<   2016年 12月 ( 7 )   > この月の画像一覧


メマンチンの前頭葉解放症状に対する有効性

メマンチンはコリンエステラーゼ阻害薬との併用を推奨されているがゆえに非常に過小評価されてる薬です。主に認知症の行動心理症状(興奮性・攻撃性)に対する抑制効果を期待して使用されているわけですが、中核症状の改善効果も優れています。コリンエステラーゼ阻害薬のような生命予後に関わるような危険な副作用もないため、80~90歳の高齢者でも5~10mgの低用量(20mgで内服させると、日中の嗜眠が強すぎて誤嚥や転倒リスクが高まる)で使用しやすい薬剤です。ただしコリンエステラーゼ阻害薬(特にドネぺジル5~10mgとリバスチグミン18mg)と併用してしまうと、コリンエステラーゼ阻害薬による精神症状の有害事象が高い確率で悪化するようですので、原則的に併用はしないようにしています。神経系の薬剤の作用は複雑で複数の薬剤がからむと奇異反応をおこす症例が非常に多いようです。ニューイングランドジャーナルの文献によると、メマンチンは1か月(1日)の介護時間が優位に減少されたということです。1日あたり平均90分減少させたそうです。
メマンチンはNMDA受容体に対するアンタゴ二スト(拮抗薬)で正常な神経伝達には影響せず、グルタミン酸によるNMDA受容体の過剰な活性化を抑制する作用があり、持続的な電気シグナルが発生し、神経伝達シグナルを隠してしまう(シナプティックノイズ抑制)効果があるそうです。主として以下の症状に有効であるようです。
1) 会話がうまくできない(言語障害)
2) ささいな事で怒り出す(攻撃性)
3) 落ち着きがない(易刺激性)
4) 家の中を動き回る、目的不明な外出行動(行動障害)
60~70歳で発症する、典型型のアルツハイマー(ATD)では進行ステージにかかわらず、1)~4)の症状はほとんど出現しません。しかし60歳以下/75歳以上で発症するATDでは前頭葉症状が強い非典型的タイプが少なくないようですので、しばしばこの薬剤が有効です。礼節や対人関係は維持できているが、精神症状や行動心理症状が日常的にみられるタイプです。
しかし、それ以上に有効なのは前頭側頭型変性症(FTD)の意味性認知症、行動障害型だと思います。超重症ステージでほとんど会話困難、外来診察時も常同行動、使用行動、反響言語を繰り返しているレベルのFTDでも有効性が高い事が数例で確認できました。脱抑制症状や常同行動が顕著なために、日常生活動作が全て介助というレベルの方々や易怒・興奮性が強く介護抵抗があるレベルの方が多いのですが、これらの症状に対してメマンチンは5~10mgで有効のようです。一度中止して再開、効果の再現性を確認しました。超重症レベルFTDのBPSDに対して再現性効果があるため、プラセボ効果の可能性は限りなく低いと推定されます。
臨床診断である、意味性認知症(語義失語)、行動障害型(脱抑制行動・常同行動)というのはある程度有意義だと考えます。ATDと違うポイントとしては場所や環境を問わず、このような病的ニュアンス(外来受診する態度としての違和感)が外来診療で確認できるかが、ポイントだと思います。
脱抑制行動、常同行動、興奮性・易怒性に対して、安易に抗精神病薬を使用することを奨励することについては、個人的には反対です。以前のブログにも書きましたが、理由は少量でも厄介で危険な副作用が起こりうる事です。特に少量でも長期間(1年以上)継続された場合はかなりの確率で副作用が起こります。コリンエステラーゼ阻害薬と併用した場合はさらに高率になると推定されます。多くは姿勢異常、不随意運動、動作歩行障害、心臓不整脈、精神症状の悪化などです。長期使用によって耐性化もしやすく、効果が減弱しやすいのも問題です。開業して2年以上、認知症に対していくつかの抗精神病薬を試してきましたが、この薬はコリンエステラーゼ阻害薬同様、安心して使える薬ではないという事を再確認しました。クエチアピンが最も有害事象が少なかったという印象ですが、その他の薬剤は長期使用(屯用使用ではなく継続使用)で何らかの有害事象や奇異反応(精神症状の悪化)などで脱落しました。高齢のフレイル的な女性においてはクエチアピンに対しても忍容性がないケースもありました。まだ医者として駆け出しの時期に、ハロペリドールやクロールプロマジンによる悪性症候群を多数診てきましたし、今でも前医の安易な抗精神病薬処方による被害者、姿勢異常、不随意運動、動作障害などで悲惨な状態に陥っている方々をフォローしていますが、このような悲惨な状態を診るたびに怒りがこみ上げてきます。
80歳以上の認知症では、FTDに病態の類似したAGD(グレイン、嗜銀顆粒球性認知症)が半数近くにみられます。通常はこれらの症例には、ガランタミンまたはメマンチンをまず使用することからスタートして、効果不十分の場合はチアプリドを処方しています。チアプリドでは用量・使用期間で軽度のパーキンソニズムが時にみられるケースがありますが、それほど深刻な有害事象は少なく、早期の減量・中止などの対応で回避できます。悪性症候群の事例は20年間で1例も診ていません。ただし薬剤の効果には個人差が大きく、制御不可能な症例も少なくないようです。
ただ一つはっきり言えることは、メマンチンは抗精神病薬やコリンエステラーゼ阻害薬よりは安全性が高いという事ですので、年齢を問わず行動心理症状に対しては、まず最初に試すべき薬剤だと思います。ただし、PDD/DLBに対しては、嗜眠・傾眠性が強まってしまう症例があるので注意が必要です。


