カテゴリ:医療( 41 )


パーキンソン治療薬と医療経済/国民皆保険医療・持続不能

本日の日本経済新聞の朝刊の1面記事です。「国民皆保険による医療 医師の半数「持続不能」」数年前から日本経済新聞をとっているので、医療系の記事には注目するようにしています。
医師向け情報サイトの会員医師に対して、6月中旬にインターネットでアンケートを実施して、回答が1000人に達した時点で集計したそうです。このアンケート集計によれば、約半数の医師が「現体制の国民皆保険による医療は維持できない」と回答したようです(回答者は勤務医81%、開業医19%)。
医療費の高騰問題で、常に問題にされることとしては
1) 高齢者に対する非高齢者と同等レベルの濃厚医療が施されている
2) 医療の高度化による薬剤費の高騰、特に新規認可薬の高価格
1)に対しては、例えばある学会では高齢者の誤嚥性肺炎に対する抗生物質の投与が疑問視されています。私も約10年前までは急性期病院勤務医でしたが、寝たきり状態の高齢者に対する延命目的の輸液(持続点滴)、繰り返す誤嚥性肺炎による発熱に対して何種類も抗生物質を点滴をしたりしながら強い疑問を感じていました。
私が主に診療している、パーキンソン病という病気に関してこの問題を考えてみると、発症して10~15年以上経過した80歳を超えた患者さんに対しても、レボドパ、アマンタジン以外の高額な新規治療薬を4~5種類も処方されていることが珍しくなくて、その過剰処方の副作用を抑えるために定番のようにドンペリドンが追加されています。しかし実際は新規治療薬を入れられすぎて、肝心のレボドパが全然効いていない症例が多く、動作歩行は全く良くなっていなくて、幻覚・妄想でひどい精神病になっているか、慢性的なせん妄状態に至っており、「レビー小体型認知症に進行したので」と言われて、さらにドネぺジルが追加されてしまうというパターンが非常に多いようです。80歳以上の女性にこれだけの多種多様で大量の神経系薬剤が重ねられると普通に考えれば廃人化してしまう危険性が高くなります。誤解を恐れずに言ってしまえば、このような病状を悪化させるだけの行き過ぎた多剤併用処方(ポリファーマシー)は、医療費の高騰化を推進する最大の要因でしょう。高齢者に対して高額処方を長期に継続した結果、神経薬物中毒あるいは二次的な合併症で救急受診~入院することにより、さらなる医療費がかかります。
私が近年「パーキンソン病の薬物治療」を問題視し始めたのは、こういう事例が後をたたない状況だからです。パーキンソン病という病気は、がんとは違って、病気が直接的に生死にかかわる病気ではなく、レボドパの導入によって動ける期間が延長したことで多くの患者さんが恩恵を受けているという半面、この20年で薬の種類が増えすぎてしまい、年齢や病状など患者の状況を深く思慮なしに、動けなければ薬を追加するの繰り返しをしているのではないかと思います。効果がはっきりしない薬を中止して別の薬に変更するのであればまだしも、効果がはっきりしない薬でもそのまま続行し中止することなく、別の薬を追加するという「足し算処方」ばかりなので雪だるま式に薬ばかりが際限なく増えるようです。パーキンソン病治療薬以外にも、抗精神病薬、抗認知症薬、抗不安薬、抗うつ薬など際限なく薬が足し算されていくようです。「たくさん薬を処方する・服用する=精一杯治療努力をしている」という勘違いそのものではないかと思います。医療経済を多少でも意識すれば、80歳以上の高齢者のパーキンソン病についてはレボドパとアマンタジン以外はあと1種類程度の処方薬にとどめるべきではないかと思います。パーキンソン治療薬の中には1錠800~1000円という超高額な薬もあります。また病気が進行したヤール4~5度の症例に対しては、むしろ不必要な薬を少しずつ減らして最低限の処方にとどめるべきではないかと考えます。
前回のブログにも書きましたが、やはり早期のヤール1~2度の時期からよく外出して歩行して手足をよく使うことがどんな薬物治療よりも勝るのではないでしょうか?私が診てきた患者さんの実例がそれを証明しています。


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by shinyokohama-fc | 2017-06-30 12:04 | 医療

歩くことが神経難病の発症時期を遅らせる?

