甘草による副作用について

甘草による副作用は医師国家試験に「偽アルドステロン症~低K血症~横紋筋融解症」が長年取り上げられているほど有名なものです。私自身はこの5年で認知症高齢者に使用した4~5例において比較的重い副作用(低K血症、横紋筋融解症、心不全・浮腫)ケースを経験しました。最近はレビー小体型認知症(DLB)を早期発見しようという啓蒙活動がどういうわけか盛んに行われているようですが、高齢者幻視とみればDLBだろう(実はそう単純ではないのだが)というわけで安易に抑肝散が使われている傾向にあるわけですが、自験例で半年前にひどい心不全(労作時の息切れ)をきたした症例もあり、この薬も高齢者に使用する際にはChEIと同様に厳重警戒しながら使うべき薬だという事を実感されられました。特に心臓に持病(心不全・不整脈など)がある症例では、ChEI+抑肝散の併用という組み合わせというのは高齢者にとってはかなりのリスクを伴うと考えられます。高齢者を日常的によく診ている立場であれば誰もが知っておくべき事実ですが、「日本老年医学会」の提唱する「ストップ」のリストに加えられていないのは少々違和感があります。甘草の副作用として偽アルドステロン症は有名ですが、これは含有しているグリチルリチンに起因するものです。グリチルリチンは腸内細菌によって加水分解され、グリチルリチン酸となり、Na-K、Na-H交換の促進と進みます。この結果、第一にNaイオン再吸収が高まり血圧上昇、浮腫の出現となる。第二にKイオンの排出が亢進して、低K血症が惹起されて不整脈、ミオパチー、横紋筋融解症などが発現、第三にHイオンが排泄亢進して代謝性アルカローシスが発現してテタニーとなります。対策として甘草を含む処方を投与する時点での聞き取りが重要になります。他の治療薬、利尿薬、グリチルリチン製剤、甘草を起源とする西洋薬、インスリンの使用について正確に問診を行います。使用開始後は低K血症と血圧上昇の監視が重要となります。偽アルドステロン症による血圧上昇、低K血症、浮腫などの症状はグリチルリチン酸の1日量として300mg以上を長期連用することで頻度が高くなるそうですので、甘草1gあたり40mg含まれるので、1日上限量は甘草6gが上限とされていますが、甘草は全ての漢方薬の2/3に含まれています。ただし認知症のBPSDに頻用される抑肝散では1日量でわずか1.5gです。私が経験した重篤副作用症例でこれだけわずかな用量でも副作用が出てしまったのは何故なのか?理由としては推定されるのはDLBの薬剤過敏性、糖尿病が基礎疾患として存在した事などでしょうか?
この1年の経験でいうと、DLBらしき79歳男性の幻覚・妄想・精神錯乱状態に対して抑肝散7.5gを処方して1か月後に少し歩いただけで息切れとなり、心不全に至りました。検査値ではBNP 677.7pg/mlを計測しました。抑肝散中止後もしばらく心不全症状は遷延しましたが、ARB+利尿剤(インダパミド)を2か月継続してようやく症状軽快しました。またDLBらしき83歳女性の幻覚に対して抑肝散2.5gを処方してわずか10日で横紋筋融解症でCPKが2000以上となり、歩いていた人が下半身筋脱力でまったく歩けなくなりました。脱力症状は出現しなかったものの抑肝散5g(甘草1g/日)で血清Kが2.5~3.0前後に低下する症例は少なくないようです。また血圧上昇や下腿浮腫の悪化などは比較的よくみられるため、症例によっては減量・中止などの対応を余儀なくされた事もありました。こういった症例を何例か経験すると、認知症高齢者に甘草含有の漢方薬を処方する場合は、血圧、血清K・CPK・BNPのモニタリングが必要なのではないかとすら考えてしまいます。西洋薬の抗精神薬などに比べると重篤な副作用が少ないのは事実だと思いますが、「漢方薬は天然物で作られているから安全だ」と妄信してしまうのは誤解であることがわかります。甘草以外にも特に黄笒、麻黄が含まれている生薬は副作用に注意が必要ではないかと思います。


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by shinyokohama-fc | 2015-06-22 18:59 | 治療
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