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パーキンソン病・薬の不適切使用(2) セレギリン

今回はMAO-B阻害薬である、セレギリンについて、その不適切使用による薬害症例、適切使用による改善症例を紹介しながら、この薬の適正な使い方について考えてみたいと思います。
モノアミン酸化酵素(MAO) はドパミンを分解してしまう酵素で、この酵素の活性を低下させることによって、ドパミンの分解を抑えて、脳内のドパミン濃度を安定させることができると言われています。かつてはレボドパと一緒に服用することが使用条件であったため、単独での使用ができませんでしたが、単独でも臨床効果が確認されたため、現在はレボドパの処方なしでも、セレギリンが処方可能になりました。世界的にはラサ二ジンが使用されていて、日本でも1~2年後には認可される見通しのようです。長時間作用するため1日1回(朝)か2回の服用になっており、レボドパ効果の増強、すくみ現象に効果があるようです。
しかし、自律神経症状(起立性低血圧)の強いタイプ、高齢者、降圧剤(高血圧の治療薬)や睡眠導入剤を服用している症例には使わないほうがいいと思われます。以下にこの薬で歩行できず外出できなくなった症例を示します。
82歳男性、ヤール2度、発症3~4年
動作歩行が遅くなったということで、総合病院を受診されて、2年前から投薬処方が開始されました。
1) レボドパ・カルビドパ(100mg) 3錠 (朝・昼・夕)
2) セレギリン(2.5mg) 2錠 (朝・昼)
3)エスゾピクロン(1mg) 1錠 (眠前)
この処方が開始されてから、起床時の強いめまい感、ふらつきが強くなり、転倒することが増えてしまいました。そのため、以前はよく外を散歩していたのに、最近は転倒を恐れてまったく外出できなくなったという事でした。診察では、動作の緩慢さや四肢の巧緻運動障害はまったくみられず、口の不随意運動があり、臥位から立位での収縮期の血圧変動が30mmHg以上で確認されました(起立性低血圧)。
この状態をみて、すぐにドパミン作動薬の過剰投与(オーバー・メディケーション)と判断し、起立性低血圧がセレギリンで悪化していると推定しました。セレギリンの中止、レボドパを300mgから150mgへ減量としました。また起床時のふらつきを助長していると推定された睡眠導入剤を中止しました。
1か月後に再診されましたが、起床時~日中のふらつきはまったくなくなり、ジスキネジアも消失、積極的に外出できるようになりました。治療薬の減量によって、左上肢の寡動・ごく軽度の巧緻運動障害、動作緩慢が確認されましたが、ご本人はまったく気にしている様子はなくて、毎日6000歩以上歩いているという事でした。起立性の血圧変動は10mmHg前後にまで軽減したようです。
セレギリンをレボドパに追加することによって、「起立性の血圧変動、低血圧」は高齢者、自律神経不全、薬剤過敏、降圧剤・睡眠導入剤との併用などの条件によって、しばしば悪化してしまうようです。症例によっては幻覚やせん妄が出現してしまう場合も少なくないようで、特に高齢者では使用が難しい薬だという印象です。
一方で、適切に使用すれば非常に有用な症例もあります。以下にその症例を示します。
<50歳女性、ヤール2~3度、発症3~5年>
5年前から左右の身体が違うという感覚、2年前から歩行時のつまずき、違和感、左下肢のしびれ感、疼痛など、1年前から左上肢下肢のふるえが顕著になって、歩行時のすくみ足も目立ってきたという事でした。
診察では、筋固縮、動作緩慢は目立たないものの、指タップ・足タップ・回内回外運動において、左手足の巧緻運動障害が顕著でした。その一方で左右とも姿勢時振戦も確認されたため、鑑別のためDATシンチグラフィー検査を依頼、左右差のある(右に強い)線条体におけるDAT集積低下が確認されました(パーキンソン病とほぼ確定)。
薬物の対症療法として抗コリン剤(トリへキシフェニジル)1mgから開始したが、逆にふるえが悪化したため中止。アロチノロール20mgを開始したが、効果不十分。ドパミンアゴニスト(ロチゴチン2.25mg)を開始したが、すくみ足が悪化したため中止。レボドパを開始するには若すぎる、ドパミンアゴニストと抗コリン剤は少量でも奇異反応ということで、セレギリンを2.5mg2回(朝・昼)から開始しました。それ以外の併用薬剤は全くナシです。
効果は2日目から実感できたようで、すくみ足が軽減し、後方への突進現象も減少。身体の重さがとれて動きやすい感じがして、ふるえも軽減したようです。左足のジストニアのみ残るようですが、日常生活動作は総じて大幅に改善したようです。
この症例はおそらくレボドパでも有効であったと推定されますが、年齢を考慮すれば先が長いので、セレギリンを選択しました。セレギリン単独でも有効であるという事が実証された症例だと思います。
この他にも、60代前半で、ヤール2~3度、レボドパなしでドパミンアゴニストのみ服用で1~2年経過をみていた症例でも、最近セレギリン2.5mgのみ追加したら、身体の重さがとれて足が軽くなったという事でした。
数年前からセレギリン単独で有効という海外の論文を拝見していましたので、日本人でも50~60歳でレボドパ未使用症例に対しては非常に有用であるという確認ができました。
このように、年齢や症例によって有用になるか、有害になるか運命が大きく分かれるようです。現在のガイドラインは、私からみて、年齢別・病型別の薬物使用の指針は不十分であり、薬物選択は神経内科医の個別の裁量に任されているわけですが、セレギリン1つとりましても、不適切な使い方をされて不幸な転帰をとっている事例が少なくないようです。


