<   2015年 06月 ( 7 )   > この月の画像一覧


側頭葉てんかん(TEA)の症例の雑感

80代前半の方で、2年前から幻視・幻聴があり、認知の変動がある、情緒不安定で、突然人格が変わる、思い通りにならないと易怒性、言葉や物の名前が出てこないという症状の方がおられました。前医で1年前と2か月前にMRI検査を施行されてますが、側脳室周辺に軽度の虚血性変化があるのみで、大脳・脳幹・小脳ともに病的萎縮はみられませんでした。脳波では側頭葉棘波がみられ再現性があるようです。診察してみても、動作歩行の緩慢さや思考遅延、振戦はまったくみられず、歯車現象・筋固縮はなくむしろ筋トーヌス低下していました。血圧の起立性変動も測定しましたが、起立性低血圧は全くみられませんでした。神経内科医としてはパーキンソニズムもなく、起立性低血圧もない症例をレビー小体型認知症(DLB)とは考えられません。前医(精神科)の診断も「側頭葉てんかん(TEA)」でした。問診だけの操作的診断でDLBとTEAを鑑別するのは不可能だと思いました。特にパーキンソニズムや起立性低血圧がみられない症例に関してはMIBG心筋シンチ・ドパミントランスポーターイメージング(ダットスキャン)などの検査によりDLBを除外診断したい所ですが、これらの検査は高額で拘束時間が長く、患者側の忍容性問題がありますので代謝能力の低下した80歳以上の高齢者に実施するのはやや酷な気がします。それより簡便に実施できる脳波検査でてんかん波がみられれば、TEAと診断するのは当然だと思います。前医ではカルバマゼピン(CAZ)を100~200mgで1年経過をみられていましたが、有効用量に届かなかったのか、残念ながら明確な効果は得られなかったようです。CAZは長期投与により小脳変性をおこすという事は成書に記載されています。この症例も軽度~中等度の小脳性運動失調症が確認されたため、CAZを中止せざるをえないと判断しました。画像診断で明らかな小脳萎縮は確認できないため、薬剤性(CAZ)が疑われます。高齢者の場合は微量のCAZでも忍容性に問題を起こします。やはり高齢者のTEAに対しては新規抗てんかん薬のラモトリギン(LTG)かレべチラセタム(LVE)を使用するしかないのではと考えますが、LVEに関しては「易刺激性・攻撃性・精神症状の変化に注意」とありますので、やはり現実的にはTEAには使いつらく、結局LTGを選択するしかないと思われます。LTGは双極性障害にも適応のある薬剤ですので、本例のような情緒不安定な症例には奏功するのではないかと期待したい所です。この薬は神経系の副作用がほとんどみられないので、皮膚粘膜眼症候群・重症薬疹の副作用さえなければと思います。

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by shinyokohama-fc | 2015-06-30 19:17 | 医療

