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認知症の正しい診断と正しい薬物治療は不可能

前回のブログのおさらいになりますが、高齢者ブレインバンクにおける、連続剖検において、神経変性疾患の病理診断は嗜銀顆粒性認知症(AGD)は16%、レビー小体型認知症(DLB)は23%、それぞれ混合病理が30~40%という報告でした。つまり日本人の高齢者(死亡時の年齢)においては、アルツハイマー型認知症(ATD)とAGDとDLBの単独ないし混合で77%(8割弱)を占めることになり、それに次ぐのが、進行性核上性麻痺(PSP)と神経原線維変化型認知症(NFTD)です。一方でピック病は0.5%以下だったそうです。神経変性疾患の剖検を積極的に行っているある国内の病院の研究発表によると、PSPと皮質基底核変性症 (CBD)に至っては、本来の運動症状が主体で病気がスタートする(発症する)症例は半数以下であり、30~40%は前頭側頭型認知症(FTD)の行動異常、脱抑制、あるいは情緒不安定などの辺縁系症候群で発症し、その後も何年も運動症状が現れないという経過をたどるとのことです。
以上は病理診断の話ですが、私は個人的に、臨床診断と病理診断を合致させるのは、現在の診療ツールでは不可能だと考えます。PSP/PSPSやCBD/CBSの症例を診てきて、それぞれの症例の経過と臨床症状の多様さからみてそれは明らかです。医学的な常識として、薬物治療というのが正しい診断が前提であるとすれば、これらの認知症を含む神経変性疾患には正しい薬物治療というのはほとんど不可能だという結論になります。私もこのような病気の他の医者の診断を訊いて強く感じるのは、神経変性疾患に対する臨床診断というのは、診察した医者の価値観・経験などに影響された「個人の感想」というレベルにすぎず「思い込み」の要素に多分に左右されるという事です。当然のことながら「正しい診断」が不可能な症候群に対して、そもそも「正しい(薬物)治療」などできるはずもないわけです。ある医者がATDだ、DLBだと診断しても、別の医者はピック病だ、パーキンソン病だとかいうおかしな混乱が起こり、そのたびに薬が変更されたりして、患者は右往左往させられるという問題がおこります。先のブログで書いたように、前頭葉関連症状=ピック病ではなく、動作歩行障害=パーキンソン病、DLBでもないので、外来医としては何を基準に診断したらいいのかわからないという状況です。
私を含めてほとんどの医者は正しい診断もできず、適当な診断をつけて、神経系に作用する劇薬を処方するというわけです。特に80歳以上の高齢者には超劇薬になることも珍しくはないのです。
ATDではないAGDやPSPの患者にコリンエステラーゼ阻害薬を処方しては興奮させてしまう。DLBやAGDの患者に抗精神病を処方して動けなくなる。辺縁系症候群が強いDLBやAGDに対してドパミン刺激剤を処方して
精神錯乱させる。といった混乱が日常茶飯事に起こっているわけです。
本来、コリンエステラーゼ阻害薬は60~70歳くらいで発症した、純粋なアルツハイマー型認知症に対しては効果が認められた薬(効果は1~3年の限定的ではありますが)ですが、80歳以上の症例では、AGDやDLBやPSPを合併する症例が増えますので、そうなると上記のような患者が薬に振り回されるという混乱イベントが増えるのではないかと推定されます。
高齢者の精神症状、辺縁系症候群(情緒障害)と前頭葉関連症候群(脱抑制的行動異常)に関しては、病理統計的にはDLBとAGDが4割ずつで、残りの2割がNFTDではないかと推定されます。ピック病は若年発症で、その病気の性格上、事故や病気で亡くなる方がほとんどで、80歳以上まで生き延びている人はほとんどいないのではないかと思われます。


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by shinyokohama-fc | 2017-11-18 12:08 | 医療

高齢者の精神症状と嗜銀顆粒性認知症 (AGD・グレイン)