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by shinyokohama-fc | 2017-04-08 14:20 | 治療

パーキンソン病・薬の不適切使用 (1) ゾニサミド

今回からスタートする「パーキンソン病の薬の不適切使用シリーズ」です。
私からみて不適切な治療薬の使われ方をしている、代表的な薬をいくつか順にあげていき、それぞれの薬の特徴を含めて、なぜ不適切なのか?を論じていきたいと思います。
まず第1回目としては、薬価が超高額にもかかわらず、なぜか神経内科のエキスパートの先生方が好んで処方されるゾ二サミドという薬があります。この2年、私のクリニックを受診された、高齢者のパーキンソン病、パーキンソン病コンプレックス(認知症、精神症状を伴う)の症例に対して前医(神経内科専門医・エキスパート)でこの薬が処方されたケースをもとに、何が問題かを探っていきたいと思います。
そもそもドパミン作動薬でもないこの薬が使われるようになったのは、てんかんと振戦(ふるえ)型パーキンソン病を併せ持つ症例において、てんかん発作予防目的で、ゾニサミドを処方したら、振戦まで軽減したというエピソードからだと言われています。ですから「パーキンソン病のふるえを軽減する薬」と認識していました。
しかし、実際に日本での保険適用は「レボドパ配合剤に他の治療薬を併用しても、十分に効果が得られなかった場合」という条件つきです。その他には、「パーキンソン病のウェアリングオフ現象の改善」とあります。教科書にも「ウェアリング・オフ現象を軽減できる効果がある」と書いてあります。この目的での使用量は50mg/日とされています。
しかし薬価が25mgで1115.9円/1錠という超高額な薬であるため、本来患者側にはとてもハードルの高い薬だと思われます。この薬だけでも1か月で33477円を費やし、3割負担で10043.1円、1割負担で3347.7円も支払うことになります。保険負担は1か月23433.9円であります。50mgだとこの2倍になります。ここまで高額であるからには、費用対効果が強く求められるというのが定石だと思います。しかし、実際の前医(専門医)の処方事例を見る限りは、すでにドパミン作動薬3種類のオーバードースによって病状が混迷してしまった症例に対して、申し訳のように「トッピング」で処方しているケースばかりのようでした。保険適用に忠実に従った使い方だと、このような使い方(4番手の治療薬)にならざるをえないわけです。
そもそも私はアンチ多剤併用主義者なので、特に神経系の薬剤に関しては、違う系統の作用機序の薬を併用してしまうとそれぞれの効果を殺してしまう、あるいはどのような方向に作用するかわからず、意図した効果が得られず、副作用のリスクが高まると考えています。
1か月前に、パーキンソン病のヤール1度の左手の振戦だけの60代半ばの認知機能低下もない、元気そうな男性に試しに、震えを軽減する目的でゾニサミド50mgを単独で処方してみました。するとその方は再診時にこう言いました。「ゾ二サミドを服用開始してから、集中力も気力もなくなったのがわかったので、4~5日で自己中止しました」との事でした。私はこれまでゾ二サミドという薬に関しては、若年の特発性てんかん患者のてんかん発作予防目的で使用していましたが、若年者に関しては200~300mg/日で処方していますが、このような副作用は訊いたことは一度もなかったので、正直驚きでした。抗てんかん薬(AED)としてはカルバマゼピンやフェニトインに比べると、数段副作用が少なくて安全な薬と認識していたからです。
60代のヤール1度の軽症で元気な静止時振戦だけの患者に対してすら、50mg/日だと副作用で自己中止を余儀なくされるわけですから、それよりはるかに高齢で80歳前後のヤール3~5度の中等症~重症で姿勢反射障害が高度で、動作歩行障害が高度の症例で、同じ50mg/日を服用させればどうなるか?素人でも容易に想像がつくと思います。
実際に私の外来にはそのような処方をされてしまって、大変な薬剤性認知症、薬剤性せん妄に至ってしまった症例が複数来られました。
症例1) 81歳男性 ヤール5度、発症後10年
前医処方) ゾ二サミド25mg、レボドパ/カルビドパ300mg、エンタカポン300mg
初診時) MMSE12点 ヤール5度、低活動性せん妄状態
処方変更)ゾ二サミド中止・エンタカポン中止、
再診1か月後)MMSE25点 ヤール2度、意識は朦朧状態
症例2) 77歳女性 ヤール4度、発症後5年
前医処方) ゾ二サミド50mg、レボドパ/カルビドパ500mg、ロピニロール4mg、ドロキシドパ300mg
初診時) HDSR 18点、夜間に幻覚、日中は嗜眠、めまいが常態化
処方変更)ゾ二サミド中止・ロピニロールをロチゴチン4.5mgへ変更、レボドパ400mgへ減量、ドロキシドパ続行
再診1か月後) HDSR28点、記憶は改善、夜間の幻覚消失、日中の覚醒度向上し、嗜眠なし 、めまいなし
症例3) 80歳女性 ヤール4度、発症後10年
前医処方)ゾ二サミド25mg、レボドパ/カルビドパ500mg、エンタカポン300mg
初診時) HDSR 7点、2~3か月単位の認知症の悪化に加えて低活動せん妄が悪化、幻覚が頻発
処方変更) ゾ二サミド中止、他の薬剤は続行(ウェアリングオフあり)
再診1か月後) HDSR 15点 、幻覚や嫉妬妄想はなくなった
エンタカポンはレボドパの補完的薬剤なので、これで認知症が悪化したり、せん妄や幻覚が誘発されるとは考えにくいため、上に挙げた、3症例を確認した限り、ゾ二サミドが悪い方向に作用しているのは明白であろうと思われます
先に挙げた60代の症例のエピソードを訊いて、それは確信に変わりました。
高齢者にこの薬を使うのは非常に難しい。というのが私の結論です。特に75歳以上で5~10年の長期経過の症例には、あまりにもリスクが高すぎて処方が難しいという事です。レボドパ配合剤など複数のドパミン作動薬と併用して使用するという状況が、副作用をさらに助長しているのではないかと思います。
たぶんこの薬が使える症例というのはかなり限定されてくるのではないでしょうか?
45~60歳の認知症が全くない、発症5年前後のパーキンソン病でウェアリングオフ現象が出現しているか?震えが強い症例かのいずれかでしょう。効果が出るまでは平均3か月くらいだそうですが、そこまで耐えれるかでしょうね。
ちなみに私はこの薬をパーキンソン病に対して自分から処方して継続している症例は1例もいません。
軽症の患者はご本人がおかしいと気がついて自己中止してくれますが、中等症以上の症例、症例3のようにすでに認知症を伴っている重症例では、家族がよほど注視していないと気がつかれていないのではないでしょうか?
驚くべきことに、症例1ではドネぺジル5mg、症例2ではリバスチグミン9mg、症例3ではメマンチン20mgが処方されていましたが、冗談ではなくて何の役にも立っていませんでした。当たり前ですが、3症例ともすべて抗認知症薬は中止しました。こういう事例に対していかに抗認知症薬が役に立たないか。結果がすべてを物語っています。
神経内科のエキスパートを自称する専門医の先生方がなぜ抗認知症薬を処方したがるのか?私には理解しがたい事実です。症例を見る限りでは、パーキンソン病やパーキンソンコンプレックスの症例に対してドネぺジル、メマンチンに関しては実際メリットはほとんどなく、デメリットのほうがはるかに大きいからです。
パーキンソン病患者は、治療薬を多剤併用されることによって、薬剤性認知症にされてしまうケースがあまりにも多すぎるようです。薬剤性認知症は原因薬剤を中止しないかぎり治りません。いくらコリンエステラーゼ阻害薬とかメマンチンを入れても効果はないのです。不必要な薬剤が増えて医療費が余計にかかるだけで、患者さんには何のメリットもないという事を知ってほしいと思います。
次回はMAOB阻害剤の不適切使用について、実例を交えて語りたいと思います。


