カテゴリ:医療( 38 )


CBSはなぜPD,DLB,ATDと誤認されるのか?

CBS(大脳皮質基底核症候群)という名前が一般化した背景としては、臨床診断と病理診断が合致しないからです。
臨床的CBSの病理診断はCBDが50%でPSPが30%残りはAD,FTD-Pick,Prion病などと言われています。CBDとPSPで事実上80%です。一般的にCBDとPSPというのは兄弟のような疾患と認識されます。この2つに共通している最大のポイントは既存の薬物治療が非常に困難であるという点です。
CBS-PSPのほうがCBS-CBDよりも姿勢が不安定で体幹保持障害と動作歩行障害が強いという印象です。CBS-ADは早期から認知症、注意障害、失語が目立ち、CBS-FTDは早期から異常行動が目立つようです。
<<CBSと他の疾患群の臨床症状の比較>>
<初期>
1)片手が使いにくい(片側巧緻運動障害)→運動麻痺ではなく「上手く使えない」という症状です。
2)物を触ってもわかりにくい(立体的感覚障害)
3)片方にある物を見落とす(半側空間無視)
4)道具の使い方がわからない(観念運動失行)
5)細かい筋肉の震え(反射性ミオクローヌス)
1)~5)はCBS-CBDにきわめて特徴的と言われている症状で、CBSの50%では初期からみられるはずです。しかし言い方を変えれば残りの50%では1)~5)ははっきりしないという事です。
注意しなければならないのは5)の症状であり、感覚的刺激(触覚・視覚・聴覚など)により反射性に誘発される局所(特に上肢に多い)の震えです。上肢が震えると言えば、パーキンソン病が有名なので、片手の震え=パーキンソンという単純公式による誤認がされやすいようです。事実私も含めた神経内科医もほとんど誤認しているようです。
PDの安静時振戦というのは何も刺激しなくても震えますが、反射性ミオクローヌスの場合は反応性に震えます。
6)物事を考えるのに時間がかかる(思考遅延)→PSPの記述を参照、皮質下性認知症全般の特徴
7)記憶障害・注意障害→初発症状がこれだとほぼADと誤認されます。2年以内に何らかの神経動作障害がみられるので、そこで臨床診断を修正する必要があります。
※ADと誤認されるので、漫然とCHE-Iが処方されますが、ADと違い認知症が短期的に進行するのが特徴で、CHE-Iの副作用によりむしろ常同行動などの前頭葉症状が増強されやすい傾向にあります。
8)異常行動→初発症状がこれだとFTDと認識されます。2年以内に何らかの神経動作障害がみられるので、そこで臨床診断を修正する必要があります。
※異常行動に対して抗精神薬(主としてリスぺリドン)が処方されますが、多くは過鎮静になりやすいようです。
<中期>
1)片手が無目的に動く(他人の手徴候)
2)手で触れたものを反射的につかむ(把握反応)
3)言葉が出にくい、自発的会話が少ない(失語)
4)体の左右がアンバランス・捻転(体幹傾斜・体幹ジストニア)
5)左右いずれかの上下肢に不自然に力が入る(四肢ジストニア)
1)5)はCBSに特有の症状と言われていますが、実際の評価が難しいようです。
2)~4)はPSP症候群でも共通してみられる症状ですが、4)に関してはかなり特徴的なので注意が必要です。
2)~4)はPD・DLBでは一般的にみられない事が多いと思いますので、必ず確認する必要があります。
<後期・終末期>
1)完全失語 2)嚥下困難~不可 3)体幹ジストニア~姿勢保持不能 4)起立歩行不可
特に体幹ジストニアはCBS-PSPで顕著にでやすいという印象です。CBS-CBDでは失行・失認・失語などの高次脳機能障害が主として進行しますが、動作歩行能力に関しては比較的保たれる傾向があるようです。早期から姿勢保持やジストニアが悪化して動作歩行能力が困難になるのはCBS-PSPだと推定されます。
前回のブログで記載した、PSPの行動心理症状・皮質下認知症はCBSでも同様にみられます。ただし症例によって差異が大きいようです。
実際の対症療法としてはミオクローヌスに対して抗てんかん剤を、四肢・体幹ジストニアには抗コリン剤を、四肢・体幹のつっぱり感に対しては抗痙縮剤を処方しますが、やはり副作用が出現しやすい傾向にあります。レボドパやCHE-Iも同様であり、薬を足せば足すほど病状が複雑化してわかり辛くなります。つまりどこまでが原疾患の症状で、どこからが薬剤の副作用なのかがわからなくなるという事です。


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by shinyokohama-fc | 2015-02-07 17:50 | 医療

