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パーキンソン病治療薬の副作用(4)ドパミン・アゴニスト(中編)

私の経験では、ドパミン・アゴニストの副作用というのは多岐にわたりますが、どういう患者が副作用が出やすいのか?というのは予見が難しいのが現実だと思います。一般的な傾向としては、以下のような事例に副作用が出やすいのではないかと思います。
1) 高齢(70歳以上)での発症
2) 注意障害、遂行機能障害、記憶障害などを伴っている (一般的には「認知症」という)
3) 他の神経系作用薬の併用が多い (コリンエステラーゼ阻害薬、ベンゾジアゼピン系)
4) ドーパミン・アゴニストまたはレボドパの使用量が多い
5) 姿勢異常・姿勢不安定がすでにある
6) コリンエステラーゼ阻害薬か抗精神病薬を併用している
先のブログでも書いたように、当初ドパミン・アゴニストは当初は「麦角系」でしたが、この20年で時代とともに「非麦角系」が主流になり、1日3回の「速方剤」から1日1回の「徐放剤」に代わっていきました。皮肉なことにこの変遷が、ドパミン・アゴニストの副作用を増やしたのではないかと推定されます。20年前に「麦角系」を使用していた時期は、タリペキソールの嗜眠、ぺルゴリドの消化器症状(嘔気など)くらいではなかったかと思います。
最近、特に問題になっているのは、「姿勢異常」です。これは海外ではあまりに話題になっておらず、近年日本の臨床現場で、パーキンソン病にドパミン・アゴニストを使用している専門医の間で話題にされ始めました。パーキンソン病で日本で最も著名な先生が書かれた近著にも、「ドパミン・アゴニストによる姿勢異常」について明記されています。
新しい患者さんとして診る患者で、すでにドパミン・アゴニストが入っている方々にも、姿勢異常が数多く見られます。ドパミン・アゴニストを継続しているかぎり悪化していく傾向がみられるので、やはり減量・中止にするしか対応策がないと思われます。先のブログで述べたように、コリンエステラーゼ阻害薬でも同じような姿勢異常が数多くみられますので、併用するとかなりの確率で姿勢異常が現れるように感じます。
姿勢異常というのは主に以下の3タイプがありますが、多くは混合しています。
1) 体幹の側方傾斜(左右いずれかに傾く15度以上)、ピサ症候群 (ピサの斜塔になぞらえてこう呼ばれている)
2) 首下がり・首垂れ
3) 腰折れ・腰曲がり・体幹の高度前屈姿勢(45度以上)、カンプトコルミア
いずれも、動作や歩行速度はまったく落ちていない (パーキンソン病の必須症状である、「動作緩慢」は薬物治療が奏功して上手くいっている)のに、姿勢だけが外来で診るたびに悪くなっていく症例があります。
首下がりや腰曲がり姿勢が高度になっておこる二次的な問題としては、胃酸の逆流(逆流性食道炎)や腸管麻痺(イレウス)、嘔吐、誤嚥などのリスクが高くなることです。また起立・歩行時の転倒リスクが高まるために、我々臨床医としては、とても放置できない状況です。高齢(70~80歳)・認知症・多剤併用症例では特に要注意です。
しかし、ドパミン・アゴニストを減量・中止にすると、動きが悪くなることを予め覚悟しなければならず、一時期は動作障害を我慢していただいて、別の薬剤に切り替えるしかないと思います。このようなケースにおいて、どういう薬剤に切り替えればよいのかというのは、ガイドラインにも示されておらず、当然のごとくエビデンスどころか海外では話題にもされていないというのが現実です。治療を担当する医者の価値観や裁量に左右されざるを得ないのが現実です。その治療を担当している医者にとっても、それぞれの患者の脳内で神経伝達物質と受容体がどういう状態になっているのかがまったく見えていないですし、また1人1人の症例は同じ病気でも個別差が非常に大きくて違うので手探り状態でやっているというのが現実ではないかと思います。
ドパミン・アゴニストで姿勢異常が起こる理由は、現時点でまったく解明されていませんが、多くの症例で起こっているのは現実です。なるべく早期に気が付いて減量~中止して、他の薬剤に変更したほうがよいと言われますが、動作が悪化するので、実際に行うのはなかなか面倒です。
ある程度長期に服用しているケースでは骨変形が起こるため、修正が難しいようです。
以下は私の自験例です。私が診始めた時点ですでに前医でドーパミン・アゴニストが処方されていた症例です。
症例1)65歳女性。重度認知症を伴う症例
3~4年前に前医で、ビ・シフロール、ドネぺジルが処方されて、幻覚や精神錯乱状態となり、現在は中止されています。ご家族の希望で1年前から通院されています。幻覚や精神状態は安定していますが、特に立位・歩行時にひどい首下がりと腰曲がりが見られます。
現在の処方は、レボドパ/カルビドパ/エンタカポン配合剤(100mg)×3、 リバスチグミン4.5mg/日、リバスチグミンも姿勢異常を悪化させる傾向があるので、中止・変更を検討中です。
症例 2) 74歳男性。認知症なし
前医から紹介、すでに2年前から腰曲がりで前屈姿勢。前医処方は①レボドパ・カルビドパ(100mg)2錠、②ロピニロール速方剤(0.25mg)4錠・分2、③トリへキシフェニジル(2mg)1錠。
③は中止して、②を徐放剤へ変更、2mgから1か月ごとに2mgずつ増量して8mgで約1年間維持。動作は格段に速くなりましたが、前屈姿勢が悪化し、両下肢の浮腫もひどくなったので、一時ロチゴチンへの変更を試みたが、上手くいかず、結局①を300mgに増量して、ロピニロールは2mgずつ段階的に減量して最終的に中止としました。
主に神経内科医が行っている、パーキンソン病の薬物治療というのは、精神科のそれと同じで、実際には全く見えていない、患者の神経伝達物質のバランスや受容体の状態を推測しながら、神経に作用する薬をいくつか処方するという点で難しさがあります。


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by shinyokohama-fc | 2017-05-26 10:35 | 治療

パーキンソン病治療薬の副作用 (3) ドパミン・アゴニスト(前編)

