認知症に対する抗精神薬使用問題

今週8月7日、NHKニュースの中で、認知症への抗精神薬の危険性について取り上げられていました。認知症学会や老年医学会などでは「基本的に使用しない方針」とのことです。しかし、実際は県下の認知症医療センターに指定された医療機関・精神科で軽度認知障害や軽度うつ状態と考えられるケースに対して複数の抗精神薬がが投与されて動けなくなったという事例をこの1年、当院で数多く拝見しました。入院中なのでご家族だけが相談に訪れた事例もいくつもありました。一方で抗認知症薬を開始してから明らかに易怒・興奮性が悪化したという相談事例も数多くありました。私はこういう事例の相談に応じる事を繰り返すたびに、「適正に使用できないのであれば薬物治療など一切やめるべきだ」と強く感じます。薬害被害に遭われたご家族は「安易な考えで医療機関を受診し、最初から薬物療法などやらなかった方がよかった。」と後悔の念だと思います。私も1年前までは一部の行動心理症状がひどい方々に抗精神薬を処方していた時期がありましたが、最近はほとんどなくなりました。いくつかの抗認知症薬により行動心理症状を軽減できることがわかってきたからです。以下に示す私がこれまで見聞した主な抗精神薬の副作用です。
副作用出現症例は、高用量、長期処方、薬剤過敏性(DLBなど)のいずれかのようですが、力価の高い薬剤は低用量でも以下の副作用を起こしますので要注意です。
1)フェノチアジン系(クロルプロマジン、レボメプロマジン、プロぺリシアジンなど)
発熱(悪性症候群)、肝機能障害、血球減少症 、遅発性ジストニア、遅発性ジスキネジア
※動作歩行障害(錐体外路障害)は比較的少ない
2)ブチロフェノン系(ハロペリドールなど)
発熱(悪性症候群)、血球減少症、イレウス(腸管麻痺)、遅発性ジスキネジア
3)ベンザミド系(スルピリド、チアプリドなど)
過鎮静、錐体外路症状(動作歩行障害・嚥下障害)
4)セロトニン・ドパミン遮断薬(リスペリドン・パリペリドン、ペロスピロンなど)
過鎮静、錐体外路症状(動作歩行障害・嚥下障害)
5)多元受容体作用薬(MARTA;オランザピン、クエチアピン)
過鎮静、体重増加、血糖上昇
※動作歩行障害(錐体外路症状)は比較的すくない
6)ドパミン受容体部分作動薬(アリピプラゾール)
1)~5)の副作用は比較的少ない
もし安全面を最優先に考慮して使うのであれば、3)ベンザミド系ではないかと思いますが、用量に注意が必要です。副作用を起こさず使用するためには、上記のごとく副作用の特徴をDrと薬剤師が熟知し、低用量、短期間で患者側にリスクを十分に説明したうえで処方するべきだと思います。特に高齢者は心臓が悪い人が多く、抗精神薬によって心室性不整脈を誘発して場合によっては心停止・突然死を起こしうると報告されています。一方で悪性症候群も非常に危険な副作用です。20年前に救急指定病院で勤務していた時期は、1)や2)の薬剤によって悪性症候群が誘発されて瀕死状態で救急病棟に入院した患者を数多く担当しました。「なぜ薬を処方したDrが治療に当たらないのか?と怒りがこみ上げてきた事もありました。」私は誰よりも悪性症候群の恐ろしさを体験しています。例えばクロルプロマジンなどが原因で発熱している、家族も薬が原因だろう疑っているのに、処方しているDrがその副作用のことを全く知らないらしく「不明熱の原因精査が必要だと言われた」という事例がありました。このケースでは家族の判断でクロルプロマジンを中止して事なきを得たようですが、処方しているDrが薬の副作用の知識がないというのは非常に恐ろしい事だと思います。
抗精神薬に限らず、抗認知症薬・パーキンソン治療薬など神経系に作用する薬剤はすべて重篤な副作用を起こしうるリスクの高い薬です。処方するDrとそれをチェックする薬剤師は副作用の事を知っているのでしょうか?患者側に正しい副作用情報を提供しているのでしょうか?現状をみるかぎりは私からみてとてもそうとは思えません。一方で明らかに周辺のケア対応や環境設定に問題があって、それが誘因になって行動心理症状が誘発されているにもかかわらず、それを修正しようとせず、薬に頼ろうとする施設のスタッフやご家族にも問題があります。外来で短時間しか診療しないDrにはその方が普段どんな環境にあって行動心理症状が起こっているか見えないからです。「自分の処方する薬で極力副作用を出さないようにしたい」私はそういう意識で日々薬を処方しています。それでも薬剤過敏性の高齢者は多数いて、わずか少量の神経系薬剤でも副作用は出てしまいます。医療側から薬の危険性についての十分な情報提供が求められます。明らかに家族が副作用に気がついて中止を求めているのに、残念ながらその声に耳を傾けないDrが少なくないようです。


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by shinyokohama-fc | 2015-08-08 08:51 | 治療
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