甘草による副作用について

甘草による副作用は医師国家試験に「偽アルドステロン症~低K血症~横紋筋融解症」が長年取り上げられているほど有名なものです。私自身はこの5年で認知症高齢者に使用した4~5例において比較的重い副作用(低K血症、横紋筋融解症、心不全・浮腫)ケースを経験しました。最近はレビー小体型認知症(DLB)を早期発見しようという啓蒙活動がどういうわけか盛んに行われているようですが、高齢者幻視とみればDLBだろう(実はそう単純ではないのだが)というわけで安易に抑肝散が使われている傾向にあるわけですが、自験例で半年前にひどい心不全(労作時の息切れ)をきたした症例もあり、この薬も高齢者に使用する際にはChEIと同様に厳重警戒しながら使うべき薬だという事を実感されられました。特に心臓に持病(心不全・不整脈など)がある症例では、ChEI+抑肝散の併用という組み合わせというのは高齢者にとってはかなりのリスクを伴うと考えられます。高齢者を日常的によく診ている立場であれば誰もが知っておくべき事実ですが、「日本老年医学会」の提唱する「ストップ」のリストに加えられていないのは少々違和感があります。甘草の副作用として偽アルドステロン症は有名ですが、これは含有しているグリチルリチンに起因するものです。グリチルリチンは腸内細菌によって加水分解され、グリチルリチン酸となり、Na-K、Na-H交換の促進と進みます。この結果、第一にNaイオン再吸収が高まり血圧上昇、浮腫の出現となる。第二にKイオンの排出が亢進して、低K血症が惹起されて不整脈、ミオパチー、横紋筋融解症などが発現、第三にHイオンが排泄亢進して代謝性アルカローシスが発現してテタニーとなります。対策として甘草を含む処方を投与する時点での聞き取りが重要になります。他の治療薬、利尿薬、グリチルリチン製剤、甘草を起源とする西洋薬、インスリンの使用について正確に問診を行います。使用開始後は低K血症と血圧上昇の監視が重要となります。偽アルドステロン症による血圧上昇、低K血症、浮腫などの症状はグリチルリチン酸の1日量として300mg以上を長期連用することで頻度が高くなるそうですので、甘草1gあたり40mg含まれるので、1日上限量は甘草6gが上限とされていますが、甘草は全ての漢方薬の2/3に含まれています。ただし認知症のBPSDに頻用される抑肝散では1日量でわずか1.5gです。私が経験した重篤副作用症例でこれだけわずかな用量でも副作用が出てしまったのは何故なのか?理由としては推定されるのはDLBの薬剤過敏性、糖尿病が基礎疾患として存在した事などでしょうか?
この1年の経験でいうと、DLBらしき79歳男性の幻覚・妄想・精神錯乱状態に対して抑肝散7.5gを処方して1か月後に少し歩いただけで息切れとなり、心不全に至りました。検査値ではBNP 677.7pg/mlを計測しました。抑肝散中止後もしばらく心不全症状は遷延しましたが、ARB+利尿剤(インダパミド)を2か月継続してようやく症状軽快しました。またDLBらしき83歳女性の幻覚に対して抑肝散2.5gを処方してわずか10日で横紋筋融解症でCPKが2000以上となり、歩いていた人が下半身筋脱力でまったく歩けなくなりました。脱力症状は出現しなかったものの抑肝散5g(甘草1g/日)で血清Kが2.5~3.0前後に低下する症例は少なくないようです。また血圧上昇や下腿浮腫の悪化などは比較的よくみられるため、症例によっては減量・中止などの対応を余儀なくされた事もありました。こういった症例を何例か経験すると、認知症高齢者に甘草含有の漢方薬を処方する場合は、血圧、血清K・CPK・BNPのモニタリングが必要なのではないかとすら考えてしまいます。西洋薬の抗精神薬などに比べると重篤な副作用が少ないのは事実だと思いますが、「漢方薬は天然物で作られているから安全だ」と妄信してしまうのは誤解であることがわかります。甘草以外にも特に黄笒、麻黄が含まれている生薬は副作用に注意が必要ではないかと思います。


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by shinyokohama-fc | 2015-06-22 18:59 | 治療

認知症治療のベネフィットとリスク

先日のブログでも少し紹介しましたが、Drugs&Agingオンライン版2015年5月5日号の掲載報告です。
研究グループは、認知症に対する薬理学的治療の基礎をレビューし、認知症治療のベネフィットとリスクについてまとめた。2014年11月における、認知症および軽度認知障害(MCI)の治療に関する英語で記載された試験および観察研究について、MEDLINEを用いて系統的に文献検索を行った。その他の参考文献は関連する出版物のビブリオグラフィーの検索により特定した。可能な限り、メタ解析あるいはシステマティックレビューによる併合データを入手した。レビューの対象は認知症またはMCIを対象とした無作為化試験または観察研究で、治療に伴う有効性アウトカムまたは有害アウトカムを評価している試験とした。FDAの承認を受けていない治療について評価している
試験、認知症およびMCI以外の障害に対する治療を評価している試験は除外した。主な結果は以下のとおり。
・文献検索によろ540件の試験がレビュー対象の候補となり、そのうち2577件がシステマティックレビューに組み込まれた。
・試験の併合データにより、軽度から中等度のアルツハイマー型認知症(ATD)とレビー小体型認知症(DLB)において、コリンエステラーゼ阻害薬(ChEI)は認知・機能および全般的ベネフィットをやや改善することが示された。ただし、これらの効果における臨床的意義は明らかではない。
・血管性認知症(VD)に対する、有意なベネフィットは認められていないことが判明した。
・ChEIは治療開始1年後に有効性のベネフィットが最小となり、経過に伴い減弱すると思われた。
・進行例あるいは85歳以上の患者にベネフィットを示したエビデンスはなかった。
・有害事象は、ChEIの使用により用量依存的に有意に増加した。コリン作動性刺激に関連して消化器系・神経系および心臓血管系の副作用に対するリスクは2~5倍となり、重大な副作用として体重減少、衰弱、失神などが認められた。
・85歳を超えた患者の有害事象リスクは若年患者の2倍であった。
・メマンチン単剤療法は、中等度から重度のATDおよびVDの認知機能に何らかのベネフィットをもたらす可能性があった。しかしそのベネフィットは小さく、数か月の経過において減弱する可能性があった。
・メマンチンは、MCIあるいはDLBにおいて、またChEIへの追加治療として有意なベネフィットは示されなかった
・少なくとも管理下にある試験という状況において、メマンチンの副作用プロファイルは比較的良好であった。
結果を踏まえ、著者らは「ChEIは軽度から中等度の認知症に対して短期的にわずかな認知機能の改善をもたらすが、これは臨床的に意味のある効果とはいえない。重症例、長期治療患者、高齢者においては、わずかなベネフィットしか認められない。体重減少、衰弱、失神などのコリン作動性の副作用は臨床的に重要であり、とくに虚弱な高齢患者において弊害をもたらし、治療によるリスクがベネフィットを上回る結果となっている。メマンチン単独療法の中等度~重度認知症に対するベネフィットは最低限であった。有害事象も同程度に小さいと考えられた。

