症状が同じでも病態は異なる/病因は同じでも病態は異なる

臨床の現場で長年診療していると以下のケースに当たる事が少なくないです。
1) 症状は同じでも病態は異なることがある
例えば前回のブログで取り上げた若年性認知症に関しては一般的に言って頭頂葉と前頭葉の症状が中心になります。
頭頂葉の症状が中心だと一般的に大脳皮質基底核変性症候群(CBS)と診断され、前頭葉症状が中心だと行動障害型前頭側頭葉型認知症(bv-FTD)と診断される傾向にありますが、その病態は死後の病理解剖では、CBDやFTDではなくアルツハイマー(ATD)と診断される事が少なくないようです。つまり頭頂葉・前頭葉症状が中心でもCBD,FTD,ATD,
と様々な病態が考えられますが、それらを鑑別する事は不可能です。現在研究中のアミロイドPETやタウPETに多少は可能性がありますが、検査が超高額であるために実用的とは言えません。また混合病理・病態には対応困難です。これらすべての疾患を網羅しうる現時点では根治的治療法はタウ凝集阻害剤しかないと思われます。
CBSでも病理はPSP、PSPSでも病理はCBDなども珍しくない事であり、病理診断を臨床診断と合致させる事は不可能であることは成書に記載されています。今現在もっとも混沌としているのは幻覚・パーキンソン症候群の解釈であり、この症候群がDLB以外にもPSPS,CBS,bv-FTD,J-ATDなどが少なからず混在しているようです。パーキンソン症状があればレボドパなど抗パーキンソン薬剤を使うべきか?たしかに一度は試してみる価値はあると思いますが、有効性・メリットが感じられなければすぐに撤退(減量・中止)すべきだと思います。私の臨床経験では比較的安全に抗パーキンソン薬剤が通常用量で規定通り増量して使用できるのは発症10年以内のパーキンソン病(PD)だけだと思います。DLBやPDDは通常量だと幻覚・妄想などの統合失調症様症状を誘発しやすいですし、中には抗パーキンソン薬剤で低活動性せん妄や嗜眠傾向が誘発される症例も少なくないのが現実です。
2) 病因は同じでも症状が異なることがある
同じアルツハイマー病態(病理)でも60歳以下の若年発症者は頭頂葉・前頭葉症状が中心になり、問題行動が顕著です。一方で70歳以上の高齢発症者は数年間は海馬症状だけにとどまる症例が多く、一部前頭葉症状が出現するくらいで、頭頂葉症状まで出現するケースはごく稀です。またシヌクレイン病態(病理)でもPD,PDD,DLBはそれぞれ臨床像と経過の格差が大きく、特に発症年齢によってまるで臨床像が違うようです。PSPSやCBSもまったく同じで臨床像はさまざまです。一般的に言えることは若年発症は進行が比較的速い傾向にあり、高齢発症は進行が比較的遅い傾向にあると言えます。PSP症候群においては特にそれが顕著なようです。神経変性疾患を数多く診療して強く感じる事は、今の正確性の乏しい診断名(ATDとかDLBなど)から決まった画一的な薬物選択というシステム自体にもはや限界を感じます。それが柔軟性のない硬直化した薬物治療を多く生み出しているような気がします。やはり重要なのは診断ではなく対症療法です。認知症症候群の様々な多種多彩な症状への対応、副作用が非常に出やすく使いにくい神経系の西洋薬よりもむしろ漢方薬に可能性を感じます。今後は様々な漢方薬を積極的に試していきたいと思います。



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# by shinyokohama-fc | 2015-05-18 19:26 | 医療

