前頭側頭型認知症/意味性認知症の症例提示(薬剤選択に非常に苦労した症例報告)

症例報告 83歳女性 平成26年6月初診
74歳時から幻覚・妄想で発症、かつては強い幻視であったため、レビー小体型認知症(DLB)と診断されていました。コリンエステラーゼ阻害薬(ChEI)としてはドネぺジル10mg+メマンチン20mgが処方されてすぐに不穏、易怒、攻撃性、歩行障害となりました。レボドパ/カルビドパ150mg処方されて幻覚・妄想が悪化したようです。易怒に対してクロルプロマジン8mg/日が処方されて首下がりとなり、ハロペリドール0.75mgが処方されて口ジスキネジアと徐脈になったようです。これが初診時までの投薬経過です。
初診時の所見、礼節は保たれていて、挨拶も丁寧。常に笑顔で鼻歌を歌っていました。反復的常同行動、使用行動、模倣行為があり、言葉は流暢だが、その場にそぐわない内容の一方的な会話で、普通の会話になりませんでした。語義失語が強く、物品呼称と単語理解が著しく障害されていました。歩行はやや開脚性でしたが、動作や歩行の緩慢さは全くなく、一見してDLBらしさは感じられませんでした。
前医での最終処方がリバスチグミン9mg/日+メマンチン10mgでしたが、スイッチ易怒、不穏、独語が著しいとのことで家族の判断で中止していました。抗精神薬は上記の通りすべて少量でも副作用が出たので使用できませんでした。メマンチンをそのまま継続して、リバスチグミンをガランタミン4+4mgに変更しました。その後易怒、興奮は著しく減少したという事でした。しかしデイケアでは相変わらず多動で落ち着きがなく、脱抑制症状が著しいとの事で、ガランタミンも中止、メマンチン5mgまで減量しました。多動・脱抑制症状、夕方症候群に対してはチアプリド25~75mgで処方しました。結果的にこの組み合わせで行動心理症状は著しく軽減できました。試しにメマンチン5mgを中止してみると、アパシーで全く動かなくなるとの事でした。因みにこの方は希望にてサプリメントも3年前から使用しています。
意味性認知症(SD)というのは前頭側頭型認知症(FTD)の臨床病型の一つとして知られていますが、一般的な認知度は驚くほど低く、私も3年前まではまったく知りませんでした。認知症専門医として有名なDrでも診断が難しいようです。しかし非常に特徴的なキャラクターなので、それさえつかんでいれば誤診することはないと思います。私の外来患者では認知症来院者のうちの5%でしたので、少なくはないようです。語義失語が主症状ですので、初期から言葉の数が減少していくことにより、周囲との意思疎通が困難となり、世界が狭くなり自己中心的になってきます。その延長として幻覚(幻視)・妄想が初期からみられる症例がいくつかあるようです。多くはレビー小体型認知症(DLB)としてコリンエステラーゼ阻害薬が処方されますが上手くいきません。FTDのもう一つの臨床病型である、傍若無人的で受診拒否傾向の行動障害型(bv-FTD)とは違って、他者に対する礼節は保たれていて、接触は良く柔和な印象が多いです。このキャラクターはアルツハイマーに似ています。しかし礼節は保たれているものの、いざ会話してみると一方通行で思いつくままに、その場で意味のない会話をペラペラ話します。鼻歌を歌い上機嫌で笑顔で子供っぽいです。机の上の物をいじって勝手に遊んだりします。私が経験したFTD-SDの症例は全員女性でした。
<FTD-SDの診断基準>※難病申請のための臨床調査票より引用
1) 中核症状(必須項目); A) 物品呼称の障害 B)単語理解の障害
2)( 副項目)少なくとも4つのうち3つ
A) 対象物に対する知識の障害 B)表層性失読・失書 C)復唱は保たれる。流暢性の発語 D)発話は保たれる
3) 発症年齢が65歳以下である
4) 画像検査所見 ; 側頭葉前部にMRI/CTで限局性萎縮がみられる
5) 他の疾病を鑑別し除外できる ATD,DLB,VD,PSP,CBD,精神疾患
6) 1)~5)すべてを満たす
この診断基準に対する私個人の意見としては疑問点がかなりあります。1)2)に関しては全く異論はありません。3)について、発症年齢を区切る事に関してはどういう意味があるのか理解できません。また発症年齢を正確に測ることなど可能なのでしょうか?これは患者の差別化ではないでしょうか?4)について、一般的にどんな変性疾患でもかなり病気が進行しないと脳萎縮は起こりません。画像所見ありきというのは誤診を生む種だと思います。5)について、様々な疾患に類似した特徴があるので鑑別・除外は難しいケースも少なくないです。実際私がFTD-SDと診断した多くの症例は前医ではATD,DLBです。ATDの礼節・接遇良好性がある半面、DLBの幻覚・妄想も出ます。歩行は前頭葉性失調、開脚歩行を呈したり、片手の失行を伴う症例も多く、PSPやCBDの鑑別は困難です。
<FTD-SDの重症度>※難病申請のための臨床調査票より引用
0)正常発語・正常理解
1) 明らかな喚語障害、通常会話では理解は正常
2) 語を大きく阻害するほどではない程度の軽度の喚語障害、軽度の理解障害
3) コミュニケーションを阻害する中等度の喚語障害、通常会話における中等度の理解障害
4) 高度の喚語障害、言語表出障害、理解障害により実質的にコミュニケーションが不能
今回提示した症例では初診時にすでに3)レベルで、現在は完全に4)で最重症レベルです。発症してすでに9年ほど経過しているため失語の改善は困難ですが、投薬の度重なる変更、思考錯誤により、メマンチン極少量+チアプリドに落ちつきました。おそらくガランタミン単独使用でも抑制できたのではないかと思われますが、メマンチンとの併用により両者の抑制系としての効果が十分に発揮されてなかったようです。コリンエステラーゼ阻害薬(ChEI)+メマンチンの併用という組み合わせは奇異反応例や失敗例が多いので、最近は併用しないようにしています。発症して経過が長く病気が進行ステージで重度で、かつ高齢でもあるため、正常な脳神経細胞が乏しくなっているがための、薬剤過敏性ではないかと推定されます。早期に副作用が出てくれる症例のほうが、副作用だと気がつきやすいので対処はしやすいと思いますが、今回の症例は合わない薬剤が非常に多くて苦労させられました。


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by shinyokohama-fc | 2016-02-01 17:35 | 治療
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