高齢者ブレインバンク、高齢者の神経病理において、精密な臨床研究で定評のある、東京都健康長寿医療センターときのこエスポアール病院などの近年における論文(文献)や研究発表は臨床医にとって大変参考になります。
高齢者において認知症、精神症状、運動障害など様々な臨床像を呈した症例を数多く剖検して、臨床像と比較検討できる数少ない施設だからです。前者の研究によると、高齢者の連続剖検された500例以上の認知症のうち神経変性疾患の内訳は、嗜銀顆粒性認知症(AGD, Argyrophilic Grain Dementia, 通称グレイン)16%、アルツハイマー型認知症(ATD)38%、神経原線維型認知症(NFTD)7%、レビー小体型認知症(DLB)23%、進行性核上性麻痺(PSP)8%、ピック病0.5%、皮質基底核変性症(CBD)0.5%(いずれも混合病理を含む)でした。つまり死後の病理解剖で最も多い病気(病理診断病名)はグレイン(以下AGD)という事になります。また後者の研究では、65歳以上で発症した初期から中期まで精神病性障害が主体で認知症を欠いていた症例グループにおいて、病理診断としてAGDが36%、DLBが36%と有意に高率であり、高齢発症の精神病性障害にAGDが関与している可能性が示唆されています。同じタウ蛋白(4リピートタウ)が脳に異常にたまる病気であるCBDとPSPの病理診断剖検例において、CBD35例では100%、PSP30例の28%でAGD病理を合併していたという結果でした。病理診断CBDにおいて臨床的CBS(皮質基底核症候群)を示したのは半数以下、病理診断PSPにおいてリチャードソン症候群(進行性の姿勢反射障害・嚥下障害・眼球運動障害など)を示したのは60%前後だったそうです。近年の学説では、病理診断PSPとCBDでは精神症状や行動異常から発症する症例がしばしば見られる事が世界的に注目されており、ピック病に類似した臨床像をとることから「ピックコンプレックス」と呼ばれているという事は、以前の当ブログでも繰り返し言及している通りです。
その一方で、外来で臨床診療に携わっているほとんどの神経内科専門医、認知症専門医、精神科医は、アルツハイマー型認知症(ATD)、レビー小体型認知症(DLB)、パーキンソン病(PD)以外の病気はほとんど存在しない、きわめてまれだと認識しているようです。当院に初診で来院される、前医の診断も上の3つが80~90%程度であり、残りは診断不明とされています。しかし実際は、この3年間で私自身が外来で診療してきた症例は、この3つの病気以外としか言いようのない症例、症候群は非常に多いです。これらの臨床像は、皮質基底核症候群(CBS)、リチャードソン症候群、前頭側頭型認知症(脱抑制的行動異常)、発語失行、非流暢性失語などが主症状でした。それらの症状が2~3並存していた症例が非常に多かったように思います。これは60歳以上の高齢者・長寿者の急激な増加が影響しているのではないかと思われます。10~20年前に常識とされていた事は臨床医学の分野ではもはや常識ではないのです。
神経内科の外来では、行動異常や精神症状だけが主訴の症例を診ることはほとんどありません。ほとんどは精神科の外来を受診するのだと思われます。しかしそのような精神症状で発症して、数年間は精神科か認知症専門外来に通院し、抗精神病薬などを処方されて、何年も経過してから、精神症状は軽減してきたが動作歩行などの運動障害が目立ってきたという事で、精神科から神経内科(当院)へ定期通院先を変更するという60~70歳前後の症例が少なからず見られるようです。一方で、80歳以上で精神症状と運動障害が同時に悪化していく症例が多く見られます。
このような症例・症候群の正体はいったい何なのか?運動障害はあるものの、パーキンソン病 (PD)でみられるそれではなくて、どちらかというと皮質基底核症候群やリチャードソン症候群に合致した運動障害です。行動異常・精神症状の多くは激烈なレベルであり、ATDやDLBの行動心理症状(BPSD)とはレベルが違います。自宅で介護に耐えられる同居配偶者・家族は少なく、多くは精神科病院へ入院する事が多いようです。早々に精神病院へ入院してしまう症例は我々神経内科医が診ることはありません。おそらく抗精神病薬など鎮静目的の薬が初期から複数処方されると思われます。そのうちの半数程度は抗精神病薬を開始して半年~一年以内に動作歩行・運動障害が急激に悪化して寝たきり状態になるのではないかと思われますが、その経緯も我々神経内科医の目に触れる事はないでしょう。それらの多くは病気が進行してしまったんだと解釈されてそれで終わりになっているのではないでしょうか?中には、深刻な精神症状をきたす病気になった患者さんでも精神科病院へ入院する事に抵抗して、自宅で看ようと頑張るご家族の方がいます。この3年の私の外来診療ではそういう症例を数多く診てきました。精神科ではない私にとっては非常に不慣れで対応に苦慮しましたが、1つだけ重要な事に気がつきました。CBD、PSP、AGDと推定されるこれらの症例群では共通して抗精神病薬やコリンエステラーゼ阻害薬に対して強い過敏性を示すという事です。私の感覚ではそれはDLB以上の過敏性ではないかと実感しています。過敏性があるがゆえに、ごく少量の抗精神病薬でも効果がある半面、副作用も出やすいようで、姿勢が極端に悪くなったり、歩けなくなったりという症例が続出しました。開始後1~2か月で大丈夫でも、数か月してから姿勢が悪くなる症例もありました。それゆえ、1年前からはこのような症候群に対して、抗精神病薬を処方する事は極力控えることにしました。「抗精神病薬に対する過敏性」という項目は、DLBの診断基準の支持的特徴にされていますが、「抗精神病薬に対する過敏性=DLB」ではなく、「抗精神病薬に対する過敏性=DLB、AGD、PSP、CBDのいずれか」というのが正しい認識ではないかと思います。
ブレインバンクの研究発表によると、AGDは16%(3位)、PSPは8%(4位)でした。私の外来患者で診察しているイメージとだいたい同じです。しかし、多数の認知症を診察している認知症専門外来を標榜する医療機関の外来医は、臨床的PSPSやCBSは診療経験がほとんどなくて診断できないようで、ATD、DLB、MCI(軽度認知障害)以外の病気はよくわからないようです。そのために当院の外来に来る症例は、必然的にPSPSやCBSが多くなったのであろうと思います。
次回のブログでは、臨床像が類似していて鑑別が困難であるAGDとピック病(前頭側頭型変性症)を典型的な症例を通じて比較検証してみたいと思います。前頭側頭型認知症において、AGDは若年発症から高齢発症まで圧倒的多数を占め、ピック病は若年発症だけでごく少数であるという病理診断統計的な事実がある。つまり前頭側頭型認知症は比較的多く見られるが、その大多数はピック病以外のAGDやPSP、その他の病気であるという事です。