今回は、私が神経内科医の仕事を初めてから20年以上にわたって新薬が続々と登場した、ドパミン・アゴニストについて書いていきたいと思います。
ドパミン受容体を刺激する薬で、ドパミン神経細胞などに、ドパミンを受け取ったと認識させて、ドパミンの伝達をリレーするのを補助する薬と言われています。
神経系の薬剤において、一般的にこの「受容体に直接作用する」という薬は非常に曲者です。それは深刻な副作用をきたす可能性があるからです。この薬ほど、使う対象(患者さん)と使い方(用量)を間違うと、毒物に化ける薬はないのではないかと思います。「すべての物質は毒である。(中略)ある物質が毒になるか薬になるかは用量による」という、ギリシャ時代の薬物学者・軍医、ディオスコリデスの書いた「薬物誌 (マテリア・メディカ)」に書かれている有名な一文に最も当てはまる典型的な薬、それがドパミン・アゴニストです。
最近、パーキンソン病のエキスパートと呼ばれる専門医による書籍を拝読したり、講演を聴講したりしましたが、この薬はとにかく精神系の副作用が多いということで意見が一致していました。5~10年前まではこの点はほとんど強調されていませんでしたが、実際の臨床現場でこの薬を使ってみると、誰もが副作用の多さに驚くのではないかと思います。一時期はアパシーや抑うつ状態を改善させるという、メリットばかりが強調されていた時期がありましたが、先発品の特許期間が続々と切れるにしたがって、近年は明らかに風向きが変化してきたのを感じます。
もともと、ドパミン・アゴニストは「麦角系」というエルゴタミンが入ったタイプの薬剤が使われていました。ブロモクリプチン、ペルゴリド、カベルゴリン、タリペキソールなどです。しかしこれらの薬を特に高用量で使用して、エルゴタミンの血管収縮作用が長期になると、心臓弁膜症、肺線維症、後腹膜線維症に至ることが海外で報告されました。またぺルゴリドについては、海外で発がん性が指摘されており、米国のFDAでは何年も前に発売禁止となり、製薬会社も販売権を放棄したほどです。そのような事情があって、エルゴタミンを含んでいない、「非麦角系」というタイプのドパミン・アゴニストが開発されました。それが、プラミペキソール、ロピニロール、ロチゴチンです。しかし実際に使ってみると「麦角系」以上に副作用の出現頻度が多いようです。開始時から副作用が現れやすいため、少ない用量から少しずつ増やすことになっていますが、開始量でも精神系の副作用が現れやすいようです。実際に最も多い副作用は眠気で、高齢者になると幻覚、せん妄に至るケースが多いようです。初めてこの薬を使う患者さんでも、開始量ですぐにこの薬の使用を断念せざるをえない症例は半数以上になると思います。私が診る以前から、すでにプラミペキソール、ロピニロールが使われているケースでも、特に70歳以上の高齢者では、ひどいせん妄になっていて、まるで「レビー小体型認知症」のようになっています。多くは「レビー化だ!」と診断されて、ドネぺジルが追加されていますが、まったく効果がないばかりか、むしろせん妄が悪化していることが大半です。以前のブログでも触れていますが、これが専門医による「レビー診断病」です。レビー診断病の多くの症例では、ドパミン・アゴニスト以外にも、ゾニサミド、セレギリンが併用されていて、深刻なせん妄に陥っている悲惨な症例も数多く診てきましたが、今回はレボドパにドパミン・アゴニストの併用で幻覚が出ていた症例について紹介します。
81歳女性、数年前に脳卒中の既往があるが、明らかな片麻痺は残っていません。動作歩行困難が年々悪化してきたので、前医処方でレボドパ・カルビドパ100mg×4回、プラミペキソール徐放剤0.375mg×3錠/1回、ドロキシドパ100mg×3。10年ほど経過した姿勢異常型のパーキンソン病の方ですが、最近幻覚がひどくなり、それに伴う妄想やパニックを起こすようになったとの事で、2か月前に小生のクリニックを受診されました。81歳というかなりの高齢でもあり、幻覚の悪化の主たる原因はプラミペキソール徐放剤と推定されたので0.375mg×3⇒2⇒1と漸減しました。0.375mg/日で幻覚は完全になくなりましたが、動作歩行が悪化したため、再び0.75mg/日に戻すと幻覚が再発。苦悩した上で、徐放剤を速放剤に変更し、0.125mg錠×2錠を1日3回に変更しました。プラミペキソールの用量は同じでしたが、幻覚は大幅に減少して、動作歩行レベルも維持されていました。あれだけひどかった幻覚は減少するにつれて顔つきもしっかりして受け答えができるようになったそうです。この症例はわかりやすくズバリと例えれば「ドパミン・アゴニストの過剰投与でレビー化していた、薬剤性レビー?の症例」と言えます。
幻覚と認知の変動 (その多くは薬剤性せん妄)が確認されるだけで、どんな症例でもすぐに「レビーではないか?」と安易な臨床診断名が連呼されている現状、臨床診断の質の低下もかなり深刻です。レビー小体が脳にたまっていなくても、幻覚や認知の変動が起こることは日常茶飯事にありますし、レビー小体がたまっているかどうかを検査で確定する手段も存在しないのに、そういう病名が安易につけられるのもおかしい。学会の作成した、パーキンソン病治療薬ガイドラインには、幻覚が出現したら、順次パーキンソン治療薬を減薬するように書いてあります。しかしここに書いてあるとおりに減薬する専門医は少ないようです。ほとんどの専門医は幻覚=レビー化、ドネぺジルを追加するという選択をするようです。負の薬剤カスケードの典型です。
ドパミン・アゴニストは、非運動症状である、アパシー(意欲減退)、アンへドニア(心地よい気持ちの減退)を改善する作用があると言われていますが、その反面、以下の精神系の副作用が問題になります。
1) 眠気・睡眠発作
ロピニロールに多いと言われていますが、他の2種類でもよく現れます。日中にずっと強い眠気がおこりますが、高齢者ではそれが高じて、意識もうろう、せん妄となり、昼夜逆転、睡眠覚醒リズムに異常をきたして、夜間にレム睡眠行動異常が悪化して不穏になるというパターンも目立つようです。
2) 幻覚・妄想・精神錯乱
プラミペキソールに多いと言われていますが、他の2種類でも現れます。本人に強い恐怖感とストレスを与え、時に家族に迷惑をかける場合は、ドパミン・アゴニストを含めて原因薬剤を順次減量していく事になっています。
特に注意すべき患者さんは、パーキンソン病を発症してから10年以上、70歳以上での発症、軽度認知障害がある、薬剤過敏体質、他に脳卒中の既往があるなどです。
3)ドパミン調節異常症
レボドパの精神刺激作用をさらに増強してしまうようです。レボドパを必要以上に求めるようになったり、病的賭博、ギャンブル、買い物・食欲亢進など、脱抑制行動が顕著に現れる場合があるようです。
レボドパの服薬量が多い上に、ドパミンアゴニスト服薬量も多い場合に起こりやすいようです。
ドパミン・アゴニストは今回取り上げた、精神系の副作用以外にも多くの副作用があります。近年はドパミン・アゴニストを処方する前にこれらの副作用の事を十分にインフォームドコンセント(IC)してから処方するようにと言われていますが、実際は副作用の情報提供はまったくと言っていいほど、患者側に与えられていないようです。これが医療側への不信感を抱かせる大きな理由ではないかと思います。
ドパミン・アゴニストにはまだまだ厄介な身体的副作用があります。後編でそれを解説したいと思います。