最近、神経学会の最先端では、Disease Modifying Therapy (DMT)の話題、特にメジャーな神経変性疾患である、アルツハイマー病とパーキンソン病についての話題ばかりのようです。
有名大学病院の最先端医学の研究者たちが考えていることは、現在行われている、発症してからの対症療法的な薬物治療ではなくて、いかにして発症前に病気をバイオマーカーでとらえて、病気そのものを進行させないための治療(DMT)を早期から施すかということのようです。
しかし発症する20~30年前の働きさかりの30~40歳の時に、あなたはアルツハイマー病だ、パーキンソン病だ、今後20年後に発症するだろうと告知された人にどのような心理的悪影響を与えるのか?という点は考慮されていないようです。現在検討されている可能性のある治療としては、発症を予防するためのワクチンが主流のようです。
それ以外にもIPS細胞やオートファジーを応用した治療が検討されているようですが、問題になるのは、やはり最新治療はあまりにも高額すぎるので、最新治療の適応は若年発症の遺伝性のタイプに限定される方向にあるということでしょう。パーキンソン病が多い年齢層、75~85歳の非生産年齢層の患者さん達に、20年前の55~65歳からワクチンを打つようにという事は現実的とはいえないでしょう。比較的メジャーな疾患、アルツハイマー病やパーキンソン病ですらこういう現状ですので、他のマイナーな疾患に関してはDMTは期待できそうもないでしょう。
最近、クリニックの近隣にお住まいの84歳の動作歩行障害の女性の方が、総合病院の神経内科に通院していたのですが、変わりたいということで、4か月前から定期受診されるようになりました。もともとムズムズ脚(レストレスレッグス)症候群があり、右手のふるえ、書字が小字傾向で、筋固縮はなかったが、診断はパーキンソン病ヤール2度であろうと考えていたのですが、どうもパーキンソン病としては歩行時に左右へのふらつき・動揺がかなり強いのが合点がいかなかったのです。後日、前医(総合病院の神経内科・外来担当医)から診療情報提供、MRI画像を見て驚きました。両側の小脳半球の萎縮と、両側の線条体の顕著な低信号が確認され、典型的な多系統萎縮症(MSA)の画像所見だったのです。画像所見の重症度と実際の臨床的な重症度が一致しないことは少なくはないのですが、この症例は病気がMSAで画像的にはかなり進行期だったので驚きました。よく聞いてみると、昨年まで月に1回ほどゴルフのプレーラウンドをしていたそうです。おそらく80歳を超えてもゴルフでかなり長い距離を歩いて、手を使っていたのが良かったのだと思います。
最近は歩いて認知症を予防できるという学説があるほどで、手足を使うことは、いかなる対症療法の薬物治療よりも勝るのではないかと思います。現在、当院で定期受診している、パーキンソン病の患者さんのうち、ほとんど2~3年間動作歩行障害が進行しない症例が4~5例あります。治療薬も3年ほとんど変更しないで済んでいます。どうやら、歩くことは神経変性疾患・神経難病の発症時期、臨床症状の進行を抑える効果があるようです。
パーキンソン病は9種類もの対症療法の治療薬があり、すべての薬の併用が保険医療として認められているというきわめて特殊な疾患です。日本人はもともと医療を薬に依存する傾向が強いため、短い外来診療時間を解消する目的で患者のリクエストに応じて外来へ行くたびに薬が追加され続けるというパターンが非常に多いようです。私の長年の臨床経験でいうと、薬を増やされすぎて長期間服用した人は間違いなく副作用によって病気そのものが悪化したりします。薬をたくさん服用する前に、まず患者さん自身がやれることがたくさんあるのではないかと思います。


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by shinyokohama-fc | 2017-06-29 15:49 | 医療

パーキンソン病の薬物治療におけるEBMの限界

パーキンソン病の薬物治療においては、科学的根拠に基つく医療 (EBM Evidence-Based Medicine) だけで実践するのは困難だと、パーキンソン病のエキスパート専門医が語っていました。私もこの意見にはおおむね賛成です。
日本において、製薬会社や医師が主導でない、バイアスのかかっていない、公正に実施された大規模臨床試験が実施されていないこと、年齢別・パーキンソン病のキャラクター別の薬物治療の検討がまったくなされていないこと、などが理由としてあげられますが、そもそもUPRDSという個人的主観のバイアスがかかるスコアで公正な評価ができるのかという根本的な問題があります。
またパーキンソン病でよく問題になる、レボドパの効果短縮による、ウェアリングオフ現象・オンオフ現象などの対策として、レボドパの服薬回数を増やしたり服薬時間を変更したりすることのメリットや、ドパミン・アゴニストやセレギリンなどによって誘発される精神症状への減薬対応など、パーキンソン病の薬物治療の現場ではごく普通に行われていて、半ば常識にもなっている手法ですら、エビデンスが存在しないというのが現実なのです。
治療薬が3種類以上併用されている治療に関してもエビデンスは存在しない。つまりパーキンソン病の薬物治療の多くの部分は、専門医のそれぞれの経験や通説に基ついて行われているというのが現実ではないかと思います。
高血圧、糖尿病などは数値がすべてでデータ化しやすいので、EBMが重要視されるのは理解できますが、症状の重症度をデータ化しにくい神経疾患の分野に関しては、EBMに当てはめることがそもそも困難であるという事でしょう。むしろ無理矢理、EBM原理主義で治療をしようとすれば、治療窓が極端に狭くなって、何も有効な手段ができなくなってしまうのではないか?これはパーキンソン病だけではなくて、神経変性疾患全般に言えることだと思います。


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by shinyokohama-fc | 2017-05-20 17:04 | 医療

