カテゴリ:医療( 41 )


側頭葉てんかん(TEA)の症例の雑感

80代前半の方で、2年前から幻視・幻聴があり、認知の変動がある、情緒不安定で、突然人格が変わる、思い通りにならないと易怒性、言葉や物の名前が出てこないという症状の方がおられました。前医で1年前と2か月前にMRI検査を施行されてますが、側脳室周辺に軽度の虚血性変化があるのみで、大脳・脳幹・小脳ともに病的萎縮はみられませんでした。脳波では側頭葉棘波がみられ再現性があるようです。診察してみても、動作歩行の緩慢さや思考遅延、振戦はまったくみられず、歯車現象・筋固縮はなくむしろ筋トーヌス低下していました。血圧の起立性変動も測定しましたが、起立性低血圧は全くみられませんでした。神経内科医としてはパーキンソニズムもなく、起立性低血圧もない症例をレビー小体型認知症(DLB)とは考えられません。前医(精神科)の診断も「側頭葉てんかん(TEA)」でした。問診だけの操作的診断でDLBとTEAを鑑別するのは不可能だと思いました。特にパーキンソニズムや起立性低血圧がみられない症例に関してはMIBG心筋シンチ・ドパミントランスポーターイメージング(ダットスキャン)などの検査によりDLBを除外診断したい所ですが、これらの検査は高額で拘束時間が長く、患者側の忍容性問題がありますので代謝能力の低下した80歳以上の高齢者に実施するのはやや酷な気がします。それより簡便に実施できる脳波検査でてんかん波がみられれば、TEAと診断するのは当然だと思います。前医ではカルバマゼピン(CAZ)を100~200mgで1年経過をみられていましたが、有効用量に届かなかったのか、残念ながら明確な効果は得られなかったようです。CAZは長期投与により小脳変性をおこすという事は成書に記載されています。この症例も軽度~中等度の小脳性運動失調症が確認されたため、CAZを中止せざるをえないと判断しました。画像診断で明らかな小脳萎縮は確認できないため、薬剤性(CAZ)が疑われます。高齢者の場合は微量のCAZでも忍容性に問題を起こします。やはり高齢者のTEAに対しては新規抗てんかん薬のラモトリギン(LTG)かレべチラセタム(LVE)を使用するしかないのではと考えますが、LVEに関しては「易刺激性・攻撃性・精神症状の変化に注意」とありますので、やはり現実的にはTEAには使いつらく、結局LTGを選択するしかないと思われます。LTGは双極性障害にも適応のある薬剤ですので、本例のような情緒不安定な症例には奏功するのではないかと期待したい所です。この薬は神経系の副作用がほとんどみられないので、皮膚粘膜眼症候群・重症薬疹の副作用さえなければと思います。

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by shinyokohama-fc | 2015-06-30 19:17 | 医療

