カテゴリ:治療( 63 )


ベンゾジアゼピン系薬剤(抗不安薬)の問題

先日、「処方薬物の乱用・依存を防ぐ」という特別研究会を聴講してきました。講師は日常的に薬物中毒者・依存者の治療にあたっているDrで、おそらく抗不安薬特にベンゾジアゼピン系薬剤というのは一度処方すると深刻な薬物依存を生む原因となっていて、精神科はもちろんのこと内科でも頻繁に処方されているのが問題であるとのことでした。薬物依存というのは薬を摂取しないと強い不安状態に陥る精神依存、服用を中止したり減量したときに起こる身体依存、服用を継続することで効果が減弱するため、さらに強い効果を求めて使用量が増加する耐性化の3点が問題になっています。一般的に問題とされるのは、自殺企図直前の大量服用(overdose)であり、抗不安薬の大量服用しなければ自殺までに至らないケースもあるといいます。薬物依存の専門医が問題としている頻用薬剤は主としてベンゾジアゼピン系の薬剤で、エチゾラム(デパスなど)、フル二トラゼパム(サイレースなど)、トリアゾラム(ハルシオンなど)、ゾルピデム(マイスリーなど)、ベゲタミン、二トラゼパム(ベンザリンなど)です。これらの薬剤を常用している患者は複数の医療機関で上記の特定薬剤を指定して「これを処方してくれ」と初診から言ってきます。私は薬物依存を生まないという理念で仕事をしていますので、こういう申し出についてはこれらの薬物の危険性を資料を配布して十分説明した上で断るようにしています。今回の講師のDrはエチゾラムとべゲタミンの新規処方をやめようと呼びかけていました。私もこれには賛同しています。前者は幅広い適応症があり、抗精神薬扱いにはなっていない事もあってわが国では至る所で処方されており、世界的に見ても処方数量が飛び抜けて多すぎると問題視されているくらいです。我が国の保険診療システム、フリーアクセスの負の遺産と言っても過言ではないと思います。後者に関しても3種類の抗精神薬(フェノバルビタール、プロメタジン、クロルプロマジン)の配合剤であるため、死亡率が高い(死因は肺炎、不整脈による突然死、自殺企図)薬のようです。特にフェノバルビタールはてんかん専門医が使用禁止を提案しているほどの薬ですから有用性よりも有害事象がはるかに上回るという事なのでしょう。
神経内科でよく扱っている高齢者の神経変性疾患(パーキンソン病・認知症関連疾患、脳卒中後遺症、神経難病)に関しては上記の薬剤は特にリスクが高いようです。
私自身の経験で言うと、エチゾラムを常用して誤嚥性肺炎を起こした患者が過去に数名いました。最近の症例では発症して6~7年のヤール2度のパーキンソン病の70代男性が不快な喀痰貯留症状を訴えていたのですが、睡眠導入目的でエチゾラムを前医で処方されていたので、中止させて試行錯誤の上でオレキシン受容体拮抗薬に代替した結果、喀痰貯留症状は完全消失して、外来での不定主訴まですっかりなくなりました。パーキンソン病、脳卒中後遺症、神経難病など嚥下障害をきたすケースにおいてはベンゾジアゼピン系の薬剤はやはり問題が大きいと改めて再認識させられました。エチゾラムは最もやめるのが難しい薬剤だと言われていますが、私の診ている症例に関しては数例で中止が可能になっていますので、中止離脱は不可能というわけではないようです。
他の症例では60代女性で重症の神経難病(CBS)+NPH(正常圧水頭症)の方ではCBSの症状であるミオクローヌスに対して前医にて二トラゼパムが使用されていました。前医の使用量が過量だったため小刻みに減量を試みた結果、これまで問題だった嗜眠傾向と誤嚥が大幅に軽減しました。減量しすぎると粗大なミオクローヌスでやはり問題になるようです。BZ系はミオクローヌスに対しては非常に効果の高い事が確認できましたが、半面で副作用のために誤嚥性肺炎を誘発しやすいようです。特に薬剤によって日中が嗜眠状態で食事をするというのはきわめて誤嚥リスクが高いと言えます。BZ系は確かに切れ味がよく患者には喜ばれる薬なので、Dr側は「患者が喜ぶのなら」とついつい際限なく処方してしまうようですが、高齢者の肺炎死亡者が激増している遠因としてBZ系薬剤の過剰処方があるのは間違いないと思われます。BZ系に関しては特に高齢者と脳疾患・脳後遺症患者においては特に注意すべきでしょう。


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by shinyokohama-fc | 2015-10-27 12:46 | 治療

