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ベンゾジアゼピン系薬剤(抗不安薬)の問題

先日、「処方薬物の乱用・依存を防ぐ」という特別研究会を聴講してきました。講師は日常的に薬物中毒者・依存者の治療にあたっているDrで、おそらく抗不安薬特にベンゾジアゼピン系薬剤というのは一度処方すると深刻な薬物依存を生む原因となっていて、精神科はもちろんのこと内科でも頻繁に処方されているのが問題であるとのことでした。薬物依存というのは薬を摂取しないと強い不安状態に陥る精神依存、服用を中止したり減量したときに起こる身体依存、服用を継続することで効果が減弱するため、さらに強い効果を求めて使用量が増加する耐性化の3点が問題になっています。一般的に問題とされるのは、自殺企図直前の大量服用(overdose)であり、抗不安薬の大量服用しなければ自殺までに至らないケースもあるといいます。薬物依存の専門医が問題としている頻用薬剤は主としてベンゾジアゼピン系の薬剤で、エチゾラム(デパスなど)、フル二トラゼパム(サイレースなど)、トリアゾラム(ハルシオンなど)、ゾルピデム(マイスリーなど)、ベゲタミン、二トラゼパム(ベンザリンなど)です。これらの薬剤を常用している患者は複数の医療機関で上記の特定薬剤を指定して「これを処方してくれ」と初診から言ってきます。私は薬物依存を生まないという理念で仕事をしていますので、こういう申し出についてはこれらの薬物の危険性を資料を配布して十分説明した上で断るようにしています。今回の講師のDrはエチゾラムとべゲタミンの新規処方をやめようと呼びかけていました。私もこれには賛同しています。前者は幅広い適応症があり、抗精神薬扱いにはなっていない事もあってわが国では至る所で処方されており、世界的に見ても処方数量が飛び抜けて多すぎると問題視されているくらいです。我が国の保険診療システム、フリーアクセスの負の遺産と言っても過言ではないと思います。後者に関しても3種類の抗精神薬(フェノバルビタール、プロメタジン、クロルプロマジン)の配合剤であるため、死亡率が高い(死因は肺炎、不整脈による突然死、自殺企図)薬のようです。特にフェノバルビタールはてんかん専門医が使用禁止を提案しているほどの薬ですから有用性よりも有害事象がはるかに上回るという事なのでしょう。
神経内科でよく扱っている高齢者の神経変性疾患(パーキンソン病・認知症関連疾患、脳卒中後遺症、神経難病)に関しては上記の薬剤は特にリスクが高いようです。
私自身の経験で言うと、エチゾラムを常用して誤嚥性肺炎を起こした患者が過去に数名いました。最近の症例では発症して6~7年のヤール2度のパーキンソン病の70代男性が不快な喀痰貯留症状を訴えていたのですが、睡眠導入目的でエチゾラムを前医で処方されていたので、中止させて試行錯誤の上でオレキシン受容体拮抗薬に代替した結果、喀痰貯留症状は完全消失して、外来での不定主訴まですっかりなくなりました。パーキンソン病、脳卒中後遺症、神経難病など嚥下障害をきたすケースにおいてはベンゾジアゼピン系の薬剤はやはり問題が大きいと改めて再認識させられました。エチゾラムは最もやめるのが難しい薬剤だと言われていますが、私の診ている症例に関しては数例で中止が可能になっていますので、中止離脱は不可能というわけではないようです。
他の症例では60代女性で重症の神経難病(CBS)+NPH(正常圧水頭症)の方ではCBSの症状であるミオクローヌスに対して前医にて二トラゼパムが使用されていました。前医の使用量が過量だったため小刻みに減量を試みた結果、これまで問題だった嗜眠傾向と誤嚥が大幅に軽減しました。減量しすぎると粗大なミオクローヌスでやはり問題になるようです。BZ系はミオクローヌスに対しては非常に効果の高い事が確認できましたが、半面で副作用のために誤嚥性肺炎を誘発しやすいようです。特に薬剤によって日中が嗜眠状態で食事をするというのはきわめて誤嚥リスクが高いと言えます。BZ系は確かに切れ味がよく患者には喜ばれる薬なので、Dr側は「患者が喜ぶのなら」とついつい際限なく処方してしまうようですが、高齢者の肺炎死亡者が激増している遠因としてBZ系薬剤の過剰処方があるのは間違いないと思われます。BZ系に関しては特に高齢者と脳疾患・脳後遺症患者においては特に注意すべきでしょう。