前頭側頭葉変性症(意味性認知症・行動障害型前頭側頭型認知症)が7月から難病対象に

当院は昨年11月26日付けで神奈川県より神経内科の難病指定医として「指定医指定通知書」を受けています。
本日、厚労省健康局疾病対策課から「平成27年7月1日から、難病の方へ向けた 難病医療費助成制度の対象疾病が拡大します」というお知らせをいただきました。このたび既存の110疾病に加えて196疾病が追加されて306疾病に拡大されます。今回新たに追加された神経疾病には「前頭側頭葉変性症」が新たに含まれていました。
「(行動異常型)前頭側頭型認知症(bv-FTD)」「意味性認知症(SD)」の2つが対象のようで、「進行性非流暢性失語(PNFA)」と「運動ニューロン疾患を有する前頭側頭型認知症(FTD-MND)」は含まれていないようです。臨床調査票に示された、bv-FTDとSDの各診断基準を以下に示しますので、ご参考願います。
<(行動異常型)前頭側頭型認知症>
1)必須項目
進行性の異常行動や認知機能障害を認め、それらにより日常生活が阻害されている
2)次のA-Fのうち3項目以上をみたす
A. 脱抑制行動;以下の3つの症状のうちいずれか1つ以上をみたす
1) 社会的に不適切な行動 2) 礼儀やマナーの欠如 3)衝動的で無分別や無頓着な行動
B. 無関心(アパシー)または無気力
1) アパシー(動機、意欲、興味の消失) 2)無気力(行動開始の減少)
C. 共感や感情移入の欠如;以下のうち2つの症状のうちのいずれか1つ以上を満たす
1) 他者の要求や感情に対する反応欠如 2) 社会的な興味や他者との交流、または人間的な温かさの低下や喪失
D. 固執・常同性;以下の3つの症状のうちいずれか1つ以上を満たす
1) 単純動作の反復 2) 強迫的(常同的)または儀式的な行動 3) 常同言語
E. 口唇傾向と食習慣の変化;以下の3つの症状のうちいずれか1つ以上を満たす
1) 食事嗜好の変化 2) 過食、飲酒、喫煙行動の増加 3) 口唇的探究または異食症
F. 神経心理学的検査において、記憶や視空間認知能力は比較的保持されているにも関わらず、遂行機能障害がみられる
3) 発症年齢が65歳以下である
4) 画像検査所見 : 前頭葉や側頭葉前部にMRI/CTでの萎縮か、PET/SPECTで代謝や血流の低下がみられる
※脳血管障害が原因と考えられるものは除く
※画像読影レポートまたはそれと同内容の文書の写し(判読医の氏名の記載されたもの)を添付する
5) 以下の疾病を鑑別し、全て除外できる
①アルツハイマー病 ②レビー小体型認知症 ③血管性認知症 ④進行性核上性麻痺 ⑤大脳皮質基底核変性症⑥ 統合失調症・うつ病などの精神疾患⑦発達障害
6)臨床診断 ; 1)~5)の全てをみたす
(重症度分類に関する事項)
⓪ 社会的に適切な行動を行える
①態度・共感・行為の適切さに最低限だが明らかな変化
②行動・態度・共感・好意の適切さにおいて、軽度ではあるが明らかな変化
③対人相互関係がすべて一方向性である高度の障害
<意味性認知症>
1)必須項目
次の2つの中核症状の両者を満たし、それらにより日常生活が阻害されている
A. 物品呼称の障害 B. 単語理解の障害
2) 以下の4つのうち少なくとも3つを認める
A. 対象物に対する知識の障害(特に低頻度/低親密性のもので顕著)
B. 表層性失読・失書
C. 復唱は保たれる。流暢性の発語を呈する
D. 発話(文法や自発語)は保たれる
3) 発症年齢が65歳以下である
4) 画像検査所見 :側頭葉前部にMRI/CTでの限局性萎縮がみられる(脳血管障害が原因と考えられるものは除く)
※画像読影レポートまたはそれと同内容の写し(判読医の氏名の記載されたもの)を添付する
5) 以下の疾病を鑑別し、全て除外できる
①アルツハイマー病 ②レビー小体型認知症 ③血管性認知症 ④進行性核上性麻痺 ⑤大脳皮質基底核変性症 ⑥うつ病などの精神疾患
6) 臨床診断: 1)~5)の全てを満たす
(重症度分類に関する事項)
⓪ 正常発語・正常理解
① 最低限だが明らかな喚語障害。通常会話では理解は正常
② しばしば生じる発語を大きく阻害するほどではない程度の軽度の喚語障害・軽度の理解障害
③ コミュニケーションを阻害する中等度の喚語障害、通常会話における中等度の理解障害
④ 高度の喚語障害、言語表出障害、理解障害により実質的にコミュニケーションが不能
FTLD(bv-FTD/SD)の上記診断基準に関しては実際の臨床現場の感覚から言うと、きわめて難しい問題点・課題が以下1)~3)のようにありそうです。
1) 発症年齢を65歳で区切っている事
いつから疾病が発症したかというのは、神経変性疾患の場合は極めて特定が難しく、正確には不明です。何故なら家族・職場など周囲の人間の客観的評価に依存する所が大きいからです。わずかな仕事や生活上の異変をも的確に把握する能力にも差異があり、また家族の客観的情報が真実かどうかを確認する事は指定医側からは不可能です。
65歳からと申告すれば難病で、66歳からと申告すれば難病ではない、その差は何なのか?という疑問があります。
実際は65歳以上で発症したであろう典型的な臨床像のbv-FTDも少なからずみられます。
2) 混合型の臨床像には診断基準は対応していない
bv-FTDやSDの臨床像としては動作歩行障害を伴わないという事ですが、特に50歳前後という早期発症例では発症7~10年でパーキンソニズム、視空間認知障害などが混在してきます。これらの臨床像としてはPSPやCBDと鑑別が困難な事例も少なくないという印象です。またPSPやCBDと思われる症例の中にもbv-FTD的な要素の強い(上記診断基準にもおおよそ合致している)臨床像のケースも私が1年間で診ただけでも5~6例は存在しました。
3) 画像診断を重視しすぎている(画像読影医のレポート添付を義務つけている)
画像診断において、前頭葉・側頭葉に萎縮変化がみられるのは、初期からではなく2~3年以後であり、個人差が大きいです。また多くの症例がこの時期になると行動障害の病状が悪化して検査拒否・安静不能の状況に陥ります。鎮静剤を使ってでも検査しろとでも言うのでしょうか?そこまで画像検査診断に価値があるとは思えないのです。実際前頭葉型ATD、前頭葉型DLBのような臨床像のケースもありますし、検査を実施することによって益々診断が迷走するというケースがむしろ多い気がします。どこから病的萎縮と判断するのか?は判読医による読影スキル・経験・価値観の差異が問題になります。そのような事で運命が左右されるなどあってはならないことです。
病気の診断というのが(患者家族や医師など)人間の主観的印象に左右されてしまうのは、ある程度仕方のないこととはいえ現実問題として、bv-FTDの典型例にまで、コリンエステラーゼ阻害薬が使用されて、行動障害を悪化させているというケースが後を絶たないようです。これは家族情報を担当医が共存できていない事の証左と言えます。この「前頭側頭葉変性症」という疾患群の方々がどれだけ正確に診断されて、難病医療費助成制度の恩恵に預れるのか、今後注目していきたいと思います。


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by shinyokohama-fc | 2015-06-09 19:21 | 医療