認知症における操作的診断方法の限界、抗精神病薬の危険

先日、地域で行われた認知症の講演会を聴講しました。認知症学会の専門医による講演でした。
私が気が付いた範囲で今回の講演における重要なポイントを以下に要約して示します。

<前頭側頭葉変性症(FTD)の診断について>
1) 画像診断( 頭部CT/MRI検査)所見での前頭葉萎縮=FTDではない
2) 万引き行為などの脱抑制行動=FTDではない
3) 易怒性・暴力=FTDではない
レビー小体型認知症(DLB)では、前頭葉機能障害が比較的多いので、FTDと誤診・混同されやすい。
認知症学会の専門医でもFTDの鑑別診断は非常に難しい。

以上の問題は、FTDとかDLBが臨床症候中心の「操作的診断方法」に頼っている現状があるからだと思われます。薬剤性せん妄や側頭葉てんかんがDLBだと誤診されやすいように、前頭葉・側頭葉にタウが蓄積するタイプのアルツハイマー(ATD)やDLBもまたFTDと誤診されやすいという事です。
以前のブログでも書いたように、DLBの38.2%が、タウイメージングPETにて前頭葉~側頭葉にタウの蓄積がみられ、頭部CT/MRI検査において前頭葉~側頭葉の萎縮がみられたという、ある医療機関からの報告があります。
私の目からみると、CBSやPSPSが、DLBやFTDと誤診される症例はさらに多いと推定されます。同じ疾患でも病変の進展度合いに個別差が大きいので、診断は診察した医者の独断と偏見に大きく左右されるようです。
実際に現在のDLBやFTDの診断基準は、臨床症候中心の「操作的診断方法」なので、病理的な観点でみると誤診が増えるのは当然だと思います。またFTDは50~60歳の疾患であると言われていて、診断基準にも「65歳以下」と定義されていますが、高齢者の母数が急増した現在ではどうなのか?実際は70歳代、80歳代にも、明らかに臨床的にFTDとしか診断できない症例が多いようですが、これらは類似した臨床的特徴と画像診断所見を呈する嗜銀性顆粒球症(グレイン・AGD)なのか?という事です。ある書籍ではAGDは後期高齢者の認知症症候群の約半数を占めていると言われています。どこからどこまでがFTDでAGDなのか?という、学会からの診断基準や指針は存在しないようです。

<周辺症状の薬物療法について>
2005年4月に、FDA(米国)は、認知症症候群に対する抗精神病薬(リスぺリドン、オランザピン、クエチアピン、アリピプラゾール)を使用すると、死亡率が1.6~1.7倍に。死因は心臓血管死、心臓突然死、感染症(肺炎など)
認知症が存在する場合は、さらにリスクが上がって、死亡イベントが起こりやすい。
認知症の行動心理症状(BPSD)に抗精神病薬を処方する場合は、①適用外使用である ②死亡イベントのリスクが高まる、という事を十分に説明をして同意を得る必要性。
「抗精神病薬の長期連用は、生存率が下がり、死亡率が上がる」欧州の精神薬理学の雑誌における投稿論文
1) 抗精神病薬は可能な限り使わない。
2) やむをえず使う場合はできるだけ少量で、期間限定(短期間)

以上の提言(かなり大昔から提言されていましたが)には基本的に私は賛成です。私の印象では、認知症患者の場合はすでに心臓イベントリスクの高いコリンエステラーゼ阻害薬を服用しており、それに抗精神病薬を追加される事によって、死亡イベントが増えるのではないかと推定します。

抗精神病薬のリスクの知識がまったくない、施設従業者や介護家族が安易に抗精神病薬の処方を求めてくるようですが、私は以上のリスクに関してすべて説明します。心臓死や感染症以外でも、動作歩行困難・姿勢異常、転倒の増加、不随意運動の出現、精神錯乱などQOLを著しく低下させる厄介な有害事象が非常に多いのが現実です。
今後は、抗精神病薬&コリンエステラーゼ阻害薬の処方によって、悲惨な目にあった症例を、包み隠さずにできるだけ数多く示していくことが必要だと考えています。
リスクの高い安易な抗精神病薬の処方、コリンエステラーゼ阻害薬との併用を可能なかぎりなくすべきだと思っていますが、こういう処方が普通に当たり前に行われてる現実というのはとても好ましいとは言えないでしょう。


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by shinyokohama-fc | 2017-04-17 15:41 | 医療