PSPはなぜPDやDLBと誤認されてしまうのか

PSP症候群(進行性核上性麻痺)がなぜPD(パーキンソン病),DLB(レビー小体病),ATD(アルツハイマー病)と誤認されてしまうのか?実は私自身でも初診時はよく誤認してしまうので、自分なりにその理由を分析しています。「誤診」という言葉は使いたくないので、「誤認」と呼ぶのが適切だと思っています。
<<PSP症候群とPD・DLBの比較>>
<PSPの神経症状>
A初期)
1)よく転んで怪我をする→PD・DLBは慎重で病識が高いので、初期からは転倒しにくい
2)歩きにくい→PD・DLBは初期では継ぎ足歩行が可能で、開脚歩行(ワイドベース)にはならない
3)同じ場所に立っていられない→椅子にドスンと座ってしまうというのはPD・DLBではみられない
4)足が出にくい→強いすくみ現象はPD・DLBでは初期からはみられない
5)体の方向を変えにくい→PD・DLBでは初期からはみられない
6)頸部・体幹が固い(体軸性固縮)→PD・DLBでは上肢・下肢が歯車様に固いが、PSPは特に上肢は固くない
7)環境や状況によって動作レベルが大きく違う(環境依存)→PD・DLBではそれほど環境に影響されない
8)レボドパの効果が不明確→PD・DLBでは薬効によるオン・オフで動作レベルが明確に違う。
9)表情→PD・DLBは暗く笑顔が乏しいが、PSPは明るく笑顔がみられる(笑顔のままというケースも多い)
B中期)
1)言葉がでにくい、口数が少ない(失語)→PD・DLBでは失語はほとんどなく、単調性の構音障害のみ
2)目が動かしにくい(眼球運動麻痺)→PD・DLBではみられない
3)飲み込みにくい(嚥下障害)→PD・DLBではそれほど顕著ではなく、程度も軽い
4)介助なしで歩けない→PD・DLBでは薬剤効果があるので中期でも自立で歩行できる
5)体幹の左右がアンバランス・捻転・傾斜(ジストニア)→PD・DLBでは体幹の左右差はなく、四肢のみ
6)手を触れると磁石のように追随する、つかんで離さない(把握反応・強制把握)→PD・DLBではみられない
7)テーブルの上の物を勝手にさわる(視覚性探索反応)→PD・DLBではみられない
8)指示されないのに目の前の動作を真似る(模倣行動)→PD・DLBではみられない
C後期)
1)後方に倒れる、頸が後屈する→PD・DLBでは起こりえない
中期症状2)~5)がさらに進行した状態、眼球固定・嚥下不可能・発語不可能・起立歩行不可
※PSPは数か月単位で目に見えて神経症状が進行するが、PD・DLBでは年単位でごくわずかな進行しかない
※PSPはB-6)~8)のような前頭葉徴候による身体所見が高頻度に出現する
<PSPの行動心理・精神症状>
・幻覚・妄想
経過中にしばしば現れて、中には初発症状の場合もある。人格水準が著しく低下するので、被害妄想や嫉妬妄想に伴う異常行動、動作障害のため幻覚・妄想に派手さはなく、抗精神薬を必要とするほどではない(ほとんどは抑肝散で十分である)、時に動揺性の意識障害(せん妄状態)と混在する状態に至る
・挿間性の昏迷状態
動作障害が進行した時期(中期)にみられる。突如として外部刺激に反応せず、質問に対して反応が乏しくなり(或いは全く反応しない)、視線が定まらずという状態が数時間持続する。病期が進行すると無動・無言状態に至る
・人格変化(人格退行)
初期)何か人が変わってきた印象、物事に対する視野が狭くなり、人の言う事を聞き入れようとせず、自己中心的な行動をする。興奮しやすく怒りっぽくなる、或いは子供っぽくなり、意味不明の上機嫌さがある
中期)意欲が低下し、周囲に対して無関心となり、物事に対する興味を失って無感動でぼんやりした印象になる
・認知症(皮質下性)
簡易知能スケールにおいて初期~中期ですでに10~20点の中等度レベル(PD・DLBでは25~30点レベル)
<PSPの認知症>高次脳機能は比較的保持されているが、それを活用する能力に問題がある
1)すでに得られている知識を状況に応じて操作しうまく活用する能力の障害
2)思考過程、情報処理過程の緩慢化
3)ある種の記憶障害(記憶の喪失ではなく、素早く思い出す事ができない「失念」タイプ
4)注意力の障害→PD・DLBよりも転倒・怪我が非常に多い
5)意欲の低下、自発性の減退、無関心・無気力(アパシー)
原因は視床やルイ体と脳幹網様体賦活系の結合が断たれるためと推測されている

幻視・嗜眠・認知の変動・動作歩行障害⇒DLBという「誤認」、動作歩行障害⇒PDという「誤認」、認知症=ADという「誤認」は上記のように丁寧に神経・行動心理・認知症の臨床評価をしなければ、常に起こりえます。
当然ですがPSP症候群にはDLB,PD,ADの標準的薬物治療は通用しませんのでご注意ください。私自身もDLBと誤認して誤処方をしてかえって動作障害・行動心理症状を悪化させてしまったケースが数例ほどありました。昨今の傾向としてDLBが第2の認知症としてマスメディアなどで大きくクローズアップされて、医者も患者もそのブームに引っ張られてすぎているように感じられます。患者さんを診て診断基準の項目をチェックするだけになってしまった事が多くなったように思います。診断基準の重要性を否定するわけではないのですが、このような操作的診断のみが病気の診断だと思い込むことによって、臨床医には病気の本質が見えにくくなってしまってるのではないでしょうか?
一番の問題は誤処方により病状が明らかに悪化してしまい、それが修正されずにいるケースが多くみられる事です。
次回はCBS(大脳皮質基底核変性症候群)とPD・DLB・ADの誤認について書きたいと思います。