新横浜フォレストクリニック
内科・漢方内科・老年内科・神経内科

JR・新幹線・横浜市営地下鉄 
新横浜駅 篠原口より徒歩1分






[PR]

by shinyokohama-fc | 2016-12-20 19:03 | 治療

高齢者側頭葉てんかんとレビー診断病

先週、地域のてんかんの講演会があり、高齢者に多い「複雑部分発作」の発作時のVTRを見せていただきました。
てんかん患者を日常よく診察している専門医でも「これでてんかん発作なのか?」と驚くほどの緩徐な症状でした。てんかんというと「全身が大痙攣して意識を失う」というのが一般医療者のイメージでしょうが、これは「大発作」というタイプで、高齢者においては、脳梗塞や脳挫傷などで前頭葉~側頭葉の比較的広範なダメージを受けた症例にみられます。しかし、高齢者のてんかんはこの「大発作」よりも「複雑部分発作」のほうが多いわけです。
高齢者の側頭葉てんかんの複雑部分発作の主要症状を以下に示します。
1)短時間の意識障害/意識減損(日中でもややぼーっとして眠っているような感じになる)
2)手の自動症 手をモゾモゾと動かす
3)エピソード記憶の障害(先日旅行したりした事を忘れている)
4)口の自動症・会話困難 (突然口をベチャベチャと動かす)
1)3)は認知機能の変動、時に幻覚を訴えることがあります。2)はパーキンソニズムと誤診されがちです。
臨床医であれば、恐らく誰でも知っているはずですが、「てんかん」というのはしばしば反復したり重積化します。抗てんかん剤によって発作が抑えられず、不幸にもてんかん発作を助長する薬剤などが処方されていれば、なおのこと重積化する確率が高まります。つまり意識減損が短時間で終わるとは限らず、せん妄と区別が難しいほど長時間に及ぶこともありうる訳です。私の症例経験では、てんかんのある症例にコリンエステラーゼ阻害薬を使用するとほぼ全例でてんかん発作の回数が増加したというのは確認済みです。最も弱いガランタミンですら発作を誘発しますから、リバスチグミンやドネぺジルだと重積化して最悪入院という事になるかもしれません。それ以外にも脳を活性化するサプリメントなどもてんかん発作の頻度を増加させる事はほぼ間違いないようです。
以前からこのブログで何度も申し上げていますが、現在のレビー小体型認知症の症候的な診断ツールとして、非常に誤診を生みやすいツールだと私は思います。特にパーキンソニズムの有無が問題になりますが、多くの場合はごく軽度のパーキンソニズムなので、神経専門医でも判別が難しいと思われます。ダットスキャンという検査がやれ高額すぎると批判されがちですが、現行のレビー小体型認知症の症候学的診断が非常にあいまいで混乱を招きかねないものである以上、数少ない脳内のドパミン状態を表現する診断補助検査としてやはり必要不可欠ではないかと思われます。