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アセチルコリンとドパミンのバランス調整の難しさ

コリンエステラーゼ阻害薬というのは高用量で使用を続けると、症例によってはジストニアやパーキンソニズムなどの思わぬ錐体外路症状が出現することがあります。
1年前から通院している、65歳の女性の症例で、初診時は動作・思考が緩慢になったという事で受診されました。初診時HDS-R 14/30ですでに中等度の認知症でした。幻覚(幻視・幻聴)や妄想などの精神症状は全くなく、認知の変動も確認できなかったため、いわゆる「レビー小体型認知症」の診断基準には合致しない症例でした。比較的若年者で初診時すでに中等度レベルまで進行していたので、7月からリバスチグミン4.5mgから開始し、3か月後の10月から18mgで維持としました。一時はいくらか改善傾向がみられ、表情がでるようになったが、1月頃からアパシー(無気力・無関心・無為)の症状が悪化してきたうえに、日中の嗜眠や尿失禁がみられたため、リバスチグミンを13.5mgに減量し、レボドパ50mg×3、アマンタジン50mg×1を追加したところ、3月頃からは動作も速くなり 日中の嗜眠・失禁はなくなりました。しかし5月頃から右方向への体幹傾斜と前傾姿勢が顕著となり、左側背部の局所的な筋緊張亢進が確認され、局所性ジストニアと思われました。リハビリテーションも必要と考えられましたが、リバスチグミンを9mgに減量せざるを得ませんでした。
錐体外路のうち筋肉の緊張を調整する指令を伝達する物質はアセチルコリンで、アセチルコリンが分泌される事によって筋肉の緊張は保たれます。アセチルコリンの分泌が多すぎると筋肉の緊張は強くなります。パーキンソン病ではそのような状態になっています。薬剤によるアセチルコリン過剰賦活による過多でも同様の事が起こりうるという事をこの症例で実感しました。つまりコリンエステラーゼ阻害薬(ChEI)はその患者にとって(個別差は大きいが)過剰投与であればジストニア(片側性の不随意的な局在的筋緊張)やパーキンソニズムを引き起こすという事です。一方のドパミンは脳内においてアセチルコリンとの量的バランスが保たれている事が必要です。パーキンソン病の脳内ではドーパミンが減っています。ドパミンとアセチルコリンは天秤関係にあり、相対的にアセチルコリンは増加しています。上記の症例のようにパーキンソニズムと認知症・アパシーを併発している症例の場合に対してはドパミン賦活剤とアセチルコリン賦活剤の使い方のバランスが非常に難しいようです。通常のパーキンソン病の症例でも長期間にわたり、レボドパ高用量とドパミン賦活剤をフルドースで多剤併用されている症例が散見されます。こういう症例ではドパミン依存だけではなく、間接的なアセチルコリン分泌抑制が起こっていると推定され、薬剤誘発性の認知症類似の状態に陥っているようです。高齢発症のパーキンソン病で2~3年で認知症になると学会などではよく言われますが、薬剤誘発性の部分もかなりあると思われます。私からみて日本の神経専門医?の多くは多剤併用・過剰処方であり、中にはとんでもない多種類の神経系の薬剤が併用されている症例があって驚かされます。神経系の薬剤を6~8種類併用した大規模臨床試験やエビデンスは国内はおろか世界でも存在していません。過剰処方が神経伝達物質のバランスを崩し、病状を悪化させるという事実をよく理解してほしいものです。



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by shinyokohama-fc | 2016-06-27 09:10 | 治療