以上の記事に対するコメント
私が「認知症」として日常的に診療する機会がもっとも多いのは80歳以上の方々で、特に平均年齢が約87歳の女性の比率が非常に高いです。85歳以上の方には行動心理症状に対してのメマンチン単独処方が基本だと考えています。その多くは最大用量には耐えられないので減量して維持することになります。実際に併用していたChEIを家族の判断で中止し、メマンチン単独にしたら行動心理症状が安定したというケースが数例ありました。この記事に書いてある事は実地で臨床をしていれば普通に感じられます。80歳以上でChEIを処方された多くの方が様々な副作用で脱落します。早期に自覚症状が出る方はわかりやすくてまだ幸運ですが、遅発性に深刻な副作用が出るケースが非常に多いです。中には心電図を録ってみて異常が確認されて冷や汗をかくケースも少なくないです。しかし実際は高用量で強いタイプのChEIが処方が、85~95歳の方々に他の医療機関で処方されていて驚かされます。この記事に書かれている安全性の面から考えるときわめて違和感を感じます。現実的にはChEIを処方するのは行動心理症状への対症療法が主目的だと考えています。それがなければ副作用のリスクを冒してまで処方する事は考えません。それはこの記事に書いてあるように有意なベネフィットが感じられないからです。薬のベネフィットを感じるかどうかは、たった数分しか患者を観察できない医者ではなく、同居家族や介護者が判断すべきです。ChEIやメマンチンを内服する意味を実感できないと感じれば、それは彼らの意志で中止するという選択肢があってもいいと私は思います。80歳以上で発症した認知症は50~70歳で発症したそれに比べて進行がきわめて遅いという印象です。やはり周辺のケア対応や環境調整が第一のように思います。家族が認知症の方を叱り飛ばすような環境では行動心理症状に対する薬の効果は望むべくもないでしょう。
現状のChEIとメマンチンの薬剤治療が困難な理由としては、混合疾患の問題があると思われます。80歳を超えた認知症の方は、グレイン(嗜銀性顆粒性認知症)、レビー小体型認知症、血管性などが混在してきて病状が複雑化するケースが増えるという印象です。中にはPSPやCBDが混在しているケースも少なくないようです。多くの症例では前頭葉・側頭葉・頭頂葉、大脳基底核、中脳などの病状が混在しています。こういう症例ではChEIやメマンチンは効果がないばかりか時にはひどい副作用を起こすリスクが存在します。つまり60~70歳の純粋なアルツハイマー的臨床像の方と75歳以上の混合型の方を同列の薬物治療をすることは難しいのは当然だと思われます。神経系の薬剤というのは人によって作用が千差万別でまちまちであり非常に難しいという事を再度認識する必要があります。そういうわけで私自身の処方としては、85歳の超高齢者や重症進行例には神経系薬剤は少数で慎重投与、或いは使用しない。漢方薬の代用というのが必然的に多くなってます。

■k■医者委■く

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by shinyokohama-fc | 2015-06-19 18:32