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by shinyokohama-fc | 2017-05-20 12:31 | 治療

パーキンソン病治療薬の副作用(2) セレギリン

今回はMAO-B阻害薬である、セレギリンについて、その不適切使用による薬害症例、適切使用による改善症例を紹介しながら、この薬の適正な使い方について考えてみたいと思います。
モノアミン酸化酵素(MAO) はドパミンを分解してしまう酵素で、この酵素の活性を低下させることによって、ドパミンの分解を抑えて、脳内のドパミン濃度を安定させることができると言われています。かつてはレボドパと一緒に服用することが使用条件であったため、単独での使用ができませんでしたが、単独でも臨床効果が確認されたため、現在はレボドパの処方なしでも、セレギリンが処方可能になりました。世界的にはラサ二ジンが使用されていて、日本でも1~2年後には認可される見通しのようです。長時間作用するため1日1回(朝)か2回の服用になっており、レボドパ効果の増強、すくみ現象に効果があるようです。
しかし、自律神経症状(起立性低血圧)の強いタイプ、高齢者、降圧剤(高血圧の治療薬)や睡眠導入剤を服用している症例には使わないほうがいいと思われます。以下にこの薬で歩行できず外出できなくなった症例を示します。
82歳男性、ヤール2度、発症3~4年
動作歩行が遅くなったということで、総合病院を受診されて、2年前から投薬処方が開始されました。
1) レボドパ・カルビドパ(100mg) 3錠 (朝・昼・夕)
2) セレギリン(2.5mg) 2錠 (朝・昼)
3)エスゾピクロン(1mg) 1錠 (眠前)
この処方が開始されてから、起床時の強いめまい感、ふらつきが強くなり、転倒することが増えてしまいました。そのため、以前はよく外を散歩していたのに、最近は転倒を恐れてまったく外出できなくなったという事でした。診察では、動作の緩慢さや四肢の巧緻運動障害はまったくみられず、口の不随意運動があり、臥位から立位での収縮期の血圧変動が30mmHg以上で確認されました(起立性低血圧)。
この状態をみて、すぐにドパミン作動薬の過剰投与(オーバー・メディケーション)と判断し、起立性低血圧がセレギリンで悪化していると推定しました。セレギリンの中止、レボドパを300mgから150mgへ減量としました。また起床時のふらつきを助長していると推定された睡眠導入剤を中止しました。
1か月後に再診されましたが、起床時~日中のふらつきはまったくなくなり、ジスキネジアも消失、積極的に外出できるようになりました。治療薬の減量によって、左上肢の寡動・ごく軽度の巧緻運動障害、動作緩慢が確認されましたが、ご本人はまったく気にしている様子はなくて、毎日6000歩以上歩いているという事でした。起立性の血圧変動は10mmHg前後にまで軽減したようです。
セレギリンをレボドパに追加することによって、「起立性の血圧変動、低血圧」は高齢者、自律神経不全、薬剤過敏、降圧剤・睡眠導入剤との併用などの条件によって、しばしば悪化してしまうようです。症例によっては幻覚やせん妄が出現してしまう場合も少なくないようで、特に高齢者では使用が難しい薬だという印象です。
一方で、適切に使用すれば非常に有用な症例もあります。以下にその症例を示します。
<50歳女性、ヤール2~3度、発症3~5年>
5年前から左右の身体が違うという感覚、2年前から歩行時のつまずき、違和感、左下肢のしびれ感、疼痛など、1年前から左上肢下肢のふるえが顕著になって、歩行時のすくみ足も目立ってきたという事でした。
診察では、筋固縮、動作緩慢は目立たないものの、指タップ・足タップ・回内回外運動において、左手足の巧緻運動障害が顕著でした。その一方で左右とも姿勢時振戦も確認されたため、鑑別のためDATシンチグラフィー検査を依頼、左右差のある(右に強い)線条体におけるDAT集積低下が確認されました(パーキンソン病とほぼ確定)。
薬物の対症療法として抗コリン剤(トリへキシフェニジル)1mgから開始したが、逆にふるえが悪化したため中止。アロチノロール20mgを開始したが、効果不十分。ドパミンアゴニスト(ロチゴチン2.25mg)を開始したが、すくみ足が悪化したため中止。レボドパを開始するには若すぎる、ドパミンアゴニストと抗コリン剤は少量でも奇異反応ということで、セレギリンを2.5mg2回(朝・昼)から開始しました。それ以外の併用薬剤は全くナシです。
効果は2日目から実感できたようで、すくみ足が軽減し、後方への突進現象も減少。身体の重さがとれて動きやすい感じがして、ふるえも軽減したようです。左足のジストニアのみ残るようですが、日常生活動作は総じて大幅に改善したようです。
この症例はおそらくレボドパでも有効であったと推定されますが、年齢を考慮すれば先が長いので、セレギリンを選択しました。セレギリン単独でも有効であるという事が実証された症例だと思います。
この他にも、60代前半で、ヤール2~3度、レボドパなしでドパミンアゴニストのみ服用で1~2年経過をみていた症例でも、最近セレギリン2.5mgのみ追加したら、身体の重さがとれて足が軽くなったという事でした。
数年前からセレギリン単独で有効という海外の論文を拝見していましたので、日本人でも50~60歳でレボドパ未使用症例に対しては非常に有用であるという確認ができました。
このように、年齢や症例によって有用になるか、有害になるか運命が大きく分かれるようです。現在のガイドラインは、私からみて、年齢別・病型別の薬物使用の指針は不十分であり、薬物選択は神経内科医の個別の裁量に任されているわけですが、セレギリン1つとりましても、不適切な使い方をされて不幸な転帰をとっている事例が少なくないようです。


