眼しようとしているが、なかなか開眼できない状態。開眼しようと眉を吊り上げたり、額にしわ寄せたりする事がある
眼瞼攣縮(blepharospasm) ; 眼輪筋など閉瞼に関与する筋の随意運動困難により自由な開瞼閉瞼ができない状態。眼瞼に力が入りすぎてしかめっ面になる。
当院で診療した50例の進行性核上性麻痺・症候群(PSPS)のうち、5例に明らかな開眼失行・眼瞼痙攣を確認しました。CBSも一部PSPSとオーパーラップする同じ疾患群ですので、2~3例に同様の症状を確認した記憶があります。
パーキンソン病においても発症後20年前後の経過の長い症例においてはレボドパのオフ時間に同様の症状が見られます。この症候は大脳基底核が起源だと考えられているようです。
意識レベルの評価として有名なグラスゴーコーマスケール(GCS)では意識レベルの評価として開眼機能(eye opening)というのがあり、E4)自発的に普通の呼びかけで開眼 E3)強く呼びかけると開眼 E2)痛み刺激で開眼 E1)痛み刺激でも開眼しないというスケールがあるくらいなので、医療者には開眼しない=意識障害だと誤認されやすい傾向があります。実際は眼瞼筋に不自然に力が入りすぎて開眼できないだけなので、このような状態の方は意識は清明に保たれているため、命令動作には従えるはずです。周囲の人々は「この人は意識がない」と勝手に認識して、油断して本人に都合の悪いことを平気で言ってしまう場合がありますので、かなり注意が必要です。
このような局所ジストニアの治療としてはA型ボツリヌス毒素が適応になります。神経筋接合部の神経終末からアセチルコリンの放出を阻害し、3~4か月の長期にわたる筋弛緩効果がありますが、かなり医療費としてはかなり高額になりますので、あまり普及していないようです。


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by shinyokohama-fc | 2016-06-20 17:14 | 医療