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by shinyokohama-fc | 2017-04-01 15:13 | 治療

認知症医療に対する雑感と今後

前回のブログで、個人的には一区切りしたというところです。これまでコリンエステラーゼ阻害薬の諸問題を含めて神経内科医からみた「認知症」について、自己の診療経験からくる印象なども含めていろいろ書いてきました。
診療経験として自分なりに至った結論としては「薬物療法だけでは、現状では認知症のかかえている諸問題の1割以下程度しか解決できないという事です」
この3年、いや5年程度、不慣れな認知症医療に、一人の神経内科医として、自分としては可能な限り誠実に向き合ってきたつもりですが、認知症という病気の性質上、医者と薬物選択だけで解決できない問題が山のようにあることがわかりました。それはすべて「人間関係」に関することです。それは、患者の元々のパーソナリティー、介護するご家族のパーソナリティー、患者と介護者との人間関係などです。ここに必要とされるのは、薬物などではなく「臨床心理」だと個人的には考えます。具体的に言いますと、医者ではなく、精神保健福祉士や臨床心理士やケースワーカーなどのソーシャル的な介入こそが最も重要なのでしょう。つまり、医者や看護師だけでは、認知症の根源的な問題(社会・家族との関連性について)にはほとんど無力だという事です。
コリンエステラーゼ阻害薬や抗精神病薬など、高齢者に様々な副作用を高い確率で誘発するような薬は程度の差こそあれ、用量を増やしたり長期間服用し続ければ、必ずといっていいほど副作用が出ます。
確かに薬によって副作用の出る確率の高低差はありますが、副作用のない薬など存在しない限り、薬物療法には限界があります。この3年でそれが痛いほどわかりました。中にはそういう薬を4年も服用され続けて悲惨な状態になっている症例もありました。どんな薬を少量で処方しても必ず副作用が出る薬剤過敏性の症例も数多かったです。症例を診ていて感じたことは、「本当に認知症にとって薬物療法は必要なのだろうか?」という事です。私の個人的な印象では多くの症例は、ソーシャル的介入が十分になされれば解決できるのではないかと思います。しかし、現実的にはそういう基盤がない。患者と介護者の間に入って調整する人間が必要です。そういう仕事ができるのはもちろん医者ではなく、臨床心理士ではないかと思います。しかし現状は臨床心理士は国家資格ではなく、保険医療ベースでは仕事ができないことになっています。今後は独居者、高齢夫婦世帯、子供と疎遠などが増えていくであろう事を考えれば、そういうソーシャル的な部分をカバーできる医療者が必要です。中には例外的に医者や看護師でそういう仕事までやってしまう人材もいるようですが、それはごく一部ですし本来の仕事ではないと考えています。

