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抗精神病薬の死亡リスクを知っているか?

「抗精神病薬の死亡リスク」
認知症患者を対象に抗精神病薬を使用したグループと使用しなかったグループで180日間の死亡リスクを比較した大規模コホート研究があり、それぞれの抗精神病薬の死亡リスクの増加を示した結果が示されました。
ただし、この研究では認知症の重症度と行動心理症状の重症度に関する情報が不確かで、二重盲検試験ではないようです。

JAMA Psychiatry 72(5):438-445, 2015 「認知症のある患者群における抗精神病薬の死亡リスク」
1)ハロペリドール ; A(3.8%) B(26人)
2) リスぺリドール ; A(3.7%) B(27人)
3) オランザピン ; A(2.5%) B(40人)
4) クエチアピン ; A(2.0%) B (50人)
A) 死亡リスク上昇率、B) 1人の死亡が生じるまで何人が投薬を受けるかを示す指数(数が少ないほど危険)

ハロペリドールとリスぺリドンのリスク(危険性)が群を抜いて高いことがわかると思います。
私の臨床経験では、この2つの薬剤は悪性症候群の発生率が高い、すなわち薬剤性のEPS(錐体外路症状)が非常に出やすい薬剤だと言えます。

悪性症候群というのは、わかりやすく言いますと、急速に全身の筋肉がガチガチに固まってしまい、まったく関節が動かない状態になる、あるいは38~40度の高熱が出る、意識がもうろうとなる、という状態です。
それ以外にも、心臓の致死的不整脈が発生しやすく、心臓突然死が多いという報告が昔から言われています。

クエチアピンに関しては、この薬剤性のEPS が比較的少ないと言われていて、PDDやDLBの幻覚・妄想を抑制する薬剤として、認知症学会、神経学会、パーキンソン病学会などが推奨していますが、やはりリスクがあることに変わりはないので、介護者・家族にリスクに関する十分な説明を行い、同意・承認を書面で得ることが必要だと考えます。

「認知症の行動心理症状に対する抗精神病薬の使用は、専門医によることが望ましい」と治療ガイドラインには書かれているようですが、専門医というのは「認知症学会」「老年精神医学会」なのか?「精神科学会」なのか?「神経学会」なのか?どれを指すのかよくわかりません。

一口に行動心理症状と言っても、ATDか、DLBか、PDDか、FTDか、AGDか、PSPS/CBSかでまるで違います。個人的には使っても危険性が低いと言えるのは、75歳以下のATDだけです。
特に危険なのは、DLB、PDD、AGD、PSPS/CBSです。前者は抗精神病薬に対する過敏性があるという事で有名ですが、実は後者も前者以上に過敏性があるという事はあまり知られていません。
また若年発症のFTDに関しては抗精神病薬はほとんど効果がありません。

それゆえ、抗精神病薬を安全に使える認知症症例はほとんど存在しないという事になります。
「ベネフィットとリスクを天秤にかけて総合的に判断せよ」とほとんど現場丸投げの姿勢ですが、私の経験では抗精神病薬の使用によるベネフィットはほとんどないと言えます。効果も2~3か月くらいしか続かず、根本的な解決にはならずです。特に長期使用によるデメリットは計り知れないものがあります。

長期使用で問題になるのは、悪性症候群以外に、嚥下障害、動作歩行障害、姿勢異常⇒転倒、不随意運動などです。
年齢を重ねれば、病気は進行して、正常な神経細胞が減っていくのですから、副作用の出現が避けられないものになるというのは自明の理なのです。それゆえ原則的に短期間の使用にとどめるべきなのだと思います。

最近も薬剤性EPSが少ないと言われているアリピプラゾールですら、わずか1~2mgで歩けなくなったDLBと思われる症例がありました。83歳の女性です。元々脳卒中があり、左片麻痺で杖歩行している方でした。使用目的は幻覚を抑えるためでしたが、デイケアに行けば幻覚はなくなるそうです。脳卒中とか頭部外傷などの既往のある方は特に危険です。

現在、日本には安全に幻覚を抑えられる薬は存在しないと思います。最も幻覚を抑える作用の高い、抗精神病薬はハロペリドールですが、上記のとおり、死亡リスクが高いので、私は処方する事はほとんどありません。
幻覚を抑えるためには、幻覚を起こす原因の薬をやめる、減らすことがまず第一ですが、相変わらず幻覚を誘発しやすい薬剤があちこちで処方され続けているのが現実です。

かなり以前のブログで紹介した、ピマヴァンセリンという薬が幻覚を抑える薬としては現存する薬としては最有力ですが、残念ながら、日本でこの薬が認可されるのはいつになるのか?というのが現状です。
本来禁忌的な薬である抗精神病薬にいつまで頼らなければならないのか?今後は80歳以上の高齢者が激増して、AGD 、PDD、DLB、PSPも増えそうな現状を考えればかなり心配です。

次回のブログでは、幻覚を起こしやすい薬剤について紹介しようと思います。
今われわれにできる事は、高齢者、特に認知症などの神経変性疾患、脳卒中後の方々に対して幻覚をおこしやすい薬を極力使わないという事に尽きると思います。



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by shinyokohama-fc | 2017-12-09 17:29 | 治療