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by shinyokohama-fc | 2017-11-16 12:36 | 医療

PSPSとCBSはピック病の仲間

病理診断の病名としては、一般的には前頭側頭型変性症(FTLD)と呼ばれています。2010年の最新分類ではFTLDには、4つのタイプがあるそうです。
1) FTLDータウ (Pick、CBD、PSP、AGD、NFTD、他)
2) FTLDーTDP( Pick、SD、FTD-MND、他)
3) FTLD-FUS( NIFID、BIBD)
4) FTLD-UPS( FTLD-TDP)
3) 4)は遺伝性疾患であり、比較的稀です。4)らしき症例は1例だけ診たことがあります。FTLD-TDPの病状は、パーキンソン病に似た進行性のパーキンソニズムと認知機能障害と前頭葉関連症状があります。すべての症状が半年~1年でラッシュに進行し、あらゆる薬物療法に抵抗性でまったく歯が立たない状況です。すべての神経変性疾患の中で最もコリン作動系神経障害が重度であり、おそらくFTLD の中では最も重症かつ急速進行性な経過ではないかと推定されます。
1) FTLD-タウはFTLDプロテイノパチーの中では最も多数を占める、4リピートタウという病的異常タンパク質がたまる症候群です。この中には以下の疾患が含まれます。
① Pick病 (PID) ②大脳皮質基底核変性症(CBD) ③ 進行性核上性麻痺(PSP) ④ 嗜銀顆粒性認知症(AGD・グレイン) ⑤ 神経原線維変化型認知症(NFTD)
近年の高齢化によって、④と⑤が特に増えているようですが、④に②や③が合併するという、高齢発症のAGD+PSP、AGD+CBDというケースが増えています。
CBD/CBSの疾患概念については、CBSを臨床診断名、CBDを病理診断名として区別して使用する事が提唱されました。臨床診断名としてCBS(大脳皮質基底核変性症候群)を使用し、その中には病理診断ではCBD(50%)の他に、PSP(30~40%)、その他少数ではあるが、AD(アルツハイマー)、FTLD(前頭側頭型変性症)、CJD(ヤコブ病)が含まれます。また病理診断CBDは、CBSの他に、PSPS(進行性核上性麻痺症候群)、FBS(行動異常型症候群)、NFPPA(非流暢性失語症候群)という臨床病型が含まれるとされています。
PSP /PSPSの疾患概念についても、同様にPSPSを臨床診断名、PSPを病理診断名として区別して使用する事が提唱されました。臨床診断名としてPSPS (進行性核上性麻痺症候群)を使用し、その病理診断ではPSP(50%)の他に、CBD(20~30%)、CJD(ヤコブ病)、多発性脳幹梗塞、PID(Pick病)、傍腫瘍性神経症候群、松果体腫瘍などがあるようです。また病理診断PSPは、PSPーRS(リチャードソン症候群)の他に、PSP-P(パーキンソン型)、PSP-PAGF(純粋無動型)、PSP-CBS(皮質基底核変性症型)、PSP-PNFA(非流暢性失語型)、PSP-bvFTD(行動異常型)、PSP-C(小脳失調型)などがあるようです。
たぶん、これを読んでいて何のことかさっぱりわからないと思う方が多いと思いますが、これが臨床診断と病理診断の現実であり、生きている間には正確な病理診断はまったく不可能であることがわかると言えるでしょう。結局Pick(bvFTD)、CBD、PSP、AGDという病気は混合・重複ありで、いくらでもオーバーラップする病気・症候群だと言えます。それゆえ、Manchster GroupはCBD(CBS)やPSP(PSPS)をPick Complexと呼称していました。これらの病気(CBD/CBSとPSP /PSPS )は決してパーキンソン病の仲間(パーキンソン症候群)などではなくて、病理的にはピック病の仲間なのです。


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by shinyokohama-fc | 2017-11-06 18:01 | 医療

