前頭葉の身体化症状について

認知症やパーキンソン関連疾患を診察する上で前頭葉の臨床評価は欠かせないものです。成書には以下のように記載されています。
1)前頭葉機能低下自体による症状
a)病識の欠如
b)自発性の低下
2)後方連合野への抑制障害による症状
被影響性の亢進・環境依存(模倣行為、反響言語、強迫的音読など)
3)辺縁系の抑制障害による症状
脱抑制・わが道を行く行動(考え不精、立ち去り行動、悪気はない)
4)大脳基底核への抑制障害による症状
常同行動(周遊、食行動、同語反復、反復書字、時刻表的生活)

初期の前頭葉系の変性疾患では四肢身体症状は目立たない事が多いですが、
初期から以下のような症状がみられるケースも少なくないです。
強制把握(foced grasping)
前頭葉特に内側に病変のある患者では、手に触れたものを自動的に握ってしまって離そうとしない現象がよくみられる。ただし把握したものを自分の意思で離す事ができる不完全な強制把握もあり局在意義は乏しい。
本態性把握反応(instinctive grasp reflex)
把握行動とも呼ばれ、行動異常の一種でしばしば強制把握と共存している。
手背部の刺激でも手指が屈曲が誘発され、刺激が移動すると手で追いかけて把握しようとする(模索反応)や眼前の物に掴みかかる(磁石反応)などもみられ、前頭葉内側に病変がある患者でみられる。
前頭葉性歩行障害(Frontal gait disorder)
前頭葉とその連結(基底核、小脳、脳幹)に関連した歩行障害。
平衡障害、運動減少・動作緩慢、歩行開始困難がみられ、歩隔の拡大(wide-based gait)、すくみ足、すり足、歩行開始困難、小刻み、大げさな腕振り、歩行速度の低下、体幹の側方傾斜、姿勢反射障害(立位姿勢保持困難、易転倒性)などがあり、後方によろめくように転倒する傾向(toppling-falls,crescendo-retropulsion)と呼ばれる。
病気としては多発性脳梗塞(Binswanger-type)、前大脳動脈梗塞、正常圧水頭症(NPH)、前頭葉腫瘍、多発性硬化症(MS)、大脳皮質基底核変性症(CBD)、進行性核上性麻痺(PSP)、硬膜下血腫、前交通動脈瘤破裂によるくも膜下出血、脳炎・脳膿瘍
上肢機能や顔面の表情は保たれている事が多い。
平衡障害は前頭葉から脳幹網様体・小脳への投射障害
運動減少は前頭葉から視床を経由した基底核への投射障害
運動開始困難は前頭葉から脳幹の歩行中枢への投射障害
とされています。
この2か月の経験ではNPH,PSP,MSAの他に前大脳動脈梗塞というのもありました。MSAの場合は小脳性運動失調に前頭葉性運動失調も加わるのできわめて歩行不可までの進行が速く運動機能予後は不良です。MSAは進行すると画像的には前頭葉も委縮変化と側脳室周辺の白質変化がみられます。
パーキンソン病との相違点は顔の表情がある(仮面様顔貌ではない)点ですが
ほぼパーキンソン病と類似した動作歩行障害であるようで、しばしば誤解されます。そのため私はFrontal Parikisonism と呼んでいます。
前頭葉性疾患、例えばFTDの進行期やCJDなどでは抵抗症(gegenhalten)という特異な筋トーヌスの亢進状態がみられます。初期は変動性ですが、進行して終末期に至ると除皮質肢位など高度の関節拘縮状態に至ります。
※抵抗症(paratony/gegenhalten);検者が何気なく四肢を動かすと抵抗はないが、力を抜くように指示するとかえって抵抗が強くなる。両側性の前頭葉障害で特に顕著。
前頭葉性運動失調(Frontal lobe ataxia)は上記平衡失調の事とほぼ同義ですが立ち上がろうとする際に、上半身を自身の足の上までもっていく事ができずに立ち上がれない。立位で立ち直り反射なしに後方へ倒れる傾向がある。
前頭葉性歩行障害と前頭葉性運動失調が初期からみられる代表的な病気はNPH、PSP、MSAですが、多くはパーキンソン病(PD)と誤診されています。
違いはパーキンソン治療薬の反応性の悪さ、レボドパに対するオフ現象が全くみられない事です。これらの治療薬は続行する意味は乏しいです。
しかし実際は病院の専門外来は患者集中による多忙状態のため、前頭葉性歩行障害や運動失調を的確に正しく評価している事が少ないようで、高名な専門医の外来ですら例外ではないようです。
今回は菫ホームクリニックの小田行一郎先生のリクエストに応じて前頭葉の身体化症状の解説をさせていただきました。
※参考「老年期認知症研究会誌(2010年)」「保健医療技術学部論集創刊号(2007年)」



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# by shinyokohama-fc | 2014-08-04 19:08 | 医療