進行ステージPSPS、ChEI変更により奇跡がおきた

今回紹介する症例は84歳女性で、9~10年前に転倒にて発症したPSPS(進行性核上性麻痺症候群)の方です。PSPSとしては進行が緩徐ですので、PSP-RSでないことは間違いないようです。当院で2年間に受診したPSPSの50例で、RSと思われるタイプは14例(28%)でした。PSP-RSは1~2年の急速な経過を辿りますが、他のサブタイプ症例は7~10年の経過の症例も多いようです。この症例の場合は7~8年前から幻覚・妄想などの精神症状があり、4年前までは歩行器で歩行していたが、3年前から起立歩行不可能となったそうです。情緒障害があり、感情失禁、スイッチ易怒、介護拒否などの脱抑制的行動心理症状が目立ち始め、1~2年前から次第に話せなくなったそうです。他医でのMRI検査では大脳・中脳~脳幹・小脳ともびまん性に顕著な萎縮がみられました。診察では頸部・体幹の筋強剛が強く
ガチガチに固まっていて、前後左右に他動的にも全く動かない状態でした。言葉は全く発する事はできず、目はびっくり眼で上下左右に運動制限が強く、顔面の表情筋も全く動かない状態でした。四肢も鉛管様の固縮で他動的にも関節運動させるのに苦労する状態で、自発的には上肢の屈曲・進展もできない状態でした。PSPSとしては臨床的に極期であり、この状況ではとても治療が奏功するとは想像できませんでした。
前医ではドネぺジルの後、リバスチグミン4.5mgが処方されていて、フェルラ酸サプリも服用していたようですが、まったく症状は改善することなく悪化する一途でした。PSPSとして極限まで悪化した状態であり、高齢でもあり、もはやこれまでかという印象でした。FTDタイプで脱抑制が目立つという理由で、リバスチグミンからガランタミン4mg+4mgへの変更をしました。理由はリバスチグミン4.5mgでもこの症例にとってはアセチルコリン賦活作用が強すぎると感じたのと、ノルアドレナリンやドパミンなど多方面の神経伝達物質の賦活作用を期待したからです。1か月後に再診の時には驚かされました。まったく微動だにしなかった頸部が左右・前後に自力で可動できるようになっていて、一言も話せなかったのが、語彙はかなり少ないものの話せるようになっていました。前回みられた右方向への体幹傾斜(おそらくジストニア)も治っており、座位が保てなかったのが、保てるようになってました。全く自分で動かせなかった両上肢も屈曲・伸展ができるようになっていました。今まで見たこともないような奇跡に遭遇したと言っても過言ではないと思います。コリンエステラーゼ阻害薬な(ChEI)は3剤どれを使ってもそう大差はあるまいというのが、多くの医者の意見だと思いますが、この症例で起こった事は、ガランタミンという薬剤が神経難病の極期にも非常に著明な効果を示すという事実を証明しました。逆に言うと、それまで使っていたChEIの2剤が、PSPSの病状をアセチルコリンの過剰賦活作用によって著しく悪化させていたのではないかという疑念も残ります。このChEIによってPSPSの病状が大きく左右されるという事実は今年3月の研究会で発表し、現在論文としても作成中です。今年の秋にはそれが掲載された研究会雑誌が出版される予定です。


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by shinyokohama-fc | 2016-06-11 17:20 | 治療

パーキンソン病精神障害に対する新薬承認(FDA)