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by shinyokohama-fc | 2015-10-27 12:46 | 治療

PDは薬剤依存性、PDDとDLBは薬剤過敏性

PD(パーキンソン病)は薬剤依存性、DLB(レビー小体型認知症)は薬剤過敏性。特にパーキンソン治療薬に対しては。数々の症例を経験するとそういう結論に至りました。これらの疾患は同じレビー小体病、αシヌクレイン疾患とされていますが、やはり機能性・臨床像で大きな相違点があります。
PDという疾患は進行は緩徐であり、発症年齢は様々ですが通常は発症15~20年までは動作歩行障害のみの症状で、副作用を除いて高次脳機能障害や精神症状はほとんど現れません。DLBのような薬剤過敏性もみられませんので、パーキンソン治療薬や神経系薬剤の少量投与によって顕著な副作用が出現するケースはほとんどありません。ただし発症10年前後で薬効の減退によるウェアリングオフ、オンオフなどの現象が顕著になってきます。動作歩行障害の年次進行に伴って神経内科医が治療薬を多剤併用&増量でどんどん増やしていきます。多くのPD患者は薬剤過敏性はなく、ドーパミン依存性であるため一度増量した薬剤を減量することは困難です。少しでも薬剤を減量すると、動けなくなった!と大騒ぎする方も少なくないわけです。PD患者で多剤併用薬を大幅に減らすと動作歩行が極端に悪化します。なぜなら脳が薬に依存している状態だからです。しかし経過の長い症例では6~7種ものパーキンソン治療薬が処方されるため、副作用として幻覚・妄想・せん妄・嗜眠などの精神症状が避けられない状況になります。それを回避するための一つの方法として外科的治療・DBS(深部脳刺激)があります。
2か月前から72歳女性で20年以上の長期経過のPD(パーキンソン病)の症例をみています。オンオフ現象もはっきりした症例であり、50歳前後からの発症なので本来はDBS(深部脳刺激療法)の適応ではなかったのではないかと思われましたが、前医(神経内科医)からは何故かまったくその話がなかったそうです。PDという疾患は病気の経過進行にしたがって治療薬がどんどん増えてしまう傾向があり、これらの治療薬はすべて神経系に作用するものですので、高齢化とともに多剤併用になるため、薬害リスクが高まるというデメリットが避けられないという問題があります。DBSを導入すれば、治療薬はドーパミンアゴニスト単剤(カベルゴリンなど)にすることが可能になります。この方は6~7種類ものパーキンソン治療薬が盛り付けられていました。レボドパ・カルビドパは600mg/日。前医にて副作用中和目的にドンペリドン(リスぺリドンの親戚薬、日本の治療ガイドラインで推奨されているが、フランスでは危険薬物指定)が処方されて案の定、流延と誤嚥が悪化したため介護者の判断で中止されていました。それ以外にもロピニロール徐放剤とロチゴチン貼付剤(同じドーパミンアゴニスト)が併用されていて、それ以外にもなぜかコリンエステラーゼ阻害薬(内服薬)、COMT阻害剤、ゾニサミド(元々抗てんかん剤)が処方されていました。その結果として嗜眠状態、せん妄状態となっていて、すくみと姿勢反射障害が顕著で介助でもほとんど歩けず、強制把握反応や開眼失行など著しい前頭葉兆候がみられていたため、初診時はPSPSと間違えたほどでした。私は治療薬による有害事象の要素が非常に大きいと考えて、レボドパ減量、ロピニロール中止、ChEI中止、ゾニサミド中止を指示しました。
その後は早朝起床時の覚醒が良くなり、嗜眠は大幅に軽減してしたものの、両足の疼痛が出現したため、ゾニサミドのみ再開とし、最近発売されたリン脂質系のサプリメントを推奨しました。次の診察では動作が良くなっただけではなく、強制把握反応と開眼失行が大幅に軽減していたことです。前頭葉兆候がここまで軽減したケースはこれまで記憶がなかったので驚かされました。過剰な多剤併用を少しでも軽減できるという希望が持てました。私の経験でいうとChEIなどの神経系薬剤の一部は前頭葉症状を悪化させることは間違いないようです。今回紹介した症例はやはり典型的なPDで間違いないのですが、経過が長すぎるため、大脳基底核・黒質・淡蒼球の長期の伝達障害のため、二次的に前頭葉障害が起こっていると推察されました。明らかに多剤併用による精神症状にもかかわらず、幻覚などの症状だけを判断して、DLBだと診断??されたのか患者会に入会していたようです。
典型的なDLBはすべての神経系薬剤に対して薬剤過敏性です。そのため多剤併用には忍容性がなく、ほとんどの症例でChEI、パーキンソン治療薬で副作用が出現しやすいようです。特にパーキンソン治療薬の多剤併用は重篤な副作用を誘発します。意識障害、失神、起立性低血圧、嗜眠状態などを誘発したり、幻覚・妄想などで錯乱状態に至るケースも多いです。DLBのパーキンソン症状の多くは軽度であることがわかったので、最近はあえてパーキンソン治療薬を処方することを避けています。一方で高齢でPD症状が先行して発症して4~5年以内に幻覚などの精神症状や高次脳機能障害をきたすPDDという病型があります。PDDの場合は脳幹障害と前頭葉障害が顕著な症例が多く、臨床像としてはPSPSに類似したものになります。誤嚥性肺炎や転倒などの合併症もDLBよりは非常に多く予後不良のようです。DLBもPDDも一部にChEIが全く通用しないケースがあり、むしろChEI投与により精神症状が増悪したり、動作歩行が悪化したりするケースが存在します。これらが前頭葉にタウが高度蓄積する(前頭葉が高度変性・萎縮する)タイプの悪性DLB/PDDです。ChEI反応性のDLB/PDDと比べると同じ疾患とは思えないほど経過が進行性で悪性のため現存する薬物治療はほとんど無力に近いという印象です。こういうケースの場合はがんと同じく緩和ケア中心の医療を検討したほうがいいのではないかと思います。
いずれにして薬剤反応も含めてあまりにも臨床症状に差異が大きいのが事実です。てんかんの大発作と精神運動発作くらいの違いがあります。ちなみにてんかんという疾患においては病理変化はありません。片頭痛や群発頭痛も同様です。これらの機能性に分類される症候群においては病理診断ではなく、臨床症状と薬物反応のみで評価されます。
PDやDLBという疾患というよりも症候群はそういう性質が強いのではないか?臨床現場においては変性疾患というよりも機能性疾患という意識で考えたほうがいいと個人的には思います。