身体診察されずスルーされていた重大な病気

今回のブログは、四半世紀(25年)、臨床神経の診療に従事してきた、一介の臨床医として、あまりにも看過できないエピソードであったので、ここに紹介することにしました。
61歳の女性で2~3か月前から右足がガクガクするという自覚症状で、1週間前に当院を受診されました。
これまで、地元の脳神経外科のクリニック、整形外科のクリニック、内科のクリニックを受診されており、当院が4件目の受診でした。1件目の脳神経外科では、身体診察されずに頭部MRIで脳画像の検査診断だけで、異常なしと言われて終わり、2件目の整形外科でも、身体診察されずに腰椎レントゲンの検査診断だけで、異常なしと言われて終わり、3件目の内科を受診したが、わからないので「神経内科で診てもらえ」と言われて受診されました。
まず歩行を観察すると完全に「痙性対麻痺(両下肢の筋肉がつっぱるため、膝関節がスムーズに曲げられない状態で歩く)」の歩行で、かなり歩きにくそうでした。ベッドに寝かせて診察してみると、両下肢の膝蓋腱反射とアキレス腱反射が明らかに亢進しており、両足にバビンスキー反射(足の裏の外側を下から上へ縦にこすると、母趾が背屈する反応)が顕著に見られ、両足の足間代・クローヌス(足関節を他動的に動かすと連続性にガクガクした動きが起こる)、両下肢とも伸展位から屈曲位で折り畳みナイフ現象(膝関節を屈曲するときに抵抗)がありました。
20~30歳くらいの若年者でこのような所見がある場合は、遺伝性の痙性対麻痺をまず考えますが、通常、60歳以上になってから、このような症状が出現するとは思えず、常識的に考えると、脊椎の病気による外的な脊髄の圧迫によるものか、九州南部出身者に多いと言われている、HTLV-1というレトロウイルスによる脊髄症かいずれかだと推定されました。後者は関東在住の方では非常にまれですので、前者であろうと推定したので、脊椎手術も可能な脊椎外科が専門のクリニックに紹介しました。
頸椎MRI/CT/レントゲン検査が実施され、頸椎レベルの「後縦靭帯骨化症(OYL)」による脊髄症と診断されたようで、「頸椎椎弓形成術」の手術予定との事でした。紹介した者としては、おおよそ診断が予想通りであり、手術で改善が見込める病状であったという事でとても安堵しました。
知っている方は当然ご存じとは思いますが、今回のケースは本来、脳神経外科や整形外科で診断されなければならない病気・病状でした。あれだけ病的な歩行障害があるにもかかわらず、身体の診察が全くなされずに、まったく的外れの検査がされて「異常なし」として終わらせるとは、一体どういうことなのか??と感じました。
私が近年感じることは、20年前とは違って、MRI やCTなどがかなり普及しており、そういう検査機器を所有しているクリニックが当たり前になりつつあるようです。検査を目当てに患者が来る(検査で異常なしと言われて安心したい患者が多い)という側面もあるようです。日本では健康保険制度のおかげで、諸外国よりはるかに手軽にCTやMRIの検査が可能です。近年はクリニックでもこういう高性能な検査が当たり前にできるようになって、その反面、今回のように医者が身体診察を一切せずに的外れな検査をオーダーして検査結果だけを見て診断しているケースが非常に多いという点が非常に気になります。
私がよく取り上げるテーマである、パーキンソン病やアルツハイマー病などの脳神経変性疾患にしても、大病院だと、医者は簡単な質問(問診というレベルには程遠い)をするだけで、神経心理検査、MRI検査、核医学(シンチグラフィー)検査をオーダーして、その結果を2回目の診察の時に、電子カルテのPCモニターで確認して結果を確認して、それだけを元に診断した結果を伝えるだけ。そういう外来診療が少なくないようです。かつて「ベッドサイドの臨床神経学」と言われた、基本的な神経診察である、ベッドに寝かせたり、手足を動かしたり、ハンマーを叩いたり、歩かせたりとか、身体診察は一切せず、患者さんに指一本触れることはなく診察が終わるという事も少なくないようです。当院に来た患者さんやご家族からそのような話をよく聞かされます。この2~3年で検査結果だけを妄信したが故の大病院による明らかな誤診ケースも数多く診てきました。一つの要因としては、大病院の外来に患者が殺到しすぎているという日本独自の状況もあり、とても身体診察に時間を割く余裕がないのかもしれません。
検査偏重主義により、身体診察が軽視されての、今回のような重大な病気の見落としというのも本末転倒ではないかと思います。特に神経を診るエキスパートであるはずの、脳神経外科医、整形外科医、神経内科医が身体診察をしないというのは常識では考えらえない事です。せめて医者であれば最低限の身体診察くらいはしてほしいものです。


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by shinyokohama-fc | 2017-11-09 19:13 | 治療

