PDDでは大脳皮質に広汎なコリン作動神経障害

放射線医学研究所で開発されたMP4A(methyl-4-piperidyl acetate)というPETトレーサーを用いることで、アセチルコリンエステラーゼ(AChE)による水酸化・加水分解速度定数を直接絶対値で評価することで、脳局所のAChE活性を測定することが可能になったようです。この研究チームはこのMP4Aを用いたPET検査を、パーキンソン病(PD)、認知症を伴うパーキンソン病(PDD)/レビー小体型認知症(DLB)の臨床像を呈する患者に実施して、データをまとめ評価した結果を、2009年のNeurology(米国の神経学会雑誌)で発表しています。
MMSE(認知機能)が低下するほど大脳皮質のAChE活性が低く、コリン作動性神経障害がPDの認知機能に強く関連しているとの結果を得ています。PETの利点は脳内のどの部位でAChE活性が低下しているかを見える化(可視化)できることです。AChE活性は未治療PD、治療後3年以上のPDでは後頭葉の一部限局した範囲にしかAChE活性低下がみられず、PDD/DLBでは前頭葉~側頭葉を含めた大脳皮質の広範囲でAChE活性低下がみられました。マイネルト基底核からのコリン神経経路には帯状回・後頭葉に投射する内側系と前頭葉・側頭葉など広範囲に投射する外側系がありますが、PDD/DLBでは内側系+外側系が障害されている可能性が示唆されました。
千葉大学の神経内科では神経変性疾患における大脳皮質コリン神経系減少率を検討しているようです。PDでは-10%、PDD/DLBでは-20%以上と大きな差があるようです。一方でPSP,MSAでは-10%以下、SCA3/6ではー2%以下だったようです。
米国のBohnenらのグループは、PD,PDDの大脳皮質におけるAChE活性は罹病期間や運動症状の重症度とは相関せず、注意力・遂行機能障害と関連することを示しています。また彼らはPDの転倒イベントと視床のコリン神経系活性の相関性を検討しました。その結果として転倒歴のあるPDでは大きなACh活性低下がみられたという事です。
視床のコリン神経系は姿勢保持・転倒防止に関連し、大脳皮質のコリン神経系は注意力・遂行機能に関連するようです。PDD/DLBでは両方ともコリン神経系の神経障害が進行性のようです。
以前のブログでも取り上げていますが、放射線医学研究所が2012年に発表している、アミロイド沈着を伴うPDD/DLBというのが存在するというものであり、PDD/DLBは病理的に①アルツハイマー+レビーと②レビーという2つのタイプが存在し、①はコリンエステラーゼ阻害薬が無効、②は有効との報告でした。
数か月単位でラッシュな進行性がみられるPDD/DLBという症例がいくつか確認できますが、現存の治療薬などまったく通用しないことがわかります。ドパミン神経だけではなく、コリン作動性神経細胞がどんどん変性・脱落していくような症例にコリンエステラーゼ阻害薬を使ってもまったく通用しないことが、症例を通じてよく理解できます。効果がないばかりか、少量のリバスチグミンやドネぺジル、ドパミンアゴニストでも姿勢異常(首下がり、腰曲がり)が誘発されたり、動作歩行障害が悪化したりするようです。
その一方でPDが発症して15~20年経過している緩徐進行性の症例にはこのような臨床像はみられません。発症22年経過した72歳の女性PD症例に関して、初診時にみられた薬剤性せん妄の要素を解除して実施したMMSEは28点でした。つまりPDという病型では発症後20年以上経過しても認知症はみられなかったわけです。これに似た症例を2~3人診ていますが、やはり転倒歴はほとんどなく、注意力・遂行機能は維持されています。これらの症例ではおそらくMP4A/PET検査ではコリン作動系神経障害はかなり限定的なのだろうと思います。
こう考えていくと、アミロイド沈着を伴うPDD/DLBは、非常に悪性度の高い疾患群であり、原則的に経過が非常に緩徐・良性で非進行性のPDやDLBとは同じスペクトラムにあるとは言い難いです。臨床的には以下のように分類されるのではないかと思います。
(1)パーキンソン病・純粋型(PD);ダットスキャン軽度~中等度異常、 アミロイドPET正常~軽度異常
