コリンエステラーゼ阻害薬による姿勢異常の悪化~歩行困難

最近、コリンエステラーゼ阻害薬・リバスチグミン貼付薬の少量投与でも、短期間で姿勢異常が急激に悪化する症例が続発していて、非常に驚かされます。これらの症例に共通しているのは、「レボドパを使用しなかった」という事ですが、それぞれパーキンソン病+認知症(PDD)と意味性認知症ですが、いずれも重症ケースでした。簡易スケールテストができないような重症ケースでは、ドパミン・アセチルコリン・セロトニンなど各神経細胞はいずれも変性・脱落が著しくなっていると推定されます。それぞれの神経伝達物質は枯渇状態になっているため、外的に1つの神経伝達物質を増やそうとすると相対的に他の神経伝達物質が減少して、ドパミン欠乏・アセチルコリン欠乏・セロトニン欠乏・ノルアドレナリン欠乏などによる有害事象が生じるようです。
76歳女性、PDDかCBS 前傾で右へ傾斜した姿勢異常がありましたが、数mなら歩行可能でした。メマンチン20mgを内服していたが、嗜眠が強かったため中止、代わりにリバスチグミン4.5mgを開始しました。3週間後、意思疎通や反応は良くなったようですが、前傾・右傾の姿勢異常がさらに悪化し、首下がりや腰曲がりも出現してきて、介助でも姿勢が安定せず、歩行困難になってしまいました。
65歳女性 FTD/SD 元々動作歩行・姿勢には問題ないが、重度失語・反響常同言語、脱抑制が著明で、診察室の椅子に座らず、座ってもすぐに背を向けるほどでした。前医のドネぺジル10mgメマンチン20mgを中止して2か月経過していましたが、リバスチグミン2.25mgを開始しました。開始して1週間もたたないうちに、体幹が右へ傾き始め失禁が増えたとの報告がありました。
69歳女性 CBS/FTD 歩行失行があるため歩行は拙劣、診察中は礼節は保持され挨拶なども可能ですが、自宅やデイケアでは不穏・介護抵抗など脱抑制が強い場合があるそうです。リバスチグミン2.25mgを開始しました。開始して1週間もたたないうちに、左へ体幹傾斜したと報告がありました。
これまでドネぺジルによる体幹傾斜/ピサ徴候の悪化の報告は数多くありましたが、リバスチグミン少量でもこのような症例が続出したことにまず驚きました。今回の症例ではいずれもレボドパを含めてドパミン作動性薬剤は使用していなかった事が誘因かもしれません。つまりレボドパ/カルビドパを100~150mgでも使用していればこのような姿勢異常の悪化は出現していなかったかもしれません。同じアセチルコリンエステラーゼ阻害薬でもガランタミンにおいては、4+4mg~8+8mgでもこのような運動障害の悪化という事例は1度もみられていないようです。
リバスチグミンは海外ではPDDに適応があると言われていますが、PDDの場合は通常レボドパがすでに使用されていることが多いため、このような問題が表面化しにくいのかもしれません。PDDでリバスチグミンやドネぺジルを使用する場合は少量投与で、しかも少量のレボドパを必ず併用するという条件が必要なのかもしれません。ただしPDDの症例をいくつか診ていると、それで上手くいく症例もあるが、上手くいかない症例も少なくないという印象です。外的薬剤よる神経伝達物質の調整には限界がある事を思い知らされる毎日です。
似たような有害事象は、パーキンソン治療薬である、ドパミンアゴニストで見られることがあるようです。つい最近も前医でブロモクリプチン単剤で投与されていた、80歳女性のPDDの症例がやはり幻覚・妄想・せん妄の悪化とともに首下がり姿勢となって受診されました。
脳内の神経伝達物質のバランスを評価することは不可能であるが故に、たとえ慎重に少量で薬剤を投与していても、想定外の有害事象が続々と起こりうる。それが薬物治療の限界であり、現実なのです。
おそらく数えきれないほどの神経変性疾患の症例が、このような神経系薬剤の有害事象によって動けていた(歩けていた)人が動けなく(歩けなく)されているのかと思うと、本当にやりきれない気持ちです。


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by shinyokohama-fc | 2016-11-18 18:30 | 治療
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