カテゴリ:医療( 41 )


開眼失行と眼瞼痙攣はジストニアの一種

先日、あるCBS-CBD(大脳皮質基底核変性症)と思われる症例の動画をみせてもらいました。開眼しない時間が多いとのことでしたが、なんと開眼しない状態で食事を普通に嚥下していました。前医では意識障害(せん妄)ではないかと言われていたようですが、意識障害下で食事を普通に嚥下するのは不可能です。意識障害の改善に使用されているシチコリン注射を実施されたが全く改善しなかったという事でした。これは眼の周辺筋のジストニアの一種で、開眼失行または眼瞼痙攣ではないかと思われます。この病態は全くと言っていいほど周知されていない症状のようですが、大脳基底核障害によるジストニアの一種です。特にPSPSやCBSではかなり高率にみられる症状です。進行性核上性麻痺機能尺度日本語版(PSPRS-J)には「眼瞼機能不全」という項目があり、そのスコアは1)瞬目の減少 2)開瞼閉瞼困難または眼瞼攣縮 3)瞼が開けつらく、眼瞼攣縮のため部分的視覚障害 4)瞼が意思に反して閉じるために目が見えない状態 と4段階で評価となっています。開眼失行と眼瞼攣縮の定義を以下に列記します。
開眼失行(apraxia of lid opening) ; 閉眼後の随意的な開眼において、上眼瞼挙筋の収縮開始遅延のため、開眼しようとしているが、なかなか開眼できない状態。開眼しようと眉を吊り上げたり、額にしわ寄せたりする事がある
眼瞼攣縮(blepharospasm) ; 眼輪筋など閉瞼に関与する筋の随意運動困難により自由な開瞼閉瞼ができない状態。眼瞼に力が入りすぎてしかめっ面になる。
当院で診療した50例の進行性核上性麻痺・症候群(PSPS)のうち、5例に明らかな開眼失行・眼瞼痙攣を確認しました。CBSも一部PSPSとオーパーラップする同じ疾患群ですので、2~3例に同様の症状を確認した記憶があります。
パーキンソン病においても発症後20年前後の経過の長い症例においてはレボドパのオフ時間に同様の症状が見られます。この症候は大脳基底核が起源だと考えられているようです。
意識レベルの評価として有名なグラスゴーコーマスケール(GCS)では意識レベルの評価として開眼機能(eye opening)というのがあり、E4)自発的に普通の呼びかけで開眼 E3)強く呼びかけると開眼 E2)痛み刺激で開眼 E1)痛み刺激でも開眼しないというスケールがあるくらいなので、医療者には開眼しない=意識障害だと誤認されやすい傾向があります。実際は眼瞼筋に不自然に力が入りすぎて開眼できないだけなので、このような状態の方は意識は清明に保たれているため、命令動作には従えるはずです。周囲の人々は「この人は意識がない」と勝手に認識して、油断して本人に都合の悪いことを平気で言ってしまう場合がありますので、かなり注意が必要です。
このような局所ジストニアの治療としてはA型ボツリヌス毒素が適応になります。神経筋接合部の神経終末からアセチルコリンの放出を阻害し、3~4か月の長期にわたる筋弛緩効果がありますが、かなり医療費としてはかなり高額になりますので、あまり普及していないようです。


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by shinyokohama-fc | 2016-06-20 17:14 | 医療