高齢者のせん妄とレビー小体病

今回のブログは主に医療関係者向けで、少々専門用語が多くなります。
レビー小体型認知症は最近テレビでもよく取り上げられるようになった病気ですが、認知症らしさ(記憶障害など)が目立たないケースも多いので、私はレビー小体病と呼ぶことにしています。また症例によって様々なバリエーションがあり、その臨床像は多岐にわたります。
発症年齢は50~90歳と幅広く、私の地元に限って言えば、外来通院者の8割が女性です。そしてほとんどが70歳以上の高齢者で80歳以上も多いです。
男性患者が精神症状や動作歩行障害で介護困難ですぐに病院や施設に入ってしまうケースが多いのかもしれません。施設に入所した患者でわざわざ外来通院を希望するケースは稀でよほど熱心な家族でないとそこまで考えません。多くは施設の嘱託医や訪問医に薬剤処方は委ねられます。
さて全くの初診患者で、精神症状の高齢者、特に体重30~40kgの女性高齢者が来たら、どう考えるでしょうか?
せん妄というのは急性または亜急性に発症し、幻視が出現することが多く、
入院や入所など身体的・環境的負荷が加わり、脳の機能的破綻する事です。
主症状は認知症とほぼ同じで、特徴は日内変動、意識・認知の変容で、注意欠損、思考力低下、記憶障害、見当識障害などがみられます。過活動型では
精神運動興奮で病的に能動的で過剰行動、拒否、暴力などや強い焦燥感、不安、夜間の問題行動(徘徊、大声、興奮)もあります。低活動型では精神活動停止(アパシー)で反応鈍く、意志も行動もなく、動かなくなります。うつと誤解されて家族が精神科へ連れて行き抗うつ剤が処方されてさらに悪化するというパターンが多いようです。
患者背景としては高齢者、脳卒中・頭部外傷の後遺症、視覚・聴覚障害、ポリファーマシー(治療薬のサラダ)、アルコール依存などがあります。
誘因として脱水、感染症(肺炎など)、疼痛(骨折など)があります。
薬剤として直接の原因としては、オピオイド(疼痛制御に使われる準麻薬)、
ステロイド(炎症制御に使われる)、ベンゾジアゼピン(抗不安・睡眠薬)と言われています。このほかにもヒスタミン遮断剤(アレルギーや胃潰瘍の薬)や抗インフルエンザ剤で起こりやすくなると言われています。
認知症でレビーやピックで出現する精神症状とせん妄で起こる症状はほとんど差がないと言えます。発症経過は家族や周辺からの聞き取り情報がほとんど不正確な事が多く(症状以前からあっても、家族は急に悪くなったという事がほとんど)、臨床現場・外来において認知症とせん妄の鑑別はほとんど不可能ではないかとすら感じますし、レビーやピックという病気は身体的・環境的因子による症状の変動が大きく、慢性せん妄状態と言い換えてもいいほどではないかとすら感じます。
内科的見地から見て、せん妄の原因はどのようなものがあるか考えてみると
電解質異常、特に高カルシウム血症と低ナトリウム血症です。前者は骨祖鬆症の薬や悪性腫瘍、副甲状腺機能亢進症で起こりやすく、後者は抗うつ剤(SSRI)など薬や悪性腫瘍水欠乏で起こりやすいです。その他にはアルコール依存者のビタミンB1欠乏や糖尿病患者の低血糖または高血糖、肝硬変患者の肝性脳症、慢性腎臓病患者の腎性脳症などが挙げられます。私が「代謝能力の低下した高齢者の薬剤処方を制限しましょう」という第一の理由はせん妄を誘発しやすいからです。特に30~40kgしかないやせ細った女性であればなおさらです。内科医の立場から言うと、レビー的、ピック的な症状の患者が来たらまず実施する検査は頭部画像検査(CTやMRI)よりも優先されるべきは血液検査による電解質(ナトリウム、カルシウム)、腎機能・肝機能、糖尿病、ビタミンB群の測定、そして内服薬剤の総チェックなどです。特に整形外科(ビタミンD、プレガバリン、オピオイド)、精神科(抗うつ剤・SSRI)、皮膚科(抗ヒスタミン剤・ステロイド)から処方のある患者は要注意です。
私の最近の外来では脳出血後遺症患者に整形外科からオピオイド合剤が処方されて重度の低活動性せん妄に陥った症例、器質性精神病患者に皮膚科からステロイド(内服)と抗ヒスタミン剤(胃潰瘍、アレルギー)複数が処方されて過活動せん妄に陥った症例などがありました。
目の前にある患者の症状がレビーでもピックでもせん妄でもこれらの血液検査や問診で簡単に確認できる事象は最初にスクリーニングされるべきことだと思います。
薬を処方する医者は高齢者に対する処方というのを危険性を強く認識してもう少し慎重に考える必要があるのではないでしょうか?



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# by shinyokohama-fc | 2014-08-01 10:30
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