パーキンソン病精神障害(幻覚、妄想)というのは、米国の統計ではパーキンソン病(PD)経過中の50%にみられるそうです。私が外来で診ている範囲では、パーキンソン病の10~20%に見られるという印象です。幻覚と妄想が現れる理由として最も多いのは、服用しているパーキンソン治療薬が原因のケースです。薬剤の感受性で個人差がありますが、ドパミンアゴニスト、セレギリンで誘発されやすいようです。感受性が過敏な方は短期間の内服でも幻覚などが誘発されますが、多くは長い年月にわたる内服によって誘発されるケースです。治療ガイドラインでは幻覚が出れば幻覚を誘発しやすい薬剤から順次減量・中止していくように指導されていますが、治療薬の減量・中止は長年PDを患っている方々にとっては、動作歩行レベルが悪化するデメリットがあり、あまり歓迎されるものではないようです。脱水症や感染症などの病態の影響で誘発される事もありますが、これに関しては補液など適切な対処をすれば、一過性に終わる事がほとんどです。薬剤や感染症などが関与せず、それほど多くない用量の薬剤用量(レボドパ150~200mg/日)でも顕著な幻覚、妄想が現れているケースがあります。しかも身体症状が発病してわずか1~2年という短期間で出現するようです。PDのものが原因、あるいは認知症に伴う行動心理症状とも言われています。通常PDは中脳黒質・線条体に限局した局剤的な病理変化と言われていますが、中脳黒質・線条体(基底核)~辺縁系、~皮質系の連関サーキットというのが大脳生理学者によって報告されていて、その強弱によって情動症状や精神症状が起こると推察されます。中にはそれ以外にも大脳皮質や脳幹下位に広範囲にレビー小体病理変化が起こる、いわゆる「びまん性レビー小体病」の病態になるケースもあります。臨床的にはパーキンソン病認知症(PDD)と呼ばれていて通常のパーキンソン病に比べて非常に薬物コントロールに難渋するケースが多いようです。
このたび2016年4月29日、米国食品医薬品局(FDA)はパーキンソン病に伴う精神障害である、幻覚・妄想に対する初めての治療薬であるNuplazid(pimavanserin)を承認したとの事です。選択的セロトニン逆作動薬(SSIA)と呼ばれるまったく新しいタイプの薬剤で、選択的に5-HT2A受容体を標的とする一方で、ドパミン受容体など他の神経伝達物質の受容体の活性を抑制しないそうです。ドパミン作動に関与しないので、従来の抗精神薬のように運動機能を障害することなく、幻覚・妄想を抑制することができるそうです。FDAはこの薬を「画期的治療薬」に指定しています。残念ながらこのニュースは神経内科の学会である、神経学会やパーキンソン病学会(MDSJ)などでは一切触れられていませんでした。
現在パーキンソン病精神障害に対しては、「統合失調症」にしか保険適用が認められていない、抗精神薬がやむをえず少量投与されています。具体的にはクエチアピン(MART)、リスぺリドン(SDA)、オランザピン(MART)、アリピプラゾール(DSS)、ベロスピロンなどのドパミン受容体に作用する非定型抗精神薬が使用されています。しかしパーキンソン治療薬と非定型抗精神薬が併用されている症例で前医によって投薬コントロールが成功している症例をほとんど見たことがないです。これらの薬剤の選択や用量設定が極めて難しいという側面も否定できませんが、多かれ少なかれ複数の神経系薬剤がドパミン受容体に作用すれば、コントロール不能なりうるのは自明の理です。動けなくなるか精神錯乱になるかというのを繰り返す状態に陥ります。この結果、神経伝達物質や受容体が混迷状態に陥る事が少なくないようです。認知症においても非定型抗精神薬を長期使用する危険性が指摘されているため、これらの短期間にとどめるようにと言われています。しかし他に適切な薬剤が存在しなかったのでリスクを冒して「統合失調症」の治療薬を使わざるを得ないのが現状です。
今回の新しい治療薬はドパミン受容体に作用しないため、従来の抗精神薬とは違い、ドパミン阻害によるデメリットを気にしなくていいそうです。日本の急速な高齢化に伴い、70歳以上の高齢発症のPDにおいて、PDDの経過をとるパーキンソン病精神障害の症例が今後増加してくる事が予想されます。この薬が日本でも1日も早く使用できるように期待したいです。


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by shinyokohama-fc | 2016-06-09 19:02 | 治療

薬剤性QT延長症候群

以前のブログで触れているように、高齢者、特に認知症と診断されていろいろ内服している方々にはQT延長、Torsade de pointesという危険な致死性の心室性不整脈を起こすリスクと背中合わせです。様々な薬剤によって心筋カリウムチャネルが阻害が遮断されるようです。先天性あるいは後天性にカリウムチャネルが減少している方が存在し、
そういう方に原因薬剤が処方されると致死性不整脈により失神発作や突然死を起こすようです。もともと心機能が低下している高齢者女性に多いようです。
<原因薬剤>
抗精神薬 ; クロールプロマジン、ハロペリドールなど、三環系抗うつ薬; イミプラミン、アミトリプチン、ノリトレンなど、抗不安薬 ; エチゾラム アセチルコリンエステラーゼ阻害剤 ; ドネぺジル、ガランタミン、リバスチグミン
<原因病態>
低カリウム/マグネシウム血症、徐脈(房室ブロック、洞不全症候群)、中枢神経疾患、うっ血性心不全、甲状腺機能低下症
例えば、以下のような症例が薬剤性QT延長のハイリスク症例になりえます。
85歳女性、2~3年前から認知症と診断されて精神科に通院中である。ドネぺジル10mgが処方されている、行動心理症状が顕著になってきたため、抑肝散7.5gとハロペリドール3.75mgが追加されている。抑肝散の影響で下腿浮腫があるため、フロセミド20mgが追加されている。内科通院歴はなく、血液検査や心電図検査は一度も実施されていなかった。ある日意識消失で救急搬送された。救急外来では心電図検査で心室性頻拍(Torsade de points)の波形がみられ、緊急血液検査では血清カリウム値が2.3mEg/lであった。
以上のように、認知症と診断された高齢者女性が陥りやすい病態です。私もアセチルコリンエステラーゼ阻害剤を処方している方で、家庭血圧記録で脈拍が34~40/分だったり、ECG検査でQT時間が480~490msecだったりする症例が続出して、薬剤の中止を余儀なくされるケースが少なくありません。おそらくこれらの症例ではカリウムチャンネルが減少しているのではないかと思われます。