行動異常型前頭側頭型認知症(bv-FTD)の臨床類型、類似病型など

マンチェスター大クループのスノウデンらは行動異常型前頭側頭型認知症(bv-FTD)を、脱抑制型、無欲型、常同型の3つの臨床病型に分けられると提唱しています。つまりピック型認知症の代表格である、bv-FTDはすべて同じ症状という訳ではなく、やはり多様性があるという事です。3つの臨床病型の特徴を以下に示します。
1) 脱抑制型 (disinhibition form) ;前方連合野~辺縁系、前頭葉眼窩面・内側面、右腹内側前頭葉皮質~扁桃核
落ち着きなく、無目的な過剰活動、高度の社会性喪失による反社会的行動などが主症状で、生来の発達障害や知的障害と類似した行動パターンを示す。
A1)社会的に不適切な行動 A2)マナーや上品さ(言葉・行為・服装など)の喪失 A3)衝動的、軽率、不注意な行為
環境依存症候群;言語によって行為制御できない、利用行動、模倣行動がみられる
2) 無欲・無為型 (apathetic form) ;前頭葉背外側面、右BA10野
無気力、自発性・意欲低下、無頓着、保続的な症状が特徴
B)初期からB1)無関心・意欲低下 B2)不活発
C)初期から C1)他者要求や感情に対する感受性低下 C2)社会的な興味・人間的暖かさ、対人交流の低下
3) 常同型 (stereotypic form) ; 線条体、下部前頭前野、前部帯状回
初期から同じ行動や言葉があり、強迫的で儀式的な行動傾向がみられる。他人が制すると苛立ち、怒りやすい。
D1)単純な繰り返しの運動 D2)複雑な繰り返しの運動 D3)型にはまった言葉(反復言語)
bv-FTDは病理的には3リピートタウの異常蓄積によると言われていますが、初期~中期は前頭葉のタウ蓄積により障害される部位が局在的ですので、上記のようなタイプに分かれると思われます。bv-FTDの症例がすべて反社会的で暴力的だというわけではないようです。もちろん病状の進展にともなって1)2)3)の臨床症候がオーバーラップする可能性は高いと考えられます。
以上のbv-FTDに類似する症候の疾患群が存在します。実際に臨床的にbv-FTDの14%がCBD、7%がPSPと言われています。進行に伴い発症して5~10年経過してから、CBS,PSPSの臨床症候である、四肢動作障害や姿勢歩行障害が現れてくるパターンの症例が少なからずみられます。それ以外にAGD(グレイン、嗜銀顆粒性認知症)は全認知症の10%、高齢者認知症の50%を占めると言われています。最近は健康な女性長寿者の増加に伴い、80歳以上でbv-FTD的な症候で発症するケースが目立つようです。これらの多くはグレインであり、行動心理症状が目立ち、同居者や介護者が最も迷惑するタイプで外来では最も受診率が高い傾向にあります。FTD類似症候群としては、他にも遺伝性のFTDP-17、FTD-MND、DNTCなどがありますが、いずれも低頻度であり、通常の認知症外来で遭遇する頻度としては圧倒的に多数なのがAGD、続いてPSPS、CBSという印象です。AGDに関してはガランタミンだけで奏功するケースが多いようです。
bv-FTDの治療薬としては、最近出版された、前頭側頭葉変性症の臨床について書かれた書籍によると、脱抑制型には非定型抗精神薬が、無欲・無為型、常同型にはSSRI,SNRI、非定型抗精神薬が推奨されていました。しかし私の外来での臨床経験で言いますと、75歳以下で発症した典型的なbv-FTDと思われる症例ではこれらの治療薬の有効性は低いようです。どうやら統合失調症やうつ病のようには上手くいかないようです。先日の講演会によるとアパシーはうつとは違って、SSRIやSNRIは効果がないとの事でした。むしろアパシーに対してはドパミン作動薬のアマンタジンやアセチルコリンエステラーゼ阻害薬のリバスチグミンのほうが有効性が高いと言われてました。私もこの点には同意です。認知症患者のうつに対してよくSSRIなどが使われる傾向にありますが、殆どのケースでは無効か症状が悪化しています。これは認知症の行動心理症状の陰性症状の大多数がアパシーであるということを示していると思われます。アパシーとうつの鑑別は専門医でも難しいそうですが、うつは「やる気はあるのにできない」、アパシーは「最初からやる気がない」そうです。私の経験では前医処方でSSRI、非定型抗精神薬に対して無効な症例で、アマンタジンに変更すると上手くいく症例が多いようです。


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by shinyokohama-fc | 2016-05-30 19:07 | 医療

幻覚(幻視・幻聴)は前頭側頭型認知症で高頻度に出現

臨床的診断として前頭側頭型認知症(FTD)には行動障害型認知症(bv-FTD)、意味性認知症(SD)、進行性非流暢性失語症(PNFA)があります。前2者の疾患については、発症年齢65歳以下という条件で、今年7月から大幅に拡大された医療費助成対象疾病・神経難病に、PSPやCBDと同様に国に申請できることになりました。
実際の症例ではこの行動障害、語義失語、非流暢性失語というのはオーバーラップしています。またピック複合関連疾患と位置付けられている、PSPSとCBSの4リピートタウ症候群でも行動障害、語義失語、非流暢性失語が多くみられる事がわかってきました。つまり、ピック系群の疾患は大なり小なり失語症状がみられるようです。これは前頭葉・側頭葉の障害で現れる症状ですので、前頭葉・側頭葉に病変が拡大していくATDやDLBの一部バリアントにも現れると推定されますが、実際のATDやDLBの臨床的典型例では進行例でも失語は目立たないようです。つまり失語という症状はピック系群の症候群に特徴的な症状といえると思います。初期の軽度な段階ではしばしば家人や介護者から「会話がかみ合わない」という印象がもたれるようです。失語或いは会話障害と行動障害がみられれば、それだけで臨床的・前頭側頭型認知症として間違いないでしょう。臨床的・前頭側頭型認知症(FTD)にはbv-FTD,SD,PSP,CBSが含まれます。前2者は身体症状がほとんどなく、後2者は身体症状が顕著であるという違いはありますが、行動障害、失語症という点に関しては程度の差はあれ共通しています。
これらの症候群を数多く診て、病歴を聞いて新たにわかった事がありました。初期は前頭葉本来の症状である、アパシー(自発性の減退、無関心、無気力、無為)が前面に出ることです。しばしば老年性うつ病と誤認されて、多くは精神科医にTCAなどの抗うつ剤を処方されて、脱抑制症状が悪化して興奮したり、さらにアパシーが悪化したというエピソードがよく聞かれます。また、ある時期には非常に顕著な幻覚(幻視・幻聴)症状がみられる事です。PDやDLBのようなレビー関連症候群と違うのは、前頭葉特有の脱抑制症状が加わっているためかなり激しく訴えるという点です。認知症専門医らは「高齢者が幻覚を訴えればDLBだ」という思考回路があるのかもしれません。認知症専門医がDLBだと診断した患者を私が神経内科医としての視点でみてみるとまったくDLBらしさがない。つまりDLB特有の不幸オーラ、多愁訴による疾病過剰意識、陰鬱さ、動作の緩慢さがみられず、不自然なほどに陽気で鼻歌を歌ったり、手をたたいたり、椅子を回して遊んだりしています。この脱抑制ぶりはFTDだと誰でもわかるほどでしたので、物を指して名前を言うようにと5つ物品を示して聞くのですが、一つも言えません。重度の語義失語です。臨床的にFTD-SD、意味性認知症で間違いありません。日本で有数の患者を診ているであろう認知症専門医が「幻覚=DLB」と診断した患者を私はFTD-SDと診断したわけです。
ただこれらの症例ではChEI、クエチアピンが併用されていても、まったく幻覚や脱抑制症状は抑えられていませんでした。どうやらFTDはDLBとちがってChEI+非定型抗精神薬が奏功しにくいようです。臨床的FTDに共通しているのは、ChEIの2種類で幻覚や脱抑制症状が悪化しやすいということと、抗精神薬が非常に効きにくいという事です。既存の神経系薬剤が通用しにくくコントロールに難渋するので、PSPやCBD同様に神経難病に相応しい?と言えるのではないでしょうか?