神経内科医として、今後自分に何ができるのかと考えました。
やはり20年以上前から診療している「パーキンソン病」「パーキンソン症候群」などを中心とした診療。特に「パーキンソン病」の不適切な薬物治療を是正する仕事をライフワークにしていきたいと思います。パーキンソン病の薬物治療をめぐる問題は深刻の一言です。薬の種類が増えることによってさらに深刻さが増しています。一言でいえば、多くの症例では薬が多すぎる、服用しすぎているのが問題だという事です。
これについては、すでに、「減薬」という誰もが手を出さない方法で、多くの実績が出せましたので、今後は様々な形で発表していきたいと考えていますが、今後も1人でも多くの患者を救出すべく尽力したいと思います。
次回のブログからは、パーキンソン病治療薬に関する様々な問題を取り上げたいと思います。


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by shinyokohama-fc | 2017-03-25 14:14 | 治療

高齢者の「側頭葉てんかん」はDLBと誤診される

高齢者の側頭葉てんかんの臨床症状の特徴を以下に示します。
1)けいれんはおこさない
2)くりかえす識減損~意識レベルの動揺性
3)夜間のレム睡眠行動異常様の精神運動発作(異常行動)
4)持続性の認知機能低下
5)複雑性の幻視
6)自律神経症状
7)注意障害・集中力低下
8)簡易テストでは計算ミスが多い
以上のごとく、高齢者の側頭葉てんかんの臨床的特徴は、レビー小体型認知症(DLB)に酷似しています。共通していないのは、DLBの中核症状の1つである、パーキンソニズム(パーキンソン病の運動症状)のみです。
ただし、大脳皮質と扁桃体に病変がみられるが、脳幹にはほとんど病変がみられない、パーキンソニズムがみられない「大脳型」というタイプがあるとのことです。DLBの診断基準というのは感度が高いが、特異度が低いというのは、誰もが認めるところであります。そのためにパーキンソン病のドパミン作動薬の過剰処方による、薬剤によって誘発されているせん妄状態、幻覚、認知機能の低下をもって、担当医が己の薬の出しすぎを反省することなく「DLB化だ!」と誤診してコリンエステラーゼ阻害剤を最大量で追加処方してしまうことが非常に多く見られます。またすでに脳卒中・頭部外傷などの脳疾患の既往とそれに伴う脳障害のある症例に、トラマドール(オピオイド)、プレガバリン、ステロイド、抗コリン剤などが何らかの理由で処方されて、薬剤せん妄に陥っている状態を家族が認知症の本を読んで「DLBだ!」勘違いして遠路からわざわざ連れてきたケースもありました。どこがDLBなのか?このようになんでもかんでも「DLB」にされてしまう昨今の風潮は好ましくなく、私からみてかなり問題があると思わざるをえない現状です。特に「パーキンソニズム」のないDLBというのは他の原因をかなり慎重に除外する必要があります。安易にDLBという診断をすべきではないと思います。
今回取り上げた「側頭葉てんかん」ですが、世界的な統計では60歳以上では非常に多くみられます。若年世代の特発性てんかんよりもはるかに多いようです。側頭葉てんかんの主たる原因である変性疾患としては、アルツハイマー型認知症が多く、軽度認知障害(MCI)という認知症の前段階からてんかんが現れるケースが多いようです。
軽度の「物忘れ」で始まった人が、2)~7)の特徴がみられ、テストで計算ミスがあっただけで、「DLB化した!」と安易な操作的な診断をしてはならないと思います。本来ならこのようなケースではすべての症例で脳波検査を実施してスクリーニングすべきですが、検査ができる環境にない場合もあるでしょう。脳波検査ができない環境では、詳細な問診記録を残した上で、以下の薬剤を処方して「治療的診断」をするしかないと思います。
第一選択で使用すべきなのは、カルバマゼピン(CBZ)です。100~200mg/日が必要と思われますが、高齢者の場合はCBZの副作用として、初期から小脳性運動失調によるふらつき、転倒のリスクがあるということを十分説明する必要があるでしょう。このリスクを回避するためには、新規抗てんかん剤である、ラモトリギン(LTG)、レべチラセタム(LEV)を使用する選択枝もあるでしょう。他にもこの1年で新規抗てんかん剤が上市されています。新薬の難点は高額であるという点ですが、長期内服の安全性を考慮すれば、CBZよりも新規抗てんかん剤のほうがいいのではないでしょうか?高齢者はふらつき、転倒で骨折や頭部外傷のリスクも高いという事も考慮すべきだと思います。
大脳型DLBを強く疑う場合は、MIBG心筋シンチやドパミントランスポーターシンチという核医学検査が有用です。このような検査が役に立たないという断言する医者もいるようですが、私は側頭葉てんかんと大脳型DLBの鑑別診断のためには必要だと思います。前者は抗てんかん剤で症状が治まる病気で、後者は薬を使っても進行していく病気です。厳密な診断によって患者の運命が左右されるという事を考慮すれば、やはり診断のための検査は必要です。
ちなみにコリンエステラーゼ阻害剤で、世界的に最もPDD/DLBに対して使用されている、リバスチグミンの副作用で「痙攣発作」というのがあります。私自身も、側頭葉てんかんに中等度の認知症を伴った症例(84歳女性)を定期診療しています。当初は認知症に対して、ガランタミン(コリンエステラーゼ阻害剤)8mg/日とラモトリギン(抗てんかん剤)100mg/日を処方していましたが、1か月に1回の発作があり、発作が全般化して痙攣に至り、病院へ搬送されるという事態になりました。熟慮の末に、ガランタミンを中止して、ラモトリギン150mgを続行しました。その後1年以上において発作は確認されていないようです。
高齢者の「側頭葉てんかん」は実際は非常に多いと推定されますが、医者にも患者にも「てんかんイコール痙攣発作」という固定観念があるため、多くが見逃されており、安易な操作的診断のみでDLBだと診断されて、コリンエステラーゼ阻害剤の処方によっててんかんを全般化させて痙攣を誘発している症例はないでしょうか?高齢者の痙攣発作は急性冠動脈症候群などを誘発しうる非常にリスキーな状況です。様々な意味で、側頭葉てんかんをDLBだと誤診することは非常に罪深いことだと私は思います。
DLBの診断基準の除外項目にここまで臨床症候が酷似している「側頭葉てんかん」が含まれていないという事は疑問に感じます。私の記憶では「側頭葉てんかん」について言及している認知症関連の書籍はきわめて少ないようです。