新潟市と学会の印象

第56回日本神経学会学術大会が、新潟市の朱鷺メッセで今週行われていて、私も参加してきました。昨年の学会は福岡だったのですが、個人的事情でホテルがとれず飛行機の弾丸行脚となったのですが、今年はいつものように1泊2日で、往復は上越新幹線で行きました。飛行機だと気圧の影響で中耳炎になりやすいので、その点新幹線は安心できます。東海道新幹線から上越新幹線への乗り換えは意外にスムーズでした。神経学会はいつも地方都市でやるので、いろいろな地方を訪れるのが楽しみでもあります。今まで一番遠かったのは北海道と鹿児島でした。今回は2日間とも晴天に恵まれ、朱鷺メッセ・31F(140.5m)の展望台から望む、日本海・信濃川・越後平野の見晴らしも最高でした。新潟市街には他にも万代シティレインボータワーや日本海タワーなど展望台があります。
信濃川はさすが日本最長の川であり、信濃川をウォーターシャトルにも乗船しましたが、まさに大河という実感を強く感じられました。その信濃川には萬代橋という歴史と伝統ある橋があり、海側が古町、駅側が万代という繁華街だそうです。講演会の合間の時間に古町を訪れましたが、三越店内や周辺は年配の女性が多かったようです。古町にある古くからあるJAZZ喫茶を約10年ぶりに訪れました。この店は店内の景観やスピーカーの佇まいからして本当に王道のJAZZ喫茶という感じの店で個人的にはこういう店を文化遺産にして保護してほしいと思います。
新潟市は30年前は人口50~60万人の地方の中核都市でしたが、近年の平成大合併で人口が80万人を超えて政令指定都市に昇格しました。同規模の地方の政令市の先輩格の仙台市や広島市に比べると、駅周辺や繁華街の人通りは意外なほど少なくやや寂しい気がしました。越後平野は日本有数の水田地域ですので農繁期という影響もあるかもしれません。
今回は同じ学会に所属している旧知の知人とは予定が合わず残念ながらすれ違いでした。この学会は早朝8時に開始・夜8時終了というきわめてハードな学会です。学会では初日にはホットトピックス講演「認知症診断におけるタウイメージングの進歩」を聴講しました。検査の進歩には感心する一方でやはり臨床・PET検査・病理を合致させるのは不可能であり、混合病理もあり診断はカオス状態だという事を改めて思い知らされる内容でした。翌日は教育講演ベーシック「一歩進んだALS診療」を聴講しました。前日に新聞各紙で記事にもなった「メコバラミン大量筋注療法による筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者に対する臨床試験」の内容も詳細に発表されていました。メコバラミンはグルタミン酸毒性とホモシスティンを抑制する効果もあるようなので、神経変性の進行を抑制できるのかもしれません。ただこの臨床試験で使用されている用量を使うとなるとアンプルを大量に切らないといけないので現実的には難しそうです。


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by shinyokohama-fc | 2015-05-22 18:38 | 医療

症状が同じでも病態は異なる/病因は同じでも病態は異なる

臨床の現場で長年診療していると以下のケースに当たる事が少なくないです。
1) 症状は同じでも病態は異なることがある
例えば前回のブログで取り上げた若年性認知症に関しては一般的に言って頭頂葉と前頭葉の症状が中心になります。
頭頂葉の症状が中心だと一般的に大脳皮質基底核変性症候群(CBS)と診断され、前頭葉症状が中心だと行動障害型前頭側頭葉型認知症(bv-FTD)と診断される傾向にありますが、その病態は死後の病理解剖では、CBDやFTDではなくアルツハイマー(ATD)と診断される事が少なくないようです。つまり頭頂葉・前頭葉症状が中心でもCBD,FTD,ATD,
と様々な病態が考えられますが、それらを鑑別する事は不可能です。現在研究中のアミロイドPETやタウPETに多少は可能性がありますが、検査が超高額であるために実用的とは言えません。また混合病理・病態には対応困難です。これらすべての疾患を網羅しうる現時点では根治的治療法はタウ凝集阻害剤しかないと思われます。
CBSでも病理はPSP、PSPSでも病理はCBDなども珍しくない事であり、病理診断を臨床診断と合致させる事は不可能であることは成書に記載されています。今現在もっとも混沌としているのは幻覚・パーキンソン症候群の解釈であり、この症候群がDLB以外にもPSPS,CBS,bv-FTD,J-ATDなどが少なからず混在しているようです。パーキンソン症状があればレボドパなど抗パーキンソン薬剤を使うべきか?たしかに一度は試してみる価値はあると思いますが、有効性・メリットが感じられなければすぐに撤退(減量・中止)すべきだと思います。私の臨床経験では比較的安全に抗パーキンソン薬剤が通常用量で規定通り増量して使用できるのは発症10年以内のパーキンソン病(PD)だけだと思います。DLBやPDDは通常量だと幻覚・妄想などの統合失調症様症状を誘発しやすいですし、中には抗パーキンソン薬剤で低活動性せん妄や嗜眠傾向が誘発される症例も少なくないのが現実です。
2) 病因は同じでも症状が異なることがある
同じアルツハイマー病態(病理)でも60歳以下の若年発症者は頭頂葉・前頭葉症状が中心になり、問題行動が顕著です。一方で70歳以上の高齢発症者は数年間は海馬症状だけにとどまる症例が多く、一部前頭葉症状が出現するくらいで、頭頂葉症状まで出現するケースはごく稀です。またシヌクレイン病態(病理)でもPD,PDD,DLBはそれぞれ臨床像と経過の格差が大きく、特に発症年齢によってまるで臨床像が違うようです。PSPSやCBSもまったく同じで臨床像はさまざまです。一般的に言えることは若年発症は進行が比較的速い傾向にあり、高齢発症は進行が比較的遅い傾向にあると言えます。PSP症候群においては特にそれが顕著なようです。神経変性疾患を数多く診療して強く感じる事は、今の正確性の乏しい診断名(ATDとかDLBなど)から決まった画一的な薬物選択というシステム自体にもはや限界を感じます。それが柔軟性のない硬直化した薬物治療を多く生み出しているような気がします。やはり重要なのは診断ではなく対症療法です。認知症症候群の様々な多種多彩な症状への対応、副作用が非常に出やすく使いにくい神経系の西洋薬よりもむしろ漢方薬に可能性を感じます。今後は様々な漢方薬を積極的に試していきたいと思います。