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by shinyokohama-fc | 2016-05-17 19:05 | 治療

オピオイド使用に警鐘 (米国神経学会)

私の旧知の友人から以下の米国神経学会の勧告の情報を教えていただきました。私も昨年11月のブログで書いていたように、実際の外来診療において、主として整形外科で繁用されているオピオイド系薬剤によってせん妄、全身振戦、運動失調、依存症になっている高齢者を数多く診療した経験があり、抗精神薬以上に長期内服すると高齢者には危険な薬剤であるという実感がありましたので、学会がこのような勧告をしていただく事には意義があります。
「オピオイド使用に米国神経学会が警鐘 」非がん性慢性疾患には利益よりも高リスクが上回る
米国神経学会(AAN)は2015年9月29日、処方オピオイドによる死亡、過量投与、中毒、深刻な副作用のリスクは、頭痛や線維筋痛症、慢性腰痛などの慢性疾患におけるべネフィットを上回ると注意喚起する声明を発表した。
学会雑誌であるNeurologyに掲載された(以下引用)。
既存の複数の研究によれば、3か月以上オピオイドを使用した患者の50%が5年後もオピオイドを使用している。オピオイドは短期的には疼痛を有意に緩和する可能性があるが、長期的には深刻な過量投与や依存、中毒のリスクなしに疼痛緩和や機能改善に導くとする実質的なエビデンスはない事が示されている。
声明では、モルヒネ1日換算量が80~120mgを超えても疼痛や機能の改善が十分に得られていなければ、医師は疼痛管理の専門家と相談するように推奨した。
また、オピオイドの安全かつ有効な処方のため
1) オピオイド治療同意書の作成
2) 薬物乱用歴やうつの病歴有無の確認
3) 尿検査による薬物スクリーニングの実施
4) 催眠鎮静剤やベンゾジアゼピン系薬剤などとオピオイドを併用しない
5)州の処方箋モニタリングプログラムを通じて処方箋を監視する
など、具体的な対応方法を提案している
私の印象ではオピオイドという薬は患者によって神経系にどう作用するかわからない危険な薬剤の一つだと認識しています。特に高齢者・認知症・脳梗塞後遺症などでは避けるべき薬剤だと考えています。米国神経学会の勧告はきわめて妥当な提言だと思います。私も昨年1例だけ処方したことがありますが、40代女性で1か月限定にしました。ペインクリニックの専門家の話では1か月など期間限定にすればいい薬で、ダラダラと長期に処方するのは良くないとの事でした。


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by shinyokohama-fc | 2016-05-06 12:36 | 治療