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by shinyokohama-fc | 2017-04-08 14:20 | 治療

パーキンソン病治療薬の副作用 (1) ゾニサミド

今回からスタートする「パーキンソン病治療薬の副作用シリーズ」です。
私からみてパーキンソン病に使われる代表的な薬をいくつか順にあげていき、副作用について論じていきたいと思います。
まず第1回目としては、薬価が超高額にもかかわらず、なぜか神経内科のエキスパートの先生方が好んで処方されるゾ二サミドという薬があります。この2年、私のクリニックを受診された、高齢者のパーキンソン病、パーキンソン病コンプレックス(認知症、精神症状を伴う)の症例に対して前医(神経内科専門医・エキスパート)でこの薬が処方されたケースをもとに、何が問題かを探っていきたいと思います。
そもそもドパミン作動薬でもないこの薬が使われるようになったのは、てんかんと振戦(ふるえ)型パーキンソン病を併せ持つ症例において、てんかん発作予防目的で、ゾニサミドを処方したら、振戦まで軽減したというエピソードからだと言われています。ですから「パーキンソン病のふるえを軽減する薬」と認識していました。
しかし、実際に日本での保険適用は「レボドパ配合剤に他の治療薬を併用しても、十分に効果が得られなかった場合」という条件つきです。その他には、「パーキンソン病のウェアリングオフ現象の改善」とあります。教科書にも「ウェアリング・オフ現象を軽減できる効果がある」と書いてあります。この目的での使用量は50mg/日とされています。
しかし薬価が25mgで1115.9円/1錠という超高額な薬であるため、本来患者側にはとてもハードルの高い薬だと思われます。この薬だけでも1か月で33477円を費やし、3割負担で10043.1円、1割負担で3347.7円も支払うことになります。保険負担は1か月23433.9円であります。50mgだとこの2倍になります。ここまで高額であるからには、費用対効果が強く求められるというのが定石だと思います。しかし、実際の前医(専門医)の処方事例を見る限りは、すでにドパミン作動薬3種類のオーバードースによって病状が混迷してしまった症例に対して、申し訳のように「トッピング」で処方しているケースばかりのようでした。保険適用に忠実に従った使い方だと、このような使い方(4番手の治療薬)にならざるをえないわけです。
そもそも私はアンチ多剤併用主義者なので、特に神経系の薬剤に関しては、違う系統の作用機序の薬を併用してしまうとそれぞれの効果を殺してしまう、あるいはどのような方向に作用するかわからず、意図した効果が得られず、副作用のリスクが高まると考えています。
1か月前に、パーキンソン病のヤール1度の左手の振戦だけの60代半ばの認知機能低下もない、元気そうな男性に試しに、震えを軽減する目的でゾニサミド50mgを単独で処方してみました。するとその方は再診時にこう言いました。「ゾ二サミドを服用開始してから、集中力も気力もなくなったのがわかったので、4~5日で自己中止しました」との事でした。私はこれまでゾ二サミドという薬に関しては、若年の特発性てんかん患者のてんかん発作予防目的で使用していましたが、若年者に関しては200~300mg/日で処方していますが、このような副作用は訊いたことは一度もなかったので、正直驚きでした。抗てんかん薬(AED)としてはカルバマゼピンやフェニトインに比べると、数段副作用が少なくて安全な薬と認識していたからです。
60代のヤール1度の軽症で元気な静止時振戦だけの患者に対してすら、50mg/日だと副作用で自己中止を余儀なくされるわけですから、それよりはるかに高齢で80歳前後のヤール3~5度の中等症~重症で姿勢反射障害が高度で、動作歩行障害が高度の症例で、同じ50mg/日を服用させればどうなるか?素人でも容易に想像がつくと思います。
実際に私の外来にはそのような処方をされてしまって、大変な薬剤性認知症、薬剤性せん妄に至ってしまった症例が複数来られました。
症例1) 81歳男性 ヤール5度、発症後10年
前医処方) ゾ二サミド25mg、レボドパ/カルビドパ300mg、エンタカポン300mg
初診時) MMSE12点 ヤール5度、低活動性せん妄状態
処方変更)ゾ二サミド中止・エンタカポン中止、
再診1か月後)MMSE25点 ヤール2度、意識は朦朧状態
症例2) 77歳女性 ヤール4度、発症後5年
前医処方) ゾ二サミド50mg、レボドパ/カルビドパ500mg、ロピニロール4mg、ドロキシドパ300mg
初診時) HDSR 18点、夜間に幻覚、日中は嗜眠、めまいが常態化
処方変更)ゾ二サミド中止・ロピニロールをロチゴチン4.5mgへ変更、レボドパ400mgへ減量、ドロキシドパ続行
再診1か月後) HDSR28点、記憶は改善、夜間の幻覚消失、日中の覚醒度向上し、嗜眠なし 、めまいなし
症例3) 80歳女性 ヤール4度、発症後10年
前医処方)ゾ二サミド25mg、レボドパ/カルビドパ500mg、エンタカポン300mg
初診時) HDSR 7点、2~3か月単位の認知症の悪化に加えて低活動せん妄が悪化、幻覚が頻発
処方変更) ゾ二サミド中止、他の薬剤は続行(ウェアリングオフあり)
再診1か月後) HDSR 15点 、幻覚や嫉妬妄想はなくなった
エンタカポンはレボドパの補完的薬剤なので、これで認知症が悪化したり、せん妄や幻覚が誘発されるとは考えにくいため、上に挙げた、3症例を確認した限り、ゾ二サミドが悪い方向に作用しているのは明白であろうと思われます
先に挙げた60代の症例のエピソードを訊いて、それは確信に変わりました。
高齢者にこの薬を使うのは非常に難しい。というのが私の結論です。特に75歳以上で5~10年の長期経過の症例には、あまりにもリスクが高すぎて処方が難しいという事です。レボドパ配合剤など複数のドパミン作動薬と併用して使用するという状況が、副作用をさらに助長しているのではないかと思います。
たぶんこの薬が使える症例というのはかなり限定されてくるのではないでしょうか?
45~60歳の認知症が全くない、発症5年前後のパーキンソン病でウェアリングオフ現象が出現しているか?震えが強い症例かのいずれかでしょう。効果が出るまでは平均3か月くらいだそうですが、そこまで耐えれるかでしょうね。
ちなみに私はこの薬をパーキンソン病に対して自分から処方して継続している症例は1例もいません。
軽症の患者はご本人がおかしいと気がついて自己中止してくれますが、中等症以上の症例、症例3のようにすでに認知症を伴っている重症例では、家族がよほど注視していないと気がつかれていないのではないでしょうか?
驚くべきことに、症例1ではドネぺジル5mg、症例2ではリバスチグミン9mg、症例3ではメマンチン20mgが処方されていましたが、冗談ではなくて何の役にも立っていませんでした。当たり前ですが、3症例ともすべて抗認知症薬は中止しました。こういう事例に対していかに抗認知症薬が役に立たないか。結果がすべてを物語っています。
神経内科のエキスパートを自称する専門医の先生方がなぜ抗認知症薬を処方したがるのか?私には理解しがたい事実です。症例を見る限りでは、パーキンソン病やパーキンソンコンプレックスの症例に対してドネぺジル、メマンチンに関しては実際メリットはほとんどなく、デメリットのほうがはるかに大きいからです。
パーキンソン病患者は、治療薬を多剤併用されることによって、薬剤性認知症にされてしまうケースがあまりにも多すぎるようです。薬剤性認知症は原因薬剤を中止しないかぎり治りません。いくらコリンエステラーゼ阻害薬とかメマンチンを入れても効果はないのです。不必要な薬剤が増えて医療費が余計にかかるだけで、患者さんには何のメリットもないという事を知ってほしいと思います。
次回はMAOB阻害剤の不適切使用について、実例を交えて語りたいと思います。


