PSP・CBSにドパミンは必要なのか?

PSP、CBSにドパミン賦活治療は無効。どの教科書にもそう書いてあります。当然ですが無効な薬剤は不要です。
PSP、CBSの臨床症例を数多く診察してみると、前医でレボドパやドパミン賦活剤などパーキンソン治療薬を無意味に多剤多種処方されている状態をよく見かけます。その多くは薬剤の効果がはっきりしないにもかかわらずただ漫然と継続されているだけのようです。これらの薬剤は長期的にはピックコンプレックス症候群に対しては有害な事が非常に多いです。事実として薬剤追加によって動作歩行が著しく悪化してしまった症例をよく目にします。レビー系のパーキンソン病やDLBの場合はそれらの治療薬の効果が明確であり、特にレボドパは半減期が短いために3~4時間で切れるはずです。そのため中止したりして本当に効果があるのか(この薬を飲み続ける意味があるのか?)を確認する必要があります。長年レボドパは「パーキンソン治療薬のゴールドスタンダードだ」と言われてきました。たしかにレボドパを投与すれば動けない人が動けるようになるというケースもあるでしょう。しかし特に検査による立証が困難であるパーキンソン病やDLBという病気の場合は、一般的に心因性反応による身体運動障害との区別が難しいです。またパーキンソン病やDLBの患者も神経症的な方々が多いです。こういう患者全員に鑑別のためにMIBG心筋シンチを実施しろというのも非経済的な気がします。レボドパが効いたと言っても、それがプラシーボ効果なのか本当の効果なのかは真相は不明なままです。なぜならレボドパは快楽・報酬系の神経伝達物質で依存性があるからです。最近の学会の流れとしてはできるだけ「レボドパは低用量で使え、高用量はできるだけ避けろ」という流れに変わっているようです。しかしそれが他の新規パーキンソン治療薬を使わせるための誘導ではないかという疑義も確かにあるわけです。実際は高齢で低体重の女性に450~600㎎/日などはとんでもない用量です。私の友人の神経内科医からもレボドパを通常量処方していて心臓突然死したケースが数例あったという報告がありました。その一方で高齢のPSPやCBSに対して800mg/日という神経内科医の処方を見て呆然とした経験もあります。
実際、実験室レベルの研究論文では国内も含めて、レボドパの神経毒の報告が散見されます。臨床レベルでは証明されていないというが、本当にそうでしょうか?レボドパ高用量やパーキンソン治療薬を盛られて長期に内服した結果として、精神的に錯乱したり、動作歩行ができなくなっていて、減量したら改善したという症例が多く見られます。
長期に治療薬を使用している症例では多種多剤併用すればするほどよくならないでむしろ病状が悪化するのではないか?という印象すら感じます。それが高齢者であればさらに忍容性に問題があると推定されます。
PSPとCBSの話に戻りますが、これらはマンチェスターグループによって「ピックコンプレックス」にカテゴリーされた疾患群・症候群です。前頭葉~側頭葉のタウが広範囲に蓄積している状態です。そういう状況に対して薬でドパミンを賦活したり補充したらどうなるか?当然のごとく神経伝達物質の微妙なバランスが崩れて、元々潜在している前頭葉症状が悪化しやすいわけです。具体的にはドパミン過剰による幻覚、精神錯乱、常同行動の悪化、抑うつなどを高頻度で誘発されます。セレギリン、エンタカポン、ドパミン受容体刺激薬の追加ではそういう症状がさらに悪化する可能性が高いという事は特に75歳以上の症例において確認できます。症例経験からいってもPSPとCBSにはドパミン賦活は必要ないと私は考えます。通常量で効かない(動作歩行が良くならない)から追加するいうのは愚策であり、一度高用量まで増量してしまうと薬剤の性質上減量や中止が危険を伴い困難だということがよく理解されていないようです。元はと言えば、高用量処方を行った医者の責任です。
「効果のない薬剤はまず中止して判定する」これさえ実践すれば上記のような薬害は回避されるはずです。