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by shinyokohama-fc | 2017-03-09 18:29 | 治療

第3回フェルラ酸研究会

先日、1月8日(日曜日)午後、第3回フェルラ酸研究会が品川で行われました。
基礎研究の演題の他に、発達障害、軽度認知障害、大脳皮質基底核症候群(CBS)に関する演題がありました。なかでも軽度認知障害に対する二重盲検試験の結果は気になるところです。
演題も4→6に増えて、4時間超の長丁場でした。私の演題は進行性核上性麻痺症候群(PSPS)に関するものでしたが、6題目の発表だったので待っている時間が長くて大変でした。
第1,2回と比べて聴講する参加者が増えたという印象です。専門的な医師の参加も多かったように思います。前回よりも質疑応答も活発に行われました。一方的に講演を聴かせるだけでは学術的な「研究会」とは呼べないので、今後はもっと参加者が増えて、有意義な議論が交わされる研究会に発展することを期待したいと思います。
研究会終了後に何人ものDrが私の講演についての質問がありました。
次回、第4回は7月16日(日曜日)に実施されます。ぜひ多くのDrが参加してほしいと思います。


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by shinyokohama-fc | 2017-01-13 08:31 | 治療

メマンチンの前頭葉解放症状に対する有効性

メマンチンはコリンエステラーゼ阻害薬との併用を推奨されているがゆえに非常に過小評価されてる薬です。主に認知症の行動心理症状(興奮性・攻撃性)に対する抑制効果を期待して使用されているわけですが、中核症状の改善効果も優れています。コリンエステラーゼ阻害薬のような生命予後に関わるような危険な副作用もないため、80~90歳の高齢者でも5~10mgの低用量(20mgで内服させると、日中の嗜眠が強すぎて誤嚥や転倒リスクが高まる)で使用しやすい薬剤です。ただしコリンエステラーゼ阻害薬(特にドネぺジル5~10mgとリバスチグミン18mg)と併用してしまうと、コリンエステラーゼ阻害薬による精神症状の有害事象が高い確率で悪化するようですので、原則的に併用はしないようにしています。神経系の薬剤の作用は複雑で複数の薬剤がからむと奇異反応をおこす症例が非常に多いようです。ニューイングランドジャーナルの文献によると、メマンチンは1か月(1日)の介護時間が優位に減少されたということです。1日あたり平均90分減少させたそうです。
メマンチンはNMDA受容体に対するアンタゴ二スト(拮抗薬)で正常な神経伝達には影響せず、グルタミン酸によるNMDA受容体の過剰な活性化を抑制する作用があり、持続的な電気シグナルが発生し、神経伝達シグナルを隠してしまう(シナプティックノイズ抑制)効果があるそうです。主として以下の症状に有効であるようです。
1) 会話がうまくできない(言語障害)
2) ささいな事で怒り出す(攻撃性)
3) 落ち着きがない(易刺激性)
4) 家の中を動き回る、目的不明な外出行動(行動障害)
60~70歳で発症する、典型型のアルツハイマー(ATD)では進行ステージにかかわらず、1)~4)の症状はほとんど出現しません。しかし60歳以下/75歳以上で発症するATDでは前頭葉症状が強い非典型的タイプが少なくないようですので、しばしばこの薬剤が有効です。礼節や対人関係は維持できているが、精神症状や行動心理症状が日常的にみられるタイプです。
しかし、それ以上に有効なのは前頭側頭型変性症(FTD)の意味性認知症、行動障害型だと思います。超重症ステージでほとんど会話困難、外来診察時も常同行動、使用行動、反響言語を繰り返しているレベルのFTDでも有効性が高い事が数例で確認できました。脱抑制症状や常同行動が顕著なために、日常生活動作が全て介助というレベルの方々や易怒・興奮性が強く介護抵抗があるレベルの方が多いのですが、これらの症状に対してメマンチンは5~10mgで有効のようです。一度中止して再開、効果の再現性を確認しました。超重症レベルFTDのBPSDに対して再現性効果があるため、プラセボ効果の可能性は限りなく低いと推定されます。
臨床診断である、意味性認知症(語義失語)、行動障害型(脱抑制行動・常同行動)というのはある程度有意義だと考えます。ATDと違うポイントとしては場所や環境を問わず、このような病的ニュアンス(外来受診する態度としての違和感)が外来診療で確認できるかが、ポイントだと思います。
脱抑制行動、常同行動、興奮性・易怒性に対して、安易に抗精神病薬を使用することを奨励することについては、個人的には反対です。以前のブログにも書きましたが、理由は少量でも厄介で危険な副作用が起こりうる事です。特に少量でも長期間(1年以上)継続された場合はかなりの確率で副作用が起こります。コリンエステラーゼ阻害薬と併用した場合はさらに高率になると推定されます。多くは姿勢異常、不随意運動、動作歩行障害、心臓不整脈、精神症状の悪化などです。長期使用によって耐性化もしやすく、効果が減弱しやすいのも問題です。開業して2年以上、認知症に対していくつかの抗精神病薬を試してきましたが、この薬はコリンエステラーゼ阻害薬同様、安心して使える薬ではないという事を再確認しました。クエチアピンが最も有害事象が少なかったという印象ですが、その他の薬剤は長期使用(屯用使用ではなく継続使用)で何らかの有害事象や奇異反応(精神症状の悪化)などで脱落しました。高齢のフレイル的な女性においてはクエチアピンに対しても忍容性がないケースもありました。まだ医者として駆け出しの時期に、ハロペリドールやクロールプロマジンによる悪性症候群を多数診てきましたし、今でも前医の安易な抗精神病薬処方による被害者、姿勢異常、不随意運動、動作障害などで悲惨な状態に陥っている方々をフォローしていますが、このような悲惨な状態を診るたびに怒りがこみ上げてきます。
80歳以上の認知症では、FTDに病態の類似したAGD(グレイン、嗜銀顆粒球性認知症)が半数近くにみられます。通常はこれらの症例には、ガランタミンまたはメマンチンをまず使用することからスタートして、効果不十分の場合はチアプリドを処方しています。チアプリドでは用量・使用期間で軽度のパーキンソニズムが時にみられるケースがありますが、それほど深刻な有害事象は少なく、早期の減量・中止などの対応で回避できます。悪性症候群の事例は20年間で1例も診ていません。ただし薬剤の効果には個人差が大きく、制御不可能な症例も少なくないようです。
ただ一つはっきり言えることは、メマンチンは抗精神病薬やコリンエステラーゼ阻害薬よりは安全性が高いという事ですので、年齢を問わず行動心理症状に対しては、まず最初に試すべき薬剤だと思います。ただし、PDD/DLBに対しては、嗜眠・傾眠性が強まってしまう症例があるので注意が必要です。