参考文献)
Albert ML et al;The subcortical dementia of progressive supranuclear palsy. J Neurol Neurosurg Psychiarty 37 : 121-130, 1974
天野直二 ;進行性核上性麻痺にみる精神症状 ;臨床精神医学 20 :1185-1194, 1991


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by shinyokohama-fc | 2015-02-05 19:20 | 医療

レビー症候群の診断的治療ステップ

レビー小体病(DLB)の診断基準の中核症状3つを併せ持つ症候群の治療的診断の私案を以下にまとめました。
大脳皮質基底核変性症(CBD)が正確な診断が不可能だという事で、CBSという呼ばれたように、PSPもDLBもMSAも神経変性疾患すべてにおいて疾患名ではなく症候群という名称が適切だと思います。なぜそれが必要かというと、本来死後の病理診断でしか診断できないはずの疾患を問診・診察・検査など総合臨床診断で正確に診断しよう(病理診断で正解になろう)というのは到底不可能だという事実を日常的に見ている実際の症例を通して嫌というほど思い知らされてきたからです。そういうわけで実地臨床ではすべて症候群で分類するべきだというのが以下の私案です。
<DLBの中核症状①~③の評価の問題点>
①認知の変動 ②具体的で詳細な再現性のある幻視 ③特発性パーキンソニズムについて
①認知(意識状態)は変動するので、簡易スケールによる評価も正確に病状を示すものではない。何らかの原因(感染症や薬物など)によるせん妄状態やてんかん(複雑部分発作など)との鑑別も実は容易ではない。
※てんかんの鑑別には可能であれば脳波検査が望ましいが、必ずしも異常波を検出できるとは限らず、安静が守れず検査自体が困難な症例も少なくない。
②幻視は患者自身の主観的な訴えなので、当然訴えない場合もありうる。患者が異常行動を起こさないかぎり周囲からわかりにくく客観的な評価が難しい。
※レビー小体病以外でも幻視が出現する事が少なくない。最近最も多くみられるのはPSP症候群である。
③特発性パーキンソニズム(振戦、筋固縮、姿勢反射障害、動作緩慢)
特発性であると特定するのがまず難しい。多くの症例ではすでに神経系の投薬が多剤併用されていて病態が修飾されているので、現実的には薬剤を除外して確認するのがまず困難である。MRIで多発性脳梗塞、正常圧水頭症の特徴が示されても、それだけで特発性でないとは断定できない。
この3つのうち1つあればPossible,2つあればProbableということで、広い範囲の認知症・パーキンソン関連疾患がDLBという事になってしまい、すべてCHE-Iを規定通り使うべき???いやそんな簡単なら誰も苦労しないです。①~③のうち2つ以上を有する症例には以下の診断的治療を一応一通り施して様子をみるのが一般的だと考えます。
①~③の薬剤を一度にではなく順次処方して症状の変化をみます。
①CHE-I;ドネぺジル少量(3mg)又はリバスチグミン少量(4.5mg)
症状が顕著に改善⇒DLB-2
症状が不変/徐脈など自律神経の副作用出現⇒DLB-1
症状が悪化(興奮・不穏など)⇒PSP/CBD
②レボドパ/カルビドパ(L/C)50mg×3
症状が顕著に改善⇒DLB-2
症状が不変⇒DLB-1またはPSP/CBD
症状が悪化(嗜眠・幻覚悪化など)⇒PSP/CBD
③ドパミンアゴニスト(DA)
;ロピニロールCR少量2mg又はロチゴチン少量(2.25~4.5mg)
症状が改善⇒DLB-2
症状が悪化(嗜眠、幻覚悪化など)⇒DLB-1又はPSP/CBD
私はPSP/CBDの症候群を20~30例ほど継続して診ていますが、①~③のどれもが薬剤投与により症状を何らかの形で悪化させてしまう、あるいは効果が全く感じられない症例がほとんどのようです。同じような症例を50例程度診てくると、診察室に入った瞬間に「この方にはCHE-IもL/Cもたぶん通用しないな」というくらいはわかるはずです。すでに初診までにあらゆる薬剤が試されていてダメだったという、もはや薬剤治療では打つ手なしという症例少なくないです。DLB-1とPSPの鑑別はおそらく専門医でも難しいです。両者に共通している特徴として以下の3つが挙げられますが、たぶん精神科診療と同じように、診る医者によって差異が大きく出るのは間違いないでしょう。
①初期からの姿勢反射障害(PSPの方がより顕著である)
②初期からの認知機能障害(簡易知能評価スケールで中等度レベル)
③初期からの核上性麻痺(DLB-1では必須ではないが時々みられる)
最も確実な鑑別項目としては自律神経障害の有無になります。おそらくDLB-1にはみられ、PSPにはみられません。
MIBG心筋シンチは両者の鑑別にある程度有効ではあるものの、10~20%で偽陰性がみられます。成書には「FTDにおいても時にパーキンソニズムがみられる」と書いてましたが、これがフロンタルパーキンソニズム(既出)を指すのか、PSPをFTDと解釈されているのかは不明ですが、まさに鑑別診断としてはジャングル状態です。
昨年のタウ・アミロイドβPETによる脳内異常タウ蛋白の神経障害への関与を証明した画期的な学会発表においては
DLBには2つのタイプがあり、アミロイドβ陽性でPSPと同程度に前頭葉~側頭葉にタウの高度蓄積が確認されたDLB-1は、前頭葉~側頭葉の脳萎縮があり、CHE-Iの効果が乏しい事が臨床的に確認されたそうです。一方でアミロイドβ陰性でタウ蓄積もみられないDLB-2は、前頭葉~側頭葉の脳萎縮もなく、CHE-Iが効果を示すようです。つまりDLBの中核症状を3つとも有しているのに本来有効とされている薬剤(CHE-IやL/Cなど)が全く通用しないという症例が数多く存在するというのもこの学説により十分納得できますし、PSPと同様に早期から前頭葉~側頭葉が高度に障害されてくるので投薬により精神症状が悪化したりという奇異反応がみられたり、前頭葉機能障害による諸症状(常同行動、脱抑制、被影響性の亢進・環境依存、自発性低下など)が目立つというのも納得できます。経験的に言うと前頭葉機能障害が強ければ強いほど、CHE-I,L/C,DAなどの薬剤により奇異反応を起こす確率が高いようです。
前頭葉機能障害の重症度を診察室で確認する方法は主に3つです(詳細は以前のブログを参照ください)
①把握反応・強制把握 ②前頭葉性失調・歩行障害(開脚性歩行) ③抵抗症(gegenhalten)
つまりDLBの診断基準における中核症状を有する症例を診た場合は、上記3種類の薬剤を順次試す前にすべき事があるとすれば、前頭葉機能障害を①~③で臨床的に重症度判定する事と、CT/MRI検査で前頭葉~側頭葉の脳萎縮を評価する事です。治療反応性が良いというのはDLB-2の事で、DLB-1とPSPは薬剤治療が難しいというのが結論です。
それゆえ、この2つには特に新たな治療法(タウ阻害剤など)が待望されると思います。