PSP治療推奨薬?(2)高用量レボドパと3剤療法

進行性核上性麻痺症候群(PSPS)の臨床診断は特徴さえつかんでいれば、少なくとも神経内科専門医には容易なもので、私が外来で診るPSPSの症例もほとんど前医でそう診断されているものが多いようです。Brain2007で発表された、GolbeによるPSP rating scale(臨床評価尺度)でスコアをつければ良いと思いますし、私自身が作成し、先日の第2回認知症治療研究会で発表した20点満点のスコアで評価してもらえば、画像診断は不要です。
ただ私にとって理解し難いのは、PSPSに対する多くの神経内科専門医の薬剤処方です。私からみて一番問題だと感じるのは、無鉄砲なレボドパの増量治療です。PDやDLBと違って、PSPSはレボドパが効果がないというのが診断の指標になります。パーキンソン治療薬が何も入っていない状態で、ドパストン注射薬25~50mgを点滴して反応して動作歩行が改善すればPDかDLB、改善しなければそれ以外で、PSPS、CBS、MSAの可能性が高まります。
レボドパは通常末梢から血液脳関門(BBB)を通過してチロシンによりドパミン作動性神経内でドパミンに変換します。パーキンソン病治療のゴールドスタンダードと言われているように、パーキンソン病治療というのはレボドパなしには成立しないと言っても過言ではないと思います。しかし一方でPSPSにおいてはレボドパ・カルビドパを600~800mg/日まで増量してもほとんど効果を発揮しないです。レボドパを増量して歩行が改善したという話を聞いたとがないです。効果のない薬を大量に処方するという事は患者側の不信感と副作用を生むだけで何のメリットもないわけです。レボドパは比較的副作用の少ない薬とはいえ、やはり不必要に高用量を長期に継続すれば、幻覚やせん妄・嗜眠などを誘発しますので要注意です。PSPSについては病型にもよりますが、私の経験ではレボドパよりもアマンタジンの方が効果を発揮する可能性が高いと考えます。ドパミン作動性神経に直接作用してドパミン放出を促進します。患者の臨床的特徴によってどれくらいの用量で効果を発揮するかは人それぞれですが、DLBなどで意識レベルを改善させる効果もあるため、この薬が脳幹に作用しているのは間違いないでしょう。私が使うのは50~150mg程度が多いのですが、レボドパが全く効果のないPSPSでも効果を発揮するのは間違いないようです。
ドパミン・アセチルコリン・ノルアドレナリン治療というのもレボドパ・ChEI・ドロキシドパを3剤併用するそうですが、PSPにおいてはレボドパを入れても脳内ドパミンは全く賦活される事はなく、3剤ではなくレボドパなしの2剤でも十分ではないかと私は考えます。3剤療法の論文によるとChEIはガランタミンを主に使用しているらしく、ガランタミンはドパミンやノルアドレナリンを賦活する作用があるので推奨できます。ただしこの治療法を試したPSP患者の体験談によると、初期に消化器症状が強く出るようでとても耐えられなかったという方々が数例ありました。個人的意見としては、ガランタミン単剤だけでも十分にドパミン・アセチルコリン・ノルアドレナリンをバランスよく賦活できるではないかと考えています。


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by shinyokohama-fc | 2016-04-28 19:03 | 治療

PSP治療推奨薬?(1)三環系抗うつ剤(TCA)

進行性核上性麻痺症候群(PSPS)はいくつかのサブタイプによるバリエーションが多彩ではあるものの、特徴的な姿勢保持障害、歩行障害、易転倒性があるため、神経内科医であれば診断は難しくないケースがほとんどでしょう。臨床的なPSPSの全てが病理的PSPにならないというのは、以前のブログで述べたとおり成書にも記載されています。治療薬に古くから大うつ病に使用されてきた、三環系抗うつ剤(TCA)のアミトリプチンが書いてあります。
私自身はこの2年でPSPSを50例以上、通算にして70例くらいは診てきましたが、実際この薬が処方されて良くなったという症例を1例も診たことがありません。それどころかむしろTCAを長期に内服する事で病状が悪化しているとしか思えない症例ばかりです。先日私が講演した認知症治療研究会で座長を務めていただいた私の先輩の河野和彦先生も1~2年前のブログでこの事を指摘していたと思います。
TCAの薬理作用として、ヒスタミン・ムスカリン受容体遮断作用、抗コリン作用が強いと言われていて、おそらく若年者の夜間焦燥感の強い大うつ病に使用すべき薬剤です。高齢者、特に正常な神経細胞が減少している神経変性疾患には本来使うべきではない薬剤ではないかと考えられます。
病態生理的な見地からいうとPSPという疾患は、中脳~脳幹、前頭葉~側頭葉(大脳皮質)が主として異常リン酸化タウによって障害されます。姿勢保持障害は主として中脳~脳幹が主体ですが、前頭葉による歩行障害も起こります。
アセチルコリンは歩行に関連していると言われていて、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤が前頭葉性の歩行障害を改善させうるという報告もあります。その一方でこの薬剤の投与過剰で大脳基底核のアセチルコリンが増加して、ドパミン・アセチルコリンのバランスが崩れて薬剤性EPSによるが出現するケースも少なくないと言われます。それは私が先日の講演会で発表した症例を通じて強調したかった事です。しかしその一方で抗コリン作用の強い薬剤を使えば、アセチルコリンが有効に作用しなくなり、いわゆる薬剤性認知症のような状態になります。これは皮質下性認知症を伴うPSPSには好ましくない状態であります。ヒスタミン受容体遮断作用とムスカリン受容体遮断作用、抗コリン作用により起こりうる副作用としては、腸管麻痺、口喝、頻脈、便秘、排尿障害(尿閉)などの末梢性の副作用のみならず、意識障害、傾眠、せん妄、幻覚、精神錯乱など中枢性の副作用も高率に誘発します。つまりPSPSで臨床的に最も問題とされる転倒事故を増やす可能性がありますし、ピックコンプレックスですから精神状態を悪化させるリスクも高いであろうと推定されます。TCAを長期間に亘って内服を継続すれば尚更です。PSPという疾患が大脳~脳幹~小脳と広範囲に障害されて、かつ各部位をつなぐ神経伝達のネットワークの問題が多発しているという病態生理を理解していれば、副作用の強い神経系薬剤を使用するという事がいかにリスキーな事かがわかるはずですが、神経系の薬剤の特徴を理解せずに処方する神経専門医(本当に専門なのか非常に疑わしい)が少なくないようです。