意味性認知症の症例発表

先日、東京都内で行われた認知症に関する研究会で、講演をしました。私が経験した、意味性認知症の2つの症例を提示して、それぞれの症例に対する前医での薬物処方、当医での薬物処方とその転帰についての反省を含めた考察を行いました。当日は台風が直撃するという予報で大雨の悪天候の中を30人程度の、医療関係者、患者家族の方々がお越しになられました。
私が今回話したような「意味性認知症」というテーマの講演はなかなかないという事で、前頭側頭型変性症の患者会の方3名が、私の講演を聴く目的で来られたようです。
患者会の方々から、配偶者やご兄弟である患者さんの話を訊いてみて、神経難病の介護の切実さと薬物療法による症状の増悪の深刻さが改めて痛感させられました。
このような話を訊いてみて、今後はFTDよりも多くの症例を診ている、「レビー小体型認知症(DLB)」「認知症を伴うパーキンソン病 (PDD)」「進行性核上性麻痺 (PSP)」「大脳皮質基底核変性症(CBD)」という病気に関して、患者側・介護側に向けての講演活動の必要性を痛感させられました。
このブログでもずっと書いてきた事ですが、意味性認知症、行動障害性、ピックコンプレックス系のPSPやCBDに対してドネぺジル、リバスチグミン、抗精神病薬 (クロールプロマジンなど)を使うことによって病状悪化したという報告が訊かれました。
後日、メールにて上記のうちの2名の方々の病状経過を詳細に訊いたのですが、嚥下障害、運動障害がかなり進行して重症化しているようでしたので、おそらくPSPサブタイプだと推定されました。
PSPは様々なサブタイプがありますが、私が診てきた症例で言いますと、100例中10~15例程度が、FTD的な症状(語義失語、行動異常、脱抑制、アパシーなど)で発症する症例があり、初診時は運動障害がほとんど目立たないので、FTDと診断するしかないのですが、1~2年のうちに急速にPSPあるいはCBD的な運動症状が進行してしまい、立って歩くことができなくなります。この2例もそういう経過のようでしたが、頭部打撲や上記に挙げた薬の副作用によって悪化した側面もあるようです。PSPは前頭葉~側頭葉を中心とした大脳皮質広範囲にタウ蛋白質がたまる病気ですが、頭部打撲によりタウ蛋白質がカスケードで拡散することが知られています。私も数例経験しましたが、硬膜下血腫まで起こしてしまった症例の機能予後は特に悪いようです。
FTD的症状の場合は、精神科にかかることが多いのですが、次第に運動症状が出てきて、精神科から私の外来へ変わってくるケースが多いようです。最近は70歳以上の高齢者の急増に伴って、このようなピックコンプレックスのPSP、CBDの症例が急増しています。
私がFTDに抗精神病薬を原則NGにしている理由はまさにここにあります。現在はFTDよりもPSPやCBDの有病率のほうが高いからです。この3年、FTD様症状で初診で来られた方のうち、半数以上がPSPやCBDのような運動症状が出現して1年以内に重症化していくという転帰をとりました。
PSPやCBDではコリンエステラーゼ阻害薬(ドネぺジルやリバスチグミン)と抗精神病薬(リスぺリドン、ハロペリドール、クロルプロマジンなど)で著しく病状が悪化します。その悪化具合はDLBやPDDよりも顕著で、原因薬剤を中止しても不可逆的である事が多いです。これは、PSPやCBDでは、中脳のドパミンニューロン、セロトニンニューロンなどの障害程度が、DLBやPDDをはるかにしのぐレベルだからです。これはある病理学者の書いた書籍に書いてありまして、2年前にそれを知りました。いろいろ使ってみて、少なくとも病状を悪化させない神経作用薬はアマンタジンなど限られた薬だけである事がわかりました。つまり、アマンタジンだけを服薬して、他の薬を使わなければ少なくとも薬による病状悪化は防げるであろうと思います。先日のブログで書いたようにPDDという病態もそうです。PSP、CBD、PDDに使える薬はかなり限定されていますが、それが知られていない、正しい臨床診断が難しく、適当に薬を試されてしまうという点が予後をさらに悪くしているのであろうと思います。


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by shinyokohama-fc | 2017-10-31 19:31 | 治療

ドパミンアゴニストは若年者PDには有用

ドパミンアゴニストの中では、ロチゴチン(貼付剤)がドパミン受容体に均等に作用すると言われています。私が診ているパーキンソン病の方でも、50台前半と40台半ばの男性にこのロチゴチン(貼付剤)を使用しています。2名とも発症して5年以内にウェアリングオフ(レボドパの効果が短くなってしまい、持続時間が短くなる現象)が出現してしまっている難しいケースです。通常はウェアリングオフは発症して10年で出現するので、かなり早いです。
ドパミンアゴニストの利点は、ウェアリングオフを軽減する以外に、抑うつを軽減する効果もあります。以下の症例は副作用のためにドパミンアゴニストを漸減中止して、ウェアリングオフ現象と抑うつが顕著に現れた症例です。
40台半ばの男性。3年前から動作が緩慢で、日内変動が顕著で、時間帯によって動作歩行ができなくなっている方です。静止時振戦(じっとしている時の手のふるえ)は全く出現しておらず、無動固縮型です。
1) レボドパ・カルビドパ100mg×1日2回、
2) ロピニロールCR (徐放型)8+2mg、1日1回
3) セレギリン5mg、1日1回
当院へ来られたきっかけとしては、①仕事中の突発性睡眠(突然眠くなる) ②衝動制御障害(病的賭博) ③立ちくらみでした。①②はドパミンアゴニスト(ロピニロール)の副作用、③はセレギリンの副作用と推定されました。
初診時の血圧測定では、座位~立位1~3分で血圧が段階的に12mgまで低下する傾向があったので中止。
特に①に関しては高所作業の仕事が危険でできない ②に関しては、ドパミンアゴニストを中止しないと収まらないと言われていますので、10→6→4→0mgと段階的に漸減して中止しました。その一方でレボドパを1日300mgとして、6回分割で服用としました。当時の当院の処方は以下のとおりです。
1) レボドパ・カルビドパ 50mg×1日6回
2) イストラデフィリン 20mg 1日1回
しかし、いざドパミンアゴニスト(ロピニロール)を中止してみると、レボドパの効果が1時間しかもたなくなり、日常生活や仕事に支障が出てしまいました。そのためにイストラデフィリン20mgを追加しましたが、ウェアリングオフの軽減にはほとんど効果がありませんでした。さらにそれまでなかったアパシー(何もやる気が起こらないという症状)が顕著に現れてしまいました。②の副作用があったため、本来はドパミンアゴニストを使用するのは適切ではないと考えていましたが、ドパミンアゴニストをロチゴチンに変更して4.5~9mgで開始しました。するとウェアリングオフ現象による無動状態はいくらか軽減し、アパシーの症状も軽減したようです。修正後の処方は以下のとおりです。
1) レボドパ・カルビドパ 50mg×1日6回
2) ロチゴチン 9mg /1日
ドパミンアゴニストはこの症例のように、比較的若年(40~50歳)発症で、無動型で、ウェアリングオフが強い症例にはかなり有用であると再確認できました。前医で処方されていた、ロピニロール10mgというのは、ロチゴチンに換算すると22.5mg相当ですので、ロチゴチン9mgですでに十分な効果が実感できる方にとっては、いささかオーバードース(過量)ではなかったかと考えられました。ドパミンアゴニストは少しでも過量であれば高率に副作用が出やすい薬です。
超高齢化社会で、70歳以上の高齢者が激増した昨今では、パーキンソン病も高齢者の比率が高くなっており、私の診ている方々も、多くは70歳以上です。このような高齢者で、認知機能が大なり小なり落ちているケースにおいては、ドパミンアゴニストは幻覚、妄想、精神錯乱、嗜眠、せん妄などを引き起こすだけのメリットのない場合が多く大半の症例で中止して、アマンタジンなどの別の薬剤に置き換えざるをえない状況でした。
ドパミンアゴニスト・ファーストという学会の提唱している治療薬の使い方というのは、40~50台のパーキンソン病患者さん達には合っていますが、70歳以上のパーキンソン病患者さん達、特にPDDには合っていません (前ブログ「PDDにドパミンアゴニストは百害あって一利なし」を参照)
ドパミンアゴニストという薬は症例をよく選んで、副作用が出現しない程度の適正な用量で使って、生きる薬だと思います。しかし、現実は不適切な症例(高齢者のPDやPDD)に使用されてひどいせん妄、精神錯乱をきたしていたり、今回の症例のように薬の用量が多すぎて、仕事に支障をきたすケースが多くみられるようで、非常に残念です。
「薬は使い方、使用量を間違えれば毒にもなりうる」という格言を証明するのがこの薬だと思います。パーキンソン病の患者さん達とご家族はこの薬の効果と副作用について十分な知識が必要なのではないでしょうか?