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by shinyokohama-fc | 2015-10-15 11:38 | 治療

大脳皮質基底核症候群(CBS)の主要症候(2)行動抑制障害

タウイメージングPET検査において大脳皮質基底核変性症候群(CBS)ではタウが基底核と白質の限局的領域に蓄積するという報告がありました。PSPSでタウが前頭葉~側頭葉、中脳被蓋~脳幹、小脳に至るまで広範囲に蓄積するのと対照的でした。前頭葉障害型DLB(アミロイド蓄積型)でも前頭葉~側頭葉に広範囲にタウが蓄積するそうです。
CBSはPSPSに比べて非常に進行が緩く、症状が弱いという印象はこのタウPET検査からも理解できると思います。
CBSがPSPSと大きな違いは前頭葉障害がそれほど強くないことです。症候学について書かれた成書によるとCBSにおいてはPSPSでみられる「多幸」「脱抑制(行動抑制障害)」がみられないとされています。
しかし、PSPSに比べても極めて稀と認識されていたCBSの臨床像を呈する症例を75歳~85歳の高齢女性で比較的よくみかけるようになりました。そしてこれらの症例に共通しているのは、「多幸」「脱抑制」がほぼ全例でみられる事です。抑うつ的・神経症的な印象は皆無で、動作歩行障害がかなり顕著にもかかわらず、病識がまったくないため、しばしばその面で介護者のイライラ感を誘発しやすいようです。
高齢者CBSでは従来から言われている、常同行動、環境依存、失語症に加えて、利用行動(使用行動)、易刺激性、脱抑制行動などが前面に現れる症例が多いようです。これらの高齢者CBSを診察しますと、片側上肢運動拙劣症・上肢の左右差はそれほど顕著ではないが、上肢を目的をもって使用することは困難です。しかし多くの症例では車椅子に座っている高齢女性が突如として診察室の机の上のマウスやボールペンを触りだします。何の悪げもなく触る様子はまるで小さい幼児のようです。いわゆる利用行動(使用行動)という症状ですが、諸説あるがやはり被影響性の亢進、行動抑制障害(脱抑制)の一部と捉えるとわかりやすいと思います。前頭葉障害が画像診断ではさほどでもないのに、こうした症状が顕著に現れるのはなぜなのか?と症例をみながら考えました。行動抑制系の神経回路として「前頭葉-基底核-視床回路というのがあります。この回路が大脳基底核病変のみで伝達障害をおこすと言われています。その影響で二次的に前頭前野機能低下を起こして情動的精神症状や認知症類似症状を引き起こすと言われています。高齢者ではもともと加齢に伴う前頭前野の機能低下があるので若年者よりもこのような症状が出現しやすいのではないかと推定できます。つまりCBSの前頭葉症状の多くは二次的な症状ではないかと考えます。
パーキンソン病の外科治療として確立されている、深部脳刺激(DBS)ですが、主としてこの回路に含まれる視床・淡蒼球に作用する治療です。刺激ポイントが少しでもズレると症例によっては行動抑制障害がみられる事もあると言われます。この線条体・淡蒼球・視床という複雑なターミナルステーションのような部分の病変・障害はデリケートなものですので、神経系の薬剤の与で過敏反応や有害事象を起こす場合も少なくないのでしょうか。



