パーキンソン病治療薬の副作用の治療薬?ドンペリドン(ナウゼリン)

ドンペリドン(商品名:ナウゼリン)は長年制吐剤として、「悪心・嘔吐」に対して一般臨床医にとても頻用されてきた薬です。私自身も若い頃は、この薬の事をよく知りもせずに「先輩医が使っているから」という理由だけで処方していました。恥ずかしながら、この薬が「向精神薬」だという重大な事実を認識せずに使用していました。
気が付くきっかけは、ジェネリック推奨になった10年前でした。「ドンペリドン」という名前は「リスぺリドン」にそっくりだという事に遅まきながら気が付きました。リスぺリドン(商品名:リスパダール)はご存知のように、非常に強力な力価の「向精神薬・抗精神病薬」です。数年前に施設入所中の患者を診ていたときに、ひどい精神症状で介護困難であった高齢者症例に対して、当時紹介した精神科医からリスぺリドンが1~3mgで処方されてから、急激に動作歩行が悪化して、全身がガチガチに硬直してしまった症例が何名かいたのを覚えています。このときこの薬がいかに強力すぎる薬かを実感しました。仕方なく使うとしても頓服で使用すべきでしたが、ずっと連日服用していたのも問題だったと思います。それ以後は65歳以上の高齢者には自ら処方することはなくなりました。元々加齢に伴ってドパミン減少している高齢者が連日服用してしまうと、悲惨な転帰を招いてしまうということです。
神経遮断系の抗精神病薬に共通した、深刻な副作用として「心臓のリズム異常」が知られています。以前のブログにも何度か書いていたと思いますが、心電図のQT間隔が延長して、致死的な徐脈性不整脈、心室性不整脈を引き起こすということです。近年のことですが、2005年以後、カナダとオランダの疫学研究で、ドンペリドン服用者では、心臓の突然死が1.6~3.7倍も起こりやすいことが示されました。欧州医薬品庁(EMA)が2014年にドンペリドンを使用する際は「できるだけ投与量を少なく、使用期間を短くして使うように」というコメントがありました。フランスのプレスクリール誌は、ドンペリドンに関連したと思われる突然死が1年で100人前後存在すると推定されたため、ドンぺリドンを市場から撤去すべきだと提言したほどです。代替薬としては、プロトンポンプインヒビター(PPI)かメトクロプラミド(プリンペランなど)が推奨されています。以前は主に小児において脱水時に注射剤、坐剤の使用によるQT延長による突然死が、1982~1985年の3年間で17例報告され、7例は死亡しています。注射剤は販売中止になりました。高齢者、特に女性、パーキンソン病においてはフレイルで衰弱している患者さんが多く、常時脱水リスクがあり、その上に神経系の薬剤がいくつも多剤併用されている状況ですので、たとえ内服薬でもQT延長による突然死のリスクが高くなるのは間違いないでしょう。
明らかにリスクの高い薬剤の長期連用によって、原因不明の突然死、あるいは救急搬送されている事例は数えきれないほど存在すると推定されますが、「高齢だから仕方がなかったね」という事で闇に葬られているのではないか。
最近、パーキンソン病に長期罹患している高齢者75~80歳の患者さんの薬手帳をみると、判で押したように、ドンペリドンが処方されています。この1年だけでも10名程度はいたでしょうか?なぜこの薬を服用する必要があるのか?私には理解できなかったので、当然のごとくほぼ全例で減量~中止しましたが、特に中止して問題は起こっていないようです。神経学会作成の「パーキンソン病治療ガイドライン」によると、「ドンペリドンは脳内移行が極めて低いために、パーキンソニズムの発現・増悪頻度は極めて低いので、制吐剤として推奨される」と記載されています。元々、パーキンソン病という病気は、運動症状が発症する何年も前から、延髄へのシヌクレイン(病気の原因と推定されているタンパク質)蓄積による迷走神経背側核の障害があり、胃腸(消化管)の動きが悪くなる傾向があります。パーキンソン病治療薬としてよく使われる、レボドパやドパミン・アゴニストにも副作用として消化器症状があるため、いわゆる患者さんが薬を飲むのを嫌がらないため、副作用出現防止目的で処方される、典型的な薬剤カスケードの処方薬です。ご存知のように薬剤カスケードがポリファーマシーの入り口になります。初期の治療薬の導入時、2~4週間の期間限定であれば納得できますが、ありえないことに、このドンペリドンを何年も長期にわたって飲まされているのです。私はこのドンペリドンを長期間飲ませれている患者を診たら、まずは心電図の検査をします。それはコリンエステラーゼ阻害薬の場合と同様です。心電図のQT時間が0.47以上で黄信号、0.48以上で赤信号のレベルです。赤信号だと突然死につながる致死性不整脈のハイリスクレベルになります。
75歳以上の高齢者に対しては、安易に処方できる薬ではないことがわかっていただけるのではないでしょうか?また漫然とこの薬を継続されている場合は注意が必要です。どうしても継続しなければならない場合は、心臓不整脈による突然死のリスクに関して患者さん側に十分にインフォームドコンセント(説明)する必要があると思われます。
にもかかわらず、4~5年も無意味にこの危険な薬を継続する意味はいったいどこにあるのでしょうか?パーキンソン病を長年患っている高齢者はただでさえ、自律神経不全に至っているため、心臓突然死のリスクが高いです。それはMIBG心筋シンチグラムという検査ではっきりと証明されています。
余談ですが、コリンエステラーゼ阻害薬にもこの「QT延長症候群」という危険な副作用はよくみられます。原因薬剤を中止して2週間してから心電図を撮り直すと、QT時間は正常域に戻っています。
コリンエステラーゼ阻害薬 (ドネぺジル、ガランタミン、リバスチグミン)とドンペリドンあるいはリスぺリドンを心臓の弱っている高齢者に併用したらどうなるか? 低く見積もっても、1.6倍×1.6倍で2.56倍!!私自身はとてもそんな恐ろしい処方はできないと考えています。コリンエステラーゼ阻害薬による消化器症状(嘔気など)は実際言われているよりもはるかに少ないと思いますので、わざわざドンペリドンを併用する意味はないと思います。心臓突然死の安全性を考慮すれば、百歩譲ってPPIかメトクロプラミドの頓服用処方でしょうか?消炎鎮痛剤(ロキソプロフェンなど)に胃薬を併用するくらい意味のない処方だと思います。私は自験例においてドネぺジル、ガランタミンで消化器症状が出現した症例を検証してみましたが、他の医者による併用薬の影響、肝機能障害、腎機能障害でした。ただしガランタミンの場合は、むしろ緩徐な消化器症状によって、食欲低下~体重減少のほうが要注意のようです。そういう副作用を予防するために、心臓リスクを冒してドンペリドンをずっと併用してまでも、ガランタミンやドネぺジルを処方する意義がどれほどあるのかと考えるとはなはだ疑問だと思います。
ドパミン・アゴニストにも言えることですが、病気そのものの進行を止める効果があるわけでもない薬を、危険な薬剤カスケードをしてまでも無理に服用する必要があるのでしょうか?よくよく考え直したほうがいいでしょう。



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by shinyokohama-fc | 2017-06-02 12:13 | 治療
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