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by shinyokohama-fc | 2015-05-18 19:26 | 医療

若年発症の認知症症候群

一般的に神経内科医が認知症症候群として若年発症のケースを診療するケースは稀です。たぶん認知症専門外来でも1~2割程度、一般内科医が診る機会はほとんどないのではないかと思います。多くは行動異常が前面的に現れるために実際は精神科を受診することがほとんどではないかと思います。多くは「認知症」としての診断が困難で、精神疾患と捉えられて薬物治療が実施されるケースが多いようです。前回のブログに書きましたように、抗精神薬やコリンエステラーゼ阻害剤で過剰な副作用・奇異反応によりかえって病状が悪化するケースが多いようです。
45~65歳の若年発症例では病状が4~5年単位で目に見えて進行するケースが多いようです。また若年に限っていうとアルツハイマー型(ATD)は30~40%程度で、前頭葉型(FTD)の割合が多いと言われます。実際はATDでもFTDでも臨床症状・経過としては程度の差異はあれど、一般的に以下のような特徴を示す傾向にあります。
1)早期からの頭頂葉症状
肢節運動失行(習熟した行為開始が困難)・観念運動失行(習慣的動作が意図的にできない)・観念失行(目的のある道具使用と一連動作ができない)・構成失行(形態・造形ができない)・着衣失行(衣服の着脱衣ができない)・左半側空間無視(左側の対象を見落とす、常に左側を無視し、右側を向く)
2)早期からの前頭葉症状
運動性失語・非流暢な会話・被影響性亢進/環境依存傾向・常同行動/周徊行為・脱抑制行動(立ち去り行動など)
3)パーキンソニズム(おそらく前頭葉起源と推定される)
姿勢異常・動作歩行の緩慢さ・四肢の巧緻運動障害など、通常振戦(手足の震え)はみられない
記憶障害が進行するよりも1)~3)のような行動異常が進行してくるので、当人の不安・焦燥がより強いようです。臨床症状の特徴から、しばしば大脳皮質基底核変性症候群(CBS)との鑑別が難しくなります。臨床的にFTDやCBSと診断されたケースが病理診断がATDであったという事は少なくありません。頭頂葉症状と前頭葉症状が双方とも顕著な臨床像ではCBS-FTDと命名されます。病理診断はFTDだったりATDだったりします。パーキンソニズムがあるからDLBという事ではないと前回のブログで書きましたが、症例を見ればその違いがわかるはずです。
個人的な感想ですが、認知症症候群の病理診断名を臨床診断名にするのは無理があるのではないかと感じます。記憶障害は側頭葉症候群、失行は頭頂葉症候群、脱抑制・アパシーは前頭葉症候群という名前でいいのではないか。それぞれの症状についての対応が大事だと思います。現状は診断はATD?(ATDという正確な診断は現状では不可能)だろうから全員一律にコリンエステラーゼ阻害薬を決まった用量で内服させようということになっていますが、前頭葉症候群が強いATDに対してはかえって常同行動や脱抑制を悪化させてしまうリスクもかなり高いわけです。若年発症者の場合は最初の2~3年は問題なくても、2~3年経つと薬による問題が出てくる事が多い。前頭葉症候群はもっとも介護者を精神的に疲弊させる症状ですので、薬が適切なのか再考する必要が出てくると思います。


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by shinyokohama-fc | 2015-05-16 16:58 | 医療

精神疾患と神経変性疾患の鑑別検査

認知症の行動心理症状に幻覚・妄想というのがあります。一方で認知機能障害を伴わない高齢者の妄想性精神障害が高齢者人口の急増に比例して最近増えているようです。高齢の独身者(未婚者または未亡人が多い)、独居者、社会的・精神的に孤立者などが多いようです。精神学者のRothにより、遅発性パラフレニー(the natural history of mental disorder in old age)と名つけられています。また遅発性統合失調症なるケースもあり、自分とは無関係の対象への体系化された幻覚・妄想を訴えます。双方とも認知症はまったくないかあってもごく軽度(年齢相応)です。
本来はこういう症状が主体の方は精神症状の対処に精通した精神科医を受診されるのが適切なのですが、私のクリニックにもときどきこういう方が来られます。診察した第一印象ではDLBのような違和感は感じられません。プレコックス感や暗い感じも全くみられません。初対面の人に対する人格・感情・礼節などは保持されているようです。
しかし本人やご家族に話を聞いてみると、幻覚・妄想が自分とは本来無関係の対象にまで体系的に広がり、発展性があるようです。その訴えの内容も自身に対する迫害妄想や色情妄想でより具体的であるため、それに関連した問題行動を起こしてしまうリスクを伴うようです。統合失調症などの精神疾患の病歴がなくても統合失調気質、妄想的人格傾向の方は数多く存在しますので、そういう人々が高齢化による周辺環境の変化により発病してしまう事が少なくないようです。当院に来るまでに前医であらゆる抗精神薬が試されている方もいますが、多くはこういう薬剤が奏功しにくいようです。また薬の長期内服により副作用の問題が懸念されます。若年者と同様に自傷他害に至る危険性が非常に高く、本人の同意を得ない入院の対象になりうるため、精神保健指定医による診療が必須と考えています。
認知症の妄想の多くは家族など身の回りの人を対象とした物盗られ妄想や嫉妬妄想で、DLBにおいても幻覚(幻視・幻聴)と被害妄想を訴えますが、断片的で体系化されておらず、空想的で内容は変化する場合が多いので、周囲の人間が適切な介護ケア対応をすれば問題行動を起こすに至らない事がほとんどです。
遅発性統合失調症やパラフレニーなどと思われる幻覚・妄想を中心とした精神症状で来院される方の多くはATDでみられる認知機能低下はなく、DLBでみられる動作歩行緩慢などのパーキンソニズムがまったくみられません。認知症を診察してきた神経内科医の立場から言うと、やはりATDでは相応の認知機能低下、DLBでは相応の動作歩行緩慢・思考遅延がみられるはずです。典型例DLBのパーキンソニズムはPDのそれに比べると多くは軽度ですが、医療者でなくても誰が見ても第一印象でそれだと目で見てわかるくらいハッキリしています。
昨今はDLBの疾患啓蒙活動が功を奏したためか、DLBの精神症状だけがクローズアップされているようですが、臨床現場ではDLBという疾患はそれほど多いという印象はありません。特に動作歩行障害・パーキンソニズムがまったくみられない(診察上でドパミン欠乏が全く確認できない)、抑うつ症状や激しい幻覚・妄想症状が前面に現れた非典型例の場合は除外診断目的としてダットスキャンを使用したドパミントランスポーターイメージングシンチグラフィー(DTI)という検査が有用ではないかと考えます。逆に言えば臨床的にパーキンソニズム動作歩行障害のハッキリしている症例にこの検査を実施してもほとんど意味はありません。例外的には心因性・演技性パーキンソニズムの場合は、疾病利得的な心理性が強い方が多くて対応に困ります。遠方から遥々付添人なしで単独で来院する方が多いです。こちらがパーキンソン関連疾患ではありませんと説明しても、頑として「自分はパーキンソンだ」と言い張りなかなか納得されませんので、そういうケースではDTIは有用だと思います。DTIという高額な検査を実施せざるをえないのはCT・MRIという形態的検査では精神機能性疾患と神経変性疾患の鑑別が難しいからという理由です。


