高齢者側頭葉てんかんとレビー診断病

先週、地域のてんかんの講演会があり、高齢者に多い「複雑部分発作」の発作時のVTRを見せていただきました。
てんかん患者を日常よく診察している専門医でも「これでてんかん発作なのか?」と驚くほどの緩徐な症状でした。てんかんというと「全身が大痙攣して意識を失う」というのが一般医療者のイメージでしょうが、これは「大発作」というタイプで、高齢者においては、脳梗塞や脳挫傷などで前頭葉~側頭葉の比較的広範なダメージを受けた症例にみられます。しかし、高齢者のてんかんはこの「大発作」よりも「複雑部分発作」のほうが多いわけです。
高齢者の側頭葉てんかんの複雑部分発作の主要症状を以下に示します。
1)短時間の意識障害/意識減損(日中でもややぼーっとして眠っているような感じになる)
2)手の自動症 手をモゾモゾと動かす
3)エピソード記憶の障害(先日旅行したりした事を忘れている)
4)口の自動症・会話困難 (突然口をベチャベチャと動かす)
1)3)は認知機能の変動、時に幻覚を訴えることがあります。2)はパーキンソニズムと誤診されがちです。
臨床医であれば、恐らく誰でも知っているはずですが、「てんかん」というのはしばしば反復したり重積化します。抗てんかん剤によって発作が抑えられず、不幸にもてんかん発作を助長する薬剤などが処方されていれば、なおのこと重積化する確率が高まります。つまり意識減損が短時間で終わるとは限らず、せん妄と区別が難しいほど長時間に及ぶこともありうる訳です。私の症例経験では、てんかんのある症例にコリンエステラーゼ阻害薬を使用するとほぼ全例でてんかん発作の回数が増加したというのは確認済みです。最も弱いガランタミンですら発作を誘発しますから、リバスチグミンやドネぺジルだと重積化して最悪入院という事になるかもしれません。それ以外にも脳を活性化するサプリメントなどもてんかん発作の頻度を増加させる事はほぼ間違いないようです。
以前からこのブログで何度も申し上げていますが、現在のレビー小体型認知症の症候的な診断ツールとして、非常に誤診を生みやすいツールだと私は思います。特にパーキンソニズムの有無が問題になりますが、多くの場合はごく軽度のパーキンソニズムなので、神経専門医でも判別が難しいと思われます。ダットスキャンという検査がやれ高額すぎると批判されがちですが、現行のレビー小体型認知症の症候学的診断が非常にあいまいで混乱を招きかねないものである以上、数少ない脳内のドパミン状態を表現する診断補助検査としてやはり必要不可欠ではないかと思われます。また側頭葉てんかんの除外診断のため、脳波検査が必要だと思われます。てんかんという疾患の特異性を考えれば、脳波検査はMRI/CT検査よりも重要性が高いと言えます。ただし脳波検査でタイミングよくてんかん波が出現するとは限らないので、場合によっては抗てんかん剤(AED)の試験投与による経過観察(治療的診断)が必要になるかもしれません。その場合に使う試薬としては、カルバマゼピン(CAZ)が第一選択となっていますが、高齢者の場合は効率に小脳失調によるふらつきと転倒をおこすリスクがあるので、50~100mgの少量から開始する必要があるでしょう。また事前にこの有害事象(小脳失調症)について説明する必要があります。長期にAEDを続ける必要がある場合は、ラモトリギンなど新規AEDのほうがいいでしょう。
もしレビー小体型認知症を強く疑う症例でやむを得ずダットスキャン検査ができない場合はレボドパ治療反応テストが不可欠でしょう。もしレビー小体型認知症であれば、かなりの高率で50~100mgの少量のレボドパに反応するはずです。レボドパはコリンエステラーゼ阻害薬とは違って反応性は明確です。
パーキンソン病もダットスキャンやMIBG心筋シンチという検査が出るまでは、症候学的診断でしたが、その正しい診断率は70~80%であり、専門医と非専門医で大きな差はないというのが現実でした。つまり症候学的診断というのはそれほどあいまいなものです。私は神経内科医を20年やっていますが、いまだに「レビー小体型認知症」「せん妄」「側頭葉てんかん」「前頭側頭型変性症」の臨床的な鑑別がよくわかりません。症候学的な評価だけで鑑別できると断言する医者は信用していません。
それほど神経疾患の診断というのは決定打がなくて難しいものです。
高齢者に多い側頭葉てんかん(複雑部分発作)を、「レビー診断病」の医者に誤診されて、安易にリバスチグミンやドネぺジルが処方されてひどい目に遭わせられないように、くれぐれもご注意ください。
注)レビー診断病
幻覚(幻視・幻聴)、妄想、意識消失(短時間)、日中の嗜眠傾向、手の震え、認知の変動などの症候がそろっていれば「レビー小体型認知症(DLB)」だと診断してしまい、他の可能性を全く考えようとしない医者がかかっている病。
実際は高齢者の場合は、薬剤誘発性せん妄、側頭葉てんかんの件数のほうが圧倒的に多いと推定されるのだが、すべてそれらがDLBと診断されてしまう事が問題。せん妄やてんかんの知識が乏しい医者がかかりやすい傾向にある。


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by shinyokohama-fc | 2016-12-19 12:36 | 医療
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