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by shinyokohama-fc | 2017-04-01 15:13 | 治療

認知症医療に対する雑感と今後

前回のブログで、個人的には一区切りしたというところです。これまでコリンエステラーゼ阻害薬の諸問題を含めて神経内科医からみた「認知症」について、自己の診療経験からくる印象なども含めていろいろ書いてきました。
診療経験として自分なりに至った結論としては「薬物療法だけでは、現状では認知症のかかえている諸問題の1割以下程度しか解決できないという事です」
この3年、いや5年程度、不慣れな認知症医療に、一人の神経内科医として、自分としては可能な限り誠実に向き合ってきたつもりですが、認知症という病気の性質上、医者と薬物選択だけで解決できない問題が山のようにあることがわかりました。それはすべて「人間関係」に関することです。それは、患者の元々のパーソナリティー、介護するご家族のパーソナリティー、患者と介護者との人間関係などです。ここに必要とされるのは、薬物などではなく「臨床心理」だと個人的には考えます。具体的に言いますと、医者ではなく、精神保健福祉士や臨床心理士やケースワーカーなどのソーシャル的な介入こそが最も重要なのでしょう。つまり、医者や看護師だけでは、認知症の根源的な問題(社会・家族との関連性について)にはほとんど無力だという事です。
コリンエステラーゼ阻害薬や抗精神病薬など、高齢者に様々な副作用を高い確率で誘発するような薬は程度の差こそあれ、用量を増やしたり長期間服用し続ければ、必ずといっていいほど副作用が出ます。
確かに薬によって副作用の出る確率の高低差はありますが、副作用のない薬など存在しない限り、薬物療法には限界があります。この3年でそれが痛いほどわかりました。中にはそういう薬を4年も服用され続けて悲惨な状態になっている症例もありました。どんな薬を少量で処方しても必ず副作用が出る薬剤過敏性の症例も数多かったです。症例を診ていて感じたことは、「本当に認知症にとって薬物療法は必要なのだろうか?」という事です。私の個人的な印象では多くの症例は、ソーシャル的介入が十分になされれば解決できるのではないかと思います。しかし、現実的にはそういう基盤がない。患者と介護者の間に入って調整する人間が必要です。そういう仕事ができるのはもちろん医者ではなく、臨床心理士ではないかと思います。しかし現状は臨床心理士は国家資格ではなく、保険医療ベースでは仕事ができないことになっています。今後は独居者、高齢夫婦世帯、子供と疎遠などが増えていくであろう事を考えれば、そういうソーシャル的な部分をカバーできる医療者が必要です。中には例外的に医者や看護師でそういう仕事までやってしまう人材もいるようですが、それはごく一部ですし本来の仕事ではないと考えています。

神経内科医として、今後自分に何ができるのかと考えました。
やはり20年以上前から診療している「パーキンソン病」「パーキンソン症候群」などを中心とした診療。特に「パーキンソン病」の不適切な薬物治療を是正する仕事をライフワークにしていきたいと思います。パーキンソン病の薬物治療をめぐる問題は深刻の一言です。薬の種類が増えることによってさらに深刻さが増しています。一言でいえば、多くの症例では薬が多すぎる、服用しすぎているのが問題だという事です。
これについては、すでに、「減薬」という誰もが手を出さない方法で、多くの実績が出せましたので、今後は様々な形で発表していきたいと考えていますが、今後も1人でも多くの患者を救出すべく尽力したいと思います。
次回のブログからは、パーキンソン病治療薬に関する様々な問題を取り上げたいと思います。


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by shinyokohama-fc | 2017-03-25 14:14 | 治療