公平性と多様性のある情報提供が医療者には求められる

先日、昨年12月に続いて、池袋病院の平川亘先生に新横浜のホテルで講演していただきました。私の知っている地域の開業医の先生方にも何人かお声をかけて参加していただいて、まずまず盛会?だったようです。
一般的に疾患の薬物治療に関する講演会においては、講演者の先生方は、ことさら特定の薬剤の効果やメリットだけを強調しがちです。すべての薬剤においては増量により、副作用(有害事象)のリスクが高まるというのは自明の理なのですが、そのような副作用情報はスルーして、ひたすら「増量しろ」と連呼する講演者の方々が目立つように思います。平川先生の講演がなぜ信用できるのかというと、ご自身が長年にわたって多くの患者で使用した経験に基ついた副作用をすべて講演スライドにて詳らかに公表しているという事です。今回、私が座長としてコリンエステラーゼ阻害剤の副作用で確認した範囲では「痙攣」の副作用だけ触れられていない事だけ、僭越ながら講演前に指摘させていただきましたが、現実的には先のブログで示しましたように、ガランタミンでも痙攣誘発症例を経験したほどですので、リバスチグミンでもドネぺジルでも当然起こりますし、実際そのような症例を経験しているというのが平川先生と私の共通意見でした。
医療に携わる者、特にその指揮的立場にある医者には、科学者としての公平性が求められます。「自らが提示した薬物治療のやり方だけが正しい」などという考え方は、自分の意向に合わないことや不都合な真実を無視したり、隠したりするというきわめて偏った行動になりがちです。特に薬物治療においては長所・欠点、プラスとマイナスが必ずあるので、いずれの情報もできるだけ開示して、それぞれの医療者の独自の考え方を尊重していく、場合によっては批判も真摯に受け入れていく必要があるのではないでしょうか? 日本人(東アジア人?)というのは、フランス人などと比べても自分価値観や考え方・意見というのが確立してない、自分の頭で考えたり調べたり勉強したりして、自分なりの考え方・価値観というのを構築する習慣が身についていない人が多い気がします。それがカリスマ的指導者のような人が生まれやすい背景があると思われます。そのような指導者が提示した内容を自分で検証することなく、鵜呑みにしてしまう。「○○先生の言っていることはすべて正しい」という思い込みの集団的心理こそが、排他的で偏向した価値観を生む危険性があるのではないでしょうか?このような問題を解決していくためには、一人一人が様々な方向の価値観の情報を見聞処理して積極的に問題提起をし、それぞれ個人個人の多様性、多様な考え方・価値観というものを反映させていく、不都合な情報をスルーしたりしないかを注意深く監視していくべきでしょう。様々な医療者の多様な意見が反映されて、批判・討論が活発に行われなければ、それは研究会や学会とは呼べないのではないかと私は思います。
平川先生の講演では最後に「私の考え」というスライドが入ります。「これはあくまで私の考えである」という事だと解釈しています。講演を聴いた医者全員が、まったく同じような処方を真似たり、同じ考え方をする必要はないと思いますし、私も平川先生の薬物処方の方法を一部参考にしてはいますが、すべてコピーしているわけではなく、独自の方法でやっています。なぜなら平川先生が主に外来で診ている症例と、私が主に外来で診ている症例はあまりにも違うからです。この病気なら、この薬物で、この必要量だとか1対1の単純な方法では済まないのが現実です。そうでないと多様な症例には対応できません。
1人の意見を鵜呑みにして盲目的に従うのではなく、多様な意見に耳を傾けるという態度こそが、我々医療者には求められると思います。


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by shinyokohama-fc | 2017-03-11 10:40 | 医療