前頭葉関連症状=前頭側頭型変性症(FTD)ではない

前頭葉関連症状で始まり、その後運動機能障害により動作歩行が悪化していくケースは意外と多いようです。
前頭葉関連症状というのは、以前のブログでも書いていますが、箇条書きにすると以下のとおりです。
1) 常同行動 (同じルートを何度も周回する、同じ内容の話言葉をくりかえす、絶えず手で脚をさする、など)
2) 脱抑制 (本能のままの行動、周囲への配慮・礼節に欠ける、盗むなど反社会的行為、発作的に易怒、など)
3) 被影響性 (外的刺激に反応しやすい、相手の言葉をオウム返し、目の前のものを触る、など)
4) 注意・集中力低下 (一つの行為が続けられない、診察室・検査室に留まれず、立ち去ろうとする、など)
5) 感情・情動変化 (理由なく笑顔、または不機嫌、他人と共感できない、など)
6) 病識の欠如 (自分が病気である自覚が全くないため、受診や定期通院が難しくなる、など)
7) 言語障害 (物の名前が出てこない、言葉の意味がわからない、読み間違い、会話がスムーズにいかない、など)
8) 食行動障害 (甘いもの、味が濃いものばかり食べる、盗み食い、高速で噛まずに飲み込みので窒息、など)
9) 自発性定価 (家事や仕事をしなくなる、何もせずゴロゴロしている、質問しても考えずに適当に答える、など)
前頭側頭型変性症 (FTD)については、2年前から65歳以下で発症した症例については、行動異常型 (bvFTD)と意味性認知症 (SD)については難病指定となっており、診断基準を満たす症例は難病として申請が可能になります。診断基準は症候学的診断(症状を基準とした診断法)がメインではありますが、画像診断がbvFTDやSDに合わない症例や、発症年齢が合わない症例は、申請しても認定されないようです。
診断基準の表現は、専門医以外には難しいこともあり、1)~9)の症候学的特徴がそろっているかどうかで、この病気 (FTD)を考えるのですが、実際はそう単純ではなくて、前頭葉関連症状=FTDではなく、FTD以外にもほぼすべての認知症で前頭葉関連症状をきたしうるというのが現実です。このような神経変性疾患に関しては、死後の脳の解剖による病理診断でなければ、生きている間に正しい診断はほぼ不可能であることは、近年の海外の様々な論文などでも指摘されています。
前頭葉は、大脳辺縁系・大脳基底核、中脳(脳幹)と密接に連携していますので、前頭葉以外、例えば、中脳と基底核に限局した障害のパーキンソン病でも軽度の前頭葉障害をきたすと確認されています。患者数が多いと言われているアルツハイマー型認知症や、レビー小体型認知症/認知症を伴うパーキンソン病など、本来大脳皮質の後半部分が限局して障害される病気でも、20~40%では前頭葉~側頭葉の障害が強く、大脳皮質全域が障害されてしまう重症タイプがあります。それ以外に近年増えている、タウオパチー、嗜齦顆粒性認知症(AGD、グレイン)、神経原線維型認知症(NFTD)、進行性核上性麻痺(PSP)、大脳皮質基底核変性症(CBD)などは疾患の性質上、高率かつ顕著な前頭葉関連症状があります。
中には、高齢発症の著しい前頭葉関連症状(精神症状)のAGDで発症した症例が、臨床的CBSやPSPSに移行していく症例は数多く見られます。つまり精神科でかかっていた症例が、動けなくなって神経内科(当院)で診ることになったというパターンは珍しくないという事です。
統計的にFTDは全認知症の1~5%程度にすぎないわけですが、前頭葉関連症状をきたす認知症、となるともっと多くなるのではないかと思われます。そしてその鑑別診断や予後を推定することは非常に難しいのです。


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by shinyokohama-fc | 2017-11-06 12:36 | 医療