PDは薬剤依存性、PDDとDLBは薬剤過敏性

PD(パーキンソン病)は薬剤依存性、DLB(レビー小体型認知症)は薬剤過敏性。特にパーキンソン治療薬に対しては。数々の症例を経験するとそういう結論に至りました。これらの疾患は同じレビー小体病、αシヌクレイン疾患とされていますが、やはり機能性・臨床像で大きな相違点があります。
PDという疾患は進行は緩徐であり、発症年齢は様々ですが通常は発症15~20年までは動作歩行障害のみの症状で、副作用を除いて高次脳機能障害や精神症状はほとんど現れません。DLBのような薬剤過敏性もみられませんので、パーキンソン治療薬や神経系薬剤の少量投与によって顕著な副作用が出現するケースはほとんどありません。ただし発症10年前後で薬効の減退によるウェアリングオフ、オンオフなどの現象が顕著になってきます。動作歩行障害の年次進行に伴って神経内科医が治療薬を多剤併用&増量でどんどん増やしていきます。多くのPD患者は薬剤過敏性はなく、ドーパミン依存性であるため一度増量した薬剤を減量することは困難です。少しでも薬剤を減量すると、動けなくなった!と大騒ぎする方も少なくないわけです。PD患者で多剤併用薬を大幅に減らすと動作歩行が極端に悪化します。なぜなら脳が薬に依存している状態だからです。しかし経過の長い症例では6~7種ものパーキンソン治療薬が処方されるため、副作用として幻覚・妄想・せん妄・嗜眠などの精神症状が避けられない状況になります。それを回避するための一つの方法として外科的治療・DBS(深部脳刺激)があります。
2か月前から72歳女性で20年以上の長期経過のPD(パーキンソン病)の症例をみています。オンオフ現象もはっきりした症例であり、50歳前後からの発症なので本来はDBS(深部脳刺激療法)の適応ではなかったのではないかと思われましたが、前医(神経内科医)からは何故かまったくその話がなかったそうです。PDという疾患は病気の経過進行にしたがって治療薬がどんどん増えてしまう傾向があり、これらの治療薬はすべて神経系に作用するものですので、高齢化とともに多剤併用になるため、薬害リスクが高まるというデメリットが避けられないという問題があります。DBSを導入すれば、治療薬はドーパミンアゴニスト単剤(カベルゴリンなど)にすることが可能になります。この方は6~7種類ものパーキンソン治療薬が盛り付けられていました。レボドパ・カルビドパは600mg/日。前医にて副作用中和目的にドンペリドン(リスぺリドンの親戚薬、日本の治療ガイドラインで推奨されているが、フランスでは危険薬物指定)が処方されて案の定、流延と誤嚥が悪化したため介護者の判断で中止されていました。それ以外にもロピニロール徐放剤とロチゴチン貼付剤(同じドーパミンアゴニスト)が併用されていて、それ以外にもなぜかコリンエステラーゼ阻害薬(内服薬)、COMT阻害剤、ゾニサミド(元々抗てんかん剤)が処方されていました。その結果として嗜眠状態、せん妄状態となっていて、すくみと姿勢反射障害が顕著で介助でもほとんど歩けず、強制把握反応や開眼失行など著しい前頭葉兆候がみられていたため、初診時はPSPSと間違えたほどでした。私は治療薬による有害事象の要素が非常に大きいと考えて、レボドパ減量、ロピニロール中止、ChEI中止、ゾニサミド中止を指示しました。
その後は早朝起床時の覚醒が良くなり、嗜眠は大幅に軽減してしたものの、両足の疼痛が出現したため、ゾニサミドのみ再開とし、最近発売されたリン脂質系のサプリメントを推奨しました。次の診察では動作が良くなっただけではなく、強制把握反応と開眼失行が大幅に軽減していたことです。前頭葉兆候がここまで軽減したケースはこれまで記憶がなかったので驚かされました。過剰な多剤併用を少しでも軽減できるという希望が持てました。私の経験でいうとChEIなどの神経系薬剤の一部は前頭葉症状を悪化させることは間違いないようです。今回紹介した症例はやはり典型的なPDで間違いないのですが、経過が長すぎるため、大脳基底核・黒質・淡蒼球の長期の伝達障害のため、二次的に前頭葉障害が起こっていると推察されました。明らかに多剤併用による精神症状にもかかわらず、幻覚などの症状だけを判断して、DLBだと診断??されたのか患者会に入会していたようです。
典型的なDLBはすべての神経系薬剤に対して薬剤過敏性です。そのため多剤併用には忍容性がなく、ほとんどの症例でChEI、パーキンソン治療薬で副作用が出現しやすいようです。特にパーキンソン治療薬の多剤併用は重篤な副作用を誘発します。意識障害、失神、起立性低血圧、嗜眠状態などを誘発したり、幻覚・妄想などで錯乱状態に至るケースも多いです。DLBのパーキンソン症状の多くは軽度であることがわかったので、最近はあえてパーキンソン治療薬を処方することを避けています。一方で高齢でPD症状が先行して発症して4~5年以内に幻覚などの精神症状や高次脳機能障害をきたすPDDという病型があります。PDDの場合は脳幹障害と前頭葉障害が顕著な症例が多く、臨床像としてはPSPSに類似したものになります。誤嚥性肺炎や転倒などの合併症もDLBよりは非常に多く予後不良のようです。DLBもPDDも一部にChEIが全く通用しないケースがあり、むしろChEI投与により精神症状が増悪したり、動作歩行が悪化したりするケースが存在します。これらが前頭葉にタウが高度蓄積する(前頭葉が高度変性・萎縮する)タイプの悪性DLB/PDDです。ChEI反応性のDLB/PDDと比べると同じ疾患とは思えないほど経過が進行性で悪性のため現存する薬物治療はほとんど無力に近いという印象です。こういうケースの場合はがんと同じく緩和ケア中心の医療を検討したほうがいいのではないかと思います。
いずれにして薬剤反応も含めてあまりにも臨床症状に差異が大きいのが事実です。てんかんの大発作と精神運動発作くらいの違いがあります。ちなみにてんかんという疾患においては病理変化はありません。片頭痛や群発頭痛も同様です。これらの機能性に分類される症候群においては病理診断ではなく、臨床症状と薬物反応のみで評価されます。
PDやDLBという疾患というよりも症候群はそういう性質が強いのではないか?臨床現場においては変性疾患というよりも機能性疾患という意識で考えたほうがいいと個人的には思います。


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by shinyokohama-fc | 2015-10-15 11:38 | 治療

