ドパミンアゴニストはPDDには百害あって一利なし

この1年はドパミンアゴニストでひどい副作用に至ったPDDの症例がクリニックに多数訪れました。1か月前に来られた、かなりひどかった症例を以下に提示します。
75歳男性、10年前から歩行障害で総合病院の神経内科へ通院。主な運動症状はすくみと加速・突進の反復歩行で筋固縮は軽度、静止時振戦(ふるえ)も軽度、自立歩行はできるので、ヤール3度でした。
一見、普通のパーキンソン病(PD)に見えたのですが、字を書かせてみて驚きました。住所を書いてみると漢字6文字書くのに3~4倍くらい時間がかかり、まともな字が書けず、神奈川の川の字を飛ばしてしまう状態でした。時計を描かせてみると、数字と数字の間隔がバラバラで、12という数字を2つ書くことになってしまいました。高額な核医学検査ではなく、こういった医者でなくてもできるような単純作業をやらせてみて観察する事が何よりも大事だと思います。もし可能であれば、診察に来る前に同居しているご家族が自宅で実践して、紙に書いたものと携帯電話で録画したものを診察時に提示してもらえれば診察の時間も節約できるのではないかと思います。

総合病院の神経内科医からの処方は以下のとおりでした。神経内科医の診療は1年に1回にされており、通常はかかりつけ医の診療所でまったく同じ処方されていました。
1) レボドパ・カルビドパ配合剤(100mg)3錠
2) トリへキシフェニジル(2mg)1錠
3) カベルゴリン(1mg)1錠
4) プラミペキソール(0.125mg)6錠
5) マグネシウム(330mg)6錠
6) ファモチジン(20mg)1錠
7) リバスチグミン(9mg)1枚/日

まず75歳にもかかわらず、3)4)と新旧のドパミン・アゴニストが2種類も処方されているのには驚きました。3)は旧型(麦角系)ドパミン・アゴニストの中では、心臓弁膜症の発症率が最も高いと報告されている薬で、4)も3種類の中ではD3受容体に対する作用が強力であるが故に、高齢者では副作用が出やすいので控えるべき薬だと認識しています。 ドパミン・アゴニストという薬の問題点については以前のブログ内容を参照ください。
ふるえ(振戦)を抑える目的でと思いますが、2)抗アセチルコリン剤が処方されています。これも75歳という年齢では認知症、精神症状のリスクが高い薬なのでよほどの特別な理由がないかぎり使うべきではない薬です。
また残念なことにマグネシウムがレボドパと同じ時間帯に処方・服用されています。これではせっかくのレボドパもほとんど有効に吸収されていないのではと推定されました。
さらにファモチジン(抗ヒスタミン剤)が処方されています。近年、老年医学会のストップ対象でもある、漫然と服用すればヒスタミンの過剰抑制によって、せん妄や認知機能低下を誘発しかねない薬です。
リバスチグミンが9mgで処方されてたという事は、処方薬を決めた医者に、この方が「認知症」であるという認識があるのだと思います。