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by shinyokohama-fc | 2015-01-09 19:10 | 医療

本当に怖いのは低血糖による心臓死

最近は高齢者の糖尿病が増加しました。ここ20~30年の医療の進歩に伴い、感染症や血管障害、喘息などによる死亡者が激減して長寿になりました。戦後の食生活の急速な欧米化に伴い、糖質や脂質の摂取が多くなり、日本人の体質に合わない食事が糖尿病患者の増加を招いているとよく言われます。
糖尿病患者の多くは糖質依存・糖質中毒とも呼ばれる状態になっていて、食事療法や運動療法が守れないケースが少なくありません。また年齢に反比例して代謝能力が低下する傾向にあり、長年にわたって経口血糖降下剤を何種類も内服しているケースが多いようです。これらの薬剤の副作用としては低血糖が問題になります。特に昔からあるスルホニルウレア(SU)剤は遷延性低血糖を引き起こすためしばしば問題になります。私も20年前、病院勤務時代に遷延性低血糖で意識障害で搬送されてきた患者を数名救急~入院対応した経験がありますが、いくら糖液を静脈注射しても全く血糖が上がってこないし、一時的に上がってもすぐに下がってしまうという、きわめて恐ろしい体験でした。
遷延性低血糖患者のうち数名は意識が戻らず、準植物状態で数か月入院しましたが、最期は感染症で死亡しました。
原因薬剤として最も多かったのが、SU剤第2世代グリベンクラミドという薬でした。さすがに近年はこの薬が使われている薬手帳はほとんど見なくなりました。専門医の間でもSU剤は高用量は危険だという認識のようです。
低血糖を起こすとブドウ糖をエネルギーとしている脳の働きに支障をきたし、意識を失って倒れて事故につながるリスクが高まります。無自覚性の低血糖を繰り返すことによって認知症リスクが3割増加するというデータもあるようです。さらに低血糖になると心臓に栄養を送っている動脈(冠動脈)が収縮して心筋梗塞や致死性の不整脈を引き起こす事も近年報告されています。糖尿病患者の死因としては「QT延長症候群」という心室性不整脈による心室細動による突然死が多いようです。米国で行われた臨床試験(アコード試験)によると、HbA1cを6.0%以下と厳格にコントロールしすぎた集団は7.0~7.9%でコントロールした集団よりもわずか3年余の間に22%も死亡率が増加したとの事です。特に65歳以上の高齢者で経口血糖降下剤を複数内服している方々に関しては食事時間のズレや、食事量の変化、運動量の変化に伴って無自覚の低血糖を繰り返している可能性が高いようです。それに伴って上記の冠動脈攣縮や心室性不整脈のリスクも高まると言えるでしょう。それゆえ高齢者では死につながる低血糖を極力起こさない事を最優先すべきだと言えるでしょう。
以前のブログで書いたように認知症の治療薬として定着しているコリンエステラーゼ阻害薬(CHE-I)や認知症の周辺症状(行動心理症状)を抑制する目的で使用する抗精神薬なども同じように冠動脈攣縮や心室性不整脈による心臓突然死のリスクを高めると言われていますので、やむをえずこのような薬剤を処方するケースでは、HbA1cを8.0%前後でコントロールすべきではないかと考えます。
この事実だけでも薬が多剤併用されると非常に危険だという事がよくわかってもらえると思います。


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by shinyokohama-fc | 2014-12-18 18:22 | 医療

