認知症の誤診問題とCDTの重要性

昨日のNHKニュースで、医者による認知症の誤診の問題についてかなり取り上げられていました。認知症専門医から見て誤診が多いという内容だったようですが、実際は多忙な認知症専門医が誤診しているケースも少なくないようです。私は神経内科専門で動作歩行障害の症状が主体のパーキンソン病や神経難病を診察するのがメインの仕事でしたので、いわゆる認知症(アルツハイマー型(ATD)、レビー小体型(DLB)、前頭葉側頭葉型(FTD))の臨床経験は認知症専門医に比べてそれほど多くありません。しかし1年前にクリニックを開業してからは認知症の症例を診る機会が増えました。認知症ではないか?と言われて受診された患者のうち、上記3つのタイプで間違いないと思える方は実際はそれほど多くありません。約半数が正常または軽度認知障害(MCI)で残りのうち、ATD1割、DLB1割、FTD1割、その他CBS/PSPSが2割程度でしょうか?認知症ではないかと受診されても典型的なATDやDLBというのは意外と少ないものです。比較的多いのは高齢女性の抑うつ状態ではないかと思います。抑うつ状態でも当人が物忘れを主訴にして受診することが多いですが、一方で高齢になってからの抑うつ状態はDLBの前駆症状であることが多いようです。前者は抗うつ剤が奏功し、後者は抗うつ剤が全く効果がないようです。一般的に認知症の方はDLB以外は自分自身で困っているという意識が乏しく、特にFTDでは病識は全くゼロなので、医療を受ける事の意味が理解できないので激しく拒否する傾向が強いようです。
私からみて、動作歩行障害の症状が主体の神経変性疾患(PD,PSPS,CBS,MSAなど)の診断基準と比較して、一次的認知症疾患(ATD,DLB,FTD)の診断基準というのはかなり粗いのではないかという印象が強いです。以前のブログでその事は何度か取り上げています。具体的に申しますと、DLB以外の疾患でも幻視・幻聴やパーキンソニズムの症状は非常に多くみられます。最も多い原因としては薬剤性です。高齢者ではパーキンソン治療薬で幻視・幻聴が容易に誘発されやすいのは事実であり、精神症状を抑えるために頻用されがちな抗精神薬は高率にパーキンソニズムを誘発しひどい場合は悪性症候群をも起こします。高齢者に神経系薬剤を処方するということが新たな病気を作る可能性を生みます。特に神経系薬剤が多剤併用されて病状がひどく悪化してしまった症例の場合は深刻です。
私の見解では既存の認知症の診断基準で認知症非専門医が正確な診断をするのは困難だと言わざるをえないですし、認知症専門医だからといって、必ずしも正確な診断ができているとは限らないという印象です。MRIや核医学などの検査は多くの場合診断の決定打にはなりえず、あくまで支持所見にすぎません。今年の神経学会の認知症をテーマとした講演会やシンポジウムでは高齢者における混合病理・混合疾患の問題が大きいとの指摘があり、現在の認知症治療ガイドラインというのはこの混合疾患や最近後期高齢者に急増している「行動障害型老年認知症」の問題に全く対応できていないように思えます。生前に生検病理や検査値で正確な診断が可能な他の分野とは違って認知症を含む神経変性疾患においては正確な診断が不可能で、仮に正確な診断ができたとしても現在の医療レベルでは有効な治療手段に結びつかないという無力感があります。認知症において対症療法的薬物療法が初期の1~3年はうまくいく場合もありますが、4~5年経つと多くの場合は病気が進行してしまうのでその薬物療法も通用しなくなる事が多いようです。パーキンソン病において初期のハネムーン期と呼ばれる4~5年が過ぎると対症療法的薬物治療がさまざまな副作用や薬効減退などで困難になるのとほぼ同じではないかと思います。
現実的には認知症の診断は診察した医者の価値観に左右されてしまうのが現実です。それは精神疾患と全く同じですので、正確な診断に限界がある上に、過剰診断(over-diagnosis)による過剰投薬が問題になっているというのが現実のようです。やや過剰気味の認知症キャンペーン活動も過剰診断・過剰投薬の誘因と言えるかもしれません。ニュースで取り上げられた誤診(過剰診断?)による迷走的薬物治療が行われる原因としては、①家族・本人からの問診が不十分 ②簡易知能スケール(MMSE、HDS-R)の点数だけでカットオフしてしまう ③物忘れ外来を受診する患者はすべて認知症だという思い込みなどがあると思います。誤診として比較的多い抑うつやせん妄は高齢者では非常によく起こりうる事象であり、内科的には代謝異常、特に低血糖、低ナトリウム血症、高カルシウム血症などは比較的多いのではないかと思います。画像診断を実施する以前にまずはこれらの血液検査によるスクリーニングが必要です。
時計描画テスト(Clock Drawing Test;CDT)さえ実施すれば簡易的にスクリーニング検出できるということが最近わかってきました。CDTこそ実地医家が初診でスクリーニングするのに最適な方法だと考えます。
①ATD ;きわめて拙劣で、数字が正確に描けない、針が描けないなど何らかの描記異常がみられる。
②DLB /PDD; 思考遅延のためきわめて描くのが遅いのですが、最終的にはおおよそ正確に描ける。
③FTD ; 指示に従わずまったく別のものを描く、あるいは猛烈な速さで粗雑に描く。
④MCIなど非認知症;まったく問題なくほぼ完璧に描ける
簡易知能スケール(MMSE,HDS-R)は①の重症度を測るのには適していますが、現実的に外来に受診される患者の9割が①以外です。②の方はプライドの高いインテリの方も多く、③の方は長時間のテストに耐えられない。十分な協力性が得られない場合が多く、テスト点数の信憑性が乏しいというケースが少なくないようです。比較的多いのは行動心理症状が顕著であるのに、スケールの点数が良い(25~30点)ケースです。スケールだけで認知症診断をするDrがあまりにも多いようです。その一方でCDTは著しく軽視されていて、付添家族に確認したかぎりでは認知症専門医前医でCDTが実施されていたケースはほぼ皆無でした。20年前に著書でCDTの重要性を強調されていた認知症専門医ですら最近は多忙のためかまったく実施されていないようです。
正確な診断が困難な認知症を簡易的にスクリーニングするのに最適なのはCDTであると私は確信します。おそらく家族や介護スタッフでもできるきわめて簡単なテストですので、ぜひ医者以外の人々にも実施してほしいものです。
簡易知能スケールをすると不快感を示す事は多いですが、CDTではそのような事はほとんどないようです。


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by shinyokohama-fc | 2015-08-06 12:27 | 医療
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