ベンゾジアゼピン&オピオイドクライシス

今回は「日本医事新報 No.4920(2018.8.11)24~25ページ」の「不眠大国ニッポンにおける"ベンゾクライシス"」という記事

を元に小生の個人的意見を書きたいと思います。長尾和宏先生の「町医者で行こう!!」という連載シリーズで、今回が第88回目だということです。

米国ではオピオイド濫用による死亡者は2016年で42000人を超えており、昨年10月大統領が「公衆衛生の非常事態宣言」をしました。

日本ではどうでしょうか? 近年、トラマドールというオピオイドが整形外科領域でかなり頻用されているようです。依存性・精神作用が他のオピオイドよりも弱いとされていますが、80~90歳の代謝が低下し、認知機能が低下した超高齢者に対しても委細構わず濫用されているようです。

その結果として深刻な痙攣発作、せん妄など精神症状、意識障害などを引き起こしている事例を数多く診てきました。特に認知症、脳卒中後遺症など脳機能が低下している事例にはこの薬は禁忌にすべきでしょう。

脳機能低下のない30~50歳くらいの神経痛などに1~2か月の期間限定で使えば大変有用な薬だと思いますが、
90歳の認知症患者にも平気で処方されている現実をみますと「オピオイドクライシス」が高齢者・認知症者で今後頻発しそうな予感がします。

一方で、ベンゾジアゼピンは近年、依存症、認知症リスクがクローズアップされています。しかし、ベンゾジアゼピンを長期に服用している方々は、依存症の本態である脳内報酬系を断ち切ることは決して容易ではありません。
以前のブログでふれた、エチゾラムという薬は特に依存性が強く、内科医や神経内科医にも頻用されているので問題とされています。

ゾルピデムという薬は非ベンゾジアゼピン系として長年米国で濫用されてきましたが、今年の診療報酬改定では、同じベンゾジアゼピン受容体作動薬としてペナルティーの対象になっています。特に高齢者に対しては、以前のブログでも指摘したように、行動異常、せん妄、幻覚などの精神症状を頻発させる傾向があるので、認知症、脳卒中後遺症など脳機能が低下している事例にはやはり好ましくない薬と言えるでしょう。

睡眠導入薬、特にベンゾジアゼピン受容体作動薬を長年投与された結果、高齢になって認知機能が低下します。そこへ2種類の抗認知症薬が増量されてそれによって惹起された行動心理症状に対して抗精神病薬が複数上乗せされるケースも散見されるようです。まさに「薬剤カスケード」の極致であり、薬剤性の認知症に対してさらに薬剤で上塗りするという悪循環です。

ちなみにコリンエステラーゼ阻害薬は高率に睡眠障害を誘発します。コリンエステラーゼ阻害薬による薬剤性の不眠症に対して睡眠導入薬が処方されるというパターンも非常に多いようです。これも「薬剤カスケード」ですね。

多重受診、フリーアクセスを容認している現状では、多剤投与になることが多く、「多剤投与」の弊害を患者側に広く啓発しないかぎり前に進みまないでしょう。減薬を提案すると怒り出す患者さんは少なくないようです。

小生の場合は、睡眠導入薬のみならず、特に神経に作用する劇薬に関しては、必ずデメリット、副作用を強調し、それでも薬が飲みたいのか?と問うようにしています。それゆえ深刻な依存症になっている患者さんにはある意味過酷な指導かもしれません。薬依存症が最も深刻なのは他ならぬ「パーキンソン病」の患者さん達です。

長尾先生は「高齢者の尊厳を守るためにも、今後は国民啓発を優先すべきだと感じる」と書いておられます。まさにその通りだと小生も感じます。
忙しく限られた外来診察時間では上記の問題を説明して理解を得る時間もない、それゆえ医者は「薬剤カスケード」に走るのだと思います。
医者にペナルティーを与えるだけでは、患者の不信感を増幅させるだけではないでしょうか?


新横浜フォレストクリニック
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by shinyokohama-fc | 2018-08-20 12:18 | 治療
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