若年発症の認知症症候群

一般的に神経内科医が認知症症候群として若年発症のケースを診療するケースは稀です。たぶん認知症専門外来でも1~2割程度、一般内科医が診る機会はほとんどないのではないかと思います。多くは行動異常が前面的に現れるために実際は精神科を受診することがほとんどではないかと思います。多くは「認知症」としての診断が困難で、精神疾患と捉えられて薬物治療が実施されるケースが多いようです。前回のブログに書きましたように、抗精神薬やコリンエステラーゼ阻害剤で過剰な副作用・奇異反応によりかえって病状が悪化するケースが多いようです。
45~65歳の若年発症例では病状が4~5年単位で目に見えて進行するケースが多いようです。また若年に限っていうとアルツハイマー型(ATD)は30~40%程度で、前頭葉型(FTD)の割合が多いと言われます。実際はATDでもFTDでも臨床症状・経過としては程度の差異はあれど、一般的に以下のような特徴を示す傾向にあります。
1)早期からの頭頂葉症状
肢節運動失行(習熟した行為開始が困難)・観念運動失行(習慣的動作が意図的にできない)・観念失行(目的のある道具使用と一連動作ができない)・構成失行(形態・造形ができない)・着衣失行(衣服の着脱衣ができない)・左半側空間無視(左側の対象を見落とす、常に左側を無視し、右側を向く)
2)早期からの前頭葉症状
運動性失語・非流暢な会話・被影響性亢進/環境依存傾向・常同行動/周徊行為・脱抑制行動(立ち去り行動など)
3)パーキンソニズム(おそらく前頭葉起源と推定される)
姿勢異常・動作歩行の緩慢さ・四肢の巧緻運動障害など、通常振戦(手足の震え)はみられない
記憶障害が進行するよりも1)~3)のような行動異常が進行してくるので、当人の不安・焦燥がより強いようです。臨床症状の特徴から、しばしば大脳皮質基底核変性症候群(CBS)との鑑別が難しくなります。臨床的にFTDやCBSと診断されたケースが病理診断がATDであったという事は少なくありません。頭頂葉症状と前頭葉症状が双方とも顕著な臨床像ではCBS-FTDと命名されます。病理診断はFTDだったりATDだったりします。パーキンソニズムがあるからDLBという事ではないと前回のブログで書きましたが、症例を見ればその違いがわかるはずです。
個人的な感想ですが、認知症症候群の病理診断名を臨床診断名にするのは無理があるのではないかと感じます。記憶障害は側頭葉症候群、失行は頭頂葉症候群、脱抑制・アパシーは前頭葉症候群という名前でいいのではないか。それぞれの症状についての対応が大事だと思います。現状は診断はATD?(ATDという正確な診断は現状では不可能)だろうから全員一律にコリンエステラーゼ阻害薬を決まった用量で内服させようということになっていますが、前頭葉症候群が強いATDに対してはかえって常同行動や脱抑制を悪化させてしまうリスクもかなり高いわけです。若年発症者の場合は最初の2~3年は問題なくても、2~3年経つと薬による問題が出てくる事が多い。前頭葉症候群はもっとも介護者を精神的に疲弊させる症状ですので、薬が適切なのか再考する必要が出てくると思います。


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# by shinyokohama-fc | 2015-05-16 16:58 | 医療

精神疾患と神経変性疾患の鑑別検査

認知症の行動心理症状に幻覚・妄想というのがあります。一方で認知機能障害を伴わない高齢者の妄想性精神障害が高齢者人口の急増に比例して最近増えているようです。高齢の独身者(未婚者または未亡人が多い)、独居者、社会的・精神的に孤立者などが多いようです。精神学者のRothにより、遅発性パラフレニー(the natural history of mental disorder in old age)と名つけられています。また遅発性統合失調症なるケースもあり、自分とは無関係の対象への体系化された幻覚・妄想を訴えます。双方とも認知症はまったくないかあってもごく軽度(年齢相応)です。
本来はこういう症状が主体の方は精神症状の対処に精通した精神科医を受診されるのが適切なのですが、私のクリニックにもときどきこういう方が来られます。診察した第一印象ではDLBのような違和感は感じられません。プレコックス感や暗い感じも全くみられません。初対面の人に対する人格・感情・礼節などは保持されているようです。
しかし本人やご家族に話を聞いてみると、幻覚・妄想が自分とは本来無関係の対象にまで体系的に広がり、発展性があるようです。その訴えの内容も自身に対する迫害妄想や色情妄想でより具体的であるため、それに関連した問題行動を起こしてしまうリスクを伴うようです。統合失調症などの精神疾患の病歴がなくても統合失調気質、妄想的人格傾向の方は数多く存在しますので、そういう人々が高齢化による周辺環境の変化により発病してしまう事が少なくないようです。当院に来るまでに前医であらゆる抗精神薬が試されている方もいますが、多くはこういう薬剤が奏功しにくいようです。また薬の長期内服により副作用の問題が懸念されます。若年者と同様に自傷他害に至る危険性が非常に高く、本人の同意を得ない入院の対象になりうるため、精神保健指定医による診療が必須と考えています。
認知症の妄想の多くは家族など身の回りの人を対象とした物盗られ妄想や嫉妬妄想で、DLBにおいても幻覚(幻視・幻聴)と被害妄想を訴えますが、断片的で体系化されておらず、空想的で内容は変化する場合が多いので、周囲の人間が適切な介護ケア対応をすれば問題行動を起こすに至らない事がほとんどです。
遅発性統合失調症やパラフレニーなどと思われる幻覚・妄想を中心とした精神症状で来院される方の多くはATDでみられる認知機能低下はなく、DLBでみられる動作歩行緩慢などのパーキンソニズムがまったくみられません。認知症を診察してきた神経内科医の立場から言うと、やはりATDでは相応の認知機能低下、DLBでは相応の動作歩行緩慢・思考遅延がみられるはずです。典型例DLBのパーキンソニズムはPDのそれに比べると多くは軽度ですが、医療者でなくても誰が見ても第一印象でそれだと目で見てわかるくらいハッキリしています。
昨今はDLBの疾患啓蒙活動が功を奏したためか、DLBの精神症状だけがクローズアップされているようですが、臨床現場ではDLBという疾患はそれほど多いという印象はありません。特に動作歩行障害・パーキンソニズムがまったくみられない(診察上でドパミン欠乏が全く確認できない)、抑うつ症状や激しい幻覚・妄想症状が前面に現れた非典型例の場合は除外診断目的としてダットスキャンを使用したドパミントランスポーターイメージングシンチグラフィー(DTI)という検査が有用ではないかと考えます。逆に言えば臨床的にパーキンソニズム動作歩行障害のハッキリしている症例にこの検査を実施してもほとんど意味はありません。例外的には心因性・演技性パーキンソニズムの場合は、疾病利得的な心理性が強い方が多くて対応に困ります。遠方から遥々付添人なしで単独で来院する方が多いです。こちらがパーキンソン関連疾患ではありませんと説明しても、頑として「自分はパーキンソンだ」と言い張りなかなか納得されませんので、そういうケースではDTIは有用だと思います。DTIという高額な検査を実施せざるをえないのはCT・MRIという形態的検査では精神機能性疾患と神経変性疾患の鑑別が難しいからという理由です。


