パーキンソン病治療薬の副作用 (3) ドパミン・アゴニスト(前編)

今回は、私が神経内科医の仕事を初めてから20年以上にわたって新薬が続々と登場した、ドパミン・アゴニストについて書いていきたいと思います。
ドパミン受容体を刺激する薬で、ドパミン神経細胞などに、ドパミンを受け取ったと認識させて、ドパミンの伝達をリレーするのを補助する薬と言われています。
神経系の薬剤において、一般的にこの「受容体に直接作用する」という薬は非常に曲者です。それは深刻な副作用をきたす可能性があるからです。この薬ほど、使う対象(患者さん)と使い方(用量)を間違うと、毒物に化ける薬はないのではないかと思います。「すべての物質は毒である。(中略)ある物質が毒になるか薬になるかは用量による」という、ギリシャ時代の薬物学者・軍医、ディオスコリデスの書いた「薬物誌 (マテリア・メディカ)」に書かれている有名な一文に最も当てはまる典型的な薬、それがドパミン・アゴニストです。
最近、パーキンソン病のエキスパートと呼ばれる専門医による書籍を拝読したり、講演を聴講したりしましたが、この薬はとにかく精神系の副作用が多いということで意見が一致していました。5~10年前まではこの点はほとんど強調されていませんでしたが、実際の臨床現場でこの薬を使ってみると、誰もが副作用の多さに驚くのではないかと思います。一時期はアパシーや抑うつ状態を改善させるという、メリットばかりが強調されていた時期がありましたが、先発品の特許期間が続々と切れるにしたがって、近年は明らかに風向きが変化してきたのを感じます。
もともと、ドパミン・アゴニストは「麦角系」というエルゴタミンが入ったタイプの薬剤が使われていました。ブロモクリプチン、ペルゴリド、カベルゴリン、タリペキソールなどです。しかしこれらの薬を特に高用量で使用して、エルゴタミンの血管収縮作用が長期になると、心臓弁膜症、肺線維症、後腹膜線維症に至ることが海外で報告されました。またぺルゴリドについては、海外で発がん性が指摘されており、米国のFDAでは何年も前に発売禁止となり、製薬会社も販売権を放棄したほどです。そのような事情があって、エルゴタミンを含んでいない、「非麦角系」というタイプのドパミン・アゴニストが開発されました。それが、プラミペキソール、ロピニロール、ロチゴチンです。しかし実際に使ってみると「麦角系」以上に副作用の出現頻度が多いようです。開始時から副作用が現れやすいため、少ない用量から少しずつ増やすことになっていますが、開始量でも精神系の副作用が現れやすいようです。実際に最も多い副作用は眠気で、高齢者になると幻覚、せん妄に至るケースが多いようです。初めてこの薬を使う患者さんでも、開始量ですぐにこの薬の使用を断念せざるをえない症例は半数以上になると思います。私が診る以前から、すでにプラミペキソール、ロピニロールが使われているケースでも、特に70歳以上の高齢者では、ひどいせん妄になっていて、まるで「レビー小体型認知症」のようになっています。多くは「レビー化だ!」と診断されて、ドネぺジルが追加されていますが、まったく効果がないばかりか、むしろせん妄が悪化していることが大半です。以前のブログでも触れていますが、これが専門医による「レビー診断病」です。レビー診断病の多くの症例では、ドパミン・アゴニスト以外にも、ゾニサミド、セレギリンが併用されていて、深刻なせん妄に陥っている悲惨な症例も数多く診てきましたが、今回はレボドパにドパミン・アゴニストの併用で幻覚が出ていた症例について紹介します。