この方が私のクリニックに来られた理由としては、睡眠覚醒リズムが破綻しており、夜間の異常行動が顕著で、一日中、ひどい幻覚と妄想があったという事で、配偶者(奥さま)のストレスが大変なものでした。このような精神症状というのは、介護者をかなり疲弊させます。かかりつけ医は専門ではなくて、神経内科医(専門医)も1年に1回しか診ないとの事で、何も有効な対処がされず、見かねた家族の勧めで来られました。
診察した時は、意識ははっきりしていましたが、右手のふるえ(静止時)があり、筋固縮(筋強剛)は全く確認できず、動作の遅さもそれほどでもありませんでした。ただ歩行時にすくみと加速の反復と突進が顕著にあったようです。一般的に、すくみと加速の反復に対する有効な薬物というのはあまりなくて、セレギリンが有効な場合があるという程度です。
明らかに薬剤副作用でこじらせて、病態が複雑化してしまった症例というのは、正直、臨床医としてはあまり関わりたくないというのが本音です。認知症を伴うパーキンソン病(PDD)の精神症状が悪化する場合の90%以上は、薬でこじらせた事例ではないかと思います。こじらせる原因薬剤として、この症例の場合はまず第1にドパミン・アゴニストの2重使用、第2に抗コリン剤、第3に抗ヒスタミン剤です。
第1段階(初診時)で、ドパミン・アゴニストであるカベルゴリンをニュープロに変更、プラミペキソールを1/6まで減量、トリへキシフェニジルを減量、抗ヒスタミン剤を中止としました。これによってかなり幻覚やせん妄は減少したものの、完全にはなくなっておらず、動作レベルも悪化していましたが、突進はなくなっていました。やはり突進はドパミン・アゴニストの過剰反応だと推定されました。相変わらず夜間まったく眠れないという事でした。
第2段階(再診時)で、ドパミン・アゴニスト(ニュープロ、プラミペキソール)は両方とも完全に中止して、全く有効に作用していると思えないコリンエステラーゼ阻害薬(リバスチグミン)も中止しました。その代わりに、朝にアマンタジン100mg(起床時)とクロナゼパム0.5mg(就眠前)を追加しました。PDDにおいてはレム睡眠行動異常(RBD)が高率にみられ、その上で薬剤によるせん妄状態が悪化しやすく、昼夜を問わず不穏状態になりやすいようです。せん妄を高率に起こしやすいドパミン・アゴニストを完全に中止する必要があり、夜間の興奮による就眠を妨げる可能性のあるコリンエステラーゼ阻害薬も中止する必要がありました。
アマンタジンはPDDにおいては、どの薬剤よりも副作用が少なく効果が大きい薬ではないかと思います。PDDではDLBと同じように日中の眠気(過眠)、覚醒不良が問題になりますが、この症状に対して最も有効なのが、アマンタジンだと思います。50~150mgの範囲では精神症状を悪化させる事はほとんどありません。クロナゼパムはベンゾジアゼピン系薬剤ですので、呼吸抑制の副作用があり、誤嚥性肺炎を誘発します(以前のブログ参照)ので、本来は好んで使う薬はありませんが、RBDに対しては他に代わる有効な薬剤がないので仕方なく使っています。
2回目の再診時には、精神症状やせん妄状態はほぼ消失し、動作も大きな問題はなくなったようです。最後に抗コリン剤を中止してから、再度、認知機能の評価をする予定です。
この症例の処方では、アセチルコリンを抑える薬(抗コリン剤、トリへキシフェニジル)とアセチルコリンを増やす薬(コリンエステラーゼ阻害薬)が同時に使われていました。どういう意図で処方されたのかは私には全く理解できませんが、典型的な薬剤カスケードと言えるのではないかと思います。PDDやDLBの症例においては特に相反する薬剤を使うという事は好ましくないと言えるでしょう。
この症例でお分かりのように、PDDに関しては、現在までパーキンソン病関連学会や認知症関連学会が作成した治療ガイドラインに基ついた、パーキンソン病の治療薬の使い方もレビー小体型認知症の治療薬の使い方では上手くいかない、むしろ、双方の治療ガイドラインを頑迷に推し進めると病態が悪化してしまう事例が多いというのが最近よくわかってきました。PDDはPDでもDLBでもないので、同じ薬の使い方はできないと思います。程度は症例によって違えど、脳幹も辺縁系も大脳皮質もコリン&ドパミン作動系神経障害が起こるため、障害をカバーできるエリア・神経細胞がほとんど残っていない厳しい病態と言えます。PDでは問題なく使える薬であるレボドパですら忍容性がなくて増量できない症例が多いようです。PDD独自の治療薬の使い方を考えるべきではないかと思います。


新横浜フォレストクリニック
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by shinyokohama-fc | 2017-10-06 12:28 | 治療
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