前頭側頭葉変性症(意味性認知症・行動障害型前頭側頭型認知症)が7月から難病対象に

当院は昨年11月26日付けで神奈川県より神経内科の難病指定医として「指定医指定通知書」を受けています。
本日、厚労省健康局疾病対策課から「平成27年7月1日から、難病の方へ向けた 難病医療費助成制度の対象疾病が拡大します」というお知らせをいただきました。このたび既存の110疾病に加えて196疾病が追加されて306疾病に拡大されます。今回新たに追加された神経疾病には「前頭側頭葉変性症」が新たに含まれていました。
「(行動異常型)前頭側頭型認知症(bv-FTD)」「意味性認知症(SD)」の2つが対象のようで、「進行性非流暢性失語(PNFA)」と「運動ニューロン疾患を有する前頭側頭型認知症(FTD-MND)」は含まれていないようです。臨床調査票に示された、bv-FTDとSDの各診断基準を以下に示しますので、ご参考願います。
<(行動異常型)前頭側頭型認知症>
1)必須項目
進行性の異常行動や認知機能障害を認め、それらにより日常生活が阻害されている
2)次のA-Fのうち3項目以上をみたす
A. 脱抑制行動;以下の3つの症状のうちいずれか1つ以上をみたす
1) 社会的に不適切な行動 2) 礼儀やマナーの欠如 3)衝動的で無分別や無頓着な行動
B. 無関心(アパシー)または無気力
1) アパシー(動機、意欲、興味の消失) 2)無気力(行動開始の減少)
C. 共感や感情移入の欠如;以下のうち2つの症状のうちのいずれか1つ以上を満たす
1) 他者の要求や感情に対する反応欠如 2) 社会的な興味や他者との交流、または人間的な温かさの低下や喪失
D. 固執・常同性;以下の3つの症状のうちいずれか1つ以上を満たす
1) 単純動作の反復 2) 強迫的(常同的)または儀式的な行動 3) 常同言語
E. 口唇傾向と食習慣の変化;以下の3つの症状のうちいずれか1つ以上を満たす
1) 食事嗜好の変化 2) 過食、飲酒、喫煙行動の増加 3) 口唇的探究または異食症
F. 神経心理学的検査において、記憶や視空間認知能力は比較的保持されているにも関わらず、遂行機能障害がみられる
3) 発症年齢が65歳以下である
4) 画像検査所見 : 前頭葉や側頭葉前部にMRI/CTでの萎縮か、PET/SPECTで代謝や血流の低下がみられる
※脳血管障害が原因と考えられるものは除く
※画像読影レポートまたはそれと同内容の文書の写し(判読医の氏名の記載されたもの)を添付する
5) 以下の疾病を鑑別し、全て除外できる
①アルツハイマー病 ②レビー小体型認知症 ③血管性認知症 ④進行性核上性麻痺 ⑤大脳皮質基底核変性症⑥ 統合失調症・うつ病などの精神疾患⑦発達障害
6)臨床診断 ; 1)~5)の全てをみたす
(重症度分類に関する事項)
⓪ 社会的に適切な行動を行える
①態度・共感・行為の適切さに最低限だが明らかな変化
②行動・態度・共感・好意の適切さにおいて、軽度ではあるが明らかな変化
③対人相互関係がすべて一方向性である高度の障害
<意味性認知症>
1)必須項目
次の2つの中核症状の両者を満たし、それらにより日常生活が阻害されている
A. 物品呼称の障害 B. 単語理解の障害
2) 以下の4つのうち少なくとも3つを認める
A. 対象物に対する知識の障害(特に低頻度/低親密性のもので顕著)
B. 表層性失読・失書
C. 復唱は保たれる。流暢性の発語を呈する
D. 発話(文法や自発語)は保たれる
3) 発症年齢が65歳以下である