大脳皮質基底核変性症候群(CBS)について

大脳皮質基底核変性症(CBD)はパーキンソン類似症候群として1968年に最初に報告されています。病理学的には4リピートタウの蓄積を示す、タウオパチーの1種とされています。タウオパチーにはアルツハイマー病(AD)、レビー小体病(DLB)、進行性核上性麻痺(PSP)、CBDがありますが、前2者がアミロイドβやシヌクレインが蓄積してからタウが蓄積するのに比べて、後2者はタウのみが蓄積するようです。ただCBDというのは病理的診断であって、その臨床診断としては典型的なCBSの他に進行性非流暢性失語(PNFA)、前頭葉側頭葉型変性症(FTD)、AD,Richardson Syndrome(PSP-RS)などさまざまな形態をとるようです。
臨床的診断名として大脳皮質基底核変性症候群(CBS)とされています。臨床的CBSの死後病理解剖による病理診断としてはCBDの他にPSP,FTD,AD,Prion病なども含まれていて、臨床診断と病理診断を合致させる事は困難です。
特にPSPとは類似したピックコンプレックスとしてカテゴライズされていてしばしばオーバーラップしています。
CBSの中核症状としては左右非対称の鉛管様筋強剛・無動、ミオクローヌス(細かい震え)、他人の手徴候の他に把握反応、皮質性感覚障害、ジストニア肢位(特に上肢が顕著)で早期から歩行障害、体幹姿勢異常(左右の傾き)、構音・嚥下障害、認知症、注意障害、失語症、異常行動、尿失禁などが早期から目立つ事もあります。
臨床神経学的には左右差・非対称性が最大の特徴であり、脳画像検査(MRI/CT/SPECT)でも一側優位性障害が確認される事もあります。上記症状に対してはレボドパなどパーキンソン病薬剤の反応は不良・無効です。
当院で診療したCBSと思われる症例を以下に紹介します。
1) 78歳男性 CBS-FTD
注意障害で初発。前医にてアルツハイマーとの診断でドネぺジル処方されて危険行動・常同行動・易怒が悪化、タムスロシン処方で嗜眠、幻覚、歩行困難などが悪化した。両手の把握反応が顕著で、歩行は開脚性で頸垂れ状態であったが、両薬剤を中止後は劇的に改善したが、体幹傾斜が残る。
考察) 開脚性歩行と把握反応必ずなど前頭葉症状を確認した場合は抗コリン剤とドネぺジルを処方してはいけない。
2) 84歳女性 CBS-PSP
数年前から記憶障害、開脚性の歩行障害感染症による発熱の後に右手の巧緻運動障害(不使用)となり、前医で正常圧水頭症との診断でシャント手術を受けたが悪化傾向、体幹の捻転性ジストニアが顕著で立位保持が不可能となった。
意識は清明だが、デスクの上の物を勝手にさわるなど使用行動がみられ、両手の把握反応も顕著。
考察)上肢の左右差、肢節・体幹ジストニアはCBS特有。運動障害の進行が速いためPSPタイプと推定される。
3) 83歳男性 CBS?
3か月前から自転車運転が危なくなり、平地でもバランス悪くふらつきを自覚するようになった。
開脚性歩行と軽度の体幹傾斜がある。パーキンソニズムなし、認知症なし、行動心理症状なし、小脳失調なし
画像検査;前頭葉~側頭葉外側の萎縮、海馬の萎縮はない。
考察) ごく初期の症状であるが、他の疾患を支持する所見がない、今後の経過観察が重要。
4) 76歳女性 CBS-PA
2年前から右半身の運動障害が顕著。体幹アンバランスで歩行障害、右半身と左半身が常に乖離した様子。記憶・注意障害や思考遅延がみられたが、リバスチグミンが少量で著効。前医でパーキンソン病との診断で抗コリン剤が処方されて意識朦朧状態で動けなくなった。立ち上がる時につかまる必要があるが、平地は何とか歩ける状態。片側性の安静時振戦がみられたが、レボドパが著効して振戦は消失、動作も改善したが、左右アンバランスは不変。
考察)例外的にレボドパ反応性の錐体外路系運動障害が主体のタイプがある。進行は遅く、PDと殆ど変わらない。
5) 71歳男性 CBS-PSP
半年前から歩行障害を自覚したが、前医でパーキンソン治療薬(レボドパやドパミンアゴニスト)を試されたが無効
歩行は開脚性ですくみがみられた。右上肢の巧緻運動障害がみられたが、2~3か月で体幹の傾斜が顕著となり、
独居のため病院へ紹介とした。
考察) 左右差や体幹アンバランスが進行性、運動障害の進行が速いためPSPタイプと推定される。
6) 73歳女性 CBS-PNFA/CBD
数年前から言葉が出にくくなり、自転車で転倒して乗れなくなる。2年前から動作歩行が緩慢となり思考遅延や注意障害も顕著となった。前医でCBSと診断。レボドパを2年処方されているが効果は不明。1年前から動作歩行が悪化して短文も話せない。最近は後方に転倒しやすくなった。表情は明るいが、ほとんど話せず、左半側空間失認が顕著で、半身態勢で体を横にして歩行してしまう。右上肢のみ鉛管状筋強剛、体幹は大きく右へ傾斜。動作は緩慢。
転倒による頭部打撲により脳室内出血に至ったが、奇跡的に回復されてからも平地は介助なしで歩行。
考察) 運動障害の進行が遅く、失語症と視空間失認など大脳皮質症状が顕著なCBDらしいタイプ
7) 62歳女性 CBS-FTD-Pick or Prion?
4年前から記憶障害、遂行機能障害、3年前から左上肢のミオクローヌス、転倒しやすい。アルツハイマー?との診断でドネぺジル10mgが処方された後から興奮性となり、メマンチンを追加されて嗜眠状態となり幻覚などが現れてせん妄状態となり、歩行が不安定でさらに転倒しやすくなる。某病院で免疫系疾患と診断されてステロイド点滴・治療をされてから、さらに歩行が困難、体幹の傾斜が強く食事に時間がかかる、1年前に高熱のため入院。ドネぺジル10mgで続行されていた。鎮静剤を同時投与されて急速に悪化しほとんど無動無言状態に至った。最終的に薬剤は整理されて、ミオクローヌスに対する薬剤としてクロナゼパム、バルプロ酸、ニトラゼパムなどが投与されたが、まだ嗜眠状態が強かったため、家族判断で薬剤を減量して嗜眠状態は軽快した。左側空間無視が顕著、左上肢の屈曲にてミオクローヌスが誘発。左右とも把握反応著明、重度失語状態で話せず、強制泣き・笑いがみられる。
考察) 運動障害・精神障害ともに進行が速いが、ドネぺジルとステロイドが病状をさらに悪化させたと推定された。
8) 83歳男性 CBS-AD
数年前から記憶・見当識・注意障害があり、認知症専門医を受診したが、神経内科受診を勧められた。
左半側空間失認 、ベッドに斜めに寝る(再現性あり)、動作緩慢、思考遅延、非流暢性失語、鉛管様筋強剛左右差、
軽度の体幹傾斜、時計描画不可能、図形模写が困難、不正確。表情は明るく朗らか。
考察) 認知症から発症し、行動心理症状なしのタイプ、CBSの高次脳機能症状は遅発性であるのが特徴的
以上のように各症例はそれぞれ経過も進行度もさまざまですが、CBSとしての特徴的所見の存在は共通しています。いずれに前頭葉障害と高次脳機能障害を神経心理学的に正しく評価することが必要です。
上記症例を見てもわかるようにCBSは初期に高次脳機能障害を正しく評価しないと診断できません。医者が評価できないのであれば、言語聴覚士や臨床心理士などを活用して評価できる体制にしたほうがいいでしょう。安易に認知症中核症状=アルツハイマーとしてしまうのは危険です。CBSには抗認知症薬剤、特にドネぺジルとメマンチンには相性が最悪のようなので使用禁忌とすべきでしょう。安易に抗認知症薬を投与する前に、きちんとした神経所見の評価が必要だと感じられました。現存する神経系の薬剤はほとんど効果がないばかりか、むしろ病状を悪化させる可能性が高いと思われますので、できるだけ使用しないほうがよいと考えます。タウオパチーの根治治療として期待できる「タウ凝集阻害薬」の登場が待たれます。