行動異常型前頭側頭型認知症(bv-FTD)の臨床類型、類似病型など

マンチェスター大クループのスノウデンらは行動異常型前頭側頭型認知症(bv-FTD)を、脱抑制型、無欲型、常同型の3つの臨床病型に分けられると提唱しています。つまりピック型認知症の代表格である、bv-FTDはすべて同じ症状という訳ではなく、やはり多様性があるという事です。3つの臨床病型の特徴を以下に示します。
1) 脱抑制型 (disinhibition form) ;前方連合野~辺縁系、前頭葉眼窩面・内側面、右腹内側前頭葉皮質~扁桃核
落ち着きなく、無目的な過剰活動、高度の社会性喪失による反社会的行動などが主症状で、生来の発達障害や知的障害と類似した行動パターンを示す。
A1)社会的に不適切な行動 A2)マナーや上品さ(言葉・行為・服装など)の喪失 A3)衝動的、軽率、不注意な行為
環境依存症候群;言語によって行為制御できない、利用行動、模倣行動がみられる
2) 無欲・無為型 (apathetic form) ;前頭葉背外側面、右BA10野
無気力、自発性・意欲低下、無頓着、保続的な症状が特徴
B)初期からB1)無関心・意欲低下 B2)不活発
C)初期から C1)他者要求や感情に対する感受性低下 C2)社会的な興味・人間的暖かさ、対人交流の低下
3) 常同型 (stereotypic form) ; 線条体、下部前頭前野、前部帯状回
初期から同じ行動や言葉があり、強迫的で儀式的な行動傾向がみられる。他人が制すると苛立ち、怒りやすい。
D1)単純な繰り返しの運動 D2)複雑な繰り返しの運動 D3)型にはまった言葉(反復言語)
bv-FTDは病理的には3リピートタウの異常蓄積によると言われていますが、初期~中期は前頭葉のタウ蓄積により障害される部位が局在的ですので、上記のようなタイプに分かれると思われます。bv-FTDの症例がすべて反社会的で暴力的だというわけではないようです。もちろん病状の進展にともなって1)2)3)の臨床症候がオーバーラップする可能性は高いと考えられます。
以上のbv-FTDに類似する症候の疾患群が存在します。実際に臨床的にbv-FTDの14%がCBD、7%がPSPと言われています。進行に伴い発症して5~10年経過してから、CBS,PSPSの臨床症候である、四肢動作障害や姿勢歩行障害が現れてくるパターンの症例が少なからずみられます。それ以外にAGD(グレイン、嗜銀顆粒性認知症)は全認知症の10%、高齢者認知症の50%を占めると言われています。最近は健康な女性長寿者の増加に伴い、80歳以上でbv-FTD的な症候で発症するケースが目立つようです。これらの多くはグレインであり、行動心理症状が目立ち、同居者や介護者が最も迷惑するタイプで外来では最も受診率が高い傾向にあります。FTD類似症候群としては、他にも遺伝性のFTDP-17、FTD-MND、DNTCなどがありますが、いずれも低頻度であり、通常の認知症外来で遭遇する頻度としては圧倒的に多数なのがAGD、続いてPSPS、CBSという印象です。AGDに関してはガランタミンだけで奏功するケースが多いようです。
bv-FTDの治療薬としては、最近出版された、前頭側頭葉変性症の臨床について書かれた書籍によると、脱抑制型には非定型抗精神薬が、無欲・無為型、常同型にはSSRI,SNRI、非定型抗精神薬が推奨されていました。しかし私の外来での臨床経験で言いますと、75歳以下で発症した典型的なbv-FTDと思われる症例ではこれらの治療薬の有効性は低いようです。どうやら統合失調症やうつ病のようには上手くいかないようです。先日の講演会によるとアパシーはうつとは違って、SSRIやSNRIは効果がないとの事でした。むしろアパシーに対してはドパミン作動薬のアマンタジンやアセチルコリンエステラーゼ阻害薬のリバスチグミンのほうが有効性が高いと言われてました。私もこの点には同意です。認知症患者のうつに対してよくSSRIなどが使われる傾向にありますが、殆どのケースでは無効か症状が悪化しています。これは認知症の行動心理症状の陰性症状の大多数がアパシーであるということを示していると思われます。アパシーとうつの鑑別は専門医でも難しいそうですが、うつは「やる気はあるのにできない」、アパシーは「最初からやる気がない」そうです。私の経験では前医処方でSSRI、非定型抗精神薬に対して無効な症例で、アマンタジンに変更すると上手くいく症例が多いようです。


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by shinyokohama-fc | 2016-05-30 19:07 | 医療