また側頭葉てんかんの除外診断のため、脳波検査が必要だと思われます。てんかんという疾患の特異性を考えれば、脳波検査はMRI/CT検査よりも重要性が高いと言えます。ただし脳波検査でタイミングよくてんかん波が出現するとは限らないので、場合によっては抗てんかん剤(AED)の試験投与による経過観察(治療的診断)が必要になるかもしれません。その場合に使う試薬としては、カルバマゼピン(CAZ)が第一選択となっていますが、高齢者の場合は効率に小脳失調によるふらつきと転倒をおこすリスクがあるので、50~100mgの少量から開始する必要があるでしょう。また事前にこの有害事象(小脳失調症)について説明する必要があります。長期にAEDを続ける必要がある場合は、ラモトリギンなど新規AEDのほうがいいでしょう。
もしレビー小体型認知症を強く疑う症例でやむを得ずダットスキャン検査ができない場合はレボドパ治療反応テストが不可欠でしょう。もしレビー小体型認知症であれば、かなりの高率で50~100mgの少量のレボドパに反応するはずです。レボドパはコリンエステラーゼ阻害薬とは違って反応性は明確です。
パーキンソン病もダットスキャンやMIBG心筋シンチという検査が出るまでは、症候学的診断でしたが、その正しい診断率は70~80%であり、専門医と非専門医で大きな差はないというのが現実でした。つまり症候学的診断というのはそれほどあいまいなものです。私は神経内科医を20年やっていますが、いまだに「レビー小体型認知症」「せん妄」「側頭葉てんかん」「前頭側頭型変性症」の臨床的な鑑別がよくわかりません。症候学的な評価だけで鑑別できると断言する医者は信用していません。
それほど神経疾患の診断というのは決定打がなくて難しいものです。
高齢者に多い側頭葉てんかん(複雑部分発作)を、「レビー診断病」の医者に誤診されて、安易にリバスチグミンやドネぺジルが処方されてひどい目に遭わせられないように、くれぐれもご注意ください。
注)レビー診断病
幻覚(幻視・幻聴)、妄想、意識消失(短時間)、日中の嗜眠傾向、手の震え、認知の変動などの症候がそろっていれば「レビー小体型認知症(DLB)」だと診断してしまい、他の可能性を全く考えようとしない医者がかかっている病。
実際は高齢者の場合は、薬剤誘発性せん妄、側頭葉てんかんの件数のほうが圧倒的に多いと推定されるのだが、すべてそれらがDLBと診断されてしまう事が問題。せん妄やてんかんの知識が乏しい医者がかかりやすい傾向にある。


新横浜フォレストクリニック
内科・漢方内科・老年内科・神経内科

JR・新幹線・横浜市営地下鉄 
新横浜駅 篠原口より徒歩1分






[PR]