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by shinyokohama-fc | 2017-10-28 16:35 | 治療

「失敗しない」高齢者のPDD(認知症を伴うパーキンソン病)の服薬とは

この数か月のブログのまとめになりますが、日常的に、高齢者(目安は70歳以上)のパーキンソン病(PD)、特に認知症を伴うパーキンソン病(PDD)の服薬において、この1年間で他の医療機関での多くの失敗処方例を見てきて、感じてきたことをブログに書いてきました。「失敗しない」高齢者のPD,PDDの服薬とは何か?というテーマに対してある程度の結論に近いものがまとまったので、以下に箇条書きで示します。
ただし、これは学会の発表している「パーキンソン病治療ガイドライン」とは異なる内容であり、科学的根拠もエビデンス(EBM)もない、学術的実績もない一介の開業医の個人経験的なものにすぎず、学術的には何の意味もなさない内容であることをお断りしておきます。
「失敗しない」高齢者PDD(認知症を伴うパーキンソン病)の処方薬の原則とは、

1) アマンタジンは少ない量で服用したほうがよい、できれば増やさない
2) レボドパ配合剤は少ない量で服用したほうがよい、できれば増やさない
3) ドパミン・アゴニストは服用しないほうがよい
4) コリンエステラーゼ阻害薬は服用しないほうがよい
※ アマンタジン(シンメトレル)
※ ドパミン・アゴニスト;プラミペキソール(ビ・シフロール、ミラペックス)、ロピニロール(レキップ)、ロチゴチン(ニュープロ)、カベルゴリン(カバサール)、ブロモクリプチン(パーロデル)、タリペキソール(ドミン)、ぺルゴリド(ペルマックス)
※ レボドパ配合剤; レボドパ/カルビドパ(メネシット、ネオドパストンなど)、レボドパ/ベンゼラシド(マドパー、イーシー・ドパール、ネオドパゾールなど)
※ コリンエステラーゼ阻害薬; ドネぺジル(アリセプト)、リバスチグミン(リバスタッチ、イクセロン)、ガランタミン(レミニール)

いろいろ試してみましたが、PDDに最適なのは、アマンタジンとレボドパ配合剤の併用ですが、PDDの初期、軽度の場合はアマンタジンだけでも著効する場合が多いようです。レボドパだけだとたとえ少量(100~150mg)でも日中の眠気が強くなり、覚醒度が悪くなる、効果が乏しいケースが多いようです。アマンタジンを50~150mgの範囲では、単独使用では他の治療薬でみられるような幻覚、妄想、錯乱、日中の過眠、せん妄、などはほとんど見られません。精神症状が出るのは200~300mgだと推定されますが、そこまで増やす事はまずありません。なぜなら50~150mgで著効するからです。
しかし、昨今の神経内科の臨床医の処方を見るかぎり、アマンタジンを使う臨床医はほとんどいないようです。失敗例のほとんどは、ドパミンアゴニスト・ファーストで開始されて、レボドパやら他の治療薬を2~3追加しても、ちっとも良くならず、認知症か精神症状が悪化してしまうケースがほとんどです。このような症例でもレボドパ配合剤以外の治療薬を漸減・中止して、アマンタジンに入れ替えると上手くいくようです。
パーキンソン病においては、コリンエステラーゼ阻害薬が前医で処方されている多くの場合、パーキンソン治療薬が3~4種使われた上にコリンエステラーゼ阻害薬が上乗せされるケースがほとんどですので、PDDにおいてともに枯渇状態にある上の、ドパミンとアセチルコリンなどの神経伝達物質の動向が、神経系薬剤の多剤併用(ポリファーマシー)によって非常に複雑で想定外の事が起こります。特に運動症状(特に姿勢異常)の悪化、精神症状の悪化などが高い確率でみられます。それをさらに薬で抑えようとするという悪循環に陥りやすいのです。
コリンエステラーゼ阻害薬を開始して2~3か月は調子よくても、数か月~半年くらい経過すると姿勢異常が悪化する症例がほとんどです。特にドパミンアゴニストとの併用ケースでは姿勢異常は必発と言ってもいいでしょう。
現状はドパミン・アゴニストとコリンエステラーゼ阻害薬は非常に好んで使われていますが、アマンタジンは全く使われていません。アマンタジンを開発した製薬会社も販売権を売り渡してしまったようで、この薬は完全に過去の薬扱いです。しかしパーキンソン病の年齢層のピークが統計によると70歳半ば~80歳であるという現実を考えると
PDD予備軍が今後増えることは確実であり、アマンタジンはむしろレボドパより重要な薬になってくるのではないかと考えています。
70歳の高齢で発症したパーキンソン病や長期間罹患したパーキンソン病は認知症に移行しやすいという事には異論はありませんが、高齢発症だから、長期罹患しているから、みな認知症に移行するのか?と言えばそれはNOです。
90歳で発症しても、20年以上罹患しても、認知症ではない、純粋なPDの症例も私は診ています。純粋なPDに対しては必ずしもアマンタジンは必要ではないと考えます。
認知症と精神症状(幻覚、妄想、錯乱)は比例して起こるのか?というとそれも違う事がわかります。認知症と言っても程度や質が様々であり、大脳皮質のどれくらいの領域・範囲のコリン作動性神経が障害されているのかによって全く症状が違ってきますし、精神症状に関しては(大脳)辺縁系のドパミンとコリン作動性神経の障害の程度に左右されると思われます。大脳皮質の神経障害が強くても辺縁系の神経障害が軽い場合は、認知症が強くても精神症状が目立たず、逆の場合は、精神症状が強くても認知症が目立たないという場合もあります。高齢者の場合はこのように症例によってヴァリエーションが非常に大きいという事もあり、ドパミン・アゴニスト、コリンエステラーゼ阻害薬のように受容体に強く作用する薬は忍容性に問題があるので、できれば避けたほうがいいというのが私の考えです。ドパミン・アゴニストもコリンエステラーゼ阻害薬も高齢者のPD、PDDに使うのは大変困難な薬だと言えます。「失敗しない」ためには、最初からこの2つの薬は使わないほうが賢明ではないかと思います。


