パニック処方

一昨日、旧知の病院勤務医の内科医からメールがきました。その内容は当地(西日本)では神経内科の基幹病院とされている、ある有名病院の神経内科から町病院へ転院してきた患者についての相談でした。
82歳女性で診断名はよくわからん外人の名前だったようです。リボトリール6mg/日、デパケン800mg/日、テグレトール200mg/日、その他ミラペックスも使われていたとのことでした。どういう経緯でそういう常軌を逸したパニック処方になったのか?は不明のようです。
どうやら何らかの神経難病らしく寝たきりで、気管切開と胃ろうがされているほど進行しているそうですが、知人いわく「こんなの神経内科が創り出した単なる薬害患者じゃないか?」との意見でした。「誤診と違いますの?神経内科は精神科とほとんど同じで患者をすべて「パーキンソン」にして抗パーキンソン治療剤を多剤大量処方して薬物中毒にしてるだけではないのか?」と同じ病院に勤務する内科医も言っていたそうです。
病院の精神科や神経内科の医者が皆このようなパニック処方をするとは思いませんが、当院にわざわざ都内某所から通院されている患者さんもかつては近隣の有名病院の神経内科の外来に通院していて、薬で病状がどんどん悪化していくとご家族が直感的に心配されて受診されました。お薬手帳を拝見すると目を覆いたくなるような典型的なパニック処方でした。初診時はまず患者さんに有害だと思われる処方を3~4種類中止させることから始まりましたが、当院先日4回目の受診ですっかり精神的にも安定して良くなったようで、遠路から通院していただいた甲斐があったと安堵したものです。有名病院で勤務しているという事で、患者さんが方々から殺到して一人一人の患者さんに対して冷静に薬剤の効果や副作用について考察する時間的・精神的余裕がないのかもしれません。
ただ一つ言えることは、パニック処方で病気が悪くなる事はあっても、良くなる事はないと言うことです。
神経系に作用する薬剤はどんな薬でも高い確率で副作用で患者さんを悪化させてしまうリスクをはらんでいますので、より慎重に使わなければなりませんが、残念ながらあまりそういう事が意識されていないように思います。


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# by shinyokohama-fc | 2014-09-12 14:24 | 治療

神経系に作用する薬剤の心臓副作用リスクについて

心電図においてQT間隔が延長する「QT延長症候群」というのがあり、これはtorsades points(tdp)などの多形成心室性頻拍(pokymorophic ventricular tachycardia)の原因になると言われています。
言うまでもなく心室性頻拍は心停止に至るリスクの高い危険な不整脈であり、注意が必要です。
原因薬物としては抗精神薬であるハロペリドール(セレネース)、クロルプロマジン(ウインタミン・コントミン)、三環系抗うつ剤などがある。その他にはシメチジン(ガスター)、クラリスロマイシン(クラリス)、キノロン(クラビットなど)があり、原因薬物を併用した場合(例えばセレネース+クラリスなど)はさらにリスクが高まると思われます。
私も研修病院に救急病棟でのせん妄に対してハロペリドールの静脈注射薬を使用してこの不整脈が出現したという話しを聞いた記憶があります。幸い心電図モニター監視中だったので、硫酸マグネシウムの静脈注射により事なきを得たと思います。抗精神薬の中では特にハロペリドールがリスクが高いと言われていています。
これらの薬剤を使用する場合は心電図でQTcを定期的に測定するようにしています。QTcが0.5~0.6になると心室性頻拍のリスクが高いようです。
一方でコリンエステラーゼ阻害薬(抗認知症薬)に関してはアセチルコリン作用によって、冠動脈攣縮を誘発すると言われており、特に高齢者、喫煙歴のある人、長年の糖尿病患者など動脈硬化リスクの高い患者では、心筋梗塞など急性冠症候群を起こしうると言われています。その他にも洞房・房室ブロックによる高度徐脈、QT延長症候群のリスクがあります。私の経験では60歳男性でコリンエステラーゼ阻害剤を内服していた患者が高度徐脈(30~40回/分)に至ってしまい、薬剤を中止してもなかなか改善せず、慌てて病院の循環器科に紹介したケースがありました。
正常な脈に戻るまで1~2か月を要したと記憶しています。
抗精神薬にしてもコリンエステラーゼ阻害剤にしても使用する用量が多くなれば、それに比例して心臓副作用のリスクが高まりますので、これらの薬剤を使用するにあたっては年齢や体重に応じて少量で使用したほうが良いと考えられますし、リスクを十分に説明したほうがいいでしょう。
特に心臓の自律神経が虚脱するようなケース、経年性の糖尿病やパーキンソン病・レビー小体病、多系統萎縮症などでは胸部の自覚症状が乏しくなるので特に要注意だと思われます。