ChEI貼付剤(認知症治療薬)の超高齢者における副作用

最近、90歳前後の長寿高齢者の増加に伴い、女性の平均寿命(87歳)を超える年齢でコリンエステラーゼ阻害剤(ChEI)の貼付剤の少量投与(4.5~9mg)で嗜眠傾向が出現する症例が続出していることに気がつきました。いずれも中断してみると嗜眠はすみやかに改善するそうです。80歳までの症例ではまずなかった副作用です。NMDA受容体阻害剤ではなくChEIで出現したことに驚きだったわけで、最初は半信半疑だったのですが、デイケアからの情報では他に同じ貼付剤を使用して嗜眠になっている超高齢者が複数いるとの事でした。貼付剤の導入は内服薬だと消化器症状が強いのでという理由でした。たしかに内服薬に比べると9mg~13.5mgまで他の同種薬剤に比較して副作用が少ないという印象でした。
常識的に考えて88歳以上の患者は治験の対象にはなりません。平均寿命を超えた年齢なので、他の何らかの疾患(がんや肺炎など)で死亡する可能性が高いからです。治験は純粋なアルツハイマー、つまり60~70歳の患者に行われたものですので、本来はこの薬(貼付剤)が90歳前後の患者に使用されるという事はまったく想定されていないのだと思われます。そもそも90歳前後の患者にChEIの使用がどの程度意義があるのでしょうか?冠動脈攣縮や心室性不整脈などのリスクを考慮しても超高齢者に対してはChEIの使用は慎重になるべきだと思うからです。しかし一方で前医にてChEIが処方されていたケースではよほどの有害事象がないかぎり、中止しにくいのも事実です。それは「ChEIを中止すると認知機能が極端に落ちるので中止するな」という認知症学会からの指導があるからです。
一方で年齢によってChEIの用量調整、あるいは使用を控えろという指導はまったくありません。日本老年医学会のストップ・スタートにも認知症治療薬4種は何故か含まれていません。私の印象では認知症治療薬は特に80歳以上の患者に対しては抗精神薬と同等に近い深刻な副作用事例が報告されているのが事実です。その多くが前頭側頭型タイプの疾患(進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症、意味性認知症、行動障害型認知症など)のようです。しかし90歳前後の超高齢者がChEIの使用で日中嗜眠状態で食事をとれば、誤嚥や窒息のリスクになることは高齢者医療の観点からいうと明白ですので、私はこの副作用の情報があった場合は、ChEIを即座に中止するように指示しています。
個人的な印象でいいますと85歳以上の認知症?の方には治療薬の使用は難しい。それは認知症治療薬が抗精神薬・抗うつ薬、パーキンソン治療薬などと同じく劇薬系だからです。劇薬は人によっては毒物に変わりますので要注意です。薬の有害事象で高齢者が誤嚥性肺炎に至る原因はベンゾジアゼピン系か抗精神薬だと言われてきましたし、実際わが国で繁用されているBZ系の抗不安薬では特に喀痰喀出能力を低下させて誤嚥の頻度が多くなり、最悪肺炎に至るという経験が数多くありました。しかし今後はChEIの貼付剤も要注意薬剤リストに入れるべきでしょう。


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by shinyokohama-fc | 2015-10-05 17:23 | 治療

認知症に対する抗精神薬使用問題

今週8月7日、NHKニュースの中で、認知症への抗精神薬の危険性について取り上げられていました。認知症学会や老年医学会などでは「基本的に使用しない方針」とのことです。しかし、実際は県下の認知症医療センターに指定された医療機関・精神科で軽度認知障害や軽度うつ状態と考えられるケースに対して複数の抗精神薬がが投与されて動けなくなったという事例をこの1年、当院で数多く拝見しました。入院中なのでご家族だけが相談に訪れた事例もいくつもありました。一方で抗認知症薬を開始してから明らかに易怒・興奮性が悪化したという相談事例も数多くありました。私はこういう事例の相談に応じる事を繰り返すたびに、「適正に使用できないのであれば薬物治療など一切やめるべきだ」と強く感じます。薬害被害に遭われたご家族は「安易な考えで医療機関を受診し、最初から薬物療法などやらなかった方がよかった。」と後悔の念だと思います。私も1年前までは一部の行動心理症状がひどい方々に抗精神薬を処方していた時期がありましたが、最近はほとんどなくなりました。いくつかの抗認知症薬により行動心理症状を軽減できることがわかってきたからです。以下に示す私がこれまで見聞した主な抗精神薬の副作用です。
副作用出現症例は、高用量、長期処方、薬剤過敏性(DLBなど)のいずれかのようですが、力価の高い薬剤は低用量でも以下の副作用を起こしますので要注意です。
1)フェノチアジン系(クロルプロマジン、レボメプロマジン、プロぺリシアジンなど)
発熱(悪性症候群)、肝機能障害、血球減少症 、遅発性ジストニア、遅発性ジスキネジア
※動作歩行障害(錐体外路障害)は比較的少ない
2)ブチロフェノン系(ハロペリドールなど)
発熱(悪性症候群)、血球減少症、イレウス(腸管麻痺)、遅発性ジスキネジア
3)ベンザミド系(スルピリド、チアプリドなど)
過鎮静、錐体外路症状(動作歩行障害・嚥下障害)
4)セロトニン・ドパミン遮断薬(リスペリドン・パリペリドン、ペロスピロンなど)
過鎮静、錐体外路症状(動作歩行障害・嚥下障害)
5)多元受容体作用薬(MARTA;オランザピン、クエチアピン)
過鎮静、体重増加、血糖上昇
※動作歩行障害(錐体外路症状)は比較的すくない
6)ドパミン受容体部分作動薬(アリピプラゾール)
1)~5)の副作用は比較的少ない
もし安全面を最優先に考慮して使うのであれば、3)ベンザミド系ではないかと思いますが、用量に注意が必要です。副作用を起こさず使用するためには、上記のごとく副作用の特徴をDrと薬剤師が熟知し、低用量、短期間で患者側にリスクを十分に説明したうえで処方するべきだと思います。特に高齢者は心臓が悪い人が多く、抗精神薬によって心室性不整脈を誘発して場合によっては心停止・突然死を起こしうると報告されています。一方で悪性症候群も非常に危険な副作用です。20年前に救急指定病院で勤務していた時期は、1)や2)の薬剤によって悪性症候群が誘発されて瀕死状態で救急病棟に入院した患者を数多く担当しました。「なぜ薬を処方したDrが治療に当たらないのか?と怒りがこみ上げてきた事もありました。」私は誰よりも悪性症候群の恐ろしさを体験しています。例えばクロルプロマジンなどが原因で発熱している、家族も薬が原因だろう疑っているのに、処方しているDrがその副作用のことを全く知らないらしく「不明熱の原因精査が必要だと言われた」という事例がありました。このケースでは家族の判断でクロルプロマジンを中止して事なきを得たようですが、処方しているDrが薬の副作用の知識がないというのは非常に恐ろしい事だと思います。
抗精神薬に限らず、抗認知症薬・パーキンソン治療薬など神経系に作用する薬剤はすべて重篤な副作用を起こしうるリスクの高い薬です。処方するDrとそれをチェックする薬剤師は副作用の事を知っているのでしょうか?患者側に正しい副作用情報を提供しているのでしょうか?現状をみるかぎりは私からみてとてもそうとは思えません。一方で明らかに周辺のケア対応や環境設定に問題があって、それが誘因になって行動心理症状が誘発されているにもかかわらず、それを修正しようとせず、薬に頼ろうとする施設のスタッフやご家族にも問題があります。外来で短時間しか診療しないDrにはその方が普段どんな環境にあって行動心理症状が起こっているか見えないからです。「自分の処方する薬で極力副作用を出さないようにしたい」私はそういう意識で日々薬を処方しています。それでも薬剤過敏性の高齢者は多数いて、わずか少量の神経系薬剤でも副作用は出てしまいます。医療側から薬の危険性についての十分な情報提供が求められます。明らかに家族が副作用に気がついて中止を求めているのに、残念ながらその声に耳を傾けないDrが少なくないようです。