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by shinyokohama-fc | 2015-11-27 18:58 | 医療

大脳皮質基底核症候群(CBS)の主要症候(2)行動抑制障害

タウイメージングPET検査において大脳皮質基底核変性症候群(CBS)ではタウが基底核と白質の限局的領域に蓄積するという報告がありました。PSPSでタウが前頭葉~側頭葉、中脳被蓋~脳幹、小脳に至るまで広範囲に蓄積するのと対照的でした。前頭葉障害型DLB(アミロイド蓄積型)でも前頭葉~側頭葉に広範囲にタウが蓄積するそうです。
CBSはPSPSに比べて非常に進行が緩く、症状が弱いという印象はこのタウPET検査からも理解できると思います。
CBSがPSPSと大きな違いは前頭葉障害がそれほど強くないことです。症候学について書かれた成書によるとCBSにおいてはPSPSでみられる「多幸」「脱抑制(行動抑制障害)」がみられないとされています。
しかし、PSPSに比べても極めて稀と認識されていたCBSの臨床像を呈する症例を75歳~85歳の高齢女性で比較的よくみかけるようになりました。そしてこれらの症例に共通しているのは、「多幸」「脱抑制」がほぼ全例でみられる事です。抑うつ的・神経症的な印象は皆無で、動作歩行障害がかなり顕著にもかかわらず、病識がまったくないため、しばしばその面で介護者のイライラ感を誘発しやすいようです。
高齢者CBSでは従来から言われている、常同行動、環境依存、失語症に加えて、利用行動(使用行動)、易刺激性、脱抑制行動などが前面に現れる症例が多いようです。これらの高齢者CBSを診察しますと、片側上肢運動拙劣症・上肢の左右差はそれほど顕著ではないが、上肢を目的をもって使用することは困難です。しかし多くの症例では車椅子に座っている高齢女性が突如として診察室の机の上のマウスやボールペンを触りだします。何の悪げもなく触る様子はまるで小さい幼児のようです。いわゆる利用行動(使用行動)という症状ですが、諸説あるがやはり被影響性の亢進、行動抑制障害(脱抑制)の一部と捉えるとわかりやすいと思います。前頭葉障害が画像診断ではさほどでもないのに、こうした症状が顕著に現れるのはなぜなのか?と症例をみながら考えました。行動抑制系の神経回路として「前頭葉-基底核-視床回路というのがあります。この回路が大脳基底核病変のみで伝達障害をおこすと言われています。その影響で二次的に前頭前野機能低下を起こして情動的精神症状や認知症類似症状を引き起こすと言われています。高齢者ではもともと加齢に伴う前頭前野の機能低下があるので若年者よりもこのような症状が出現しやすいのではないかと推定できます。つまりCBSの前頭葉症状の多くは二次的な症状ではないかと考えます。
パーキンソン病の外科治療として確立されている、深部脳刺激(DBS)ですが、主としてこの回路に含まれる視床・淡蒼球に作用する治療です。刺激ポイントが少しでもズレると症例によっては行動抑制障害がみられる事もあると言われます。この線条体・淡蒼球・視床という複雑なターミナルステーションのような部分の病変・障害はデリケートなものですので、神経系の薬剤の与で過敏反応や有害事象を起こす場合も少なくないのでしょうか。



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by shinyokohama-fc | 2015-10-06 12:49 | 医療

CBS(大脳皮質基底核変性症候群)の主要症候(1)一側上肢の運動拙劣

大脳皮質基底核症候群(CBS)と思われる症例を開院以来15例ほど診療してきましたが、最もわかりやすい片側上肢の顕著な運動拙劣症候が確認できるのは6例にとどまっています。顕著な片側上肢の運動拙劣~不使用のほとんどが「右手」ではなく「左手」です。今回はこれについて考察したいと思います。
おそらくCBSには右大脳優位機能低下タイプと左大脳優位機能低下タイプがあるはずで、その比率に関しては成書には記載されていません。左手の運動拙劣症状が現れる症例は右大脳優位機能低下例です。程度の差はあれ多くは左半側空間無視と非流暢性失語を伴っています。右大脳脳卒中で左半側空間無視の場合、失語は伴わないのと異なります。もともと大半の人は右利きであり、左手に比べて右手を使う機会は圧倒的に多くなります。私も1~2例だけ右手拙劣タイプを診ていますが、このタイプに関してはかなり進行しないとわかりにくいという事です。少なくとも右利きで右手を生来から頻用する方は右手の運動拙劣が表面化しにくいのではないか?それに対して左手の場合は普段使わないので、軽度の巧緻運動障害が起こると益々右手に頼る傾向が強まり、次第に使わなくなるので廃用化が早いのではないかと思われます。手の運動拙劣という症状はパーキンソン病の主要症状としても有名ですが、
パーキンソン病は発症年齢や個人の資質に差異はあるものの、重度の廃用化に至るまでは15~20年かかる傾向があります。それに対してCBS右優位タイプの場合は4~5年以内にほぼ片側上肢の完全拘縮・廃用化に至る事が多いようです。しかしこの「運動拙劣」という症状は一般の臨床医に理解されにくい症状でしばしば「運動麻痺」と誤解される事が非常に多いようです。存在しない脳梗塞による左片麻痺と診断されてしまうようです。たしかに左上肢を屈曲したまま歩行するので、一見重度の左上肢の運動麻痺に見えるのですが、私の手を左手に近つけると猛烈な力で握り返してきて驚かされることがあります。これは前頭葉症候群の本態性把握反応ですが、中等度以上のCBS症例にはかなりの確率で顕著な把握反応がみられます。手で触れたものを反射的につかんでしまうのです。また普段は全く動かさないにもかかわらず、何らかの外的刺激や状況反応によって突如動かないはずの上肢が無目的に動くという事もよくあります。つまり「運動拙劣」という症状は「自分の意志どおりに上肢をうまく動かせない(命令動作を含む)」と言い換えることもできます。「運動麻痺」の場合は麻痺肢にいかなる刺激を与えても重度麻痺の場合はまったく動きません。こういう症状は大脳基底核特有の症状で、基底核が障害されると起こります。CBSとPD以外で比較的多いのは脳血管性パーキンソニズムと呼ばれる病態であり、基底核に微小梗塞あるいは血流障害が起こることによるものです。最近は脳血管性パーキンソニズムの症例を診ることはCBS以上に稀になりました。
「運動麻痺」という症状は主として「錐体路」の障害で起こり、「運動拙劣」という症状は「基底核」の障害で起こります。高齢者医療に携わる医療者、看護・介護・リハビリの専門職にはそのことをまず知ってほしいと思います。