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by shinyokohama-fc | 2014-10-31 18:47 | 医療

多系統萎縮症(MSA)について

多系統萎縮症(MSA)について、私自身の臨床経験を基に解説したいと思います。
MSA-C(かつてオリーブ橋小脳萎縮症・OPCAと呼ばれていた)は進行性の小脳失調をきたす脊髄小脳変性症(SCD)の1型とされていていて、あくまでSCDの亜型と考えられていました。しかし、進行性のパーキンソン症状(錐体外路症状)をきたす線条体黒質変性症(SND)や進行性の自律神経症状をきたすShy-Drager症候群(SDS)と類似した病理所見が確認されて1969年に多系統萎縮症(MSA)という包括した病名が発表されました。1998年~99年にかけてMSAの診断基準が発表され、その後難病申請の診断書もSCDやパーキンソン関連疾患とは区別されるようになりました。
多系統萎縮症というのは正確には「進行性多系統神経系機能障害」と言うほうが適切です。発症年齢は35歳~80歳と幅広く、男性が8割程度です。一般的には50歳~65歳の発症が多いという印象です。①自律神経症状 ②錐体路症状(痙縮)③錐体外路症状(固縮)④小脳失調の4つが主な症状で症例により差がありますが、最も重要な症状は自律神経症状であり、程度の差はあれどのタイプでも必発の症状だと言われています。
MRIやCTの画像診断では異常が現れないので、忙しい医療機関の外来では問診や診察が不十分でケースが正しく評価されないケースが多いです。睡眠時のいびきや無呼吸の有無を聞いたり、排尿状態を聞いたり、失神や立ちくらみの既往を聞いて、ベッドサイドで起立性低血圧の程度くらいは最低確認すべきでしょう。MSAに関しては初期から40~50mmHg程度の収縮期血圧低下は珍しくなく、中期以後になると70~80mmHgの低下、立位血圧が50~60mmHgでも失神を起こさなくなるのでかえって恐ろしいです。自律神経症状は進行性で非常に強く、薬剤治療に抵抗性ですので最も苦しめられる症状です。特に顕著なのは便秘と排尿障害であり、排尿障害は早期から導尿か尿カテーテル留置が必要になります。また体温調節障害・発汗障害による連日性のうつ熱性の発熱(37~38℃)、難治性の褥瘡、睡眠時無呼吸、喉頭喘鳴なども起こります。血圧・体温・呼吸のコントロール不能により突然死の転帰が多いと言われます。
特に自律神経症状が強いのはSDS(Shy Drager症候群)で、度重なる高度の脳血流低下を反復するため、物忘れなど認知症症状が強くなると言われています。つまり二次的な虚血性認知症が起こりやすい状況にあり、中期以後では慢性的な脳血流低下に伴い、側脳室周囲の白質変化や前頭葉~側頭葉の萎縮が目立つケースも少なくないようです。
初期~中期はMRI/CT検査で脳幹・小脳萎縮が目立たないケースも多くて、多くが見逃されています。MRIの脳幹のクロスサインや被殻外側のスリットサインも必ずしも必発ではなく、古い型のCTだと脳幹・小脳の画像診断が困難なことが多いようです。また見た目の動作・歩行障害という印象から、「パーキンソン病」と診断されて、レボドパなどのパーキンソン治療薬が処方されているが効果が今一つというケースが多いようです。しかしレボドパには強い依存性があるので一度長期投与されると効いた気になってしまうため中止できないという事が往々にしてあります。ドパミン作動薬に関しては一部の症例で有効性があると報告されていますが、いずれも適応外の使用になります。
筋肉の硬さ(トーヌス)に関しては多くの症例では上肢では正常より低下(小脳失調のため)、下肢では正常より亢進(錐体路症状のため)していて、診察では折りたたみナイフ現象や深部腱反射亢進、病的反射(Babinski反射)の確認は必須です。MSAが歩けない理由は1つではなくて、小脳性運動失調以外にも高度の低血圧による脳血流低下、下肢痙縮(筋肉のつっぱり)と固縮による関節の屈曲制限、姿勢反射障害など多岐にわたります。それゆえ比較的早期に歩行困難に至るようで、この点が小脳性運動失調以外の運動阻害因子がなく何年経過しても杖歩行で通院が可能なLCCAやSCA6とは全く違うのです。さまざまな神経所見がオーバーラップしており、この病気の診断にはベッドサイドの診察において上で述べたようないかに神経学的所見を正確にとれるかが最大のポイントになります。いずれにしても
安易にCT/MRI画像所見だけでは診断できない疾患であることを特に強調しておきたいです。
このたび難病医療費助成制度の変更により、神経難病の新規申請には都道府県の指定した「難病指定医」による診断書の記載が必須となりました。ぜひ当クリニックへご相談ください。