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# by shinyokohama-fc | 2014-09-09 19:27

画像診断の必要性とその功罪

まずテーマを語る前に、当院に先月来院した症例を紹介します。
70代後半の女性。生来ほぼ健康であったが、1~2か月前から同居されるご家族が何かおかしいと感じて、外来受診されました。この症状で医療機関を受診するのはもちろん初めてとの事でした。重篤感は全く感じられず元気。礼節は保たれており、第一印象にて精神的に何も違和感ない感じ、これは軽度認知障害か軽度アルツハイマーかと思い、一応簡易知能スケールや時計描画テストを実施してみました。驚くべきことに何を質問してもほとんど何もできない!もしここまで重度に至るのなら少なくとも4~5年はかかるはずです。しかし脳卒中のエピソードもなく、レビーらしさもピックらしさもないのです。これはただ事ではないと思い、画像検査を見なければと感じたので、画像検査の可能な脳神経外科のクリニックに紹介しました。結果は左前頭葉白質に浮腫性変化を伴った腫瘍性病変あり、脳梁を経て一部反対側に進展しており、悪性ではないかとの事でした。高齢者の場合は前頭葉~側頭葉は特に加齢による脳萎縮がみられるため、頭痛や嘔吐などの症状や局所症状がなかなか現れにくく、認知症症状が進行してやっとわかるというケースが多いのです。それゆえ、初診の場合は今までなかった認知症症状が現れたら軽度でもまずはCTかMRIの画像検査を実施したほうがいいと思われます。
脳腫瘍以外にも正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫は画像診断でなければ診断できない病気で、いずれも脳神経外科の治療対象です。
しかし、その一方で当院を受診する認知症関連の方々はすでに画像検査を他院で実施済みの方がほとんどです。中には病院でMRI以外にシンチグラムなど複数検査の連続であったというケースも少なくありません。それなのに臨床的な診察が不十分なために、肝心な臨床評価ができていないようです。
認知症診察において重要なのは1に付き添いのご家族からの詳細な問診。2に患者さん本人の詳細な診察。3に検査(血液検査や画像検査)になります。
上記症例で画像検査を依頼したのも、1と2がきっかけでした。1と2があって検査を検討する。それが本来の臨床の流れのはずです。ところが画像検査のみ熱心で、それよりはるかに重要な1や2はおざなりにされている事がこれだけ多いというのはどういう事でしょうか?画像検査の所見だけを根拠に診断は「海馬が萎縮してるから○○」とかどうして言えるのでしょうか?1や2を十分評価できずに臨床診断(病理診断ではない)や投薬処方は考えられないです。症状を正しく評価しないから、見当違いの処方になるのでしょうか?
私が研修医の頃はMRI検査がようやく始まった頃でした。それ以前の時代はCTもない時代もあったようです。それがたった20年で日本中に画像検査機器が溢れる状況になりました。今やMRI検査機器のある診療所も珍しくなくなりました。しかし検査よりも問診と診察のほうがはるかに大事なのです。
認知症は内科の病気です。精神科や神経内科や脳神経外科だけが診る特殊な病気ではありません。認知症の方はさまざまな内科的合併症を伴いやすいです。高血圧、糖尿病、血栓症、慢性心・肺・腎・肝疾患、甲状腺疾患などで
これらの合併症にもすべて対応できなければいけません。内科医としては認知症だけでなく様々な疾患を診ていきたいと考えています。



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# by shinyokohama-fc | 2014-08-12 17:07 | 医療

前頭葉の身体化症状について

認知症やパーキンソン関連疾患を診察する上で前頭葉の臨床評価は欠かせないものです。成書には以下のように記載されています。
1)前頭葉機能低下自体による症状
a)病識の欠如
b)自発性の低下
2)後方連合野への抑制障害による症状
被影響性の亢進・環境依存(模倣行為、反響言語、強迫的音読など)
3)辺縁系の抑制障害による症状
脱抑制・わが道を行く行動(考え不精、立ち去り行動、悪気はない)
4)大脳基底核への抑制障害による症状
常同行動(周遊、食行動、同語反復、反復書字、時刻表的生活)