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by shinyokohama-fc | 2015-09-25 09:18 | 医療

長寿化・高齢者増加に伴う神経変性疾患の増加

敬老の日に発表された統計では、現在日本では65歳以上の人口が3384万人、80歳以上の人口が1002万人もいるという事です。ここ数年で後期高齢者(75歳以上)で何らかの神経変性疾患が発症するケースが激増したという印象ですが、それは母数の増加にもあるのでしょうが、感染症治療や心疾患・がんなどの予防が国民レベルに浸透したという医療的にはポジティブに捉えるべき成果の裏返しなのでしょう。
日常診療していて驚かされるのは80歳以上で発症する老年認知症(DLB、AGD(グレイン)、NFT-SDなど)が非常に多数を占める一方で、PSPSやCBSと思われる症例も比較的よく見られます。20年前に私が神経内科の診療を始めた頃はこのような症例は60~65歳前後で発症し1~2年に1人診るかどうかという程度でしたが、75歳以上で発症するPSPSやCBSが増えているようです。もはやPSPSやCBSは以前のようなレアな神経難病ではなくなりつつあります。神経内科医以外の診療科のDrはPSPやCBSを診たことがないDrも多いと思われるため、多くはパーキンソンに似た動作歩行障害があることからDLBやPDと診断されているようです。一般的に診療したときに最初にレアでマイナーな疾患を想定せず、メジャーな疾患を想定して薬物処方するのが常識的だと思われます。DLBに対してはコリンエステラーゼ阻害薬、PDに対してはレボドパなどパーキンソン治療薬を試すのが普通ですが、それらが効果がないか、むしろ奇異反応で症状が増悪する場合は、PSPSやCBSを疑うきっかけになると思います。特に80歳以上の方では一般的に高齢に伴う薬剤代謝能力の低下・薬剤過敏性の増加によって薬剤忍容性の低下がみられます。私の場合は80~85歳のPSPS、CBSに関しては神経系にダイレクトに作用するタイプの薬剤処方は極力最小限に留めるように心がけています。このような高齢者の神経難病に対しては薬物療法よりもむしろ緩和ケアが重要です。
医者というのは薬で治そうとしますし、患者側からもそれを求められます。しかし神経難病に有効な治療薬は存在しないという現状を考えますと、生活の質(QOL)を第一に考慮すれば80歳以上の方に対してに関してはやはり介護側が中心になって、いかにして神経難病の緩和ケアを充実させていくかという事に力点を置くべきです。神経難病はいわゆる老衰とは違います。何歳で発症しても神経難病です。老衰者のように穏やかな経過とはいかないわけです。そして50~60歳の神経難病と80~90歳の神経難病は臨床像も周辺環境などがまるで違うので、やはりそれぞれの年齢相応の対応というのが求められます。現状のように60歳でも90歳でも同じ薬物治療をガイドライン?していてはうまく行くはずがなく、80歳以上では薬物治療に限界を感じる事のほうが多いですし、むしろ弊害のほうが多いように思えます。


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by shinyokohama-fc | 2015-09-23 10:33 | 医療