高齢者の「側頭葉てんかん」はDLBと誤診される

高齢者の側頭葉てんかんの臨床症状の特徴を以下に示します。
1)けいれんはおこさない
2)くりかえす識減損~意識レベルの動揺性
3)夜間のレム睡眠行動異常様の精神運動発作(異常行動)
4)持続性の認知機能低下
5)複雑性の幻視
6)自律神経症状
7)注意障害・集中力低下
8)簡易テストでは計算ミスが多い
以上のごとく、高齢者の側頭葉てんかんの臨床的特徴は、レビー小体型認知症(DLB)に酷似しています。共通していないのは、DLBの中核症状の1つである、パーキンソニズム(パーキンソン病の運動症状)のみです。
ただし、大脳皮質と扁桃体に病変がみられるが、脳幹にはほとんど病変がみられない、パーキンソニズムがみられない「大脳型」というタイプがあるとのことです。DLBの診断基準というのは感度が高いが、特異度が低いというのは、誰もが認めるところであります。そのためにパーキンソン病のドパミン作動薬の過剰処方による、薬剤によって誘発されているせん妄状態、幻覚、認知機能の低下をもって、担当医が己の薬の出しすぎを反省することなく「DLB化だ!」と誤診してコリンエステラーゼ阻害剤を最大量で追加処方してしまうことが非常に多く見られます。またすでに脳卒中・頭部外傷などの脳疾患の既往とそれに伴う脳障害のある症例に、トラマドール(オピオイド)、プレガバリン、ステロイド、抗コリン剤などが何らかの理由で処方されて、薬剤せん妄に陥っている状態を家族が認知症の本を読んで「DLBだ!」勘違いして遠路からわざわざ連れてきたケースもありました。どこがDLBなのか?このようになんでもかんでも「DLB」にされてしまう昨今の風潮は好ましくなく、私からみてかなり問題があると思わざるをえない現状です。特に「パーキンソニズム」のないDLBというのは他の原因をかなり慎重に除外する必要があります。安易にDLBという診断をすべきではないと思います。
今回取り上げた「側頭葉てんかん」ですが、世界的な統計では60歳以上では非常に多くみられます。若年世代の特発性てんかんよりもはるかに多いようです。側頭葉てんかんの主たる原因である変性疾患としては、アルツハイマー型認知症が多く、軽度認知障害(MCI)という認知症の前段階からてんかんが現れるケースが多いようです。
軽度の「物忘れ」で始まった人が、2)~7)の特徴がみられ、テストで計算ミスがあっただけで、「DLB化した!」と安易な操作的な診断をしてはならないと思います。本来ならこのようなケースではすべての症例で脳波検査を実施してスクリーニングすべきですが、検査ができる環境にない場合もあるでしょう。脳波検査ができない環境では、詳細な問診記録を残した上で、以下の薬剤を処方して「治療的診断」をするしかないと思います。
第一選択で使用すべきなのは、カルバマゼピン(CBZ)です。100~200mg/日が必要と思われますが、高齢者の場合はCBZの副作用として、初期から小脳性運動失調によるふらつき、転倒のリスクがあるということを十分説明する必要があるでしょう。このリスクを回避するためには、新規抗てんかん剤である、ラモトリギン(LTG)、レべチラセタム(LEV)を使用する選択枝もあるでしょう。他にもこの1年で新規抗てんかん剤が上市されています。新薬の難点は高額であるという点ですが、長期内服の安全性を考慮すれば、CBZよりも新規抗てんかん剤のほうがいいのではないでしょうか?高齢者はふらつき、転倒で骨折や頭部外傷のリスクも高いという事も考慮すべきだと思います。
大脳型DLBを強く疑う場合は、MIBG心筋シンチやドパミントランスポーターシンチという核医学検査が有用です。このような検査が役に立たないという断言する医者もいるようですが、私は側頭葉てんかんと大脳型DLBの鑑別診断のためには必要だと思います。前者は抗てんかん剤で症状が治まる病気で、後者は薬を使っても進行していく病気です。厳密な診断によって患者の運命が左右されるという事を考慮すれば、やはり診断のための検査は必要です。
ちなみにコリンエステラーゼ阻害剤で、世界的に最もPDD/DLBに対して使用されている、リバスチグミンの副作用で「痙攣発作」というのがあります。私自身も、側頭葉てんかんに中等度の認知症を伴った症例(84歳女性)を定期診療しています。当初は認知症に対して、ガランタミン(コリンエステラーゼ阻害剤)8mg/日とラモトリギン(抗てんかん剤)100mg/日を処方していましたが、1か月に1回の発作があり、発作が全般化して痙攣に至り、病院へ搬送されるという事態になりました。熟慮の末に、ガランタミンを中止して、ラモトリギン150mgを続行しました。その後1年以上において発作は確認されていないようです。
高齢者の「側頭葉てんかん」は実際は非常に多いと推定されますが、医者にも患者にも「てんかんイコール痙攣発作」という固定観念があるため、多くが見逃されており、安易な操作的診断のみでDLBだと診断されて、コリンエステラーゼ阻害剤の処方によっててんかんを全般化させて痙攣を誘発している症例はないでしょうか?高齢者の痙攣発作は急性冠動脈症候群などを誘発しうる非常にリスキーな状況です。様々な意味で、側頭葉てんかんをDLBだと誤診することは非常に罪深いことだと私は思います。
DLBの診断基準の除外項目にここまで臨床症候が酷似している「側頭葉てんかん」が含まれていないという事は疑問に感じます。私の記憶では「側頭葉てんかん」について言及している認知症関連の書籍はきわめて少ないようです。



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by shinyokohama-fc | 2017-03-09 18:29 | 治療