高齢者側頭葉てんかんとレビー診断病

先週、地域のてんかんの講演会があり、高齢者に多い「複雑部分発作」の発作時のVTRを見せていただきました。
てんかん患者を日常よく診察している専門医でも「これでてんかん発作なのか?」と驚くほどの緩徐な症状でした。てんかんというと「全身が大痙攣して意識を失う」というのが一般医療者のイメージでしょうが、これは「大発作」というタイプで、高齢者においては、脳梗塞や脳挫傷などで前頭葉~側頭葉の比較的広範なダメージを受けた症例にみられます。しかし、高齢者のてんかんはこの「大発作」よりも「複雑部分発作」のほうが多いわけです。
高齢者の側頭葉てんかんの複雑部分発作の主要症状を以下に示します。
1)短時間の意識障害/意識減損(日中でもややぼーっとして眠っているような感じになる)
2)手の自動症 手をモゾモゾと動かす
3)エピソード記憶の障害(先日旅行したりした事を忘れている)
4)口の自動症・会話困難 (突然口をベチャベチャと動かす)
1)3)は認知機能の変動、時に幻覚を訴えることがあります。2)はパーキンソニズムと誤診されがちです。
臨床医であれば、恐らく誰でも知っているはずですが、「てんかん」というのはしばしば反復したり重積化します。抗てんかん剤によって発作が抑えられず、不幸にもてんかん発作を助長する薬剤などが処方されていれば、なおのこと重積化する確率が高まります。つまり意識減損が短時間で終わるとは限らず、せん妄と区別が難しいほど長時間に及ぶこともありうる訳です。私の症例経験では、てんかんのある症例にコリンエステラーゼ阻害薬を使用するとほぼ全例でてんかん発作の回数が増加したというのは確認済みです。最も弱いガランタミンですら発作を誘発しますから、リバスチグミンやドネぺジルだと重積化して最悪入院という事になるかもしれません。それ以外にも脳を活性化するサプリメントなどもてんかん発作の頻度を増加させる事はほぼ間違いないようです。
以前からこのブログで何度も申し上げていますが、現在のレビー小体型認知症の症候的な診断ツールとして、非常に誤診を生みやすいツールだと私は思います。特にパーキンソニズムの有無が問題になりますが、多くの場合はごく軽度のパーキンソニズムなので、神経専門医でも判別が難しいと思われます。ダットスキャンという検査がやれ高額すぎると批判されがちですが、現行のレビー小体型認知症の症候学的診断が非常にあいまいで混乱を招きかねないものである以上、数少ない脳内のドパミン状態を表現する診断補助検査としてやはり必要不可欠ではないかと思われます。また側頭葉てんかんの除外診断のため、脳波検査が必要だと思われます。てんかんという疾患の特異性を考えれば、脳波検査はMRI/CT検査よりも重要性が高いと言えます。ただし脳波検査でタイミングよくてんかん波が出現するとは限らないので、場合によっては抗てんかん剤(AED)の試験投与による経過観察(治療的診断)が必要になるかもしれません。その場合に使う試薬としては、カルバマゼピン(CAZ)が第一選択となっていますが、高齢者の場合は効率に小脳失調によるふらつきと転倒をおこすリスクがあるので、50~100mgの少量から開始する必要があるでしょう。また事前にこの有害事象(小脳失調症)について説明する必要があります。長期にAEDを続ける必要がある場合は、ラモトリギンなど新規AEDのほうがいいでしょう。
もしレビー小体型認知症を強く疑う症例でやむを得ずダットスキャン検査ができない場合はレボドパ治療反応テストが不可欠でしょう。もしレビー小体型認知症であれば、かなりの高率で50~100mgの少量のレボドパに反応するはずです。レボドパはコリンエステラーゼ阻害薬とは違って反応性は明確です。
パーキンソン病もダットスキャンやMIBG心筋シンチという検査が出るまでは、症候学的診断でしたが、その正しい診断率は70~80%であり、専門医と非専門医で大きな差はないというのが現実でした。つまり症候学的診断というのはそれほどあいまいなものです。私は神経内科医を20年やっていますが、いまだに「レビー小体型認知症」「せん妄」「側頭葉てんかん」「前頭側頭型変性症」の臨床的な鑑別がよくわかりません。症候学的な評価だけで鑑別できると断言する医者は信用していません。
それほど神経疾患の診断というのは決定打がなくて難しいものです。
高齢者に多い側頭葉てんかん(複雑部分発作)を、「レビー診断病」の医者に誤診されて、安易にリバスチグミンやドネぺジルが処方されてひどい目に遭わせられないように、くれぐれもご注意ください。
注)レビー診断病
幻覚(幻視・幻聴)、妄想、意識消失(短時間)、日中の嗜眠傾向、手の震え、認知の変動などの症候がそろっていれば「レビー小体型認知症(DLB)」だと診断してしまい、他の可能性を全く考えようとしない医者がかかっている病。
実際は高齢者の場合は、薬剤誘発性せん妄、側頭葉てんかんの件数のほうが圧倒的に多いと推定されるのだが、すべてそれらがDLBと診断されてしまう事が問題。せん妄やてんかんの知識が乏しい医者がかかりやすい傾向にある。


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by shinyokohama-fc | 2016-12-19 12:36 | 医療

診断基準・治療ガイドラインは本当に必要か?

神経変性疾患、認知症関連疾患やパーキンソン関連疾患における、診断基準、治療ガイドラインによるミスリードと
これらを参考にして処方する医者の応用力のなさが目立つようです。薬理学を学習・理解せず、薬による有害事象を予測できず、ステレオタイプ的な思考回路で盲目的にガイドライン(マニュアル)通りの処方をすればいい?何か有害事象が起こっても免罪される?こんな状況では医者ではなく、AI(人工知能)にでもプログラミングして処方してもらう時代もそう遠くないのではないかと思われます。個人的には診断ガイドライン、治療マニュアルというのはステレオタイプ思考を増幅させるだけの誤診・誤処方を誘導するだけのものではないか?という印象すら持ちます。



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by shinyokohama-fc | 2016-12-06 18:40 | 医療

