PSP治療推奨薬?(1)三環系抗うつ剤(TCA)

進行性核上性麻痺症候群(PSPS)はいくつかのサブタイプによるバリエーションが多彩ではあるものの、特徴的な姿勢保持障害、歩行障害、易転倒性があるため、神経内科医であれば診断は難しくないケースがほとんどでしょう。臨床的なPSPSの全てが病理的PSPにならないというのは、以前のブログで述べたとおり成書にも記載されています。治療薬に古くから大うつ病に使用されてきた、三環系抗うつ剤(TCA)のアミトリプチンが書いてあります。
私自身はこの2年でPSPSを50例以上、通算にして70例くらいは診てきましたが、実際この薬が処方されて良くなったという症例を1例も診たことがありません。それどころかむしろTCAを長期に内服する事で病状が悪化しているとしか思えない症例ばかりです。先日私が講演した認知症治療研究会で座長を務めていただいた私の先輩の河野和彦先生も1~2年前のブログでこの事を指摘していたと思います。
TCAの薬理作用として、ヒスタミン・ムスカリン受容体遮断作用、抗コリン作用が強いと言われていて、おそらく若年者の夜間焦燥感の強い大うつ病に使用すべき薬剤です。高齢者、特に正常な神経細胞が減少している神経変性疾患には本来使うべきではない薬剤ではないかと考えられます。
病態生理的な見地からいうとPSPという疾患は、中脳~脳幹、前頭葉~側頭葉(大脳皮質)が主として異常リン酸化タウによって障害されます。姿勢保持障害は主として中脳~脳幹が主体ですが、前頭葉による歩行障害も起こります。
アセチルコリンは歩行に関連していると言われていて、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤が前頭葉性の歩行障害を改善させうるという報告もあります。その一方でこの薬剤の投与過剰で大脳基底核のアセチルコリンが増加して、ドパミン・アセチルコリンのバランスが崩れて薬剤性EPSによるが出現するケースも少なくないと言われます。それは私が先日の講演会で発表した症例を通じて強調したかった事です。しかしその一方で抗コリン作用の強い薬剤を使えば、アセチルコリンが有効に作用しなくなり、いわゆる薬剤性認知症のような状態になります。これは皮質下性認知症を伴うPSPSには好ましくない状態であります。ヒスタミン受容体遮断作用とムスカリン受容体遮断作用、抗コリン作用により起こりうる副作用としては、腸管麻痺、口喝、頻脈、便秘、排尿障害(尿閉)などの末梢性の副作用のみならず、意識障害、傾眠、せん妄、幻覚、精神錯乱など中枢性の副作用も高率に誘発します。つまりPSPSで臨床的に最も問題とされる転倒事故を増やす可能性がありますし、ピックコンプレックスですから精神状態を悪化させるリスクも高いであろうと推定されます。TCAを長期間に亘って内服を継続すれば尚更です。PSPという疾患が大脳~脳幹~小脳と広範囲に障害されて、かつ各部位をつなぐ神経伝達のネットワークの問題が多発しているという病態生理を理解していれば、副作用の強い神経系薬剤を使用するという事がいかにリスキーな事かがわかるはずですが、神経系の薬剤の特徴を理解せずに処方する神経専門医(本当に専門なのか非常に疑わしい)が少なくないようです。


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by shinyokohama-fc | 2016-04-18 11:59 | 治療
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