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# by shinyokohama-fc | 2015-02-03 18:03 | 治療

コリンエステラーゼ阻害剤(CHE-I)と抗コリン剤

当院では薬の副作用でこじれた認知症や神経変性疾患を初診で数多く受け入れているのですが、前医による呆然とするしかない処方が記されたお薬手帳を拝見することが少なくありません。特に最近よく見かけるのが、認知症患者にコリンエステラーゼ阻害薬(CHE-I)を処方した結果、頻尿症状(過活動膀胱)を誘発して、その上で旧来型の抗コリン剤(プロピぺリンやオキシブチニン)を処方するというパターンです。
半年前に79歳の男性でアルツハイマーと診断されている方が来院されました。お住いの近くの総合病院の専門外来でこのような処方(CHE-Iと抗コリン剤の併用)がされてから、傾眠・幻覚症状が悪化したということで、約20km先から遠路遥々当院まで来られました。診察中も嗜眠・朦朧状態でほとんど歩行できず、首垂れ前傾姿勢になっていたようです。原因となっているCHE-Iと抗コリン剤を両方とも中止するように指示しました。両方とも半減期の非常に長い(薬の副作用も長期に遷延する)薬剤で、重度のせん妄状態だったので、薬物中毒の治療薬(注射薬)をしばらく点滴しました。1か月後には首垂れ姿勢は改善して意識も覚醒状態となり自立歩行が可能となりました。もともとCHE-Iの副作用であったであろう頻尿症状も全くみられません。改めて神経学的診察をしてみると、両手とも強制把握反応が著明で、四肢の筋トーヌスで抵抗症(gegenhalten)を認め、歩行は開脚性歩行でしたが、小脳性運動失調は認めませんでした(前頭葉性失調・フロンタルアタキシア)でした。姿勢はやや捻転性の右への体幹傾斜(ジストニア)がみられました。皮質性感覚障害、肢節運動失行もみられたので、臨床診断としてはCBS(大脳皮質基底核変性症)としました。いずれにしても前頭葉系の神経変性疾患であることは間違いなく、臨床的にATDは否定的でした。CBSやPSPなどの前頭葉系の神経変性疾患にCHE-Iを処方すると例外なく精神症状が悪化するのは前述ブログに書いたとおりです。マンチェスターグループがピックコンプレックス(前頭葉系)にカテゴリーしている疾患群なので、CHE-Iで常同行動や行動心理症状がほぼ確実に悪化します。また抗コリン剤ですが、いまだに高齢者や認知症患者に旧来型の薬剤が平然と処方されている現実に驚かされます。「古くからある薬は信用できる」というのはこの薬に関しては通用しません。過活動膀胱の頻尿症状に使用される新型の抗コリン剤は膀胱選択性が高いので、高齢者や認知症患者が内服してもこの症例のように重度のせん妄状態を誘発することもありません。CHE-Iと抗コリン剤というのは相反する作用の薬剤と想定されがちであり、この2つの薬剤を併用するのはマズイのではという意見を以前聞かされた事がありました。たしかに旧来型抗コリン剤を認知症患者に使用するのはこの症例に示したように非常にマズいのですが、膀胱選択性の高い新型抗コリン剤では認知機能を低下させたり、せん妄を誘発したりする事も非常に少ないようです。ある医科大学の泌尿器科の教室が3年間、52施設、145症例で追跡調査しているようです。
CHE-Iもそうですが、同じ系統の薬でも薬剤というのは個別差が大きいものです。時には新しい薬より古い薬が勝る事も(主としてコストパフォーマンスという意味で)あるでしょうが、新しい薬には特に副作用減少という意味でアドバンテージが少なくないことがあります。単純に古ければいい、新しければいいという事ではなく、それぞれの薬剤の特徴をよく知って処方すべきでしょう。特に高齢者や認知症患者には①より安全で副作用の少ない薬剤を使用する、②効果のない薬を漫然と使用しないという事を心掛け、この症例のような著しくQOLを低下させるような重篤な薬害を起こさないように細心の注意を払うべきだと思います。


