高齢者の「側頭葉てんかん」はDLBと誤診される

高齢者の側頭葉てんかんの臨床症状の特徴を以下に示します。
1)けいれんはおこさない
2)くりかえす識減損~意識レベルの動揺性
3)夜間のレム睡眠行動異常様の精神運動発作(異常行動)
4)持続性の認知機能低下
5)複雑性の幻視
6)自律神経症状
7)注意障害・集中力低下
8)簡易テストでは計算ミスが多い
以上のごとく、高齢者の側頭葉てんかんの臨床的特徴は、レビー小体型認知症(DLB)に酷似しています。共通していないのは、DLBの中核症状の1つである、パーキンソニズム(パーキンソン病の運動症状)のみです。
ただし、大脳皮質と扁桃体に病変がみられるが、脳幹にはほとんど病変がみられない、パーキンソニズムがみられない「大脳型」というタイプがあるとのことです。DLBの診断基準というのは感度が高いが、特異度が低いというのは、誰もが認めるところであります。そのためにパーキンソン病のドパミン作動薬の過剰処方による、薬剤によって誘発されているせん妄状態、幻覚、認知機能の低下をもって、担当医が己の薬の出しすぎを反省することなく「DLB化だ!」と誤診してコリンエステラーゼ阻害剤を最大量で追加処方してしまうことが非常に多く見られます。またすでに脳卒中・頭部外傷などの脳疾患の既往とそれに伴う脳障害のある症例に、トラマドール(オピオイド)、プレガバリン、ステロイド、抗コリン剤などが何らかの理由で処方されて、薬剤せん妄に陥っている状態を家族が認知症の本を読んで「DLBだ!」勘違いして遠路からわざわざ連れてきたケースもありました。どこがDLBなのか?このようになんでもかんでも「DLB」にされてしまう昨今の風潮は好ましくなく、私からみてかなり問題があると思わざるをえない現状です。特に「パーキンソニズム」のないDLBというのは他の原因をかなり慎重に除外する必要があります。安易にDLBという診断をすべきではないと思います。
今回取り上げた「側頭葉てんかん」ですが、世界的な統計では60歳以上では非常に多くみられます。若年世代の特発性てんかんよりもはるかに多いようです。側頭葉てんかんの主たる原因である変性疾患としては、アルツハイマー型認知症が多く、軽度認知障害(MCI)という認知症の前段階からてんかんが現れるケースが多いようです。
軽度の「物忘れ」で始まった人が、2)~7)の特徴がみられ、テストで計算ミスがあっただけで、「DLB化した!」と安易な操作的な診断をしてはならないと思います。本来ならこのようなケースではすべての症例で脳波検査を実施してスクリーニングすべきですが、検査ができる環境にない場合もあるでしょう。脳波検査ができない環境では、詳細な問診記録を残した上で、以下の薬剤を処方して「治療的診断」をするしかないと思います。
第一選択で使用すべきなのは、カルバマゼピン(CBZ)です。100~200mg/日が必要と思われますが、高齢者の場合はCBZの副作用として、初期から小脳性運動失調によるふらつき、転倒のリスクがあるということを十分説明する必要があるでしょう。このリスクを回避するためには、新規抗てんかん剤である、ラモトリギン(LTG)、レべチラセタム(LEV)を使用する選択枝もあるでしょう。他にもこの1年で新規抗てんかん剤が上市されています。新薬の難点は高額であるという点ですが、長期内服の安全性を考慮すれば、CBZよりも新規抗てんかん剤のほうがいいのではないでしょうか?高齢者はふらつき、転倒で骨折や頭部外傷のリスクも高いという事も考慮すべきだと思います。
大脳型DLBを強く疑う場合は、MIBG心筋シンチやドパミントランスポーターシンチという核医学検査が有用です。このような検査が役に立たないという断言する医者もいるようですが、私は側頭葉てんかんと大脳型DLBの鑑別診断のためには必要だと思います。前者は抗てんかん剤で症状が治まる病気で、後者は薬を使っても進行していく病気です。厳密な診断によって患者の運命が左右されるという事を考慮すれば、やはり診断のための検査は必要です。
ちなみにコリンエステラーゼ阻害剤で、世界的に最もPDD/DLBに対して使用されている、リバスチグミンの副作用で「痙攣発作」というのがあります。私自身も、側頭葉てんかんに中等度の認知症を伴った症例(84歳女性)を定期診療しています。当初は認知症に対して、ガランタミン(コリンエステラーゼ阻害剤)8mg/日とラモトリギン(抗てんかん剤)100mg/日を処方していましたが、1か月に1回の発作があり、発作が全般化して痙攣に至り、病院へ搬送されるという事態になりました。熟慮の末に、ガランタミンを中止して、ラモトリギン150mgを続行しました。その後1年以上において発作は確認されていないようです。
高齢者の「側頭葉てんかん」は実際は非常に多いと推定されますが、医者にも患者にも「てんかんイコール痙攣発作」という固定観念があるため、多くが見逃されており、安易な操作的診断のみでDLBだと診断されて、コリンエステラーゼ阻害剤の処方によっててんかんを全般化させて痙攣を誘発している症例はないでしょうか?高齢者の痙攣発作は急性冠動脈症候群などを誘発しうる非常にリスキーな状況です。様々な意味で、側頭葉てんかんをDLBだと誤診することは非常に罪深いことだと私は思います。
DLBの診断基準の除外項目にここまで臨床症候が酷似している「側頭葉てんかん」が含まれていないという事は疑問に感じます。私の記憶では「側頭葉てんかん」について言及している認知症関連の書籍はきわめて少ないようです。



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by shinyokohama-fc | 2017-03-09 18:29 | 治療
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