認知症治療のベネフィットとリスク

先日のブログでも少し紹介しましたが、Drugs&Agingオンライン版2015年5月5日号の掲載報告です。
研究グループは、認知症に対する薬理学的治療の基礎をレビューし、認知症治療のベネフィットとリスクについてまとめた。2014年11月における、認知症および軽度認知障害(MCI)の治療に関する英語で記載された試験および観察研究について、MEDLINEを用いて系統的に文献検索を行った。その他の参考文献は関連する出版物のビブリオグラフィーの検索により特定した。可能な限り、メタ解析あるいはシステマティックレビューによる併合データを入手した。レビューの対象は認知症またはMCIを対象とした無作為化試験または観察研究で、治療に伴う有効性アウトカムまたは有害アウトカムを評価している試験とした。FDAの承認を受けていない治療について評価している
試験、認知症およびMCI以外の障害に対する治療を評価している試験は除外した。主な結果は以下のとおり。
・文献検索によろ540件の試験がレビュー対象の候補となり、そのうち2577件がシステマティックレビューに組み込まれた。
・試験の併合データにより、軽度から中等度のアルツハイマー型認知症(ATD)とレビー小体型認知症(DLB)において、コリンエステラーゼ阻害薬(ChEI)は認知・機能および全般的ベネフィットをやや改善することが示された。ただし、これらの効果における臨床的意義は明らかではない。
・血管性認知症(VD)に対する、有意なベネフィットは認められていないことが判明した。
・ChEIは治療開始1年後に有効性のベネフィットが最小となり、経過に伴い減弱すると思われた。
・進行例あるいは85歳以上の患者にベネフィットを示したエビデンスはなかった。
・有害事象は、ChEIの使用により用量依存的に有意に増加した。コリン作動性刺激に関連して消化器系・神経系および心臓血管系の副作用に対するリスクは2~5倍となり、重大な副作用として体重減少、衰弱、失神などが認められた。
・85歳を超えた患者の有害事象リスクは若年患者の2倍であった。
・メマンチン単剤療法は、中等度から重度のATDおよびVDの認知機能に何らかのベネフィットをもたらす可能性があった。しかしそのベネフィットは小さく、数か月の経過において減弱する可能性があった。
・メマンチンは、MCIあるいはDLBにおいて、またChEIへの追加治療として有意なベネフィットは示されなかった
・少なくとも管理下にある試験という状況において、メマンチンの副作用プロファイルは比較的良好であった。
結果を踏まえ、著者らは「ChEIは軽度から中等度の認知症に対して短期的にわずかな認知機能の改善をもたらすが、これは臨床的に意味のある効果とはいえない。重症例、長期治療患者、高齢者においては、わずかなベネフィットしか認められない。体重減少、衰弱、失神などのコリン作動性の副作用は臨床的に重要であり、とくに虚弱な高齢患者において弊害をもたらし、治療によるリスクがベネフィットを上回る結果となっている。メマンチン単独療法の中等度~重度認知症に対するベネフィットは最低限であった。有害事象も同程度に小さいと考えられた。

以上の記事に対するコメント
私が「認知症」として日常的に診療する機会がもっとも多いのは80歳以上の方々で、特に平均年齢が約87歳の女性の比率が非常に高いです。85歳以上の方には行動心理症状に対してのメマンチン単独処方が基本だと考えています。その多くは最大用量には耐えられないので減量して維持することになります。実際に併用していたChEIを家族の判断で中止し、メマンチン単独にしたら行動心理症状が安定したというケースが数例ありました。この記事に書いてある事は実地で臨床をしていれば普通に感じられます。80歳以上でChEIを処方された多くの方が様々な副作用で脱落します。早期に自覚症状が出る方はわかりやすくてまだ幸運ですが、遅発性に深刻な副作用が出るケースが非常に多いです。中には心電図を録ってみて異常が確認されて冷や汗をかくケースも少なくないです。しかし実際は高用量で強いタイプのChEIが処方が、85~95歳の方々に他の医療機関で処方されていて驚かされます。この記事に書かれている安全性の面から考えるときわめて違和感を感じます。現実的にはChEIを処方するのは行動心理症状への対症療法が主目的だと考えています。それがなければ副作用のリスクを冒してまで処方する事は考えません。それはこの記事に書いてあるように有意なベネフィットが感じられないからです。薬のベネフィットを感じるかどうかは、たった数分しか患者を観察できない医者ではなく、同居家族や介護者が判断すべきです。ChEIやメマンチンを内服する意味を実感できないと感じれば、それは彼らの意志で中止するという選択肢があってもいいと私は思います。80歳以上で発症した認知症は50~70歳で発症したそれに比べて進行がきわめて遅いという印象です。やはり周辺のケア対応や環境調整が第一のように思います。家族が認知症の方を叱り飛ばすような環境では行動心理症状に対する薬の効果は望むべくもないでしょう。
現状のChEIとメマンチンの薬剤治療が困難な理由としては、混合疾患の問題があると思われます。80歳を超えた認知症の方は、グレイン(嗜銀性顆粒性認知症)、レビー小体型認知症、血管性などが混在してきて病状が複雑化するケースが増えるという印象です。中にはPSPやCBDが混在しているケースも少なくないようです。多くの症例では前頭葉・側頭葉・頭頂葉、大脳基底核、中脳などの病状が混在しています。こういう症例ではChEIやメマンチンは効果がないばかりか時にはひどい副作用を起こすリスクが存在します。つまり60~70歳の純粋なアルツハイマー的臨床像の方と75歳以上の混合型の方を同列の薬物治療をすることは難しいのは当然だと思われます。神経系の薬剤というのは人によって作用が千差万別でまちまちであり非常に難しいという事を再度認識する必要があります。そういうわけで私自身の処方としては、85歳の超高齢者や重症進行例には神経系薬剤は少数で慎重投与、或いは使用しない。漢方薬の代用というのが必然的に多くなってます。

■k■医者委■く

新横浜フォレストクリニック
内科・漢方内科・老年内科・神経内科

JR・新幹線・横浜市営地下鉄 
新横浜駅 篠原口より徒歩1分






[PR]

by shinyokohama-fc | 2015-06-19 18:32
line

新横浜フォレストクリニック(横浜市港北区・新横浜駅)の院長が日々綴る様々な情報を発信するブログです


by shinyokohama-fc
line