認知症の正しい診断と正しい薬物治療は不可能

高齢者ブレインバンクにおける、連続剖検において、神経変性疾患の病理診断は嗜銀顆粒性認知症(AGD)は16%、レビー小体型認知症(DLB)は23%、それぞれ混合病理が30~40%という報告でした。

つまり日本人の高齢者(死亡時の年齢)においては、アルツハイマー型認知症(ATD)とAGDとDLBの単独ないし混合で77%(8割弱)を占めることになり、それに次ぐのが、進行性核上性麻痺(PSP)と神経原線維変化型認知症(NFTD)です。一方でピック病は0.5%以下だったそうです。

神経変性疾患の剖検を積極的に行っているある国内の病院の研究発表によると、PSPと皮質基底核変性症 (CBD)に至っては、本来の運動症状が主体で病気がスタートする(発症する)症例は半数以下であり、30~40%は前頭側頭型認知症(FTD)の行動異常、脱抑制、あるいは情緒不安定などの辺縁系症候群で発症し、その後も何年も運動症状が現れないという経過をたどるとのことです。

以上は病理診断の話ですが、私は個人的に、臨床診断と病理診断を合致させるのは、現在の診療ツールでは不可能だと考えます。PSP/PSPSやCBD/CBSの症例を診てきて、それぞれの症例の経過と臨床症状の多様さからみてそれは明らかです。医学的な常識として、薬物治療というのが正しい診断が前提であるとすれば、これらの認知症を含む神経変性疾患には正しい薬物治療というのはほとんど不可能だという結論になります。

私もこのような病気の他の医者の診断を訊いて強く感じるのは、神経変性疾患に対する臨床診断というのは、診察した医者の価値観・経験などに影響された「個人の感想」というレベルにすぎず「思い込み」の要素に多分に左右されるという事です。当然のことながら「正しい診断」が不可能な症候群に対して、そもそも「正しい(薬物)治療」などできるはずもないわけです。ある医者がATDだ、DLBだと診断しても、別の医者はピック病だ、パーキンソン病だとかいうおかしな混乱が起こり、そのたびに薬が変更されたりして、患者は右往左往させられるという問題がおこります。

先のブログで書いたように、前頭葉関連症状=ピック病ではなく、動作歩行障害=パーキンソン病、DLBでもないので、外来医としては何を基準に診断したらいいのかわからないという状況です。私を含めてほとんどの医者は正しい診断もできず、適当な診断をつけて、神経系に作用する劇薬を処方するというわけです。特に80歳以上の高齢者には超劇薬になることも珍しくはないのです。

ATDではないAGDやPSPの患者にコリンエステラーゼ阻害薬を処方しては興奮させてしまう。DLBやAGDの患者に抗精神病を処方して動けなくなる。辺縁系症候群が強いDLBやAGDに対してドパミン刺激剤を処方して
精神錯乱させる。といった混乱が日常茶飯事に起こっているわけです。

本来、コリンエステラーゼ阻害薬は60~70歳くらいで発症した、純粋なアルツハイマー型認知症に対しては効果が認められた薬(効果は1~3年の限定的ではありますが)ですが、80歳以上の症例では、AGDやDLBやPSPを合併する症例が増えますので、そうなると上記のような患者が薬に振り回されるという混乱イベントが増えるのではないかと推定されます。

高齢者の精神症状、辺縁系症候群(情緒障害)と前頭葉関連症候群(脱抑制的行動異常)に関しては、病理統計的にはDLBとAGDが4割ずつで、残りの2割がNFTDではないかと推定されます。ピック病は若年発症で、その病気の性格上、事故や病気で亡くなる方がほとんどで、80歳以上まで生き延びている人はほとんどいないのではないかと思われます。


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by shinyokohama-fc | 2017-11-18 12:08 | 医療
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