初期の前頭葉系の変性疾患では四肢身体症状は目立たない事が多いですが、
初期から以下のような症状がみられるケースも少なくないです。
強制把握(foced grasping)
前頭葉特に内側に病変のある患者では、手に触れたものを自動的に握ってしまって離そうとしない現象がよくみられる。ただし把握したものを自分の意思で離す事ができる不完全な強制把握もあり局在意義は乏しい。
本態性把握反応(instinctive grasp reflex)
把握行動とも呼ばれ、行動異常の一種でしばしば強制把握と共存している。
手背部の刺激でも手指が屈曲が誘発され、刺激が移動すると手で追いかけて把握しようとする(模索反応)や眼前の物に掴みかかる(磁石反応)などもみられ、前頭葉内側に病変がある患者でみられる。
前頭葉性歩行障害(Frontal gait disorder)
前頭葉とその連結(基底核、小脳、脳幹)に関連した歩行障害。
平衡障害、運動減少・動作緩慢、歩行開始困難がみられ、歩隔の拡大(wide-based gait)、すくみ足、すり足、歩行開始困難、小刻み、大げさな腕振り、歩行速度の低下、体幹の側方傾斜、姿勢反射障害(立位姿勢保持困難、易転倒性)などがあり、後方によろめくように転倒する傾向(toppling-falls,crescendo-retropulsion)と呼ばれる。
病気としては多発性脳梗塞(Binswanger-type)、前大脳動脈梗塞、正常圧水頭症(NPH)、前頭葉腫瘍、多発性硬化症(MS)、大脳皮質基底核変性症(CBD)、進行性核上性麻痺(PSP)、硬膜下血腫、前交通動脈瘤破裂によるくも膜下出血、脳炎・脳膿瘍
上肢機能や顔面の表情は保たれている事が多い。
平衡障害は前頭葉から脳幹網様体・小脳への投射障害
運動減少は前頭葉から視床を経由した基底核への投射障害
運動開始困難は前頭葉から脳幹の歩行中枢への投射障害
とされています。
この2か月の経験ではNPH,PSP,MSAの他に前大脳動脈梗塞というのもありました。MSAの場合は小脳性運動失調に前頭葉性運動失調も加わるのできわめて歩行不可までの進行が速く運動機能予後は不良です。MSAは進行すると画像的には前頭葉も委縮変化と側脳室周辺の白質変化がみられます。
パーキンソン病との相違点は顔の表情がある(仮面様顔貌ではない)点ですが
ほぼパーキンソン病と類似した動作歩行障害であるようで、しばしば誤解されます。そのため私はFrontal Parikisonism と呼んでいます。
前頭葉性疾患、例えばFTDの進行期やCJDなどでは抵抗症(gegenhalten)という特異な筋トーヌスの亢進状態がみられます。初期は変動性ですが、進行して終末期に至ると除皮質肢位など高度の関節拘縮状態に至ります。
※抵抗症(paratony/gegenhalten);検者が何気なく四肢を動かすと抵抗はないが、力を抜くように指示するとかえって抵抗が強くなる。両側性の前頭葉障害で特に顕著。
前頭葉性運動失調(Frontal lobe ataxia)は上記平衡失調の事とほぼ同義ですが立ち上がろうとする際に、上半身を自身の足の上までもっていく事ができずに立ち上がれない。立位で立ち直り反射なしに後方へ倒れる傾向がある。
前頭葉性歩行障害と前頭葉性運動失調が初期からみられる代表的な病気はNPH、PSP、MSAですが、多くはパーキンソン病(PD)と誤診されています。
違いはパーキンソン治療薬の反応性の悪さ、レボドパに対するオフ現象が全くみられない事です。これらの治療薬は続行する意味は乏しいです。
しかし実際は病院の専門外来は患者集中による多忙状態のため、前頭葉性歩行障害や運動失調を的確に正しく評価している事が少ないようで、高名な専門医の外来ですら例外ではないようです。
今回は菫ホームクリニックの小田行一郎先生のリクエストに応じて前頭葉の身体化症状の解説をさせていただきました。
※参考「老年期認知症研究会誌(2010年)」「保健医療技術学部論集創刊号(2007年)」



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# by shinyokohama-fc | 2014-08-04 19:08 | 医療