第3回フェルラ酸研究会

先日、1月8日(日曜日)午後、第3回フェルラ酸研究会が品川で行われました。
基礎研究の演題の他に、発達障害、軽度認知障害、大脳皮質基底核症候群(CBS)に関する演題がありました。なかでも軽度認知障害に対する二重盲検試験の結果は気になるところです。
演題も4→6に増えて、4時間超の長丁場でした。私の演題は進行性核上性麻痺症候群(PSPS)に関するものでしたが、6題目の発表だったので待っている時間が長くて大変でした。
第1,2回と比べて聴講する参加者が増えたという印象です。専門的な医師の参加も多かったように思います。前回よりも質疑応答も活発に行われました。一方的に講演を聴かせるだけでは学術的な「研究会」とは呼べないので、今後はもっと参加者が増えて、有意義な議論が交わされる研究会に発展することを期待したいと思います。
研究会終了後に何人ものDrが私の講演についての質問がありました。
次回、第4回は7月16日(日曜日)に実施されます。ぜひ多くのDrが参加してほしいと思います。


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by shinyokohama-fc | 2017-01-13 08:31 | 治療

メマンチンの前頭葉解放症状に対する有効性

メマンチンはコリンエステラーゼ阻害薬との併用を推奨されているがゆえに非常に過小評価されてる薬です。主に認知症の行動心理症状(興奮性・攻撃性)に対する抑制効果を期待して使用されているわけですが、中核症状の改善効果も優れています。コリンエステラーゼ阻害薬のような生命予後に関わるような危険な副作用もないため、80~90歳の高齢者でも5~10mgの低用量(20mgで内服させると、日中の嗜眠が強すぎて誤嚥や転倒リスクが高まる)で使用しやすい薬剤です。ただしコリンエステラーゼ阻害薬(特にドネぺジル5~10mgとリバスチグミン18mg)と併用してしまうと、コリンエステラーゼ阻害薬による精神症状の有害事象が高い確率で悪化するようですので、原則的に併用はしないようにしています。神経系の薬剤の作用は複雑で複数の薬剤がからむと奇異反応をおこす症例が非常に多いようです。ニューイングランドジャーナルの文献によると、メマンチンは1か月(1日)の介護時間が優位に減少されたということです。1日あたり平均90分減少させたそうです。
メマンチンはNMDA受容体に対するアンタゴ二スト(拮抗薬)で正常な神経伝達には影響せず、グルタミン酸によるNMDA受容体の過剰な活性化を抑制する作用があり、持続的な電気シグナルが発生し、神経伝達シグナルを隠してしまう(シナプティックノイズ抑制)効果があるそうです。主として以下の症状に有効であるようです。
1) 会話がうまくできない(言語障害)
2) ささいな事で怒り出す(攻撃性)
3) 落ち着きがない(易刺激性)
4) 家の中を動き回る、目的不明な外出行動(行動障害)
60~70歳で発症する、典型型のアルツハイマー(ATD)では進行ステージにかかわらず、1)~4)の症状はほとんど出現しません。しかし60歳以下/75歳以上で発症するATDでは前頭葉症状が強い非典型的タイプが少なくないようですので、しばしばこの薬剤が有効です。礼節や対人関係は維持できているが、精神症状や行動心理症状が日常的にみられるタイプです。
しかし、それ以上に有効なのは前頭側頭型変性症(FTD)の意味性認知症、行動障害型だと思います。超重症ステージでほとんど会話困難、外来診察時も常同行動、使用行動、反響言語を繰り返しているレベルのFTDでも有効性が高い事が数例で確認できました。脱抑制症状や常同行動が顕著なために、日常生活動作が全て介助というレベルの方々や易怒・興奮性が強く介護抵抗があるレベルの方が多いのですが、これらの症状に対してメマンチンは5~10mgで有効のようです。一度中止して再開、効果の再現性を確認しました。超重症レベルFTDのBPSDに対して再現性効果があるため、プラセボ効果の可能性は限りなく低いと推定されます。
臨床診断である、意味性認知症(語義失語)、行動障害型(脱抑制行動・常同行動)というのはある程度有意義だと考えます。ATDと違うポイントとしては場所や環境を問わず、このような病的ニュアンス(外来受診する態度としての違和感)が外来診療で確認できるかが、ポイントだと思います。
脱抑制行動、常同行動、興奮性・易怒性に対して、安易に抗精神病薬を使用することを奨励することについては、個人的には反対です。以前のブログにも書きましたが、理由は少量でも厄介で危険な副作用が起こりうる事です。特に少量でも長期間(1年以上)継続された場合はかなりの確率で副作用が起こります。コリンエステラーゼ阻害薬と併用した場合はさらに高率になると推定されます。多くは姿勢異常、不随意運動、動作歩行障害、心臓不整脈、精神症状の悪化などです。長期使用によって耐性化もしやすく、効果が減弱しやすいのも問題です。開業して2年以上、認知症に対していくつかの抗精神病薬を試してきましたが、この薬はコリンエステラーゼ阻害薬同様、安心して使える薬ではないという事を再確認しました。クエチアピンが最も有害事象が少なかったという印象ですが、その他の薬剤は長期使用(屯用使用ではなく継続使用)で何らかの有害事象や奇異反応(精神症状の悪化)などで脱落しました。高齢のフレイル的な女性においてはクエチアピンに対しても忍容性がないケースもありました。まだ医者として駆け出しの時期に、ハロペリドールやクロールプロマジンによる悪性症候群を多数診てきましたし、今でも前医の安易な抗精神病薬処方による被害者、姿勢異常、不随意運動、動作障害などで悲惨な状態に陥っている方々をフォローしていますが、このような悲惨な状態を診るたびに怒りがこみ上げてきます。
80歳以上の認知症では、FTDに病態の類似したAGD(グレイン、嗜銀顆粒球性認知症)が半数近くにみられます。通常はこれらの症例には、ガランタミンまたはメマンチンをまず使用することからスタートして、効果不十分の場合はチアプリドを処方しています。チアプリドでは用量・使用期間で軽度のパーキンソニズムが時にみられるケースがありますが、それほど深刻な有害事象は少なく、早期の減量・中止などの対応で回避できます。悪性症候群の事例は20年間で1例も診ていません。ただし薬剤の効果には個人差が大きく、制御不可能な症例も少なくないようです。
ただ一つはっきり言えることは、メマンチンは抗精神病薬やコリンエステラーゼ阻害薬よりは安全性が高いという事ですので、年齢を問わず行動心理症状に対しては、まず最初に試すべき薬剤だと思います。ただし、PDD/DLBに対しては、嗜眠・傾眠性が強まってしまう症例があるので注意が必要です。