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# by shinyokohama-fc | 2015-05-14 11:44 | 医療

jazz喫茶その2

昨年の6月のブログで書いて以来であるが、JAZZ喫茶の事を久しぶりに取り上げることにします。
自宅から近いこともあって、毎週のように通いつめていた白楽駅前のJAZZ喫茶が昨年1月に閉店して大変ショックではあったが、6月から武蔵小山駅付近のJAZZ喫茶に月に1回程度で通っていました。ブログにも紹介したように非常に気に入った店なのですが、距離・時間的な問題もあって現実的には日曜日しか店に行けないので、毎週のように日曜日の予定が埋まっていると行けなくなる時期が長くなってしまう事が少なくありませんでした。
このたび、白楽駅前のJAZZ喫茶の常連客でもあった方がJAZZ喫茶を5月から中華街で開店するというメールをいただいたのは非常にうれしい報せでした。店主の方は古くから海外に何度も足を運んでいて現地で数多くのライブ鑑賞もされていて、来日アーティストのライブ企画なども数多くされているようです。5月1日が開店日でしたが、私は翌日5月2日、土曜日の仕事が終わった後に19時頃に開店祝いで訪店しました。白楽駅前のJAZZ喫茶の元店主の方も来られていて久しぶりの再会はサプライズでした。店内は海外で収集されたJAZZの巨人達の写真がたくさん掲示されていて、掲示されている以外にも秘蔵写真をたくさん見せてもらいました。真空管アンプと本格的なスピーカーによるオーディオで昔ながらのJAZZのLPやCDをリクエストも含めて堪能させていただきました。
場所は中華街のほぼ中心でJR石川町駅とみなとみらい線元町中華街駅の中間くらいですが、私が歩いてみた感じでは石川町駅北口(中華街側)からのほうが近いような気がします。私の職場も同じ路線のJR駅前にあるので、仕事が終わってからアクセスできるという気軽さもあるので、これからは平日の夜にも行けるのではないかと思います。月に2回・日曜日に各アーティストの特集コンサートもあるようで非常に楽しみです。とりあえず、6月21日のBud Powellの特集は必ず参加したいと思っています。
JAZZ&COFFEE MARSHMALLOW(マシュマロ)
横浜市中区山下町214巴里堂ビル2F (中華街西門通り大珍楼本店2軒となり、JR石川町駅北口から徒歩6分)


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# by shinyokohama-fc | 2015-05-07 16:49 | 健康