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by shinyokohama-fc | 2016-12-20 19:03 | 治療

横浜認知症セミナー/平川先生の講演

一昨日、12月14日水曜日に、新横浜駅前の新横浜グレイスホテルにおいて、「横浜認知症セミナー」が実施されました。「認知症診断のポイントと治療のコツ」というタイトルで、誠弘会池袋病院の副院長、脳神経外科医の平川亘先生の特別講演がありました。座長は済生会横浜市東部病院の神経内科部長の後藤先生が務められました。
平川先生は、病院で脳神経外科の救急医療・入院管理などの業務をこなしながら、外来で莫大な症例数の認知症患者を20年前から診療してきたDrです。元々高次脳機能学を専門にされていたので、認知症の診療には抵抗はなかったのかもしれませんが、コリンエステラーゼ阻害薬の3種類の薬剤を様々な用量で様々なタイプの認知症患者に試されて、その経験を統計処理しておられます。いわば単独で大規模臨床試験をしているようなものなので、その仕事ぶりには非常に驚かされます。単発の症例で薬物治療がまぐれ当たりで効いたという話ではないので、非常に説得力があります。この大規模臨床試験をベースにした講演を首都圏各地で行っていて、新横浜では10月15日に続いての講演でした。平川先生は私がいつもブログで書いている、コリンエステラーゼ阻害薬の危険性を誰よりも熟知されているので、コリンエステラーゼ阻害薬の少量投与を昔から試しておられます。一番驚いたのは、リバスチグミン4.5mgを1/4にカットして1.125mgで使用するというものです。初めに聞いたときは???と思いましたが、実際に重度の認知症の高齢者でアパシーが強く、食事を食べない人にリバスグミン1.125mgで試してみると、確かに食事を食べるようになったのです。平川先生のこの薬の使い方としては、記憶を良くする目的でも進行を遅らせる目的でもなく、今もっとも困っている症状を改善するという事に主眼を置いています。講演では「認知症は治らないが、元気で機嫌よくいてくれたらいい」という言葉で結んでいます。
私は今年の3月の「認知症治療研究会」で開演前に40分ほど話し込んだのが平川先生との初めての対談でした。それ以後、平川先生の臨床医としての姿勢や薬物療法の理念に感銘を受けて、意気投合しました。今年も様々な講演会の情報交換会やメールなどで交流を重ねさせていただきました。10月15日の新横浜の講演会もお願いすると快く引き受けていただきました。「今の認知症の薬物治療はおかしい」と言っておられます。初めて講演を聞いた医者はほぼ全員「衝撃を受けた」「価値観が変わった」と口にします。
認知症を含めた神経変性疾患を本当の意味で「治す」治療は存在しませんし、現存の薬物治療でやれることも期間限定の「対症療法」に限られています。それを認めたうえで、私は薬物治療の強制的な推進は好ましくないと思っています。例えば「意味性認知症/前頭側頭型認知症」という疾患では、ドネぺジル(保険適用外)の薬剤を3~5年内服していた患者を4~5名診ましたが、全例で常同行動や反響言語、脱抑制行動が顕著に重症化していました。おそらくリバスチグミンなど他の薬剤でも同じ結果が起こったと推定されます。つまりこのタイプにはコリンエステラーゼ阻害薬を使用してはいけないのです。「認知症であれば、誰でも彼でも同じような標準量のコリンエステラーゼ阻害薬を処方してればいい」と考えて診療にあたっている専門医が多いという現実があります。コリンエステラーゼ阻害薬の3種類が全く違う性質があるという事実が知られていないようです。