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by shinyokohama-fc | 2016-04-18 11:59 | 治療

抗精神薬により深刻な薬剤性EPS(咽喉頭ジストニア)をきたした高齢女性の症例

最近は80歳を超える低体重の超高齢女性に安易に抗精神薬を処方されて、深刻な薬剤性EPS(錐体外路症状)をきたしている症例を診療する機会が増えています。抗精神薬の副作用としては、不整脈、肺塞栓症、誤嚥性肺炎、麻痺性イレウス、胃拡張、肥満、水中毒、悪性症候群(異常な発熱、発汗など)、横紋筋融解症などがありますが、神経系に最もダイレクトに反映されるのはEPS(錐体外路症状)です。錐体外路症状としては主として1)アキネジア 2)ジストニア 3)アカシジア4)ジスキネジアの4つがあります。特に2)~4)は異常運動(不随意運動)が常時起こっている状態で、当事者に著しいストレスを与えるものです。
1)アキネジア
中脳・黒質線条体のドパミンD2受容体遮断により起こります。動作が少なく拙劣・緩慢になり、筋緊張が亢進して筋固縮となります。これに振戦が加わるとパーキンソニズム(薬剤性)と呼ばれる状態になります。パーキンソン病と同様に前傾姿勢、小股歩行、動作がぎこちない状態になります。
2)ジストニア
赤核δ受容体が関与した中枢ドパミン系の代謝回転亢進により起こります。筋緊張が異常な状態が、主として頸部・体幹部・四肢の一部に起こりますが、口・舌・顎・顔面にも起こり、一部の筋肉が強直して捻転します。最も典型的なのは急性ジストニアで、眼球上転、舌が飛び出し、体幹が側方に傾く状態になります。
3)アカシジア
中脳・黒質線条体のドパミンD2受容体の感受性亢進により起こります。下肢がむずむずする異常感覚・焦燥・不眠(レストレスレッグス症候群)を伴い、じっとしていられず、動き回る、歩き回る状態になります。
4)ジスキネジア(遅発性)
中脳・黒質線条体のドパミンD2受容体の感受性亢進により起こります。抗精神薬を長期に内服して引き起こされる異常運動で、主として口・頬・舌・下顎にみられ、時にゆっくりとした大きなアテトーゼ様の粗大な異常運動で、一度起こってしまうときわめて治りにくく遷延する傾向があります。
これらの薬剤性EPSは定型抗精神薬に多く、一般的には非定型に変更すると良いと言われていますが、私の臨床経験でいえば、高齢者に関しては非定型でも非常に高率にEPSの発現がみられます。一般的に抗精神薬のEPS発現率は21%(1/5)程度と報告されていますが、80歳以上の超高齢者に限定すれば50%は確実に超えるのではないかと思われます。私が外来でよくみかけるEPS発現事例は、2~3種類の複数の非定型抗精神薬を順次処方された症例に多く、具体的にはオランザピン、リスぺリドン、アリピプラゾール、クエチアピンのうち2~3種類が使用された場合が多いようです。私の個人的な見解としては「高齢者においては、定型・非定型にかかわらず、抗精神薬を使用すれば、たとえ少量でも薬剤性EPSは高率に起こりうる」という結論です。
今回は今までと比べても衝撃的かつ重篤なEPSの事例を経験しましたので、報告する事にします。
<症例1>83歳女性。
一方的会話で疎通困難な、重度の意味性認知症と推定される症例、夕方~夜間に歌を歌って、周囲が眠れなくなるのでという理由で、前医にて非定型抗精神薬が順次処方されていたようです。オランザピン10mg、リスぺリドン0.5mg、最近まではクエチアピン75mgでした。元々動作歩行には問題がなかったようですが、次第に動作歩行が拙劣となり歩行困難となり、口・下顎のジスキネジアが出現していたようです。1か月前からひどい犬吠様の咳嗽発作と呼吸困難を繰り返すようになったという事で先日受診されました。診察上では喘息発作は否定され、咽頭喉頭狭窄をきたす咽喉頭ジストニアと推定されました。前医にて鎮咳剤が処方されていたようですが、効果がないばかりかむしろ症状を悪化させていたようです。食物を喉に詰めて窒息するリスクも考えられました。
<症例2>83歳女性。
約7年前から幻覚・幻聴・被害妄想があり、TCA(ドスレピン)で効果不十分として追加で非定型のリスぺリドン、クエチアピンが追加され、微熱・発汗あり、意識障害に至ったため、アリピプラゾール+パロキセチンに変更されてからは全身の筋痛を訴え、薬剤性EPS→DLB(レビー小体型)と診断。にもかかわらず、SDAのブロナンセリンが処方されたようです。動作歩行レベルは次第に低下して、自力で寝返りやベッドからの起き上がりが困難となりレボドパに加えて、チアプリド50mgとミルタザピン10mgが処方されていました。レボドパは150mgから300mgまで増量されていましたが、これまでの長年に亘る複数の抗精神薬の内服により、ドパミン受容体がもはや正常に機能しなくなっており、レボドパが正しく効いているように思えませんでした。診察上では中等度~重度のパーキンソン病という印象でしたが、これまでの薬剤投与歴を考慮すると、薬剤性で誘発された要素が非常に大きいと推定されました。
抗精神薬の使用そのものを否定しているわけではありませんが、毎回ひどい薬害・有害事象事例ばかりを診させられると、正直うんざりさせられます。抗精神薬の危険性を知らない者が多すぎるという事です。これらの薬について熟知している専門家であるはずの精神科医・神経内科医ですら知らない者が多いようです。高齢者に対する抗精神薬の処方に関しては、①使用できる薬剤と用量を限定する、②複数の薬剤を使用しない、③使用せざるを得ない理由を明記する、④副作用リスクに関して文書にて患者側に十分な説明をして同意を得る。⑤副作用についてはEPSスコアをつけるなど厳重なモニタリングをしカルテに明記する。⑥特別な講習を受けてライセンスが与えられた医者に限定するなどのルール改正が必要ではないのかと私は考えます。
高齢者に対する抗精神薬の使用について患者側も一層の警戒を強めるべきだと思いますし、血圧や心臓の副作用リスクはあるものの抑肝散などの漢方薬を使用したほうがまだ比較的安全ではないかと考えます。


