高齢者の精神症状と嗜銀顆粒性認知症 (AGD・グレイン)

高齢者ブレインバンク、高齢者の変性疾患において積極的に死後の病理解剖 (剖検)を実施して、精密な臨床研究で定評のある医療機関(病院)の近年における論文(文献)や研究発表は臨床医にとって大変参考になります。
高齢者において認知症、精神症状、運動障害など様々な臨床像を呈した症例を数多く剖検して、臨床像と比較検討しているからです。前者の研究によると、高齢者の連続剖検された500例以上の認知症のうち神経変性疾患の内訳は、嗜銀顆粒性認知症(AGD, Argyrophilic Grain Dementia, 通称グレイン)16%、アルツハイマー型認知症(ATD)38%、神経原線維型認知症(NFTD)7%、レビー小体型認知症(DLB)23%、進行性核上性麻痺(PSP)8%、ピック病0.5%、皮質基底核変性症(CBD)0.5%(いずれも混合病理を含む)でした。つまり死後の病理解剖で最も多い病気(病理診断病名)はグレイン(以下AGD)という事になります。また後者の研究では、65歳以上で発症した初期から中期まで精神病性障害が主体で認知症を欠いていた症例グループにおいて、病理診断としてAGDが36%、DLBが36%と有意に高率であり、高齢発症の精神病性障害にAGDが関与している可能性が示唆されています。同じタウ蛋白(4リピートタウ)が脳に異常にたまる病気であるCBDとPSPの病理診断剖検例において、CBD35例では100%、PSP30例の28%でAGD病理を合併していたという結果でした。病理診断CBDにおいて臨床的CBS(皮質基底核症候群)を示したのは半数以下、病理診断PSPにおいてリチャードソン症候群(進行性の姿勢反射障害・嚥下障害・眼球運動障害など)を示したのは60%前後だったそうです。近年の学説では、病理診断PSPとCBDでは精神症状や行動異常から発症する症例がしばしば見られる事が世界的に注目されており、ピック病に類似した臨床像をとることから「ピックコンプレックス」と呼ばれているという事は、以前の当ブログでも繰り返し言及している通りです。
その一方で、外来で臨床診療に携わっているほとんどの神経内科専門医、認知症専門医、精神科医は、アルツハイマー型認知症(ATD)、レビー小体型認知症(DLB)、パーキンソン病(PD)以外の病気はほとんど存在しない、きわめてまれだと認識しているようです。当院に初診で来院される、前医の診断も上の3つが80~90%程度であり、残りは診断不明とされています。しかし実際は、この3年間で私自身が外来で診療してきた症例は、この3つの病気以外としか言いようのない症例、症候群は非常に多いです。これらの臨床像は、皮質基底核症候群(CBS)、リチャードソン症候群、前頭側頭型認知症(脱抑制的行動異常)、発語失行、非流暢性失語などが主症状でした。それらの症状が2~3並存していた症例が非常に多かったように思います。これは60歳以上の高齢者・長寿者の急激な増加が影響しているのではないかと思われます。10~20年前に常識とされていた事は臨床医学の分野ではもはや常識ではないのです。
神経内科の外来では、行動異常や精神症状だけが主訴の症例を診ることはほとんどありません。ほとんどは精神科の外来を受診するのだと思われます。しかしそのような精神症状で発症して、数年間は精神科か認知症専門外来に通院し、抗精神病薬などを処方されて、何年も経過してから、精神症状は軽減してきたが動作歩行などの運動障害が目立ってきたという事で、精神科から神経内科(当院)へ定期通院先を変更するという60~70歳前後の症例が少なからず見られるようです。一方で、80歳以上で精神症状と運動障害が同時に悪化していく症例が多く見られます。
このような症例・症候群の正体はいったい何なのか?運動障害はあるものの、パーキンソン病 (PD)でみられるそれではなくて、どちらかというと皮質基底核症候群やリチャードソン症候群に合致した運動障害です。行動異常・精神症状の多くは激烈なレベルであり、ATDやDLBの行動心理症状(BPSD)とはレベルが違います。自宅で介護に耐えられる同居配偶者・家族は少なく、多くは精神科病院へ入院する事が多いようです。早々に精神病院へ入院してしまう症例は我々神経内科医が診ることはありません。おそらく抗精神病薬など鎮静目的の薬が初期から複数処方されると思われます。そのうちの半数程度は抗精神病薬を開始して半年~一年以内に動作歩行・運動障害が急激に悪化して寝たきり状態になるのではないかと思われますが、その経緯も我々神経内科医の目に触れる事はないでしょう。それらの多くは病気が進行してしまったんだと解釈されてそれで終わりになっているのではないでしょうか?中には、深刻な精神症状をきたす病気になった患者さんでも精神科病院へ入院する事に抵抗して、自宅で看ようと頑張るご家族の方がいます。この3年の私の外来診療ではそういう症例を数多く診てきました。精神科ではない私にとっては非常に不慣れで対応に苦慮しましたが、1つだけ重要な事に気がつきました。CBD、PSP、AGDと推定されるこれらの症例群では共通して抗精神病薬やコリンエステラーゼ阻害薬に対して強い過敏性を示すという事です。私の感覚ではそれはDLB以上の過敏性ではないかと実感しています。過敏性があるがゆえに、ごく少量の抗精神病薬でも効果がある半面、副作用も出やすいようで、姿勢が極端に悪くなったり、歩けなくなったりという症例が続出しました。開始後1~2か月で大丈夫でも、数か月してから姿勢が悪くなる症例もありました。それゆえ、1年前からはこのような症候群に対して、抗精神病薬を処方する事は極力控えることにしました。「抗精神病薬に対する過敏性」という項目は、DLBの診断基準の支持的特徴にされていますが、「抗精神病薬に対する過敏性=DLB」ではなく、「抗精神病薬に対する過敏性=DLB、AGD、PSP、CBDのいずれか」というのが正しい認識ではないかと思います。
ブレインバンクの研究発表によると、AGDは16%(3位)、PSPは8%(4位)でした。私の外来患者で診察しているイメージとだいたい同じです。しかし、多数の認知症を診察している認知症専門外来を標榜する医療機関の外来医は、臨床的PSPSやCBSは診療経験がほとんどなくて診断できないようで、ATD、DLB、MCI(軽度認知障害)以外の病気はよくわからないようです。そのために当院の外来に来る症例は、必然的にPSPSやCBSが多くなったのであろうと思います。
次回のブログでは、臨床像が類似していて鑑別が困難であるAGDとピック病(前頭側頭型変性症)を典型的な症例を通じて比較検証してみたいと思います。前頭側頭型認知症において、AGDは若年発症から高齢発症まで圧倒的多数を占め、ピック病は若年発症だけでごく少数であるという病理診断統計的な事実がある。つまり前頭側頭型認知症は比較的多く見られるが、その大多数はピック病以外のAGDやPSP、その他の病気であるという事です。


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by shinyokohama-fc | 2017-11-16 12:36 | 医療
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