高齢者のせん妄とレビー小体病

今回のブログは主に医療関係者向けで、少々専門用語が多くなります。
レビー小体型認知症は最近テレビでもよく取り上げられるようになった病気ですが、認知症らしさ(記憶障害など)が目立たないケースも多いので、私はレビー小体病と呼ぶことにしています。また症例によって様々なバリエーションがあり、その臨床像は多岐にわたります。
発症年齢は50~90歳と幅広く、私の地元に限って言えば、外来通院者の8割が女性です。そしてほとんどが70歳以上の高齢者で80歳以上も多いです。
男性患者が精神症状や動作歩行障害で介護困難ですぐに病院や施設に入ってしまうケースが多いのかもしれません。施設に入所した患者でわざわざ外来通院を希望するケースは稀でよほど熱心な家族でないとそこまで考えません。多くは施設の嘱託医や訪問医に薬剤処方は委ねられます。
さて全くの初診患者で、精神症状の高齢者、特に体重30~40kgの女性高齢者が来たら、どう考えるでしょうか?
せん妄というのは急性または亜急性に発症し、幻視が出現することが多く、
入院や入所など身体的・環境的負荷が加わり、脳の機能的破綻する事です。
主症状は認知症とほぼ同じで、特徴は日内変動、意識・認知の変容で、注意欠損、思考力低下、記憶障害、見当識障害などがみられます。過活動型では
精神運動興奮で病的に能動的で過剰行動、拒否、暴力などや強い焦燥感、不安、夜間の問題行動(徘徊、大声、興奮)もあります。低活動型では精神活動停止(アパシー)で反応鈍く、意志も行動もなく、動かなくなります。うつと誤解されて家族が精神科へ連れて行き抗うつ剤が処方されてさらに悪化するというパターンが多いようです。
患者背景としては高齢者、脳卒中・頭部外傷の後遺症、視覚・聴覚障害、ポリファーマシー(治療薬のサラダ)、アルコール依存などがあります。
誘因として脱水、感染症(肺炎など)、疼痛(骨折など)があります。
薬剤として直接の原因としては、オピオイド(疼痛制御に使われる準麻薬)、
ステロイド(炎症制御に使われる)、ベンゾジアゼピン(抗不安・睡眠薬)と言われています。このほかにもヒスタミン遮断剤(アレルギーや胃潰瘍の薬)や抗インフルエンザ剤で起こりやすくなると言われています。
認知症でレビーやピックで出現する精神症状とせん妄で起こる症状はほとんど差がないと言えます。発症経過は家族や周辺からの聞き取り情報がほとんど不正確な事が多く(症状以前からあっても、家族は急に悪くなったという事がほとんど)、臨床現場・外来において認知症とせん妄の鑑別はほとんど不可能ではないかとすら感じますし、レビーやピックという病気は身体的・環境的因子による症状の変動が大きく、慢性せん妄状態と言い換えてもいいほどではないかとすら感じます。
内科的見地から見て、せん妄の原因はどのようなものがあるか考えてみると
電解質異常、特に高カルシウム血症と低ナトリウム血症です。前者は骨祖鬆症の薬や悪性腫瘍、副甲状腺機能亢進症で起こりやすく、後者は抗うつ剤(SSRI)など薬や悪性腫瘍水欠乏で起こりやすいです。その他にはアルコール依存者のビタミンB1欠乏や糖尿病患者の低血糖または高血糖、肝硬変患者の肝性脳症、慢性腎臓病患者の腎性脳症などが挙げられます。私が「代謝能力の低下した高齢者の薬剤処方を制限しましょう」という第一の理由はせん妄を誘発しやすいからです。特に30~40kgしかないやせ細った女性であればなおさらです。内科医の立場から言うと、レビー的、ピック的な症状の患者が来たらまず実施する検査は頭部画像検査(CTやMRI)よりも優先されるべきは血液検査による電解質(ナトリウム、カルシウム)、腎機能・肝機能、糖尿病、ビタミンB群の測定、そして内服薬剤の総チェックなどです。特に整形外科(ビタミンD、プレガバリン、オピオイド)、精神科(抗うつ剤・SSRI)、皮膚科(抗ヒスタミン剤・ステロイド)から処方のある患者は要注意です。
私の最近の外来では脳出血後遺症患者に整形外科からオピオイド合剤が処方されて重度の低活動性せん妄に陥った症例、器質性精神病患者に皮膚科からステロイド(内服)と抗ヒスタミン剤(胃潰瘍、アレルギー)複数が処方されて過活動せん妄に陥った症例などがありました。
目の前にある患者の症状がレビーでもピックでもせん妄でもこれらの血液検査や問診で簡単に確認できる事象は最初にスクリーニングされるべきことだと思います。
薬を処方する医者は高齢者に対する処方というのを危険性を強く認識してもう少し慎重に考える必要があるのではないでしょうか?



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# by shinyokohama-fc | 2014-08-01 10:30
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