幻覚(幻視・幻聴)は前頭側頭型認知症で高頻度に出現

臨床的診断として前頭側頭型認知症(FTD)には行動障害型認知症(bv-FTD)、意味性認知症(SD)、進行性非流暢性失語症(PNFA)があります。前2者の疾患については、発症年齢65歳以下という条件で、今年7月から大幅に拡大された医療費助成対象疾病・神経難病に、PSPやCBDと同様に国に申請できることになりました。
実際の症例ではこの行動障害、語義失語、非流暢性失語というのはオーバーラップしています。またピック複合関連疾患と位置付けられている、PSPSとCBSの4リピートタウ症候群でも行動障害、語義失語、非流暢性失語が多くみられる事がわかってきました。つまり、ピック系群の疾患は大なり小なり失語症状がみられるようです。これは前頭葉・側頭葉の障害で現れる症状ですので、前頭葉・側頭葉に病変が拡大していくATDやDLBの一部バリアントにも現れると推定されますが、実際のATDやDLBの臨床的典型例では進行例でも失語は目立たないようです。つまり失語という症状はピック系群の症候群に特徴的な症状といえると思います。初期の軽度な段階ではしばしば家人や介護者から「会話がかみ合わない」という印象がもたれるようです。失語或いは会話障害と行動障害がみられれば、それだけで臨床的・前頭側頭型認知症として間違いないでしょう。臨床的・前頭側頭型認知症(FTD)にはbv-FTD,SD,PSP,CBSが含まれます。前2者は身体症状がほとんどなく、後2者は身体症状が顕著であるという違いはありますが、行動障害、失語症という点に関しては程度の差はあれ共通しています。
これらの症候群を数多く診て、病歴を聞いて新たにわかった事がありました。初期は前頭葉本来の症状である、アパシー(自発性の減退、無関心、無気力、無為)が前面に出ることです。しばしば老年性うつ病と誤認されて、多くは精神科医にTCAなどの抗うつ剤を処方されて、脱抑制症状が悪化して興奮したり、さらにアパシーが悪化したというエピソードがよく聞かれます。また、ある時期には非常に顕著な幻覚(幻視・幻聴)症状がみられる事です。PDやDLBのようなレビー関連症候群と違うのは、前頭葉特有の脱抑制症状が加わっているためかなり激しく訴えるという点です。認知症専門医らは「高齢者が幻覚を訴えればDLBだ」という思考回路があるのかもしれません。認知症専門医がDLBだと診断した患者を私が神経内科医としての視点でみてみるとまったくDLBらしさがない。つまりDLB特有の不幸オーラ、多愁訴による疾病過剰意識、陰鬱さ、動作の緩慢さがみられず、不自然なほどに陽気で鼻歌を歌ったり、手をたたいたり、椅子を回して遊んだりしています。この脱抑制ぶりはFTDだと誰でもわかるほどでしたので、物を指して名前を言うようにと5つ物品を示して聞くのですが、一つも言えません。重度の語義失語です。臨床的にFTD-SD、意味性認知症で間違いありません。日本で有数の患者を診ているであろう認知症専門医が「幻覚=DLB」と診断した患者を私はFTD-SDと診断したわけです。
ただこれらの症例ではChEI、クエチアピンが併用されていても、まったく幻覚や脱抑制症状は抑えられていませんでした。どうやらFTDはDLBとちがってChEI+非定型抗精神薬が奏功しにくいようです。臨床的FTDに共通しているのは、ChEIの2種類で幻覚や脱抑制症状が悪化しやすいということと、抗精神薬が非常に効きにくいという事です。既存の神経系薬剤が通用しにくくコントロールに難渋するので、PSPやCBD同様に神経難病に相応しい?と言えるのではないでしょうか?


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by shinyokohama-fc | 2015-11-27 18:58 | 医療

大脳皮質基底核症候群(CBS)の主要症候(2)行動抑制障害

タウイメージングPET検査において大脳皮質基底核変性症候群(CBS)ではタウが基底核と白質の限局的領域に蓄積するという報告がありました。PSPSでタウが前頭葉~側頭葉、中脳被蓋~脳幹、小脳に至るまで広範囲に蓄積するのと対照的でした。前頭葉障害型DLB(アミロイド蓄積型)でも前頭葉~側頭葉に広範囲にタウが蓄積するそうです。
CBSはPSPSに比べて非常に進行が緩く、症状が弱いという印象はこのタウPET検査からも理解できると思います。
CBSがPSPSと大きな違いは前頭葉障害がそれほど強くないことです。症候学について書かれた成書によるとCBSにおいてはPSPSでみられる「多幸」「脱抑制(行動抑制障害)」がみられないとされています。
しかし、PSPSに比べても極めて稀と認識されていたCBSの臨床像を呈する症例を75歳~85歳の高齢女性で比較的よくみかけるようになりました。そしてこれらの症例に共通しているのは、「多幸」「脱抑制」がほぼ全例でみられる事です。抑うつ的・神経症的な印象は皆無で、動作歩行障害がかなり顕著にもかかわらず、病識がまったくないため、しばしばその面で介護者のイライラ感を誘発しやすいようです。
高齢者CBSでは従来から言われている、常同行動、環境依存、失語症に加えて、利用行動(使用行動)、易刺激性、脱抑制行動などが前面に現れる症例が多いようです。これらの高齢者CBSを診察しますと、片側上肢運動拙劣症・上肢の左右差はそれほど顕著ではないが、上肢を目的をもって使用することは困難です。しかし多くの症例では車椅子に座っている高齢女性が突如として診察室の机の上のマウスやボールペンを触りだします。何の悪げもなく触る様子はまるで小さい幼児のようです。いわゆる利用行動(使用行動)という症状ですが、諸説あるがやはり被影響性の亢進、行動抑制障害(脱抑制)の一部と捉えるとわかりやすいと思います。前頭葉障害が画像診断ではさほどでもないのに、こうした症状が顕著に現れるのはなぜなのか?と症例をみながら考えました。行動抑制系の神経回路として「前頭葉-基底核-視床回路というのがあります。この回路が大脳基底核病変のみで伝達障害をおこすと言われています。その影響で二次的に前頭前野機能低下を起こして情動的精神症状や認知症類似症状を引き起こすと言われています。高齢者ではもともと加齢に伴う前頭前野の機能低下があるので若年者よりもこのような症状が出現しやすいのではないかと推定できます。つまりCBSの前頭葉症状の多くは二次的な症状ではないかと考えます。
パーキンソン病の外科治療として確立されている、深部脳刺激(DBS)ですが、主としてこの回路に含まれる視床・淡蒼球に作用する治療です。刺激ポイントが少しでもズレると症例によっては行動抑制障害がみられる事もあると言われます。この線条体・淡蒼球・視床という複雑なターミナルステーションのような部分の病変・障害はデリケートなものですので、神経系の薬剤の与で過敏反応や有害事象を起こす場合も少なくないのでしょうか。



