鹿児島認知症ブログ・書評(3) 抗パーキンソン薬が際限なく増える理由


書評(3)抗パーキンソン薬が際限なく増える理由

減薬で患者さんを良くすることは一種の解毒であり、解毒が治療の一つと言えるのであれば、我々がやっていることも世間では治療と呼んでもらえるのかもしれない。だが、それは本来的な意味での病気の治療とは全く別物であろう。

拙著108~113ページの症例3のように、一見して前医の多剤増薬によって病状が看過できないほど著しく悪化している(多くは薬剤性せん妄)場合は、原因薬剤の中止を指示するだけでなく、111ページ5行目に書いてあるように「週に1回通院していただいて、解毒目的のグルタチオン点滴治療」を実施せざるを得ないことがあります。
これは、パーキンソン病に限った事ではなくて、むしろ多くの愁訴を有する病気、例えば「レビー小体型認知症と診断されている症例(本当はそうではない)」などに多く見られがちです。
初めから、不適切な投薬を重ねたりしなければ、このような事態は起こりえないわけで、解毒に成功して副作用から解放されたからといっても、本来あるべき姿に戻っただけなので、治療したという実感や達成感はないです。

患者さんに、パーキンソンの要素を見出したときには、
#1 パーキンソン病の可能性がある
#2 パーキンソン病は個人差が非常に大きい病気である
#3 数年後にパーキンソン病ではない病気だったことが判明するかもしれない
#4 初期から抗パーキンソン薬を増やしすぎると後々大変な目に遭う事が多い
#5 抗酸化治療のグルタチオン点滴療法は、短期的にも長期的にもメリットが大きい
このような事をお伝えしている

まず第一に言いたかったのは#2です。それはこの病気を主として診療している神経内科医であれば、誰でも知っている事です。
振戦優位型と無動型、運動障害の重症度が全く違う、別の病気に見えます。
50歳前後で発症した方と、80歳以上で発症した方もまるで違います。
発症して20年以上経過して認知症にならない方もいれば、2年で認知症になってしまう方もいます。幻覚の出にくい方と出やすい方もいます。

#3に関しては、ずっと前医でパーキンソン病だと言われて、そうだと信じて診ていたが、実はやはり違っていた(皮質基底核変性症(CBD)、進行性核上性麻痺(PSP)など、拙著141ページから)というのはよくあります。これについては、また改めてこのテーマで後日書きたいと思います。

#4に関しては、よくあるパターンです。この1~2週間で拙著を購読したのが契機で、初診で受診された方々はこのパターンでした。
拙著165ページ3行目~「初期からレボドパを大量に投与すると、効果が早く失われやすい」実はこれは海外の論文からの報告です。
発症から10年以内にウェアリングオフ現象が深刻になっている方々にお話を聞いてみると「初期からレボドパがどんどん増やされた」と言われます。
先々の事を考えれば、「レボドパをいかに増やさずに治療するか」というのが、本来神経内科の専門医が考えるべきことではないでしょうか?

#5に関しては、短期的に前医の処方を解毒する目的で実施するのは有意義です。本来は解毒剤ですから。しかし長期的に有意義(メリットが大きい)かと言われると果たしてどうなのか? #2のごとくパーキンソン病そのものに多様性が大きく、#3のように別の病気であるという可能性を考えますと、「グルタチオン点滴が効果があるケースも一部あるかもしれない」といった程度でしょうか。常識的に考えて、たとえ効果があったとしても、点滴の効果というのは長くは続きません。
このテーマについては改めてブログで書きたいと思います。

食事を見直して糖質の過剰摂取があれば制限し、腸内環境を整えることの重要性をお伝えしている

パーキンソン病の場合は、αシヌクレイン(レビー小体)が腸内の神経叢(腸管を動かす自律神経の塊)にたまるので、多くは便秘になりがちです。それゆえ
腸内環境が病気を左右すると言っても過言ではないでしょう。

パーキンソン病の病初期で当院を訪れ、説明を受けた患者さんの多くは怪訝な表情をしている。そして、いつのまにか通院が途絶えていく人達もいる
自分の伝え方もあるのだろうが、相手側の理解力の乏しさとも決して無縁ではない。
また、パーキンソン病ゆえの「治療薬を過剰に求めすぎる現象」も関係してるかもしれない。

