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アセチルコリンとドパミンのバランス調整の難しさ

コリンエステラーゼ阻害薬というのは高用量で使用を続けると、症例によってはジストニアやパーキンソニズムなどの思わぬ錐体外路症状が出現することがあります。
1年前から通院している、65歳の女性の症例で、初診時は動作・思考が緩慢になったという事で受診されました。初診時HDS-R 14/30ですでに中等度の認知症でした。幻覚(幻視・幻聴)や妄想などの精神症状は全くなく、認知の変動も確認できなかったため、いわゆる「レビー小体型認知症」の診断基準には合致しない症例でした。比較的若年者で初診時すでに中等度レベルまで進行していたので、7月からリバスチグミン4.5mgから開始し、3か月後の10月から18mgで維持としました。一時はいくらか改善傾向がみられ、表情がでるようになったが、1月頃からアパシー(無気力・無関心・無為)の症状が悪化してきたうえに、日中の嗜眠や尿失禁がみられたため、リバスチグミンを13.5mgに減量し、レボドパ50mg×3、アマンタジン50mg×1を追加したところ、3月頃からは動作も速くなり 日中の嗜眠・失禁はなくなりました。しかし5月頃から右方向への体幹傾斜と前傾姿勢が顕著となり、左側背部の局所的な筋緊張亢進が確認され、局所性ジストニアと思われました。リハビリテーションも必要と考えられましたが、リバスチグミンを9mgに減量せざるを得ませんでした。
錐体外路のうち筋肉の緊張を調整する指令を伝達する物質はアセチルコリンで、アセチルコリンが分泌される事によって筋肉の緊張は保たれます。アセチルコリンの分泌が多すぎると筋肉の緊張は強くなります。パーキンソン病ではそのような状態になっています。薬剤によるアセチルコリン過剰賦活による過多でも同様の事が起こりうるという事をこの症例で実感しました。つまりコリンエステラーゼ阻害薬(ChEI)はその患者にとって(個別差は大きいが)過剰投与であればジストニア(片側性の不随意的な局在的筋緊張)やパーキンソニズムを引き起こすという事です。一方のドパミンは脳内においてアセチルコリンとの量的バランスが保たれている事が必要です。パーキンソン病の脳内ではドーパミンが減っています。ドパミンとアセチルコリンは天秤関係にあり、相対的にアセチルコリンは増加しています。上記の症例のようにパーキンソニズムと認知症・アパシーを併発している症例の場合に対してはドパミン賦活剤とアセチルコリン賦活剤の使い方のバランスが非常に難しいようです。通常のパーキンソン病の症例でも長期間にわたり、レボドパ高用量とドパミン賦活剤をフルドースで多剤併用されている症例が散見されます。こういう症例ではドパミン依存だけではなく、間接的なアセチルコリン分泌抑制が起こっていると推定され、薬剤誘発性の認知症類似の状態に陥っているようです。高齢発症のパーキンソン病で2~3年で認知症になると学会などではよく言われますが、薬剤誘発性の部分もかなりあると思われます。私からみて日本の神経専門医?の多くは多剤併用・過剰処方であり、中にはとんでもない多種類の神経系の薬剤が併用されている症例があって驚かされます。神経系の薬剤を6~8種類併用した大規模臨床試験やエビデンスは国内はおろか世界でも存在していません。過剰処方が神経伝達物質のバランスを崩し、病状を悪化させるという事実をよく理解してほしいものです。



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by shinyokohama-fc | 2016-06-27 09:10 | 治療