by shinyokohama-fc | 2016-12-19 12:36 | 医療

横浜認知症セミナー/平川先生の講演

一昨日、12月14日水曜日に、新横浜駅前の新横浜グレイスホテルにおいて、「横浜認知症セミナー」が実施されました。「認知症診断のポイントと治療のコツ」というタイトルで、誠弘会池袋病院の副院長、脳神経外科医の平川亘先生の特別講演がありました。座長は済生会横浜市東部病院の神経内科部長の後藤先生が務められました。
平川先生は、病院で脳神経外科の救急医療・入院管理などの業務をこなしながら、外来で莫大な症例数の認知症患者を20年前から診療してきたDrです。元々高次脳機能学を専門にされていたので、認知症の診療には抵抗はなかったのかもしれませんが、コリンエステラーゼ阻害薬の3種類の薬剤を様々な用量で様々なタイプの認知症患者に試されて、その経験を統計処理しておられます。いわば単独で大規模臨床試験をしているようなものなので、その仕事ぶりには非常に驚かされます。単発の症例で薬物治療がまぐれ当たりで効いたという話ではないので、非常に説得力があります。この大規模臨床試験をベースにした講演を首都圏各地で行っていて、新横浜では10月15日に続いての講演でした。平川先生は私がいつもブログで書いている、コリンエステラーゼ阻害薬の危険性を誰よりも熟知されているので、コリンエステラーゼ阻害薬の少量投与を昔から試しておられます。一番驚いたのは、リバスチグミン4.5mgを1/4にカットして1.125mgで使用するというものです。初めに聞いたときは???と思いましたが、実際に重度の認知症の高齢者でアパシーが強く、食事を食べない人にリバスグミン1.125mgで試してみると、確かに食事を食べるようになったのです。平川先生のこの薬の使い方としては、記憶を良くする目的でも進行を遅らせる目的でもなく、今もっとも困っている症状を改善するという事に主眼を置いています。講演では「認知症は治らないが、元気で機嫌よくいてくれたらいい」という言葉で結んでいます。
私は今年の3月の「認知症治療研究会」で開演前に40分ほど話し込んだのが平川先生との初めての対談でした。それ以後、平川先生の臨床医としての姿勢や薬物療法の理念に感銘を受けて、意気投合しました。今年も様々な講演会の情報交換会やメールなどで交流を重ねさせていただきました。10月15日の新横浜の講演会もお願いすると快く引き受けていただきました。「今の認知症の薬物治療はおかしい」と言っておられます。初めて講演を聞いた医者はほぼ全員「衝撃を受けた」「価値観が変わった」と口にします。
認知症を含めた神経変性疾患を本当の意味で「治す」治療は存在しませんし、現存の薬物治療でやれることも期間限定の「対症療法」に限られています。それを認めたうえで、私は薬物治療の強制的な推進は好ましくないと思っています。例えば「意味性認知症/前頭側頭型認知症」という疾患では、ドネぺジル(保険適用外)の薬剤を3~5年内服していた患者を4~5名診ましたが、全例で常同行動や反響言語、脱抑制行動が顕著に重症化していました。おそらくリバスチグミンなど他の薬剤でも同じ結果が起こったと推定されます。つまりこのタイプにはコリンエステラーゼ阻害薬を使用してはいけないのです。「認知症であれば、誰でも彼でも同じような標準量のコリンエステラーゼ阻害薬を処方してればいい」と考えて診療にあたっている専門医が多いという現実があります。コリンエステラーゼ阻害薬の3種類が全く違う性質があるという事実が知られていないようです。


新横浜フォレストクリニック
内科・漢方内科・老年内科・神経内科

JR・新幹線・横浜市営地下鉄 
新横浜駅 篠原口より徒歩1分






[PR]