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by shinyokohama-fc | 2017-10-13 12:42 | 治療

ドパミンアゴニストはPDDには百害あって一利なし

この1年はドパミンアゴニストでひどい副作用に至ったPDDの症例がクリニックに多数訪れました。1か月前に来られた、かなりひどかった症例を以下に提示します。
75歳男性、10年前から歩行障害で総合病院の神経内科へ通院。主な運動症状はすくみと加速・突進の反復歩行で筋固縮は軽度、静止時振戦(ふるえ)も軽度、自立歩行はできるので、ヤール3度でした。
一見、普通のパーキンソン病(PD)に見えたのですが、字を書かせてみて驚きました。住所を書いてみると漢字6文字書くのに3~4倍くらい時間がかかり、まともな字が書けず、神奈川の川の字を飛ばしてしまう状態でした。時計を描かせてみると、数字と数字の間隔がバラバラで、12という数字を2つ書くことになってしまいました。高額な核医学検査ではなく、こういった医者でなくてもできるような単純作業をやらせてみて観察する事が何よりも大事だと思います。もし可能であれば、診察に来る前に同居しているご家族が自宅で実践して、紙に書いたものと携帯電話で録画したものを診察時に提示してもらえれば診察の時間も節約できるのではないかと思います。

総合病院の神経内科医からの処方は以下のとおりでした。神経内科医の診療は1年に1回にされており、通常はかかりつけ医の診療所でまったく同じ処方されていました。
1) レボドパ・カルビドパ配合剤(100mg)3錠
2) トリへキシフェニジル(2mg)1錠
3) カベルゴリン(1mg)1錠
4) プラミペキソール(0.125mg)6錠
5) マグネシウム(330mg)6錠
6) ファモチジン(20mg)1錠
7) リバスチグミン(9mg)1枚/日

まず75歳にもかかわらず、3)4)と新旧のドパミン・アゴニストが2種類も処方されているのには驚きました。3)は旧型(麦角系)ドパミン・アゴニストの中では、心臓弁膜症の発症率が最も高いと報告されている薬で、4)も3種類の中ではD3受容体に対する作用が強力であるが故に、高齢者では副作用が出やすいので控えるべき薬だと認識しています。 ドパミン・アゴニストという薬の問題点については以前のブログ内容を参照ください。
ふるえ(振戦)を抑える目的でと思いますが、2)抗アセチルコリン剤が処方されています。これも75歳という年齢では認知症、精神症状のリスクが高い薬なのでよほどの特別な理由がないかぎり使うべきではない薬です。
また残念なことにマグネシウムがレボドパと同じ時間帯に処方・服用されています。これではせっかくのレボドパもほとんど有効に吸収されていないのではと推定されました。
さらにファモチジン(抗ヒスタミン剤)が処方されています。近年、老年医学会のストップ対象でもある、漫然と服用すればヒスタミンの過剰抑制によって、せん妄や認知機能低下を誘発しかねない薬です。
リバスチグミンが9mgで処方されてたという事は、処方薬を決めた医者に、この方が「認知症」であるという認識があるのだと思います。