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by shinyokohama-fc | 2015-05-14 11:44 | 医療

行動障害型前頭側頭型認知症(bv-FTD)について

前頭側頭葉変性症(FTLD)は人格変化や行動障害、言語障害を主徴とし、大脳の前方部(前頭葉・前部側頭葉)に主病変を有する変性疾患の症候群です。3つの臨床病型が代表的で①前頭側頭型認知症(FTD)/行動障害型前頭側頭型認知症(bv-FTD) ②進行性非流暢性失語(PNFA) ③意味性認知症(SD)です。従来の病理診断的な呼称であるFTLDという呼称は臨床現場では用いられなくなりつつあります。欧米と違いアジアでは家族性は極めて少ないと言われていますが、何らかの遺伝的因子が関与している症候群も少なからず存在するようです。画像診断としては前頭葉と側頭葉前方部に限局した萎縮所見がみられ、国際コンセンサス基準によるとbv-FTDにはいかの臨床的特徴があるようです。
1) 早期からの脱抑制行動
2) 無関心・無気力・無感動(アパシー)
3) 同情または共感する能力の欠如
4) 保続的・常同的・儀式的な行動
5) 食行動の異常・口唇傾向
6) 実行機能の障害
bv-FTDは前頭葉機能低下そのもので起こる陰性症状(2)と前頭葉機能低下によりより後方(後方連合野・大脳辺縁系・大脳基底核)の機能がコントロールを失い暴走する陽性症状(1)があるようです。
陰性症状としてのアパシー・自発性の低下は初期の精神症状として9割でみられるが、陽性症状にかき消されて、気がつかれずにわかりにくい症例も多いようです。心的障害として他者の心的状態、思考・感情を推察したり、自分の思考・行動を振り返る意識が早期から障害されていまうことにより、家庭や社会における人間関係が破綻することが多いようです。また危険な運転行動や万引きなどの反社会的行為が目立つようです。
陽性症状としては抑制される部位により、以下のように分類されます。
1) 被影響性の亢進・環境依存症候 (模倣行為・反響言語など); 後方連合野への抑制障害
2) 脱抑制・我が道を行く行動(going my way) (立ち去り行動・考え無精など); 大脳辺縁系への抑制障害
3) 常同行動 (常用的周遊・食行動パターン化・時刻表的生活・反復行為) ; 大脳基底核への抑制障害
bv-FTDの食行動異常の9割以上が過食で、嗜好変化や偏食も目立つようです。極端に甘いものばかり大量に摂取するため糖尿病のリスクも高くなるようです。
環境依存傾向の強いbv-FTDのケアとしては環境設定が最も大事だと言われています。環境変化に適応できずに、脱抑制が悪化して粗暴化したり、逆にアパシーが悪化して動けなくなったりする事例はよく聞かれます。
bv-FTDの症例では特に40~60歳前後の比較的若年発症例では薬物療法が困難を極め、効果があっても短期間で、しかも様々な副作用が出やすく治療に難渋するケースが多く、その多くは抗認知症治療薬や抗精神薬の使用によって病状が悪化するようです。次節では症例から経験した薬物不応例・副作用例について報告したいと思います。
参考文献) 老年期認知症研究会誌 vol.17 2010 p97-100 ; 前頭側頭型認知症の臨床症候学 池田学教授(熊本大)


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by shinyokohama-fc | 2015-05-02 14:16 | 医療

パーキンソニズムとは何か?