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by shinyokohama-fc | 2016-12-16 12:32 | 治療

コリンエステラーゼ阻害薬の大規模副作用分析

原著論文; kroger E,et al.Ann Pharmacother. 2015; 49: 1197-1206
すでに1年前の報告ですが、なぜかどこにも取り上げられす、アナウンスされなかったのは何故でしょうか?
カナダのラバル大学のKrogerらはWHO国際医薬品モニタリングにおけるコリンエステラーゼ阻害薬関連の副作用を分析したそうです。「フレイル患者や多剤併用薬使用患者の場合は、コリンエステラーゼ阻害薬を開始する前に副作用の可能性について検討する必要がある」と結論つけています。
1998年~2013年まで世界中から報告されたすべてのコリンエステラーゼ阻害薬(ドネぺジル、リバスチグミン、ガランタミン)の関連する副作用に関して分析しました。主な結果は以下の通りです。
58か国から計18,955件の報告、男性40%女性60%、平均年齢77.4歳。欧州47.6% 北米40.4%
ドネぺジルとリバスチグミンがそれぞれ(それぞれ41.4%)、ガランタミンは17.2%
副作用の内訳は精神神経系障害31.4%が最多で、胃腸障害15.9%、全身障害11.9%、心血管障害11.7%
2006~2013年の報告はより重篤な副作用が多かったようです。
精神神経系障害34%が最多で、全身障害14.0%、心血管系障害12.1%、胃腸障害11.6%
死亡例は全体の2.3%
以上が真実だとすれば、コリンエステラーゼ阻害薬は、抗精神病薬並みのハイリスクな薬剤だということになりますし、抗精神病薬と併用すれば、精神障害、心血管障害が起こる確率が非常に高いと推定されます。
私自身が実臨床で実感していた副作用がこれで納得できました。75歳の高齢者になれば、アルツハイマー型に混合して他の疾患も混在してくるため、特にPDD/DLB混合型などに関してはこれ以上に副作用率が上がると推定されます。PDD/DLBを対象にしたコリンエステラーゼ阻害薬の副作用の実態もぜひ知りたいものです。
老年系・神経系の各学会や高名な専門医が、その安全性について検証することなく、やみくもにコリンエステラーゼ阻害剤を推奨するという理由は何でしょうか?よく考える必要があります。安全性という観点から考えれば、コリンエステラーゼ阻害薬の少量投与以外に、メマンチンの単独使用という選択枝も推奨され、再評価されるべきではないでしょうか?安全性を第一に考えれば明らかに今の抗認知症薬の使い方はおかしいと思われます。


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by shinyokohama-fc | 2016-12-12 19:16 | 治療

ドパミントランスポーターシンチグラフィー(ダットスキャン)の意義

ダットスキャンはパーキンソン病(PD)、レビー小体型認知症(DLB)の診断目的で現在は保険適応になっている検査です。PD,DLBとそれ以外を鑑別する目的とされてます。McKeithらが作成したDLBの診断基準では支持項目になっているようです。しかし最近わが国では、幻覚(幻視・幻聴)がある高齢者は全部DLBと診断しようという動きがあるようです。つまり「高齢者の幻覚=DLB」というのが、認知症専門医の共通認識のようです。
私は神経内科医ですが、パーキンソニズムが確認できる認知症を伴うパーキンソン病(PDD)という臨床像というのは理解できるのですが、パーキンソニズムを伴わないDLBという臨床像がよくわかりません。前医(認知症専門医)では幻覚があればDLBにされているからです。しかし実際に私の診断では薬剤性のせん妄が最も多いようです。比較的多いのは泌尿器系の過活動膀胱に使用される抗コリン剤です。抗生物質や抗インフルエンザ剤の内服は1週間以内ですが、一時的に幻覚が出る場合が多いようです。より深刻なのは、オピオイド系の鎮痛薬(トラマドール)単独、あるいは神経系鎮痛薬(プレガバリン、デュロキセチン)との併用で長期に内服したケースです。さらにパーキンソン病の治療薬の過剰投与でも、幻覚は容易に出現します。私が診ているPDの患者さんでも、レボドパ/ベンゼラシド150mg+セレギリン5mgにトリへキシフェニジル2mgを追加した70歳女性のケースや、レボドパ/カルビドパ300mg+ロピニロール8mg増量した73歳男性のケースは、ごく軽度ですが、幻覚を訴えました。PDの患者は元々ドパミン作動性薬剤によってドパミン受容体を刺激しているため、受容体の過敏性があり、幻覚が出やすいようです。他の神経内科医は「幻覚がでたらDLB化だ」と早計に誤診して、ドパミン作動薬の見直し減量などをまったく検討せずに、コリンエステラーゼ阻害薬(ドネぺジルがほとんど)を安易に処方したがる傾向にあります。日本神経学会の作成しているガイドラインにも大いに問題があると思います。これを「薬剤カスケード」「ポリファーマシー」と言います。これまで、この処方パターンで病状がよくなったという声をほとんど聞いたことがない。高額な薬剤を過剰に処方しても患者の病状がよくならなければ、それは「医療費(薬剤)のムダ」に他ならないのです。
ダットスキャンという検査は、脳内の黒質から線条体に向かう神経経路(ドパミン神経)の変性・脱落の程度を評価する検査です。著しくドパミンの取り込みが欠乏している状況は、PDD/DLB,PSP,CBDでみられ、左右差のある軽度~中等度のドパミン取り込み欠乏はPDでみられます。たしかにPDD/DLB,PSP,CBDの鑑別診断には役に立たないので、価値がないのでは?という医者もいます。しかし私はこれらを「線条体ドパミン高度欠乏症候群」として一括した症候群として捉えていいのではないかと考えます。現状では脳内ドパミンニューロンの状況、病気の重症度を反映できる検査は他には存在しません。MIBG心筋シンチグラフィーは脳ではなく、あくまで心臓における自律神経の状態を診ているものです。自律神経不全はPD,PDD/DLBの症例によって差異が大きいと思います。
「線条体ドパミン高度欠乏症候群」では、ドパミンニューロンの変性・脱落が高度ですので、これらに共通しているのはドパミンやアセチルコリンに作動する薬剤がごく少量でも有害反応が出てしまうという事です。PSP、CBDに至っては効果も期待できないので、有害事象で病状が悪化するだけのケースが多いです。レボドパ少量でも眠気や幻覚が出たり、コリンエステラーゼ阻害薬少量でも、首曲がりや腰曲がりなどの姿勢異常が出てしまうのです。ドパミン高度欠乏(枯渇状態)を証明する検査として価値が大きいと考えています。
他には心因性パーキンソニズム、アルツハイマーの非典型型、ピック系(意味性認知症など)の除外診断をするのに必要だと考えています。明らかに臨床的にドパミン欠乏には見えないのに、「幻覚があるだけでDLBだ」と誤診されるケースが後を絶たないからです。「前医の診断を否定するための検査」として使うことが少なくないのです。幻覚の原因を臨床的に正確に評価できず、安易に「DLBだ」としてしまう臨床医があまりにも多すぎるからです。臨床医として、あまりにも短絡的でステレオタイプ的な思考回路としか言いようがないです。


