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パーキンソン病にコリンエステラーゼ阻害薬?(2)

コリンエステラーゼ阻害薬に様々な副作用、有害事象があるという事実は、これまでの過去のブログで書いてきたとおりです。副作用を軽減するという観点でいうと、アセチルコリン賦活作用が他の2種類よりも1/18~1/20程度と言われていて、他の神経伝達物質とのバランスを崩しにくいガランタミンが最も無難に使用できると思われます。
以前の内容の繰り返しにはなりますが、コリンエステラーゼ阻害薬にはさまざまな副作用が報告されていますが、主に問題になるのは以下のものです。
1) 徐脈性の不整脈、脈拍が30~40回/分という高度の徐脈に至り、心停止の危険性。
2) QT延長症候群、心電図でQT時間が延長している状態では、心室性不整脈を誘発して、心停止の危険性。
3) 食欲低下・吐き気、食事が食べられなくなって体重が減少して体力が低下して衰弱。
4) 頻尿、トイレに何度も行く
5) 動作・歩行能力低下、嚥下障害
6) 易怒・興奮性・常同行動悪化
近年、パーキンソン病の非運動症状が問題にされクローズアップされていますが、特に問題になるのが、自律神経不全症状と精神不安定症状です。
A)自律神経不全症状
自律神経は血圧や体温、内臓の働きなどを調整する神経で、活動する交感神経と休息する副交感神経が上手く切り替わらず、さまざまな身体的不調をきたします。MIBG心筋シンチグラフィーで証明されているように、心臓の自律神経が障害されてしまうため、血圧・脈拍がコントロールできず不安定になって血圧・脈拍が上がったり、下がったりする。特に立ち上がった時や食事後に血圧が急激に下がって気を失いそうになるなど。また体温調節の異常によるうつ熱、消化管運動能力の低下による便秘、膀胱を動かす運動能力低下による頻尿などが問題になります。
2) 精神不安定症状
もともと幻覚・妄想、抑うつ・不安神経症、などがみられますが、病気が大脳の前頭葉や辺縁系に影響を及ぼすために、この程度が強い事例では、易怒・興奮・精神錯乱などがみられることもあります。特にドパミン・アゴニストやその他の治療薬でこれらの症状が増強している状況があります。
以上でお分かりであろうと思いますが、元々、動作歩行能力が低下し、自律神経症状があり、精神症状のあるパーキンソン病に対しては、コリンエステラーゼ阻害薬の追加処方は、時として火に油を注ぐようなものになりえます。
コリンエステラーゼ阻害薬を処方できるパーキンソン病というのは、動作歩行能力が低下していない(ヤール1~2度)、自律神経障害が少ない(血圧変動がほとんどない)、精神症状が少ない、という事例に限られるのではないかと思われます。そういう事例でも時間の経過とともに、病気が進行して運動症状、自律神経症状、精神症状が強くなっていくと推定されますので、いずれ安全に継続服用するのが難しい状況におかれるでしょう。
一般的にコリンエステラーゼ阻害薬の効果は1~3年程度しかもたないと言われていますので、特に75歳以上の高齢発症で、病気の進行が速く症状が重い事例では、パーキンソン病の諸症状をむしろ悪化させたり、副作用リスクの高い薬をわざわざ使う必要があるのか?と考えると強い疑念があります。
どうしてもコリンエステラーゼ阻害薬を使うと言うのであれば、リバスチグミンを1.125mg~2.25mg/日、ガランタミンを2~4mg/日、ドネぺジルを0.5~1mg/日程度でしか安全には使えないのではないでしょうか。
教科書に書いてあるパーキンソン病という病気の解説には、必ずアセチルコリンとドパミンの天秤の絵の解説があって、ドパミンよりもアセチルコリンが過剰になっているとされています。私が神経内科医になったばかりの時代は抗コリン剤がよく処方されていたほどです。コリンエステラーゼ阻害薬というのはアセチルコリンを増やす薬で、その真逆の作用です。アセチルコリンが過剰になっている状態にさらに上乗せする意味があるのか?ということになりますが、もし意味があるとすれば、それはドパミンを増やす薬を過剰に投与しすぎた場合に限られます。コリンエステラーゼ阻害薬を使おうと考える前に、まずはドパミンを増やす薬を減らすことを考えるべきだと思います。
当然ながらパーキンソン病にはコリンエステラーゼ阻害薬の適応はありませんので、上記のようなリスクとそれを冒してまで服用すべき必要性を十分に説明して同意を得る必要があるでしょう。適応外使用であることに関しても説明して同意を得る必要があるのではないかと考えるわけですが、実際に多くの患者さんたちは外来医からも薬剤師からもロクな説明を受けておらず、ただ訳も分からない状態で服用させられているというのが現実ではないでしょうか?


