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認知症医療に対する雑感と今後

前回のブログで、個人的には一区切りしたというところです。これまでコリンエステラーゼ阻害薬の諸問題を含めて神経内科医からみた「認知症」について、自己の診療経験からくる印象なども含めていろいろ書いてきました。
診療経験として自分なりに至った結論としては「薬物療法だけでは、現状では認知症のかかえている諸問題の1割以下程度しか解決できないという事です」
この3年、いや5年程度、不慣れな認知症医療に、一人の神経内科医として、自分としては可能な限り誠実に向き合ってきたつもりですが、認知症という病気の性質上、医者と薬物選択だけで解決できない問題が山のようにあることがわかりました。それはすべて「人間関係」に関することです。それは、患者の元々のパーソナリティー、介護するご家族のパーソナリティー、患者と介護者との人間関係などです。ここに必要とされるのは、薬物などではなく「臨床心理」だと個人的には考えます。具体的に言いますと、医者ではなく、精神保健福祉士や臨床心理士やケースワーカーなどのソーシャル的な介入こそが最も重要なのでしょう。つまり、医者や看護師だけでは、認知症の根源的な問題(社会・家族との関連性について)にはほとんど無力だという事です。
コリンエステラーゼ阻害薬や抗精神病薬など、高齢者に様々な副作用を高い確率で誘発するような薬は程度の差こそあれ、用量を増やしたり長期間服用し続ければ、必ずといっていいほど副作用が出ます。
確かに薬によって副作用の出る確率の高低差はありますが、副作用のない薬など存在しない限り、薬物療法には限界があります。この3年でそれが痛いほどわかりました。中にはそういう薬を4年も服用され続けて悲惨な状態になっている症例もありました。どんな薬を少量で処方しても必ず副作用が出る薬剤過敏性の症例も数多かったです。症例を診ていて感じたことは、「本当に認知症にとって薬物療法は必要なのだろうか?」という事です。私の個人的な印象では多くの症例は、ソーシャル的介入が十分になされれば解決できるのではないかと思います。しかし、現実的にはそういう基盤がない。患者と介護者の間に入って調整する人間が必要です。そういう仕事ができるのはもちろん医者ではなく、臨床心理士ではないかと思います。しかし現状は臨床心理士は国家資格ではなく、保険医療ベースでは仕事ができないことになっています。今後は独居者、高齢夫婦世帯、子供と疎遠などが増えていくであろう事を考えれば、そういうソーシャル的な部分をカバーできる医療者が必要です。中には例外的に医者や看護師でそういう仕事までやってしまう人材もいるようですが、それはごく一部ですし本来の仕事ではないと考えています。

神経内科医として、今後自分に何ができるのかと考えました。
やはり20年以上前から診療している「パーキンソン病」「パーキンソン症候群」などを中心とした診療。特に「パーキンソン病」の不適切な薬物治療を是正する仕事をライフワークにしていきたいと思います。パーキンソン病の薬物治療をめぐる問題は深刻の一言です。薬の種類が増えることによってさらに深刻さが増しています。一言でいえば、多くの症例では薬が多すぎる、服用しすぎているのが問題だという事です。
これについては、すでに、「減薬」という誰もが手を出さない方法で、多くの実績が出せましたので、今後は様々な形で発表していきたいと考えていますが、今後も1人でも多くの患者を救出すべく尽力したいと思います。
次回のブログからは、パーキンソン病治療薬に関する様々な問題を取り上げたいと思います。


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by shinyokohama-fc | 2017-03-25 14:14 | 治療

