パーキンソン病に抗精神病薬はNG

パーキンソン病に抗精神病薬を使っていいのでしょうか?神経内科専門医として25年多くの症例を診てきた経験で言うとNGと言わざるをえないです。

リスペリドン、ハロペリドール、オランザピン、クロールプロマジン、クエチアピン、アリピプラゾールとかいろいろありますが、
薬による深刻な有害事象、特に致死的な「悪性症候群」に関する「十分な説明と同意」せずに、軽々しく抗精神病薬を処方する医者は信用できないとはっきり申し上げておきます。
おそらく、以下に説明するような「悪性症候群」の患者を一度も診た経験がないのでしょうか? 「知らない」というのは本当に怖い事だと思います。

自分で処方した薬で作った病気を自分では事後処理した経験がないので、罪の意識も希薄なのでしょう。そういう臨床的な感覚の乏しい医者に抗精神病薬のような劇薬を処方する資格ははたしてあるのでしょうか?

パーキンソン病の治療に関して記載された成書には、定型抗精神病薬の使用は極力さけるようにと明記されています。定型抗精神病薬というのは、以下のとおりです。
①ブチロフェノン系)
ハロペリドール(セレネース🄬、リントン🄬)
②フェノチアジン系)
クロールプロマジン(コントミン🄬、ウインタミン🄬)、レボメプロマジン(ヒルナミン🄬)、プロぺリアジン(ニューレプチル🄬)

それに対して後年に開発された非定型抗精神病薬は以下のとおりです。
①セロトニン・ドパミン遮断薬
リスぺリドン(リスパダール🄬)、パリペリドン(インヴェガ🄬)、ぺロスピロン(ルーラン🄬)
②多元受容体作用薬
クエチアピン(セロクエル🄬)、オランザピン(ジプレキサ🄬)
③ドパミン受容体部分作動薬
アリピプラゾール(エビリファイ🄬)

なぜ定型抗精神病薬が特にNGなのでしょうか。それは以下の理由です。
小生の臨床経験では、たとえごく少量であっても①~③は起こりえます。
2種類併用や長期服用であればなおさら確実に以下の問題が起こります。
①悪性症候群を起こす

②ジスキネジア、ジストニアなど深刻な不随意運動をおこす
③運動症状(動作歩行)が悪化する


何が一番危険かと言いますと、それは言うまでもなく悪性症候群でしょう。
抗精神病薬はすべてですが、特にハロペリドールで高率に起こります。

急激に全身の筋肉がガチガチにこわばって動けなくなり、39~40℃前後の高熱が続き、意識がなくなり、大量の発汗、血圧が低下、脈拍が頻回、尿が出なくなり、ショック状態。生命の危機に切迫した状況に至ります。

小生は今から20~25年前のまだ医者をはじめて間もない頃に、救急指定病院で勤務していた時代に、「神経内科」だからという事で、非常に多くの「悪性症候群」の患者を受け持つという経験をしました。

ほとんどは精神科で診られていた患者が救急搬送されたものですが、時には認知症高齢者の入院後の夜間せん妄でハロペリドールの注射を打たれてから発症したというケースもありました。

当時まだ若かったので、「なぜ精神科の処方薬で起こった重症を、自分が集中治療室で治療しなければいけないのか?薬を処方した精神科医が事後処理をするべきだろ」と理不尽さに怒りに震えながら患者を診ていたのを未だに昨日のことのように覚えています。

しかし、若い時にこういう抗精神病薬の有害事象の極限状態ともいうべき症例を数多く経験して、その悲惨さを肌身にしみて苦労して体験したのは良かったと思います。自分ほど悪性症候群をたくさん診療した医者は他にいないのではと自負しているほどです。

原因薬剤で圧倒的に多かったのが、ハロぺリドールでした。しかし小生が診た症例で最も重症だった症例の原因薬剤はクロールプロマジンでした。

この症例は急性期に重度の肝不全と播種性血管内凝固症候群(DIC)まで引き起こし、意識障害が1週間以上続いてひどい出血傾向にまでなったのですが、まだ50歳と若かったために集中治療で奇跡的に助かりました。緊急入院してちょうど1か月後に病室で座ってご飯を食べている姿を見て感動して涙したのを覚えています。貴重な症例として内科学会の地方会でも発表させていただきました。

②の不随意運動に関しては、以前のブログにもかなり書きましたので、詳しくはそちらを読んでいただけたらと思いますが、やはりハロぺリドール、クロールプロマジン、最近は非定型のアリピプラゾール、ベロスピロン、などでもジスキネジアが出ます。中には服用して2~3年たってから全身に現れる「遅発性」のケースが少なくないのです。
抗精神病薬を使う場合は短期間にとどめましょうというのはそういう理由だと思いますが、実際は漫然と続けて服用されているケースがほとんどで、小生の外来に来た時はもうすでに長期間服用していて、こちらとしてはなす術がないという事が多いです。


近年このようなジスキネジアにも手術治療が試みられていて、成果をあげているようですが、統合失調症で抗精神病薬を長年服用せざるをえない症例の場合です。

③の運動症状が悪化するというのは、しごく当然のことです。抗精神病薬はすべてドパミン阻害作用がある薬だからです。
特にリスぺリドンのドパミン阻害作用はかなり強力で、パーキンソン病でもない高齢者でも精神科医からの処方で少量(1~2mg)でも全身がガチガチに固まるケースがありました。

最もドパミン阻害作用が弱いので安全だと言われているアリピプラゾール少量(3mg/日)でも、幻覚の訴えがひどい、脳卒中片麻痺の高齢者に精神科医から処方されて、全く歩けなくなったという事で来院したケースも最近ありました。クエチアピン12.5mgに変更して、かなり歩けるようにはなりましたが、本音を言えば、クエチアピンも中止したいところです。

パーキンソン病治療ガイドラインで推奨されているのは、クエチアピンだけですエビデンス(科学的根拠)的にはランダム化比較試験ではなくオープンラベル比較試験での有効性しか証明されていませんが、小生の使用経験でもこの薬をごく少量(12.5mg)でしか使用した事がありません。
幸いなことに悪性症候群、深刻な不随意運動、運動症状の顕著な悪化の報告例も他の抗精神病薬とは違って、ほとんど見られないようです。


幻覚・妄想に対して、唯一ランダム化比較試験で有意差・有効性が証明されたのはクロザピンだけのようですが、わが国では精神科病院に入院の上で、精神保健指定医によるという条件付きの処方となりますので、我々には事実上まったく使用できない薬です。

パーキンソン病の幻覚・妄想に対しては、以前のブログで紹介した、ピマバンセリンという薬が2年前から米国では使用できるようになったようですが、日本では使用できる目途はたっていません。

未だにハロペリドールとかが使われているのが現状です。昔から日本は新薬認可に関しては、世界でもかなり後進国ですので、仕方ないとあきらめるしかないのかもしれません。
やむをえずに抗精神病薬を使う場合は、十分な説明と同意(同意書をとる)が必要なのは言うまでもありません。


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by shinyokohama-fc | 2018-01-13 12:33 | 治療
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新横浜フォレストクリニック(横浜市港北区・新横浜駅)の院長が日々綴る様々な情報を発信するブログです


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