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by shinyokohama-fc | 2014-10-20 12:47 | 医療

画像診断の必要性とその功罪

まずテーマを語る前に、当院に先月来院した症例を紹介します。
70代後半の女性。生来ほぼ健康であったが、1~2か月前から同居されるご家族が何かおかしいと感じて、外来受診されました。この症状で医療機関を受診するのはもちろん初めてとの事でした。重篤感は全く感じられず元気。礼節は保たれており、第一印象にて精神的に何も違和感ない感じ、これは軽度認知障害か軽度アルツハイマーかと思い、一応簡易知能スケールや時計描画テストを実施してみました。驚くべきことに何を質問してもほとんど何もできない!もしここまで重度に至るのなら少なくとも4~5年はかかるはずです。しかし脳卒中のエピソードもなく、レビーらしさもピックらしさもないのです。これはただ事ではないと思い、画像検査を見なければと感じたので、画像検査の可能な脳神経外科のクリニックに紹介しました。結果は左前頭葉白質に浮腫性変化を伴った腫瘍性病変あり、脳梁を経て一部反対側に進展しており、悪性ではないかとの事でした。高齢者の場合は前頭葉~側頭葉は特に加齢による脳萎縮がみられるため、頭痛や嘔吐などの症状や局所症状がなかなか現れにくく、認知症症状が進行してやっとわかるというケースが多いのです。それゆえ、初診の場合は今までなかった認知症症状が現れたら軽度でもまずはCTかMRIの画像検査を実施したほうがいいと思われます。
脳腫瘍以外にも正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫は画像診断でなければ診断できない病気で、いずれも脳神経外科の治療対象です。
しかし、その一方で当院を受診する認知症関連の方々はすでに画像検査を他院で実施済みの方がほとんどです。中には病院でMRI以外にシンチグラムなど複数検査の連続であったというケースも少なくありません。それなのに臨床的な診察が不十分なために、肝心な臨床評価ができていないようです。
認知症診察において重要なのは1に付き添いのご家族からの詳細な問診。2に患者さん本人の詳細な診察。3に検査(血液検査や画像検査)になります。
上記症例で画像検査を依頼したのも、1と2がきっかけでした。1と2があって検査を検討する。それが本来の臨床の流れのはずです。ところが画像検査のみ熱心で、それよりはるかに重要な1や2はおざなりにされている事がこれだけ多いというのはどういう事でしょうか?画像検査の所見だけを根拠に診断は「海馬が萎縮してるから○○」とかどうして言えるのでしょうか?1や2を十分評価できずに臨床診断(病理診断ではない)や投薬処方は考えられないです。症状を正しく評価しないから、見当違いの処方になるのでしょうか?
私が研修医の頃はMRI検査がようやく始まった頃でした。それ以前の時代はCTもない時代もあったようです。それがたった20年で日本中に画像検査機器が溢れる状況になりました。今やMRI検査機器のある診療所も珍しくなくなりました。しかし検査よりも問診と診察のほうがはるかに大事なのです。
認知症は内科の病気です。精神科や神経内科や脳神経外科だけが診る特殊な病気ではありません。認知症の方はさまざまな内科的合併症を伴いやすいです。高血圧、糖尿病、血栓症、慢性心・肺・腎・肝疾患、甲状腺疾患などで
これらの合併症にもすべて対応できなければいけません。内科医としては認知症だけでなく様々な疾患を診ていきたいと考えています。