4) 画像検査所見 :側頭葉前部にMRI/CTでの限局性萎縮がみられる(脳血管障害が原因と考えられるものは除く)
※画像読影レポートまたはそれと同内容の写し(判読医の氏名の記載されたもの)を添付する
5) 以下の疾病を鑑別し、全て除外できる
①アルツハイマー病 ②レビー小体型認知症 ③血管性認知症 ④進行性核上性麻痺 ⑤大脳皮質基底核変性症 ⑥うつ病などの精神疾患
6) 臨床診断: 1)~5)の全てを満たす
(重症度分類に関する事項)
⓪ 正常発語・正常理解
① 最低限だが明らかな喚語障害。通常会話では理解は正常
② しばしば生じる発語を大きく阻害するほどではない程度の軽度の喚語障害・軽度の理解障害
③ コミュニケーションを阻害する中等度の喚語障害、通常会話における中等度の理解障害
④ 高度の喚語障害、言語表出障害、理解障害により実質的にコミュニケーションが不能
FTLD(bv-FTD/SD)の上記診断基準に関しては実際の臨床現場の感覚から言うと、きわめて難しい問題点・課題が以下1)~3)のようにありそうです。
1) 発症年齢を65歳で区切っている事
いつから疾病が発症したかというのは、神経変性疾患の場合は極めて特定が難しく、正確には不明です。何故なら家族・職場など周囲の人間の客観的評価に依存する所が大きいからです。わずかな仕事や生活上の異変をも的確に把握する能力にも差異があり、また家族の客観的情報が真実かどうかを確認する事は指定医側からは不可能です。
65歳からと申告すれば難病で、66歳からと申告すれば難病ではない、その差は何なのか?という疑問があります。
実際は65歳以上で発症したであろう典型的な臨床像のbv-FTDも少なからずみられます。
2) 混合型の臨床像には診断基準は対応していない
bv-FTDやSDの臨床像としては動作歩行障害を伴わないという事ですが、特に50歳前後という早期発症例では発症7~10年でパーキンソニズム、視空間認知障害などが混在してきます。これらの臨床像としてはPSPやCBDと鑑別が困難な事例も少なくないという印象です。またPSPやCBDと思われる症例の中にもbv-FTD的な要素の強い(上記診断基準にもおおよそ合致している)臨床像のケースも私が1年間で診ただけでも5~6例は存在しました。
3) 画像診断を重視しすぎている(画像読影医のレポート添付を義務つけている)
画像診断において、前頭葉・側頭葉に萎縮変化がみられるのは、初期からではなく2~3年以後であり、個人差が大きいです。また多くの症例がこの時期になると行動障害の病状が悪化して検査拒否・安静不能の状況に陥ります。鎮静剤を使ってでも検査しろとでも言うのでしょうか?そこまで画像検査診断に価値があるとは思えないのです。実際前頭葉型ATD、前頭葉型DLBのような臨床像のケースもありますし、検査を実施することによって益々診断が迷走するというケースがむしろ多い気がします。どこから病的萎縮と判断するのか?は判読医による読影スキル・経験・価値観の差異が問題になります。そのような事で運命が左右されるなどあってはならないことです。
病気の診断というのが(患者家族や医師など)人間の主観的印象に左右されてしまうのは、ある程度仕方のないこととはいえ現実問題として、bv-FTDの典型例にまで、コリンエステラーゼ阻害薬が使用されて、行動障害を悪化させているというケースが後を絶たないようです。これは家族情報を担当医が共存できていない事の証左と言えます。この「前頭側頭葉変性症」という疾患群の方々がどれだけ正確に診断されて、難病医療費助成制度の恩恵に預れるのか、今後注目していきたいと思います。