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by shinyokohama-fc | 2015-08-08 08:51 | 治療

甘草による副作用について

甘草による副作用は医師国家試験に「偽アルドステロン症~低K血症~横紋筋融解症」が長年取り上げられているほど有名なものです。私自身はこの5年で認知症高齢者に使用した4~5例において比較的重い副作用(低K血症、横紋筋融解症、心不全・浮腫)ケースを経験しました。最近はレビー小体型認知症(DLB)を早期発見しようという啓蒙活動がどういうわけか盛んに行われているようですが、高齢者幻視とみればDLBだろう(実はそう単純ではないのだが)というわけで安易に抑肝散が使われている傾向にあるわけですが、自験例で半年前にひどい心不全(労作時の息切れ)をきたした症例もあり、この薬も高齢者に使用する際にはChEIと同様に厳重警戒しながら使うべき薬だという事を実感されられました。特に心臓に持病(心不全・不整脈など)がある症例では、ChEI+抑肝散の併用という組み合わせというのは高齢者にとってはかなりのリスクを伴うと考えられます。高齢者を日常的によく診ている立場であれば誰もが知っておくべき事実ですが、「日本老年医学会」の提唱する「ストップ」のリストに加えられていないのは少々違和感があります。甘草の副作用として偽アルドステロン症は有名ですが、これは含有しているグリチルリチンに起因するものです。グリチルリチンは腸内細菌によって加水分解され、グリチルリチン酸となり、Na-K、Na-H交換の促進と進みます。この結果、第一にNaイオン再吸収が高まり血圧上昇、浮腫の出現となる。第二にKイオンの排出が亢進して、低K血症が惹起されて不整脈、ミオパチー、横紋筋融解症などが発現、第三にHイオンが排泄亢進して代謝性アルカローシスが発現してテタニーとなります。対策として甘草を含む処方を投与する時点での聞き取りが重要になります。他の治療薬、利尿薬、グリチルリチン製剤、甘草を起源とする西洋薬、インスリンの使用について正確に問診を行います。使用開始後は低K血症と血圧上昇の監視が重要となります。偽アルドステロン症による血圧上昇、低K血症、浮腫などの症状はグリチルリチン酸の1日量として300mg以上を長期連用することで頻度が高くなるそうですので、甘草1gあたり40mg含まれるので、1日上限量は甘草6gが上限とされていますが、甘草は全ての漢方薬の2/3に含まれています。ただし認知症のBPSDに頻用される抑肝散では1日量でわずか1.5gです。私が経験した重篤副作用症例でこれだけわずかな用量でも副作用が出てしまったのは何故なのか?理由としては推定されるのはDLBの薬剤過敏性、糖尿病が基礎疾患として存在した事などでしょうか?
この1年の経験でいうと、DLBらしき79歳男性の幻覚・妄想・精神錯乱状態に対して抑肝散7.5gを処方して1か月後に少し歩いただけで息切れとなり、心不全に至りました。検査値ではBNP 677.7pg/mlを計測しました。抑肝散中止後もしばらく心不全症状は遷延しましたが、ARB+利尿剤(インダパミド)を2か月継続してようやく症状軽快しました。またDLBらしき83歳女性の幻覚に対して抑肝散2.5gを処方してわずか10日で横紋筋融解症でCPKが2000以上となり、歩いていた人が下半身筋脱力でまったく歩けなくなりました。脱力症状は出現しなかったものの抑肝散5g(甘草1g/日)で血清Kが2.5~3.0前後に低下する症例は少なくないようです。また血圧上昇や下腿浮腫の悪化などは比較的よくみられるため、症例によっては減量・中止などの対応を余儀なくされた事もありました。こういった症例を何例か経験すると、認知症高齢者に甘草含有の漢方薬を処方する場合は、血圧、血清K・CPK・BNPのモニタリングが必要なのではないかとすら考えてしまいます。西洋薬の抗精神薬などに比べると重篤な副作用が少ないのは事実だと思いますが、「漢方薬は天然物で作られているから安全だ」と妄信してしまうのは誤解であることがわかります。甘草以外にも特に黄笒、麻黄が含まれている生薬は副作用に注意が必要ではないかと思います。


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by shinyokohama-fc | 2015-06-22 18:59 | 治療