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# by shinyokohama-fc | 2015-01-27 18:22 | 治療

レビー症候群の診断的治療ステップ

レビー小体病(DLB)の診断基準の中核症状3つを併せ持つ症候群の治療的診断の私案を以下にまとめました。
大脳皮質基底核変性症(CBD)が正確な診断が不可能だという事で、CBSという呼ばれたように、PSPもDLBもMSAも神経変性疾患すべてにおいて疾患名ではなく症候群という名称が適切だと思います。なぜそれが必要かというと、本来死後の病理診断でしか診断できないはずの疾患を問診・診察・検査など総合臨床診断で正確に診断しよう(病理診断で正解になろう)というのは到底不可能だという事実を日常的に見ている実際の症例を通して嫌というほど思い知らされてきたからです。そういうわけで実地臨床ではすべて症候群で分類するべきだというのが以下の私案です。
<DLBの中核症状①~③の評価の問題点>
①認知の変動 ②具体的で詳細な再現性のある幻視 ③特発性パーキンソニズムについて
①認知(意識状態)は変動するので、簡易スケールによる評価も正確に病状を示すものではない。何らかの原因(感染症や薬物など)によるせん妄状態やてんかん(複雑部分発作など)との鑑別も実は容易ではない。
※てんかんの鑑別には可能であれば脳波検査が望ましいが、必ずしも異常波を検出できるとは限らず、安静が守れず検査自体が困難な症例も少なくない。
②幻視は患者自身の主観的な訴えなので、当然訴えない場合もありうる。患者が異常行動を起こさないかぎり周囲からわかりにくく客観的な評価が難しい。
※レビー小体病以外でも幻視が出現する事が少なくない。最近最も多くみられるのはPSP症候群である。
③特発性パーキンソニズム(振戦、筋固縮、姿勢反射障害、動作緩慢)
特発性であると特定するのがまず難しい。多くの症例ではすでに神経系の投薬が多剤併用されていて病態が修飾されているので、現実的には薬剤を除外して確認するのがまず困難である。MRIで多発性脳梗塞、正常圧水頭症の特徴が示されても、それだけで特発性でないとは断定できない。
この3つのうち1つあればPossible,2つあればProbableということで、広い範囲の認知症・パーキンソン関連疾患がDLBという事になってしまい、すべてCHE-Iを規定通り使うべき???いやそんな簡単なら誰も苦労しないです。①~③のうち2つ以上を有する症例には以下の診断的治療を一応一通り施して様子をみるのが一般的だと考えます。
①~③の薬剤を一度にではなく順次処方して症状の変化をみます。
①CHE-I;ドネぺジル少量(3mg)又はリバスチグミン少量(4.5mg)
症状が顕著に改善⇒DLB-2
症状が不変/徐脈など自律神経の副作用出現⇒DLB-1
症状が悪化(興奮・不穏など)⇒PSP/CBD
②レボドパ/カルビドパ(L/C)50mg×3
症状が顕著に改善⇒DLB-2
症状が不変⇒DLB-1またはPSP/CBD
症状が悪化(嗜眠・幻覚悪化など)⇒PSP/CBD
③ドパミンアゴニスト(DA)
;ロピニロールCR少量2mg又はロチゴチン少量(2.25~4.5mg)
症状が改善⇒DLB-2
症状が悪化(嗜眠、幻覚悪化など)⇒DLB-1又はPSP/CBD