MIBG心筋シンチ検査とDLB診断の限界

ここ1~2年のキャンペーンによって、DLBという疾患への啓蒙が進む中で、症候主体の箱入れ的診断法による患者あるいは診察医によるミスリード症例をたくさん見る機会が増えたという印象です。その多くは診断基準の主要症候といわれる、1)幻覚(特に幻視) 2)認知の変動 3)パーキンソニズムの正しくない解釈によるものでしたが、ここに来て補助診断的検査の正しくない解釈症例も目にするようになりました。
MIBG心筋シンチという検査があります。心筋の自律神経を評価する目的の検査です。長年糖尿病を患っていたり動脈硬化を患っていて無症候性の心筋梗塞がありそうな症例、特に男性高齢者では当然欠損像が多くみられます。先日、MIBG心筋シンチで欠損が確認されて、認知症専門医?にDLBと診断されたという長年糖尿病を患っている80代男性の方が訪れました。この検査をオーダーした専門医?は長年糖尿病を患うとその罹患年数に比例して糖尿病性自律神経障害が起こってくるという事実を知らないのかもしれません。検査というのは必ず落とし穴があり、それゆえこういう検査はあくまで補助的な位置つけにしかならないわけです。
症候学的解釈の誤りのよくあるパターンとしては
1)幻覚(幻視)⇒薬剤誘発性(抗PD剤など)、前頭側頭型変性症候群(前頭葉起源)、側頭葉てんかん(側頭葉起源)
2)認知の変動⇒薬剤誘発性せん妄、電解質異常、側頭葉てんかん、行動障害型老年認知症の症状の曲解
3)パーキンソ二ズム⇒長期罹患パーキンソン病、薬剤誘発性EPS、PSP/CBSなどの症状の曲解
DLBという症候群をなんでもかんでも入れてしまう箱入れ的診断法(疾患群の広義化)に私が賛同できない理由というのは、非常に多種多彩でヘテロな症候群に対して、画一的な薬物処方がまるで通用しないという事実がわかったからです。薬剤過敏性による薬害を極力減らすためにはDLBという症候群に対してはできるだけ上記に挙げた除外診断を徹底することにより狭義化するべきだと個人的には感じます。そもそも主要症候の1)~3)を根拠にDLBであろうと言われてしまう症例群が本当にDLBなのか?患者を診れば診るほどわからなくなり、神経系薬剤の処方を重ねれば重ねるほど病態がどんどん修飾されすぎて迷宮入りしてわからなくなるというのが現実です。一番厄介なのはすでに4~5種の神経系薬剤の多剤処方をされていてどうしようもない状態で来られる方です。一度神経伝達物質や受容体の流れを多剤で修飾してしまうと本来の症候的な病態がまったく見えなくなるからです。例えば前医にパーキンソン治療薬を3~4種類も使用されて幻覚が出て大変だ!というDLBらしき症例をときどき見かけますが、この状態でパーキンソ二ズムの評価をしようというのが無理な話で、こういう症例の多くは診察室では明らかな筋固縮はみられず、薬が過剰、効きすぎて何らかの副作用が出ています。一般的にDLBのパーキンソニズムというのは初期~中期は基本的に軽度で、安静時振戦は目立ちません。ただしパーキンソニズム(薬剤誘発性EPS)を起こす薬がまったく入っていなければの話ですが。四肢・体幹の歯車筋固縮が顕著なDLBはまず見たことがないです。
結論をいうと、DLBの診断というのは非常に難しいです。PSPSやCBSの診断のほうがはるかに明確でブレがない。その捉え所のないヘテロな症候群をそれぞれ複数の神経系薬剤によってコントロールというのはさらに難しいです。それは個々の症例がすべて薬剤に対する反応が全例違うからです。多くの症例では想定外の副作用が続出してしまうため、どこからが主症状でどこからが副作用かがさっぱりわからないという迷路に入り込みます。どんな薬剤を試してもすべて副作用が出てしまってどうしようもないという症例も少なくないわけです。コリンエステラーゼ阻害薬(ChEI)が有効だとよく言われますが、実際はまったく違うのです。おそらく本当に有効といえる症例は3~4割程度しかないのではないか?ChEIが著効してHAPPYという報告ばかり見聞すると、「そんなに簡単に良くなるのか?」という希望を生みますが、その希望はものの見事に打ち砕かれます。3~4割は初期量でごく少量のChEIに対してすら顕著な薬剤性過敏性を示すわけで、神経系薬剤に対して絶望的に忍容性がない症例があまりにも多いのです。一昨年ChEIが無効で予後不良なDLB症例が存在すると発表していた貴重な学会講演がありました。その多くは前頭葉機能障害が顕著な症例でアパシーが強い症例のようです。ああやはりそうなのかと納得させられました。薬物治療の難しさと限界を思い知らされたわけです。


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by shinyokohama-fc | 2015-09-08 11:04 | 医療