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by shinyokohama-fc | 2015-10-06 12:49 | 医療

ChEI貼付剤(認知症治療薬)の超高齢者における副作用

最近、90歳前後の長寿高齢者の増加に伴い、女性の平均寿命(87歳)を超える年齢でコリンエステラーゼ阻害剤(ChEI)の貼付剤の少量投与(4.5~9mg)で嗜眠傾向が出現する症例が続出していることに気がつきました。いずれも中断してみると嗜眠はすみやかに改善するそうです。80歳までの症例ではまずなかった副作用です。NMDA受容体阻害剤ではなくChEIで出現したことに驚きだったわけで、最初は半信半疑だったのですが、デイケアからの情報では他に同じ貼付剤を使用して嗜眠になっている超高齢者が複数いるとの事でした。貼付剤の導入は内服薬だと消化器症状が強いのでという理由でした。たしかに内服薬に比べると9mg~13.5mgまで他の同種薬剤に比較して副作用が少ないという印象でした。
常識的に考えて88歳以上の患者は治験の対象にはなりません。平均寿命を超えた年齢なので、他の何らかの疾患(がんや肺炎など)で死亡する可能性が高いからです。治験は純粋なアルツハイマー、つまり60~70歳の患者に行われたものですので、本来はこの薬(貼付剤)が90歳前後の患者に使用されるという事はまったく想定されていないのだと思われます。そもそも90歳前後の患者にChEIの使用がどの程度意義があるのでしょうか?冠動脈攣縮や心室性不整脈などのリスクを考慮しても超高齢者に対してはChEIの使用は慎重になるべきだと思うからです。しかし一方で前医にてChEIが処方されていたケースではよほどの有害事象がないかぎり、中止しにくいのも事実です。それは「ChEIを中止すると認知機能が極端に落ちるので中止するな」という認知症学会からの指導があるからです。
一方で年齢によってChEIの用量調整、あるいは使用を控えろという指導はまったくありません。日本老年医学会のストップ・スタートにも認知症治療薬4種は何故か含まれていません。私の印象では認知症治療薬は特に80歳以上の患者に対しては抗精神薬と同等に近い深刻な副作用事例が報告されているのが事実です。その多くが前頭側頭型タイプの疾患(進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、意味性認知症、行動障害型認知症など)のようです。しかし90歳前後の超高齢者がChEIの使用で日中嗜眠状態で食事をとれば、誤嚥や窒息のリスクになることは高齢者医療の観点からいうと明白ですので、私はこの副作用の情報があった場合は、ChEIを即座に中止するように指示しています。
個人的な印象でいいますと85歳以上の認知症?の方には治療薬の使用は難しい。それは認知症治療薬が抗精神薬・抗うつ薬、パーキンソン治療薬などと同じく劇薬系だからです。劇薬は人によっては毒物に変わりますので要注意です。薬の有害事象で高齢者が誤嚥性肺炎に至る原因はベンゾジアゼピン系か抗精神薬だと言われてきましたし、実際わが国で繁用されているBZ系の抗不安薬では特に喀痰喀出能力を低下させて誤嚥の頻度が多くなり、最悪肺炎に至るという経験が数多くありました。しかし今後はChEIの貼付剤も要注意薬剤リストに入れるべきでしょう。


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by shinyokohama-fc | 2015-10-05 17:23 | 治療
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