私はPSP/CBDの症候群を20~30例ほど継続して診ていますが、①~③のどれもが薬剤投与により症状を何らかの形で悪化させてしまう、あるいは効果が全く感じられない症例がほとんどのようです。同じような症例を50例程度診てくると、診察室に入った瞬間に「この方にはCHE-IもL/Cもたぶん通用しないな」というくらいはわかるはずです。すでに初診までにあらゆる薬剤が試されていてダメだったという、もはや薬剤治療では打つ手なしという症例少なくないです。DLB-1とPSPの鑑別はおそらく専門医でも難しいです。両者に共通している特徴として以下の3つが挙げられますが、たぶん精神科診療と同じように、診る医者によって差異が大きく出るのは間違いないでしょう。
①初期からの姿勢反射障害(PSPの方がより顕著である)
②初期からの認知機能障害(簡易知能評価スケールで中等度レベル)
③初期からの核上性麻痺(DLB-1では必須ではないが時々みられる)
最も確実な鑑別項目としては自律神経障害の有無になります。おそらくDLB-1にはみられ、PSPにはみられません。
MIBG心筋シンチは両者の鑑別にある程度有効ではあるものの、10~20%で偽陰性がみられます。成書には「FTDにおいても時にパーキンソニズムがみられる」と書いてましたが、これがフロンタルパーキンソニズム(既出)を指すのか、PSPをFTDと解釈されているのかは不明ですが、まさに鑑別診断としてはジャングル状態です。
昨年のタウ・アミロイドβPETによる脳内異常タウ蛋白の神経障害への関与を証明した画期的な学会発表においては
DLBには2つのタイプがあり、アミロイドβ陽性でPSPと同程度に前頭葉~側頭葉にタウの高度蓄積が確認されたDLB-1は、前頭葉~側頭葉の脳萎縮があり、CHE-Iの効果が乏しい事が臨床的に確認されたそうです。一方でアミロイドβ陰性でタウ蓄積もみられないDLB-2は、前頭葉~側頭葉の脳萎縮もなく、CHE-Iが効果を示すようです。つまりDLBの中核症状を3つとも有しているのに本来有効とされている薬剤(CHE-IやL/Cなど)が全く通用しないという症例が数多く存在するというのもこの学説により十分納得できますし、PSPと同様に早期から前頭葉~側頭葉が高度に障害されてくるので投薬により精神症状が悪化したりという奇異反応がみられたり、前頭葉機能障害による諸症状(常同行動、脱抑制、被影響性の亢進・環境依存、自発性低下など)が目立つというのも納得できます。経験的に言うと前頭葉機能障害が強ければ強いほど、CHE-I,L/C,DAなどの薬剤により奇異反応を起こす確率が高いようです。
前頭葉機能障害の重症度を診察室で確認する方法は主に3つです(詳細は以前のブログを参照ください)
①把握反応・強制把握 ②前頭葉性失調・歩行障害(開脚性歩行) ③抵抗症(gegenhalten)
つまりDLBの診断基準における中核症状を有する症例を診た場合は、上記3種類の薬剤を順次試す前にすべき事があるとすれば、前頭葉機能障害を①~③で臨床的に重症度判定する事と、CT/MRI検査で前頭葉~側頭葉の脳萎縮を評価する事です。治療反応性が良いというのはDLB-2の事で、DLB-1とPSPは薬剤治療が難しいというのが結論です。
それゆえ、この2つには特に新たな治療法(タウ阻害剤など)が待望されると思います。