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by shinyokohama-fc | 2016-04-11 19:18 | 治療

イソプロテレノールは臨床応用できるのか?

昨年、学習院大学理学部の教授らが、気管支喘息や不整脈に古くから使用されている「イソプロテレノール」という薬が、動物実験レベルで、タウ凝集阻害し神経細胞減少を防ぐことを確認したとの学会発表があったようです。もしこれが臨床試験でヒトに効果が認められれば、臨床薬としてタウオパチー(タウが凝集して正常な神経細胞が死んでいく疾患、ATD以外にFTD,CBD,PSPなど)すべてに使える薬剤になるはずです。しかし、ここで問題となるのは、イソプロテレノールという薬剤の性質です。この薬はβ刺激薬というカテゴリーで、適応疾患は、気管支喘息の重症発作、気管支炎、気管支拡張症、肺気腫などの呼吸器疾患、アダムス・ストークス症候群など高度徐脈性不整脈、急性心不全、術後低心拍出症候群です。ただし呼吸器は内服・吸入薬、循環器は注射薬のみです。この薬は心収縮増強(β1)、心拍数増加(β1)、組織循環促進、気管支拡張(β2)などの作用がありますが、古い薬剤のため呼吸器疾患に広く使われている薬のようなβ2選択性はないようです。推定される副作用としては頭痛、振戦、動悸(頻脈)、嘔気・嘔吐・食欲不振などです。注射薬に関しては喘息の重症発作、高度徐脈など救急外来で使われるほどの劇薬です。内服薬としては昨年まで後発品として上市されていたプロナーゼの配合カプセル(10mg)があったのですが、ここからプロナーゼを除外し、喘息に汎用されているツロブテロールのように持続性貼付剤に変換して用量調整が可能なタイプにすれば実用化できそうな気がします。しかしアドレナリンを刺激したりする興奮性があるので、前頭葉機能が低下して脱抑制症状が顕著に出現してしまっている病期の症例では臨床応用できないと思われます。最近放医研で開発中の高感度・低コストのヘルメット型PET装置で早期診断して、この薬を早期から導入するのがいいのではないかと思います。近年はPSP,CBD,FTD以外にもDLBのタウオパチータイプ(悪性タイプ)や高齢者タウオパチー(AGD/グレイン,SD-NFTなど)というのが増加しており、ATD以外のタウオパチー症例が非常に多くみられますので、早期からリン酸化タウ蛋白の凝集・蓄積を抑制する事が治療の最前線になりそうな予感はします。


