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メコバラミン(ビタミンB12)の適量処方について考える

「週刊現代」が2か月前から現行の医療批判の記事を毎週特集しているようです。主旨としては無駄な薬物治療が多すぎるということで、有名なドクターのコメント付きで「不必要だ」と断じているようです。私は以前から必要最低限の処方を心がけているため、かかりつけ患者からの問い合わせなどは全くありませんが、実際はお薬手帳で他の医療機関を薬を確認すると目もくらむような多剤大量処方が少なくないので、初診患者には「これ以上追加で薬は出せません」と言わざるをえない事もしばしばです。私に転医したケースでは6~7種類程度削ることもザラです。
「週刊現代」の記事については6~7割程度は賛同できる部分もありますが、3~4割程度はそれぞれのドクターの個人的な主観による意見が散見され、中には過剰批判も存在するようです。今回の「100人の医者が答えた「本当は飲まないほうがいい薬」」という特集で、メコバラミン(商品名メチコバール)が入っていたことに驚愕しました。コメント医師は「大学病院 心臓外科講師」だそうです(苦笑)。まず心臓外科医がこの薬を批判するというのは、神経内科医が心臓手術について語るのと同じくらい滑稽だと言わざるをえないというのが、私の感想です。他の薬のコメントが、長尾和宏先生など名前と所属を明らかにしている中で、なんと匿名(苦笑).... 匿名のコメントなど何の説得力もないので、遠慮なく引用させていただくと「末梢神経障害の適応薬として、神経痛や手足のしびれに用いられていますが、効いているかどうかほとんどわからない。偽薬とまでは言わないが、プラシーボ効果だけを期待して処方している」このドクター以外にも薄々そう感じているドクターは少なくないのかもしれません。
20年以上神経内科に携わった医者として黙っていられず、メコバラミンに対する私見を書いてみたいと思います。
なぜプラシーボ呼ばわりされてしまうのか?それは末梢神経障害の治療としては保険適応で認められている用量が少なすぎるからです。ただし、この用量で効くと思われるケースも存在します。それは末梢神経の回復力のある比較的若年者で、まだ発症して数か月以内の、局所的圧迫による単神経障害のケースです。具体的には手のしびれの原因になりうる、手根管症候群、肘部管症候群、手の麻痺をきたす橈骨神経麻痺、足の麻痺をきたす脛骨神経麻痺などです。しかしこのようなケースでもしびれがきつかったり、発症からの期間が長ければ、本当に有効にするためには常用量の2~3倍(3~4.5mg)くらいは必要だと思います。実際私が診た症例ではそのようなケースがありました。
中高年以上、特に高齢者で長年患った、糖尿病による末梢神経障害や変形性脊椎症による神経根障害などでは、末梢神経が何年にもダメージを受けているので、メコバラミン1500μg(1.5mg)程度ではいくら続けても効くはずがないのではないかと考えます。神経内科で扱う、自己免疫性の短期間で全身の末梢神経が強いダメージを受ける「多発性神経炎」をきたす疾患も同様だと思います。これらのケースだとおそらく10倍(15mg)程度は最低必要ではないかと考えます。しびれに対しての対症療法の薬剤はプレガバリン、カルバマゼピン、デュロキセチン、トラマドール(注;オピオイドのため特に脳の衰えた高齢者には推奨できない。以前のブログ参照)などいろいろありますから、これらの薬剤との併用は一切せず、メコバラミン単独使用で効果があるか否かという臨床評価が必要です。NCS(神経伝達検査)による投薬前後の評価で証明されればなお信憑性が高まると思います。
昨年の新潟で行われた「日本神経学会」では徳島大学から「筋萎縮性側索硬化症(ALS)に対するメコバラミン大量療法の有効性」についての大規模臨床研究の発表がありました。ALSという非常に機能予後の悪い疾患において、人工呼吸までの期間を大幅に遅らせるというものでした。結局実用化には至らなかったようで、個人的には大変残念に思いましたが、ALSという疾患は末梢神経ではなく中枢神経(運動ニューロン)の疾患だったという事が衝撃的でした。つまりメコバラミン(ビタミンB12)は末梢神経だけではなく、中枢神経疾患に効く可能性があるのです。メコバラミンの一番のアドバンテージは用量を増やして投与しても、重篤な副作用が現れない事です。ALSの大規模臨床研究では1回あたり50mgもの破格の用量を使用していて、この用量でも耐えうるというのは、増量に忍容性がケースが多すぎてよく問題になっているコリンエステラーゼ阻害薬とは天地の差です。神経内科に長年携わってきた1人としては、メコバラミンが中枢・末梢神経障害をきたす神経疾患において、用量の制限なく自由に使用できるようになるのが理想だと個人的には思います。「メコバラミンの適量処方を実現する会」というのが必要なのかもしれません。抗認知症薬とはまったく逆の意味にはなると思いますが。


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by shinyokohama-fc | 2016-08-11 13:39 | 治療

ガランタミンがPSPSに最適である理由

ガランタミンがPSPSの症例に著効するケースがある、リバスチグミン・ドネぺジルからガランタミンへの変更にて劇的に症状が軽快する症例が多くみられるというのは以前のブログで示した通りです。これらの臨床経験からガランタミンがコリンエステラーゼ阻害薬の中でも他の2剤とはかなり異質な薬剤であることがよくわかります。
ガランタミン投与前後の局所脳血流量(rCBF)をSPECTを用いて評価している論文があり、ガランタミン投与後には橋・中脳・小脳・視床・線条体・前頭葉・頭頂葉・側頭葉で投与前と比較してrCBFが有意に増加していると報告されています。最も血流増加しているのが視床で、中脳、橋、小脳、線条体、前頭葉、頭頂葉においても15~20%前後の顕著な血流増加が確認されました。要約すると大脳基底核と脳幹の顕著な血流増加作用があるとの事でした。大脳皮質のみならず基底核・脳幹・小脳など脳の広域にわたって血流増加があり、PSPSのような広域にわたる病変をきたして多系統で複数の神経症候を悪化させる疾患に対しては最適だと考えられるわけです。以前のブログでも書きましたが、リバスチグミンやドネぺジルのようなコリンエステラーゼの過剰阻害によるアセチルコリン過剰賦活によるドーパミン阻害作用が起こりにくい点や、ニコチン性アセチルコリン受容体の感受性増強により、この受容体を介する複数の神経伝達の亢進作用を有する点、ピックコンプレックスによる前頭葉症状(興奮、不安、異常行動)に対して効果を示す点などもPSPSの病態にマッチしていると考えられます。リバスチグミン・ドネぺジルでは前頭葉の血流を過剰増加してこれら陽性行動心理症状を悪化させうるという事は実際に私が経験した症例で数多くみられました。PSPSのような複雑な病態では多方面にほどほどに作用する薬剤が最適であり、先のブログでふれた、3系統神経伝達物質補充療法においても、レボドパやドロキシドパに比べて重要なキードラッグになると考えられます。
ただしPSPのように神経変性が急速に進行してしまう病態では、現行薬剤による対症的治療だけでは限界があります。前のブログで書いた、パーキンソン治療薬としてトライアルされているフェノール化合物の一部においては異常タウ凝集作用が報告されていて、このような病態の根幹に作用する薬剤の早期実用化が急務であると考えます。


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by shinyokohama-fc | 2016-08-08 18:07 | 治療
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