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神経変性疾患の病名と雑感

神経変性疾患の現在の病名に関しては正直どうなのかと思う事があります。病理診断名だったり画像診断だったり部位診断だったりと統一性が全くありません。病理診断名を臨床診断名にしているのには抵抗感があります。それは胃がんや白血病などの病気と違って、生検などによる生前の病理診断が難しいからです。神経変性疾患は病理組織所見が病名になっているものもあります。主な神経変性疾患についてそれぞれ検証してみたいと思います。
アルツハイマー型認知症(ATD)
発見者の人名が使われています。一般的に「認知症」といえばこの病気を指すようです。記憶障害・見当識障害・注意障害があります。診断には時計描画テスト(CDT-R)が最も感度が高い検査だと思われます。MMSEやHDS-Rといった簡易知能スケールはATDの重症度を評価する指標になります。主に画像検査などで海馬容積の萎縮があれば診断はほぼ確定とされています。発症は60~70歳がほとんどです。軽度認知障害(MCI)との線引きがしばしば問題になりますが、日常生活動作が自立できないものを認知症としています。MCIからATDに移行するのは30%程度と言われます。行動心理や情動は初期からさほど顕著ではなく比較的保たれる症例が多いので、周囲を困らせないので中等度レベル(MMSE 10~15)まで受診しないケースも少なくないようです。病理診断としてはアミロイドが蓄積するので「大脳アミロイドーシス」の一種という事になるようですが、臨床的には「記憶障害型・認知症」です。
嗜銀性顆粒性認知症(AGD)
病理診断名がそのまま使われています。初発症状としては行動心理症状(不機嫌、易怒・易刺激性、焦燥など)や情動障害が先行しますが、日常生活動作は介助を必要とせず自立しています。ATDで実施するCDT-R、MMSE、HDS-Rなどの簡易検査は初期の2~3年はほぼ正常レべルですので、認知症と診断されない場合もあります。画像検査では前頭葉~側頭葉の左右差のある萎縮が特徴的と言われていますが、初期には目立たないようです。ほとんどが75歳以上の高齢者であり、初期から受診・相談が最も多いタイプです。常同行動や脱抑制が目立つため、以下のFTDと臨床像は類似していますので、「老年性・行動障害型認知症」とでも呼ぶべきでしょうか?
前頭側頭型変性症(FTLD)
病理診断名がそのまま使われていて、かつてはPick病(病理診断名・人名)と呼ばれていたようですが、現在は病理診断名はFTD-FUS/-tau/TDP/FUS/niと分類されています。一方で臨床診断名としては以下の3つの病名になっています。これらの病名は臨床症状を反映した病名であるのできわめて適切だと思います。65歳以下で発症することになっていますが、実際は変性疾患に関しては発症年齢の特定は困難と思われます。
①行動障害型・前頭側頭型認知症(bv-FTD) 脱抑制や常同行動に伴う異常行動が主体 ②意味性認知症(SD)語義失語や失認が主体 ③原発性非流暢性失語症(PNFA)重度の失語が主体
大脳皮質基底核変性症(CBD)
名前のとおり、大脳皮質の一部と大脳基底核に限定した部位から始まる疾患ですが、経過が長くなると大脳全般に障害が及ぶようです。基底核障害による片手の軽度鉛管様筋固縮と不使用(運動麻痺ではない)と頭頂葉障害による半側空間無視・視空間失認が特徴的で障害側のほとんどは左側のようです。脳幹障害は通常はほとんど目立ちませんが、中には姿勢反射障害・すくみ足が高度なPSP的な臨床像をきたす症例もあり、病理診断はCBDが50%、PSPが30%、その他ATD・FTD・Prionなどと言われています。臨床と病理の合致が不可能な疾患群なので、やはりCBS(大脳皮質基底核症候群)と呼ぶのが適切だと思います。
進行性核上性麻痺(PSP)