PD,PDD,DLBによる血圧サージ

レビー小体(アルファシヌクレインの重合体)がたまる病気 、レビー小体病(現状では脳や自律神経にレビー小体がたまっているという事を証明できる検査ツールは存在しないため、こういう病名を使うことは正直言って非常に不快感が強いのですが)であるパーキンソン病(PD)、認知症を伴うパーキンソン病(PDD)、レビー小体型認知症(DLB)は症例によってですが、延髄~脊髄の自律神経内にレビー小体がたまるために、早期から便秘があると言われています。このような自律神経不全の影響で体位や状況によって血圧変動が著しい状態(血圧サージ)になる場合が多いようです。活動する交感神経(血管を収縮させて血圧や脈拍を上げる神経)と休息する副交感神経(血管を拡張させて血圧や脈拍を下げる神経)でバランスをとっているのですが、健常な場合は、置かれている状況次第でそのバランスの切り替えが上手くいくのですが、このような病気では2つの神経の切り替えが上手くいかなくなります。
血圧サージというのは、血圧が大きく上下する変動の激しい状況の事です。具体的には起立性低血圧、食事性低血圧などと言われますが、血圧サージをきたす代表的な病気としては糖尿病があります。長年にわたる糖尿病が全身の動脈硬化を起こすのは、血圧サージによる要素も大きいと言われています。動脈硬化が、網膜症、末梢神経障害、心筋梗塞、脳梗塞などの原因になり、脳の細小動脈硬化による血流障害によって、間接的に大脳起源の認知機能低下が誘発されてしまうと言われます。動脈硬化の評価としては、MRI検査などで虚血性変化の評価、頸動脈の超音波などで動脈硬化の評価などが可能です。脳にアルツハイマー病理やレビー病理が存在しても認知症として発症しないケースも多く、脳梗塞・脳出血の既往があったり、脳の細小動脈硬化によるラクナ変化が確認される場合は、認知症が発症しやすい、あるいは認知症が重症化しやすいようです。
レビー小体関連の病気でよく初発症状・前駆症状と言われている、レム睡眠行動異常症(RBD)という症状ですが、
夜間就眠時も筋肉が休まらないという症状のために、血圧サージが起こりやすいと推定されます。逆にRBDが顕著な症例ほど、夜間の血圧サージが頻繁に起こるために、脳の細小動脈硬化が促進されやすい、つまりMRI検査で、虚血性変化(微小脳循環障害を示すラクナという変化を多数確認する)がみられ、結果として、認知機能障害、PDDやDLBが起こりやすいという転帰をとるのではないかと思われます。これに加えて、日中の体位変換や食事などの生活行動に伴う血圧サージが大きいケースでは高確率でPDDやDLBが発症しやすいのではないかと推定されます。
近年、血糖に関しては、簡易に装着できる血糖の日内変動が測定できる機器が登場して、血糖サージの実態が確認できるようになりました。しかし、血圧サージの悪影響に関しては、PDやDLBを診察している神経内科医や認知症専門医にはきわめて軽んじられていると感じます。立ち上がると気を失い、立位で測定不能になるほどの起立性血圧低下がある症例にアムロジピンとドネぺジルを処方したり、臥位で血圧が160以上に上がる症例にドロキシドパを処方しているのが現状です。起立性低血圧だけではなく、臥位高血圧が問題になるケースも多く、PDやDLBの診察では必ずと言っていいほど、臥位・座位・立位と体位による血圧変動を確認しなればならないのですが、そういう診察されているといった話は患者さん側からほとんど訊くことはありません。
レビー小体関連した病気においてを軽減するのは実際容易ではありません。下手に血圧を下げる薬(降圧剤)や上げる薬(昇圧剤)が処方されて、長期的にはそのような薬を服用することが細小動脈硬化と脳循環不全、認知機能障害が悪化させているのではないかと推定されます。
起立性低血圧を軽減・改善させるためには以下のような生活習慣が指導されます。
1) 水分と塩分をこまめにとる
2) 1回の食事量を少なくして、5~6回にわけて食事をとる
3) 脚力を落とさないために、下半身を中心した運動を行う (坂道や階段の上り下りやスクワットなど)
4) 眠るときは、枕を高くする
5) 弾性タイツ(ストッキング)を着用する
6) 便秘をしないようにする
血圧サージの対処法として、海外では「ハンドグリップ法」全力の30%で2分握ることで、上肢の血圧を上昇させて、交感神経を刺激する事によって血圧の変動を軽減する効果があるそうです。PDD/DLBにおける認知の変動は、血圧変動による脳循環の変動による所が大きいと思われますので、認知の変動の著しいケースでの症状の安定化に効果があるのではないかと考えています。
私が外来で、30mmHg以上の起立性低血圧、あるいは血圧手帳において、30mmHg以上の血圧サージを確認する症例の多くが、PDD(重症型PD)かDLBです。逆にそれが確認できない症例の多くは軽症型PDです。
これらの病気において、血圧変動というのは予後・重症度を規定する重要な因子だと私は確信しています。


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by shinyokohama-fc | 2017-11-04 12:39 | 医療

DLBとPDDの相違点と共通点

レビー小体型認知症(DLB)と認知症を伴うパーキンソン病(PDD)は全く臨床的なキャラクターが違います。個人的には「レビー小体型」とか「認知症」とかいう名前は非常に気に入らないのですが、公式にそう呼ばれているので仕方なくそう呼んでいます。
DLBは大脳皮質や辺縁系の症状がメインです。軽症型は大脳皮質の後半に限局しますが、重症型は大脳皮質全域に及びます。前者ではドネぺジルやリバスチグミンなどのコリンエステラーゼ阻害薬が著効しますが、後者ではほとんど効果がなく、ドネぺジルやリバスチグミンを使うと精神興奮や錯乱が誘発されてしまうようです。
PDDは脳幹の症状がメインですが、大脳皮質も障害されてしまうので、多くの場合DLBよりも重症です。軽症型では大脳皮質の後半に限局しますが、中等症~重症型では大脳皮質全域に及ぶので、PSPと同様に中枢神経細胞のほとんどが機能不全に陥っており、機能をカバーできる中枢神経領域がほとんど残っていない状態です。軽症型ではレボドパ+アマンタジンがある程度奏功しますが、中等症以上になると効果が落ちてきて、重症型ではほとんど効きません。それゆえ私は「認知症は薬物療法で必ずコントロールできる」とは全く思いません。DLB やPDDだけでみてもコントロールできない症例が半数程度存在します。薬物療法というのは、正常な神経細胞や受容体が残っていて初めて奏功するものですが、PDDやPSPの重症型ステージの症例の場合は、それがほとんど残っていない状態なので薬物療法は奏功しようがないと考えます。
DLBとPDDはかつては認知症が先か、パーキンソン症状が先か、1年ルールというものがありましたが、いつから症状が出たのかなど誰にもわかるわけがないのです。本人が自覚した?家族が気が付いた?重症になるまで気が付かない症例も多いです。MMSEやHDSRやMOCAなどという簡易スケールでの評価は病気のステージを反映しないという事は、患者を診ている医者であればわかります。よって1年ルールは臨床的にはまったく無意味です。
両者に共通しているのは、書字の障害が顕著で、図形や立方体、時計の数字などが上手く書けないという事です。多くの症例は文字が拙劣で、ラインがまっすぐ描けず、書くのに非常に時間がかかり躊躇します。これはパーキンソン症状がほとんど目立たないヤール1~2レベルのDLB症例でも同じです。
両者の相違点は、患者のキャラクターです。典型的なDLBは表情は普通でどちらかというと多弁でよくしゃべる人が多いのですが、典型的なPDDは表情が乏しく、暗くどんよりした雰囲気で口数が少なく、重症になると話そうとしてもほとんど上手く話せない状態になります。運動障害が重くヤール3~5レベルです。軽症型DLBではコリンエステラーゼ阻害薬が多くの症例で奏功し、幻覚や妄想などをある程度抑制する効果がありますので使います。しかしPDDでは軽症型でもコリンエステラーゼ阻害薬は合わない症例が多く2~3か月継続すると多くの症例で姿勢異常や動作緩慢が悪化します。私はPDDで10例ほどコリンエステラーゼ阻害薬を試しましたが、結果は1勝9敗でした。1勝の症例でもリバスチグミン6.75mgで使用しています。
DLBとPDDの軽症型~中等症型ではある程度薬物療法が奏功しますが、しっかりと鑑別をして使うべき薬を選ばないと、薬物でかえって病状がすごく悪化してしまうという転帰をとる事が多いようなので、注意が必要です。