この方が私のクリニックに来られた理由としては、睡眠覚醒リズムが破綻しており、夜間の異常行動が顕著で、一日中、ひどい幻覚と妄想があったという事で、配偶者(奥さま)のストレスが大変なものでした。このような精神症状というのは、介護者をかなり疲弊させます。かかりつけ医は専門ではなくて、神経内科医(専門医)も1年に1回しか診ないとの事で、何も有効な対処がされず、見かねた家族の勧めで来られました。
診察した時は、意識ははっきりしていましたが、右手のふるえ(静止時)があり、筋固縮(筋強剛)は全く確認できず、動作の遅さもそれほどでもありませんでした。ただ歩行時にすくみと加速の反復と突進が顕著にあったようです。一般的に、すくみと加速の反復に対する有効な薬物というのはあまりなくて、セレギリンが有効な場合があるという程度です。
明らかに薬剤副作用でこじらせて、病態が複雑化してしまった症例というのは、正直、臨床医としてはあまり関わりたくないというのが本音です。認知症を伴うパーキンソン病(PDD)の精神症状が悪化する場合の90%以上は、薬でこじらせた事例ではないかと思います。こじらせる原因薬剤として、この症例の場合はまず第1にドパミン・アゴニストの2重使用、第2に抗コリン剤、第3に抗ヒスタミン剤です。
第1段階(初診時)で、ドパミン・アゴニストであるカベルゴリンをニュープロに変更、プラミペキソールを1/6まで減量、トリへキシフェニジルを減量、抗ヒスタミン剤を中止としました。これによってかなり幻覚やせん妄は減少したものの、完全にはなくなっておらず、動作レベルも悪化していましたが、突進はなくなっていました。やはり突進はドパミン・アゴニストの過剰反応だと推定されました。相変わらず夜間まったく眠れないという事でした。
第2段階(再診時)で、ドパミン・アゴニスト(ニュープロ、プラミペキソール)は両方とも完全に中止して、全く有効に作用していると思えないコリンエステラーゼ阻害薬(リバスチグミン)も中止しました。その代わりに、朝にアマンタジン100mg(起床時)とクロナゼパム0.5mg(就眠前)を追加しました。PDDにおいてはレム睡眠行動異常(RBD)が高率にみられ、その上で薬剤によるせん妄状態が悪化しやすく、昼夜を問わず不穏状態になりやすいようです。せん妄を高率に起こしやすいドパミン・アゴニストを完全に中止する必要があり、夜間の興奮による就眠を妨げる可能性のあるコリンエステラーゼ阻害薬も中止する必要がありました。
アマンタジンはPDDにおいては、どの薬剤よりも副作用が少なく効果が大きい薬ではないかと思います。PDDではDLBと同じように日中の眠気(過眠)、覚醒不良が問題になりますが、この症状に対して最も有効なのが、アマンタジンだと思います。50~150mgの範囲では精神症状を悪化させる事はほとんどありません。クロナゼパムはベンゾジアゼピン系薬剤ですので、呼吸抑制の副作用があり、誤嚥性肺炎を誘発します(以前のブログ参照)ので、本来は好んで使う薬はありませんが、RBDに対しては他に代わる有効な薬剤がないので仕方なく使っています。
2回目の再診時には、精神症状やせん妄状態はほぼ消失し、動作も大きな問題はなくなったようです。最後に抗コリン剤を中止してから、再度、認知機能の評価をする予定です。
この症例の処方では、アセチルコリンを抑える薬(抗コリン剤、トリへキシフェニジル)とアセチルコリンを増やす薬(コリンエステラーゼ阻害薬)が同時に使われていました。どういう意図で処方されたのかは私には全く理解できませんが、典型的な薬剤カスケードと言えるのではないかと思います。PDDやDLBの症例においては特に相反する薬剤を使うという事は好ましくないと言えるでしょう。
この症例でお分かりのように、PDDに関しては、現在までパーキンソン病関連学会や認知症関連学会が作成した治療ガイドラインに基ついた、パーキンソン病の治療薬の使い方もレビー小体型認知症の治療薬の使い方では上手くいかない、むしろ、双方の治療ガイドラインを頑迷に推し進めると病態が悪化してしまう事例が多いというのが最近よくわかってきました。PDDはPDでもDLBでもないので、同じ薬の使い方はできないと思います。程度は症例によって違えど、脳幹も辺縁系も大脳皮質もコリン&ドパミン作動系神経障害が起こるため、障害をカバーできるエリア・神経細胞がほとんど残っていない厳しい病態と言えます。PDでは問題なく使える薬であるレボドパですら忍容性がなくて増量できない症例が多いようです。PDD独自の治療薬の使い方を考えるべきではないかと思います。


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by shinyokohama-fc | 2017-10-06 12:28 | 治療

PDとPDDを区別する簡単な方法

PD(パーキンソン病)、PDD(認知症を伴うパーキンソン病) 、DLB(レビー小体型認知症)
PD とPDDを区別できる方法は実に簡単です。まず字を書かせる事です。住所を書かせるとPDの方は小字傾向があるものの最後まで書けますが、PDDでは大きく崩壊した漢字になり、10文字書くまでに止まってしまう事が多いです。たった5文字書くのも時間がかかり一苦労です。図形模写も小さいだけでなく五角形が大きく崩れて五角形ではなく、かなりいびつな四角形になります。時計描画でも数字の間隔がおかしくなり、平面でも視覚失認がみられる事があります。字に関しては、動作歩行障害が目立たないDLBでもほとんど同じようになります。つまり字が書けないPDDとDLBでは大脳皮質のコリン作動系神経障害&ドパミン作動系神経障害が存在すると言っても過言ではないでしょう。ただし動作時の手の強いふるえ(本態性振戦か書痙)を伴うケースを除きますが。PDの場合は原則的に静止時の手のふるえで、動作時は止まる事が多いのです。
後はシリアル7と呼ばれる、100から7を5回連続で引いていく引き算です。PDDでは65まで正答できる人はまずいません。だいたい1回目か2回目で誤答になります。
以上の事は、医者でなくても、一般の人(介護者家族)でも実に簡単にできる事です。私のクリニックは画像検査機器を持たない、一介の診療所にすぎませんので、誰でもできるような単純な診察を愚直にやるしかないのですが、こういう誰でもできる事をやる事が診断の重要な参考になるという事をこの2~3年でようやくわかってきました。恥ずかしながら病院勤務時代に外来診療やっていた時にはわからなかったのです。つまりPDとPDDの区別など考えた事もなかったわけです。
PDDの方はパーキンソン病の運動症状が無動固縮型で先行する、動作歩行、姿勢反射にも問題があるケース、つまりヤール3~4レベルの方がほとんどです。注意障害を伴うので、PDに比べて室内での転倒リスクが高くなります。PDの方はヤール4~5レベルでも室内で転倒することはめったにありません。注意障害が保持されている場合は、転倒の危険性を熟知しているので、より慎重に行動するからではないかと考えられます。
最近の講演では必ず話している事ですが、PDDの半数以上の症例は悪性経過をたどります。コリン作動性神経と
なぜ、PDとPDDを厳格に区別しなければならないのか?それは対症療法としての薬物処方の仕方が根本的に変わってくるからです。PDDとDLBも厳格に区別するべきだと考えています。この点に関して学会は肝心な事を何も示しておらず、曖昧にしていると私は感じます。PDは15年以上経過したらみな認知症になる??病理変化が同じだから、全部まとめて同じ薬を使え??そんな考え方だから、PDDに使ってはいけない不適切な処方が繰り返されてしまうケースが後を絶たないのでしょう。それに関しては症例を示しながら、次節で詳しく書こうと思います。