釣藤散の抗認知症作用

「Science of Kampo Medicine 漢方医学 Vol 39 No1 2015/p36~37/釣藤散の抗認知症作用」から以下引用
富山大学和漢医薬総合研究所 複合薬物薬理学教室
当研究室では脳血管性認知症(VD)およびアルツハイマー型認知症(AD)モデル動物を用いて、コリンエステラーゼ阻害薬(タクリン)と比較し、釣藤散の薬理学的効果と作用メカニズムの解明を進めてきた。その結果、釣藤散は認知行動を改善し、学習記憶障害を予防改善し、情動障害を改善する事が明らかになった。ADおよびVDの治療ではコリン作動性神経の伝達を促進する事が有用とされる。既存の抗認知症薬ではコリンエステラーゼ阻害作用を有するが、釣藤散はムスカリン性M1受容体刺激によりコロン作動性神経を活性化した。ここから釣藤散の学習記憶障害の予防および改善作用はムスカリン性M1受容体への直接刺激が関与し、これには構成生薬の釣藤鈎が主要な役割を果たしていると考えられた。大脳皮質や海馬におけるNMDA受容体は学習記憶に重要であり、脳虚血後の神経細胞死に関与するとされる。既存の抗認知症薬ではメマンチンがNMDA受容体拮抗作用を有し、過剰なグルタミン酸によるNMDA受容体の活性化を抑制するが、釣藤散に含まれる特徴的なアルカロイド成分はNMDA受容体を非競合的に阻害することで興奮毒性を抑制し神経細胞障害を防止した。学習記憶の基本的なメカニズムではシナプス可塑性が大きな役割を担っている。グルタミン酸作動性神経のNMDA受容体とAMPA受容体が重要な働きを担っており、釣藤散はシナプス可塑性に関与する複数のメディエーターを活性化してシナプス機能を改善した。血管内皮増殖因子(VEGF)は血管新生および神経の保護・再生に関与し、学習記憶に関与し加齢に伴い低下するとされる。釣藤散はVEGF系の機能低下を抑制し、神経細胞の保護作用を示すことが示唆されている。認知症はADを中心に論じられる傾向にあるが、その原因は複雑でVD/DLB/FTDと明確に区別する事は難しい。漢方薬は多彩な成分を含み多彩な機序を有する事から、さらなる機序解明とエビデンスの蓄積により、安全・低薬価に認知症治療に貢献することができると考える。

このたび、こういう記事をわざわざ取り上げたのは、医療の進歩による長寿化により、特に女性を中心に80~90歳の超高齢者の急増の実態があります。がん、脳卒中、心疾患、肺炎などの致死的なイベントなく、健康で長寿をまっとうしている高齢女性が増加するのに比例して、さまざまなタイプの認知症が増加しています。しかし超高齢女性の多くは心機能が低下していて不整脈や弁膜症があり、肝臓・腎臓の代謝能力も低下しています。とても通常用量の抗認知症薬(西洋薬)が耐えられないという状況です。こういう人に薬を無理に内服させる事によって患者が悪化するというリスクを負わせるのは避けるべきです。たしかに漢方薬がすべて安全だとは言えません。たとえば甘草が一定量入っている薬では電解質異常(カリウム低下)に伴う浮腫・筋融解などの副作用があります。実例として抑肝散2.5g/日を10日間内服しただけで、全身の筋肉が融解して歩けなくなったという驚くべきケース(85歳女性)もあります。漢方薬では「一般に高齢者では生理機能が低下しているので、減量するなど注意すること」という記載があります。西洋薬にはこのような記載が一切ないという点に違和感を感じています。
高齢者で使用する場合は抑肝散の使用が5g/日で推奨されているように、釣藤散も5g/日という事になると思います。抑肝散よりも甘草の含有量は低いので比較的安全に使えるのではないかと思います。西洋薬神経系薬剤の欠点は配合剤がほとんど存在しない事で、どうしても薬の種類が増えがち(多剤)になってしまう問題がありますので、そういう点では元々配合剤である漢方薬にアドバンテージがあるのではと考えています。


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by shinyokohama-fc | 2015-06-06 17:19 | 治療

心臓疾患・不整脈のある高齢者にCHE-Iは高リスク、慎重投与・厳重観察が必要

CHE-I(コリンエステラーゼ阻害薬)という薬は、患者が物忘れを外来で訴えれば、60歳でも90歳でも安易に外来で処方されているのが現状のようです。個人的に「物忘れ外来」というネーミングが好ましいと思えない理由は「物忘れ=認知症=薬」という公式が蔓延しているからです。言語聴覚士や臨床心理士を雇って別室で検査を実施できる特別な認知症専門医療機関を除いては、多くの外来診療では一般内科と混在して時間的に余裕のない状況で「物忘れ」患者を医者1人が診ているのが現状です。物忘れの理由はさまざまで、まず本人が訴える場合は、抑うつ状態または軽度認知障害が多いようです。MMSEなどの簡易的知能検査では22~30点程度です。MMSEが高得点でも行動心理症状・精神症状が先行するFTDやDLBのような疾患もあります。年齢が80歳を超えていれば年齢相応・加齢性変化との区別が難しくなります。他にも甲状腺機能低下、ビタミン欠乏、側頭葉てんかんに伴う健忘症、水頭症、様々な身体疾患に伴うせん妄など、認知症(ATD)以外の原因を慎重に推察する必要があります。しかしそのための十分な問診の時間を確保するのが難しいようで、そのような適応を十分検証することなく免罪符的に初診時からCHE-Iが処方されてしまうケースも少なくないようです。逆に行動心理症状が顕著にもかかわらず、外来でのMMSEが高得点で画像検査でも有意所見がないから「認知症」ではないと言われるケースも多いようです。ともあれ体格の大きくない超高齢者(80~90歳)にもCHE-Iが数多く処方されて、様々な副作用が出現するケースが多いようです。
CHE-Iは中枢神経内において効果を生じるのが主たる薬物動態ですが、中枢神経以外においても自律神経系におけるコリン賦活作用がしばしば問題を起こします。消化器系における副作用、消化管運動を亢進させて下痢・嘔気を誘発しやすい、唾液分泌が亢進して流涎(よだれ)をきたしやすい、泌尿器系を膀胱運動を亢進させて頻尿を誘発しやすいというのはよく知られています。特に高齢者に対して高用量のCHE-Iが使用されている場合はほぼこのような副作用は必発です。しかし案外知られていないのは、循環器系の副作用です。実際よくみかけるのは徐脈であり、30~40/分の高度徐脈の症例をみて肝を冷やした事はこの5年で6~7回程度経験しました。実際薬の使用上の注意として、洞性不整脈、狭心症・心筋梗塞の既往がある場合は慎重投与とされています。個人的には75歳以上の心疾患のある方には初めからCHE-Iを処方しないという選択をします。また高齢者は心疾患に伴う胸部自覚症状が乏しい事が多いため心疾患(不整脈)の存在を認知されていないケースが非常に多く、実際ECG検査をしたら高度のQT延長(0.5s!)というケースもありました。こういう症例に高用量のCHE-Iを処方したらどうなるか。考えただけで恐ろしいです。
海外の「Drug&Aging」という医学雑誌今年の5月15日号では英国の大学教授により「現在使用されているCHE-IとNMDA受容体アンタゴ二ストは効果があっても1年まで」という発表があったようです。おそらく抗認知症薬の必要以上の乱用を心配してのものだと思われます。先日のブログにも書いたようにCHE-IやNMDA-RAには行動心理症状を抑制するという作用もありますので、現在高齢者に処方されているCHE-Iがすべてムダとは思えませんが、必要に応じて副作用の出現しない範囲に留めるべきでしょう。特に心臓の副作用というのは生命にかかわります。薬の副作用で心臓が止まるという事がないように細心の注意を払う必要があります。これまで高度徐脈に気がついたケースは私自身が外来診療で気がついたのではなく、介護者による日常の血圧・脈拍測定が契機となりました。危険な副作用の発見には介護者の日々の観察が欠かせません。昨今は高齢者・認知症に対する抗精神薬の心臓副作用が学会などで問題視されているようですが、CHE-Iに関しても症例や使い方(用量)によっては抗精神薬と同程度のリスクがあると感じています。抗精神薬は危険でCHE-Iは安全という話ではなく、心臓副作用リスクというのは双方にあり、それは用量依存的に増加するという事だと思います。