神経学的な精緻診察なき乱雑な外来診療では「高齢者の歩行障害=パーキンソン病、パーキンソニズム」という安易な評価・診断がされがちです。患者が多く十分な診察時間がとれない状態では致し方ない場合もあります。
まず高齢者では脊椎疾患による脊髄障害による歩行障害を除外しなければなりません。特に女性の場合は骨そしょう症による脊椎変形や圧迫骨折が少なくないので要注意です。長期の脊髄圧迫は下肢運動障害の原因になりえます。
また高齢者では加齢に伴いドパミンが低下傾向になるので、動作が遅くなり、震えやすくなる傾向にあります。
まず注意すべきなのはドパミン阻害剤です。嘔気止めのドンぺリドンやメトクロプラミド、抗精神薬のスルピリドやチアプリドはたとえ少量でも高齢者女性では薬剤性パーキンソニズムをきたします。
パーキンソニズムを語る場合、まず本家の「パーキンソン病(PD)」を知る必要があります。PDの最大の特徴は左右差と初期の片側性です。初期~中期は必ず右か左かのいずれかにしか症状はありません。ベッドに横たわった状態、安静時の片手のリズミックな振戦(ふるえ)、丸薬手位という独特の手の姿勢があります。有名な歯車様筋固縮も同側にみられます。手関節と肘関節で一様な歯車的抵抗を確認できます。それに対して反対側にはそれらの所見はほとんどありません。次に姿勢は前傾姿勢、姿勢反射障害は前後に軽く押して踏ん張りにくい状態です。ただし姿勢反射障害の診察で明らかに自ら率先して倒れようとする場合があり、この場合は演技性・心因性という判定になります。発症年齢にもよりますが、発症して2~3年経つと動作が緩慢(遅く)になり、思考も緩慢で遅くなる傾向があります。PDの多くは神経質で慎重なので、中期まではほとんど転倒して大怪我することは稀です。高齢発症のPDの場合は動作歩行障害の進行が速く、発症後数年で幻視・妄想・認知機能低下が出現するタイプもあります。いわゆるPDDです。PDの一部がPDDに移行するようですが、高齢発症でもPDDに移行しないタイプもあるようです。
次に最近話題の「レビー小体型認知症(DLB)」ですが、一般的には上記のPDでみられるパーキンソニズムの軽度レベルのものが多く、やはり歯車様固縮ですが左右差はPDほど顕著ではないようです。DLBの中には前頭葉~側頭葉障害が強いタイプ、いわゆるフロンタルDLBがあります。この場合はフロンタルパーキンソニズムやアタキシアが混在してくるので、PSPSやMSAとの臨床的な区別が難しくなります。その一方で40~60歳と比較的若年発症に多い、妄想型DLBというのが存在します。統合失調症との鑑別が問題になるため、DATスキャンが診断に有用です。パーキンソニズムがほとんどみられないグループのためほとんどが精神科を受診しますので、神経内科の外来で診ることはまずありません。
パーキンソン関連疾患と呼ばれている疾患群ですが、見た目がPDと似ているだけで本質はまるで違います。
大脳皮質基底核症候群(CBS)は顕著な左右差が特徴的です。初期は一側の上肢のみ鉛管様固縮がみられます。やがて同側の運動拙劣が顕著となってきて、不使用という症状になります。しばしば運動麻痺と誤解されています。典型的なCBSは軽度のフロンタルアタキシアの開脚性失調歩行は存在するものの歩行は中期までは比較的安定しています。ただし視空間失認が顕著なため、一見安定しているように見えるわりには怪我が多いようです。
進行性核上性麻痺症候群(PSPS)は様々な病型があります。古典型のRichardson Syndromeは1~2年で急速に進行して歩行不可能になるタイプで、中脳被蓋が顕著に非薄化します。脳幹障害も非常に強いために、高度の嚥下障害に伴い喀痰貯留・呼吸障害などをきたしやすく、早々に胃瘻や気管切開を余儀なくされることが多いようです。
最近外来でよく見るPSPSはRSタイプに比べて進行の遅いタイプばかりです。しかし初期から姿勢反射障害が強く転倒するのが特徴です。またすくみ現象とフロンタルアタキシアの開脚性失調歩行が必ず全例にみられます。
PSP-Pというパーキンソン病にきわめて類似したタイプがあります。初期の臨床像はPDと似ていると言われますが、最大の違いは上肢に筋固縮が軽度~正常で左右差がないことです。頸部~体幹~下肢は筋固縮が目立ちます。
PSP-PAGF、純粋無動症(PA)タイプは前回ブログに記載したとおりで、四肢の筋固縮はほとんどなくむしろ筋トーヌスが低下しているためにしばしばMSAと誤認されます。体が固くないのにすくみや突進現象がみられます。PSPSの最大の特徴は前頭葉~後方連合野への抑制障害による被影響性の亢進と環境依存により動作歩行状態が大きく変化することです。ここが中脳黒質に限局性のPDとの違いです。
MSA(多系統萎縮症)の代表的なものはMSA-C(OPCA)です。上肢は小脳運動失調の影響で筋トーヌスが低下しますが、下肢は固縮ではなく痙縮となり、伸展位から屈曲するときのみ強い抵抗があります。Babinski反射や足のクローヌス(間代)という所見もみられます。MSA-P(SND)の場合は早期から四肢・体幹ともに高度の筋固縮があり、2~3年で全身がガチガチになります。あらゆる薬剤に抵抗性で、動作歩行レベルが著しく阻害されます。
NPH(正常圧水頭症)ではフロンタルアタキシアとパーキンソニズムが軽度~中等度みられます。初期はPSPSと非常に類似しているので、画像診断による確認が必須になります。画像診断でNPHでなければ多くはPSPSです。
このように代表的な疾患において「パーキンソニズム」を検証していくと一筋縄ではいかないというのがお分かりだと思います。やはりカギは「フロンタル・パーキンソニズム」と「フロンタル・アタキシア」の評価になります。
詳細は以前のブログをもう一度参照してください。