認知症の誤診問題とCDTの重要性

昨日のNHKニュースで、医者による認知症の誤診の問題についてかなり取り上げられていました。認知症専門医から見て誤診が多いという内容だったようですが、実際は多忙な認知症専門医が誤診しているケースも少なくないようです。私は神経内科専門で動作歩行障害の症状が主体のパーキンソン病や神経難病を診察するのがメインの仕事でしたので、いわゆる認知症(アルツハイマー型(ATD)、レビー小体型(DLB)、前頭葉側頭葉型(FTD))の臨床経験は認知症専門医に比べてそれほど多くありません。しかし1年前にクリニックを開業してからは認知症の症例を診る機会が増えました。認知症ではないか?と言われて受診された患者のうち、上記3つのタイプで間違いないと思える方は実際はそれほど多くありません。約半数が正常または軽度認知障害(MCI)で残りのうち、ATD1割、DLB1割、FTD1割、その他CBS/PSPSが2割程度でしょうか?認知症ではないかと受診されても典型的なATDやDLBというのは意外と少ないものです。比較的多いのは高齢女性の抑うつ状態ではないかと思います。抑うつ状態でも当人が物忘れを主訴にして受診することが多いですが、一方で高齢になってからの抑うつ状態はDLBの前駆症状であることが多いようです。前者は抗うつ剤が奏功し、後者は抗うつ剤が全く効果がないようです。一般的に認知症の方はDLB以外は自分自身で困っているという意識が乏しく、特にFTDでは病識は全くゼロなので、医療を受ける事の意味が理解できないので激しく拒否する傾向が強いようです。
私からみて、動作歩行障害の症状が主体の神経変性疾患(PD,PSPS,CBS,MSAなど)の診断基準と比較して、一次的認知症疾患(ATD,DLB,FTD)の診断基準というのはかなり粗いのではないかという印象が強いです。以前のブログでその事は何度か取り上げています。具体的に申しますと、DLB以外の疾患でも幻視・幻聴やパーキンソニズムの症状は非常に多くみられます。最も多い原因としては薬剤性です。高齢者ではパーキンソン治療薬で幻視・幻聴が容易に誘発されやすいのは事実であり、精神症状を抑えるために頻用されがちな抗精神薬は高率にパーキンソニズムを誘発しひどい場合は悪性症候群をも起こします。高齢者に神経系薬剤を処方するということが新たな病気を作る可能性を生みます。特に神経系薬剤が多剤併用されて病状がひどく悪化してしまった症例の場合は深刻です。
私の見解では既存の認知症の診断基準で認知症非専門医が正確な診断をするのは困難だと言わざるをえないですし、認知症専門医だからといって、必ずしも正確な診断ができているとは限らないという印象です。MRIや核医学などの検査は多くの場合診断の決定打にはなりえず、あくまで支持所見にすぎません。今年の神経学会の認知症をテーマとした講演会やシンポジウムでは高齢者における混合病理・混合疾患の問題が大きいとの指摘があり、現在の認知症治療ガイドラインというのはこの混合疾患や最近後期高齢者に急増している「行動障害型老年認知症」の問題に全く対応できていないように思えます。生前に生検病理や検査値で正確な診断が可能な他の分野とは違って認知症を含む神経変性疾患においては正確な診断が不可能で、仮に正確な診断ができたとしても現在の医療レベルでは有効な治療手段に結びつかないという無力感があります。認知症において対症療法的薬物療法が初期の1~3年はうまくいく場合もありますが、4~5年経つと多くの場合は病気が進行してしまうのでその薬物療法も通用しなくなる事が多いようです。パーキンソン病において初期のハネムーン期と呼ばれる4~5年が過ぎると対症療法的薬物治療がさまざまな副作用や薬効減退などで困難になるのとほぼ同じではないかと思います。
現実的には認知症の診断は診察した医者の価値観に左右されてしまうのが現実です。それは精神疾患と全く同じですので、正確な診断に限界がある上に、過剰診断(over-diagnosis)による過剰投薬が問題になっているというのが現実のようです。やや過剰気味の認知症キャンペーン活動も過剰診断・過剰投薬の誘因と言えるかもしれません。ニュースで取り上げられた誤診(過剰診断?)による迷走的薬物治療が行われる原因としては、①家族・本人からの問診が不十分 ②簡易知能スケール(MMSE、HDS-R)の点数だけでカットオフしてしまう ③物忘れ外来を受診する患者はすべて認知症だという思い込みなどがあると思います。誤診として比較的多い抑うつやせん妄は高齢者では非常によく起こりうる事象であり、内科的には代謝異常、特に低血糖、低ナトリウム血症、高カルシウム血症などは比較的多いのではないかと思います。画像診断を実施する以前にまずはこれらの血液検査によるスクリーニングが必要です。
時計描画テスト(Clock Drawing Test;CDT)さえ実施すれば簡易的にスクリーニング検出できるということが最近わかってきました。CDTこそ実地医家が初診でスクリーニングするのに最適な方法だと考えます。
①ATD ;きわめて拙劣で、数字が正確に描けない、針が描けないなど何らかの描記異常がみられる。
②DLB /PDD; 思考遅延のためきわめて描くのが遅いのですが、最終的にはおおよそ正確に描ける。
③FTD ; 指示に従わずまったく別のものを描く、あるいは猛烈な速さで粗雑に描く。
④MCIなど非認知症;まったく問題なくほぼ完璧に描ける
簡易知能スケール(MMSE,HDS-R)は①の重症度を測るのには適していますが、現実的に外来に受診される患者の9割が①以外です。②の方はプライドの高いインテリの方も多く、③の方は長時間のテストに耐えられない。十分な協力性が得られない場合が多く、テスト点数の信憑性が乏しいというケースが少なくないようです。比較的多いのは行動心理症状が顕著であるのに、スケールの点数が良い(25~30点)ケースです。スケールだけで認知症診断をするDrがあまりにも多いようです。その一方でCDTは著しく軽視されていて、付添家族に確認したかぎりでは認知症専門医前医でCDTが実施されていたケースはほぼ皆無でした。20年前に著書でCDTの重要性を強調されていた認知症専門医ですら最近は多忙のためかまったく実施されていないようです。
正確な診断が困難な認知症を簡易的にスクリーニングするのに最適なのはCDTであると私は確信します。おそらく家族や介護スタッフでもできるきわめて簡単なテストですので、ぜひ医者以外の人々にも実施してほしいものです。
簡易知能スケールをすると不快感を示す事は多いですが、CDTではそのような事はほとんどないようです。


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by shinyokohama-fc | 2015-08-06 12:27 | 医療