「核上性麻痺」という脳幹のきわめて限定した部位だけの疾患のように誤解されそうな名前ですが、実際はタウ蛋白が前頭葉~側頭葉、脳幹全体に広汎かつ高度に蓄積して、多彩な症状をきたしうる疾患群です。PDやDLBに比べて脳幹障害が重度のため、高度の姿勢反射障害による頻回の転倒が早期からみられることが多く(全例ではないが)、また嚥下障害が高度になるため、誤嚥性肺炎を最も起こしやすい疾患と言えます。病理診断はPSPが50%でCBDが20%、その他はFTDや稀ながらCVDという症例も存在するようです。病理的にPSPの症例でも臨床的CBS・広汎型・限局型の3つに分かれるといいます。また、若年発症に多いRSタイプと老年発症に多いPAタイプでは病状の進行スピードや重症度に大きな差があるようです。臨床と病理の合致がほぼ不可能であり、臨床診断名としてはCBSと同じくPSPSと呼ぶのが相応しいと思います。
多系統萎縮症(MSA)
錐体路・錐体外路・脊髄小脳路・自律神経という4つの神経ルートが障害されるという特徴がある疾患群です。下肢に強い痙縮、パーキンソニズム(動作緩慢・筋固縮・姿勢反射障害)、小脳性運動失調(構音障害、失調性歩行)、高度の起立性低血圧(多くは失神で倒れる)と高度の排尿障害(多くは尿閉に至る)が特徴的です。パーキンソニズムが強いMSA-Pは線条体黒質変性症(SND)と呼ばれ、小脳性運動失調が強いMSA-Cはオリーブ橋小脳萎縮症(OPCA)と呼ばれていました。いずれも部位的診断名です。
パーキンソン病(PD)
発見者の人名が使われています。「錐体外路症状=パーキンソニズム」と呼ばれているくらい定着していますが、パーキンソニズム=パーキンソン病ではない点が臨床現場で混乱を生んでいるようです。実際は特に高齢者ではパーキンソン病ではないパーキンソニズムのほうが多いという印象があります。片側性(左右差)のある上肢安静時振戦と筋固縮が特徴的な典型例は診断が容易ですが、さまざまな非典型例があるため「ドパミン欠乏性・錐体外路症候群」と呼んだほうがいいのではと思います。
レビー小体型認知症(DLB)/レビー小体病
レビー小体という病理所見の人名が使われています。レビー小体の蓄積する部位(大脳・脳幹・脊髄・自律神経)や進展の仕方によってさまざまなサブタイプがあるようです。「認知症」という呼び名が不適切ではないかという意見があるようです。主要症状は幻覚(幻視)・認知の変動・パーキンソニズムとされていますが、過剰診断により別の疾患や病態までもDLBと診断して、薬物療法が迷走して病状が悪化してしまうケースがあまりに多いようです。パーキンソニズムを欠き、幻覚+認知の変動のみ場合はDLBよりも側頭葉てんかん(TEA)を考えるべきかと思います。典型例は左右差の乏しい軽度~中等度のパーキンソニズム(動作緩慢・思考遅延・軽度の筋固縮)と自律神経症状(起立性低血圧・排尿障害・排便障害・体温調節/発汗障害)に幻視・抑うつ症状を伴うものだと思います。パーキンソニズムが長年進行した上で、幻視などの行動心理症状が後発するのは臨床的にPDDと呼ばれていましたが、ここに至るまでにパーキンソン治療薬を長期・複数内服しているケースが多く、行動心理症状は長年の薬物治療の副産物とも言えます。パーキンソニズム・自律神経障害を欠く非典型的例の場合は、可能であればTEAを除外するためにEEG検査を、DLBを支持するためにDTS検査が実施されたほうがよいと考えます。その理由はTEAにChEIや抗精神薬を処方しても効果がないばかりかむしろ症状を悪化させるからです。MCIやATDがあってTEAを起こす症例も多いようです。「ドパミン欠乏性・大脳・脳幹・自律神経症候群」とでも呼ぶのが適当でしょうか。
個人的に気になるのが、幻覚と認知の変動があればDLBだというのは操作的・短絡的な診断手法だと感じます。精神科における新型うつ病とか双極性障害2型の診断手法に近いものがあります。精神科と神経内科の問題というのは他の診療科と違って、診察医の個人的な価値観によってブレが大きすぎる所にあります。現状の各変性疾患の診断基準というのはその問題を解決できていないように思います。それを解決すべく核医学検査の研究が進められていますが、学会のシンポジウムではやはり混合病理の問題に対応できないという結論でした。75歳以上の変性疾患では混合病理が大半だという事を考えると、やはりFTLDとFTDのように臨床診断名と病理診断名を区別するしかないのではないかと感じます。