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by shinyokohama-fc | 2015-04-07 19:23 | 医療

中脳障害をきたす疾患(PSP症候群とDLB症候群)

中脳というのはあらゆる場所とつながり、複数の路線が乗り入れているバスターミナルのようなものかもしれません。中脳~脳幹を主座とするPSP症候群やDLB症候群において多彩な症状をきたす理由はここにあるのでしょう。
中脳連絡系に関連する症候を以下にまとめてみます。
1)中脳ーマイネルト核 ⇒意識障害、嗜眠、記憶障害 ;アセチルコリン欠乏
2)黒質ー線条体系⇒パーキンソ二ズム(動作緩慢、歩行拙劣など) ; ドパミン欠乏
3)中脳ー大脳辺縁系⇒幻覚・妄想・興奮 ; ドパミン亢進
4)中脳ー大脳皮質系⇒せん妄・症状の動揺性
例えば、3)の症状によくリスぺリドンという薬剤が使用されます。一方で制吐剤としてドンぺリドンもそれに類似した薬剤でやはり中脳に作用します。どちらの薬剤も効果が非常に高いため臨床現場で頻用される傾向にある反面、誤って作用してしまうと1)2)のような症状をきたしてしまうリスクがあります。事実としてリスぺリドンを高齢者に使用したり、ドンぺリドンを小児に使用したりすることによって、ドパミンが阻害されるだけではなく、脳幹網様体が誤作動して意識障害に陥ったりするケースが時々報告されています。フランスでは座薬の販売中止が勧告されているほどです。
中脳障害により神経伝達のバランスが崩れている、PSP症候群とDLB症候群ではアセチルコリンとドパミンの拮抗バランスも微妙に崩れていると推定されます。PSP症候群の中には上記1)~4)の症候すべてが出現・消退をくりかえす症例が存在するという事を最近知りました。この症例にはレボドパ、ドパミンアゴニスト、コリンエステラーゼ阻害剤、漢方薬(抑肝散、真武湯)など様々な薬剤が試されましたが、いずれも一時的に効果があっても持続しなかったり副作用で忍容できなかったりでした。中でもレボドパ少量で強烈な嗜眠をきたす状況でした。保険医療ではもはや限界と判断したケースです。PSPSとDLBSは程度の差はあれど1)~4)の症候をきたしうるようです。実に様々な症状が現れるため、あらゆる神経系薬剤が使用されがちですが、それらの薬剤によってさらにバランスを崩してしまうケースが後を絶たないようです。それだけ中脳障害系の疾患のコントロールは一筋縄ではいかず、まさに難関と言えるでしょう。
PSPSで特徴的な中脳被蓋の高度萎縮所見は進行の速いPSP-RS(Richardson syudrome)では確実にみられますが、比較的高齢で発症するPSP-PやPSP-PAGF,PSP-CBDなどでは顕著ではありません。また眼球運動障害も発症して数年以後に顕性化してくる症例がほとんどのようです。中脳萎縮が画像的に軽度だからといって、中脳障害が存在しないわけではなくて、程度の差こそあれ、1)~4)の症候は存在すると考えたほうがいいでしょう。
PSPSとDLBSの最大の違いは自律神経障害と言われます。自律神経障害に著効する薬剤は残念ながら存在しないようです。PSPSでは頻尿や便秘などの仙骨部~腰部にある副交感神経関連の症状に限定されますが、DLBSではしばしば高度の心血管系自律神経障害による30mmHg以上の高度の起立性低血圧や徐脈、体温調節や発汗障害などをきたします。起立性低血圧の有無の確認は両者の鑑別の参考になるでしょう。
最近保険適用となったDATスキャンによるドパミントランスポーターイメージング検査では両者の鑑別は困難ですがMIBG心筋シンチグラムでは鑑別が可能と言われます。ただしこの検査とて糖尿病や心筋疾患による他の要素を除外できるものではなく、検査というのはあくまで参考程度にしたほうがいいようです。
参照ブログ) 「老年科医の独り言」http://ameblo.jp/lewybody/


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by shinyokohama-fc | 2015-04-06 19:17 | 医療