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by shinyokohama-fc | 2015-10-06 12:49 | 医療

CBS(大脳皮質基底核変性症候群)の主要症候(1)一側上肢の運動拙劣

大脳皮質基底核症候群(CBS)と思われる症例を開院以来15例ほど診療してきましたが、最もわかりやすい片側上肢の顕著な運動拙劣症候が確認できるのは6例にとどまっています。顕著な片側上肢の運動拙劣~不使用のほとんどが「右手」ではなく「左手」です。今回はこれについて考察したいと思います。
おそらくCBSには右大脳優位機能低下タイプと左大脳優位機能低下タイプがあるはずで、その比率に関しては成書には記載されていません。左手の運動拙劣症状が現れる症例は右大脳優位機能低下例です。程度の差はあれ多くは左半側空間無視と非流暢性失語を伴っています。右大脳脳卒中で左半側空間無視の場合、失語は伴わないのと異なります。もともと大半の人は右利きであり、左手に比べて右手を使う機会は圧倒的に多くなります。私も1~2例だけ右手拙劣タイプを診ていますが、このタイプに関してはかなり進行しないとわかりにくいという事です。少なくとも右利きで右手を生来から頻用する方は右手の運動拙劣が表面化しにくいのではないか?それに対して左手の場合は普段使わないので、軽度の巧緻運動障害が起こると益々右手に頼る傾向が強まり、次第に使わなくなるので廃用化が早いのではないかと思われます。手の運動拙劣という症状はパーキンソン病の主要症状としても有名ですが、
パーキンソン病は発症年齢や個人の資質に差異はあるものの、重度の廃用化に至るまでは15~20年かかる傾向があります。それに対してCBS右優位タイプの場合は4~5年以内にほぼ片側上肢の完全拘縮・廃用化に至る事が多いようです。しかしこの「運動拙劣」という症状は一般の臨床医に理解されにくい症状でしばしば「運動麻痺」と誤解される事が非常に多いようです。存在しない脳梗塞による左片麻痺と診断されてしまうようです。たしかに左上肢を屈曲したまま歩行するので、一見重度の左上肢の運動麻痺に見えるのですが、私の手を左手に近つけると猛烈な力で握り返してきて驚かされることがあります。これは前頭葉症候群の本態性把握反応ですが、中等度以上のCBS症例にはかなりの確率で顕著な把握反応がみられます。手で触れたものを反射的につかんでしまうのです。また普段は全く動かさないにもかかわらず、何らかの外的刺激や状況反応によって突如動かないはずの上肢が無目的に動くという事もよくあります。つまり「運動拙劣」という症状は「自分の意志どおりに上肢をうまく動かせない(命令動作を含む)」と言い換えることもできます。「運動麻痺」の場合は麻痺肢にいかなる刺激を与えても重度麻痺の場合はまったく動きません。こういう症状は大脳基底核特有の症状で、基底核が障害されると起こります。CBSとPD以外で比較的多いのは脳血管性パーキンソニズムと呼ばれる病態であり、基底核に微小梗塞あるいは血流障害が起こることによるものです。最近は脳血管性パーキンソニズムの症例を診ることはCBS以上に稀になりました。
「運動麻痺」という症状は主として「錐体路」の障害で起こり、「運動拙劣」という症状は「基底核」の障害で起こります。高齢者医療に携わる医療者、看護・介護・リハビリの専門職にはそのことをまず知ってほしいと思います。


