認知症における操作的診断方法の限界、抗精神病薬の危険

先日、地域で行われた認知症の講演会を聴講しました。認知症学会の専門医による講演でした。
私が気が付いた範囲で今回の講演における重要なポイントを以下に要約して示します。

<前頭側頭葉変性症(FTD)の診断について>
1) 画像診断( 頭部CT/MRI検査)所見での前頭葉萎縮=FTDではない
2) 万引き行為などの脱抑制行動=FTDではない
3) 易怒性・暴力=FTDではない
レビー小体型認知症(DLB)では、前頭葉機能障害が比較的多いので、FTDと誤診・混同されやすい。
認知症学会の専門医でもFTDの鑑別診断は非常に難しい。

以上の問題は、FTDとかDLBが臨床症候中心の「操作的診断方法」に頼っている現状があるからだと思われます。薬剤性せん妄や側頭葉てんかんがDLBだと誤診されやすいように、前頭葉・側頭葉にタウが蓄積するタイプのアルツハイマー(ATD)やDLBもまたFTDと誤診されやすいという事です。
以前のブログでも書いたように、DLBの38.2%が、タウイメージングPETにて前頭葉~側頭葉にタウの蓄積がみられ、頭部CT/MRI検査において前頭葉~側頭葉の萎縮がみられたという、ある医療機関からの報告があります。
私の目からみると、CBSやPSPSが、DLBやFTDと誤診される症例はさらに多いと推定されます。同じ疾患でも病変の進展度合いに個別差が大きいので、診断は診察した医者の独断と偏見に大きく左右されるようです。
実際に現在のDLBやFTDの診断基準は、臨床症候中心の「操作的診断方法」なので、病理的な観点でみると誤診が増えるのは当然だと思います。またFTDは50~60歳の疾患であると言われていて、診断基準にも「65歳以下」と定義されていますが、高齢者の母数が急増した現在ではどうなのか?実際は70歳代、80歳代にも、明らかに臨床的にFTDとしか診断できない症例が多いようですが、これらは類似した臨床的特徴と画像診断所見を呈する嗜銀性顆粒球症(グレイン・AGD)なのか?という事です。ある書籍ではAGDは後期高齢者の認知症症候群の約半数を占めていると言われています。どこからどこまでがFTDでAGDなのか?という、学会からの診断基準や指針は存在しないようです。

<周辺症状の薬物療法について>
2005年4月に、FDA(米国)は、認知症症候群に対する抗精神病薬(リスぺリドン、オランザピン、クエチアピン、アリピプラゾール)を使用すると、死亡率が1.6~1.7倍に。死因は心臓血管死、心臓突然死、感染症(肺炎など)
認知症が存在する場合は、さらにリスクが上がって、死亡イベントが起こりやすい。
認知症の行動心理症状(BPSD)に抗精神病薬を処方する場合は、①適用外使用である ②死亡イベントのリスクが高まる、という事を十分に説明をして同意を得る必要性。
「抗精神病薬の長期連用は、生存率が下がり、死亡率が上がる」欧州の精神薬理学の雑誌における投稿論文
1) 抗精神病薬は可能な限り使わない。
2) やむをえず使う場合はできるだけ少量で、期間限定(短期間)

以上の提言(かなり大昔から提言されていましたが)には基本的に私は賛成です。私の印象では、認知症患者の場合はすでに心臓イベントリスクの高いコリンエステラーゼ阻害薬を服用しており、それに抗精神病薬を追加される事によって、死亡イベントが増えるのではないかと推定します。

抗精神病薬のリスクの知識がまったくない、施設従業者や介護家族が安易に抗精神病薬の処方を求めてくるようですが、私は以上のリスクに関してすべて説明します。心臓死や感染症以外でも、動作歩行困難・姿勢異常、転倒の増加、不随意運動の出現、精神錯乱などQOLを著しく低下させる厄介な有害事象が非常に多いのが現実です。
今後は、抗精神病薬&コリンエステラーゼ阻害薬の処方によって、悲惨な目にあった症例を、包み隠さずにできるだけ数多く示していくことが必要だと考えています。
リスクの高い安易な抗精神病薬の処方、コリンエステラーゼ阻害薬との併用を可能なかぎりなくすべきだと思っていますが、こういう処方が普通に当たり前に行われてる現実というのはとても好ましいとは言えないでしょう。


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by shinyokohama-fc | 2017-04-17 15:41 | 医療
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