純粋無動症(Pure Akinesia)という概念

前回に続いて、「KEY WORD 1998-99 神経変性疾患 先端医学社」の42~43ページから引用です。
レボドパ無効の純粋無動症~すくみのみを呈する症例~ 中村利生・今井壽正
無動症はパーキンソン病に特徴的な臨床症状であるが、レボドパの出現によりパーキンソン病の理解が画期的な進展をみてほどなく、1974年に今井と楢林は、歩行・所持・会話など反復運動の加速とすくみ(無動症の一種)を主徴とし、筋固縮や振戦が全くなく、レボドパが無効な2例を純粋無動症(Pure Akinesia)として報告した。
その臨床的特徴を列挙してみると、
①PAは歩行・書字・会話など反復運動の加速とすくみを主徴とする。
②加速とはこれらの運動が次第に速まり(一定の速さになり)かつ運動の振幅が小さくなることである。小字症(micrographia)は一般に加速書字と並行して出現する
③すくみとはこれらの運動遂行時に止まってしまうことで、運動の一過性の破綻現象である。加速歩行の極限としてすくみ足に至ることもあるが、突然にすくむことも歩行の開始時にすくむこともある。
④加速ーすくみと表裏一体となるkinesie paradoxaleの出現
⑤すくみ足が明らかになると立位で防御反応の低下に伴う後方突進現象(retropulsion)が必発する
⑥四肢に筋固縮や振戦がなく、筋緊張はむしろ低下気味である
⑦痴呆がない
⑧レボドパが無効である
今井はそのうち4例で測定した髄液中のHVAがいずれも正常範囲であったので、この加速ーすくみの主要責任病巣は黒質線条体ドパミン系とは異なる症候群として上記命名(PA)した。今井の自験例では20年間で34例に達した。男性19例、女性15例で、すべて孤発例である。発症年齢は32~73歳、平均61.5歳で、経過観察しえた最長罹病期間は18年である。経過観察しえたPAがその経過中にすくみ以外にどのような症状を随伴してくるかに関心をもった。それはすなわち、1964年にSteeleらが核上性眼球運動麻痺、仮性球麻痺、構音障害、頸部ジストニア、痴呆などを主症状として発表したPSPの臨床症状の複合である。当初PAと診断され、後にPSPと診断され、病理学的にPSPと確認された例もある。臨床的にPAと診断された経過2年の剖検例では、病理学的にPSPと診断されたが、中脳被蓋の所見が乏しいことも判明した。これはPSPの症例のなかにはPAを初発症状とするものがあることを意味する。
<純粋無動症の後発する随伴症状>
①眼球運動障害31 ②開眼失行10 ③頸部ジストニア10 ④嚥下障害8 ⑤軽度痴呆7 ⑥びっくり眼4 ⑦palilalia2
PA/PSP症候群
臨床的にPAとPSPを分離して論じることに不合理な症例を経験した。経過1年で症状は加速ーすくみと側方注視眼振と垂直方向注視麻痺であり、いずれも軽微だが確実である。眼球運動障害を有意にとればすでにPAではない。しかしPSPの臨床診断の必要条件からはほど遠い状態にある。ここにPA/PSP症候群を想定・提唱し、その早期診断のために必須の症状と存在すれば診断を支持・補強する症状を分けて提示してみたい。
<必須症状>
①姿勢反射障害;これはすくみ足とは等価ではないが、すくみが明瞭になれば立位での防御反応の低下に伴い後方突進現象が必発する
②筋固縮;PAでは四肢の筋固縮はないのが普通であるが、頸部の筋固縮の判定はしばしば微妙かつ困難である。頸部のpassiveな前屈で軽い固縮が認められることがある。
③寡動症(動作緩慢);これも加速ーすくみと等価ではないが、PAが明瞭となれば結果的に同様症状に陥る。またこの両者が合併して出現することもある
④レボドパが無効;PAでも一過性にレボドパが有効なことがあるが、著効することはない。
⑤眼球運動障害;眼球運動の神経学に精通していれば、病初期から異常を指摘することができる
以上より、PSPの初期相が常にPAではないが、PAはPSPの初期における一特殊型であり、その頻度はPSPの半数に達すると著者らは推測している
以上が引用です。
2007年にWilliamsらにより、PSPの第3臨床病型としてPSP-PAGF(pure akinesia with gait freezing)と命名され、その臨床診断基準案として以下のように示されています。
①発症が緩徐で、早期に歩行または発語のすくみ現象がある
②持続的なL-ドパの効果がない
③振戦がない
④画像で多発ラクナ梗塞やビンスワンガー病を示唆する所見がない
⑤発症5年以内に四肢の筋固縮、認知症、核上性注視麻痺、血管障害による急性のイベントがない
PSP-PAGFは通常のPSPより罹病期間が平均13年と長く、平均9年目に眼球運動異常が出現していた。PSP-RSと比較して、大脳皮質、線条体、小脳、橋核のタウタンパク蓄積が軽度であったと報告されています。
以前勤務していた職場で、私がカルテの評価欄に「純粋無動症(pure akinesia)」と記したら、専門医にそんな古い言い方は今はしないのではないかと諭されたことがありました。しかし早期からはPSPの診断基準を満たさず、「Pure Akinesia」と評価するしかない症例が実際は少なからず見られます。当院では現在まで23例のPSP症候群と思われる症例を診察しましたが、少なくとも4~5例はそういう症例がありました。その中には前医で「脊髄小脳変性症」と診断されて難病申請までされていたケースもあり、当院の初診時は発症後3年ほど経過していました。小脳性運動失調の評価を四肢でしてみましたが、指鼻・膝踵試験や回内回外運動などにおいて左右は同調しており、小脳失調を示唆する所見は全くみられません。近年の画像診断でも小脳萎縮は確認できませんでした。歩行は開脚性で失調性でした。おそらく前医は失調性開脚歩行=小脳失調だと判断したのでしょうが、前頭葉性失調(Frontal Ataxia)という概念を知らなかったのかもしれません。歩行は他のPSP症候群と同様の典型的な前頭葉性失調歩行であり、上記に列記してあるPure AkinesiaとPSP-PAGFの特徴にほぼ合致していました。特に四肢に筋固縮がみられず、むしろ筋緊張は低下ぎみにみえる事があるので、神経内科の専門医でも小脳変性症と非常に間違われやすいようです。私個人としては「Pure Akinesia(純粋無動症)」という臨床像を表現する用語として大事にしてほしいです。専門医が患者の体に触ったり観察したりする時間を十分とらずに、画像診断偏重になりつつある昨今こそ古くからの臨床神経学をもう一度思い起こしてほしいと思います。今回取り上げた内容はそういう意味で価値があると考えています。


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by shinyokohama-fc | 2015-03-27 19:06 | 医療
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