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by shinyokohama-fc | 2017-10-26 18:57 | 医療

パーキンソン病は軽症から重症まである

「Brain」という雑誌の今年度に興味深い論文が投稿されていました。
「Clinical criteria for subtyping Parkinson's disease : biomarkers and longitudinal progression」
パーキンソン病を軽症型・中間型・重症型という3つのサブタイプに分類すべく、脳画像診断や脳脊髄液のバイオマーカー、運動症状と非運動症状の重症度などで評価し、経時的に病状の進行を確認した臨床研究のようです。この研究では対象は未治療の新規パーキンソン病患者421例で、以下の3つのサブタイプに分類されました。
1) mild motor predominant type (運動症状優位・軽症型)
2) moderate type (中間型)
3) diffuse malignant type (広汎・重症型)
1)~3)の重症度分類は、運動症状と非運動症状のスコアで分類され、それぞれ1)221例(52.5%)、2)146例 (34.7%)、3)52例 (12.3%)でした。全タイプで中脳の有意な萎縮が確認され、1)2)3)と重症になるにつれて段階的に悪化、3)では大脳全体の萎縮がみられ、高度な尾状核の脱神経がみられ、脳脊髄液中のアミロイドベータ/タウタンパク比が低値で、病状の進行が速かったという事でした。
やはり重症であればあるほど、アルツハイマーと同じ病理が混在して、タウ蛋白がアルツハイマー以上に広範囲にたまると推定されます。数年前の放射線医学研究所のタウPET検査で証明された、「認知症を伴うレビー小体病」において、タウがたまらないタイプとたまるタイプがあるという報告と矛盾しないのではないかと思われます。
私がかつてのブログで書いていたように、実際に外来で診ているパーキンソン病の症例の重症度・進行度もまさにピンからキリまでですが、特に3)のタイプは、レボドパにもコリンエステラーゼ阻害薬にもほとんど反応せず、対症療法的にも薬物治療がまったく通用しないようです。私もこのような悪性経過の症例を数例診てきましたが、おそらく、進行性核上性麻痺の最重症型(リチャードソン症候群)と同じかそれ以上の悪性経過ではないかと思われます。
これまでの医学書や一般書に書いてある内容のパーキンソン病というのは1)のことしか書かれていません。パーキンソン病はどの症例も15~20年単位で緩やかに進行して、20年経ってから認知症や精神症状が出てくると書いてあります。どの書籍も同じような事しか書いていないようです。こういうのを読むと読者の多くはパーキンソン病というのは均質に良性経過をとる病気だと大きな誤解するのではないでしょうか? これらの書籍の筆者の多くは、敷居の高い大病院で外来診療を行っている著名な先生方が多いようで、おそらく2) 3)のような進行が速くて薬物治療が全く通用しないタイプは1年以内に通院が途絶えてしまうので、進行した状態までフォローされずにスルーされてしまっているのではないかと想像されます。日常の外来診療で2)や3)のタイプの重症進行型のパーキンソン病を少なからず診ている私としては、こういうありきたりな内容の書籍を読んで、パーキンソン病という病気のたかだか50~60%の良性経過の軽症型の内容だけでパーキンソン病のすべてを語るというのはどうなのか?と感じました。特に「パーキンソン病は薬物療法が奏功するので薬物療法とリハビリをやれば生涯を全うできる」というお決まりの文句には違和感を覚えます。本当に患者を診ているのか?とすら思いますね。
今回の論文は、パーキンソン病にも軽症(良性)から重症(悪性)まで多様性があるという事実を示したという点で価値があるのではないでしょうか?これまでのパーキンソン病の医学書や一般書はすべて書き直されるべきでしょう。