by shinyokohama-fc | 2016-12-16 12:32 | 治療

コリンエステラーゼ阻害薬の大規模副作用分析

原著論文; kroger E,et al.Ann Pharmacother. 2015; 49: 1197-1206
すでに1年前の報告ですが、なぜかどこにも取り上げられす、アナウンスされなかったのは何故でしょうか?
カナダのラバル大学のKrogerらはWHO国際医薬品モニタリングにおけるコリンエステラーゼ阻害薬関連の副作用を分析したそうです。「フレイル患者や多剤併用薬使用患者の場合は、コリンエステラーゼ阻害薬を開始する前に副作用の可能性について検討する必要がある」と結論つけています。
1998年~2013年まで世界中から報告されたすべてのコリンエステラーゼ阻害薬(ドネぺジル、リバスチグミン、ガランタミン)の関連する副作用に関して分析しました。主な結果は以下の通りです。
58か国から計18,955件の報告、男性40%女性60%、平均年齢77.4歳。欧州47.6% 北米40.4%
ドネぺジルとリバスチグミンがそれぞれ(それぞれ41.4%)、ガランタミンは17.2%
副作用の内訳は精神神経系障害31.4%が最多で、胃腸障害15.9%、全身障害11.9%、心血管障害11.7%
2006~2013年の報告はより重篤な副作用が多かったようです。
精神神経系障害34%が最多で、全身障害14.0%、心血管系障害12.1%、胃腸障害11.6%
死亡例は全体の2.3%
以上が真実だとすれば、コリンエステラーゼ阻害薬は、抗精神病薬並みのハイリスクな薬剤だということになりますし、抗精神病薬と併用すれば、精神障害、心血管障害が起こる確率が非常に高いと推定されます。
私自身が実臨床で実感していた副作用がこれで納得できました。75歳の高齢者になれば、アルツハイマー型に混合して他の疾患も混在してくるため、特にPDD/DLB混合型などに関してはこれ以上に副作用率が上がると推定されます。PDD/DLBを対象にしたコリンエステラーゼ阻害薬の副作用の実態もぜひ知りたいものです。
老年系・神経系の各学会や高名な専門医が、その安全性について検証することなく、やみくもにコリンエステラーゼ阻害剤を推奨するという理由は何でしょうか?よく考える必要があります。安全性という観点から考えれば、コリンエステラーゼ阻害薬の少量投与以外に、メマンチンの単独使用という選択枝も推奨され、再評価されるべきではないでしょうか?安全性を第一に考えれば明らかに今の抗認知症薬の使い方はおかしいと思われます。


新横浜フォレストクリニック
内科・漢方内科・老年内科・神経内科

JR・新幹線・横浜市営地下鉄 
新横浜駅 篠原口より徒歩1分






[PR]

by shinyokohama-fc | 2016-12-12 19:16 | 治療

診断基準・治療ガイドラインは本当に必要か?

神経変性疾患、認知症関連疾患やパーキンソン関連疾患における、診断基準、治療ガイドラインによるミスリードと
これらを参考にして処方する医者の応用力のなさが目立つようです。薬理学を学習・理解せず、薬による有害事象を予測できず、ステレオタイプ的な思考回路で盲目的にガイドライン(マニュアル)通りの処方をすればいい?何か有害事象が起こっても免罪される?こんな状況では医者ではなく、AI(人工知能)にでもプログラミングして処方してもらう時代もそう遠くないのではないかと思われます。個人的には診断ガイドライン、治療マニュアルというのはステレオタイプ思考を増幅させるだけの誤診・誤処方を誘導するだけのものではないか?という印象すら持ちます。



新横浜フォレストクリニック
内科・漢方内科・老年内科・神経内科

JR・新幹線・横浜市営地下鉄 
新横浜駅 篠原口より徒歩1分






[PR]