神経変性疾患の病名と雑感

神経変性疾患の現在の病名に関しては正直どうなのかと思う事があります。病理診断名だったり画像診断だったり部位診断だったりと統一性が全くありません。病理診断名を臨床診断名にしているのには抵抗感があります。それは胃がんや白血病などの病気と違って、生検などによる生前の病理診断が難しいからです。神経変性疾患は病理組織所見が病名になっているものもあります。主な神経変性疾患についてそれぞれ検証してみたいと思います。
アルツハイマー型認知症(ATD)
発見者の人名が使われています。一般的に「認知症」といえばこの病気を指すようです。記憶障害・見当識障害・注意障害があります。診断には時計描画テスト(CDT-R)が最も感度が高い検査だと思われます。MMSEやHDS-Rといった簡易知能スケールはATDの重症度を評価する指標になります。主に画像検査などで海馬容積の萎縮があれば診断はほぼ確定とされています。発症は60~70歳がほとんどです。軽度認知障害(MCI)との線引きがしばしば問題になりますが、日常生活動作が自立できないものを認知症としています。MCIからATDに移行するのは30%程度と言われます。行動心理や情動は初期からさほど顕著ではなく比較的保たれる症例が多いので、周囲を困らせないので中等度レベル(MMSE 10~15)まで受診しないケースも少なくないようです。病理診断としてはアミロイドが蓄積するので「大脳アミロイドーシス」の一種という事になるようですが、臨床的には「記憶障害型・認知症」です。
嗜銀性顆粒性認知症(AGD)
病理診断名がそのまま使われています。初発症状としては行動心理症状(不機嫌、易怒・易刺激性、焦燥など)や情動障害が先行しますが、日常生活動作は介助を必要とせず自立しています。ATDで実施するCDT-R、MMSE、HDS-Rなどの簡易検査は初期の2~3年はほぼ正常レべルですので、認知症と診断されない場合もあります。画像検査では前頭葉~側頭葉の左右差のある萎縮が特徴的と言われていますが、初期には目立たないようです。ほとんどが75歳以上の高齢者であり、初期から受診・相談が最も多いタイプです。常同行動や脱抑制が目立つため、以下のFTDと臨床像は類似していますので、「老年性・行動障害型認知症」とでも呼ぶべきでしょうか?
前頭側頭型変性症(FTLD)
病理診断名がそのまま使われていて、かつてはPick病(病理診断名・人名)と呼ばれていたようですが、現在は病理診断名はFTD-FUS/-tau/TDP/FUS/niと分類されています。一方で臨床診断名としては以下の3つの病名になっています。これらの病名は臨床症状を反映した病名であるのできわめて適切だと思います。65歳以下で発症することになっていますが、実際は変性疾患に関しては発症年齢の特定は困難と思われます。
①行動障害型・前頭側頭型認知症(bv-FTD) 脱抑制や常同行動に伴う異常行動が主体 ②意味性認知症(SD)語義失語や失認が主体 ③原発性非流暢性失語症(PNFA)重度の失語が主体
大脳皮質基底核変性症(CBD)
名前のとおり、大脳皮質の一部と大脳基底核に限定した部位から始まる疾患ですが、経過が長くなると大脳全般に障害が及ぶようです。基底核障害による片手の軽度鉛管様筋固縮と不使用(運動麻痺ではない)と頭頂葉障害による半側空間無視・視空間失認が特徴的で障害側のほとんどは左側のようです。脳幹障害は通常はほとんど目立ちませんが、中には姿勢反射障害・すくみ足が高度なPSP的な臨床像をきたす症例もあり、病理診断はCBDが50%、PSPが30%、その他ATD・FTD・Prionなどと言われています。臨床と病理の合致が不可能な疾患群なので、やはりCBS(大脳皮質基底核症候群)と呼ぶのが適切だと思います。
進行性核上性麻痺(PSP)
「核上性麻痺」という脳幹のきわめて限定した部位だけの疾患のように誤解されそうな名前ですが、実際はタウ蛋白が前頭葉~側頭葉、脳幹全体に広汎かつ高度に蓄積して、多彩な症状をきたしうる疾患群です。PDやDLBに比べて脳幹障害が重度のため、高度の姿勢反射障害による頻回の転倒が早期からみられることが多く(全例ではないが)、また嚥下障害が高度になるため、誤嚥性肺炎を最も起こしやすい疾患と言えます。病理診断はPSPが50%でCBDが20%、その他はFTDや稀ながらCVDという症例も存在するようです。病理的にPSPの症例でも臨床的CBS・広汎型・限局型の3つに分かれるといいます。また、若年発症に多いRSタイプと老年発症に多いPAタイプでは病状の進行スピードや重症度に大きな差があるようです。臨床と病理の合致がほぼ不可能であり、臨床診断名としてはCBSと同じくPSPSと呼ぶのが相応しいと思います。
多系統萎縮症(MSA)
錐体路・錐体外路・脊髄小脳路・自律神経という4つの神経ルートが障害されるという特徴がある疾患群です。下肢に強い痙縮、パーキンソニズム(動作緩慢・筋固縮・姿勢反射障害)、小脳性運動失調(構音障害、失調性歩行)、高度の起立性低血圧(多くは失神で倒れる)と高度の排尿障害(多くは尿閉に至る)が特徴的です。パーキンソニズムが強いMSA-Pは線条体黒質変性症(SND)と呼ばれ、小脳性運動失調が強いMSA-Cはオリーブ橋小脳萎縮症(OPCA)と呼ばれていました。いずれも部位的診断名です。
パーキンソン病(PD)
発見者の人名が使われています。「錐体外路症状=パーキンソニズム」と呼ばれているくらい定着していますが、パーキンソニズム=パーキンソン病ではない点が臨床現場で混乱を生んでいるようです。実際は特に高齢者ではパーキンソン病ではないパーキンソニズムのほうが多いという印象があります。片側性(左右差)のある上肢安静時振戦と筋固縮が特徴的な典型例は診断が容易ですが、さまざまな非典型例があるため「ドパミン欠乏性・錐体外路症候群」と呼んだほうがいいのではと思います。
レビー小体型認知症(DLB)/レビー小体病
レビー小体という病理所見の人名が使われています。レビー小体の蓄積する部位(大脳・脳幹・脊髄・自律神経)や進展の仕方によってさまざまなサブタイプがあるようです。「認知症」という呼び名が不適切ではないかという意見があるようです。主要症状は幻覚(幻視)・認知の変動・パーキンソニズムとされていますが、過剰診断により別の疾患や病態までもDLBと診断して、薬物療法が迷走して病状が悪化してしまうケースがあまりに多いようです。パーキンソニズムを欠き、幻覚+認知の変動のみ場合はDLBよりも側頭葉てんかん(TEA)を考えるべきかと思います。典型例は左右差の乏しい軽度~中等度のパーキンソニズム(動作緩慢・思考遅延・軽度の筋固縮)と自律神経症状(起立性低血圧・排尿障害・排便障害・体温調節/発汗障害)に幻視・抑うつ症状を伴うものだと思います。パーキンソニズムが長年進行した上で、幻視などの行動心理症状が後発するのは臨床的にPDDと呼ばれていましたが、ここに至るまでにパーキンソン治療薬を長期・複数内服しているケースが多く、行動心理症状は長年の薬物治療の副産物とも言えます。パーキンソニズム・自律神経障害を欠く非典型的例の場合は、可能であればTEAを除外するためにEEG検査を、DLBを支持するためにDTS検査が実施されたほうがよいと考えます。その理由はTEAにChEIや抗精神薬を処方しても効果がないばかりかむしろ症状を悪化させるからです。MCIやATDがあってTEAを起こす症例も多いようです。「ドパミン欠乏性・大脳・脳幹・自律神経症候群」とでも呼ぶのが適当でしょうか。
個人的に気になるのが、幻覚と認知の変動があればDLBだというのは操作的・短絡的な診断手法だと感じます。精神科における新型うつ病とか双極性障害2型の診断手法に近いものがあります。精神科と神経内科の問題というのは他の診療科と違って、診察医の個人的な価値観によってブレが大きすぎる所にあります。現状の各変性疾患の診断基準というのはその問題を解決できていないように思います。それを解決すべく核医学検査の研究が進められていますが、学会のシンポジウムではやはり混合病理の問題に対応できないという結論でした。75歳以上の変性疾患では混合病理が大半だという事を考えると、やはりFTLDとFTDのように臨床診断名と病理診断名を区別するしかないのではないかと感じます。