開眼失行と眼瞼痙攣はジストニアの一種

先日、あるCBS-CBD(大脳皮質基底核変性症)と思われる症例の動画をみせてもらいました。開眼しない時間が多いとのことでしたが、なんと開眼しない状態で食事を普通に嚥下していました。前医では意識障害(せん妄)ではないかと言われていたようですが、意識障害下で食事を普通に嚥下するのは不可能です。意識障害の改善に使用されているシチコリン注射を実施されたが全く改善しなかったという事でした。これは眼の周辺筋のジストニアの一種で、開眼失行または眼瞼痙攣ではないかと思われます。この病態は全くと言っていいほど周知されていない症状のようですが、大脳基底核障害によるジストニアの一種です。特にPSPSやCBSではかなり高率にみられる症状です。進行性核上性麻痺機能尺度日本語版(PSPRS-J)には「眼瞼機能不全」という項目があり、そのスコアは1)瞬目の減少 2)開瞼閉瞼困難または眼瞼攣縮 3)瞼が開けつらく、眼瞼攣縮のため部分的視覚障害 4)瞼が意思に反して閉じるために目が見えない状態 と4段階で評価となっています。開眼失行と眼瞼攣縮の定義を以下に列記します。
開眼失行(apraxia of lid opening) ; 閉眼後の随意的な開眼において、上眼瞼挙筋の収縮開始遅延のため、開眼しようとしているが、なかなか開眼できない状態。開眼しようと眉を吊り上げたり、額にしわ寄せたりする事がある
眼瞼攣縮(blepharospasm) ; 眼輪筋など閉瞼に関与する筋の随意運動困難により自由な開瞼閉瞼ができない状態。眼瞼に力が入りすぎてしかめっ面になる。
当院で診療した50例の進行性核上性麻痺・症候群(PSPS)のうち、5例に明らかな開眼失行・眼瞼痙攣を確認しました。CBSも一部PSPSとオーパーラップする同じ疾患群ですので、2~3例に同様の症状を確認した記憶があります。
パーキンソン病においても発症後20年前後の経過の長い症例においてはレボドパのオフ時間に同様の症状が見られます。この症候は大脳基底核が起源だと考えられているようです。
意識レベルの評価として有名なグラスゴーコーマスケール(GCS)では意識レベルの評価として開眼機能(eye opening)というのがあり、E4)自発的に普通の呼びかけで開眼 E3)強く呼びかけると開眼 E2)痛み刺激で開眼 E1)痛み刺激でも開眼しないというスケールがあるくらいなので、医療者には開眼しない=意識障害だと誤認されやすい傾向があります。実際は眼瞼筋に不自然に力が入りすぎて開眼できないだけなので、このような状態の方は意識は清明に保たれているため、命令動作には従えるはずです。周囲の人々は「この人は意識がない」と勝手に認識して、油断して本人に都合の悪いことを平気で言ってしまう場合がありますので、かなり注意が必要です。
このような局所ジストニアの治療としてはA型ボツリヌス毒素が適応になります。神経筋接合部の神経終末からアセチルコリンの放出を阻害し、3~4か月の長期にわたる筋弛緩効果がありますが、かなり医療費としてはかなり高額になりますので、あまり普及していないようです。


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by shinyokohama-fc | 2016-06-20 17:14 | 医療

進行ステージPSPS、ChEI変更により奇跡がおきた

今回紹介する症例は84歳女性で、9~10年前に転倒にて発症したPSPS(進行性核上性麻痺症候群)の方です。PSPSとしては進行が緩徐ですので、PSP-RSでないことは間違いないようです。当院で2年間に受診したPSPSの50例で、RSと思われるタイプは14例(28%)でした。PSP-RSは1~2年の急速な経過を辿りますが、他のサブタイプ症例は7~10年の経過の症例も多いようです。この症例の場合は7~8年前から幻覚・妄想などの精神症状があり、4年前までは歩行器で歩行していたが、3年前から起立歩行不可能となったそうです。情緒障害があり、感情失禁、スイッチ易怒、介護拒否などの脱抑制的行動心理症状が目立ち始め、1~2年前から次第に話せなくなったそうです。他医でのMRI検査では大脳・中脳~脳幹・小脳ともびまん性に顕著な萎縮がみられました。診察では頸部・体幹の筋強剛が強く
ガチガチに固まっていて、前後左右に他動的にも全く動かない状態でした。言葉は全く発する事はできず、目はびっくり眼で上下左右に運動制限が強く、顔面の表情筋も全く動かない状態でした。四肢も鉛管様の固縮で他動的にも関節運動させるのに苦労する状態で、自発的には上肢の屈曲・進展もできない状態でした。PSPSとしては臨床的に極期であり、この状況ではとても治療が奏功するとは想像できませんでした。
前医ではドネぺジルの後、リバスチグミン4.5mgが処方されていて、フェルラ酸サプリも服用していたようですが、まったく症状は改善することなく悪化する一途でした。PSPSとして極限まで悪化した状態であり、高齢でもあり、もはやこれまでかという印象でした。FTDタイプで脱抑制が目立つという理由で、リバスチグミンからガランタミン4mg+4mgへの変更をしました。理由はリバスチグミン4.5mgでもこの症例にとってはアセチルコリン賦活作用が強すぎると感じたのと、ノルアドレナリンやドパミンなど多方面の神経伝達物質の賦活作用を期待したからです。1か月後に再診の時には驚かされました。まったく微動だにしなかった頸部が左右・前後に自力で可動できるようになっていて、一言も話せなかったのが、語彙はかなり少ないものの話せるようになっていました。前回みられた右方向への体幹傾斜(おそらくジストニア)も治っており、座位が保てなかったのが、保てるようになってました。全く自分で動かせなかった両上肢も屈曲・伸展ができるようになっていました。今まで見たこともないような奇跡に遭遇したと言っても過言ではないと思います。コリンエステラーゼ阻害薬な(ChEI)は3剤どれを使ってもそう大差はあるまいというのが、多くの医者の意見だと思いますが、この症例で起こった事は、ガランタミンという薬剤が神経難病の極期にも非常に著明な効果を示すという事実を証明しました。逆に言うと、それまで使っていたChEIの2剤が、PSPSの病状をアセチルコリンの過剰賦活作用によって著しく悪化させていたのではないかという疑念も残ります。このChEIによってPSPSの病状が大きく左右されるという事実は今年3月の研究会で発表し、現在論文としても作成中です。今年の秋にはそれが掲載された研究会雑誌が出版される予定です。