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by shinyokohama-fc | 2015-06-04 09:51 | 治療

ドーパミン補充・賦活薬が起こす前頭葉症候群の悪化

パーキンソン病の治療薬はドーパミン補充療法を含めてすべてドーパミン賦活作用があります。パーキンソン病について記載している教科書には以下のような治療薬によって引き起こされる諸問題が記載されています。パーキンソン病の治療薬に関する知識が乏しい医者がたくさんいて、この事を全く認識しておらず、動作歩行障害がある患者には誰でも彼でも「とにかくパーキンソン治療薬を処方しておけばいい」と考えている医者があまりにも多いようです。パーキンソン治療薬によって起こる以下の諸問題は、主としてパーキンソン病を長年罹患してるがために、比較的若年時から治療薬を長期(5~15年)に内服した事によって起こるといわれていましたが、最近は若年性FTD,PSPS,CBS,など前頭葉型DLBなどいわゆる前頭葉症候群のグループのフロンタル・パーキンソニズムと思われる動作歩行障害に対してもパーキンソン治療薬が使われることにより、薬剤誘発性に脱抑制や常同行動などの前頭葉症状が悪化している症例が散見されるようです。
1)衝動制御障害 (Impulse Control Disorder)
衝動や欲望を抑えられずに、本人または他人に危険な行動をしてしまう現象。病的賭博、病的買い物、病的摂食、病的性欲亢進などが主として挙げられるが、DSM-Ⅳには窃盗、放火などの犯罪的行動異常も挙げられている。ドーパミン受容体刺激薬の使用が契機になりやすい。
2)ドーパミン調節異常症候群 (Dopamine Dysregulation Syndrome)
レボドパやドーパミン受容体刺激薬を必要以上に欲しがる傾向があり、薬によってドーパミン特有の快感が得られる。報酬系を司どるmesolimbic systemの過剰興奮と推定されている。レボドパの使用が誘因になる傾向にある。
3)Puding
複雑で常同的な行動である。細かいものを集めたり整理したり、引き出しの中のものを入れたり出したり、歩き回ったり(周遊)、これらの常同的行動が強迫的でやめられない状態になり、周囲が無理に止めようとすると激怒したり、暴れたりする傾向にある。必要以上のドーパミン補充療法が衝動性を亢進すると言われている。
これら1)~3)の諸問題は、一般的にパーキンソン病においては若年発症で、性格傾向のある、治療薬内服期間が長期にわたる症例が多いと言われています。
個人的な見解を言うと、純粋なPD(パーキンソン病)にはレボドパやドーパミン受容体刺激剤などの治療薬は生活水準・QOLを向上するためにある程度は必要だと思います。ただし必要以上の高用量・多剤併用などの過剰な治療薬の使用には反対です。特に70歳以上の高齢者の場合はむしろ投薬を過剰にすると逆に動作歩行レベルが悪化する症例のほうが多いという印象です。パーキンソン治療薬を減らしたら動作レベルが劇的に改善したというケースはPDDやDLBのような薬剤過敏性傾向の症例に多くみられるようです。PD・DLBの動作歩行障害には薬を増やすよりも積極的なリハビリテーションの介入が有効なのは言うまでもありません。私が診ている症例でも80歳前後で積極的にリハビリ・運動療法を実践した結果として、明らかに1年前より動作レベルが向上した症例があります。
若年性FTDでは後期にパーキンソニズムが出現しやすいというのは前回のブログで書いたとおりですが、この場合のパーキンソニズムは前頭葉起源のものですので、当然パーキンソン病のそれとは性質がまるで違います。若年性FTDはDLB以上に薬剤過敏性の症例が多いという印象です。それはCHE-I、抗精神薬、パーキンソン治療薬など神経系薬剤すべてにおいてです。おそらく病気の進行がきわめて速いために、正常な神経細胞が少なくなり、薬剤の作用すべき受容体が正常に機能しなくなっていると推察されます。
50歳で発症した若年性FTDと思われる症例で、発症7~8年目でパーキンソニズムが出現してきたのですが、前医では精神症状の変動とパーキンソニズムと核医学検査の所見からDLBと診断されて、CHE-Iに加えてレボドパ300mgが処方されていました。来院すると、たしかに前傾姿勢ではあるのですが、動作は機敏でパーキンソンらしさは微塵もなく、とにかく座らず、院内を周遊してあちこちの物を触りまくる(使用行動)という状態でした。自宅では易怒・興奮性、脱抑制が顕著という事でした。当然のごとくレボドパとCHE-Iの大幅な減量を提案しました。それで易怒・興奮性は軽減したようです。前頭葉障害が末期状態で重度アパシーで活動性が著しく低下していた状態にCHE-Iとレボドパを投入した事により、易怒・興奮・多動とアパシー・無動を目まぐるしく繰り返しているという奇妙な状態に陥っていたようです。これは断じてDLBの認知の変動などではなくて、薬害そのものです。いわゆるピックコンプレックスと呼ばれる前頭葉系のCBSやPSPSという疾患でもここまで極端ではないにせよ、薬剤により前頭葉症候が悪化するという似たような状況を数多く経験しました。
あくまで個人的な見解ですが、レボドパやドーパミンアゴニストのようなパーキンソン治療薬は「パーキンソン病」にはある程度適した薬ですが、それ以外のFTD,CBS,PSPS,DLB(前頭葉障害優位型)など複雑化した症候群に対してはICD,DDS,Pudingのような不都合な結果を招いているケースが多いので、使用を控えるべきだと思います。