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# by shinyokohama-fc | 2015-01-09 19:10 | 医療

PSP症候群/Psudo-DLB

新年おめでとうございます。今年もベッドサイドの臨床神経学をより深める1年にしたいと思います。
昨年のトピックスとしては、DLB(レビー小体病)の中核症状を有しているのだが、DLBの治療薬として有効とされている薬剤が全く通用しない症例がいくつかみられたという事実です。
DLBの治療薬として一般的に有効とされているのは、①コリンエステラーゼ阻害薬(CHE-I;ドネぺジル、リバスチグミンなど)②抑肝散 ③レボドパ/カルビドパ配合剤 ですが、そのどれもがまったく通用しなかったのです。
本来DLBという疾患は薬剤過敏性ですが、言い方を換えると薬剤有効性が高いはずです。それゆえ典型的なDLBであればCHE-IもL/C配合剤も少量で反応し効果を示さないとおかしいわけです。しかしDLBの診断基準として中核症状と支持的特徴に合致していても、いざ投薬してみると①②③が全然通用しないという症例が少なからず存在する事がわかってきました。これらの症例を改めて神経学的診察と画像診断をし直してみると、実はPSP(進行性核上性麻痺)の診断基準に合致している事がわかりました。これらをPSP-psudoDLBとでも呼称することにします。
当初はPSPとPDまたはDLBの混合型かと思いましたが、③が無効・奇異反応(嗜眠やせん妄誘発など)である点からPDやDLBは治療的診断としては否定的だと言わざるをえないというのが私の見解です。
PSPは古典的には50~60歳で発症するRichardson-Syndrome(PSP-RS)と認識されてきましたが、近年の外来診療ではPSP症候群とも言えるさまざまなタイプのPSP病型症例を多数確認しました。先のブログで記載したようにPSP症候群を示す疾患は多くのバリエーションがあります。主として脳幹優位型(PSP-P, PSP-PAGF)と大脳皮質優位型(PSP-CBS,PSP-PNFA,PSP-FTD)に分類されると言われてますが、脳幹と大脳皮質が同時に障害されるタイプもありえると推定されます。要はどの部位が優先的に障害されるかで臨床症候に差が出るだけだと思われます。脳幹と大脳皮質が同時に障害される疾患として代表的なものがDLBです。つまりPSPがDLBと症状が似てしまう(psudo-DLB)というのは障害される部位が類似しているため、十分起こりうる可能性があると考えられます。PSP症候群でもPSP以外にCBD(大脳皮質基底核症候群)や脳血管障害(CVD)が存在します。PSPでもタウ病変が脳幹・前頭葉に広汎分布するPSP-RSやPSP-C、黒質・淡蒼球に限局するPSP-PAGF、大脳皮質に分布するCBSがあると言われています。つまり臨床診断と病理診断を合致させるのはほとんど不可能だというのが現実です。PSP症候群というのはさまざまな疾患の集団ですのでCBSと同じくPSPSと呼ぶのが適切ではないかと考えられます。最も特徴的な症候(中核症状)としては主に3つ挙げられます。①早期からの強い姿勢反射障害(同じ場所に立ち続けるのが困難で椅子にドスンと尻餅をつくように座る)②易転倒性(多くは頭部顔面を打撲する)③すくみ現象(歩き出すまでが苦労するが、歩き出すと比較的安定する傾向) 支持的特徴としては①垂直方向(上下)の眼球運動麻痺②物事を考えるのに時間がかかる(思考遅延)③嚥下障害④非流暢性失語、画像的特徴としては中脳萎縮・前頭葉側頭葉萎縮がありますが、これらは病型により程度がさまざまであり必ずしも症状を反映させるものではないようです。特に最近多くみられる高齢発症のPSP症候群では病気の進行が比較的遅いため、画像よりも早期に出現する臨床症候が優先されるべきだと考えます。
一方のDLBの診断基準を再確認しますと、A)中核症状としては①注意・覚醒レベルの顕著な変動を伴う動揺性の認知障害 ②具体的内容の再現性のある幻視 ③特発性パーキンソニズム(振戦、動作・歩行障害、姿勢反射障害) 、B)示唆性特徴としては①レム睡眠行動障害 ②抗精神薬による過敏性 C)支持的特徴としては①転倒・失神 ②一過性意識障害 ③重度の自律神経症状 ④系統化された妄想 ⑤うつ症状です。