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by shinyokohama-fc | 2017-10-24 16:38 | 医療

パーキンソン治療薬と医療経済/国民皆保険医療・持続不能

本日の日本経済新聞の朝刊の1面記事です。「国民皆保険による医療 医師の半数「持続不能」」数年前から日本経済新聞をとっているので、医療系の記事には注目するようにしています。
医師向け情報サイトの会員医師に対して、6月中旬にインターネットでアンケートを実施して、回答が1000人に達した時点で集計したそうです。このアンケート集計によれば、約半数の医師が「現体制の国民皆保険による医療は維持できない」と回答したようです(回答者は勤務医81%、開業医19%)。
医療費の高騰問題で、常に問題にされることとしては
1) 高齢者に対する非高齢者と同等レベルの濃厚医療が施されている
2) 医療の高度化による薬剤費の高騰、特に新規認可薬の高価格
1)に対しては、例えばある学会では高齢者の誤嚥性肺炎に対する抗生物質の投与が疑問視されています。私も約10年前までは急性期病院勤務医でしたが、寝たきり状態の高齢者に対する延命目的の輸液(持続点滴)、繰り返す誤嚥性肺炎による発熱に対して何種類も抗生物質を点滴をしたりしながら強い疑問を感じていました。
私が主に診療している、パーキンソン病という病気に関してこの問題を考えてみると、発症して10~15年以上経過した80歳を超えた患者さんに対しても、レボドパ、アマンタジン以外の高額な新規治療薬を4~5種類も処方されていることが珍しくなくて、その過剰処方の副作用を抑えるために定番のようにドンペリドンが追加されています。しかし実際は新規治療薬を入れられすぎて、肝心のレボドパが全然効いていない症例が多く、動作歩行は全く良くなっていなくて、幻覚・妄想でひどい精神病になっているか、慢性的なせん妄状態に至っており、「レビー小体型認知症に進行したので」と言われて、さらにドネぺジルが追加されてしまうというパターンが非常に多いようです。80歳以上の女性にこれだけの多種多様で大量の神経系薬剤が重ねられると普通に考えれば廃人化してしまう危険性が高くなります。誤解を恐れずに言ってしまえば、このような病状を悪化させるだけの行き過ぎた多剤併用処方(ポリファーマシー)は、医療費の高騰化を推進する最大の要因でしょう。高齢者に対して高額処方を長期に継続した結果、神経薬物中毒あるいは二次的な合併症で救急受診~入院することにより、さらなる医療費がかかります。
私が近年「パーキンソン病の薬物治療」を問題視し始めたのは、こういう事例が後をたたない状況だからです。パーキンソン病という病気は、がんとは違って、病気が直接的に生死にかかわる病気ではなく、レボドパの導入によって動ける期間が延長したことで多くの患者さんが恩恵を受けているという半面、この20年で薬の種類が増えすぎてしまい、年齢や病状など患者の状況を深く思慮なしに、動けなければ薬を追加するの繰り返しをしているのではないかと思います。効果がはっきりしない薬を中止して別の薬に変更するのであればまだしも、効果がはっきりしない薬でもそのまま続行し中止することなく、別の薬を追加するという「足し算処方」ばかりなので雪だるま式に薬ばかりが際限なく増えるようです。パーキンソン病治療薬以外にも、抗精神病薬、抗認知症薬、抗不安薬、抗うつ薬など際限なく薬が足し算されていくようです。「たくさん薬を処方する・服用する=精一杯治療努力をしている」という勘違いそのものではないかと思います。医療経済を多少でも意識すれば、80歳以上の高齢者のパーキンソン病についてはレボドパとアマンタジン以外はあと1種類程度の処方薬にとどめるべきではないかと思います。パーキンソン治療薬の中には1錠800~1000円という超高額な薬もあります。また病気が進行したヤール4~5度の症例に対しては、むしろ不必要な薬を少しずつ減らして最低限の処方にとどめるべきではないかと考えます。
前回のブログにも書きましたが、やはり早期のヤール1~2度の時期からよく外出して歩行して手足をよく使うことがどんな薬物治療よりも勝るのではないでしょうか?私が診てきた患者さんの実例がそれを証明しています。


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by shinyokohama-fc | 2017-06-30 12:04 | 医療

歩くことが神経難病の発症時期を遅らせる?