経過は非常に緩徐で良性、15~20年長期に経過しても中等度以上の認知症、重度の精神症状はきたさず、薬物処方過剰などの外的要因を除外すれば、日常生活動作に関する遂行能力と注意力は維持される。転倒は少ない。
パーキンソン治療薬の調整によって運動機能も比較的維持される、長期経過してもレボドパは有効である。
(2)レビー小体型認知症(DLB);ダットスキャン高度異常、 アミロイドPET正常~軽度異常
経過は非常に緩徐で良性、薬物選択を慎重に選べば、良好にコントロールでき、日常生活動作能力も維持される
(3)アミロイド沈着型・パーキンソン型認知症(PDD/DLB) ;ダットスキャン高度異常、アミロイドPET高度異常
高度の姿勢異常や転倒が多く、遂行能力・注意力は著しく阻害され、幻覚や妄想などの精神症状も強い場合がある。様々な薬物処方に対して少量でも有害事象が出現するが、レボドパ含むパーキンソン治療薬、ChEIなどは効果は全くないかあっても一時的で月単位で進行速く、多くは歩行不可となり、介護困難で入院や入所の対象になりやすい
パーキンソニズム(運動障害)、認知機能低下、精神症状がいずれも著しく、薬物コントロールがほとんど不可能なのが、(3)だと思われます。臨床経過と病状の重症度からPSP-RSに類似しています。ドパミン作動神経とコリン作動性神経の障害が重度であるため、ほとんど既存の薬物治療が通用しないようです。パーキンソニズム(運動症状)で発症するか、認知機能障害で発症するか、精神症状で発症するかの違いはあれども、最終的にはどれも重症になります。それに比べて(2)はパーキンソニズムがあったとしても薬剤性の要因を除外すればかなり軽度で、パーキンソン治療薬を全く必要としないケースも少なくないです。よく診察しないとわかりにくいようなレベルです。(1)はレボドパなどでパーキンソニズムはかなり軽減できます。臨床的には(1)(2)と(3)は全く別の疾患だと考えたほうがよいのではないかと個人的には思います。一般的にPDDと診断される疾患群は(3)であることがほとんどのようです。
一般的に(2)を臨床医が診断するのは相当難しいと思われます。動作歩行障害が目立たないので多くはうつ病など精神疾患とされています。幻覚(幻視・幻聴)や妄想を訴える場合もありますが、これらは(2)に特異的な症状ではなく、非定型ATD,FTD/SD,CBSなどでも高頻度にみられます。幻覚・妄想の発症部位は単一ではないからですし、高齢者の場合は様々な薬剤によっても幻覚(幻視)は容易に誘発されます。個人的には幻覚(幻視)というあまりにもありふれた症状をDLBの診断基準から除外すべきだと考えています。幻覚・妄想よりもむしろアパシー、アンへドニア、抑うつなどがDLBらしさなのではないかと考えます。パーキンソン治療薬が一切入っていない状況で診察すると、わずかに左右差のあるパーキンソニズムが確認できます。多くはドパミン阻害剤(抗精神病薬かChEIなど)によってパーキンソニズムが顕性化しますが、原因薬剤を減量・中止など修正すれば容易に軽減します。
私自身も(2)正確に診断する自信はありません。パーキンソニズムもアパシーもない幻覚症例を何人かダットスキャン検査を依頼しましたが、予想通り正常でした。近年はDLBの過剰診断が拡大生産されている状況のようです。
その一方で、PDに対するドパミン作動性薬剤の過剰投与によってPDD/DLBが拡大生産されています。多くの場合はドパミン作動性薬剤を一切整理することなく、ChEIが追加されます。こういうケースはPDD/DLBでもなんでもなくて、ただの薬剤カスケードにすぎないので、一時的にはChEIは有効かもしれませんが、またすぐに別の問題が出てきます。終わりなき有害事象悪循環の罠(袋小路)に迷入してしまうのです。


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by shinyokohama-fc | 2016-12-02 12:33 | 医療
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