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by shinyokohama-fc | 2016-12-20 19:03 | 治療

横浜認知症セミナー/平川先生の講演

一昨日、12月14日水曜日に、新横浜駅前の新横浜グレイスホテルにおいて、「横浜認知症セミナー」が実施されました。「認知症診断のポイントと治療のコツ」というタイトルで、誠弘会池袋病院の副院長、脳神経外科医の平川亘先生の特別講演がありました。座長は済生会横浜市東部病院の神経内科部長の後藤先生が務められました。
平川先生は、病院で脳神経外科の救急医療・入院管理などの業務をこなしながら、外来で莫大な症例数の認知症患者を20年前から診療してきたDrです。元々高次脳機能学を専門にされていたので、認知症の診療には抵抗はなかったのかもしれませんが、コリンエステラーゼ阻害薬の3種類の薬剤を様々な用量で様々なタイプの認知症患者に試されて、その経験を統計処理しておられます。いわば単独で大規模臨床試験をしているようなものなので、その仕事ぶりには非常に驚かされます。単発の症例で薬物治療がまぐれ当たりで効いたという話ではないので、非常に説得力があります。この大規模臨床試験をベースにした講演を首都圏各地で行っていて、新横浜では10月15日に続いての講演でした。平川先生は私がいつもブログで書いている、コリンエステラーゼ阻害薬の危険性を誰よりも熟知されているので、コリンエステラーゼ阻害薬の少量投与を昔から試しておられます。一番驚いたのは、リバスチグミン4.5mgを1/4にカットして1.125mgで使用するというものです。初めに聞いたときは???と思いましたが、実際に重度の認知症の高齢者でアパシーが強く、食事を食べない人にリバスグミン1.125mgで試してみると、確かに食事を食べるようになったのです。平川先生のこの薬の使い方としては、記憶を良くする目的でも進行を遅らせる目的でもなく、今もっとも困っている症状を改善するという事に主眼を置いています。講演では「認知症は治らないが、元気で機嫌よくいてくれたらいい」という言葉で結んでいます。
私は今年の3月の「認知症治療研究会」で開演前に40分ほど話し込んだのが平川先生との初めての対談でした。それ以後、平川先生の臨床医としての姿勢や薬物療法の理念に感銘を受けて、意気投合しました。今年も様々な講演会の情報交換会やメールなどで交流を重ねさせていただきました。10月15日の新横浜の講演会もお願いすると快く引き受けていただきました。「今の認知症の薬物治療はおかしい」と言っておられます。初めて講演を聞いた医者はほぼ全員「衝撃を受けた」「価値観が変わった」と口にします。
認知症を含めた神経変性疾患を本当の意味で「治す」治療は存在しませんし、現存の薬物治療でやれることも期間限定の「対症療法」に限られています。それを認めたうえで、私は薬物治療の強制的な推進は好ましくないと思っています。例えば「意味性認知症/前頭側頭型認知症」という疾患では、ドネぺジル(保険適用外)の薬剤を3~5年内服していた患者を4~5名診ましたが、全例で常同行動や反響言語、脱抑制行動が顕著に重症化していました。おそらくリバスチグミンなど他の薬剤でも同じ結果が起こったと推定されます。つまりこのタイプにはコリンエステラーゼ阻害薬を使用してはいけないのです。「認知症であれば、誰でも彼でも同じような標準量のコリンエステラーゼ阻害薬を処方してればいい」と考えて診療にあたっている専門医が多いという現実があります。コリンエステラーゼ阻害薬の3種類が全く違う性質があるという事実が知られていないようです。


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by shinyokohama-fc | 2016-12-16 12:32 | 治療

コリンエステラーゼ阻害薬の大規模副作用分析

原著論文; kroger E,et al.Ann Pharmacother. 2015; 49: 1197-1206
すでに1年前の報告ですが、なぜかどこにも取り上げられす、アナウンスされなかったのは何故でしょうか?
カナダのラバル大学のKrogerらはWHO国際医薬品モニタリングにおけるコリンエステラーゼ阻害薬関連の副作用を分析したそうです。「フレイル患者や多剤併用薬使用患者の場合は、コリンエステラーゼ阻害薬を開始する前に副作用の可能性について検討する必要がある」と結論つけています。
1998年~2013年まで世界中から報告されたすべてのコリンエステラーゼ阻害薬(ドネぺジル、リバスチグミン、ガランタミン)の関連する副作用に関して分析しました。主な結果は以下の通りです。
58か国から計18,955件の報告、男性40%女性60%、平均年齢77.4歳。欧州47.6% 北米40.4%
ドネぺジルとリバスチグミンがそれぞれ(それぞれ41.4%)、ガランタミンは17.2%
副作用の内訳は精神神経系障害31.4%が最多で、胃腸障害15.9%、全身障害11.9%、心血管障害11.7%
2006~2013年の報告はより重篤な副作用が多かったようです。
精神神経系障害34%が最多で、全身障害14.0%、心血管系障害12.1%、胃腸障害11.6%
死亡例は全体の2.3%
以上が真実だとすれば、コリンエステラーゼ阻害薬は、抗精神病薬並みのハイリスクな薬剤だということになりますし、抗精神病薬と併用すれば、精神障害、心血管障害が起こる確率が非常に高いと推定されます。
私自身が実臨床で実感していた副作用がこれで納得できました。75歳の高齢者になれば、アルツハイマー型に混合して他の疾患も混在してくるため、特にPDD/DLB混合型などに関してはこれ以上に副作用率が上がると推定されます。PDD/DLBを対象にしたコリンエステラーゼ阻害薬の副作用の実態もぜひ知りたいものです。
老年系・神経系の各学会や高名な専門医が、その安全性について検証することなく、やみくもにコリンエステラーゼ阻害剤を推奨するという理由は何でしょうか?よく考える必要があります。安全性という観点から考えれば、コリンエステラーゼ阻害薬の少量投与以外に、メマンチンの単独使用という選択枝も推奨され、再評価されるべきではないでしょうか?安全性を第一に考えれば明らかに今の抗認知症薬の使い方はおかしいと思われます。


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by shinyokohama-fc | 2016-12-12 19:16 | 治療
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