公平性と多様性のある情報提供が医療者には求められる

先日、昨年12月に続いて、池袋病院の平川亘先生に新横浜のホテルで講演していただきました。私の知っている地域の開業医の先生方にも何人かお声をかけて参加していただいて、まずまず盛会?だったようです。
一般的に疾患の薬物治療に関する講演会においては、講演者の先生方は、ことさら特定の薬剤の効果やメリットだけを強調しがちです。すべての薬剤においては増量により、副作用(有害事象)のリスクが高まるというのは自明の理なのですが、そのような副作用情報はスルーして、ひたすら「増量しろ」と連呼する講演者の方々が目立つように思います。平川先生の講演がなぜ信用できるのかというと、ご自身が長年にわたって多くの患者で使用した経験に基ついた副作用をすべて講演スライドにて詳らかに公表しているという事です。今回、私が座長としてコリンエステラーゼ阻害剤の副作用で確認した範囲では「痙攣」の副作用だけ触れられていない事だけ、僭越ながら講演前に指摘させていただきましたが、現実的には先のブログで示しましたように、ガランタミンでも痙攣誘発症例を経験したほどですので、リバスチグミンでもドネぺジルでも当然起こりますし、実際そのような症例を経験しているというのが平川先生と私の共通意見でした。
医療に携わる者、特にその指揮的立場にある医者には、科学者としての公平性が求められます。「自らが提示した薬物治療のやり方だけが正しい」などという考え方は、自分の意向に合わないことや不都合な真実を無視したり、隠したりするというきわめて偏った行動になりがちです。特に薬物治療においては長所・欠点、プラスとマイナスが必ずあるので、いずれの情報もできるだけ開示して、それぞれの医療者の独自の考え方を尊重していく、場合によっては批判も真摯に受け入れていく必要があるのではないでしょうか? 日本人(東アジア人?)というのは、フランス人などと比べても自分価値観や考え方・意見というのが確立してない、自分の頭で考えたり調べたり勉強したりして、自分なりの考え方・価値観というのを構築する習慣が身についていない人が多い気がします。それがカリスマ的指導者のような人が生まれやすい背景があると思われます。そのような指導者が提示した内容を自分で検証することなく、鵜呑みにしてしまう。「○○先生の言っていることはすべて正しい」という思い込みの集団的心理こそが、排他的で偏向した価値観を生む危険性があるのではないでしょうか?このような問題を解決していくためには、一人一人が様々な方向の価値観の情報を見聞処理して積極的に問題提起をし、それぞれ個人個人の多様性、多様な考え方・価値観というものを反映させていく、不都合な情報をスルーしたりしないかを注意深く監視していくべきでしょう。様々な医療者の多様な意見が反映されて、批判・討論が活発に行われなければ、それは研究会や学会とは呼べないのではないかと私は思います。
平川先生の講演では最後に「私の考え」というスライドが入ります。「これはあくまで私の考えである」という事だと解釈しています。講演を聴いた医者全員が、まったく同じような処方を真似たり、同じ考え方をする必要はないと思いますし、私も平川先生の薬物処方の方法を一部参考にしてはいますが、すべてコピーしているわけではなく、独自の方法でやっています。なぜなら平川先生が主に外来で診ている症例と、私が主に外来で診ている症例はあまりにも違うからです。この病気なら、この薬物で、この必要量だとか1対1の単純な方法では済まないのが現実です。そうでないと多様な症例には対応できません。
1人の意見を鵜呑みにして盲目的に従うのではなく、多様な意見に耳を傾けるという態度こそが、我々医療者には求められると思います。


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by shinyokohama-fc | 2017-03-11 10:40 | 医療