以下に当院で経験したpsudoDLB/PSPSの症例を2例示します。
1)84歳男性
3年前から動作・歩行が困難、特にすくみ足が高度であるのが特徴。さまざまな神経系薬剤が試された。
まずレボドパ/カルビドパで嗜眠・低活動性せん妄が増悪、ドパミンアゴニストはさらに悪化、CHE-Iもせん妄を悪化させ、抑肝散は5gでも嗜眠・過鎮静となる。CDP-コリン注射も一時は効果あったが減弱。という臨床経過で
昨年7月に初診。問診では認知の日内変動、一過性意識障害、易転倒、嗜眠、幻視、薬剤過敏性、姿勢反射障害があり、前医ではDLBと診断されていました。しかし神経学的診察では、安静時振戦はみられず、姿勢反射障害とすくみ現象は非常に強く、四肢の歯車筋固縮は正常~ごく軽度、一方で頸部の筋固縮は強い、垂直性眼球運動麻痺が上下ともあり、思考遅延、嚥下障害、非流暢性の失語(失構音、喚語困難含む)がみられました。臨床的PSPと確信し、画像検査専門クリニックへMRIを依頼したところ、やはり中脳被蓋と前頭葉~側頭葉萎縮が確認され、難病申請をするように伝えました。やはり問診だけではなく、神経学的診察が重要だと改めて思い知らされた症例でした。ちなみにDLB支持的特徴③の重度の自律神経障害は起立性低血圧含めてまったくみられませんでした。PSP症候群には現在まで有効な薬剤治療は確認されていません。私のPSPS経験症例においてはL/C配合剤とCHE-Iは有効性が感じられないので、ほとんどは中止していています。薬剤を中止して症状が悪化する事は全くないようです(ここがPDやDLBとの大きな違い)。代替治療が顕著な効果が確認されたので、現在はそれを続けています。
2)77歳男性
5年前から動作・歩行が困難、すくみ足があるが、やはり変動が大きいとの事。2年前から幻視症状(具体的な小動物、人など)が出現し始め、次第に頻度が増加。それ以外には系統化された妄想、レム睡眠行動障害の既往(現在はなし)、認知の変動、易転倒性、嗜眠があり、やはり前医でDLBと診断されてCHE-IとL/C配合剤が処方されていましたが、ほとんど効果がなかったようです。神経学的診察では四肢の筋固縮は軽度で頸部・体幹の姿勢異常、動作緩慢、姿勢反射異常(前後方突進現象)があり、時計描画テスト(CDT)で時間がかかり(思考遅延)、右半側空間失認がみられました。当初はやや非典型的な点もあるがDLBだろうと診断しました。一番の問題症状は幻視で警察を呼ぶ状況だったので、抑肝散を処方してある程度頻度は減少しました。CHE-Iはドネぺジル3mgからリバスチグミン4.5mgに変更しました。しかし1か月後に9mgへ増量するとまず異常行動が出現し動作歩行レベルも極端に悪化しました。すぐに4.5mgへ減量したものの改善しませんでした。脳梗塞を除外するため、病院へMRI画像診断を依頼したところ、拡散強調画像で異常はみられませんでしたが、中脳被蓋の高度萎縮と前頭葉~側頭葉の内側・外側の高度萎縮(左右差あり)を確認しました。側脳室周辺変化はほとんどなくNPH(正常圧水頭症)は否定されました。画像所見を見た上で改めて神経学的診察をしてみるとやはり上方向の眼球運動麻痺が確認されました。DLBに有効とされるL/C配合剤は動作歩行に効果はなく、CHE-Iも規定通りの増量で奇異反応を示したようで、治療的診断としてもDLBは否定的と判断しました。約半年間で15~20例程度のPSP症候群を診察していますが、今回紹介したpsudoDLBタイプ以外についてもPSPSに共通する治療的診断特徴としては、L/C配合剤とCHE-Iがほぼ無効であるという事だと思います。この点はCBSとほとんど同じで、特にCHE-Iについては増量すると例外なく病状が悪化するので要注意です。この方も薬剤治療が困難と判断したので、代替治療を検討中です。
CHE-Iについてはアルツハイマー型など一部の認知症にしか適応が認められておらず、特にPSPSやCBSにおいては増量すると病状を悪化させるケースが圧倒的に多いので、原則的に使用は控えたほうがいいと考えます。この症候群においては効果が明確ではない不必要な神経系薬剤は投与を続ける意味はなく、むしろ神経系のバランスを崩すだけだというのが現実です。教科書にはどこにも書いていませんが、数々の症例がそう教えてくれました。


