メマンチンの前頭葉解放症状に対する有効性

メマンチンはコリンエステラーゼ阻害薬との併用を推奨されているがゆえに非常に過小評価されてる薬です。主に認知症の行動心理症状(興奮性・攻撃性)に対する抑制効果を期待して使用されているわけですが、中核症状の改善効果も優れています。コリンエステラーゼ阻害薬のような生命予後に関わるような危険な副作用もないため、80~90歳の高齢者でも5~10mgの低用量(20mgで内服させると、日中の嗜眠が強すぎて誤嚥や転倒リスクが高まる)で使用しやすい薬剤です。ただしコリンエステラーゼ阻害薬(特にドネぺジル5~10mgとリバスチグミン18mg)と併用してしまうと、コリンエステラーゼ阻害薬による精神症状の有害事象が高い確率で悪化するようですので、原則的に併用はしないようにしています。神経系の薬剤の作用は複雑で複数の薬剤がからむと奇異反応をおこす症例が非常に多いようです。ニューイングランドジャーナルの文献によると、メマンチンは1か月(1日)の介護時間が優位に減少されたということです。1日あたり平均90分減少させたそうです。
メマンチンはNMDA受容体に対するアンタゴ二スト(拮抗薬)で正常な神経伝達には影響せず、グルタミン酸によるNMDA受容体の過剰な活性化を抑制する作用があり、持続的な電気シグナルが発生し、神経伝達シグナルを隠してしまう(シナプティックノイズ抑制)効果があるそうです。主として以下の症状に有効であるようです。
1) 会話がうまくできない(言語障害)
2) ささいな事で怒り出す(攻撃性)
3) 落ち着きがない(易刺激性)
4) 家の中を動き回る、目的不明な外出行動(行動障害)
60~70歳で発症する、典型型のアルツハイマー(ATD)では進行ステージにかかわらず、1)~4)の症状はほとんど出現しません。しかし60歳以下/75歳以上で発症するATDでは前頭葉症状が強い非典型的タイプが少なくないようですので、しばしばこの薬剤が有効です。礼節や対人関係は維持できているが、精神症状や行動心理症状が日常的にみられるタイプです。
しかし、それ以上に有効なのは前頭側頭型変性症(FTD)の意味性認知症、行動障害型だと思います。超重症ステージでほとんど会話困難、外来診察時も常同行動、使用行動、反響言語を繰り返しているレベルのFTDでも有効性が高い事が数例で確認できました。脱抑制症状や常同行動が顕著なために、日常生活動作が全て介助というレベルの方々や易怒・興奮性が強く介護抵抗があるレベルの方が多いのですが、これらの症状に対してメマンチンは5~10mgで有効のようです。一度中止して再開、効果の再現性を確認しました。超重症レベルFTDのBPSDに対して再現性効果があるため、プラセボ効果の可能性は限りなく低いと推定されます。
臨床診断である、意味性認知症(語義失語)、行動障害型(脱抑制行動・常同行動)というのはある程度有意義だと考えます。ATDと違うポイントとしては場所や環境を問わず、このような病的ニュアンス(外来受診する態度としての違和感)が外来診療で確認できるかが、ポイントだと思います。
脱抑制行動、常同行動、興奮性・易怒性に対して、安易に抗精神病薬を使用することを奨励することについては、個人的には反対です。以前のブログにも書きましたが、理由は少量でも厄介で危険な副作用が起こりうる事です。特に少量でも長期間(1年以上)継続された場合はかなりの確率で副作用が起こります。コリンエステラーゼ阻害薬と併用した場合はさらに高率になると推定されます。多くは姿勢異常、不随意運動、動作歩行障害、心臓不整脈、精神症状の悪化などです。長期使用によって耐性化もしやすく、効果が減弱しやすいのも問題です。開業して2年以上、認知症に対していくつかの抗精神病薬を試してきましたが、この薬はコリンエステラーゼ阻害薬同様、安心して使える薬ではないという事を再確認しました。クエチアピンが最も有害事象が少なかったという印象ですが、その他の薬剤は長期使用(屯用使用ではなく継続使用)で何らかの有害事象や奇異反応(精神症状の悪化)などで脱落しました。高齢のフレイル的な女性においてはクエチアピンに対しても忍容性がないケースもありました。まだ医者として駆け出しの時期に、ハロペリドールやクロールプロマジンによる悪性症候群を多数診てきましたし、今でも前医の安易な抗精神病薬処方による被害者、姿勢異常、不随意運動、動作障害などで悲惨な状態に陥っている方々をフォローしていますが、このような悲惨な状態を診るたびに怒りがこみ上げてきます。
80歳以上の認知症では、FTDに病態の類似したAGD(グレイン、嗜銀顆粒球性認知症)が半数近くにみられます。通常はこれらの症例には、ガランタミンまたはメマンチンをまず使用することからスタートして、効果不十分の場合はチアプリドを処方しています。チアプリドでは用量・使用期間で軽度のパーキンソニズムが時にみられるケースがありますが、それほど深刻な有害事象は少なく、早期の減量・中止などの対応で回避できます。悪性症候群の事例は20年間で1例も診ていません。ただし薬剤の効果には個人差が大きく、制御不可能な症例も少なくないようです。
ただ一つはっきり言えることは、メマンチンは抗精神病薬やコリンエステラーゼ阻害薬よりは安全性が高いという事ですので、年齢を問わず行動心理症状に対しては、まず最初に試すべき薬剤だと思います。ただし、PDD/DLBに対しては、嗜眠・傾眠性が強まってしまう症例があるので注意が必要です。


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by shinyokohama-fc | 2016-12-20 19:03 | 治療
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