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by shinyokohama-fc | 2016-12-01 19:07 | 治療

65歳。ガランタミン4+4でも心停止寸前!

これから紹介する症例は、当院へ受診する前のイベントですが、正直言って衝撃的でした。コリンエステラーゼ阻害薬においては他の薬剤よりもアセチルコリン賦活作用が1/8~1/10とも言われている、ガランタミン。しかも4+4mgでの少量での使用。しかも65歳の症例です。
約1年前からカギを無くすなどのエピソードがみられ、今年から病院のメンタル科に通院。意図は不明だが、通常量よりも少ない、4+4mgで処方継続されていました。独居だったので、日常の状況が不明でしたが、1~2か月前から長女宅で同居するようになってから、食思不振、倦怠感がみられ、嘔吐~意識消失を3回繰り返したとのことでした。3回目の救急搬送で、薬剤性(ガランタミンによる)QT延長症候群との診断名でした。忙しいさなかに救急担当医によってメンタル科宛てに書かれた情報提供書の要約を以下に示します。
●月●日●時ごろ、外出先で椅子に座っていたところ、突然嘔吐して意識消失(5分前後)し、救急要請。
救急隊到着時は、意識レベル1-10、脈拍40/分、血圧測定困難、SpO289%、呼吸数18/分、体温36.0℃
病院到着時は、意識レベル1-10、心拍数47/分、血圧 101/61(測定可能)
心電図にてQTc 0.567!! 血液検査で、低カリウム血症(2.8mEq/l)を認めました。
2回目の搬送時に循環器科で精密検査を実施、心臓カテーテル検査・心臓エコー・ホルター心電図を実施しているが、器質的な心臓疾患は確認できませんでした。
ガランタミンによるTorsade de pointes(Tdp)疑いとの事でした。意識消失時にECGが記録できていれば、おそらく
Tdpに特徴的な波形が確認できたかもしれませんが、実際は入院中にイベントが起こらないと難しいでしょう。
この症例においては、このイベント後にガランタミンは中止されて、2週間後に当院を初診されましたので、ECGを実施したところ、QTcは0.471に戻っていました。次回再検査すれば0.45以下になってるかもしれません。
ガランタミンの場合は、ドネぺジルよりも薬剤半減期がかなり短いのが、不幸中の幸いになります。リバスチグミン場合は貼付剤なので、剥がせば薬剤の影響はなくなると言われています。
高齢者でTdpを確認した場合は、房室ブロック、洞不全症候群、高度徐脈、低カリウム血症、QT延長をきたす薬剤などの有無を確認する事が必要とされています。
心筋細胞のイオンチャンネルに関連した遺伝子変異が、QT延長症候群の60~70%に同定されます。カリウムチャネル遺伝子変異の場合は、チャネル機能低下により再分極に時間がかかりすぎることが原因と言われています。
私個人の経験で言うと、ChEI内服中の外来受診時のECGにおいて、房室ブロック、QTcの延長、高度徐脈、洞不全などを確認した事がこの2年で10件ほどあり、慌ててChEIを中止しました。リバスチグミン低用量でも起こった事例がありましたが、多くは通常用量だったと思います。本来なら血液検査で電解質測定も実施すべきだと思います。
このような心室性不整脈というリスクを冒してまで、ChEIを処方すべき症例なのか?ChEIを処方することによって患者側にデメリットはないのか?メリットは得られるのか?処方する前に塾考する必要があります。
ちなみにしつこいようですが、抗精神病薬との併用はリスクを何倍も引き上げるということをお忘れなく!



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by shinyokohama-fc | 2016-11-21 18:42 | 治療
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