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by shinyokohama-fc | 2016-06-11 17:20 | 治療

パーキンソン病精神障害に対する新薬承認(FDA)

パーキンソン病精神障害(幻覚、妄想)というのは、米国の統計ではパーキンソン病(PD)経過中の50%にみられるそうです。私が外来で診ている範囲では、パーキンソン病の10~20%に見られるという印象です。幻覚と妄想が現れる理由として最も多いのは、服用しているパーキンソン治療薬が原因のケースです。薬剤の感受性で個人差がありますが、ドパミンアゴニスト、セレギリンで誘発されやすいようです。感受性が過敏な方は短期間の内服でも幻覚などが誘発されますが、多くは長い年月にわたる内服によって誘発されるケースです。治療ガイドラインでは幻覚が出れば幻覚を誘発しやすい薬剤から順次減量・中止していくように指導されていますが、治療薬の減量・中止は長年PDを患っている方々にとっては、動作歩行レベルが悪化するデメリットがあり、あまり歓迎されるものではないようです。脱水症や感染症などの病態の影響で誘発される事もありますが、これに関しては補液など適切な対処をすれば、一過性に終わる事がほとんどです。薬剤や感染症などが関与せず、それほど多くない用量の薬剤用量(レボドパ150~200mg/日)でも顕著な幻覚、妄想が現れているケースがあります。しかも身体症状が発病してわずか1~2年という短期間で出現するようです。PDのものが原因、あるいは認知症に伴う行動心理症状とも言われています。通常PDは中脳黒質・線条体に限局した局剤的な病理変化と言われていますが、中脳黒質・線条体(基底核)~辺縁系、~皮質系の連関サーキットというのが大脳生理学者によって報告されていて、その強弱によって情動症状や精神症状が起こると推察されます。中にはそれ以外にも大脳皮質や脳幹下位に広範囲にレビー小体病理変化が起こる、いわゆる「びまん性レビー小体病」の病態になるケースもあります。臨床的にはパーキンソン病認知症(PDD)と呼ばれていて通常のパーキンソン病に比べて非常に薬物コントロールに難渋するケースが多いようです。
このたび2016年4月29日、米国食品医薬品局(FDA)はパーキンソン病に伴う精神障害である、幻覚・妄想に対する初めての治療薬であるNuplazid(pimavanserin)を承認したとの事です。選択的セロトニン逆作動薬(SSIA)と呼ばれるまったく新しいタイプの薬剤で、選択的に5-HT2A受容体を標的とする一方で、ドパミン受容体など他の神経伝達物質の受容体の活性を抑制しないそうです。ドパミン作動に関与しないので、従来の抗精神薬のように運動機能を障害することなく、幻覚・妄想を抑制することができるそうです。FDAはこの薬を「画期的治療薬」に指定しています。残念ながらこのニュースは神経内科の学会である、神経学会やパーキンソン病学会(MDSJ)などでは一切触れられていませんでした。
現在パーキンソン病精神障害に対しては、「統合失調症」にしか保険適用が認められていない、抗精神薬がやむをえず少量投与されています。具体的にはクエチアピン(MART)、リスぺリドン(SDA)、オランザピン(MART)、アリピプラゾール(DSS)、ベロスピロンなどのドパミン受容体に作用する非定型抗精神薬が使用されています。しかしパーキンソン治療薬と非定型抗精神薬が併用されている症例で前医によって投薬コントロールが成功している症例をほとんど見たことがないです。これらの薬剤の選択や用量設定が極めて難しいという側面も否定できませんが、多かれ少なかれ複数の神経系薬剤がドパミン受容体に作用すれば、コントロール不能なりうるのは自明の理です。動けなくなるか精神錯乱になるかというのを繰り返す状態に陥ります。この結果、神経伝達物質や受容体が混迷状態に陥る事が少なくないようです。認知症においても非定型抗精神薬を長期使用する危険性が指摘されているため、これらの短期間にとどめるようにと言われています。しかし他に適切な薬剤が存在しなかったのでリスクを冒して「統合失調症」の治療薬を使わざるを得ないのが現状です。
今回の新しい治療薬はドパミン受容体に作用しないため、従来の抗精神薬とは違い、ドパミン阻害によるデメリットを気にしなくていいそうです。日本の急速な高齢化に伴い、70歳以上の高齢発症のPDにおいて、PDDの経過をとるパーキンソン病精神障害の症例が今後増加してくる事が予想されます。この薬が日本でも1日も早く使用できるように期待したいです。


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by shinyokohama-fc | 2016-06-09 19:02 | 治療
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