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by shinyokohama-fc | 2017-10-06 11:47 | 治療

認知機能障害を伴うパーキンソン病(PDD)とは

小生はパーキンソン病を中心とした専門外来をやっています。パーキンソン病の症状として目に見える症状としては
1)手がふるえる 2)動作が遅い 3)姿勢が不安定
があります。これらは医者でなくても、普通の人が見てもわかる症状ですので、わかりやすい病気です。
それぞれ1)~3)どれが主体かによって、以下のタイプに分けられます。
1) 振戦優位型 2) 無動固縮型 3) 姿勢反射障害型
認知機能障害が顕著に現れやすいのが、2) 無動固縮型ですが、1)や3)でも軽度の認知機能障害をきたしている場合があります。運動症状がかなり重く、石のごとく動かないようなイメージの症例が多いようです。
パーキンソン病に伴う認知機能障害というのは注意力・記憶力に関するものですが、記憶力は維持されている場合も少なくないようです。
1)活動に集中できない 2)話し方が遅い 3)物忘れがある 4)名前・数字・出来事を覚えるのが難しい
認知機能障害の簡易評価方法としては、記憶障害・認知症の有無を診断するため、MMSE (ミニメンタルステート検査)と認知機能の全般的な評価するためのMMSE(モントリオール認知機能評価・日本版)で行うことが推奨されています。しかし、我が国における繁忙な外来診療体制では、実地医家の先生にとってパーキンソン病の診察は、四肢の動きとか歩行とか身体診察(観察)をまずしなければならないので、それに付け加えてこのような検査をする時間的な余裕はないと思われます。
小生の場合は、時計描画と図形模写(五角形を重ねたもの)を書いてもらいます。これらを書くのに手間がかかり時間がかかったり、うまく書けない場合は、認知機能障害がありと判定します。また左半分がうまく書けないなど、視空間認知障害が確認できる場合があります。これをやってもらうと、誰の目からみても認知機能に問題があるというのが明確です。この他に数字の逆唱、シリアル7(100から7を引き続ける暗算)も簡単に判定できます。認知機能障害がある場合は高い確率で、計算間違いをします。
問診においては、配偶者からレム睡眠行動異常(RBD)がある事を確認します。小生の経験ではPDDにおいては2/3くらいにRBDの症状が確認できるようです。
小生が、明らかにPDDであると判断できる症例に対して、使用を避けている薬があります。それがドパミン・アゴニストです。特に作用の強いプラミペキソールでは、深刻な薬剤性せん妄、精神錯乱、レム睡眠行動異常の急性増悪をきたすようです。PDDの診断基準に合わなくても、RBDがある症例では使用をさけるべきだと思います。
辺縁系に存在するドパミンD3受容体を過剰に刺激することによって、精神症状が誘発されるようです。おそらくこのような症例では、辺縁系の障害が強いと推定されます。
しかし実際はRBD、PDDの症例にドパミンアゴニストが使われて、深刻な精神症状の悪化がみられる症例が非常に多く見られます。これは「パーキンソン病にはまずドパミンアゴニストから使え」という学会の指導にも大きな問題があるのではないかと考えます。
PDDにおけるレビー小体病理の進展形式(通説)は以下のとおりです。
1) 脳幹優位 睡眠障害 (日中の過眠、レム睡眠行動異常)、自律神経障害など
2) 辺縁系優位 うつ状態、不安神経症、疲労、疼痛、体重減少など
3) 大脳皮質優位 注意障害(転倒)、記銘力障害、自発性・意欲低下(アパシー)
通常のパーキンソン病(PD)は運動障害のわりには意外と転倒が少ないですが、やはりPDDになると注意障害が強くなるため、転倒が増えるようです。
レビー小体は、病気の原因なのか?結果なのか?という議論が長年ありますが、私は最近の研究を見る限りでは後者ではないかと考えています。つまりレビー小体(アルファシヌクレイン重合体)は病気によるコリン・ドパミン神経障害に抵抗するために発生しているのだという説を信用しています。
いずれにしても、コリン作動性神経障害、ドパミン作動性神経障害の分布には、症例によって大きな差異があるため、同じ病理基盤だからといって、どんな症例でも同じような薬剤処方をしていてはダメだという事です。



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by shinyokohama-fc | 2017-09-28 19:02 | 治療