高齢者の「側頭葉てんかん」はDLBと誤診される

高齢者の側頭葉てんかんの臨床症状の特徴を以下に示します。
1)けいれんはおこさない
2)くりかえす識減損~意識レベルの動揺性
3)夜間のレム睡眠行動異常様の精神運動発作(異常行動)
4)持続性の認知機能低下
5)複雑性の幻視
6)自律神経症状
7)注意障害・集中力低下
8)簡易テストでは計算ミスが多い
以上のごとく、高齢者の側頭葉てんかんの臨床的特徴は、レビー小体型認知症(DLB)に酷似しています。共通していないのは、DLBの中核症状の1つである、パーキンソニズム(パーキンソン病の運動症状)のみです。
ただし、大脳皮質と扁桃体に病変がみられるが、脳幹にはほとんど病変がみられない、パーキンソニズムがみられない「大脳型」というタイプがあるとのことです。DLBの診断基準というのは感度が高いが、特異度が低いというのは、誰もが認めるところであります。そのためにパーキンソン病のドパミン作動薬の過剰処方による、薬剤によって誘発されているせん妄状態、幻覚、認知機能の低下をもって、担当医が己の薬の出しすぎを反省することなく「DLB化だ!」と誤診してコリンエステラーゼ阻害剤を最大量で追加処方してしまうことが非常に多く見られます。またすでに脳卒中・頭部外傷などの脳疾患の既往とそれに伴う脳障害のある症例に、トラマドール(オピオイド)、プレガバリン、ステロイド、抗コリン剤などが何らかの理由で処方されて、薬剤せん妄に陥っている状態を家族が認知症の本を読んで「DLBだ!」勘違いして遠路からわざわざ連れてきたケースもありました。どこがDLBなのか?このようになんでもかんでも「DLB」にされてしまう昨今の風潮は好ましくなく、私からみてかなり問題があると思わざるをえない現状です。特に「パーキンソニズム」のないDLBというのは他の原因をかなり慎重に除外する必要があります。安易にDLBという診断をすべきではないと思います。
今回取り上げた「側頭葉てんかん」ですが、世界的な統計では60歳以上では非常に多くみられます。若年世代の特発性てんかんよりもはるかに多いようです。側頭葉てんかんの主たる原因である変性疾患としては、アルツハイマー型認知症が多く、軽度認知障害(MCI)という認知症の前段階からてんかんが現れるケースが多いようです。
軽度の「物忘れ」で始まった人が、2)~7)の特徴がみられ、テストで計算ミスがあっただけで、「DLB化した!」と安易な操作的な診断をしてはならないと思います。本来ならこのようなケースではすべての症例で脳波検査を実施してスクリーニングすべきですが、検査ができる環境にない場合もあるでしょう。脳波検査ができない環境では、詳細な問診記録を残した上で、以下の薬剤を処方して「治療的診断」をするしかないと思います。
第一選択で使用すべきなのは、カルバマゼピン(CBZ)です。100~200mg/日が必要と思われますが、高齢者の場合はCBZの副作用として、初期から小脳性運動失調によるふらつき、転倒のリスクがあるということを十分説明する必要があるでしょう。このリスクを回避するためには、新規抗てんかん剤である、ラモトリギン(LTG)、レべチラセタム(LEV)を使用する選択枝もあるでしょう。他にもこの1年で新規抗てんかん剤が上市されています。新薬の難点は高額であるという点ですが、長期内服の安全性を考慮すれば、CBZよりも新規抗てんかん剤のほうがいいのではないでしょうか?高齢者はふらつき、転倒で骨折や頭部外傷のリスクも高いという事も考慮すべきだと思います。
大脳型DLBを強く疑う場合は、MIBG心筋シンチやドパミントランスポーターシンチという核医学検査が有用です。このような検査が役に立たないという断言する医者もいるようですが、私は側頭葉てんかんと大脳型DLBの鑑別診断のためには必要だと思います。前者は抗てんかん剤で症状が治まる病気で、後者は薬を使っても進行していく病気です。厳密な診断によって患者の運命が左右されるという事を考慮すれば、やはり診断のための検査は必要です。
ちなみにコリンエステラーゼ阻害剤で、世界的に最もPDD/DLBに対して使用されている、リバスチグミンの副作用で「痙攣発作」というのがあります。私自身も、側頭葉てんかんに中等度の認知症を伴った症例(84歳女性)を定期診療しています。当初は認知症に対して、ガランタミン(コリンエステラーゼ阻害剤)8mg/日とラモトリギン(抗てんかん剤)100mg/日を処方していましたが、1か月に1回の発作があり、発作が全般化して痙攣に至り、病院へ搬送されるという事態になりました。熟慮の末に、ガランタミンを中止して、ラモトリギン150mgを続行しました。その後1年以上において発作は確認されていないようです。
高齢者の「側頭葉てんかん」は実際は非常に多いと推定されますが、医者にも患者にも「てんかんイコール痙攣発作」という固定観念があるため、多くが見逃されており、安易な操作的診断のみでDLBだと診断されて、コリンエステラーゼ阻害剤の処方によっててんかんを全般化させて痙攣を誘発している症例はないでしょうか?高齢者の痙攣発作は急性冠動脈症候群などを誘発しうる非常にリスキーな状況です。様々な意味で、側頭葉てんかんをDLBだと誤診することは非常に罪深いことだと私は思います。
DLBの診断基準の除外項目にここまで臨床症候が酷似している「側頭葉てんかん」が含まれていないという事は疑問に感じます。私の記憶では「側頭葉てんかん」について言及している認知症関連の書籍はきわめて少ないようです。



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by shinyokohama-fc | 2017-03-09 18:29 | 治療
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