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by shinyokohama-fc | 2017-07-11 12:04 | 治療

パーキンソン病にコリンエステラーゼ阻害薬?(1)

小生はパーキンソン病の関連学会に所属しているわけですが、学会ではパーキンソン病にコリンエステラーゼ阻害薬を使用することを推奨しており、治療ガイドラインにもそう書いてあるようです。また、最近発行された、パーキンソン病の治療に関する専門書(医学書)にも、コリンエステラーゼ阻害薬を処方する症例報告が当たり前のように掲載されています。パーキンソン病のエキスパートを自称されている先生方も、「パーキンソン治療薬を3~4種類処方した症例で幻覚・妄想が出現した症例にコリンエステラーゼ阻害薬を追加して良くなりました。」と自慢気に発表されていました。実際に使われる薬剤は、リバスチグミンとドネぺジルのようで、なぜかガランタミンが選ばれることはないようです。
実際にコリンエステラーゼ阻害薬を使用する意図としては、パーキンソン病に伴う精神症状である幻覚(特に幻視)を抑制するという目的が多いようです。認知機能低下を遅らせるという目的の場合もあるようです。リバスチグミンは1日用量18mg、ドネぺジルは1日用量10mgで使うように推奨されています。
学会のエキスパートを自称する先生方の講演会によると、パーキンソン病を発症して10~15年経つと認知症になるというお決まりのスライドが提示されます。認知症を伴うパーキンソン病(PDD)の診断基準では、簡易テスト(MMSE)が26点以下としているそうです。この基準はそれまでの認知症の診断基準よりもハードルが下げられています。この基準だとパーキンソン病を発症している75歳以上の患者の2/3くらいは自動的に「認知症」にされてしまいそうです。治療ガイドラインでは「認知症であれば、ドネぺジルを試みるように(グレードB)」と記載されています。確かに、神経内科の専門医は判で押したようにどんなパーキンソン病症例に対してもこの薬が試みられているのが現実のようです。私はこのやり方に懐疑的ですので、こういう処方を選択することはありません。
レビー小体型認知症(DLB)におけるドネぺジルの安全性評価(承認時)によると、パーキンソン治療薬を一切服用しておらず、介助を必要としない日常生活動作が自立したレベルの運動障害、重症度ヤール1~2(5段階で)に使用することが望ましいようです。薬剤性パーキンソニズムの原因薬剤リストにも入ってる薬剤でもありますので、それが当然だと思います。パーキンソン運動症状が軽度(ヤール1~2レベル)で比較的若年(50~65歳)のレビー小体型認知症(DLB)とパーキンソン運動症状が重度(ヤール3~5レベル)で発症10~15年経過した老年(75歳以上)の認知症を伴うパーキンソン病(PDD)がいつのまにか一緒くたにされてしまっている??というおかしな現実があるようです。
学会では「PDDとDLBは同じ神経病理だ」と言われますが、はたして同じ神経病理だから同じ病気なのでしょうか?死後の病理組織の所見だけで病気のすべてが説明できるわけではありません。神経の学会というのはとかく「病理至上主義」になりがちで、それが強く反映されたのが、多系統萎縮症(MSA)という病名の誕生です。それまで、別々の診断名であった、小脳症状が主体のオリーブ橋小脳萎縮症(OPCA)とパーキンソン症状が主体の線条体黒質変性症(SND)、自律神経症状が主体のシャイドレジャー症候群(SDS)を、同じシヌクレインが脳にたまる病理だからという理由で一緒くたにされてされてしまったという歴史があります。