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by shinyokohama-fc | 2016-04-07 11:33 | 治療

いったいどれだけの医療者が薬物を正しく理解しているのだろうか?

唐突ですが、薬物とは何か?病気の治療・予防・診断に用いられるものであり、人命を守り、健康に過ごすために欠かせないものと定義されています。
薬理学とは何か?薬がどのような仕組みで効果を現わすかを理解する学問であり、①薬を適正に使用する②薬の副作用・有害作用を最小限に抑える③新しい薬物を開発する ことが目的とされています。
はたして現実はどうでしょうか?私は25年もの長きにわたり臨床現場に身をおいていていて痛感するのは、自分も含めていったいどれだけのDrと薬剤師が薬物と薬理学を正しく理解しているのだろうか?という事です。
16世紀のバラケルスという著名なDrは「すべての物質(薬物)は毒であり、毒でないものは存在しない」と語ったのは有名です。つまり薬物には主作用(治療の目的に適った作用)と副作用(主作用以外の作用)があり、副作用が人体にきわめて有害性をもたらす事も少なくないわけです。例えば心臓の副作用は致死的となりますので要注意です。
私が専門とする神経内科や精神科でよく使用する神経系の薬剤は細胞膜受容体のイオンチャンネル内蔵型受容体に作用する受容体アゴニスト(刺激薬)アンタゴ二スト(拮抗薬)のいずれかが大半を占めます。本来は人体の恒常性を維持している神経伝達物質と受容体に対して外部からアプローチするのでそれなりのリスクを伴うわけです。高齢者・虚弱者であればあるほどそのリスクは高まります。例えば認知症でよく頻用される、コリンエステラーゼ阻害薬を80歳を超えた体重50kg以下の人に投与するというのはリスクです。それなのに患者側の多くはそのリスクについて医療者からほとんど説明されていないようです。日本老年医学会が昨年発表した多数の要注意薬剤リストにも一切含まれていません。私はここに強い非常に不信感を感じました。どう考えてもおかしいのではないか?
私自身が約1年前から診ている60代後半の男性にコリンエステラーゼ阻害薬を処方しました。増量規定に従って増量して1~2か月経ってから、家庭血圧の記録で40~50回/分の徐脈傾向がみられ、心電図検査をしてみると心室性不整脈が多発していたので、よく知る循環器科医に相談した結果、コリンエステラーゼ阻害薬を中止したほうが良いという結論に至りました。約5年前に前医でコリンエステラーゼ阻害薬を処方されていた60歳の男性が30~40回/分の高度徐脈になり、薬剤中止後も2か月もの間、徐脈は続いたわけですが、幸い意識消失や心停止はなく、ペースメイカーを入れるような事態にも至りませんでした。
最近ようやく講演会などで、コリンエステラーゼ阻害薬を処方している患者に対して、心電図モニタリングの重要性が提言されるようになりました。最低でも家庭や施設において血圧・脈拍の測定はされるべきで、外来担当医はそれを確認すべきでしょう。それは高齢者において意識消失や高度徐脈、心停止などで救急搬送された事例が相次いようです。
薬物の有害事象のリスクを患者側に説明し、かつ監視するという事は医療者の使命だと思います。本来は人命を守り、健康を維持する目的で処方されるべき薬物であるはずなのに、現実は薬物によって人体の恒常性が破壊されて、健康を脅かされ、人命の危険に晒されている事象が多すぎます。いったいどういう事なのでしょうか?やはり薬物を提供する側のDrと薬剤師に大きな責任があるのではないかと私は思います。



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by shinyokohama-fc | 2016-04-03 15:37 | 治療
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