前頭葉性行動・空間症候群(FBS)の症例

先日、76歳の女性で、脱抑制症状の顕著な方が、初診にて受診されました。
3年前から、家族からみて行動異常が顕著になり、文句ばかり言ったり、発作的に激高したり、感情失禁したりと、性格変化がみられたようです。裸足で何kmも歩いたりしたそうです。2か月前に怪我で入院したそうですが、家族や他人に対して悪態をつく態度を繰り返したようです。発作的に激高したと思ったら、30分後には平穏になったりという状態だそうです。トイレに正確に行けない、便器に正確に座れない、ベッドに正確に寝れないなどの症状がみられました。NPIスコアでは 20/30 32/50と最重度レベルでした。
この方は診察室に入り普通にイスに座り、当初は診察に協力的でした。
まずは住所を書いてもらったのですが、字を書くスピードはやや遅く、字が小さい(小字傾向)。図形模写は変形が強く、五角形を四角形に書いていましたので、何らかの構成失行が疑われました。しかし、時計描画テストは数字は小さいものの位置はほぼ正確で、針描画も正確でした。問診してみると、同じことを繰り返し話す傾向がみられ、話の終わりに反響言語も顕著にみられました。
ベッドに臥位になるように指示すると、頭を右方向に回して枕の位置を何度も確認しましたが、仰臥位では寝ることができず、右側臥位で寝られました。トイレで便器に座るように指示するとほぼ90度横向きで座られました。
歩行の診察では、歩行速度は遅く、歩行失行のためか歩行は拙劣でした。上肢の失行はみられず、明らかな筋強剛・筋固縮もみられませんでした。
HDSRを実施して、16/30点数字関係の減点が目立ちましたが、記憶力は比較的保持されていました。
20分ほど診察を続けていると、突然、集中力が限界に達したのかイライラし始めて、熱い熱いと騒ぎ始めて衣服を全部脱ぎ始めました。その後はイスから立ち上がって歩き回ったと思ったら、ベッドに右側臥位で寝たりとじっとしていられなくなり、「早く帰るぞ」と叫んだりしました。
薬の必要性を説明をすると頑強に拒否しました。入院中も拒薬していたそうです。
まとめると、病識の欠如、行動異常、脱抑制、常同行動、錐体外路症状(パーキンソニズム)、視空間障害ということになります。これに該当する可能性のある疾患となると、大脳皮質基底核変性症(CBD)になると思いますが、CBDの診断基準に見合う、運動障害、非対称性、筋強剛、ジストニアはほとんどみられません。しかしCBDのケンブリッジ基準ではメイヨー基準にはみられない「認知障害」という項目があり、改訂版ケンブリッジ基準では1)発語・言語の障害 2)前頭葉性の遂行機能障害 3)視空間障害 となっています。
おそらくこの症例ではほぼこの3つを満たしていると判断します。ただし脱抑制症状(前頭葉~大脳辺縁系への抑制障害)があまりにも顕著であるため、画像検査や服薬、施設入所などは現状では不可能であると推定されます。
この症例の場合は、顕著な脱抑制症状に目を奪われがちで、安易な操作的診断をしてしまうと「前頭側頭変性症の行動障害型」だということになってしまいがちです。この症例をみたほとんどの医者は、リスクの説明もせずに、いわゆる抗精神病薬を処方したがるでしょう。しかし私の個人的な経験ではCBD(CBS)の場合は、薬剤過敏性が強い傾向があるので、クエチアピン、ハロペリドール、クロルプロマジンなどを少量で開始すると、すぐに体幹が左右どちらかへ大きく傾斜したり、足がもつれて歩けなくなったりします。この方は軽度ではあるが、CBS特有ではない錐体外路症状(パーキンソニズム)がみられますので、最初から使えません。そもそも抗精神病薬を、神経変性疾患に使用すること自体が、各種学会で問題にされています。しかもこの方は記憶力・判断力は保持されているが、病識が全くないため、すべての薬を拒否しています。記憶力・判断力が維持された患者の意志に反して、重篤な副作用を招きかねない劇薬を、患者側の同意を得ることなく処方することなど倫理的に許されるはずもないと考えます。
実際の臨床現場ではこのような、脱抑制症状の強い、前頭葉行動・空間症候群(FBS)に該当する症例は少なくないようです。このような症例にどう対処したらよいのか? 学会や研究会で議論される必要があります。
パーキンソニズムにドパミン作動薬、脱抑制症状に抗精神病薬、という短絡的でステレオタイプ的な薬の処方だけで解決できない、今回のような症例、神経難病の症例が私の外来にはたくさんいます。非常に悩ましい問題です。


新横浜フォレストクリニック
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by shinyokohama-fc | 2017-02-28 10:40
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