by shinyokohama-fc | 2016-12-06 18:40 | 医療

PDDでは大脳皮質に広汎なコリン作動神経障害

放射線医学研究所で開発されたMP4A(methyl-4-piperidyl acetate)というPETトレーサーを用いることで、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)による水酸化・加水分解速度定数を直接絶対値で評価することで、脳局所のAChE活性を測定することが可能になったようです。この研究チームはこのMP4Aを用いたPET検査を、パーキンソン病(PD)、認知症を伴うパーキンソン病(PDD)/レビー小体型認知症(DLB)の臨床像を呈する患者に実施して、データをまとめ評価した結果を、2009年のNeurology(米国の神経学会雑誌)で発表しています。
MMSE(認知機能)が低下するほど大脳皮質のAChE活性が低く、コリン作動性神経障害がPDの認知機能に強く関連しているとの結果を得ています。PETの利点は脳内のどの部位でAChE活性が低下しているかを見える化(可視化)できることです。AChE活性は未治療PD、治療後3年以上のPDでは後頭葉の一部限局した範囲にしかAChE活性低下がみられず、PDD/DLBでは前頭葉~側頭葉を含めた大脳皮質の広範囲でAChE活性低下がみられました。マイネルト基底核からのコリン神経経路には帯状回・後頭葉に投射する内側系と前頭葉・側頭葉など広範囲に投射する外側系がありますが、PDD/DLBでは内側系+外側系が障害されている可能性が示唆されました。
千葉大学の神経内科では神経変性疾患における大脳皮質コリン神経系減少率を検討しているようです。PDでは-10%、PDD/DLBでは-20%以上と大きな差があるようです。一方でPSP,MSAでは-10%以下、SCA3/6ではー2%以下だったようです。
米国のBohnenらのグループは、PD,PDDの大脳皮質におけるAChE活性は罹病期間や運動症状の重症度とは相関せず、注意力・遂行機能障害と関連することを示しています。また彼らはPDの転倒イベントと視床のコリン神経系活性の相関性を検討しました。その結果として転倒歴のあるPDでは大きなACh活性低下がみられたという事です。
視床のコリン神経系は姿勢保持・転倒防止に関連し、大脳皮質のコリン神経系は注意力・遂行機能に関連するようです。PDD/DLBでは両方ともコリン神経系の神経障害が進行性のようです。
以前のブログでも取り上げていますが、放射線医学研究所が2012年に発表している、アミロイド沈着を伴うPDD/DLBというのが存在するというものであり、PDD/DLBは病理的に①アルツハイマー+レビーと②レビーという2つのタイプが存在し、①はコリンエステラーゼ阻害薬が無効、②は有効との報告でした。
数か月単位でラッシュな進行性がみられるPDD/DLBという症例がいくつか確認できますが、現存の治療薬などまったく通用しないことがわかります。ドパミン神経だけではなく、コリン作動性神経細胞がどんどん変性・脱落していくような症例にコリンエステラーゼ阻害薬を使ってもまったく通用しないことが、症例を通じてよく理解できます。効果がないばかりか、少量のリバスチグミンやドネぺジル、ドパミンアゴニストでも姿勢異常(首下がり、腰曲がり)が誘発されたり、動作歩行障害が悪化したりするようです。
その一方でPDが発症して15~20年経過している緩徐進行性の症例にはこのような臨床像はみられません。発症22年経過した72歳の女性PD症例に関して、初診時にみられた薬剤性せん妄の要素を解除して実施したMMSEは28点でした。つまりPDという病型では発症後20年以上経過しても認知症はみられなかったわけです。これに似た症例を2~3人診ていますが、やはり転倒歴はほとんどなく、注意力・遂行機能は維持されています。これらの症例ではおそらくMP4A/PET検査ではコリン作動系神経障害はかなり限定的なのだろうと思います。