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by shinyokohama-fc | 2015-09-25 09:18 | 医療

長寿化・高齢者増加に伴う神経変性疾患の増加

敬老の日に発表された統計では、現在日本では65歳以上の人口が3384万人、80歳以上の人口が1002万人もいるという事です。ここ数年で後期高齢者(75歳以上)で何らかの神経変性疾患が発症するケースが激増したという印象ですが、それは母数の増加にもあるのでしょうが、感染症治療や心疾患・がんなどの予防が国民レベルに浸透したという医療的にはポジティブに捉えるべき成果の裏返しなのでしょう。
日常診療していて驚かされるのは80歳以上で発症する老年認知症(DLB、AGD(グレイン)、NFT-SDなど)が非常に多数を占める一方で、PSPSやCBSと思われる症例も比較的よく見られます。20年前に私が神経内科の診療を始めた頃はこのような症例は60~65歳前後で発症し1~2年に1人診るかどうかという程度でしたが、75歳以上で発症するPSPSやCBSが増えているようです。もはやPSPSやCBSは以前のようなレアな神経難病ではなくなりつつあります。神経内科医以外の診療科のDrはPSPやCBSを診たことがないDrも多いと思われるため、多くはパーキンソンに似た動作歩行障害があることからDLBやPDと診断されているようです。一般的に診療したときに最初にレアでマイナーな疾患を想定せず、メジャーな疾患を想定して薬物処方するのが常識的だと思われます。DLBに対してはコリンエステラーゼ阻害薬、PDに対してはレボドパなどパーキンソン治療薬を試すのが普通ですが、それらが効果がないか、むしろ奇異反応で症状が増悪する場合は、PSPSやCBSを疑うきっかけになると思います。特に80歳以上の方では一般的に高齢に伴う薬剤代謝能力の低下・薬剤過敏性の増加によって薬剤忍容性の低下がみられます。私の場合は80~85歳のPSPS、CBSに関しては神経系にダイレクトに作用するタイプの薬剤処方は極力最小限に留めるように心がけています。このような高齢者の神経難病に対しては薬物療法よりもむしろ緩和ケアが重要です。
医者というのは薬で治そうとしますし、患者側からもそれを求められます。しかし神経難病に有効な治療薬は存在しないという現状を考えますと、生活の質(QOL)を第一に考慮すれば80歳以上の方に対してに関してはやはり介護側が中心になって、いかにして神経難病の緩和ケアを充実させていくかという事に力点を置くべきです。神経難病はいわゆる老衰とは違います。何歳で発症しても神経難病です。老衰者のように穏やかな経過とはいかないわけです。そして50~60歳の神経難病と80~90歳の神経難病は臨床像も周辺環境などがまるで違うので、やはりそれぞれの年齢相応の対応というのが求められます。現状のように60歳でも90歳でも同じ薬物治療をガイドライン?していてはうまく行くはずがなく、80歳以上では薬物治療に限界を感じる事のほうが多いですし、むしろ弊害のほうが多いように思えます。


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by shinyokohama-fc | 2015-09-23 10:33 | 医療