近年は学会においてエキスパート専門医を自称する先生方はPDDとDLBも同じ病名(レビー小体病)にしてしまおうという動きがあるようです。しかし、実際の臨床では前者(PDD)は発症して5~10年が経過し、パーキンソン治療薬が4~5種類てんこ盛りにされていて、ヤール3~5度です。当然治療薬過剰処方によって誘発されている幻覚・妄想もあります。後者(DLB)は発症して2~3年で、パーキンソン治療薬は全く処方されていない状態で幻覚・妄想があり、ヤール1~2度、やや動作が遅く歩きにくいという程度です。これだけ薬の使用状況が異なるにもかかわらず、これらは「同じ病気」と言えるのでしょうか?
ドネぺジルの安全性評価を見る限り後者(DLB)はともかく、前者(PDD)には果たして適応はあるのでしょうか?
今から約10年前にヤール3度のPDDの70歳男性にドネぺジル3mg/日で使用していました、認知機能は使用後からすぐに改善したのですが、ドネぺジルを4~6か月継続した時点で動作歩行レベルは明らかに低下しており、転倒による怪我が増えてしまいヤール4度になってしまったことがありました。また2年前にヤール3度のPDDの65歳女性にリバスチグミン18mg/日で使用していました。規定通り1か月ごとに4.5mg→9mg→13.5mg→18mgと増量していきました。その1か月後から、体幹の前屈と傾斜という姿勢異常が強くなり歩行時の姿勢保持が困難になり、やはりヤール4度になりました。これらの2つの事例を見てもわかるように、PDDに対してはドネぺジルやリバスチグミンを現在の推奨されている用量で使うというのは非常に難しいと言わざるをえないでしょう。
最近はリバスチグミンを非常に多くの症例で使用されている先生が、「パーキンソン病にリバスチグミンを少量で使えば、歩行が改善する」と言われていましたので、小生が診ている5つの症例で1日用量2.25mg~4.5mgで使ってみました。結果は2勝3敗。残念ながら、むしろ歩行障害や姿勢異常が悪化した症例が3例もありました。
パーキンソン病、特にPDDでは、視床のアセチルコリン神経(チャンネル6)が減少しているので、姿勢保持が悪化して転倒しやすくなるという仮説があります。リバスチグミンは脳幹網様体には有効に作用しても、ガランタミンのように視床には有効に作用しないようです。コリンエステラーゼ阻害薬の反応性を観察するかぎり、PDDとDLBではアセチルコリンとドパミンの相対的バランスは明らかに違っているのは間違いないでしょう。アセチルコリン神経系の障害や局在部位には症例によって明らかに差異がありますので、「死後の病理所見が同じだから、同じ薬を使え」という理屈は到底通らないのではないでしょうか?
臨床よりも病理偏重である診断名は混乱を招きます。「レビー小体っていったい何ですか?」というのが多くの一般人のうける感想ではないでしょうか?またレビー小体とパーキンソン病の因果関係は解明されておらず、レビー小体はパーキンソン病の原因なのか結果なのかは不明。レビー小体だけがパーキンソン病の原因とは特定できず、ミトコンドリアが原因であるという仮説も有力ではあるが、現在研究中のようです。そういう専門家にしかわからないような病名、特に患者さんの立場からわかりつらい病名というのは適切ではないと思われますし、まったく臨床像が異なる病気を一緒くたにしてしまうのは誤解を招くのではないでしょうか?


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by shinyokohama-fc | 2017-07-10 12:36 | 治療
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