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by shinyokohama-fc | 2015-07-10 12:33 | 医療

「物忘れ」ではなく「覚える気がない」人たち

認知症の診療を希望して来られる方の多くは80~90歳女性が多いようです。同居あるいは介護している家族は「すぐに物事を忘れる」と訴えますが、簡易知能スケールを実施すると27~29点もあります。5つの物品再生などはほぼ正答であり、時計描画テストも正確に描けるようです。ただし描くスピードが異常に早く雑に描く傾向にあります。
これらの方々の多くは日常生活動作はほぼ自立しており、介護者の手を煩わせる事はないようです。これらの症例に共通しているのは本来記憶力が保持されているにもかかわらず、普段の生活では記憶することを放棄していると推定されます。つまり「考え無精」ならぬ「覚え無精」ではないかと思います。
一般的に典型的な認知症の方は時計描画テストで苦労します。アルツハイマー型(ATD)の方は数字がまともに入れられない事が多く、レビー小体型(DLB)の方は思考遅延傾向のため、数字や針を描くのに異常に時間がかかります。つまり時計描画テストをすれば、きわめて特徴的でほとんど典型的な認知症に関しては抽出できると思われます。簡易知能スケール(MMSEなど)の点数というのはATDの方々の重症度をある程度評価できると思いますが、DLBや前頭側頭型認知症(FTD)タイプの認知症については、診察時は初期~中期までは高得点である事が多い半面、家庭における行動心理症状が顕著な症例が多いようです。例えば「用もないのに肉親に何度も電話をする」とか「自室が片つけられず捨てられない物が溢れている」とか様々です。ATDの尺度でいうと27~29点で認知症という判定にはならず
比較的顕著な行動心理症状出現するというのは説明できません。80歳以上の高齢者に多いと言われている「嗜銀顆粒性認知症(AGD・グレイン)」が最近の学会でもよくクローズアップされるようになりました。これはアミロイドが蓄積せずにタウ蛋白が脳細胞内に蓄積する病気の一つです。一般的には75歳以上で発症するが、記憶・見当識などいわゆる中核症状と呼ばれる症状に関しては緩徐進行性のため、日常生活動作の自立期間も長期間になります。その一方で情動障害に伴う行動心理症状が出現しやすく、焦燥、不機嫌、易怒、易刺激性などで現れてしばしば家族を困らせるようです。AGDの場合多くは中核症状が顕著になってくるのは進行して数年後になると言われます。一般的に60~70歳で発症するATDが中核症状の進行が非常に速く、日常生活動作において1対1介護を必要とするのとは対称的です。AGDは左右差のある前頭葉~側頭葉外側の萎縮が画像診断的には特徴ですが、初期にはそういう所見はみられません。またATDと違って海馬の萎縮もみられない事が多いようです。またDLBと混合症状をきたす場合も少なくないようです。80~90歳の女性人口が非常に多い事を考えるとAGDに対する薬物治療の確立が求められています。
私の印象では少量のガランタミンが比較的相性がいいようです。それはこの薬剤の特性によるものだと思われます。
しかし高齢者の場合は心不全・心臓弁膜症・不整脈などが潜在している事もあり、高用量には耐えられない症例が多いと考えられます。詳しくは以前のブログ(ガランタミンvsリスぺリドン)を参照してください。


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by shinyokohama-fc | 2015-07-07 18:55 | 医療
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