パーキンソン病・薬の不適切使用(2) セレギリン

今回はMAO-B阻害薬である、セレギリンについて、その不適切使用による薬害症例、適切使用による改善症例を紹介しながら、この薬の適正な使い方について考えてみたいと思います。
モノアミン酸化酵素(MAO) はドパミンを分解してしまう酵素で、この酵素の活性を低下させることによって、ドパミンの分解を抑えて、脳内のドパミン濃度を安定させることができると言われています。かつてはレボドパと一緒に服用することが使用条件であったため、単独での使用ができませんでしたが、単独でも臨床効果が確認されたため、現在はレボドパの処方なしでも、セレギリンが処方可能になりました。世界的にはラサ二ジンが使用されていて、日本でも1~2年後には認可される見通しのようです。長時間作用するため1日1回(朝)か2回の服用になっており、レボドパ効果の増強、すくみ現象に効果があるようです。
しかし、自律神経症状(起立性低血圧)の強いタイプ、高齢者、降圧剤(高血圧の治療薬)や睡眠導入剤を服用している症例には使わないほうがいいと思われます。以下にこの薬で歩行できず外出できなくなった症例を示します。
82歳男性、ヤール2度、発症3~4年
動作歩行が遅くなったということで、総合病院を受診されて、2年前から投薬処方が開始されました。
1) レボドパ・カルビドパ(100mg) 3錠 (朝・昼・夕)
2) セレギリン(2.5mg) 2錠 (朝・昼)
3)エスゾピクロン(1mg) 1錠 (眠前)
この処方が開始されてから、起床時の強いめまい感、ふらつきが強くなり、転倒することが増えてしまいました。そのため、以前はよく外を散歩していたのに、最近は転倒を恐れてまったく外出できなくなったという事でした。診察では、動作の緩慢さや四肢の巧緻運動障害はまったくみられず、口の不随意運動があり、臥位から立位での収縮期の血圧変動が30mmHg以上で確認されました(起立性低血圧)。
この状態をみて、すぐにドパミン作動薬の過剰投与(オーバー・メディケーション)と判断し、起立性低血圧がセレギリンで悪化していると推定しました。セレギリンの中止、レボドパを300mgから150mgへ減量としました。また起床時のふらつきを助長していると推定された睡眠導入剤を中止しました。
1か月後に再診されましたが、起床時~日中のふらつきはまったくなくなり、ジスキネジアも消失、積極的に外出できるようになりました。治療薬の減量によって、左上肢の寡動・ごく軽度の巧緻運動障害、動作緩慢が確認されましたが、ご本人はまったく気にしている様子はなくて、毎日6000歩以上歩いているという事でした。起立性の血圧変動は10mmHg前後にまで軽減したようです。
セレギリンをレボドパに追加することによって、「起立性の血圧変動、低血圧」は高齢者、自律神経不全、薬剤過敏、降圧剤・睡眠導入剤との併用などの条件によって、しばしば悪化してしまうようです。症例によっては幻覚やせん妄が出現してしまう場合も少なくないようで、特に高齢者では使用が難しい薬だという印象です。
一方で、適切に使用すれば非常に有用な症例もあります。以下にその症例を示します。
<50歳女性、ヤール2~3度、発症3~5年>
5年前から左右の身体が違うという感覚、2年前から歩行時のつまずき、違和感、左下肢のしびれ感、疼痛など、1年前から左上肢下肢のふるえが顕著になって、歩行時のすくみ足も目立ってきたという事でした。
診察では、筋固縮、動作緩慢は目立たないものの、指タップ・足タップ・回内回外運動において、左手足の巧緻運動障害が顕著でした。その一方で左右とも姿勢時振戦も確認されたため、鑑別のためDATシンチグラフィー検査を依頼、左右差のある(右に強い)線条体におけるDAT集積低下が確認されました(パーキンソン病とほぼ確定)。
薬物の対症療法として抗コリン剤(トリへキシフェニジル)1mgから開始したが、逆にふるえが悪化したため中止。アロチノロール20mgを開始したが、効果不十分。ドパミンアゴニスト(ロチゴチン2.25mg)を開始したが、すくみ足が悪化したため中止。レボドパを開始するには若すぎる、ドパミンアゴニストと抗コリン剤は少量でも奇異反応ということで、セレギリンを2.5mg2回(朝・昼)から開始しました。それ以外の併用薬剤は全くナシです。
効果は2日目から実感できたようで、すくみ足が軽減し、後方への突進現象も減少。身体の重さがとれて動きやすい感じがして、ふるえも軽減したようです。左足のジストニアのみ残るようですが、日常生活動作は総じて大幅に改善したようです。
この症例はおそらくレボドパでも有効であったと推定されますが、年齢を考慮すれば先が長いので、セレギリンを選択しました。セレギリン単独でも有効であるという事が実証された症例だと思います。
この他にも、60代前半で、ヤール2~3度、レボドパなしでドパミンアゴニストのみ服用で1~2年経過をみていた症例でも、最近セレギリン2.5mgのみ追加したら、身体の重さがとれて足が軽くなったという事でした。
数年前からセレギリン単独で有効という海外の論文を拝見していましたので、日本人でも50~60歳でレボドパ未使用症例に対しては非常に有用であるという確認ができました。
このように、年齢や症例によって有用になるか、有害になるか運命が大きく分かれるようです。現在のガイドラインは、私からみて、年齢別・病型別の薬物使用の指針は不十分であり、薬物選択は神経内科医の個別の裁量に任されているわけですが、セレギリン1つとりましても、不適切な使い方をされて不幸な転帰をとっている事例が少なくないようです。


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by shinyokohama-fc | 2017-04-08 14:20 | 治療
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