最近、神経学会の最先端では、Disease Modifying Therapy (DMT)の話題、特にメジャーな神経変性疾患である、アルツハイマー病とパーキンソン病についての話題ばかりのようです。
有名大学病院の最先端医学の研究者たちが考えていることは、現在行われている、発症してからの対症療法的な薬物治療ではなくて、いかにして発症前に病気をバイオマーカーでとらえて、病気そのものを進行させないための治療(DMT)を早期から施すかということのようです。
しかし発症する20~30年前の働きさかりの30~40歳の時に、あなたはアルツハイマー病だ、パーキンソン病だ、今後20年後に発症するだろうと告知された人にどのような心理的悪影響を与えるのか?という点は考慮されていないようです。現在検討されている可能性のある治療としては、発症を予防するためのワクチンが主流のようです。
それ以外にもIPS細胞やオートファジーを応用した治療が検討されているようですが、問題になるのは、やはり最新治療はあまりにも高額すぎるので、最新治療の適応は若年発症の遺伝性のタイプに限定される方向にあるということでしょう。パーキンソン病が多い年齢層、75~85歳の非生産年齢層の患者さん達に、20年前の55~65歳からワクチンを打つようにという事は現実的とはいえないでしょう。比較的メジャーな疾患、アルツハイマー病やパーキンソン病ですらこういう現状ですので、他のマイナーな疾患に関してはDMTは期待できそうもないでしょう。
最近、クリニックの近隣にお住まいの84歳の動作歩行障害の女性の方が、総合病院の神経内科に通院していたのですが、変わりたいということで、4か月前から定期受診されるようになりました。もともとムズムズ脚(レストレスレッグス)症候群があり、右手のふるえ、書字が小字傾向で、筋固縮はなかったが、診断はパーキンソン病ヤール2度であろうと考えていたのですが、どうもパーキンソン病としては歩行時に左右へのふらつき・動揺がかなり強いのが合点がいかなかったのです。後日、前医(総合病院の神経内科・外来担当医)から診療情報提供、MRI画像を見て驚きました。両側の小脳半球の萎縮と、両側の線条体の顕著な低信号が確認され、典型的な多系統萎縮症(MSA)の画像所見だったのです。画像所見の重症度と実際の臨床的な重症度が一致しないことは少なくはないのですが、この症例は病気がMSAで画像的にはかなり進行期だったので驚きました。よく聞いてみると、昨年まで月に1回ほどゴルフのプレーラウンドをしていたそうです。おそらく80歳を超えてもゴルフでかなり長い距離を歩いて、手を使っていたのが良かったのだと思います。
最近は歩いて認知症を予防できるという学説があるほどで、手足を使うことは、いかなる対症療法の薬物治療よりも勝るのではないかと思います。現在、当院で定期受診している、パーキンソン病の患者さんのうち、ほとんど2~3年間動作歩行障害が進行しない症例が4~5例あります。治療薬も3年ほとんど変更しないで済んでいます。どうやら、歩くことは神経変性疾患・神経難病の発症時期、臨床症状の進行を抑える効果があるようです。
パーキンソン病は9種類もの対症療法の治療薬があり、すべての薬の併用が保険医療として認められているというきわめて特殊な疾患です。日本人はもともと医療を薬に依存する傾向が強いため、短い外来診療時間を解消する目的で患者のリクエストに応じて外来へ行くたびに薬が追加され続けるというパターンが非常に多いようです。私の長年の臨床経験でいうと、薬を増やされすぎて長期間服用した人は間違いなく副作用によって病気そのものが悪化したりします。薬をたくさん服用する前に、まず患者さん自身がやれることがたくさんあるのではないかと思います。


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by shinyokohama-fc | 2017-06-29 15:49 | 医療

パーキンソン病の薬物治療におけるEBMの限界

パーキンソン病の薬物治療においては、科学的根拠に基つく医療 (EBM Evidence-Based Medicine) だけで実践するのは困難だと、パーキンソン病のエキスパート専門医が語っていました。私もこの意見にはおおむね賛成です。
日本において、製薬会社や医師が主導でない、バイアスのかかっていない、公正に実施された大規模臨床試験が実施されていないこと、年齢別・パーキンソン病のキャラクター別の薬物治療の検討がまったくなされていないこと、などが理由としてあげられますが、そもそもUPRDSという個人的主観のバイアスがかかるスコアで公正な評価ができるのかという根本的な問題があります。
またパーキンソン病でよく問題になる、レボドパの効果短縮による、ウェアリングオフ現象・オンオフ現象などの対策として、レボドパの服薬回数を増やしたり服薬時間を変更したりすることのメリットや、ドパミン・アゴニストやセレギリンなどによって誘発される精神症状への減薬対応など、パーキンソン病の薬物治療の現場ではごく普通に行われていて、半ば常識にもなっている手法ですら、エビデンスが存在しないというのが現実なのです。
治療薬が3種類以上併用されている治療に関してもエビデンスは存在しない。つまりパーキンソン病の薬物治療の多くの部分は、専門医のそれぞれの経験や通説に基ついて行われているというのが現実ではないかと思います。
高血圧、糖尿病などは数値がすべてでデータ化しやすいので、EBMが重要視されるのは理解できますが、症状の重症度をデータ化しにくい神経疾患の分野に関しては、EBMに当てはめることがそもそも困難であるという事でしょう。むしろ無理矢理、EBM原理主義で治療をしようとすれば、治療窓が極端に狭くなって、何も有効な手段ができなくなってしまうのではないか?これはパーキンソン病だけではなくて、神経変性疾患全般に言えることだと思います。


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by shinyokohama-fc | 2017-05-20 17:04 | 医療
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