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by shinyokohama-fc | 2015-06-02 19:07 | 治療

ガランタミン vs リスぺリドン・臨床試験

神経内科医の知人から以下の論文を教えてもらいました。要旨(サマリー)のみ以下に紹介します。

「Galantamine Versus Risperidone Treatment of neuropsychiatric Symptoms in Patients with Probable Dementia : An Open Randomized Trial /Yvone Freund-Levi,M.D. et al/Karolinska University Hospital, Stockholm Sweden/Am J Geriatr Psychiatry 22:4, April 2014」
「認知症の神経心理症候に対するガランタミン vs リスぺリドン治療/オープン無作為化臨床試験」
目的)
認知症の認知機能と神経心理症候(NPSD)に対してガランタミンとリスぺリドンの治療効果
方法)
診療所外来で無作為化臨床試験。100名の認知症とNPSDをもつ成人を対象にした。参加者のうち50名にガランタミン8~24mg/日を12週間。50名にリスぺリドン0.5~1.5mg/日を12週間投与。一次的尺度、NPSDに対する効果はNPIにより評価。二次的尺度としてMMSE,CDR,CGI,SASなどで評価。すべての試験は治療前後に実施された。
結果)
結果が受動解析を使って解析され、91%(年齢79±7.5歳、67%女性、NPI 51.0±25.8 MMSE20.1±4.6)が試験を完了した。ガランタミン・リスぺリドンの両者ともNPSDを改善したという結果で、いくつかのNPI項目では同等の効果があった。しかしリスペリドンは重要な項目(易怒・興奮)で優位性を示していた。ガランタミン治療はMMSEで認知機能を基準値より2.8アップさせた。重篤な副作用は確認されなかった。
結論)
これらの結果はガランタミンはNPSDの最初の治療として安全面の点からも推奨される。易怒・興奮に関してはリスペリドンが優れていた。
・NPSD各項目の軽減スコア (G;ガランタミン R;リスペリドン)
①妄想 (G-61/R-67) ②幻覚(G-97/R-83) ③興奮(G-54/R-93) ④うつ(G-60/R-64) ⑤不安(G-76/R-64)⑥多幸(G-57/R-67) ⑦無気力(G-44/R-39) ⑧脱抑制 (G-66/R-86) ⑦易怒(G-40/R-78) ⑧異常行動(G-59/R-85)⑨夜間行動(G-84/R-79) ⑩ 食欲(G-70/R-53)
有意差があった項目は ③興奮・焦燥 ⑦易怒 のみ
・副作用
①心血管障害(G-6/R-10) ②消化器症状(G-7/R-7) ③筋症状(G-2/R-7) ④泌尿器症状(G-6/R-5) ⑤代謝栄養症状(G-2/R-5) ⑥呼吸器症状(G-1/R-0) ⑦皮膚症状(G-1/R-3) ⑧全身症状(G-2/R-0)
全体 G-37/R-45 ※心血管障害・筋症状がRで有意に多い

ガランタミンはこの3~4年で200~300例くらい使用してきたと思いますが、副作用で脱落した症例はごくわずかでした。おそらく自験例での脱落症例は肝硬変が1例、遅発性統合失調症疑いが3例くらいでしょうか?この薬で易怒・興奮が誘発される場合は多くはメマンチンとの併用です。どちらか単独にすれば全例治まったようです。ガランタミンもメマンチンもそれぞれ単独で使えばそれほど副作用は多くないというのが率直な印象です。よく言われる消化器症状の副作用例はゼロで、制吐剤を併用する事は全くありませんでした。私の場合はガランタミンを最初に使用する場合は他の神経系薬剤と併用する事が稀だからだと思います。たぶん追加で何か使用するにしてもラメルテオンくらいだと思います。そしてこの薬を使用後に行動/神経心理症候が悪化してきて抗精神薬を追加せざるをえないというケースも稀で、現在は1例のみです。この薬はアセチルコリン、ノルアドレナリン、ドパミン、セロトニン、GABAなど複数の神経伝達物質に作用すると言われていますので、極端な神経系の副作用がでないのかもしれません。高齢者に薬剤で特定の神経伝達物質を極端に賦活しすぎると必ずと言っていいほど副作用が出現します。この薬は複数の神経伝達物質をうまく調整するという特徴があるので、私としては認知機能を落とさないという目的よりもむしろ行動/神経心理症候(BPSD/NPSD)を制御する目的で使う事が多いように思います。ATDだけでなくbv-FTD(行動障害型・前頭側頭葉型認知症) などの一部症例にも効果があると言われているのは理解できます。
リスぺリドンに関してはドパミン阻害作用が強すぎるのか、高齢者に対しては時に顕著な錐体外路症状(パーキンソニズム)と心不全・不整脈を誘発しやすいという印象があります。自験例で85歳女性で多動がひどい認知症症例を精神科に紹介してリスペリドン2mgが処方され全身がガチガチになってしまった事があります。易怒・興奮には効果があるのでしょうが、連日投与で1~2か月継続するという使い方はあまりにもリスクが高すぎます。過去10年で認知症のBPSD(特に易怒・興奮症状)に対してこの薬が高齢者に対して頻繁に使用されてきた結果として、転倒・骨折・フレイル・パーキンソニズムが数えきれないほど誘発されて寝たきりに至ったケースも少なくないと思われます。本来は「認知症」に対しては適応外使用ですから、リスクについて十分な説明がなされた上で頓用で使用されるべきです。「認知症に抗精神薬は危険」というイメージを作った原因の多くはこの薬の強い副作用にあると思います。
私は以上の自験例を経験した4年前から、この薬を処方する事は一切なくなりました。易怒・興奮症状に対してはチアプリドが効果のある症例が比較的多いという印象です。リスペリドンのような強い副作用もなく、錐体外路症状の副作用も抗精神薬に比べると軽度で全身がガチガチになることはまずなくて減量調整で対応可能のようです。
一般的に神経系の薬剤は非常に使い方が難しく、症例によって薬剤の至適用量や副作用の閾値はまったく異なりますし、薬剤が複数になるとさらにその解釈が複雑化します。症例の特徴を把握してよく考えて使う必要があります。