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# by shinyokohama-fc | 2015-01-06 18:49 | 治療

本当に怖いのは低血糖による心臓死

最近は高齢者の糖尿病が増加しました。ここ20~30年の医療の進歩に伴い、感染症や血管障害、喘息などによる死亡者が激減して長寿になりました。戦後の食生活の急速な欧米化に伴い、糖質や脂質の摂取が多くなり、日本人の体質に合わない食事が糖尿病患者の増加を招いているとよく言われます。
糖尿病患者の多くは糖質依存・糖質中毒とも呼ばれる状態になっていて、食事療法や運動療法が守れないケースが少なくありません。また年齢に反比例して代謝能力が低下する傾向にあり、長年にわたって経口血糖降下剤を何種類も内服しているケースが多いようです。これらの薬剤の副作用としては低血糖が問題になります。特に昔からあるスルホニルウレア(SU)剤は遷延性低血糖を引き起こすためしばしば問題になります。私も20年前、病院勤務時代に遷延性低血糖で意識障害で搬送されてきた患者を数名救急~入院対応した経験がありますが、いくら糖液を静脈注射しても全く血糖が上がってこないし、一時的に上がってもすぐに下がってしまうという、きわめて恐ろしい体験でした。
遷延性低血糖患者のうち数名は意識が戻らず、準植物状態で数か月入院しましたが、最期は感染症で死亡しました。
原因薬剤として最も多かったのが、SU剤第2世代グリベンクラミドという薬でした。さすがに近年はこの薬が使われている薬手帳はほとんど見なくなりました。専門医の間でもSU剤は高用量は危険だという認識のようです。
低血糖を起こすとブドウ糖をエネルギーとしている脳の働きに支障をきたし、意識を失って倒れて事故につながるリスクが高まります。無自覚性の低血糖を繰り返すことによって認知症リスクが3割増加するというデータもあるようです。さらに低血糖になると心臓に栄養を送っている動脈(冠動脈)が収縮して心筋梗塞や致死性の不整脈を引き起こす事も近年報告されています。糖尿病患者の死因としては「QT延長症候群」という心室性不整脈による心室細動による突然死が多いようです。米国で行われた臨床試験(アコード試験)によると、HbA1cを6.0%以下と厳格にコントロールしすぎた集団は7.0~7.9%でコントロールした集団よりもわずか3年余の間に22%も死亡率が増加したとの事です。特に65歳以上の高齢者で経口血糖降下剤を複数内服している方々に関しては食事時間のズレや、食事量の変化、運動量の変化に伴って無自覚の低血糖を繰り返している可能性が高いようです。それに伴って上記の冠動脈攣縮や心室性不整脈のリスクも高まると言えるでしょう。それゆえ高齢者では死につながる低血糖を極力起こさない事を最優先すべきだと言えるでしょう。
以前のブログで書いたように認知症の治療薬として定着しているコリンエステラーゼ阻害薬(CHE-I)や認知症の周辺症状(行動心理症状)を抑制する目的で使用する抗精神薬なども同じように冠動脈攣縮や心室性不整脈による心臓突然死のリスクを高めると言われていますので、やむをえずこのような薬剤を処方するケースでは、HbA1cを8.0%前後でコントロールすべきではないかと考えます。
この事実だけでも薬が多剤併用されると非常に危険だという事がよくわかってもらえると思います。


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# by shinyokohama-fc | 2014-12-18 18:22 | 医療
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