PDDでは大脳皮質に広汎なコリン作動神経障害

放射線医学研究所で開発されたMP4A(methyl-4-piperidyl acetate)というPETトレーサーを用いることで、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)による水酸化・加水分解速度定数を直接絶対値で評価することで、脳局所のAChE活性を測定することが可能になったようです。この研究チームはこのMP4Aを用いたPET検査を、パーキンソン病(PD)、認知症を伴うパーキンソン病(PDD)/レビー小体型認知症(DLB)の臨床像を呈する患者に実施して、データをまとめ評価した結果を、2009年のNeurology(米国の神経学会雑誌)で発表しています。
MMSE(認知機能)が低下するほど大脳皮質のAChE活性が低く、コリン作動性神経障害がPDの認知機能に強く関連しているとの結果を得ています。PETの利点は脳内のどの部位でAChE活性が低下しているかを見える化(可視化)できることです。AChE活性は未治療PD、治療後3年以上のPDでは後頭葉の一部限局した範囲にしかAChE活性低下がみられず、PDD/DLBでは前頭葉~側頭葉を含めた大脳皮質の広範囲でAChE活性低下がみられました。マイネルト基底核からのコリン神経経路には帯状回・後頭葉に投射する内側系と前頭葉・側頭葉など広範囲に投射する外側系がありますが、PDD/DLBでは内側系+外側系が障害されている可能性が示唆されました。
千葉大学の神経内科では神経変性疾患における大脳皮質コリン神経系減少率を検討しているようです。PDでは-10%、PDD/DLBでは-20%以上と大きな差があるようです。一方でPSP,MSAでは-10%以下、SCA3/6ではー2%以下だったようです。
米国のBohnenらのグループは、PD,PDDの大脳皮質におけるAChE活性は罹病期間や運動症状の重症度とは相関せず、注意力・遂行機能障害と関連することを示しています。また彼らはPDの転倒イベントと視床のコリン神経系活性の相関性を検討しました。その結果として転倒歴のあるPDでは大きなACh活性低下がみられたという事です。
視床のコリン神経系は姿勢保持・転倒防止に関連し、大脳皮質のコリン神経系は注意力・遂行機能に関連するようです。PDD/DLBでは両方ともコリン神経系の神経障害が進行性のようです。
以前のブログでも取り上げていますが、放射線医学研究所が2012年に発表している、アミロイド沈着を伴うPDD/DLBというのが存在するというものであり、PDD/DLBは病理的に①アルツハイマー+レビーと②レビーという2つのタイプが存在し、①はコリンエステラーゼ阻害薬が無効、②は有効との報告でした。
数か月単位でラッシュな進行性がみられるPDD/DLBという症例がいくつか確認できますが、現存の治療薬などまったく通用しないことがわかります。ドパミン神経だけではなく、コリン作動性神経細胞がどんどん変性・脱落していくような症例にコリンエステラーゼ阻害薬を使ってもまったく通用しないことが、症例を通じてよく理解できます。効果がないばかりか、少量のリバスチグミンやドネぺジル、ドパミンアゴニストでも姿勢異常(首下がり、腰曲がり)が誘発されたり、動作歩行障害が悪化したりするようです。
その一方でPDが発症して15~20年経過している緩徐進行性の症例にはこのような臨床像はみられません。発症22年経過した72歳の女性PD症例に関して、初診時にみられた薬剤性せん妄の要素を解除して実施したMMSEは28点でした。つまりPDという病型では発症後20年以上経過しても認知症はみられなかったわけです。これに似た症例を2~3人診ていますが、やはり転倒歴はほとんどなく、注意力・遂行機能は維持されています。これらの症例ではおそらくMP4A/PET検査ではコリン作動系神経障害はかなり限定的なのだろうと思います。
こう考えていくと、アミロイド沈着を伴うPDD/DLBは、非常に悪性度の高い疾患群であり、原則的に経過が非常に緩徐・良性で非進行性のPDやDLBとは同じスペクトラムにあるとは言い難いです。臨床的には以下のように分類されるのではないかと思います。
(1)パーキンソン病・純粋型(PD);ダットスキャン軽度~中等度異常、 アミロイドPET正常~軽度異常
経過は非常に緩徐で良性、15~20年長期に経過しても中等度以上の認知症、重度の精神症状はきたさず、薬物処方過剰などの外的要因を除外すれば、日常生活動作に関する遂行能力と注意力は維持される。転倒は少ない。
パーキンソン治療薬の調整によって運動機能も比較的維持される、長期経過してもレボドパは有効である。
(2)レビー小体型認知症(DLB);ダットスキャン高度異常、 アミロイドPET正常~軽度異常
経過は非常に緩徐で良性、薬物選択を慎重に選べば、良好にコントロールでき、日常生活動作能力も維持される
(3)アミロイド沈着型・パーキンソン型認知症(PDD/DLB) ;ダットスキャン高度異常、アミロイドPET高度異常
高度の姿勢異常や転倒が多く、遂行能力・注意力は著しく阻害され、幻覚や妄想などの精神症状も強い場合がある。様々な薬物処方に対して少量でも有害事象が出現するが、レボドパ含むパーキンソン治療薬、ChEIなどは効果は全くないかあっても一時的で月単位で進行速く、多くは歩行不可となり、介護困難で入院や入所の対象になりやすい
パーキンソニズム(運動障害)、認知機能低下、精神症状がいずれも著しく、薬物コントロールがほとんど不可能なのが、(3)だと思われます。臨床経過と病状の重症度からPSP-RSに類似しています。ドパミン作動神経とコリン作動性神経の障害が重度であるため、ほとんど既存の薬物治療が通用しないようです。パーキンソニズム(運動症状)で発症するか、認知機能障害で発症するか、精神症状で発症するかの違いはあれども、最終的にはどれも重症になります。それに比べて(2)はパーキンソニズムがあったとしても薬剤性の要因を除外すればかなり軽度で、パーキンソン治療薬を全く必要としないケースも少なくないです。よく診察しないとわかりにくいようなレベルです。(1)はレボドパなどでパーキンソニズムはかなり軽減できます。臨床的には(1)(2)と(3)は全く別の疾患だと考えたほうがよいのではないかと個人的には思います。一般的にPDDと診断される疾患群は(3)であることがほとんどのようです。
一般的に(2)を臨床医が診断するのは相当難しいと思われます。動作歩行障害が目立たないので多くはうつ病など精神疾患とされています。幻覚(幻視・幻聴)や妄想を訴える場合もありますが、これらは(2)に特異的な症状ではなく、非定型ATD,FTD/SD,CBSなどでも高頻度にみられます。幻覚・妄想の発症部位は単一ではないからですし、高齢者の場合は様々な薬剤によっても幻覚(幻視)は容易に誘発されます。個人的には幻覚(幻視)というあまりにもありふれた症状をDLBの診断基準から除外すべきだと考えています。幻覚・妄想よりもむしろアパシー、アンへドニア、抑うつなどがDLBらしさなのではないかと考えます。パーキンソン治療薬が一切入っていない状況で診察すると、わずかに左右差のあるパーキンソニズムが確認できます。多くはドパミン阻害剤(抗精神病薬かChEIなど)によってパーキンソニズムが顕性化しますが、原因薬剤を減量・中止など修正すれば容易に軽減します。
私自身も(2)正確に診断する自信はありません。パーキンソニズムもアパシーもない幻覚症例を何人かダットスキャン検査を依頼しましたが、予想通り正常でした。近年はDLBの過剰診断が拡大生産されている状況のようです。
その一方で、PDに対するドパミン作動性薬剤の過剰投与によってPDD/DLBが拡大生産されています。多くの場合はドパミン作動性薬剤を一切整理することなく、ChEIが追加されます。こういうケースはPDD/DLBでもなんでもなくて、ただの薬剤カスケードにすぎないので、一時的にはChEIは有効かもしれませんが、またすぐに別の問題が出てきます。終わりなき有害事象悪循環の罠(袋小路)に迷入してしまうのです。


