薬の多さを疑い、奈良から来られたパーキンソン病の方

先日、拙著を読んで奈良市からご主人と同伴で来られた方がいました。

70歳の女性で、私が見た印象としては「神経症的気質」で、女性のパーキンソン病の方には多いタイプだと思われました。

ご主人の書かれた経過を読ませていただきましたが、A4プリント3枚で非常にくわしく書かれており、よくわかりました。
以下、その要点だけ示します。

昨年5月、血圧が高いという事で、バルサルタン80mgを服用していたが、血圧の上下が著しく、アルファ遮断剤のドキサゾシン(朝2mg夕2mg)に変更となり、血圧の上下は消えたが、倦怠感がひどく動けなくなったので
1か月もたたずに自己中止し、倦怠感はなくなりました。


この当時、午前中作業をすると背中が凝る、指先が動かしにくく、細かい作業がしにくい、食欲がない、便秘傾向、体重が減った、話していると声が小さくなる、ろれつが回らない時もあるとの事でした。

昨年6月、地元の総合病院で内視鏡、超音波などを含めて全身の精密検査を受けたが、内臓には特別な異常は確認されませんでした。
神経内科による諸検査では、MRI検査は異常なく、ドパミントランスポーターシンチグラフィー(DATスキャン)を受け、線条体のドパミン集積が正常より大幅に低下していると指摘されました。

昨年8月、大阪市内の総合病院へ検査入院したそうです。
MIBG心筋シンチグラフィーで心筋の集積が低下している、レボドパ配合剤に対する反応(効果)が鈍い。嗅覚検査で異常なし、立っていると血圧が徐々に下がってくる(起立性低血圧)が確認されました。

結論として「パーキンソン病かそれ以外の病気かの判定ができない」
レボドパ/カルビドパ配合剤150mg×3回(毎食前)服用、血圧に対してはアムロジピン2.5mg1回を服用するように指示されました。
その病院の関連クリニックを紹介されたそうです。

レボドパ配合剤を開始して、背中の凝り、手指の動かしにくさ、話しにくさは改善したとの事です。その一方で
食欲がない、多く食べられない、薬を服用すると30分くらい気分が悪くなる。トイレが近くなった。

今回、当院まで来られた理由としては、以下のとおりです。
1) 薬の量が多すぎるのではないか?減らしたい、できればやめさせたい。
2) 本当にパーキンソン病かどうか疑問

レボドパ配合剤150mg×3回(1日450mg)も服用していることもあり
診察では、運動症状はほとんど確認できず。四肢の筋強剛は全くなしで
ベッドへ寝るなどの動作、歩行の速度はまったく正常に見えました。
手指の指タップで、左手がわずかに右手よりも落ちるくらいでした。
つまり、診察ではパーキンソン病らしさは皆無でした。
しかし、血圧測定では、やはり臥位から立位で30mmHgの持続性の血圧低下がみられ、立位での血圧は収縮期110前後でした。

拙著にも書きましたが、パーキンソン治療薬の最大の特徴というのは
「運動症状を改善する薬によって非運動症状が悪化する」という事です。
特に、自律神経が不調なタイプの方はその傾向が強いです
ほとんどの薬は自律神経に何らかの作用をして影響を与えるから当然です。

この方は、明らかにMIBG心筋シンチグラフィーでも心筋の交感神経集積が低下している、起立性低血圧などが確認されます。
当然、消化管(胃腸)の運動機能不全も推定されますので、
最初から1回150mgというレボドパ配合剤の服用がこの方にとって、多すぎるのは自明の理であり、消化器症状が出るのは当然と言えます。
私としては、運動症状の重症度がそれほどでもないにもかかわらず、レボドパ配合剤が多すぎるので、少しずつ減薬の方向で
とりあえず、レボドパ・カルビドパは100mg×3回としました。
常識的に考えれば、レボドパ配合剤はできるだけ減量して、他のドパミン作動薬を補助的に使うべきでしょう。教科書にはそう書いてあるはずです。

このケースで私が感心したのは、ご主人が「薬(降圧剤やレボドパ配合剤)が多すぎるんじゃないか」と感覚的に理解していた事です。
患者の事を一番よくわかっているのは、1~2か月に1回(大病院なら3か月に1回)、2~3分しか診ない医者などではなくて、ずっとそばで診ている
配偶者・同居者のはずです。「配偶者が事実上の主治医」と拙著に書いたのはそういう意味です。

今回は、苦労して本を書いたかいがあったと思いました。その一方で
1) 最初からこんな大量のレボドパを処方する理由が全く理解できない
2) 減薬したい、薬が多すぎるという要望を訊ける医者はいないのか?
という事を感じました。

6月17日(日曜日)にAP品川という会議室で、パーキンソン病とそれに関連した認知症をテーマにした講演会を行います。
この2か月で来られた症例も紹介します。
テーマはおそらく「パーキンソン病、増薬すれば悪くなる」になるでしょう。
今回、奈良から来たこの方のように、不要な増薬から守る事ができるのは、
配偶者など家族しかいません。

だから拙著は、医学書ではなく、一般書にしたのです。



新横浜フォレストクリニック
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by shinyokohama-fc | 2018-04-10 11:58 | 治療
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