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by shinyokohama-fc | 2014-08-12 17:07 | 医療

前頭葉の身体化症状について

認知症やパーキンソン関連疾患を診察する上で前頭葉の臨床評価は欠かせないものです。成書には以下のように記載されています。
1)前頭葉機能低下自体による症状
a)病識の欠如
b)自発性の低下
2)後方連合野への抑制障害による症状
被影響性の亢進・環境依存(模倣行為、反響言語、強迫的音読など)
3)辺縁系の抑制障害による症状
脱抑制・わが道を行く行動(考え不精、立ち去り行動、悪気はない)
4)大脳基底核への抑制障害による症状
常同行動(周遊、食行動、同語反復、反復書字、時刻表的生活)

初期の前頭葉系の変性疾患では四肢身体症状は目立たない事が多いですが、
初期から以下のような症状がみられるケースも少なくないです。
強制把握(foced grasping)
前頭葉特に内側に病変のある患者では、手に触れたものを自動的に握ってしまって離そうとしない現象がよくみられる。ただし把握したものを自分の意思で離す事ができる不完全な強制把握もあり局在意義は乏しい。
本態性把握反応(instinctive grasp reflex)
把握行動とも呼ばれ、行動異常の一種でしばしば強制把握と共存している。
手背部の刺激でも手指が屈曲が誘発され、刺激が移動すると手で追いかけて把握しようとする(模索反応)や眼前の物に掴みかかる(磁石反応)などもみられ、前頭葉内側に病変がある患者でみられる。
前頭葉性歩行障害(Frontal gait disorder)
前頭葉とその連結(基底核、小脳、脳幹)に関連した歩行障害。
平衡障害、運動減少・動作緩慢、歩行開始困難がみられ、歩隔の拡大(wide-based gait)、すくみ足、すり足、歩行開始困難、小刻み、大げさな腕振り、歩行速度の低下、体幹の側方傾斜、姿勢反射障害(立位姿勢保持困難、易転倒性)などがあり、後方によろめくように転倒する傾向(toppling-falls,crescendo-retropulsion)と呼ばれる。
病気としては多発性脳梗塞(Binswanger-type)、前大脳動脈梗塞、正常圧水頭症(NPH)、前頭葉腫瘍、多発性硬化症(MS)、大脳皮質基底核変性症(CBD)、進行性核上性麻痺(PSP)、硬膜下血腫、前交通動脈瘤破裂によるくも膜下出血、脳炎・脳膿瘍
上肢機能や顔面の表情は保たれている事が多い。
平衡障害は前頭葉から脳幹網様体・小脳への投射障害
運動減少は前頭葉から視床を経由した基底核への投射障害
運動開始困難は前頭葉から脳幹の歩行中枢への投射障害
とされています。
この2か月の経験ではNPH,PSP,MSAの他に前大脳動脈梗塞というのもありました。MSAの場合は小脳性運動失調に前頭葉性運動失調も加わるのできわめて歩行不可までの進行が速く運動機能予後は不良です。MSAは進行すると画像的には前頭葉も委縮変化と側脳室周辺の白質変化がみられます。
パーキンソン病との相違点は顔の表情がある(仮面様顔貌ではない)点ですが
ほぼパーキンソン病と類似した動作歩行障害であるようで、しばしば誤解されます。そのため私はFrontal Parikisonism と呼んでいます。
前頭葉性疾患、例えばFTDの進行期やCJDなどでは抵抗症(gegenhalten)という特異な筋トーヌスの亢進状態がみられます。初期は変動性ですが、進行して終末期に至ると除皮質肢位など高度の関節拘縮状態に至ります。
※抵抗症(paratony/gegenhalten);検者が何気なく四肢を動かすと抵抗はないが、力を抜くように指示するとかえって抵抗が強くなる。両側性の前頭葉障害で特に顕著。
前頭葉性運動失調(Frontal lobe ataxia)は上記平衡失調の事とほぼ同義ですが立ち上がろうとする際に、上半身を自身の足の上までもっていく事ができずに立ち上がれない。立位で立ち直り反射なしに後方へ倒れる傾向がある。
前頭葉性歩行障害と前頭葉性運動失調が初期からみられる代表的な病気はNPH、PSP、MSAですが、多くはパーキンソン病(PD)と誤診されています。
違いはパーキンソン治療薬の反応性の悪さ、レボドパに対するオフ現象が全くみられない事です。これらの治療薬は続行する意味は乏しいです。
しかし実際は病院の専門外来は患者集中による多忙状態のため、前頭葉性歩行障害や運動失調を的確に正しく評価している事が少ないようで、高名な専門医の外来ですら例外ではないようです。
今回は菫ホームクリニックの小田行一郎先生のリクエストに応じて前頭葉の身体化症状の解説をさせていただきました。
※参考「老年期認知症研究会誌(2010年)」「保健医療技術学部論集創刊号(2007年)」



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by shinyokohama-fc | 2014-08-04 19:08 | 医療
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