こう考えていくと、アミロイド沈着を伴うPDD/DLBは、非常に悪性度の高い疾患群であり、原則的に経過が非常に緩徐・良性で非進行性のPDやDLBとは同じスペクトラムにあるとは言い難いです。臨床的には以下のように分類されるのではないかと思います。
(1)パーキンソン病・純粋型(PD);ダットスキャン軽度~中等度異常、 アミロイドPET正常~軽度異常
経過は非常に緩徐で良性、15~20年長期に経過しても中等度以上の認知症、重度の精神症状はきたさず、薬物処方過剰などの外的要因を除外すれば、日常生活動作に関する遂行能力と注意力は維持される。転倒は少ない。
パーキンソン治療薬の調整によって運動機能も比較的維持される、長期経過してもレボドパは有効である。
(2)レビー小体型認知症(DLB);ダットスキャン高度異常、 アミロイドPET正常~軽度異常
経過は非常に緩徐で良性、薬物選択を慎重に選べば、良好にコントロールでき、日常生活動作能力も維持される
(3)アミロイド沈着型・パーキンソン型認知症(PDD/DLB) ;ダットスキャン高度異常、アミロイドPET高度異常
高度の姿勢異常や転倒が多く、遂行能力・注意力は著しく阻害され、幻覚や妄想などの精神症状も強い場合がある。様々な薬物処方に対して少量でも有害事象が出現するが、レボドパ含むパーキンソン治療薬、ChEIなどは効果は全くないかあっても一時的で月単位で進行速く、多くは歩行不可となり、介護困難で入院や入所の対象になりやすい
パーキンソニズム(運動障害)、認知機能低下、精神症状がいずれも著しく、薬物コントロールがほとんど不可能なのが、(3)だと思われます。臨床経過と病状の重症度からPSP-RSに類似しています。ドパミン作動神経とコリン作動性神経の障害が重度であるため、ほとんど既存の薬物治療が通用しないようです。パーキンソニズム(運動症状)で発症するか、認知機能障害で発症するか、精神症状で発症するかの違いはあれども、最終的にはどれも重症になります。それに比べて(2)はパーキンソニズムがあったとしても薬剤性の要因を除外すればかなり軽度で、パーキンソン治療薬を全く必要としないケースも少なくないです。よく診察しないとわかりにくいようなレベルです。(1)はレボドパなどでパーキンソニズムはかなり軽減できます。臨床的には(1)(2)と(3)は全く別の疾患だと考えたほうがよいのではないかと個人的には思います。一般的にPDDと診断される疾患群は(3)であることがほとんどのようです。
一般的に(2)を臨床医が診断するのは相当難しいと思われます。動作歩行障害が目立たないので多くはうつ病など精神疾患とされています。幻覚(幻視・幻聴)や妄想を訴える場合もありますが、これらは(2)に特異的な症状ではなく、非定型ATD,FTD/SD,CBSなどでも高頻度にみられます。幻覚・妄想の発症部位は単一ではないからですし、高齢者の場合は様々な薬剤によっても幻覚(幻視)は容易に誘発されます。個人的には幻覚(幻視)というあまりにもありふれた症状をDLBの診断基準から除外すべきだと考えています。幻覚・妄想よりもむしろアパシー、アンへドニア、抑うつなどがDLBらしさなのではないかと考えます。パーキンソン治療薬が一切入っていない状況で診察すると、わずかに左右差のあるパーキンソニズムが確認できます。多くはドパミン阻害剤(抗精神病薬かChEIなど)によってパーキンソニズムが顕性化しますが、原因薬剤を減量・中止など修正すれば容易に軽減します。
私自身も(2)正確に診断する自信はありません。パーキンソニズムもアパシーもない幻覚症例を何人かダットスキャン検査を依頼しましたが、予想通り正常でした。近年はDLBの過剰診断が拡大生産されている状況のようです。
その一方で、PDに対するドパミン作動性薬剤の過剰投与によってPDD/DLBが拡大生産されています。多くの場合はドパミン作動性薬剤を一切整理することなく、ChEIが追加されます。こういうケースはPDD/DLBでもなんでもなくて、ただの薬剤カスケードにすぎないので、一時的にはChEIは有効かもしれませんが、またすぐに別の問題が出てきます。終わりなき有害事象悪循環の罠(袋小路)に迷入してしまうのです。