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by shinyokohama-fc | 2015-05-25 19:00 | 治療

行動障害型前頭側頭型認知症(bv-FTD)の薬物療法困難実例

行動障害型前頭側頭型認知症(bv-FTD)の薬物治療不応例で私が診療した症例は稀少ですが、発症年齢はおよそ推定で50~60歳です。75歳以上の高齢発症のbv-FTDが少量の抗精神薬で沈静化するのとはまったく対照的です。
あくまで推測ですが、おそらく前者がPick病で、後者は嗜銀性顆粒性認知症(AGD)が多いのではないかという印象です。病理診断疾患名のPick病とAGDを生前に診断するのは不可能なので、臨床的には若年性FTDと老年性FTDと呼称するのが適当ではないかと思います。前頭葉型ATDや前頭葉型DLBとの大きな違いは比較的早期から行動障害が顕著であるという点です。物忘れで発症したとされる症例も実際はATDとは違う性質の抑うつ気質の延長にある健忘症の可能性が高いのではないかと思います。私の印象では典型的なATDでは早期から行動障害は現れないし、中期以後で現れたとしても、それは薬物誘発性や環境的影響によるものが多いので、原因薬物の中止・変更や環境調整で容易に改善できるものです。それに比べて若年性FTDはそう簡単にはいかないのが現実なようです。以下に示す薬物治療の失敗例は当院受診前(前医処方分)と受診後(当院処方分)を含めたものです。
1) 68歳女性
60歳前後から異常行動・不潔行為・失禁など。診察時は多動・立ち去り行動・椅子に座らない・協力性なし・把握反応と抵抗症・失語(会話困難)、リスぺリドン3mg長期内服、クロルプロマジン25mgで無効、50mgで不穏・多動がさらに悪化。結果的に抗精神薬使用は断念。
2) 63歳女性
55歳前後から健忘症で、ドネぺジル10mgを3年内服、3年後から常同行動と激越性・脱抑制が顕著になり中止。行動心理症状の抑制のため、メマンチンを使用して高度便秘、リスペリドンとクエチアピンを使用したが効果がなく増量により動作歩行が悪化、クロルプロマジンを25~75mgまで増量され1~2か月は効果あったがすぐに切れて、多動悪化。副作用の遅発性の頚部ジストニアだけが残った。ジアゼパムも併用されたが、全く無効。診察時は多動・椅子に座らない・協力性なし・完全失語。壁に頭部を打ち付ける事が頻繁だったため、ベロスピロンを代用し、4~8~4mgで現在は多動は大幅に軽減し頭部打撲はなくなった。
3) 59歳男性
3年前に健忘症~無為で、ドネぺジル10mg、メマンチン20mgで嗜眠、SSRIやスルピリドも試されたが全く無効。
次第に歩けなくなり、レボドパ/カルビドパ450mgを増量されると精神錯乱、発作性の激越・叫声などの他に壁に頭を打ち付ける行動や放尿、暴言などがあり、L/Cを300mgまで減量するとこれらの異常行動は消失した。診察では顕著な使用行動、周遊、反復行為、失語のため会話が成立しない、ベッドに寝る事ができないなど。
4) 59歳男性
8年前に立ち去り行動、その後年をおって常同行動、激越性・脱抑制が悪化した。クロルプロマジン24~68mgが処方されたが、行動心理症状を抑制するほどの効果はなく、上半身の粗大な振戦性の不随意運動が出現してきたため中止された。
<若年性FTDに実施された薬物治療のまとめ>
1) コリンエステラーゼ阻害剤の増量により易怒・興奮性・常同行動など行動心理症状が悪化する。
2) 抗精神薬の効果は限定的で増量により行動心理症状が悪化したり、遅発性に運動障害性副作用(ジスキネジアやジストニアなど)を誘発しやすい。
3) 神経系薬剤全般に効果が乏しく、むしろ副作用が出やすい傾向にある。
4) 進行期(FTD第Ⅲ期)で出現する前頭葉起源の錐体外路症状(パーキンソニズム)に対してレボドパは効果がなく、むしろ増量により易怒・興奮性など行動心理症状が悪化する傾向にある。
5) 5HT1A受容体に結合特性のある抗精神薬(ベロスピロンなどが)一部の症例に有効かもしれない。
いずれにしても通常の認知症に比べて薬物治療は困難を極めるのが現実であり、非薬物治療としてのケアにも介護者を著しく疲弊させるので限界があるという印象です。若年性FTDに対する行動心理症状の普遍的な薬物治療の確立が望まれます。症例が稀少であるがゆえに、他の認知症と比べて置き去りにされているという印象が強いです。
医師側にFTDという疾患概念も非常に乏しく、多くはATDとかDLBと認識されているケースが多いようです。臨床症状が典型的なbv-FTDだとしても死後の病理診断がATDやDLBであるケースも少なからず存在するようです。このことからも、機能性側面を強く反映した臨床診断と病理診断というのは区別して考えたほうがいいのではないかと思われます。


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by shinyokohama-fc | 2015-05-02 16:46 | 治療
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