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by shinyokohama-fc | 2015-06-09 19:21 | 医療

釣藤散の抗認知症作用

「Science of Kampo Medicine 漢方医学 Vol 39 No1 2015/p36~37/釣藤散の抗認知症作用」から以下引用
富山大学和漢医薬総合研究所 複合薬物薬理学教室
当研究室では脳血管性認知症(VD)およびアルツハイマー型認知症(AD)モデル動物を用いて、コリンエステラーゼ阻害薬(タクリン)と比較し、釣藤散の薬理学的効果と作用メカニズムの解明を進めてきた。その結果、釣藤散は認知行動を改善し、学習記憶障害を予防改善し、情動障害を改善する事が明らかになった。ADおよびVDの治療ではコリン作動性神経の伝達を促進する事が有用とされる。既存の抗認知症薬ではコリンエステラーゼ阻害作用を有するが、釣藤散はムスカリン性M1受容体刺激によりコロン作動性神経を活性化した。ここから釣藤散の学習記憶障害の予防および改善作用はムスカリン性M1受容体への直接刺激が関与し、これには構成生薬の釣藤鈎が主要な役割を果たしていると考えられた。大脳皮質や海馬におけるNMDA受容体は学習記憶に重要であり、脳虚血後の神経細胞死に関与するとされる。既存の抗認知症薬ではメマンチンがNMDA受容体拮抗作用を有し、過剰なグルタミン酸によるNMDA受容体の活性化を抑制するが、釣藤散に含まれる特徴的なアルカロイド成分はNMDA受容体を非競合的に阻害することで興奮毒性を抑制し神経細胞障害を防止した。学習記憶の基本的なメカニズムではシナプス可塑性が大きな役割を担っている。グルタミン酸作動性神経のNMDA受容体とAMPA受容体が重要な働きを担っており、釣藤散はシナプス可塑性に関与する複数のメディエーターを活性化してシナプス機能を改善した。血管内皮増殖因子(VEGF)は血管新生および神経の保護・再生に関与し、学習記憶に関与し加齢に伴い低下するとされる。釣藤散はVEGF系の機能低下を抑制し、神経細胞の保護作用を示すことが示唆されている。認知症はADを中心に論じられる傾向にあるが、その原因は複雑でVD/DLB/FTDと明確に区別する事は難しい。漢方薬は多彩な成分を含み多彩な機序を有する事から、さらなる機序解明とエビデンスの蓄積により、安全・低薬価に認知症治療に貢献することができると考える。

このたび、こういう記事をわざわざ取り上げたのは、医療の進歩による長寿化により、特に女性を中心に80~90歳の超高齢者の急増の実態があります。がん、脳卒中、心疾患、肺炎などの致死的なイベントなく、健康で長寿をまっとうしている高齢女性が増加するのに比例して、さまざまなタイプの認知症が増加しています。しかし超高齢女性の多くは心機能が低下していて不整脈や弁膜症があり、肝臓・腎臓の代謝能力も低下しています。とても通常用量の抗認知症薬(西洋薬)が耐えられないという状況です。こういう人に薬を無理に内服させる事によって患者が悪化するというリスクを負わせるのは避けるべきです。たしかに漢方薬がすべて安全だとは言えません。たとえば甘草が一定量入っている薬では電解質異常(カリウム低下)に伴う浮腫・筋融解などの副作用があります。実例として抑肝散2.5g/日を10日間内服しただけで、全身の筋肉が融解して歩けなくなったという驚くべきケース(85歳女性)もあります。漢方薬では「一般に高齢者では生理機能が低下しているので、減量するなど注意すること」という記載があります。西洋薬にはこのような記載が一切ないという点に違和感を感じています。
高齢者で使用する場合は抑肝散の使用が5g/日で推奨されているように、釣藤散も5g/日という事になると思います。抑肝散よりも甘草の含有量は低いので比較的安全に使えるのではないかと思います。西洋薬神経系薬剤の欠点は配合剤がほとんど存在しない事で、どうしても薬の種類が増えがち(多剤)になってしまう問題がありますので、そういう点では元々配合剤である漢方薬にアドバンテージがあるのではと考えています。


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by shinyokohama-fc | 2015-06-06 17:19 | 治療

