胃粘膜防御因子増強薬が著効した認知症症例

79歳女性、行動心理症状がなく、記憶・見当識・実行機能障害が主体の老年認知症の方が先日受診されました。発症は数年前に自宅に帰れなかったというのが初発症状だったそうです。2年前から、市内の認知症の専門クリニックに通院している方でしたが、ご家族が胃粘膜PG増加による防御因子増強薬として有名なテプレノンという薬剤に熱ショックタンパク質(HSP)誘導作用があるという情報に注目され、前医にお願いして1年前から処方してもらっていたそうです。1年前に実施した簡易知能スケールMMSEで18/30だったそうですが、今回のMMSEでは26/30まで改善していました。アセチルコリンエステラーゼ阻害薬(ChEI)も処方されていましたが、副作用を警戒してご家族の判断で2か月前から中止していたとの事です。ChEIを中止しても特別中核症状が悪化したという印象もなかったようで、当院での診察評価でも、時間・場所の見当識障害以外の項目はほとんど満点であり、立方体模写、図形(重複五角形)模写、時計描画は完璧に書けました。診察した上ではどうみても軽度認知障害(MCI)のレベルでした。パーキンソン症状(錐体外路症状)や行動心理症状(精神症状)は一切なく、臨床的にはアルツハイマー老年型(SDAT)か神経原線維型老年認知症(SD-NFT)のいずれかというイメージの症例でした。
異常な絡まり方をしたタンパク質が脳内に蓄積されてSDATやSD-NFTのような神経変性疾患が引き起こされると言われています。そのようなタンパク質の絡まりを解いてくれるのが、熱ショックタンパク質(Heat Shock Protein:HSP)と呼ばれるタンパク質です。HSPは誤って絡み合ってしまったタンパク質を元通りに戻して処理してくれるが、そういうタンパク質が大量になると、処理能力を超えてしまうと言われています。HSPを増やす事ができる物質を体内に投与すれば、HSPの処理能力が上がり、病状の進行を抑制できると言われています。たしかにテプレノンという薬剤には胃の細胞をストレスに強くするHSPを増加させる働きもあると言われていましたが、今回のような実際に改善した症例を確認するまでは半信半疑でした。おそらく軽度認知障害(MCI)レベルで維持されている症例や進行が遅いSD-NFTのような症例では有効性が高いのではないかと思われます。その一方で50~60歳という若年発症、比較的進行の速いアルツハイマー(ATD)のような症例ではHSPの効果が及ばないのではないかと考えます。
最近は高齢化・長寿化により75歳以上の後期高齢者の年齢で発症する認知症が多いようです。外来に受診する症例も行動心理症状が先行するタイプ(病理診断ではグレイン(嗜銀性顆粒性))が最も多く、行動心理症状を欠くタイプがそれに次いで多いようです。これら高齢者タウオパチーの症例の特徴としては、若年性ATDに比べて進行が遅いという事です。75歳以上で発症した比較的早期、あるいは進行していないMMSE 20~30程度の方々にはHSP誘導作用が有効ではないかと思われます。最近はHSP誘導作用のあるアスフラールという物質も注目されています。HSP誘導作用のある薬剤やサプリメントを併用して認知症の中核症状を改善できるかどうか注目していきたいと思います。


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by shinyokohama-fc | 2016-03-01 12:34 | 治療
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