MIBG心筋シンチ検査とDLB診断の限界

ここ1~2年のキャンペーンによって、DLBという疾患への啓蒙が進む中で、症候主体の箱入れ的診断法による患者あるいは診察医によるミスリード症例をたくさん見る機会が増えたという印象です。その多くは診断基準の主要症候といわれる、1)幻覚(特に幻視) 2)認知の変動 3)パーキンソニズムの正しくない解釈によるものでしたが、ここに来て補助診断的検査の正しくない解釈症例も目にするようになりました。
MIBG心筋シンチという検査があります。心筋の自律神経を評価する目的の検査です。長年糖尿病を患っていたり動脈硬化を患っていて無症候性の心筋梗塞がありそうな症例、特に男性高齢者では当然欠損像が多くみられます。先日、MIBG心筋シンチで欠損が確認されて、認知症専門医?にDLBと診断されたという長年糖尿病を患っている80代男性の方が訪れました。この検査をオーダーした専門医?は長年糖尿病を患うとその罹患年数に比例して糖尿病性自律神経障害が起こってくるという事実を知らないのかもしれません。検査というのは必ず落とし穴があり、それゆえこういう検査はあくまで補助的な位置つけにしかならないわけです。
症候学的解釈の誤りのよくあるパターンとしては
1)幻覚(幻視)⇒薬剤誘発性(抗PD剤など)、前頭側頭型変性症候群(前頭葉起源)、側頭葉てんかん(側頭葉起源)
2)認知の変動⇒薬剤誘発性せん妄、電解質異常、側頭葉てんかん、行動障害型老年認知症の症状の曲解
3)パーキンソ二ズム⇒長期罹患パーキンソン病、薬剤誘発性EPS、PSP/CBSなどの症状の曲解
DLBという症候群をなんでもかんでも入れてしまう箱入れ的診断法(疾患群の広義化)に私が賛同できない理由というのは、非常に多種多彩でヘテロな症候群に対して、画一的な薬物処方がまるで通用しないという事実がわかったからです。薬剤過敏性による薬害を極力減らすためにはDLBという症候群に対してはできるだけ上記に挙げた除外診断を徹底することにより狭義化するべきだと個人的には感じます。そもそも主要症候の1)~3)を根拠にDLBであろうと言われてしまう症例群が本当にDLBなのか?患者を診れば診るほどわからなくなり、神経系薬剤の処方を重ねれば重ねるほど病態がどんどん修飾されすぎて迷宮入りしてわからなくなるというのが現実です。一番厄介なのはすでに4~5種の神経系薬剤の多剤処方をされていてどうしようもない状態で来られる方です。一度神経伝達物質や受容体の流れを多剤で修飾してしまうと本来の症候的な病態がまったく見えなくなるからです。例えば前医にパーキンソン治療薬を3~4種類も使用されて幻覚が出て大変だ!というDLBらしき症例をときどき見かけますが、この状態でパーキンソ二ズムの評価をしようというのが無理な話で、こういう症例の多くは診察室では明らかな筋固縮はみられず、薬が過剰、効きすぎて何らかの副作用が出ています。一般的にDLBのパーキンソニズムというのは初期~中期は基本的に軽度で、安静時振戦は目立ちません。ただしパーキンソニズム(薬剤誘発性EPS)を起こす薬がまったく入っていなければの話ですが。四肢・体幹の歯車筋固縮が顕著なDLBはまず見たことがないです。
結論をいうと、DLBの診断というのは非常に難しいです。PSPSやCBSの診断のほうがはるかに明確でブレがない。その捉え所のないヘテロな症候群をそれぞれ複数の神経系薬剤によってコントロールというのはさらに難しいです。それは個々の症例がすべて薬剤に対する反応が全例違うからです。多くの症例では想定外の副作用が続出してしまうため、どこからが主症状でどこからが副作用かがさっぱりわからないという迷路に入り込みます。どんな薬剤を試してもすべて副作用が出てしまってどうしようもないという症例も少なくないわけです。コリンエステラーゼ阻害薬(ChEI)が有効だとよく言われますが、実際はまったく違うのです。おそらく本当に有効といえる症例は3~4割程度しかないのではないか?ChEIが著効してHAPPYという報告ばかり見聞すると、「そんなに簡単に良くなるのか?」という希望を生みますが、その希望はものの見事に打ち砕かれます。3~4割は初期量でごく少量のChEIに対してすら顕著な薬剤性過敏性を示すわけで、神経系薬剤に対して絶望的に忍容性がない症例があまりにも多いのです。一昨年ChEIが無効で予後不良なDLB症例が存在すると発表していた貴重な学会講演がありました。その多くは前頭葉機能障害が顕著な症例でアパシーが強い症例のようです。ああやはりそうなのかと納得させられました。薬物治療の難しさと限界を思い知らされたわけです。


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by shinyokohama-fc | 2015-09-08 11:04 | 医療
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