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by shinyokohama-fc | 2015-07-10 12:33 | 医療

「物忘れ」ではなく「覚える気がない」人たち

認知症の診療を希望して来られる方の多くは80~90歳女性が多いようです。同居あるいは介護している家族は「すぐに物事を忘れる」と訴えますが、簡易知能スケールを実施すると27~29点もあります。5つの物品再生などはほぼ正答であり、時計描画テストも正確に描けるようです。ただし描くスピードが異常に早く雑に描く傾向にあります。
これらの方々の多くは日常生活動作はほぼ自立しており、介護者の手を煩わせる事はないようです。これらの症例に共通しているのは本来記憶力が保持されているにもかかわらず、普段の生活では記憶することを放棄していると推定されます。つまり「考え無精」ならぬ「覚え無精」ではないかと思います。
一般的に典型的な認知症の方は時計描画テストで苦労します。アルツハイマー型(ATD)の方は数字がまともに入れられない事が多く、レビー小体型(DLB)の方は思考遅延傾向のため、数字や針を描くのに異常に時間がかかります。つまり時計描画テストをすれば、きわめて特徴的でほとんど典型的な認知症に関しては抽出できると思われます。簡易知能スケール(MMSEなど)の点数というのはATDの方々の重症度をある程度評価できると思いますが、DLBや前頭側頭型認知症(FTD)タイプの認知症については、診察時は初期~中期までは高得点である事が多い半面、家庭における行動心理症状が顕著な症例が多いようです。例えば「用もないのに肉親に何度も電話をする」とか「自室が片つけられず捨てられない物が溢れている」とか様々です。ATDの尺度でいうと27~29点で認知症という判定にはならず
比較的顕著な行動心理症状出現するというのは説明できません。80歳以上の高齢者に多いと言われている「嗜銀顆粒性認知症(AGD・グレイン)」が最近の学会でもよくクローズアップされるようになりました。これはアミロイドが蓄積せずにタウ蛋白が脳細胞内に蓄積する病気の一つです。一般的には75歳以上で発症するが、記憶・見当識などいわゆる中核症状と呼ばれる症状に関しては緩徐進行性のため、日常生活動作の自立期間も長期間になります。その一方で情動障害に伴う行動心理症状が出現しやすく、焦燥、不機嫌、易怒、易刺激性などで現れてしばしば家族を困らせるようです。AGDの場合多くは中核症状が顕著になってくるのは進行して数年後になると言われます。一般的に60~70歳で発症するATDが中核症状の進行が非常に速く、日常生活動作において1対1介護を必要とするのとは対称的です。AGDは左右差のある前頭葉~側頭葉外側の萎縮が画像診断的には特徴ですが、初期にはそういう所見はみられません。またATDと違って海馬の萎縮もみられない事が多いようです。またDLBと混合症状をきたす場合も少なくないようです。80~90歳の女性人口が非常に多い事を考えるとAGDに対する薬物治療の確立が求められています。
私の印象では少量のガランタミンが比較的相性がいいようです。それはこの薬剤の特性によるものだと思われます。
しかし高齢者の場合は心不全・心臓弁膜症・不整脈などが潜在している事もあり、高用量には耐えられない症例が多いと考えられます。詳しくは以前のブログ(ガランタミンvsリスぺリドン)を参照してください。


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by shinyokohama-fc | 2015-07-07 18:55 | 医療
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