心臓疾患・不整脈のある高齢者にCHE-Iは高リスク、慎重投与・厳重観察が必要

CHE-I(コリンエステラーゼ阻害薬)という薬は、患者が物忘れを外来で訴えれば、60歳でも90歳でも安易に外来で処方されているのが現状のようです。個人的に「物忘れ外来」というネーミングが好ましいと思えない理由は「物忘れ=認知症=薬」という公式が蔓延しているからです。言語聴覚士や臨床心理士を雇って別室で検査を実施できる特別な認知症専門医療機関を除いては、多くの外来診療では一般内科と混在して時間的に余裕のない状況で「物忘れ」患者を医者1人が診ているのが現状です。物忘れの理由はさまざまで、まず本人が訴える場合は、抑うつ状態または軽度認知障害が多いようです。MMSEなどの簡易的知能検査では22~30点程度です。MMSEが高得点でも行動心理症状・精神症状が先行するFTDやDLBのような疾患もあります。年齢が80歳を超えていれば年齢相応・加齢性変化との区別が難しくなります。他にも甲状腺機能低下、ビタミン欠乏、側頭葉てんかんに伴う健忘症、水頭症、様々な身体疾患に伴うせん妄など、認知症(ATD)以外の原因を慎重に推察する必要があります。しかしそのための十分な問診の時間を確保するのが難しいようで、そのような適応を十分検証することなく免罪符的に初診時からCHE-Iが処方されてしまうケースも少なくないようです。逆に行動心理症状が顕著にもかかわらず、外来でのMMSEが高得点で画像検査でも有意所見がないから「認知症」ではないと言われるケースも多いようです。ともあれ体格の大きくない超高齢者(80~90歳)にもCHE-Iが数多く処方されて、様々な副作用が出現するケースが多いようです。
CHE-Iは中枢神経内において効果を生じるのが主たる薬物動態ですが、中枢神経以外においても自律神経系におけるコリン賦活作用がしばしば問題を起こします。消化器系における副作用、消化管運動を亢進させて下痢・嘔気を誘発しやすい、唾液分泌が亢進して流涎(よだれ)をきたしやすい、泌尿器系を膀胱運動を亢進させて頻尿を誘発しやすいというのはよく知られています。特に高齢者に対して高用量のCHE-Iが使用されている場合はほぼこのような副作用は必発です。しかし案外知られていないのは、循環器系の副作用です。実際よくみかけるのは徐脈であり、30~40/分の高度徐脈の症例をみて肝を冷やした事はこの5年で6~7回程度経験しました。実際薬の使用上の注意として、洞性不整脈、狭心症・心筋梗塞の既往がある場合は慎重投与とされています。個人的には75歳以上の心疾患のある方には初めからCHE-Iを処方しないという選択をします。また高齢者は心疾患に伴う胸部自覚症状が乏しい事が多いため心疾患(不整脈)の存在を認知されていないケースが非常に多く、実際ECG検査をしたら高度のQT延長(0.5s!)というケースもありました。こういう症例に高用量のCHE-Iを処方したらどうなるか。考えただけで恐ろしいです。
海外の「Drug&Aging」という医学雑誌今年の5月15日号では英国の大学教授により「現在使用されているCHE-IとNMDA受容体アンタゴ二ストは効果があっても1年まで」という発表があったようです。おそらく抗認知症薬の必要以上の乱用を心配してのものだと思われます。先日のブログにも書いたようにCHE-IやNMDA-RAには行動心理症状を抑制するという作用もありますので、現在高齢者に処方されているCHE-Iがすべてムダとは思えませんが、必要に応じて副作用の出現しない範囲に留めるべきでしょう。特に心臓の副作用というのは生命にかかわります。薬の副作用で心臓が止まるという事がないように細心の注意を払う必要があります。これまで高度徐脈に気がついたケースは私自身が外来診療で気がついたのではなく、介護者による日常の血圧・脈拍測定が契機となりました。危険な副作用の発見には介護者の日々の観察が欠かせません。昨今は高齢者・認知症に対する抗精神薬の心臓副作用が学会などで問題視されているようですが、CHE-Iに関しても症例や使い方(用量)によっては抗精神薬と同程度のリスクがあると感じています。抗精神薬は危険でCHE-Iは安全という話ではなく、心臓副作用リスクというのは双方にあり、それは用量依存的に増加するという事だと思います。


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by shinyokohama-fc | 2015-06-04 09:51 | 治療