神経変性疾患に必要なのは治す医療ではなく緩和医療

先日、講演会のために28年ぶりに札幌に行きました。前日に市内を少々観光しましたが、横浜とは市街地の区画が2~3倍違うことに戸惑いました。この街は外国人の指導などで開拓された街で、土地もかなり広いので、地図を見ながら歩いてもなかなか目的地に到達できませんでした。自分でも気が付かないうちに、普段横浜や東京ではまず歩かないくらいのかなりの距離を歩いていたので、久しぶりに下肢の筋肉痛になりました。
講演会の内容は、認知症と言われている変性疾患には様々なものがある、精神症状の強い、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症(3Rタウオパチー)、4Rタウオパチーの症例が、高齢者の増加とともに増えている、特にこのような疾患群の高齢者に対してはコリンエステラーゼ阻害薬とか抗精神病薬というのは非常に使うのが難しい、むしろ高いリスクを冒してまで使うべきではないといった内容でした。内容的にはこのブログでこれまで書いてきた内容に近いと思われますので、これ以上は省略します。
参加者は10名前後でしたが、脳外科、精神科を専門として、認知症の臨床をよくやっている民間病院、医院の院長先生方が主に参加されていました。中には小生のブログを拝読されている先生もおられました。
講演後の質問の時間も4~5名の先生方から1人2~3の質問やご意見があり、その内容もかなりハイレベルな質問であったので、私も丁寧に回答しなければならかなったので、1人の質疑応答に10分以上の時間を費やしました。少人数ならではのかなり充実した質疑応答であったと思います。
講演終了後に病院長の精神科の先生に、「私の考え方としては、高齢者の変性疾患(認知症・パーキンソン病その他)への抗精神病薬の使用は副作用のリスクが大きすぎるので原則的に好ましくないと思っているが、若年の統合失調症、躁鬱病などの精神疾患には抗精神病薬は必要だと思っています」と言いましたが、「私は抗精神病薬は使いません」というお返事が返ってきて、大変驚かされました。私とは違う立場で長年の臨床・処方経験を経て、おそらくそういう考え方に行きつかれた(帰結された)のかもしれません。
私自身もこの3~4年の外来の臨床経験で神経系に作用する薬剤に対する考え方がかなり変わりました抗認知症薬、抗精神病薬、パーキンソン治療薬、抗不安薬(睡眠導入薬)、抗てんかん薬、いずれも使うのが非常に難しい薬であるという事を様々な症例を通じて観察し、痛感してきました。
「認知症、パーキンソン病、高齢者の精神症状などの神経変性疾患を薬で治す、治る」という理念を唱える臨床医もいるようですが、私はどうしてもこの理念には同意できません。一見健常に見える、中高年者であっても、発症いかんにかかわらず、個人差はあるが、年齢とともに誰もが神経の変性が進み、アミロイド、タウ、シヌクレインなどの異常タンパクがたまっていきます。これが自然の流れであり、老化現象の一つだと思っています。
一度発症してしまった神経変性をもとに戻すのは医学的に不可能であり、記銘力障害、見当識障害、運動失行、失認、失語といった症状を元に戻すのは不可能です。患者さんの年齢も多くは65歳以上の高齢者ですので、現実的には、すべての神経変性疾患に対しては病気を治す事ではなく、「緩和医療・緩和ケア」が中心になるべきだと思っています。治す事に固執しすぎて、劇薬を多数使いすぎる事によって病状が著しく悪化する症例が多すぎる、これが私のこの3~4年診療経験で実感した事でした。


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by shinyokohama-fc | 2017-09-25 11:05 | 治療

パーキンソン病のふるえ(振戦)、薬物治療の限界と新しい治療

同じ県下にある、湘南藤沢徳洲会病院において、パーキンソン病のふるえに対する超音波治療の臨床研究が始まっているようです。昨年11月にMRIガイド下集束超音波治療(MRgFUS)の装置を導入して、今年から実用開始して、振戦優位型パーキンソン病の症例、3例の治療に成功したとの事です。
ヘルメット型超音波装置を頭に装着し、2時間程度かけて標的部位を確認してから10回の超音波の照射を実施したところ、ふるえ(振戦)と筋肉のこわばり(筋固縮)が軽減効果が確認されたようです。
振戦優位型パーキンソン病に関しては、当院でも何例か症例を診ていますが、ふるえ(振戦)+筋肉のこわばり(筋固縮)という組み合わせです。振戦優位型は動作の遅さや姿勢不安定による歩行障害はほとんど目立たないケースがほとんどです。発症してから数年経過しても、1人で歩いて通院できる方が多く、歩行には支障はほとんどなく転倒などはありません。しかし、日中通してふるえが非常に強く、ストレスがあるようです。
一般的に投薬による制御が難しい事が多く、最も良く効くと言われる、プラミペキソール(ビ・シフロール/ミラペックス)などのドパミンアゴニストは薬剤による精神系の副作用が問題になりますし、レボドパ配合剤(メネシットやマドパーなど)であればかなり増量しないと効果が得られないです。レボドパは早期から増量すると効果の減弱による、オフ現象やジスキネジアが出現しやすくなると報告されています。
半年前から当院で定期受診されている、69歳の男性の振戦優位型パーキンソン病の方がいます。
最初に通院された病院の処方では、プラミペキソールの増量でひどい薬剤性せん妄、幻覚、被害妄想となり、次に転院された病院の処方では、レボドパ・カルビドパ(メネシット)450mg+エンタカポン300mg+ゾニサミド(エクセグラン)100mg/日でふるえはほぼ完全に止まってました。そのため全くパーキンソン病らしさが感じられませんでした。やはり軽度の薬剤性せん妄のために、ぼーっとして生気がないという印象で、奥さんも通常の会話がまったくできないと嘆いていました。病院への通院が遠方で長時間待機などで丸一日かかるため、通院しやすい小生のクリニックへの転医を希望されました。小生が2~3か月かけて、レボドパ・カルビドパ300mg/日のみまで薬を減量しました。左手優位のやや大きなふるえ(振戦)が静止時と歩行時に目立つようになり、見た目はパーキンソン病らしくなりました。前医投薬の大幅な減量によって、ふるえと筋固縮は目立つようになりましたが、薬剤性せん妄は完全になくなり、表情が生き生きするようになり、会話も普通にできるようになりました。ふるえを薬で無理に抑えようとすると、こうなるという典型的な事例だったと思います。
パーキンソン病のふるえを抑えるための薬を処方され、ふるえは軽減したが、薬剤性せん妄で精神錯乱を起こしていたり、精神活動が著しく低迷しているとすれば、いったい何のための薬物治療なのか?という事になります。
小生もパーキンソン病のふるえを抑えるために薬物治療をしますが、ゾニサミドかトリへキシフェニジル(抗コリン剤)をまずファーストで使い、次にセレギリンを追加し、レボドパやドパミンアゴニストは極力使わないという方法をとっています。ドパミンアゴニストをまずファーストという方法は改められるべきだと考えています。
ベネフィットよりもリスク(精神系副作用)が大きく上回っている、振戦優位型パーキンソン病に対する現状のドパミンアゴニスト中心の薬物治療の弊害の深刻さを考えると、この超音波治療が広く使われるようにと願わずにはいられません。


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by shinyokohama-fc | 2017-09-12 18:37 | 治療
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