新横浜フォレストクリニック
内科・漢方内科・老年内科・神経内科

JR・新幹線・横浜市営地下鉄 
新横浜駅 篠原口より徒歩1分






[PR]

by shinyokohama-fc | 2016-12-02 12:33 | 医療

ドパミントランスポーターシンチグラフィー(ダットスキャン)の意義

ダットスキャンはパーキンソン病(PD)、レビー小体型認知症(DLB)の診断目的で現在は保険適応になっている検査です。PD,DLBとそれ以外を鑑別する目的とされてます。McKeithらが作成したDLBの診断基準では支持項目になっているようです。しかし最近わが国では、幻覚(幻視・幻聴)がある高齢者は全部DLBと診断しようという動きがあるようです。つまり「高齢者の幻覚=DLB」というのが、認知症専門医の共通認識のようです。
私は神経内科医ですが、パーキンソニズムが確認できる認知症を伴うパーキンソン病(PDD)という臨床像というのは理解できるのですが、パーキンソニズムを伴わないDLBという臨床像がよくわかりません。前医(認知症専門医)では幻覚があればDLBにされているからです。しかし実際に私の診断では薬剤性のせん妄が最も多いようです。比較的多いのは泌尿器系の過活動膀胱に使用される抗コリン剤です。抗生物質や抗インフルエンザ剤の内服は1週間以内ですが、一時的に幻覚が出る場合が多いようです。より深刻なのは、オピオイド系の鎮痛薬(トラマドール)単独、あるいは神経系鎮痛薬(プレガバリン、デュロキセチン)との併用で長期に内服したケースです。さらにパーキンソン病の治療薬の過剰投与でも、幻覚は容易に出現します。私が診ているPDの患者さんでも、レボドパ/ベンゼラシド150mg+セレギリン5mgにトリへキシフェニジル2mgを追加した70歳女性のケースや、レボドパ/カルビドパ300mg+ロピニロール8mg増量した73歳男性のケースは、ごく軽度ですが、幻覚を訴えました。PDの患者は元々ドパミン作動性薬剤によってドパミン受容体を刺激しているため、受容体の過敏性があり、幻覚が出やすいようです。他の神経内科医は「幻覚がでたらDLB化だ」と早計に誤診して、ドパミン作動薬の見直し減量などをまったく検討せずに、コリンエステラーゼ阻害薬(ドネぺジルがほとんど)を安易に処方したがる傾向にあります。日本神経学会の作成しているガイドラインにも大いに問題があると思います。これを「薬剤カスケード」「ポリファーマシー」と言います。これまで、この処方パターンで病状がよくなったという声をほとんど聞いたことがない。高額な薬剤を過剰に処方しても患者の病状がよくならなければ、それは「医療費(薬剤)のムダ」に他ならないのです。
ダットスキャンという検査は、脳内の黒質から線条体に向かう神経経路(ドパミン神経)の変性・脱落の程度を評価する検査です。著しくドパミンの取り込みが欠乏している状況は、PDD/DLB,PSP,CBDでみられ、左右差のある軽度~中等度のドパミン取り込み欠乏はPDでみられます。たしかにPDD/DLB,PSP,CBDの鑑別診断には役に立たないので、価値がないのでは?という医者もいます。しかし私はこれらを「線条体ドパミン高度欠乏症候群」として一括した症候群として捉えていいのではないかと考えます。現状では脳内ドパミンニューロンの状況、病気の重症度を反映できる検査は他には存在しません。MIBG心筋シンチグラフィーは脳ではなく、あくまで心臓における自律神経の状態を診ているものです。自律神経不全はPD,PDD/DLBの症例によって差異が大きいと思います。
「線条体ドパミン高度欠乏症候群」では、ドパミンニューロンの変性・脱落が高度ですので、これらに共通しているのはドパミンやアセチルコリンに作動する薬剤がごく少量でも有害反応が出てしまうという事です。PSP、CBDに至っては効果も期待できないので、有害事象で病状が悪化するだけのケースが多いです。レボドパ少量でも眠気や幻覚が出たり、コリンエステラーゼ阻害薬少量でも、首曲がりや腰曲がりなどの姿勢異常が出てしまうのです。ドパミン高度欠乏(枯渇状態)を証明する検査として価値が大きいと考えています。
他には心因性パーキンソニズム、アルツハイマーの非典型型、ピック系(意味性認知症など)の除外診断をするのに必要だと考えています。明らかに臨床的にドパミン欠乏には見えないのに、「幻覚があるだけでDLBだ」と誤診されるケースが後を絶たないからです。「前医の診断を否定するための検査」として使うことが少なくないのです。幻覚の原因を臨床的に正確に評価できず、安易に「DLBだ」としてしまう臨床医があまりにも多すぎるからです。臨床医として、あまりにも短絡的でステレオタイプ的な思考回路としか言いようがないです。


新横浜フォレストクリニック
内科・漢方内科・老年内科・神経内科

JR・新幹線・横浜市営地下鉄 
新横浜駅 篠原口より徒歩1分






[PR]

by shinyokohama-fc | 2016-12-01 19:07 | 治療
line

新横浜フォレストクリニック(横浜市港北区・新横浜駅)の院長が日々綴る様々な情報を発信するブログです


by shinyokohama-fc
line