抗精神薬により深刻な薬剤性EPS(咽喉頭ジストニア)をきたした高齢女性の症例

最近は80歳を超える低体重の超高齢女性に安易に抗精神薬を処方されて、深刻な薬剤性EPS(錐体外路症状)をきたしている症例を診療する機会が増えています。抗精神薬の副作用としては、不整脈、肺塞栓症、誤嚥性肺炎、麻痺性イレウス、胃拡張、肥満、水中毒、悪性症候群(異常な発熱、発汗など)、横紋筋融解症などがありますが、神経系に最もダイレクトに反映されるのはEPS(錐体外路症状)です。錐体外路症状としては主として1)アキネジア 2)ジストニア 3)アカシジア4)ジスキネジアの4つがあります。特に2)~4)は異常運動(不随意運動)が常時起こっている状態で、当事者に著しいストレスを与えるものです。
1)アキネジア
中脳・黒質線条体のドパミンD2受容体遮断により起こります。動作が少なく拙劣・緩慢になり、筋緊張が亢進して筋固縮となります。これに振戦が加わるとパーキンソニズム(薬剤性)と呼ばれる状態になります。パーキンソン病と同様に前傾姿勢、小股歩行、動作がぎこちない状態になります。
2)ジストニア
赤核δ受容体が関与した中枢ドパミン系の代謝回転亢進により起こります。筋緊張が異常な状態が、主として頸部・体幹部・四肢の一部に起こりますが、口・舌・顎・顔面にも起こり、一部の筋肉が強直して捻転します。最も典型的なのは急性ジストニアで、眼球上転、舌が飛び出し、体幹が側方に傾く状態になります。
3)アカシジア
中脳・黒質線条体のドパミンD2受容体の感受性亢進により起こります。下肢がむずむずする異常感覚・焦燥・不眠(レストレスレッグス症候群)を伴い、じっとしていられず、動き回る、歩き回る状態になります。
4)ジスキネジア(遅発性)
中脳・黒質線条体のドパミンD2受容体の感受性亢進により起こります。抗精神薬を長期に内服して引き起こされる異常運動で、主として口・頬・舌・下顎にみられ、時にゆっくりとした大きなアテトーゼ様の粗大な異常運動で、一度起こってしまうときわめて治りにくく遷延する傾向があります。
これらの薬剤性EPSは定型抗精神薬に多く、一般的には非定型に変更すると良いと言われていますが、私の臨床経験でいえば、高齢者に関しては非定型でも非常に高率にEPSの発現がみられます。一般的に抗精神薬のEPS発現率は21%(1/5)程度と報告されていますが、80歳以上の超高齢者に限定すれば50%は確実に超えるのではないかと思われます。私が外来でよくみかけるEPS発現事例は、2~3種類の複数の非定型抗精神薬を順次処方された症例に多く、具体的にはオランザピン、リスぺリドン、アリピプラゾール、クエチアピンのうち2~3種類が使用された場合が多いようです。私の個人的な見解としては「高齢者においては、定型・非定型にかかわらず、抗精神薬を使用すれば、たとえ少量でも薬剤性EPSは高率に起こりうる」という結論です。
今回は今までと比べても衝撃的かつ重篤なEPSの事例を経験しましたので、報告する事にします。
<症例1>83歳女性。
一方的会話で疎通困難な、重度の意味性認知症と推定される症例、夕方~夜間に歌を歌って、周囲が眠れなくなるのでという理由で、前医にて非定型抗精神薬が順次処方されていたようです。オランザピン10mg、リスぺリドン0.5mg、最近まではクエチアピン75mgでした。元々動作歩行には問題がなかったようですが、次第に動作歩行が拙劣となり歩行困難となり、口・下顎のジスキネジアが出現していたようです。1か月前からひどい犬吠様の咳嗽発作と呼吸困難を繰り返すようになったという事で先日受診されました。診察上では喘息発作は否定され、咽頭喉頭狭窄をきたす咽喉頭ジストニアと推定されました。前医にて鎮咳剤が処方されていたようですが、効果がないばかりかむしろ症状を悪化させていたようです。食物を喉に詰めて窒息するリスクも考えられました。
<症例2>83歳女性。
約7年前から幻覚・幻聴・被害妄想があり、TCA(ドスレピン)で効果不十分として追加で非定型のリスぺリドン、クエチアピンが追加され、微熱・発汗あり、意識障害に至ったため、アリピプラゾール+パロキセチンに変更されてからは全身の筋痛を訴え、薬剤性EPS→DLB(レビー小体型)と診断。にもかかわらず、SDAのブロナンセリンが処方されたようです。動作歩行レベルは次第に低下して、自力で寝返りやベッドからの起き上がりが困難となりレボドパに加えて、チアプリド50mgとミルタザピン10mgが処方されていました。レボドパは150mgから300mgまで増量されていましたが、これまでの長年に亘る複数の抗精神薬の内服により、ドパミン受容体がもはや正常に機能しなくなっており、レボドパが正しく効いているように思えませんでした。診察上では中等度~重度のパーキンソン病という印象でしたが、これまでの薬剤投与歴を考慮すると、薬剤性で誘発された要素が非常に大きいと推定されました。
抗精神薬の使用そのものを否定しているわけではありませんが、毎回ひどい薬害・有害事象事例ばかりを診させられると、正直うんざりさせられます。抗精神薬の危険性を知らない者が多すぎるという事です。これらの薬について熟知している専門家であるはずの精神科医・神経内科医ですら知らない者が多いようです。高齢者に対する抗精神薬の処方に関しては、①使用できる薬剤と用量を限定する、②複数の薬剤を使用しない、③使用せざるを得ない理由を明記する、④副作用リスクに関して文書にて患者側に十分な説明をして同意を得る。⑤副作用についてはEPSスコアをつけるなど厳重なモニタリングをしカルテに明記する。⑥特別な講習を受けてライセンスが与えられた医者に限定するなどのルール改正が必要ではないのかと私は考えます。
高齢者に対する抗精神薬の使用について患者側も一層の警戒を強めるべきだと思いますし、血圧や心臓の副作用リスクはあるものの抑肝散などの漢方薬を使用したほうがまだ比較的安全ではないかと考えます。


新横浜フォレストクリニック
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by shinyokohama-fc | 2016-04-11 19:18 | 治療
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