行動障害型前頭側頭型認知症(bv-FTD)の薬物療法困難実例

行動障害型前頭側頭型認知症(bv-FTD)の薬物治療不応例で私が診療した症例は稀少ですが、発症年齢はおよそ推定で50~60歳です。75歳以上の高齢発症のbv-FTDが少量の抗精神薬で沈静化するのとはまったく対照的です。
あくまで推測ですが、おそらく前者がPick病で、後者は嗜銀性顆粒性認知症(AGD)が多いのではないかという印象です。病理診断疾患名のPick病とAGDを生前に診断するのは不可能なので、臨床的には若年性FTDと老年性FTDと呼称するのが適当ではないかと思います。前頭葉型ATDや前頭葉型DLBとの大きな違いは比較的早期から行動障害が顕著であるという点です。物忘れで発症したとされる症例も実際はATDとは違う性質の抑うつ気質の延長にある健忘症の可能性が高いのではないかと思います。私の印象では典型的なATDでは早期から行動障害は現れないし、中期以後で現れたとしても、それは薬物誘発性や環境的影響によるものが多いので、原因薬物の中止・変更や環境調整で容易に改善できるものです。それに比べて若年性FTDはそう簡単にはいかないのが現実なようです。以下に示す薬物治療の失敗例は当院受診前(前医処方分)と受診後(当院処方分)を含めたものです。
1) 68歳女性
60歳前後から異常行動・不潔行為・失禁など。診察時は多動・立ち去り行動・椅子に座らない・協力性なし・把握反応と抵抗症・失語(会話困難)、リスぺリドン3mg長期内服、クロルプロマジン25mgで無効、50mgで不穏・多動がさらに悪化。結果的に抗精神薬使用は断念。
2) 63歳女性
55歳前後から健忘症で、ドネぺジル10mgを3年内服、3年後から常同行動と激越性・脱抑制が顕著になり中止。行動心理症状の抑制のため、メマンチンを使用して高度便秘、リスペリドンとクエチアピンを使用したが効果がなく増量により動作歩行が悪化、クロルプロマジンを25~75mgまで増量され1~2か月は効果あったがすぐに切れて、多動悪化。副作用の遅発性の頚部ジストニアだけが残った。ジアゼパムも併用されたが、全く無効。診察時は多動・椅子に座らない・協力性なし・完全失語。壁に頭部を打ち付ける事が頻繁だったため、ベロスピロンを代用し、4~8~4mgで現在は多動は大幅に軽減し頭部打撲はなくなった。
3) 59歳男性
3年前に健忘症~無為で、ドネぺジル10mg、メマンチン20mgで嗜眠、SSRIやスルピリドも試されたが全く無効。
次第に歩けなくなり、レボドパ/カルビドパ450mgを増量されると精神錯乱、発作性の激越・叫声などの他に壁に頭を打ち付ける行動や放尿、暴言などがあり、L/Cを300mgまで減量するとこれらの異常行動は消失した。診察では顕著な使用行動、周遊、反復行為、失語のため会話が成立しない、ベッドに寝る事ができないなど。
4) 59歳男性
8年前に立ち去り行動、その後年をおって常同行動、激越性・脱抑制が悪化した。クロルプロマジン24~68mgが処方されたが、行動心理症状を抑制するほどの効果はなく、上半身の粗大な振戦性の不随意運動が出現してきたため中止された。
<若年性FTDに実施された薬物治療のまとめ>
1) コリンエステラーゼ阻害剤の増量により易怒・興奮性・常同行動など行動心理症状が悪化する。
2) 抗精神薬の効果は限定的で増量により行動心理症状が悪化したり、遅発性に運動障害性副作用(ジスキネジアやジストニアなど)を誘発しやすい。
3) 神経系薬剤全般に効果が乏しく、むしろ副作用が出やすい傾向にある。
4) 進行期(FTD第Ⅲ期)で出現する前頭葉起源の錐体外路症状(パーキンソニズム)に対してレボドパは効果がなく、むしろ増量により易怒・興奮性など行動心理症状が悪化する傾向にある。
5) 5HT1A受容体に結合特性のある抗精神薬(ベロスピロンなどが)一部の症例に有効かもしれない。
いずれにしても通常の認知症に比べて薬物治療は困難を極めるのが現実であり、非薬物治療としてのケアにも介護者を著しく疲弊させるので限界があるという印象です。若年性FTDに対する行動心理症状の普遍的な薬物治療の確立が望まれます。症例が稀少であるがゆえに、他の認知症と比べて置き去りにされているという印象が強いです。
医師側にFTDという疾患概念も非常に乏しく、多くはATDとかDLBと認識されているケースが多いようです。臨床症状が典型的なbv-FTDだとしても死後の病理診断がATDやDLBであるケースも少なからず存在するようです。このことからも、機能性側面を強く反映した臨床診断と病理診断というのは区別して考えたほうがいいのではないかと思われます。


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# by shinyokohama-fc | 2015-05-02 16:46 | 治療
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