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by shinyokohama-fc | 2016-12-02 12:33 | 医療

アルツハイマー型認知症とメマンチンの再評価

「アルツハイマー型認知症」とはどういう臨床像なのでしょうか?私は認知症ばかり診るような「認知症専門医」ではありませんが、最近になってようやく純度の高い「アルツハイマー型認知症」の臨床像というものが理解できるようになりました。基本は除外診断に尽きるということです。
「アルツハイマー型認知症」では記憶・見当識・実行機能・注意障害などが3~4年単位で進行するため、ほとんどが仕事ができなくなります。日常生活動作も家族の援助がないと難しくなり、援助が得られない環境にいるケースでは早々にグループホームなどの世話になるしかない事になります。
「行動心理症状も精神症状も動作歩行障害もない、一見普通の人にしか見えないけど、日常生活動作が自立困難な認知症」それこそが典型的な「アルツハイマー型認知症」であり、発症年齢は55~75歳あるいは60~70歳が大半だと思います。そもそも発症年齢を同定するのはほぼ困難ですが、周囲が異変に気が付いた年齢というべきでしょう。そのため感度に大きな誤差が出ます。70歳を超えると純度が減少します。いわゆるレビー病理やピック病理が混在することによって、パーキンソン、グレイン、脳血管性などの要素が混在してくるので、アルツハイマーの純度は減少しておそらく50%くらいになると思います。75歳を超えると、グレイン(AGD)やPART(SD-NFT)のようなアミロイド無関係のタウオパチーの比率が増えてくるので、アルツハイマーそのものが減少してきます。たとえアルツハイマー病理が死後に確認されても、実際は本来のアルツハイマーとは大きくかけ離れた臨床像の症例ばかりになってしまいます。80歳以上ではやく半数を占めるのが、グレイン(AGD)と言われています。これはFTLDに似た臨床像で行動心理症状が前面に出ます。その一方でほとんどは日常生活動作は自立しています。
成書によると、病理的に「アルツハイマー」でも、臨床的には視空間失認や失行が強い、大脳皮質基底核変性症候群(CBS)をきたすタイプや、幻覚・妄想などのBPSDが強く出現するタイプ、前頭葉に病変が強く脱抑制が目立つタイプが存在するようで、私の外来においても非典型例がいくらか存在します。その多くは50~70歳と比較的若年者ですが、やはりこのような非典型タイプにおいては、コリンエステラーゼ阻害薬+メマンチンの標準的薬物処方は通用しないようで、たびたび奇異反応や副作用を起こすのではないかと思われます。
脱抑制、精神症状のない典型タイプでは、発症後7~8年経過して、簡易テストがほとんどできなくなった、FAST6レベルでも、メマンチンは10mgで有効でした。ガランタミンのみで2年継続してきましたが、病状が進行してアパシーで不活発になっていたケースではこの薬のおかげで活気を取り戻せたようです。
認知症を数多く診ている医者の中で、コリンエステラーゼ阻害薬ばかりを評価して、このメマンチンをまったく評価していない方々がいるようです。確かに高齢者に使うと軒並み眠ってしまったり、せん妄になったりするケースも多いので、「頭が悪くなる薬だ」と決めつけている医者も多いようですが、私はそうは思いません。たぶん多くの認知症専門を自称する医者は、コリンエステラーゼ阻害薬・ファーストの価値観が抜け切れていないのではないかと思います。以前から言っているように、この薬は単独で使用してこそ効果を発揮する薬剤だと思っています。コリンエステラーゼ阻害薬のフルドース(ドネぺジル10mg、リバスチグミン18mg、ガランタミン24mg)と併用するように指導している指南がこの薬の価値を貶めているのです。
純粋型のアルツハイマーの中等症~重症にとっては大変貴重な薬剤だと考えます。またコリンエステラーゼ阻害薬の副作用の多さ、リスクの高さを考えると、使いにくい症例が非常に多いのが現実です。コリンエステラーゼ阻害薬が使えない、発症して5年以上経過した症例にはメマンチンが有用ではないかと思います。