小生の外来では、パーキンソン病の方が最も再診率が高いです。むしろ認知症のほうが、本人の病識が乏しい、薬が効かない、などの理由で、通院が途絶えていく人が目立つようです。
我々が外来で説明した事が頭に残らない事も多いので、文章化して個別の病気に対して、プリント資料をお渡しするのも一つの方法だと思います。
限られた時間において、医療の内容を一般の人に説明するには時間がかかります。しかし、パーキンソン病の患者さんとその家族というのは、基本的に真面目な性格で勤勉な方が多いので、すでに情報収集したりしていますのでむしろ「話が早い、通じやすい」方々が多いので、こちらもストレスが少ない気がします。
「治療薬を過剰に求めすぎる」患者さんは小生のクリニックには来ません(苦笑)。なぜならホームページに「減薬主義」を掲げているので。
実際「世間」には増薬主義の患者さんや医者が多いようですので、「減薬主義」というマイノリティーでやっていくのは大変ではありますが。

通院が途絶えた患者さんは、別の病院で多くの抗パーキンソン薬を盛られているのか、それとも自ら求めているのだろうか、と想像すると切ない

薬の種類が10種類近くあるにもかかわらず、保険医療における制限が全くないというのが、そもそも大問題です。

少量の抗パーキンソン薬で軽度症状改善があったのに、患者側がその効果に満足できずに増薬を希望する事はかなりある。増量に伴う中長期的なリスクを説明し、現状維持が無難であることを理解してもらうためには時間がかかるのだが、自分の希望に医者が応えてくれないことに失望して去っていく患者もいる

薬物中毒にならないように、リスクを説明してブレーキをかけるのも臨床医の大事な役目です。
小生の場合はこの4年でそのようなケースは記憶にないです。なぜなら「減薬主義」を掲げているので、そのような方が訪れるケースはないからです。

多くの患者を外来で診なければならない医者は、一人の患者に多くの診療時間を割くことができない。そのため時間のかかる作業は非効率的とみなして端折られがちである。患者に去られたくない医者は、それが決して本意ではなくても、求めに応じて薬を出すことがあるかもしれない。その結果で副作用が発現しても、増薬が本意ではなかった医者は、心の中で「自分で求めたのだから、自己責任でしょ」くらいに思っているのかもしれない。

これはまさに患者が過剰に殺到する病院における神経内科の外来、特にパーキンソン病外来における本質的かつ根源的な問題をダイレクトに表現していただいたと思います。
外来診療の限られた時間では、副作用のリスクはすべて説明しきれない事も多いであろうというのが、拙著を書いた意図の一つです。
薬による有害事象は、薬を求めすぎた患者にも責任の一端があるという事です。これを回避するのは、患者と医者がよく薬をどうするかについて時間をとって話し合う必要があるのですが、忙しすぎると面倒になり、増薬一辺倒になりがちのようです。それで患者側の医療側への不信感が増幅します。

患者に対して驚くほどの冷淡さを示す、神経内科医を見かけるたびに、そのような医者の持つ心的風景を、自分は上記のように想像している

そのとおりですね。小生も、かつて患者が殺到する多忙な病院外来ではそうでした。というか、冷淡にならないと外来が回らないのですね

抗パーキンソン病大量投与に関しては、処方元の医者側にも多くの問題はあるにせよ、一部は患者側にも、現在の医療制度にも起因するのではないだろうか。

2年前の診療報酬改定で、抗精神病薬については制限が制定されたのは記憶に新しい事ですが、抗パーキンソン病薬については相変わらず無制限です。
カナダのように、薬をすべて保険外にするというのが困難だとしても、薬に関しては一定額以上は保険対象外にするとか何らかのの措置を講じないと、現状のような野放し状態では保険医療そのものが破綻してしまうのではないかと心配されます。

次回はこのシリーズの最終回になります。


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by shinyokohama-fc | 2018-03-09 12:32 | 治療
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