人気ブログランキング |

ある認知症専門医の雑感

認知症専門科?認知症専門外来?っていったい何のためにあるのか?認知症治療薬はいったい誰のために必要なのか?そういう事を考えさせられる事例を最近診る機会がありました。

総合病院には「認知症専門の診療科」が最近あるようです。国をあげて「認知症を早期発見・早期治療しろ」と煽っているからなのでしょうか?まさに「認知症」というのは現代医療のトレンド?のようです。

60歳代後半の男性、2年前に奥様が「物忘れ」が気になり「認知症専門の医療機関」を受診し「アルツハイマー型」と診断されましたが、ここでは処方はされていませんでした。

この男性は勤務先の近くの総合病院の「内分泌代謝科」で「糖尿病」で通院中でしたが、そこから同じ病院の「認知症科」にコンサルトされて、1年半前から定期診療を受けていたようです。診療情報提供書によると通院開始当初(初診時)は、一人で公共交通機関の利用、スケジュール管理などが可能だったようです。「服薬も本人が管理できている」と記載してありました。

キツネハトテストができず、遅延再生が悪く、MMSE26/30点、FAB17/18点、時計描画テスト15/15点、その他さまざまな高次脳機能評価がされていました。
髄液検査でアミロイドベータが基準値の2倍以上検出されました。
MRI 検査で側頭葉の萎縮はあるが、海馬萎縮は目立たない一方で、両側側脳室周辺、放線冠に結節状の高信号域が散在し、高度の虚血変化があったようです。
脳血流シンチでは皮質全域の血流低下がある一方で、皮質下の血流は低下していなかったようです。
DATスキャンでは両側線条体への集積が軽度低下 (SBR 右3.8 左3.3)

結局、アルツハイマー型とレビー小体型の合併と診断されたようです。
そして初診時からドネぺジル5mgが処方されたようです。

その後、1年で認知機能は悪化して勤務できなくなり、易怒・暴力がひどくなり、奥様は一緒に住めなくなり、実家に滞在することになったようです。
事実上、一人暮らしとなり、飲酒量が際限なく増えてしまい、結果的に元々服用していた糖尿病の薬も、ドネぺジルも服用できなくなりました。

1か月前に当院を受診されて、診察する事になったのですが、時計描画は顕著なクロージング現象で、数字が枠から大きくはみ出ていました。図形模写もできません。少なくとも1年前は完全に描けたそうです。その一方で、動作の緩慢さはなく、診察時の礼節は維持されていました。

ドネぺジル5mgの服薬を契機にした認知機能の悪化と推定されました。

この症例がここまで悪化した理由はいくつか推測されます。
1) 飲酒量が多すぎて、アルコール依存症レベルだった
神経系に作用する劇薬とアルコールの併用は禁忌です。

2) アルツハイマーとレビーと脳血管性の合併例であった
併発する症例においては、アセチルコリンが枯渇状態である事が推定されますので、強力なコリンエステラーゼ阻害薬により悪化する可能性が高い。
脳血管性認知症にドネぺジルを使用すると死亡率は9倍になるという報告もあり、海外では脳血管性認知症にドネぺジルの使用は推奨されておらず、代わりにガランタミンが使用されています。

3) 服薬が正確に行われる環境ではなかった
アルコールとドネぺジルの併用によって行動心理症状(易怒・興奮)が悪化してもなお、服薬が本人管理のままだった。
添付文書上、認知症治療薬は本人管理してはいけないことになっています。逆に言えば、本人管理できる患者は、認知症治療薬を服用する対象ではない
と言えるでしょう。

ドネぺジル(先発品)の添付文書、臨床的に意味のある効果判定方法である、全般的臨床症状評価 (CIBIC-plus)を用いて実施した287例の解析結果

ドネぺジル5mg使用96例
著改善0、改善4、軽度改善27、不変26、軽度悪化30、悪化9、著悪化0
ドネぺジル10mg使用90例
著改善0、改善7、軽度改善35、不変20、軽度悪化19、悪化9、著悪化0
プラセボ101例
著悪化0、改善6、軽度改善18、不変30、軽度悪化34、悪化11、著悪化1

ドネぺジルを服用すれば「32~47%前後の症例では改善する」一方で、「30~40%程度の症例では悪化する」という結果になっています。改善と悪化はほぼ同数で「どちらに転ぶかわからない」が現実でしょう。それは患者の体質は一様ではなく、薬の感受性も個人差が大きいからです。

他の認知症治療薬はまだ歴史が浅く、このような臨床試験は行われていないようですので、実態は不明です。ドネぺジルとはコリンエステラーゼ阻害作用の強度がかなり違うので、別の結果になると推定されます。

このような現実を踏まえて、フランスでは認知症治療薬を保険適用から外したのだと思います。認知機能の改善という点でいえば費用対効果がよくない
という事に尽きるのだと思います。

欧州ではインフルエンザ治療薬も初期から使用しない方針だそうです。健常人のインフルエンザ感染者が重症化する確率が少なく、治療薬を使わなくても大多数の感染者が自然治癒するというのがその理由です。
それよりも感染が拡大させないために「自宅で安静に」と指示して、医療費を極力使わせないという方針が徹底されているようです。
日本だけがインフルエンザ治療薬を使いすぎている現状には批判的な意見もあるようです。それは認知症治療薬も同じことかもしれません。

余談ですが、日本と欧州では医療費に対する考え方が大きく違うということを申し上げたかったのです。
つまり、日本は国民皆保険に基ついた過剰医療であるため、恩恵を受けるケースも多いが、薬害を受けるケースも多くなるのは当たり前なわけです

このケースはその典型例だと思われますが、そもそもアルコール多飲との併用や本人管理を許容した状態で、ある認知症専門医が外来でステレオタイプ的に診断して判で押したように認知症治療薬を処方しているという現状には呆れるばかりです。もはや論外ではないでしょうか。

このケースにまず必要なのは、「アルコール依存症の治療」であったことは言うまでもありません。

小生は「神経内科専門医」ですが「認知症専門医」ではありませんので、あえて批判的に書きました。それくらい許しがたい事例でした。
小生は認知症治療薬の存在を否定しているのではなく、適切に使用できるケースを厳密に選択する必要があると申し上げているのです。

このケースのような認知症治療薬の不適切使用が横行しているのが、日本の現状ではないかと推定されます。
現状のような認知症治療薬の乱発乱用が臨床現場を混乱させているのは言うまでもありません。
このような状況が続くのであれば、いっそのことフランスと同じようにしてしまえという意見が大きくなってくるのも仕方ないのではないでしょうか?


新横浜フォレストクリニック
内科・漢方内科・老年内科・神経内科

JR・新幹線・横浜市営地下鉄 
新横浜駅 篠原口より徒歩1分







by shinyokohama-fc | 2018-12-20 14:38 | 治療
line

新横浜フォレストクリニック(横浜市港北区・新横浜駅)の院長が日々綴る様々な情報を発信するブログです


by shinyokohama-fc
line