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by shinyokohama-fc | 2016-11-22 18:56 | 医療

小脳失調が主体のPSP-C

進行性核上性麻痺(PSP)のサブタイプで小脳失調が強く、筋トーヌスが低下(筋弛緩)している、PSP-Cというタイプがあります。当院でもこの2年で10名の臨床的にPSP-Cと推定される症例を診察しました。今月に入ってからも2名PSP-Cの症例を診ました。今年5月に神戸で行われた日本神経学会でPSPに関するシンポジウムを聴講しましたが、欧米ではPSP-Cという概念はなく、多くがMSAと診断されているのではないか?という意見がありました。PSP-Cについて最初に論文発表したのは、新潟大学神経内科です。PSPの原因であるリン酸化タウタンパクは大脳・脳幹だけではなく、小脳にも蓄積します。小脳にタウ蛋白が蓄積すると、やはり小脳失調が主症状となり、本来のPSPの姿勢反射障害・前頭葉性失調(フロンタルアタキシア)にプラスして小脳性の平衡運動失調も加わるため、より転倒性が増すことになります。
小脳症状の主なものは以下のとおりです。
1)よろよろする歩行(歩行失調) 2)スムーズに話せない(断綴性言語) 3)ペンをうまくつかめない(測定障害) 4)目がスムーズに動かない(滑動性眼球運動障害)
1)~4)が揃うのは一般的に脊髄小脳変性症(SCD)かオリーブ橋小脳萎縮症(OPCA/MSA-C)などの慢性進行性の小脳変性疾患ですが、PSP-Cの症状は一般的に1)のみの事がほとんどのようです。歩くときに左右に体幹がよろける酩酊歩行で、左右の足の開きはフロンタルアタキシアのみのPSP-RSに比べてもかなり大きくなります。方向転換時のよろけが最も大きく、継ぎ足歩行や片足立ちが困難になります。筋緊張(トーヌス)はむしろ正常より低下しており、PSPで通常筋強剛になる頸部や体幹ですら筋トーヌスは低下傾向です。当院に受診したPSP-Cと思われる症例を検証すると、前医で処方された少量のレボドパでも病状は悪化したといいます。レボドパはむしろドーパミン補充により筋緊張を低下させるので、PSP-Cの筋緊張低下をさらに悪化させる事になります。逆にコリンエステラーゼ阻害薬(ChEI)はアセチルコリンを賦活させて筋緊張を亢進させるので、筋トーヌスを正常化させ、この病態には合う可能性があります。PSP-RSやPSP-Pに対しては頸部~体幹および四肢の筋緊張が亢進しており、症例によっては頸部がガチガチに固まって前後にほとんど動かないケースも少なくないですので、ChEIはむしろ用量に比例して病状を悪化させ、場合によっては嚥下障害を悪化させる可能性があります。ただしChEIは筋緊張を亢進させるだけで、小脳性運動失調を改善させるわけではありません。MSAやSCDにはTRH治療が保険適応となっていますが、実際にはそれほど効果があるわけではないようです。
PSP-Cは古典型PSPのRSに比べて進行スピードはかなり遅いですが、それでも発症して6~7年経過すると失調が強くなり、ごくわずかな距離の歩行移動も困難になります。失調が強いケースだと、体幹が左右に大きく動揺します。
PSP-RSやPSP-P、PAGFなどではこういう所見はみられないため、PSPサブタイプの中でもかなり異質なタイプだといえるでしょう。


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by shinyokohama-fc | 2016-07-12 16:54 | 医療
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