ドーパミン補充・賦活薬が起こす前頭葉症候群の悪化

パーキンソン病の治療薬はドーパミン補充療法を含めてすべてドーパミン賦活作用があります。パーキンソン病について記載している教科書には以下のような治療薬によって引き起こされる諸問題が記載されています。パーキンソン病の治療薬に関する知識が乏しい医者がたくさんいて、この事を全く認識しておらず、動作歩行障害がある患者には誰でも彼でも「とにかくパーキンソン治療薬を処方しておけばいい」と考えている医者があまりにも多いようです。パーキンソン治療薬によって起こる以下の諸問題は、主としてパーキンソン病を長年罹患してるがために、比較的若年時から治療薬を長期(5~15年)に内服した事によって起こるといわれていましたが、最近は若年性FTD,PSPS,CBS,など前頭葉型DLBなどいわゆる前頭葉症候群のグループのフロンタル・パーキンソニズムと思われる動作歩行障害に対してもパーキンソン治療薬が使われることにより、薬剤誘発性に脱抑制や常同行動などの前頭葉症状が悪化している症例が散見されるようです。
1)衝動制御障害 (Impulse Control Disorder)
衝動や欲望を抑えられずに、本人または他人に危険な行動をしてしまう現象。病的賭博、病的買い物、病的摂食、病的性欲亢進などが主として挙げられるが、DSM-Ⅳには窃盗、放火などの犯罪的行動異常も挙げられている。ドーパミン受容体刺激薬の使用が契機になりやすい。
2)ドーパミン調節異常症候群 (Dopamine Dysregulation Syndrome)
レボドパやドーパミン受容体刺激薬を必要以上に欲しがる傾向があり、薬によってドーパミン特有の快感が得られる。報酬系を司どるmesolimbic systemの過剰興奮と推定されている。レボドパの使用が誘因になる傾向にある。
3)Puding
複雑で常同的な行動である。細かいものを集めたり整理したり、引き出しの中のものを入れたり出したり、歩き回ったり(周遊)、これらの常同的行動が強迫的でやめられない状態になり、周囲が無理に止めようとすると激怒したり、暴れたりする傾向にある。必要以上のドーパミン補充療法が衝動性を亢進すると言われている。
これら1)~3)の諸問題は、一般的にパーキンソン病においては若年発症で、性格傾向のある、治療薬内服期間が長期にわたる症例が多いと言われています。
個人的な見解を言うと、純粋なPD(パーキンソン病)にはレボドパやドーパミン受容体刺激剤などの治療薬は生活水準・QOLを向上するためにある程度は必要だと思います。ただし必要以上の高用量・多剤併用などの過剰な治療薬の使用には反対です。特に70歳以上の高齢者の場合はむしろ投薬を過剰にすると逆に動作歩行レベルが悪化する症例のほうが多いという印象です。パーキンソン治療薬を減らしたら動作レベルが劇的に改善したというケースはPDDやDLBのような薬剤過敏性傾向の症例に多くみられるようです。PD・DLBの動作歩行障害には薬を増やすよりも積極的なリハビリテーションの介入が有効なのは言うまでもありません。私が診ている症例でも80歳前後で積極的にリハビリ・運動療法を実践した結果として、明らかに1年前より動作レベルが向上した症例があります。
若年性FTDでは後期にパーキンソニズムが出現しやすいというのは前回のブログで書いたとおりですが、この場合のパーキンソニズムは前頭葉起源のものですので、当然パーキンソン病のそれとは性質がまるで違います。若年性FTDはDLB以上に薬剤過敏性の症例が多いという印象です。それはCHE-I、抗精神薬、パーキンソン治療薬など神経系薬剤すべてにおいてです。おそらく病気の進行がきわめて速いために、正常な神経細胞が少なくなり、薬剤の作用すべき受容体が正常に機能しなくなっていると推察されます。
50歳で発症した若年性FTDと思われる症例で、発症7~8年目でパーキンソニズムが出現してきたのですが、前医では精神症状の変動とパーキンソニズムと核医学検査の所見からDLBと診断されて、CHE-Iに加えてレボドパ300mgが処方されていました。来院すると、たしかに前傾姿勢ではあるのですが、動作は機敏でパーキンソンらしさは微塵もなく、とにかく座らず、院内を周遊してあちこちの物を触りまくる(使用行動)という状態でした。自宅では易怒・興奮性、脱抑制が顕著という事でした。当然のごとくレボドパとCHE-Iの大幅な減量を提案しました。それで易怒・興奮性は軽減したようです。前頭葉障害が末期状態で重度アパシーで活動性が著しく低下していた状態にCHE-Iとレボドパを投入した事により、易怒・興奮・多動とアパシー・無動を目まぐるしく繰り返しているという奇妙な状態に陥っていたようです。これは断じてDLBの認知の変動などではなくて、薬害そのものです。いわゆるピックコンプレックスと呼ばれる前頭葉系のCBSやPSPSという疾患でもここまで極端ではないにせよ、薬剤により前頭葉症候が悪化するという似たような状況を数多く経験しました。
あくまで個人的な見解ですが、レボドパやドーパミンアゴニストのようなパーキンソン治療薬は「パーキンソン病」にはある程度適した薬ですが、それ以外のFTD,CBS,PSPS,DLB(前頭葉障害優位型)など複雑化した症候群に対してはICD,DDS,Pudingのような不都合な結果を招いているケースが多いので、使用を控えるべきだと思います。


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by shinyokohama-fc | 2015-06-02 19:07 | 治療
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