81歳女性、数年前に脳卒中の既往があるが、明らかな片麻痺は残っていません。動作歩行困難が年々悪化してきたので、前医処方でレボドパ・カルビドパ100mg×4回、プラミペキソール徐放剤0.375mg×3錠/1回、ドロキシドパ100mg×3。10年ほど経過した姿勢異常型のパーキンソン病の方ですが、最近幻覚がひどくなり、それに伴う妄想やパニックを起こすようになったとの事で、2か月前に小生のクリニックを受診されました。81歳というかなりの高齢でもあり、幻覚の悪化の主たる原因はプラミペキソール徐放剤と推定されたので0.375mg×3⇒2⇒1と漸減しました。0.375mg/日で幻覚は完全になくなりましたが、動作歩行が悪化したため、再び0.75mg/日に戻すと幻覚が再発。苦悩した上で、徐放剤を速放剤に変更し、0.125mg錠×2錠を1日3回に変更しました。プラミペキソールの用量は同じでしたが、幻覚は大幅に減少して、動作歩行レベルも維持されていました。あれだけひどかった幻覚は減少するにつれて顔つきもしっかりして受け答えができるようになったそうです。この症例はわかりやすくズバリと例えれば「ドパミン・アゴニストの過剰投与でレビー化していた、薬剤性レビー?の症例」と言えます。
幻覚と認知の変動 (その多くは薬剤性せん妄)が確認されるだけで、どんな症例でもすぐに「レビーではないか?」と安易な臨床診断名が連呼されている現状、臨床診断の質の低下もかなり深刻です。レビー小体が脳にたまっていなくても、幻覚や認知の変動が起こることは日常茶飯事にありますし、レビー小体がたまっているかどうかを検査で確定する手段も存在しないのに、そういう病名が安易につけられるのもおかしい。学会の作成した、パーキンソン病治療薬ガイドラインには、幻覚が出現したら、順次パーキンソン治療薬を減薬するように書いてあります。しかしここに書いてあるとおりに減薬する専門医は少ないようです。ほとんどの専門医は幻覚=レビー化、ドネぺジルを追加するという選択をするようです。負の薬剤カスケードの典型です。
ドパミン・アゴニストは、非運動症状である、アパシー(意欲減退)、アンへドニア(心地よい気持ちの減退)を改善する作用があると言われていますが、その反面、以下の精神系の副作用が問題になります。
1) 眠気・睡眠発作
ロピニロールに多いと言われていますが、他の2種類でもよく現れます。日中にずっと強い眠気がおこりますが、高齢者ではそれが高じて、意識もうろう、せん妄となり、昼夜逆転、睡眠覚醒リズムに異常をきたして、夜間にレム睡眠行動異常が悪化して不穏になるというパターンも目立つようです。
2) 幻覚・妄想・精神錯乱
プラミペキソールに多いと言われていますが、他の2種類でも現れます。本人に強い恐怖感とストレスを与え、時に家族に迷惑をかける場合は、ドパミン・アゴニストを含めて原因薬剤を順次減量していく事になっています。
特に注意すべき患者さんは、パーキンソン病を発症してから10年以上、70歳以上での発症、軽度認知障害がある、薬剤過敏体質、他に脳卒中の既往があるなどです。
3)ドパミン調節異常症
レボドパの精神刺激作用をさらに増強してしまうようです。レボドパを必要以上に求めるようになったり、病的賭博、ギャンブル、買い物・食欲亢進など、脱抑制行動が顕著に現れる場合があるようです。
レボドパの服薬量が多い上に、ドパミンアゴニスト服薬量も多い場合に起こりやすいようです。
ドパミン・アゴニストは今回取り上げた、精神系の副作用以外にも多くの副作用があります。近年はドパミン・アゴニストを処方する前にこれらの副作用の事を十分にインフォームドコンセント(IC)してから処方するようにと言われていますが、実際は副作用の情報提供はまったくと言っていいほど、患者側に与えられていないようです。これが医療側への不信感を抱かせる大きな理由ではないかと思います。
ドパミン・アゴニストにはまだまだ厄介な身体的副作用があります。後編でそれを解説したいと思います。


新横浜フォレストクリニック
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by shinyokohama-fc | 2017-05-20 12:31 | 治療
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